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マスター:桜井直樹
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2014/10/10


みんなの思い出



オープニング

●穏やかだった公園

 村上家は家族三人で近くの公園に来ていた。娘の歩美はやんちゃ盛りの小学三年生だ。ブランコに行ったと思えば滑り台に、そうかと思えば砂場で砂まみれになっている。明るくて笑顔の絶えない家庭だった。
 夫の正吾はガタイが良いが人柄も良く、妻の千絵のお腹には新しい命が宿っていた。
「歩美ー、あんまり走り回ったら転ぶぞぉ」
 正吾が笑いながら声を掛ける。ベンチに腰掛けて上の娘の様子を見守っている千絵と、その隣で千絵を見守っている正吾。
 そんな二人の上に、ふと影が差した。秋晴れの気持ちの良い日で、まだまだ太陽は明るかったのに。
 歩美は気付かずに砂遊びに夢中になっている。
 夫婦の上を覆うように現れたのは、八本の足を含めると体長五メートルにもなろうかという、大型の蜘蛛だった。明らかに常軌を逸している。ディアボロに違いない。
 大型の蜘蛛は尻からシュルリと糸を出し、夫婦を縛り上げた。
「きゃあー!!!」
 その様子を見ていた他の家族や母親が、恐怖に叫び声を上げる。その声に歩美はふと、両親のいるはずのベンチを見た。
「おとーさん、おかーさん!」
 思わず走って来ようとする歩美を、正吾は大声で怒鳴って止める。
「来るな歩美! お前は逃げろ!」
 普段は温厚な父が大声を上げるなんて、尋常ではないことが歩美にもわかる。正吾は糸を切ろうともがいているが、素手ではどうにもならなさそうだった。
「歩美、逃げて助けを呼ぶんだ! お父さんたちは大丈夫だから!」
「歩美ちゃん、一緒にいらっしゃい!」
 ご近所の主婦が、歩美を連れて逃げようとする。
「とにかく助けを呼ぶのよ。必ずお父さんとお母さんは助かるからね」
 歩美は近所の主婦に手を引かれて、何度も両親を振り返りながら公園を出た。すぐに警察に連絡が行き、公園は夫婦を残して封鎖される。そして、久遠ヶ原に撃退士の要請が来たのだった。



●見ていた人の証言

 一番大きな蜘蛛は、夫婦の頭上にいる。獲物にするつもりなのか、糸で二人をぐるぐる巻きにしているそうだ。
 全身真っ黒だが、頭胸部に黄色い斑点があるらしい。警察いわく、蜘蛛の脳は頭胸部にあるので、そこをうまく狙えれば撃退できるのではないかということだった。
 他に公園にいた家族によると、五十センチほどの同じように真っ黒な蜘蛛がいたという証言もある。少なくとも六体はいるようだ。数は定かではないので、まだ潜んでいる可能性もある。
 警察が小さな蜘蛛に少し攻撃を仕掛けてみたところ、尻から黄色い粘着物を出して放出してくるようだった。この物質そのものに毒性はなかったらしいが、触るとベタベタぬるぬるで気持ち悪く、なかなか取れない。足でも取られたら、動きにくくなるだろうという話だった。
 蜘蛛の数は多いが、互いに協調性はなく、一番大きな蜘蛛を守っているというわけでもなさそうだ。
 謎なのは一番大きな蜘蛛である。今は糸で夫婦の自由を奪っているだけだが、小さい方と同様に妙な粘着物を出す可能性は高い。
 また、足や腹部を狙っても致命傷にはならないようだった。やはり脳への一点集中が効果的と見るべきだろう。
 夫婦を縛っている大きな蜘蛛は、夫婦の真上にいるので注意しなければならない。下手に手を出して、夫婦の命を落としては元も子もないのだ。
 依頼内容は、夫婦の無事の救出と、蜘蛛型ディアボロの殲滅。狭い公園なので、この公園から蜘蛛の子一匹出さないように注意が必要だ。


