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マスター:桜井直樹
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2014/08/06


みんなの思い出



オープニング

●不審者情報?

 その街ではある日突然、自らを「ゆるキャラ『きゅーたん』」と名乗る奇妙な着ぐるみが現れたという。街では非公認だということだ。
 迷子の子供を助けようとして大泣きされ、お年寄りを手助けしようとして不審がられ、若者には「キモイ」と言われたその外見は、頭に犬とも猫ともウサギともつかぬ、耳のないかぶりものをし、ドラゴンっぽい角を付けている。
 薄笑いを浮かべた口が怪しいのだが、ここが視界になるらしい。
 胴体は細く、首の下から足の付根辺りまでしか覆われておらず、腹部にセミのような横縞が描かれていて気持ち悪い。本人曰く、「腹筋」らしいのだが。
 それ以外の手足は、いわゆる「中の人」のもので、白い全身タイツを身につけているようで、最初は白だったと思しき汚れたデッキシューズを履いている。全体像でいうと、五等身くらいだ。
 おかげで手先は器用、足も早かったが、この暑い季節柄、全身着ぐるみでゆるキャラ活動をするのは大変なので、このような「キモイ」スタイルになってしまったのだろうと察せられる。
 あまりの不審者情報の多さに警察が動き、事情聴取となった。
 素直に連行されたきゅーたんは、普段は「きゅー!」、「きゅっ?」、「きゅきゅーん」くらいしか声を発しないのだが、さすがに署内ではかぶりものを脱いで事情聴取に協力したらしい。
 きゅーたんいわく、「街の人助けをしたかった」のだとか。個人下校の小中学生を見守ったり、困っているお年寄りを助けたり、あわよくば若い女の子にきゃあきゃあ騒がれてみたかったと述べているそうだ。
 悪意はまったくなく、確かに見かけが不審なだけで、何も問題を起こしてはいない。
 きゅーたん本人は、これからも非公認で構わないので、街の安全のために協力していきたいと考えているようだ。
「あのねぇ、取り敢えずその不審な着ぐるみはやめたほうがいいんじゃないかなぁ?」
 警察署員にもそう言われ、再度キャラ設定そのものから練り直すことにしたきゅーたん。
 ちなみにこのネーミングは、「緊急事態にはどこへでも駆けつける」かららしい。本来戦隊モノをやりたかったのだが、他地方とかぶってしまうし、仲間が見つからなかったのだそうな。
 哀れきゅーたん、ゆるキャラ活動再開のため、久遠ヶ原に依頼を出したのだった。



●斡旋所

「ゆるキャラ設定募集?」
 生徒たちはその依頼を見て少し笑う。
 今時、ゆるキャラなんて掃いて捨てる程いるし、その中で目立つのは途方もない運と実力が必要だろう。
 しかしよく依頼書を見てみると、別に目立ちたいともグランプリを取りたいとも書いていない。ただ街の人に愛されて、街の人を助けたいのだとあった。
 しかし、添付されていた初期設定の写真には、思わず嫌悪感を覚える者もいれば、プッと吹き出してしまう者もいた。
 純粋に街を見守りたい、そんなきゅーたんに、心動かされた撃退士が集まると良いのだが。


リプレイ本文

●ゆるキャラ登場

 きゅーたんが集まった撃退士たちの前に姿を表した時、思わずジョン・ドゥ(jb9083)はのけぞった。
「お、おう……これはまた……随分と前衛的な造形だな……」
 一応否定はせず、なるべくこれを使わせてやりたいとも思う。しかし生で見るとそれはより一層カオスな造形であったので、改善案を提案することにした。他のメンバーもおおかたその見かけを問題視しているようだ。
「お前に足りないもの、それはな。情熱・思想・理念・頭脳・気品・優雅さ・勤勉さ! そして何よりも──もふもふが足りない」
 珍しく語気を荒らげて言ったのは、春永夢路(ja0792)だ。
「いや冗談だが」
「いえ、至高なるもふもふは健全な精神と頑強な肉体が必要なのです」
 夢路にマジレスしたのは、カーディス=キャットフィールド(ja7927)だった。きゅーたんよりはるかに愛らしい、ゆるキャラの見本のようなもふもふ黒猫忍者(夏毛仕様)を着込んだカーディスは、もふもふ本気モードスイッチオン状態になっている。
「……だから貴様のそのゆるきゃらもどき!! 万死に値する……!」
 その様子を見ていた白蛇(jb0889)も、腕を組んでうんうんと頷いている。
「もふもふは……正義じゃ」
 きゅーたんに不足しているのがもふもふ成分だというのは、集まった撃退士のおおかた一致した意見であった。
「可愛いと言えば、我が妹な訳だが。俺の妹の被り物を作るか?」
 極度のシスコンであるイツキ(jc0383)は、真顔でそんな話を持ち掛け、その後全力で否定する。
「否、可愛いのは妹そのものであって中の人など居ない!」
「それはそうですね」
 イツキの言葉を受けて御崎緋音(ja2643)は頷く。
「しかしなぁ、この外見はどうみてもキモいだろう……」
 容赦なく言い放ったのは神司飯綱(jb9034)だ。その恋人の赤城羽純(jb6383)も、「確かにそうだよね」と口を揃える。
 きゅーたんの現在の容姿がキモいというのも、撃退士たちの一致した意見だ。いやこれは、街中の人の一致した意見かも知れない。
「取り敢えず、私は別件でちょっと街の方に行ってきますね」
 緋音は言い置いて、その場を後にした。



