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マスター:桜井直樹
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:4人
リプレイ完成日時:2014/07/09


みんなの思い出



オープニング

●切ない片想い

 水木雪菜(みずき・ゆきな)は恋をしている。相手は同じ高等部一年のクラスメイト、瀬名梓(せな・あずさ)。腐女子仲間でBLの話題で盛り上がれる仲なのに、自分の想いは告げられない、切ない片想いだった。
 久遠ヶ原では同性カップルも多いため、周囲からの偏見はない。思い切って告っちゃいなよ、と雪菜の想いを知る友人は簡単に言うが、せっかく時間を掛けて「親友」という立場までこぎつけたのに、玉砕してその関係まで失うのは怖かった。
 腐女子仲間で同人誌を作り、「次はGLもいいね♪」と梓に言われた時は脈アリかと思ったが、リアルと二次元は違うかも知れない。
 雪菜はモヤモヤした気持ちでいっぱいだった。
 雪菜は平凡な女子で、趣味は漫画(主にBL)を読むことと描くこと、アイドルの音楽を聴くこと。けれど勝手がわからないので、コンサートや握手会には行けない内気なタイプだ。
 一方梓は活発な気質で、男女共に友人は多く、広く浅い付き合いをしている。同じ腐女子仲間ということを除けば、雪菜との共通点はほとんど見つからなかったが、何故か一番仲が良いのは雪菜だった。
 梓曰く、「雪菜と一緒にいると、素の自分が出せる」とのことだった。それだけで雪菜は満足してしまう。親友のままでもいいかな、と感じる。もしかして特別扱いしてくれてるのかな、なんて期待も持ってしまう。
 今は8月のイベント合わせの同人誌を作っているため、一緒にいる時間は長い。雪菜は漫画を描き、梓は小説を書く。挿絵を担当しているため、梓の作品を誰よりも一番に読むことができるのが雪菜だった。
 毎日放課後は、梓はノートパソコンを持って雪菜の寮の部屋まで行き、一緒に創作活動をしている。
 特に同じ作業をするわけではないので、別々に書いても構わないのに、梓は「雪菜と一緒に話しながらの方が、原稿が進むんだよ」と言ってくれる。雪菜はときめきながら期待を持ってしまう。
「次はGLもいいね♪」
 今日も作業をしながら、梓は雪菜に言った。雪菜は思い切って訊いてみる。
「あず、GLにも興味あるの?」
 二次元的に、という意味に聞こえたのだろう。梓は両手で大きく丸を描いて、「とっおぜん!」と快活に笑った。
「BLがあって、GLがあるから、ラヴがあるのよぉ〜。ノーマルラブは萌えがない!」
 やっぱり二次元的な発想なのだな、と雪菜は思う。
「じゃあ今度、あずの書くGL読んでみたいなぁ」
 そう言うことで、雪菜はこの話題を終わらせた。梓は「いいよー」と安請け合いする。そのうち短編でも書いて見せてくれることだろう。軽くした約束でも、必ず守ってくれるのが梓だ。

「ねぇねぇ、ウチの攻めってちょっと押しが弱いかなぁ?」
 創作中の作品について、梓は雪菜に意見を求める。プロットは既に見せてもらっていた雪菜は、途中まで綴られたその物語を画面上で流し読みし、「んー」と唸った。
 話は良くできている。キャラクターも個性的だし、確かに攻めの押しは弱めだったが、その分受けキャラの性格が弱い設定だ。問題なさそうに思う。
 そこで雪菜はふと、自分をその小説に置き換えてみた。性格の弱いおとなしめな受けキャラが自分で、攻めが梓だったとしたら。雪菜はどうしてほしいだろう?
「受けの子がおとなしい性格だから、このままの押しじゃ、好きなのかどうかわからないかも」
 だから梓の本音が聞きたい、と願う。
「態度で示すんじゃなくて、言葉で伝える場面が欲しいかな」
「そうかぁ、でも態度で気付いて欲しい伏線があるんだけどなぁ」
 確かに、最終的に言葉で示す、というオチに至るのが梓の執筆の癖でもある。それまでは、気のない素振りをしたり、悪態を突いたりする、男子小学生のような愛情表現をする攻めキャラが多いのだ。
 梓自身はどうなのだろう。好きな相手には言葉で伝えるタイプだろうか? 書くキャラクターには自分が反映されると言うから、態度で示すタイプなのかも知れない。さすがに、男子小学生のような幼稚さはないだろうが。
「それに、受けにも愛情表現して欲しい時ってあるじゃない?」
 梓の言葉に、雪菜はドキッとする。リアルに受け取ってしまう。
「あー、それもあるよね」
 なんとか受け答えを返すが、雪菜は何もアクションを起こさない自分を重ねてもいた。
(気持ち、伝えたほうがいいのかな)
 うむー、と唸りながら煮詰まってしまった梓の隣で、雪菜は考え込んだ。
「よし、受けキャラに反撃させよう!」
「ええー?!」
 二次元上の話を、すっかりリアルに置き換えてしまっている雪菜だった。
「受けキャラがアクション起こすまで何もイベント起きないってどうよ?」
「それは困るよぉ。話が進まないじゃない」
「だから心理描写入れる。そこの挿絵頼みたいな。雪菜なら、いい絵にできると思う」
「それは、いいけど……」
 なんだか試されている気分の雪菜だった。