リプレイ本文



 撃退士たちが公園に駆けつけた時、既に公園の封鎖は完了していた。天険突破(jb0947)は、警察に掛け合って、更にネットの装着を願い出た。体長五十センチの蜘蛛が抜け出さない程度のネットを用意してもらい、心持ちガードを堅くする。
 藤森桃奈子(jb9391)とラグナ・グラウシード(ja3538)の心遣いで、公園の外には救急車と救急隊員が待機している。妊婦である千絵を慮ってのことだ。
「大蜘蛛の背中に小蜘蛛を載せて……なんてあったわね。……亀だったかしら? まあどっちでもいいわね」
 卜部紫亞(ja0256)は呟きながら、小蜘蛛の動きに注意を巡らせる。
 新井司(ja6034)は、桃奈子とペアを組んで、紫亞&突破ペアと小蜘蛛退治を担当する。ラグナと橘優希(jb0497)は大蜘蛛担当である。

 まずは突破が紫亞の前に出て、一緒に公園の端から時計回りにゆっくりと進んでいく。ちょうど対面側からは、同じように司と桃奈子が時計回りに進んでいるところだ。
「新井先輩! 不束者ですがよろしくお願いします!」
 桃奈子は緊張気味に司にお辞儀をする。彼女はまだ戦闘には慣れておらず、足を引っ張らないようにと必死だった。
 二組のペアは、遊具の陰や草むらの中なども確認しながら、現状見えている六体の小蜘蛛を中心に追い詰める戦法をとる。その間に、ラグナと優希が脇から大蜘蛛の元へ向かおうとするが、一体の小蜘蛛が二人に気付き、襲いかかろうとする。
「そうはいかないのだわ」
 紫亞は光の玉を生み出して、一体の小蜘蛛にぶつける。その隙にラグナと優希は駆け抜ける。
 司は桃奈子をかばうように先を行き、小蜘蛛の意識を引き付けている。今のところ、小蜘蛛は情報通り六体見えるが、どこにあと何体潜んでいるかわからない。注意は怠らない。
「来ました!」
 桃奈子の言葉に司は右側を向き、小蜘蛛を中央に誘導するように動く。
「何事も散らかってると掃除しにくいし、固めるのは基本よねぇ」
 紫亞の呟きに、四名は徐々に小蜘蛛を公園の中央へと集めていく。
 そこへ、一体の小蜘蛛が糸を出して、撃退士の輪から外へ出ようとした。糸は滑り台に巻きつき、器用に突破の頭上を越えようとする。
「空識狙撃。見えてるのよ」
 司は空識を使って糸を切る。落下した小蜘蛛に突破がとどめを刺した。一体殲滅。
 小蜘蛛を中央に追いやりつつも、奴らはバラバラな動きを見せるため、紫亞が人差し指にアウルを集中させる。光線状になった無数の雷撃が、目の前の二体を貫いた。有無を言わさず、ファイヤーブレイクで焼いていく。
「とりあえず汚物は消毒しないといけないのだわ」
 倒したら腹からまた小蜘蛛……とかいうことがないかと、軽いグロを想像し、紫亞は念入りに焼き尽くす。