●改善案

「取り敢えずその見た目には突っ込む場所は山ほどあるとは思うんだが、何だそれ。こだわりあんの?」
 夢路はきゅーたんに訊ねる。きゅーたんは声がくぐもらないようにか、薄笑いのかぶりものを脱いで答えた。しょうゆ顔のなかなかのイケメンであったことが意外である。
「他のゆるキャラとかぶらないようにって思っていろいろ考えた結果、ここに落ち着いた感じです。あと、動きやすさ重視で!」
 むん、とドヤ顔をされたので、本人的には自信作なのだと伺わせられる。
「まーお前がその格好にこだわりあるんなら無理に変えろとは言わねーけど、白使うんならもうちょっと清潔にしとけよ。汚れ浮き出てんぞ」
 確かに、全身タイツの腕も足も薄汚れていて、デッキシューズに至ってはグレーになっている。
「まずゆるキャラに一番大切なのはあざといほどの可愛らしさ! 次に必要なのは演技力!  三番目に必要なものは清潔感! しかし貴様には全て足りない!」
 すっかり鬼軍曹モードになってしまっているカーディスは、熱く語り始める。
「貴様のその目の付け所と目指す場所は大変素晴らしいと思う! 駄菓子菓子! その外見はない! 全米が泣く! SAN値がなくなるぞ! 設定なぞ外見の愛くるしさがあれば何とかなる! 後からついてくるものだ!!」
 愛らしい黒猫の着ぐるみにそう言われると、きゅーたんも身につまされる思いである。
「清潔感は肝心じゃのう。デザインに関して言えば、最も簡単なのは既存の人気きゃらくたぁのおまーじゅ、じゃろう」
 白蛇が腕組みを解いて、きゅーたんに歩み寄る。
「それは芸人がネタとして行っただけでも非難轟々の可能性もある、修羅の道。しかし、中にはある主題を元に、万人が様々な解釈を持って着ぐるみを生み出しているものがある。そう……久遠ヶ原が誇る愛玩竜、ヒリュウじゃ。緊急、駆けつける、とは異なるが、見守る、という点では主の希望に沿うのではないかの?」
 バハムートテイマーらしい白蛇のアドバイスに、きゅーたんはほうほうと頷く。夢路はスケッチブックと色鉛筆を出し、改善案を絵にしてざっくりと描いていく。
「俺もゆるキャラについて取り敢えず色々調べてみたが、なかなか奇天烈なモノが多い様だな。しかし、今のお前は欲張り過ぎな気がする」
 妹熱の落ち着いたイツキがまともな意見を出す。
「取り敢えず出ている手足が気持ち悪い。人助けの為に手は素手? の方が良いかも知れんが、それならば、手……手首まではぬいぐるみでも良いのではないか?」
「そうだな、腕とか中の人を感じさせるのは良くないと思うぜ」
 ジョンもそれには同意を示す。
「緊急時に駆けつけるんだから……パトカーみたいなカラーリングの、犬にすればどうだろう? その角を耳の位置に移動し、耳にして、んでパトランプみたいに赤くしてだな……その横縞も白く塗って消しとかないか……さすがにちょっと不気味だ」
 ジョンの発案をさらに絵にしていく夢路。本人いわくの「腹筋」を消すと、なかなか小マシな雰囲気になる。
「格好いいの追求するか可愛いの追及するかどっちかにしとけよ。悪いとこ取りみたいになってるじゃねーか」
 絵を描きながら夢路も突っ込む。的確すぎて、きゅーたんはぐうの音も出ない。思わず「きゅー」と呟いてしまう。
「そこでロボ案はどうだろう?」
 黙って様子を見ていた飯綱は、待ってましたとばかりに手持ちの大きな袋から、何やら取り出し始めた。羽純も手伝う。
「飯綱考案の逸品物だよっ」
 自信満々に羽純が言う。
「コンセプトはゆるロボだ」
「一度着てみてくれるかな?」
 羽純の言葉に、きゅーたんは胴体の部分も脱いで、全身白タイツになる。中の人がイケメンなだけに、なかなかシュールだ。
 飯綱はダンボールと布を組み合わせたものと、型取りした発泡スチロールを布で包んだものの二種類を製作してきていた。動きやすさを重視して、ダンボール製のものを身につけてもらうことにする。
「動いたら……痛いよ……」
 言いながら羽純はうまく組み立てていく。ロボットアニメに出て来る正義ロボをデフォルメしたような、白黒のカラーリングのゆるロボだ。
「まず……貢献したいなら受け入れられる格好しないと……」
「これだったら、まだいい方だろう? ロボだから男の子の心をわしづかみだし、今後の活躍次第では女性からも悪くは思われないだろう!」
 着付けが終わった新しいきゅーたんを見て、飯綱は自信ありげに言う。
「なにより、ロマンがあるだろう?」
「なるほど……後はヒーローらしく、首に赤いスカーフを巻いたら如何だろうか?」
 イツキの案で、ゆるロボにスカーフが巻かれた。白蛇の案で、内部に保冷剤も入れられた。
「古のきぐるみにて、赤もじゃの怪なる事件があったそうじゃ。その様な……隙間から、主の顔が見えるような可能性は潰しておくべきじゃろう。のぞき穴、あるいはいっそ、潜望鏡のようにすれば良かろうか」
 幸い、飯綱の作ったゆるロボはヘルメット装着型だったので、その怪異は回避することができそうだった。有名な事件なので、知っていたのだろう。
「取り敢えずこれで一旦人前に出てみてはどうだろう? 緋音が今、街中を駆け回っているはずだ」



