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マスター:桜井直樹
シナリオ形態:ショート
難易度:易しい
参加人数:6人
サポート:4人
リプレイ完成日時:2012/11/27


みんなの思い出



オープニング

「ちょっと協力してほしいんだが……」
 教室に入ってくるなり、おもむろに教師が言った。
 放課後前のホームルーム。普段はなかなかユーモアのある彼が、何か神妙な面持ちをしているせいか、生徒たちも少し静かになる。
「まぁ、簡単な探しものなんだ。ずっと持ち歩いていたんだが、さっき気付いたら見つからなくてな。俺にとってはとても大事なものだから、なんとか見つけてもらいたいんだ」
 そう言って教師は、自分のジャケットの左のポケットを探る。
「さっきまでは確かにここに」
 出てきたのは、紺色のハンカチ。
「このハンカチと一緒に入っていたんだが」
 そのハンカチをまたポケットに納め、彼は生徒たちに向かった。
「誰か探してくれないか? 俺にとって大事なものだから、もちろん礼はする」
 そこで生徒が一人、手を挙げる。
「今日一日で寄ったところはどこですか?」
「朝、職員室に着いた時はあったんだ。それから午前中はこの教室と体育館と職員室にしか行っていない。昼は職員室で弁当を食べてから、外の文具用品店に行って、帰りは郵便局に寄ったな。あとは中庭を通って職員室に戻った。トイレは職員室の横のところしか使ってない」
 少し、生徒たちの表情が変わる。
 そこまでわかってるなら自分で探せばいいのに……という顔が少し、いやそこそこ、結構な人数、いた。
 教師は慌てて付け足す。
「も、もちろん自分で全部探したぞ。引き出しの中とか、机の下とか、歩いたところとか。でも見つけられなかった。視点を変えれば同じ場所でも違う発見があるかも知れないだろう? だから、誰か協力してくれないか?」
 なかなかに真剣な顔をするものだから、生徒たちも検討する。
 放課後の宝探しといったところか。協力すれば、万一見つけられなくても報酬をくれると言う。まぁ悪くはないか。
「それで、何を失くしたんですか?」
 すると教師は少し歯切れ悪く言った。
「まぁ、小さな紙切れなんだが。これくらの」
 これくらい、と指で空に描く。どうやら折り紙程度の大きさのようだ。
「無地の白い紙だ」
「何か書いてあるんですか?」
 教師は少し困った顔をする。
「まぁ……それは見つけた奴と俺しか知らないってことで頼む」
 紙切れがそうあちこちに落ちているわけでもないだろうから、要するに紙切れを探せばいいか。
「ああ、職員室は俺が探すから、さすがに一般生徒は立捜索禁止な。2時間くらいなら職員室で待ってるから、何とか頼むよ」


リプレイ本文

●捜索開始

「それじゃあ、俺と歌音と樹が校内、智とエナと恭弥が校外で、手分けして探すってことでいいのかな?」
 仲間たちとの相談の上、最年長の龍崎海(ja0565)が確認する。
「紙ということだから、ゴミ箱の中も調べた方がいいと思うんだよね」
「軍手、持ってきました」
 マスクまで装着したエナ(ja3058)が言う。
「あと、これもです」
 軍手をした手には、割り箸とペンライトが握られている。なかなか用意周到だ。
「私も軍手をしてきたぞ」
 そう言った鴉乃宮 歌音(ja0427)の方を見た神林 智(ja0459)は、思わず目を丸くする。
 幼い容姿に白衣を纏っている姿は凛々しいのだが、背中に何かついている。
「紙……ついてるよ?」
 歌音の前に立っていた龍仙 樹(jb0212)が、彼の後ろに回りこんで見てみると、そこには意外な達筆で文字が書いてある
「『捜索中』……?」
「訳もなく変なことはしていませんよ、という表示です」
「なるほどですね」
 樹は穏やかに納得して、自分の意見を述べる。
「私はまずトイレを見てきます。昼食の時も、トイレの洗面台で手を洗ったそうですし」
 影野 恭弥(ja0018)は無表情に頷き、女性陣の仲間に加わった。
「それでは、みんなで見つけられるように頑張りましょう」
 エナが言い、6人は行動に移る。


●校外・文具店

 智は携帯電話を操作しながら歩いていた。
 時間の限られた校外での捜索が無駄にならないように、前もって文具店と郵便局に電話をかけて、落とし物として届けられていないかどうかを聞いてみようと思ったのだ。
「ええ、はい、はい……そうですか。わかりました、ありがとうございます」
 通話終了ボタンを残念そうに押した智を見て、エナは返答を察する。
「見つからなかったのでしょうか?」
「うん、どっちも紙にあふれている場所だし、届けもないし、見たところわからないみたい」
「でしょうね……」
 エナも肩を落とす。
(失くしたものって、どんなものかなぁ? 手紙とか写真とか? ああダメ、何でもいいから、見つけて先生に渡してあげなくちゃ!)
 智はなんとか興味を打ち消す。
 そうしながらも、校外組の3人は歩きながら道程のチェックに余念はない。
 学校の往復の道で落とした可能性も、ないとは言えないからだ。