 このままじゃ、ダメだ。雪菜がアクションを起こすまで、何もイベントが起きないかも知れない。後退はない代わりに、進展も見込めそうにない。
 もちろん、梓は創作の話をしているのであって、リアルの話とは微塵も思っていないが、雪菜だけが空回りしてしまっている。
(どうしようどうしよう。告白しちゃう? でもそれで関係が変わるのは怖い……)
 梓は気分が乗ってきたようで、カタカタとキーボードを打つ手が早まる。自分の席に戻ってネームを描いていた雪菜は、「ドウシヨウ」と紙の片隅に書いた。今日は何も手につきそうにない。
 その日は梓は筆が進んだらしく、上機嫌で帰って行った。
 部屋に残された雪菜は、過去に梓が書いた作品をいくつか読み返す。確かにどの攻めキャラも押しが弱い気がするのは、梓が広く浅い付き合いを好むせいだろうか?
 でも梓は雪菜のことを特別扱いしてくれている。腐女子仲間ということもあるが、他に特別な感情を持ってはくれていないのだろうか。ここはもう告白しかないのか?
「あーん、助けてぇ」
 斡旋所でアルバイトをする友人に、急遽相談メールを送る雪菜だった。


リプレイ本文

●事前準備

 事前準備と称して撃退士たちと面会することになった雪菜は、非常に緊張していた。
 しかしその緊張も、同い年で明るい雰囲気の狩霧遥(jb6848)や、お姉さん気質の一川七海(jb9532)、百合好き女子の功刀夏希(jb9079)らによって和まされた。
 小等部からはキャロル=C=ライラニア(jb2601)とゲルダ グリューニング(jb7318)が、唯一の男性助っ人としては、鎖弦(ja3426)が駆け付けてくれた。頼もしい限りである。
 まずは夏希が事の概要を説明する。雪菜に希望の展開を聞いたり、当日行ってもらう遊園地とレストランの話。レストランは鎖弦が準備をしてくれるらしい。場所の打ち合わせもしておく。
 七海も雪菜から過去の作品を借り、梓の作品を読んで『七海ノート』にメモする。このノートには様々な内容が書き込まれているようだ。
 遥は偽装カップルになる相手の七海と相談し、イチャラブ具合を確認している。まんざらでもないらしい。
 キャロルとゲルダも裏方仕事ながら自己紹介し、当日に雪菜が驚かないようにする。
 梓にはこの日曜日に、先輩で友人の七海たちと一緒に遊園地に行こうということで誘ってある。「彼女さん同伴だって」と告げると、梓は「リアル百合ップル?!」と興奮し、二つ返事でOKしてくれた。百合ップルとは、梓言葉で百合カップルのことである。
「じゃあまぁ、そういうことでね。当日はよろしくね」
 七海はそう言って、遥との打ち合わせのためにその場を後にした。
 ハーフ悪魔の鎖弦は、人というものを学ぶにはちょうどいい観察対象になるだろうと依頼に参加した。しかしいかなるものであれ、依頼は依頼。きちんとこなしたい。
「作品とは自身の潜在的欲求等の現れであるという」
 そこで鎖弦は雪菜をうまく話術で安心させていく。
「停滞した後悔をするくらいなら、無謀でも前に進む後悔をしろ。でなければ心が死ぬぞ?」
 そう言って、雪菜の肩をポンと叩いて励ました。
「自分の意味する『告白』を考えてみてはいかがでしょ〜? かたくなりすぎは、よろしくありませんのよ〜?」
 そう背中を押したのはキャロル。
「当日はおまかせくださいね」
 にっこりと愛らしく微笑んでいる。
「愛は心を通わせてこそよ。友人のままで居たら、いずれ相手を失ってしまうわ……と母も言っていました。雪菜さんも、今捕まえねばいつか後悔するかも知れません」
 ゲルダも雪菜の手を取り、「勇気を出して」と伝える。そしてそのまま、雪菜の友人に梓の情報を聞き出しに行った。
 最後に二人きりになった夏希は、こっそりと自分の体験談を話す。想いを寄せる女性がいたけれど、勇気がなくて声を掛けられなかったこと。ある時、「今しかない」と思って告白してうまくいったこと。
「きっと雪菜さんも私と一緒なはずです。だから梓さんとは結ばれて欲しいです」
 雪菜と同い年の夏希も、勇気を出して同性の想い人と結ばれたのだ。それはなんと心強いことだろう。
「はい、私、頑張ります」