●ゲリライベント

 生の手足の時と違って、結構動きにくいゆるロボを着たきゅーたんを見て、ジョンはやや運動能力に不安を覚える。そこで、「全速力で走ってみろ」と言ってみた。
 不慣れなダンボール装備のきゅーたんは、初めは思ったように走れなかったが、なかなか適応力があるらしく、徐々にスピードが上がってきた。ゆるキャラとしては問題ない程度だと感じる。
 飯綱の作ったゆるロボは、関節部分の可動も良く、見栄えも男の子受けしそうだった。
「まずは皆さんに受け入れてもらえることが第一歩です。そのためにも、まずは子供に人気が出る格好がいいと思うんです。その両親にも好感を持ってもらえて、そこから女性にも人気が出たりするでしょう?」
 とある公園で落ち合った緋音が、きゅーたんと仲間たちにそう伝える。
「それで、ここで何を?」
 カーディスは聞く。
 数名の子どもたちが遊んでいる、あまり広くない公園だ。嫌でも新生きゅーたんに目が集まる。
「きゅーたんの知名度アップのためにイベントを開催してもらえるように街の人にお願いしに行っていたんですが、何しろ非公認ですし、きゅーたんと言えばもう例の格好が有名になってしまっていて、どこも受け入れてくれなくて……」
 残念そうに、そして申し訳なさそうに緋音が言う。それはそうだろう。急に「きゅーたんのイベントを開催させてください」と言われても、アレを思い浮かべると誰しも断りたくなるというものだ。
「そこで、公園でゲリライベントを開こうと思って」
「ほほう。なるほど、公園なら子供もたくさんいますしね」
 鬼軍曹モード一時解除のカーディスは紳士だ。ちなみに今は、黒猫の着ぐるみは脱いでいる。きゅーたんより目立ってしまっては、せっかくのゆるロボが台無しになってしまうからと考慮したのだ。さすが紳士。
 早速ゆるロボの新生きゅーたんに子どもたちが集まってくる。
「なになにー? このロボかっこいー」
「強いの? ねぇ、アックマン倒せるー?」
 なるほど、子供から味方につけるというのは良い方法かも知れない。元アレだとも知らない子供の母親たちは、ゆるロボきゅーたんと自分の子どもとのふれあいを微笑ましく見つめている。容姿を変えただけでこんなにも食いつきが違うものかと、きゅーたんは反省する。
 その後、飯綱と羽純と緋音の三人は、きゅーたんを盛り立てるようにイベントを進行していった。スマホの情報網を通じて新生きゅーたんの公園ゲリライベント情報は街中に広がり、主に子連れのお母さんたちが多く集まってきた。
 それから子どもたちを引き連れるように街の商店街を練り歩き、お年寄りの荷物を持ってあげたり、小学生の帰宅時間には通学路に立って手を振ったりと、きゅーたんは念願の愛されキャラとして夕方まで働いた。



