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マスター:桜井直樹
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/11/11


みんなの思い出



オープニング

●オオカミ少年

 オオカミ少年のお話をご存知だろうか。
 普段からウソばかりついている少年が、ある日本当のことを言っても信じてもらえない話、というのが一番短い説明文になるかも知れない。
 とある市内の公立高校に、そんなオオカミ少年がいた。名前は大林陣(おおばやし・じん)。
 ことあるごとに「俺は本当は天魔なんだ、お前らの魂引っこ抜いてやるぜ」とうそぶいては、その中二病的発言に皆から呆れられていた。
 しかし陣は本気で自分が天魔の血を引いていると考えていた。左手には『漆黒の闇』を宿し、三体の蛇を召喚できる。この蛇は大きくて強い。体長は五メートルはあるだろうか。
 右手からは『白銀の霧』を吐き、自分の周囲に猛毒をまき散らして、敵を近づけさせない。
 怒りが達すると、背中から新たに『触手の翼』が現れ、それは文字通り翼にもなり、二本の腕の代わりにもなる。
 ──とまぁ、それが陣の考えている「設定」だった。
 『フレイムドラゴン』という小さいサイズだが炎を吐く真っ赤なドラゴンの幼生のサーヴァントを従えており、仕える天使様(まだ名前は考えていない)のために、日夜人間の魂を奪う。そんな俺だから、お前らなんかイチコロにやっつけられるんだぜ──なんて、今時の高校二年生がやっていたら、周囲はドン引きだろう。
 陣は天魔に憧れているわけではなかったが、強くなりたかった。しかしアウルに目覚めることはなく、平凡な高校生として平凡な生活を送っていた。友達は、こんなだから当然いない。
「絶対天魔になってやる」



●きまぐれ天使

 そんな陣に、以前から目を付けていた下級の天使がいた。ああいう熱い奴は嫌いじゃない。
 ある日天使は陣の前に現れて言った。
「お前を俺のシュトラッサーにしてやろうか?」
 陣はシュトラッサーが何かもあやふやにしか理解しないまま、二つ返事で天使に志願した。
「俺は強くなりたい。それで、俺をバカにした奴らを見返してやりたいんだ」
 シュトラッサーになれば、もう人間には戻れない。それでも、もともと自分は天魔の血を引いていると思っていた陣だから、ためらいはなかった。
「いいだろう。お前の好きにすればいい。まずは久遠ヶ原の連中と一戦交えて、お前の力を見せてもらおうかな」
 陣は高校で自分をバカにした奴らに仕返しをしたかったのだが、仕えることになった天使様は撃退士と戦えと言う。陣の強さを確認したいのだろうか?
 陣は天使のお遊びに利用されているだけとも気付かずに、翌日普通に学校へ行った。
「俺、シュトラッサーになったんだぜ」
 教室に入るなり早々に大声で陣は宣言する。
「これから撃退士と戦うんだ」
 オオカミ少年の言うことなど、もう誰も信用しない。陣はいつものようなクラスメイトの面倒臭そうな視線にイライラした。
(俺がその気になったら、お前ら全員殺せるんだからな!)
 陣は苛立ちながらもその日の授業を受けた。しかし、彼は自分勝手に暴走してしまった。
「まず、俺のことを一番笑ってた吉田を殺してやる!」
 放課後、一人で下校しようと学校の中庭を横切っていた吉田弘(よしだ・ひろむ)を襲うことに勝手に決めた。その様子を高みの見物していた天使は「使えねーな」と呟いて、その場を後にした。
「勝手に撃退士にやられてくれ」
 果たして、その現場に居合わせた他の生徒が教師を呼び、久遠ヶ原に撃退士の要請が来たのだった。



●任務

「きまぐれな天使にシュトラッサー化された高校生が目標です」
 オペレーターは淡々と告げる。
「場所は市内の某公立高校の中庭付近、他の一般生徒や教師は避難していますが、吉田弘という少年が人質になっています」
 取り敢えず吉田は捕まって、中庭の木に縛り付けられているという。陣からは少し距離があるが、さすがに教師も助けには行けなかったそうだ。
「現状は人型を維持していますが、蛇を三体召喚するとか、毒の霧を出すとか言っています。また、炎を吐くドラゴンの幼生も同伴しています」
 中二病だから、新しい技の名前を考え出す恐れもあるかも知れない。しかしきまぐれ天使が与えた力なので、そう膨大なものではないだろうというのがオペレーターの補足だった。
「ただし、怒りのエネルギーがすさまじいです。背中から腕を出す恐れがありますし、空を飛ぶ可能性もあります。お気をつけて」
 陣も被害者ではあるが、シュトラッサーになってしまった以上、殲滅するしか方法はない。
(中二病の高校生か……)
 他人事ではないと考える撃退士も多い中、ひとまずその高校に向かったのだった。