 まずは文具店に行ってみた。
 店主に了承を得て、商品に紛れていないか、通路に落ちていないかなどを調べてみる。
 エナは持ってきていたペンライトで、暗くなっている商品の間や、棚の下なども入念に探していた。
「……ないですね」
 さほど広くはない店内なので、3人もいればすぐに捜索は終わる。
 黙って探していた恭弥も、諦め顔で手を止める。
「あの、すみません……ごみ箱を見せて頂いても構いませんか……?」
 文具店の店主は不思議そうな顔をしながらも、エナの真剣な表情を見て、店内に一つだけしかないゴミ箱を示す。
 そこには割り箸で漁るまでもないほど、ゴミがなかった。文具店のゴミ箱なら、余程紙だらけかと思えば、購入するだけでここで消費するものではないので、ゴミ箱はほとんど必要ないのだそうだ。
 3人は礼を述べて文具店を後にし、郵便局へ向かう。


●校内・ゴミ置き場

「教室や体育館は、時間割とかでわからないかな?」
 海は効率的に回ることを考えたようだ。早速確認する。
「俺は先生が授業をした教室を回ってみるよ。歌音は体育館の方、頼めるかな?」
「わかりました。今の時間ならきっと、運動部が使用中ですよね?行ければ中庭も見てきましょう」

 2つの教室を回って、海は生徒の話を聞き、ゴミ箱を見せてもらったが、掃除が終わっていたため、ゴミ箱の中身は空だった。
 掃除していた生徒に聞いても、特に目立ったゴミはなかったと言う。海はゴミ箱の中身を追うことにした。
「ゴミ置き場か……どれが何組だかわからないな」
 少し困った顔で、ともかくゴミ置き場に行ってみる。
 ところが。
 目の前で、たくさんのゴミ袋に入ったゴミが、回収業者の車に積まれている最中だった。
「あー」
 ここで作業を中断してもらうことも、しようと思えばできた。
 しかし、確実にこの中に探しものがあるかどうかもわからない上に、探しものがどんなものなのかさえわかないとあっては、さすがに業者の邪魔をするのにも気が引けた。
 仕方なく、手前側にある、比較的新しくここに置かれたと思われるゴミを少し調べてから、業者の邪魔にならないうちに立ち去る。
(トイレは樹で大丈夫だろうから、取り敢えず中庭を確認しようかな)
 もしもあのゴミの中に探しものがあったのだとしたら、申し訳ないが教師には泣いてもらうことになるかも知れない。


●校外・郵便局

 事前に電話を入れておいたこともあってか、智とエナと恭弥が郵便局で支店長に探しものをさせてほしいと頼んだところ、客もいないということで、快諾してくれた。
 ここもそう広いわけではない。手分けすれば時間もかからないだろう。

 ATMコーナーで、客が入って来ないかを慎重に注意しながら、エナはペンライトで隙間を照らし、見えない場所を割り箸でつつく。
 カサ……と何かが当たったと思えば、客が捨てていった出金の覚書のメモや残高照会の用紙だったりして、意外と世の中、紙にあふれているものだなと実感する。
「ふぅ……それらしいものはないですね」
 軍手の指先の部分が黒く汚れている。マスクをしてきて正解だった。
 汗をかく季節ではなくなったが、それでも思わず額を拭いたくなる状況だ。
(失くしたものが残高照会の用紙っていうことはないですよね? 大事に持ち歩くものでもなさそうですし)
 そう思ってエナは、いくつか拾った紙屑をATM脇のゴミ箱に入れた。
(個人情報ですしね)
 ふと、智と反対側の床や台を調べている恭弥が視界に入った。
 出入り口付近をうろうろしているので、自動ドアが開いたり閉まったりする。
 エナは思わずクスリと笑みを漏らした。

「あれ?」
 郵便局内の奥の方を調べていた智は、ゴミ箱の横に落ちている紙に目を留めた。
 丁寧にではないが、軽く折られた紙が2つ。捨て損ねて落ちたのだろうか。手を伸ばして取ってみる。
 ひとつめ。
 赤い枠の中に数字が書かれた、郵便貯金の出金伝票だった。書き損じのようだ。
(違うなぁ)
 がっかりしてそれをゴミ箱に入れ、もうひとつを開いてみる。
 それはちょうど折り紙くらいの大きさの白い紙で、カラフルなペンで描いた模様で縁取ってあった。
 授業中に女子生徒がこっそり回している手紙のような、複雑な折り目がついている。多分これを再現すれば、ハートマークになるということは、智も女子生徒なので知っていた。