●欲張り

「あのぅ……今日はどうもありがとうございました」
 最初に集まった場所に戻ってきた撃退士たちは、半日の成果に満足していた。しかし、きゅーたんの態度は微妙である。
「どうしたんだ? お前の夢が叶ったんじゃないのか?」
 夢路が怪訝な顔できゅーたんを見る。するときゅーたんは黒猫忍者モードに戻ったカーディスをうらやましそうに見つめている。
「このロボ、改造してもふもふっぽくしてもいいですかね?」
「えええ?!?!」
 撃退士たちは驚く。ロボをもふもふさせようというセンスが突拍子もない。そもそも、元のきゅーたんの節操のなさを思えばわからなくもないのだが、きゅーたんは欲張りすぎなのだ。
「肉球と尻尾も可愛いですし、女の子にも受けると思うんですけど……」
「肉球と尻尾つけたゆるロボってどんなだよ!?」
 思わずジョンは突っ込む。
「人助けする為に着るその着ぐるみの見た目で人々に不安を与えてしまうのが、きっと大きいんだと思う。そこを改善すればきっと受け入れてもらえると思うんだよな。志は綺麗だし。なのにまたキモくしたら意味ないんだぜ?」
「……キモくなりませんよ?」
 根拠はどこにあるのか、きゅーたんは自信ありげに言う。
「キモ可愛いものは上級者ではないと着こなせない! 貴様はまだその境地には程遠い!」
 鬼軍曹モードに戻ったカーディスは、ピシャリと言い放つ。
「水分多め休憩ましまし! 着ぐるみはいつも清潔に! 夏場は洗い替え必要不可欠也! 人を不快にする事は万死に値する……それが貴様にできるのか?」
「がんばります!」
 瞳をキラキラさせて断言するきゅーたん。そこにイツキが釘を刺す。
「全体の方向性は統一した方が良いと思うぞ」
「決して忘れてはならぬ事柄じゃな。もふもふは……正義じゃ」
 もうこれ以上何も言うまいと、白蛇はそうまとめる。
 肝心の製作者の飯綱は、羽純とイチャラブしていてもうどうでも良さそうだった。取り敢えず、もう一案の方の着ぐるみロボもくれるという。
「オリジナリティも大事だよね、いづな〜」
 羽純も適当に言って飯綱にまとわりついている。
「原点回帰ですか……?」
 心配そうに言葉を選んで緋音は言う。
「まー頑張れ、きゅーたんとやら。色々言ったが一応あんたのことは応援してるつもりだぞ」
 夢路は初めに描いたスケッチブックを何枚か破いてきゅーたんに手渡す。デフォルメしたヒリュウや、ジョン発案のパトカー犬、後にイツキがぼそりと言ったピンクのウサギ案も描いてあった。あとはこれのいいとこ取りをしてくれれば良いのだが……悪いとこ取りになりそうな予感しかない。



●後日譚

 その街ではある日、もふもふのウサ耳付きロボが現れたという。背中にはパトランプを背負い、地面を引きずったもふもふのピンクの尻尾は汚れまみれらしい。ロボのくせに手には肉球があり、相変わらず「きゅーたん」を名乗っているそうだ。
 肉球のせいでお年寄りの荷物を持ってあげることができず、ヘルメットにウサ耳なので男児にも女児にも不人気だった。
「私たちがしたことって……なんだったんだろうね……」
 そんな撃退士たちの思いをよそに、きゅーたんは容姿を少しづつ変えながら慈善事業に関わり続けた。
 やがてきゅーたんは突如として現れなくなり、街が平和になった頃、ある施設にイケメンの児童と老人の保護委員がいると話題になった。その人の過去は誰も知らない。


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: −
重体: −
面白かった!:4人

Full Moon Tea-Party・
春永夢路(ja0792)

卒業 男 ダアト
心に千の輝きを・
御崎 緋音(ja2643)

大学部4年320組 女 ルインズブレイド
二月といえば海・
カーディス=キャットフィールド(ja7927)

卒業 男 鬼道忍軍
慈し見守る白き母・
白蛇(jb0889)

大学部7年6組 女 バハムートテイマー
託すは相棒の一撃・
赤城 羽純(jb6383)

大学部6年110組 女 ルインズブレイド
天をも突き抜けよ・
神司 飯綱(jb9034)

大学部2年266組 女 陰陽師
大切な思い出を紡ぐ・
ジョン・ドゥ(jb9083)

卒業 男 陰陽師
シスコンピアニスト・
イツキ(jc0383)

大学部4年67組 男 ルインズブレイド