リプレイ本文

●弱者の強がり

 撃退士たちが現場に着いた時、木に縛り付けられていた吉田が泣き喚いていた。大林陣は、それを嬉しそうに眺めている。
 いつも自分をバカにしていた吉田が、陣に命乞いをしている。これ程の快感があろうか。
「中二病を死に至るまでこじらせる奴って、いるんだなぁ」
 そうサングラス越しに遠い目をして呟いたのは、西條弥彦(jb9624)だ。いやまだ生きてるけど。しかしシュトラッサーになった以上、倒すしかないので、この台詞もあながち間違いではない。
「粗大ごみテロって奴か、これ? こいつも運がなかったな」
 その傍らで小さく頷いたのは、ラファル A ユーティライネン(jb4620)である。先の任務でこっぴどくやられ、青息吐息であるが、今回は人質救出を買って出た。
「気まぐれにシュトラッサーになどしないで欲しいですよね……などと言っても、天使にしてみればこちらの都合なぞ関係ありませんか」
 樒和紗(jb6970)は呆れ顔である。天使から感情の供給を受けられない以上、いずれその命は絶える。だからと言って、今倒すのが最善だとは思わないが、人質がいる以上放ってはおけなかった。
「キッチリ倒して救出じゃん!」
 元気に猫耳髪型で言い切るのは、ガート・シュトラウス(jb2508)。計画はしっかりと仲間たちで話し合っている。役割分担も明確だ。
「成すべき事を成し、生きて帰る。それが新人たる我輩の仕事である」
 依頼初参加の懲罰する者(jc0864)は、白いシーツのようなものをかぶってヒラヒラさせている。
 御門彰(jb7305)は、リアル中二病発症中だ。
「力を持つからこそ、選ばれた存在であるからこその責任というものがある。その責任を放棄した時点で、超越者は忌わしき餓鬼へと堕ちる。故に、私は私の責任を全うしよう」
 さすがに言うことが現実離れしている。内心は、
(他者に迷惑を掛ける厨二病はただの変質者。急いで対処しなければ僕の評価まで……あかん)
 あ か ん。
 そう思っていた。いずれにしても、戦闘意欲はある。だがしかし。
 撃退士たちは、一斉に陣から距離を取った。
 弥彦は一目散に一番遠い木陰まで走る。それを見た陣は、大喜びで罵る。
「なんだ、俺様が怖いんだろう? 撃退士って言ったって、所詮は人間だな」
 純血の悪魔とハーフ悪魔が四名も混じっている編成だったが、見た目ではわからないため、陣は大見得を切る。
 ラファルは思う。天魔の血なんかひいてたってろくなことねーってのによ、と。自分の半分に流れる悪魔の血も、陣からすれば羨望の対象になりうるのだろうか。
「ははは、逃げろ逃げろ、無様に逃げ惑え! そして俺様の前に最後に跪け!」
 撃退士たちの要素を見て、自分の姿に怯えていると思った陣は、鷹揚に言った。
「……ああ、うん。俺、お前怖いから」
 弥彦は素直に認めて言葉に出す。いや、敵や天魔としてはおっかなくないけど、人としては怖い。こじらせた中二病患者程手に負えないものはないと思う。本音を言えば、陣はブチ切れするだろうから、言葉には出さないけれど。
「キミがシュトラッサーじゃん? うっわぁ、メッチャ強そうさー」
 ガートはわざとブルブル膝を震わせて言う。猫耳ヘアーも少し伏せ気味だ。
「この世には本物と偽物がある。実際に力を持っているか、持っていないか、だ。偽物であれば淘汰されるのみ。本物であれば……さて、貴公はどちらかな?」
 おお、なんかこの台詞カッコイイ! と思いながら彰は鎌を構える。そして大きく振りかぶった。
「喰らえ、『漆黒の闇』!」
 陣が叫ぶと同時に、左手から巨大な蛇が三体出てきた。彰の鎌はどれをも捉えない。
「ふはは、この蛇を倒せないと、俺様には辿りつけないぜ!」
 陣は余裕の構えである。
「うわぁー、キミみたいなカッコいい技を作ってくればよかったじゃん……!」
 ガートは蛇が現れた爆風に煽られたフリをして退く。その間に、ラファルは徐々に吉田に近付いていた。陣は撃退士たちよりも優位に立っている優越感で、その存在には気付かなかった。
「くっ、強い! 私たちの手には負えん!」
 彰は大袈裟に言って体勢を崩す。そして中二病臭い台詞を吐く。
「ふむ……私を、久遠ヶ原機関のエージェントをここまで追い詰めるか。その力……あるいはナンバーズに匹敵するやも知れんな……」
「そっちの奴はもう退散か?」
 陣は木陰に隠れた弥彦を挑発する。一歩、また一歩と弥彦に近付こうとする。
(良いぞ、臆病者と嘲笑ってくれても。痛くも痒くもないし。むしろ、臆病者と思って、前に出てきてくれ。人質から離れるまでは、ぎりぎりで外して撃つから)
 いい感じで陣の自尊心を震えさせている。
 三体の蛇は、まだ陣の左手から出たままである。懲罰する者をその舌で巻こうとするが、ヒラヒラと逃げまわるため、なかなか捕まえられない。彼はまだ決して無理はせず、陣を人質から離すことに尽力していた。



