●オープニングムービー
魔法少女エリュシオンたち八名は、変身して魔王ブラックブレイドの元に向かっていた。
猫耳猫尻尾の黄色のエリュシオン・ハニー、猫野宮子(
ja0024)は魔法少女チックな乙女な衣装だ。秘密の石を埋め込んだ猫耳ヘアピンで変身する。
クールな武闘派魔法少女、エリュシオン・ラベンダーの酒井瑞樹(
ja0375)は、胸のブローチに秘密の石を埋め込み、装飾の少ない直線的なデザインの薄紫の衣装を着ている。
180cmを超える細マッチョのお兄さん系魔法少女は、ラグナ・グラウシード(
ja3538)。オレンジのポピーは、頭に大きなリボンを装着していて、そこに秘密の石が埋め込まれている。
無口系クールな魔法少女、水色のティアドロップは、Spica=Virgia=Azlight(
ja8786)。剣と楯に相互変形する、水色の結晶形ビット「クリスタル」を手にしている。
首から下げたペンダントに秘密の石を埋め込んだ、緑のエリュシオン・ミント、桜花(
jb0392)は、その名の通り緑の髪をなびかせている。
青のエリュシオン・ブルーハワイは、イリス・レイバルド(
jb0442)。空色を基調にしたフリヒラ衣装に、首からは青い液状化した秘密の石を閉じ込めた水晶の十字架を下げている。
蒸姫ギア(
jb4049)は、ピンクのコスモスの付いた帽子をかぶり、同じ色のファンシーな衣装を纏っているエリュシオン・コスモス。
エリュシオン・ローズだが、自分では「リンゴ」と思っている赤のカエリー(
jb4315)は、ショートパンツから綺麗な足を出し、赤いブーツを履いている。
彼女(彼)ら八名が不思議な魔法の力で空を飛び、最後の敵であるブラックブレイドの元へ向かうシーンに、過去の戦いや癒しの回想ショットを交えたオープニングムービーが最終回の始まりとなった。
そして魔王ブラックブレイドの元へ到着。オープニングテーマソングはフェードアウトしていき、八名はビシッと決めポーズを取って、「魔法少女エリュシオン見参! 魔王ブラックブレイドに最後の裁きを!」という台詞とともに、本編が始まるのだった。
●前哨戦
「オレンジポピーは恋の予感★エリュシオン・ポピー! 見ッ参ッ!!」
やったら低い声でビシッと決めた(つもりの)ラグナは、ミニスカをヒラヒラさせながら、キュートなポーズで身の丈ほどもある大剣をかざす。かろうじてすね毛は描写されていないが、制作側の勘違いが見受けられる、ある少数のファン層への間違ったアプローチのようであった。
お兄さん系魔法少女はもう一人いて、ピンクのコスモス、ギアである。
「って、ブラックブレイド、いつもいつもギアの格好ガン見するなっ」
男のわりにはそう長身ではないが、魔法少女衣装に変身する度に、これまで戦ってきた魔法戦士たちにガン見されてきた経緯がある。何度か会ったブラックブレイドも同様だ。似合ってはいるのだが、その似合いぶりがまた目を引くのである。
「右手に愛を! 左手に勇気を! 繋ぐ両手が久遠の絆を紡ぎ出す! 魔法少女エリュシオン・ブルーハワイ! 君のハートを【承認】しちゃうぞ★」
巨大ハンマー型の判子を武器に、イリスもキュートなポーズを決める。長い美しい髪が、さらりと揺れる。
「スピカ・ティアドロップ……。悪いこと、する人は……お仕置き……」
無口系クール魔法少女、スピカは、クリスタルを手に戦闘態勢に入る。
「さ、お姉さんと遊ぼうか?」
桜花が挑発気味に言う。
「これが最後の戦いだね。魔法少女エリュシオン・ハニー、出陣にゃー♪」