●遊園地

「こちらが七海さん。私の友達だよ」
 デート当日、雪菜が梓に紹介したのは、髪をツインに束ねてキャップをかぶり、Tシャツにショートパンツ、スニーカーといった、若々しく元気な格好の七海だ。
「それでこちらが……」
「恋人の狩霧遥ですぅ! 今日はよろしくねっ」
 こちらも元気な少女である。根が明るい梓は、気が合いそうだと思ったのか、早速二人に溶け込んでいる。
 定番のジェットコースターに乗ったり、お化け屋敷でキャーキャー騒いだりできるのが、女子同士の楽しいところだ。初めはリアル百合ップルの観察が目的だった梓も、すっかり普通の女の子の顔になって純粋に楽しんでいる。
「あ、占いやってますだってー」
 遥が臨時出店的な看板を指差し、七海に「行こうよー」と甘えている。雪菜には見ていて恥ずかしくなるようなイチャラブぶりだったが、梓は気にせず「私たちも行ってみる?」と雪菜に聞いてきた。
「あ、うん!」
 思わぬ展開に雪菜は緊張する。先に入って出てきた七海と遥は、「当たってるねー」と言っていた。過去の馴れ初めでも当てられたのだろうか。次は雪菜と梓が小部屋の中に入る。雰囲気たっぷりの薄暗い小部屋には、占い師に扮して顔が見えないようにフードをかぶったゲルダがいた。
「名前と生年月日を書いてください」
 二人言われる通りにする。ゲルダはタロットカードを広げ、何枚か広げてそれらしい形にしていく。二人は占いには疎いので、結果はまったくわからない。
「占う前から明確でしたが、二人の相性はばっちりですね。今日は告白日和と出ました。恋人同士にとって良い日になるでしょう」
 それからいくつかの質問にゲルダはカードをめくって答え、梓の信用を得たようだった。「次のイベントで新刊売れますか?」とか、そんな質問だったのだが。
「どうだったー?」
 七海が二人に聞いてくる。遥とはずっと腕を組んだり、手をつないだりしたままだ。偽装百合ップルと知ってもなお、雪菜は照れる。でも憧れる気持ちもあった。
(あずと手をつなだりしたい、かな)
「相性バッチリって言われましたよー。良い日になるそうです」
「やったね!」
 遥も梓とハイタッチする。そこへ風船を売っている女性が現れた。夏希が変装している。
「おや、カップルさんですねー。風船いかがですかー?」
 七海と遥に近付き、夏希はハート型の風船を見せる。
「七海さん、私これ欲しい〜♪」
「はいはい、じゃあオソロで買おっか」
 二人は勧められるままに、赤とピンクのハート型の風船を受け取る。夏希はそのまま雪菜と梓にも近付き、「こちらのカップルもいかがですか?」と声を掛けてきた。
「どうする? 雪菜」
 珍しく梓は乗り気のようだった。目の前の百合ップルに触発されたのかも知れない。
「わ、私も欲しいな。ハート型、かわいいし」
 勇気を出して雪菜もハート形を所望する。二人はオレンジと黄色の風船を受け取り、代金は梓が支払った。一つ分支払おうとする雪菜に、梓は「いいっていいって」と笑う。百合ップル効果は徐々に表れてきているようだ。
「皆さん、良くお似合いですよ」
 そう言い残して、夏希扮する風船屋は去って行った。
 四人は昼食を摂りに、簡易テラスでハンバーガーとドリンクを食べていた。そこへ、いつもより幼い格好をしたキャロルが、半べそでとぼとぼと歩いてきた。
「あれ? 迷子ちゃんかな?」
 真っ先に気付いたのは、意外にも梓だった。
「お嬢ちゃん、どうしたの?」
 子供好きの梓はキャロルに声を掛ける。キャロルは泣きそうになりながら、梓にすがりついた。
「パパとママがいないのぉ。キャロ、一人ぼっちなの」
 子供らしく甘えた声を出す。そこへ七海が助け舟を出す。
「よっし、ここはお姉さんに任せなさい!」
 キャロルを抱っこして、遥と一緒に立ち上がる。
「ちょっと迷子センター行ってくるわ。お二人さんはここで待っててくれるかなー?」
「私たちも行きましょうか?」
 食い下がる梓に、遥は可愛らしく笑いながら、「二人で行かせてくださいよぅ」と茶目っ気を出して言った。それではここは別行動としよう。