●フレイムドラゴンと人質救助

 片やフレイムドラゴンは、思ったより小さかった。しかし、確かにすばしっこい。
 ドラゴン担当を買って出た和紗は、陣の誘導がうまくいっていることを確認すると、アウルで作り出した無数の彗星をドラゴンにぶつけた。コメットはドラゴンの身体を突き抜けたり、脇をすり抜けたりする。
「なかなかにすばしっこい。ですが捕えられない程ではありません」
 和紗は陣に気付かれないようにラファルの位置を確認する。既に人質に辿り着き、唇に人差し指を当てて吉田を黙らせているところだった。

「今日の俺は空気だ。どこにでもあるが、誰もそれを意識したりはしねー。インセンサブル」
 ラファルは痛みを遮断してはいるが、この状態での任務遂行は久々だ。自分自身に暗示を掛けて、イメージトレーニングは欠かさない。
 吉田は恐怖のあまり敵味方の区別が付かないのか、喚き散らしている。仕方なくラファルは軽いゲンコツをお見舞いし、吉田を黙らせる。吉田を縛っていたロープをナイフで切り、吉田に潜行を付与して現場を離れた。戦闘のとばっちりを喰らわないところまで吉田を連れ出し、「お前はここを動くんじゃねーぞ」と言って、自身も身体の力を抜いた。
 ラファルは今にも気を失いそうだったが、気力で耐えて仲間の戦いを見守っている。自分がこの程度しか力になれなかったのが悔しい。
 それでも和紗と視線を合わせた時に、大きな丸印を作って人質の無事救出を明るく示した。

「皆さん、もういいです!」
 和紗は破魔弓からイチイバルに武器を持ち替える。ドラゴンは背後に気配を感じたのか、斜め後ろに向かって炎を吐いた。そこには懲罰する者がいた。
「ドラゴン、怖いのである。服を燃やされたくないのである」
 懲罰する者は不可視の翼で舞い上がり、炸裂符を発動させる。その隙を突いて、和紗は弓矢にアウルを集中し、黒い霧を纏わせて攻撃を放った。そして懲罰する者の炸裂符再び。和紗のコメット再び。
 これで、すばしっこいフレイムドラゴンを殲滅できた。