宮子もナックルを手に構え、いつでも飛び出せる準備を整えている。
瑞樹はシンプルながらも愛らしい衣装に頬を染めながら、自分に言い聞かせる。
(武士の心得ひとつ、武士は常に強くあらねばならない)
だけど魔法少女だからフリヒラ衣装でもいいのだ! と強く念じる。
相手の力量をもっとよく知りたいと、聴覚を研ぎ澄ましてカエリーはリボルバーを手にしているが、この武器はフェイクである。接近戦に持ち込めれば、パイオンが使えるのだが……。
「よく来たな、魔法少女エリュシオン。雑魚どもはともかく、魔界の四天王すら倒したことは褒めてやろう。だが我はそうはいかんぞ!」
言うなり、ブラックブレイドは氷の風を吹きかけてきた。臨戦態勢だったスピカが、咄嗟にクリスタルを楯に変形させ、仲間たちを守る。それでも魔法少女たちは、頬や衣装に少しの切り傷を負った。
「ふん、やるな、さすがは敵のボスだ」
カエリーはわざと褒めてやる。そしてこう言った。
「あは、キミは空に虹をかけられる? 人間は、天気を自由に操れないからね。魔王サマならさぞかし自由自在に操れるのかな?」
ブラックブレイドは虫ケラでも見るようにカエリーに視線を落とし、言葉を返す。
「虹だと? この世にそんなものは必要ない。魔力を消耗するのも惜しいわ」
「ギアはピンクの虹ならかけられるぞ! 行け、ギアの銀河超特急達……コスモス・ギャラクシーエクスプレス!」
ギアは宇宙につながる魔法陣を空中に描いた。そこから蒸気の唸りも高らかに、機関車を召還して敵に突撃させる。その軌道はさながらピンク色の虹のようにファンタスティックだった。
しかし、その必殺技もブラックブレイドの前では片手で振り払われる。その瞬間を突いて、宮子が猫ロケットパンチを飛ばす。
「僕は接近戦も中距離戦も出来るにゃよ! マジカル♪猫パンチを食らうのにゃ!」
反対側の手で、巨大化して飛んできた宮子の武器を受け止める。なかなかの重みがあり、ブラックブレイドも弾くのに苦心したようだった。そこに合わせ技でラグナが大剣を持って飛び込む。
「喰らうがいいッ! この私の……ラブ★クラッシュアターックッ!」
大剣に愛のパワーをためれば、オレンジの光が剣に宿り、光弾になって一刀両断する技だ。
同様に瑞樹も刀にパワーを込めて、ラグナの反対側から一刀両断する。両側から行けば、ブラックブレイドとて防げまい。
「インパクト・バンカー!」
桜花も二人に当たらないように、ショットガンから大量の魔力を打って援護射撃する。
ラグナと瑞樹がブラックブレイドから離れた瞬間を狙って、イリスがブラックブレイドの足元に魔法陣を呼び出す。
「ブルーヴォルケーノ!」
【承認】と描かれた判子を叩きつけると、魔王の足元から大爆発が起こった。
「どうだ!?」
●決戦
「それが全力か? エリュシオンどもよ」
ブルーヴォルケーノの爆煙が収まりつつある時、背後から声が聞こえた。
「ブラックブレイド?!」
連携して立て続けに技を放ち、退路を断ったつもりだったのに、ブラックブレイドはかすり傷一つ負っていなかった。
「まさか……そんな……」
スピカが光の宿らない目でうつろにブラックブレイドを見上げる。
「技が、効かない?」
桜花が、それではと駆け出し、ブラックブレイドに蹴りをかます。あんまり魔法少女らしくないと自覚しながらも、魔法攻撃が効かないのでは、物理攻撃に賭けるしかない。
同様に考えたカエリーも飛び込み、パイオンでブラックブレイドの首を狙う。
(ヒトのカタチだろうから、首トカ弱そう?)