 賑やかな二人が急にいなくなって、雪菜と梓は静まり返る。
「こ、この風船かわいいね」
 雪菜は先ほど買ってもらったハート型の風船を突付きながら、話題を探している。普段なら何もなくても黙って一緒にいられるのに、なんだか落ち着かない。
「さっきさ、占いで告白日和ですって言われたよね」
 梓は言う。雪菜はこくりと頷くだけだった。
「告白したらうまくいくってことだよね。んあー、原稿持ってくれば良かったぁー!」
(だ、ダメだ。あず、原稿のことしか考えてないのかも……)
 がっくりと肩を落とし、しばらくぼんやりしていると、七海と遥戻ってくるのが見えた。
 ヒリュウを通して様子を伺っていたキャロルも、少しがっくりとした。



●レストラン

 鎖弦には申し訳ないが、名前を出すわけにはいかないので、七海の知人のはからいで、という名目で、小さなカフェレストランの個室を貸し切り利用することになった。
「うわぁ、お洒落ですねー」
 あまりお洒落には気を配る方ではない梓は、その雰囲気に飲まれていた。
「次の原稿の資料にするといいわよ。GL書くのよね?」
「そうですねー、書きたいと思ってます」
「じゃあ、私たちの馴れ初めから話そうかー」
 遥が提案して話し出す。
「私が勇気を出して告白したんですぅ。そしたら元々相思相愛だったっていうオチで」
 七海と一緒に軽快に笑う。梓は興味深げに聞いている。
「梓さんと雪菜さんも仲良いですよね♪」
「そう言えば梓ちゃんの過去作品読ませてもらったけど、面白かったわよ♪ でも押しがいまいちピンと来ないところねぇ。梓ちゃんに似てるのかしら?」
 七海が核心を突いた言葉を出す。
「あー、ありがとうございます。やっぱり自分を投影しちゃうっていうか、押せ押せになれないんですよねー」
 あはは、と梓は頭を掻く。やや苦笑いなのは、自分の未熟さを指摘されたからだろうか。
「最近、何か悩んでることでもあるんじゃないの〜?」
「いやー、原稿はノリノリなんですけどねぇー」
 原稿の話じゃないって! とその場にいた全員が思ったが、口には出さない。しかし。
「あれ? 原稿が乗ってるなら、他に何かあるんですか?」
「え? いや、まぁ、受けキャラがイベント起こさないっつーか……」
 しどろもどろ。
 ヒリュウを通して様子を見ていたキャロルは、すかさず鎖弦に合図を出した。鎖弦は個室のドアをノックする。
「はぁい」
「ディナーをお持ちしました。こちらをどうぞ」
「うわぁ、素敵!」
 七海は大袈裟に喜ぶ。すると鎖弦はエプロンのポケットから何かを取り出して四人に渡した。
「本日はカップルデーとなっておりますので、プレゼントと本日の料金無料を行っております。こちらストックの押し花の栞でございます。花言葉は愛の絆、豊かな愛などがあります」
 滑らかに歌い上げるように鎖弦は言い、主に梓を見て「お似合いですよ」と言った。
「これからもお幸せに。では、失礼致します。良いひとときを」
 まるで執事のような鎖弦の振る舞いに、多分梓の脳はBL要素で充満しているだろうと思った。しかし、意外にも梓は「ちょっとお手洗い」と言って、静かに部屋を出たのだった。
 部屋に残った三人は、コソコソと話を交わす。
「ちょっと今日は露骨過ぎたかしら? 怪しまれた?」
 七海が心配そうに言う。遥は逆転の発想だ。
「気合入れに行ったのかも知れませんよ? これから告白しようって」
「だといいんだけどなー」
 個室の外で他の客に混じって見ていたゲルダと夏希は、いそいそと化粧室に向かう梓を心配そうに見た。遊園地での様子や、今の中の様子はキャロルからメールで聞いている。梓の二次元脳は、なかなか厄介だった。しかし、化粧室から出てきた梓は入って行った時と違い、キリッとしていた。
「お待たせしましたー」
 部屋に戻った梓は、スッキリした顔をしている。本当にただのお手洗いだったのだろうか。