●哀れなシュトラッサー

「よーっし、そんじゃ、本気出すさー!」
 ガートは俄然元気になり、蛇たちを爪で引き裂いていく。魔法で作られた蛇たちは、尾を切られ、舌を切られた。
 彰は髪芝居を使い、蛇たちを足止めする。そこへ弥彦のライフルが火を吹き、陣の左手を貫いた。距離を詰め過ぎた陣の迂闊さからの失態だった。
「くそっ、喰らえ『白銀の霧』!」
 陣の右手から、白い霧のようなものが発せられる。撃退士たちは、一時その射程から退くが、霧が薄れてきた頃合いを見計らって、ガートが陣の真上に飛び込んだ。兜割り。
 和紗もダークショットを放ち、懲罰する者は空中から炸裂符を投げつける。陣は初めて悲鳴をあげた。
「ぎゃああぁぁーーー!!!」
 その瞬間、陣の背中から『触手の翼』が現れた。その腕は長く、遠い木陰に隠れていた弥彦の横の木が薙ぎ倒される程だった。
「危ないでしょう!」
 弥彦は慌ててライフルを持って転がり出てくる。勢いでサングラスが外れてしまった。
「何だその目は! お前も俺をバカにするつもりかあぁーーー!!!」
 鋭い眼光を気にしてサングラスをかけていた弥彦だったが、その目つきで陣を高ぶらせてしまったようだ。
 見ていることしかできないラファルはハラハラする。援護射撃など行えば人質を救出したことがバレてしまうし、今は仲間を信じて待つしかなかった。
 和紗が『触手の翼』を至近距離から撃つ。しかしそれはやがて翼に姿を変えた。飛び上がろうとする陣に、ガートが再び兜割りで地面に叩きつける。
 懲罰する者はすうっと陣の耳元に近寄り、悪魔の囁きを使用した。陣は一瞬動揺する。それをガートは見逃さなかった。闇の翼を使うため、髪は黒色になり、蝙蝠の翼が生える。
「オレは人間じゃねえ。悪魔だ。どうだ、羨ましいか?」
 空中戦を戦えるのは、ガートと懲罰する者だけだ。地上から和紗が弓で、弥彦がライフルで、彰が鎌で応戦する。
「なあ、シュトラッサー。オレは人間は助けるが天魔は助けねえ。キッチリ始末する。じゃあな。後悔しても遅いケド」
「違う、俺は人間だぁ!」
「シュトラッサーは貴様の憧れていた天魔なのである」
 同じ悪魔である懲罰する者も、陣に最後の言葉を掛けた。
 ガートは全長120cm程の両刃の直剣で、陣を真っ二つに叩き斬った。
「完全に原型とどめないようになる前にいっちまえ」
 ガートなりの優しさでもあったかも知れない。天使からの供給を絶やされて飢えて死ぬか、人間の姿を留めずに辛い思いをするかしか、陣に道は残されていないだろう。
 ドサリ、と案外軽い音で陣は地上に落ちた。ガートと懲罰する者も地上に降り、他の仲間も駆け寄ってくる。
「この世には良い厨二病と悪い厨二病がある。他者に迷惑を掛けるか、掛けないか、だ。そして貴公は悪い厨二病だった」
 あれ、これってあんまりかっこよくない、と思いながら彰は少し後悔する。

「あ、ユーティライネンさんを!」
 弥彦が人質とラファルの元へ駆け寄る。陣の目がこちらに行かなかったのは幸いだ。ラファルは既にぶっ倒れる寸前のようである。
「取り敢えず救急車だな」
 吉田に万一のことがあった時のために用意していた救急車で、ラファルが搬送されていった。
 残された吉田は、撃退士に囲まれることになり、萎縮してしまっている。
 ふぅ、と懲罰する者は息を吐き、言った。
「良かったのである。無事で何よりである」
 白いシーツをかぶった撃退士を不思議そうに眺めて、吉田は軽く頭を下げる。しかし謝礼の言葉はない。
「貴方が狙われた理由も考えると良いかと」
 和紗はどうも吉田が一方的に哀れとは思わず、そう言葉を吐いた。吉田は唇を噛む。やはりお礼の一言もない。自分は被害者だと感じているのだろう。
「キミの素行を正すのは、オレっちの仕事じゃないさー」
 ガートはへらっと笑って背を向けた。
「礼儀に欠く所作も許可しよう。いずれ貴公も大人になり気付くだろう」
 彰は戦闘の延長で相変わらず尊大に言う。自分もまだ彼と同い年ではあるのだが。
「お前は少なくともユーティライネンさんには感謝することだな」
 弥彦は見送った仲間の名前を口にする。最終的に陣を倒したのは撃退士たちだが、傷を負ってなお吉田を守り続けたのはラファルなのだから。
 頑なに撃退士に礼を言わない吉田に呆れ、任務をこなしたメンバーたちは黙って去って行った。
 吉田はその後、泣きながら陣だったものの成れの果てに謝り続けていたことは誰も知らない。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:3人

影斬り・
ガート・シュトラウス(jb2508)

卒業 男 鬼道忍軍
ペンギン帽子の・
ラファル A ユーティライネン(jb4620)

卒業 女 鬼道忍軍
光至ル瑞獣・
和紗・S・ルフトハイト(jb6970)

大学部3年4組 女 インフィルトレイター
撃退士・
御門 彰(jb7305)

大学部3年322組 男 鬼道忍軍
撃退士・
西條 弥彦(jb9624)

大学部2年324組 男 インフィルトレイター
我輩はお化けではない・
懲罰する者(jc0864)

高等部3年21組 男 陰陽師