「絶対に助けます……っ!」
 優希は愛らしい容姿だが、静かな闘士を燃やしていた。
 大蜘蛛の頭の前に回り込み、挑発を発動する。
「僕が相手だ! こっちを向け!!」
 大蜘蛛の八つの目が、バラバラに優希を捉える。正面から見ると、なおのこと気持ち悪い。
 その間にラグナは、夫妻の救出に、尻の方に回っていた。前方は優希に任せる。自分は携帯していたサバイバルナイフにアウルを込めて、絡まった糸を切ろうと必死になっていた。
「私に任せてください、必ず守ってみせます!」
 ラグナは夫妻を落ち着かせようとする。夫妻は頷き、正吾は力の限り糸を誇張させた。
 糸が動いたことに気付いた大蜘蛛は、ラグナに後ろの足で攻撃を仕掛ける。背中でそれを受けようとしたラグナだったが、とっさに優希がドレスミストを発動したため、大蜘蛛の狙いが逸れる。
「よそ見してるんじゃないよ!」
 優希はウェポンバッシュでノックバックを試みるが、相手が大きすぎて少し動いただけだった。すかさず全長180センチの大剣を大きく振る。左側の前から二本の足が千切れ飛ぶ。大蜘蛛は少し動揺したようだった。
 ラグナのサバイバルナイフが、最後の糸を切り取った。すかさず千絵を抱きかかえ、正吾に声を掛ける。
「早く出口へ!」
 千絵の身体を考えると、全力疾走というわけにはいかない。
「西の出入り口の方が救急車が近いです!」
 司の言葉に、ラグナは二人並んで通れるかどうかというくらいの、狭い西の出入り口に向かった。紫亞が焼き尽くしたディアボロの燃えカスがある。
 公園に入る前に、歩美に「必ずお父さんとお母さんを連れてくる」と約束した司は、ひとまず人質の救出に安心する。これで危険な一般人もいなくなった。心置きなく、改めて戦闘開始できる。

「ラグナさん、ありがとうございます!」
 大蜘蛛の下に誰もいないというのなら、大剣グランオールをフルスイングできる。優希がザン、と一太刀振るうと、今度は大蜘蛛の右の前から二本の足が飛んだ。大蜘蛛は切れた糸の先を、今度は優希向けてくる。
「させるかあぁ〜〜〜!!!」
 全速力で戦線復帰したラグナが、アーマーチャージで大蜘蛛を地面に叩きつける。
「馬鹿めが! ここからだぞ、私の本領発揮は!」
 どっかんどっかんとラグナが大蜘蛛を地面に叩きつける。
「無様に潰れろ、醜い蜘蛛よ!」
 そして、動きが鈍くなったところで優希の大剣が、大蜘蛛の頭胸部を貫いた。黄色いネバネバした体液が噴き出る。二人はそれに触れないところに一旦退避する。
 念のため、優希は何度も大蜘蛛の頭胸部を貫いた。もう体液が出ないところを見ると、殲滅に成功したようである。
 あとは残る小蜘蛛だ。





 時計回りに進んで小蜘蛛を中心に追い詰めながら、逃げ出そうとする一体に桃奈子がスタンを掛け、司が黄昏で貫く。黄昏は貫手だ。小蜘蛛とは言え、五十センチの頭胸を貫いた瞬間の柔らかさと、蜘蛛の体液で黄色く染まる服の袖に、司のしかめ面が深くなる。
「拳士の宿命とは言え、慣れないわね……」
 ネバネバに手を取られないように、素早く手を振り払う。少し拳を握る手が鈍くなる。まぁ、握っている分には差し支えないだろう。
 これで四体の小蜘蛛を殲滅した。が、突破が茂みの陰に黒い大きなものを確認する。
「……やはり増えたのかしら」
 紫亞は新たなディアボロを確認して、再び炎で焼き尽くす。
「まだいるかも知れないよね」
 大蜘蛛退治を終えた優希が、ラグナに向かって言う。大蜘蛛の直下あたりは、まだ未確認だった。二人でくまなく探す。二体見つけた。
 二人で大剣を振るい、一発で頭胸部を貫く。
 見える範囲ではあと二体。桃奈子はエナジーアローで光の矢を放ち、司が黄昏で濡れた拳を再び叩きつける。紫亞がスリープミストで眠気を誘い、動きが緩慢になった隙に突破が刺す。
 見える範囲には、小蜘蛛一体見当たらなかったが、大蜘蛛の尻が大きく膨らんでいるのが視界に入った。
「ちょっ──?!」
 誰も応対する間もなく、ブワッ、と尻から四体の小蜘蛛が出る。
「やはりこういうパターンかしら」
 紫亞は自分の思考があながち間違っていなかったことを再確認して、ひとまずこれ以上増えないように、大蜘蛛を焼き尽くす。五メートルを燃えカスにするにはひどく体力を消耗するもので、小蜘蛛四体は他のメンバーが次々と頭胸部を貫いていった。
 ラグナと優希、突破は大剣で。司は拳で。桃奈子は光の矢で援護射撃し、小蜘蛛の尻まで貫いて、見るに耐えない姿に変える。
 それから撃退士たちは、草むらをかき分け、遊具の裏手に回り、出入口付近やバリケードの間を、くまなく捜索していった。
 突破が外の警察に聞いたが、ディアボロが逃げ出した様子はないという。
「終わった……か?」