   やっほー♪
   料理ほめてくれてありがとう!
   明日もガンバってお弁当作っちゃうね!
   楽しみにしてて〜☆
               by.あゆみ

(あれれー!?)
 智は驚いて口から漏れそうになった声を、寸でのところで押しとどめる。
 これは……ラブレター?!
 これなら教師が内容を明かさなかったのも無理はない。
 それにしても、とんでもないものを見つけてしまった。どんなものなのか興味はあったけれど、見てしまったのは事故に近い。
「智さん、こちらどうですか?」
「きゃ!」
 背後からエナに声を掛けられ、今度はさすがに声が出た。
「ごめんなさい、驚かせてしまいましたね」
 申し訳なさそうなエナを見て、智は慌ててフォローする。
「ううん! 大丈夫。あのね、なんだかそれっぽいもの、見つかったみたいだよ」
 それを聞いて恭弥もこちらに来る。
「何だったんでしょうか?」
 悪気なく聞いてきたエナに、智は困った顔で返した。
「えっと、中は見てないからわからないんだけど、形とか色が同じだから、一応持って帰って先生に確認してもらおうよ」
(言えないよね、これは言えないよ)
 内心焦りながら誤魔化した智だったが、エナは嬉しそうに頷いた。
 3人は後片付けついでに軽く掃除もして、職員に挨拶をして郵便局を出る。


●校内・トイレ

「なんだか適当ですね」
 職員室の横にある男子トイレを捜索中の樹は、その掃除のずさんさにやや呆れていた。
 床を水で流しただけで、デッキブラシでこすったわけではないようだ。
 壁は濡れたままだったし、洗面台に至っては拭いた様子さえない。
 まぁそのおかげで洗面台に置き忘れられていたハンカチやヘアワックスなどが発見されたので、もしも紙切れが置き忘れてあったのならわかるはずだった。
 ゴミ箱の中身も捨てられておらず、中身は少ないものの、やはり衛生上気になるものがある。
 トイレを探すならと、エナが貸してくれた予備の軍手があって助かった。さすがに素手というのは勇気がいる。撃退士としての勇気より、ある意味重い。
 できればゴミ箱の中身は避けたいので、洗面台の上から確認する。
 ハンカチは多分教師のものではないだろうが、一応広げて調べてみた。何も出てこないので、再びたたんで戻しておく。
 ヘアワックスのケースを持ち上げるが、下には何も敷かれていない。
「さすがに気付きますよね、こんなところなら」
 そこでふと思い立って、個室の中を覗いてみた。
「恐らくここら辺りでしょうか」
 貯水タンクの上には替え用のトイレットペーパーが置いてある。そしてその上に、折りたたまれた紙が静かに乗っていた。
「これですか?」
 その紙を手にとってみると、少し角が濡れていた。トイレットペーパーを千切って、その水分を吸わせる。
 すると角がめくれ上がり、中にクレヨンのようなもので描かれたものが見えた。
 それは絵だった。幼稚園児が描いたようなもので、上の方に「ぱぱ」と拙い文字で書いてある。
「あらら……これは見なかったことにしましょう」
 樹はそれを十分に乾かしてからポケットに入れた。


●校内・体育館

 教師に確認すると、体育館には倉庫の鍵を掛けに行ったらしい。
 どこかのクラスが授業で使ったバレーボールがひとつ、置き忘れられていたとかで、それを倉庫にしまいたいと言われたのだ。
 歌音はそれを聞き、まずは体育館の倉庫を調べることにした。今なら部活中なので、倉庫は開放されている。
 埃っぽい倉庫の中は、臭いもすごかった。
 歌音は新しい軍手をつけた手で鼻と口を覆い、キビキビと倉庫内を歩き回った。バレーボールの入ったカゴは、今はバレー部が使用中なのでコートに出ている。床に紙切れらしきものは見当たらない。
 すると、背中の『捜索中』の文字を見て、一人の教師が声を掛けてきた。
「鴉乃宮くんじゃないか。どうしたんだ? 何を捜索中なんだ?」
 歌音はかいつまんで事情を話す。するとその体育教師は、「ああ」と思い当たることがあったようだ。
「その話、詳しく聞かせてください」
 歌音は正視する。体育教師は身体が大きいので、多分彼の背中から見た人には、歌音の姿は見えないかも知れない。
「先生なら、よく職員室で何かを見ながらニヤニヤしているよ。一度『エッチな本でも読んでるんですか?』ってからかったら、ものすごい剣幕で怒られたけどなぁ」
 あまり役に立ちそうにない情報だったが、歌音は取り敢えず礼を言って、体育館を出た。
 中庭に向かおうと、途中の男子更衣室を覗き、通気口などもチェックしたが、さすがにそこでは見つからなかった。