「じゃ、食べましょうー」
 梓の声に、皆美味しいディナーを黙々と食べる。
「あと、デザート来るみたいよ」
 七海の声を合図に、遥は携帯を出して「あっ」と言う。
「電話、ちょっと席外しますね」
 もちろん電話など掛かってきてはいなくて、部屋を出るための口実だった。七海も「アタシも行く」と言って一緒に部屋を出て行く。そう広くはない個室で、雪菜は梓とまたしても二人きりになってしまった。
「……あの、あず?」
「うん?」
「ごめんね、何か今日、疲れさせちゃったかな?」
 午前中ほどテンションが高くなくなった様子の梓を見て、雪菜が気遣う。梓は首を横に振る。
「ううん、すっごく楽しかった。どこに行ってもカップルに間違われちゃってさ、こっちこそごめんね」
「そんな! 私、あずとカップルみたいって言われて、すごく嬉しかったよ」
 部屋を出て行ったはずの七海と遥、客に扮したゲルダと夏希、店員の扮装を解いた鎖弦は、個室のドアにべったり張り付いて中の様子を伺っている。キャロルはヒリュウと視覚共有中だ。
(行け行け、言っちゃえ!)
 皆が心の中で思っている。
「私が勇気出せなかったから、雪菜にも中途半端な思いさせちゃったね」
「それってどういう……?」
 雪菜は、自分から告白しようと思っていたので、少し気が抜ける。
「私、雪菜が好きだよ。今日、七海さんたち見て、ハッキリわかった。私も雪菜とあんなふうにイチャイチャしたいし、遥さんみたいにハキハキしたい。雪菜に誤解されたくないからなかなか言い出せなかったけど、私、雪菜と付き合いたい」
「あず……」
「雪菜は、嫌かな?」
 梓の押しの弱さは、こういうところに出る。作品の中でもそうだった。だからここは、雪菜が押し切るしかない。
「嫌なわけないじゃない。私もあずのこと好きだった。付き合いたいって思ってた。でも、もしもフラれちゃって、友達にも戻れなくなったらって思うと怖くて……勇気出せなかったのは私の方だよ」
 雪菜はハッキリと言った。
「これさ」
 鎖弦から渡されたストックの押し花の栞を見て、梓は言う。
「愛の絆って言ってたよね。だからこれ、交換しよ?」
「うん! この風船も、交換したいな」
「いいよ」
 撃退士たちはドアの向こう側でガッツポーズをしている。そろそろ部屋に戻ってもいい頃だろうか? それともこのまま二人きりにしておくか。
 メンバーで検討した結果、このまま放っておくことにした。店員の格好に戻った鎖弦が頃合いを見計らってドアをノックし、七海と遥は急用のため、先に帰ったと伝える。
「お二人様はごゆっくりなさってください。貸し切りですので」
 キャロルはヒリュウを回収し、それ以上二人に干渉するのはやめた。
(いいですよね、百合……最高です)
 夏希はじゅるりと涎をすすらんばかりに興奮している。そして客として二人が出て来るまで店で粘り、仲良く手を恋人つなぎにして帰っていく姿を満足そうに眺めるのだった。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 眼帯の下は常闇(自称)・狩霧 遥/彼方(jb6848)
 魔球投手・一川 七海(jb9532)
重体: −
面白かった!:8人

音羽の忍・
鎖弦(ja3426)

大学部7年65組 男 鬼道忍軍
仲良し撃退士・
キャロル=C=ライラニア(jb2601)

中等部2年11組 女 バハムートテイマー
眼帯の下は常闇(自称)・
狩霧 遥/彼方(jb6848)

大学部2年56組 女 ルインズブレイド
マインスロワー・
ゲルダ グリューニング(jb7318)

中等部3年2組 女 バハムートテイマー
撃退士・
功刀 夏希(jb9079)

大学部2年289組 女 ナイトウォーカー
魔球投手・
一川 七海(jb9532)

大学部6年6組 女 鬼道忍軍