 公園は無事封鎖が解かれたが、しばらくは子供たちも親たちも近付かなかった。こんな平和な公園にもディアボロが出現するのかと、怯えた様子もあったが、やがてまた賑やかな日常が戻ってくるだろう。
 ディアボロ殲滅の後、撃退士たちは千絵の搬送された病院へと向かった。ラグナの提案である。皆も妊婦である千絵の様子は気掛かりだったし、歩美にも会っておきたかった。
 病室をノックする。「どうぞ」と正吾の声が聞こえた。桃奈子が静かに扉を開ける。
「お加減いかがだろうか?」
 少し照れくさそうに、ラグナが訊ねる。司が、行き掛けに皆で買ったケーキを正吾に渡す。優希は歩美の頭に手を置いて言う。
「無事に会えて良かったね……」
「うん、おにいちゃんたち、どうもありがとう」
 子供には内面がわかるのか、優希のことを女性とは勘違いせずにそう言った。
「私はもう大丈夫です。この度はどうもありがとうございました」
 千絵はベッドの横たわりながら、首を動かして礼を言う。
「私たちを救ってくださって、感謝しきりです。まだ皆さんお若いのに、お世話になりました」
 正吾も言って、撃退士たちを労った。
「当然のことをしたまでなのだわ」
 紫亞は疲労の色を見せずに言った。
「ご無事で何よりです」
 突破も頭を下げる。
 撃退士たちは千絵の無事を確認し、早々に病室を出る。

 歩美が扉のところまで見送りに来てくれた。
「ねぇねぇ、歩美もおにいちゃんたちみたいに強くなれるかなぁ?」
 具体的に撃退士の仕事を知らない、無邪気な言葉。
「なれるよ、きっと」
 桃奈子が歩美に視線の高さを合わせて言う。
「強い心があれば良いのではないかしら」
 紫亞はクールに言い放つ。
「もう歩美ちゃんは強い子だぞ」
 ラグナは泣かなかった歩美を褒める。
「今度はお姉ちゃんになるんだもんな」
 突破の言葉に、歩美は嬉しそうだ。
「無理はしないことね」
 司は少し心配する。
「何かあったらまた僕たちを呼ぶんだよ」
 優希は、もう何事も起こらないようにと願いながら念を押す。
「うん、ありがとう、おにいちゃん、おねえちゃん。またね」
「またね」

 その数カ月後、村上家に長男が誕生した。3500グラムの健康で元気な子だった。名前は願いを込めて「勇気」と名付けられた。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 原罪の魔女・卜部 紫亞(ja0256)
 KILL ALL RIAJU・ラグナ・グラウシード(ja3538)
重体: −
面白かった!:4人

原罪の魔女・
卜部 紫亞(ja0256)

卒業 女 ダアト
KILL ALL RIAJU・
ラグナ・グラウシード(ja3538)

大学部5年54組 男 ディバインナイト
撃退士・
新井司(ja6034)

大学部4年282組 女 アカシックレコーダー:タイプA
夢幻のリングをその指に・
橘 優希(jb0497)

卒業 男 ルインズブレイド
久遠ヶ原から愛をこめて・
天険 突破(jb0947)

卒業 男 阿修羅
秘めたる熱は仮面の下で・
藤森 桃奈子(jb9391)

大学部2年227組 女 ダアト