●校内・中庭

「ああ、歌音。そちらはどうだった?」
 中庭でばったり歌音に出会い、海は声を掛けた。ここで出会うということは、体育館で収穫がなかったということだとは思ったが。
「めぼしいものはありませんでした。情報としては、何かいつも眺めてニヤニヤするようなものだそうです」
「ニヤニヤ?」
 海は首をかしげる。
「見つけた方がいいのか、見つけない方がいいのか、わかりませんね」
 歌音もそう言って、2人は時計を見た。
 間もなく午後6時になる。
「他の誰かが見つけているかも知れないし、一度職員室に行こうか」


●さがしものはこれですか?

「あの、先生のポケットをもう一度確認させていただいてもいいですか?」
 海と歌音が職員室に入ると、教師が表情を輝かせて迎えた。2人は思わず申し訳ない気持ちになる。
 それで、海は最終確認として、教師にそう申し出たのだ。
 そこへ、樹が入ってくる。その後を、校外組の3人が続く。
「さっき、みんなに会ってね。外はもうだいぶ冷えてきましたよ」
 なるほど、智もマスクをはずしたエナも恭弥も、そういえば鼻が赤い。
「ああ、ごめんな。寒かっただろう? それで、俺のポケットか。よし、一緒に見てくれ」
 そう言って教師はジャケットの左右のポケット、胸ポケット、内ポケットを探る。出てきたのは携帯電話とポケットティッシュ、そして先に見せられたハンカチだけだった。
「ちょっと失礼します」
 海はハンカチを掴み、開いてみた。
 はらり……と紙のようなものが落ちてくる。
「おや」
 落ちたものを歌音が拾う。きつく折りたたんでいなかったので、紙は開いてしまっていた。

   じゃがいも 3コ
   たまねぎ 1コ
   ニンジン 1本
   牛肉 or 鶏肉(好きな方でいいよ)
   カレー(いつものね)

「……夕飯はカレーですか?」
「……」
 歌音の言葉に、教師は恥ずかしそうに俯いた。
「あれ? それじゃあこれが探しものですか?」
 樹は驚く。自分がさっき見つけたものは、それでは一体どうしたものか。
 しかし教師は慌てて首を振った。
「い、いや、違う。これはこれで必要なものだけど、俺が探して欲しかったのは違うものなんだ。見つからなかっただろうか?」
 それを受けて、樹はポケットから折りたたんだ紙を出して渡した。
 それを見て、智とエナが驚く。
「えっ? 校内で見つかりましたか?」
「じゃあこれは違うのかな?」
「外で見つかったんですか?」
 樹も驚く。
 教師は取り敢えず智からも紙を受け取り、6人の顔を見て、くるりと後ろを向いた。
「先生?」
 どうやら中身を確認しているらしい。そして再び生徒たちに向き直ると、とても嬉しそうに礼を言った。
「みんな、ありがとう。本当に助かった。これからも撃退士として、協力や役割分担を大事に頑張ってくれ」
(ニヤニヤしているぞ)
 歌音はなるほど、探しものが見つかったのだと確信する。
(帰りに買い物に寄るから2時間の時間制限だったのか……)
(あゆみちゃんって、どこのクラスの女の子なのかなぁ?)
(先生って意外と子煩悩なんですね)
 それぞれの想いを胸に、おずおずとエナが聞く。
「よかった……先生、何が書いてあるのか、教えていただけませんか……?」
「それは、見つけた奴と俺しか知らないってことで頼むよ」
 ともあれ、解決したようである。
(職員室でお茶をいただく、というわけにはいかないか)
 少し残念そうな歌音の前に、樹が大きな紙を差し出した。『捜索中』の文字。
「これ、はずしておきますね。捜索終了です」


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: −
重体: −
面白かった!:2人

God of Snipe・
影野 恭弥(ja0018)

卒業 男 インフィルトレイター
ドクタークロウ・
鴉乃宮 歌音(ja0427)

卒業 男 インフィルトレイター
異形滅する救いの手・
神林 智(ja0459)

大学部2年1組 女 ルインズブレイド
歴戦勇士・
龍崎海(ja0565)

大学部9年1組 男 アストラルヴァンガード
それでも学園を楽しむ・
エナ(ja3058)

卒業 女 ダアト
護楯・
龍仙 樹(jb0212)

卒業 男 ディバインナイト