しかしなかなかワイヤーを掛けられない。
宮子はもう一度猫ロケットパンチを飛ばす。今度はもっと大量の魔力を込めて。しかしそれもかわされてしまう。
瑞樹は無闇に攻撃しても仕方がないかも知れないと冷静に判断し、様子を見守る。ブラックブレイドは、最初の氷の風以来、まだまったく攻撃してきていない。もしかして、こちらの攻撃を避けるのに魔力を割いているのではないだろうか?
しかしイリスは勇み足で技を仕掛けようとする。今爆発を起こされては、仲間が吹き飛んでしまう。ギアはイリスの肩を叩き、軽く首を振った。
「皆の力を合わせれば……希望の虹が、暗黒を打ち払うはず!」
ラグナの言葉に、魔法少女たちはハッとし、一箇所に集まる。
イリスが魔法陣に【承認】する事で全魔力を圧縮した超魔力砲を放つ、「ブルーライトイレーザー」を発動し、皆で武器を掴んだ。
カエリーはフェイクのリボルバーを捨て、パイオンを仕舞い、ウィリアム・テルよろしく弓を構える。
「準備、OK……。ミラージュ……ウェイヴ……!」
スピカも準備万端だ。ラグナも刀を構え、魔力を思い切り貯めこむ。
桜花は思わず周囲を見渡し、改めて「あ、今思ったらみんなかわいいな」などと考えた。
宮子も猫ロケットパンチに魔力を込める。ギアはコスモスの付いた帽子に手を当て、全員で必殺技名を叫ぶ。
「星石の力を今一つに、これがギア達の絆の力だ……エリュシオン・レインボー・フィナーレ!」
「……レ、レインボー・フィナーレ……」
唯一、気恥ずかしくて技名を言うタイミングがずれた瑞樹。
魔法少女たちの武器から八色の光がビームとなり、まっすぐにブラックブレイドへと飛んで行く。その正義の光は、確かにブラックブレイドを貫いた……はずだった。
しかし、何か強力な鏡のような魔力に跳ね返され、魔法少女たちは全員吹き飛ばされてしまう。変身も解けてしまうほど、強力な魔力だった。
「そんな……弾かれた……!?」
「にゃ、失敗にゃ!? 僕達の心がバラバラだったからにゃ……?」
スピカと宮子の言葉に、思わず自分の抱いた邪な気持ちのせいかと感じる桜花。瑞樹は自分が恥ずかしがってしまったせいだと思ってしまう。
「あれっ? みんなの心がバラバラ!? これじゃあ力が、絆が集まらないよ!?」
イリスも多少勇み足ではあったが、確実に【承認】できたはずだった。
(善悪を知る、禁断の果実かぁ──黄金のリンゴって美味しいのかな?)
カエリーもふと、そんなことが一瞬頭をかすめた気がする。
ギアも、何度着てもガン見に耐えられない衣装を気にしすぎただろうかと反省する。
魔法少女であるせいで、かわい子ぶりすぎたかな、とラグナも自重。
スピカはクリスタルの魔力のチャージが追いつかなかったのかも知れない。
「変身が解けるほどの魔力だけど、あれは弾き返されただけで、元は僕たちのパワーにゃ!」
そうだ、宮子の言葉に一同気持ちを新たにする。
ブラックブレイドはもしかすると、今は魔力を反射させる程度にしか自分の魔力が残っていないのかも知れない。それならここが勝負どころだ。一気に片を付けたいとカエリーは考える。
「よし、もう一度変身だ!」
瑞樹は言い、今度こそと思う。
(武士たる者、人々を護るのが務め)
ブローチにパワーを込めて変身。
「うふん、変わるわよ★」
頭のおっきなリボンに埋め込まれた秘密の石にパワーを込めて、ラグナももう一度リボンフリフリの乙女チックな衣装に変身する。
胸ポケットから、小さな水色の折り畳み式手鏡で変身するスピカ。
秘密の石を埋め込んだペンダントに軽く口付けをして、パワーを込めて変身する桜花も、邪心を振り払う。みんながかわいいのは当然だ。かわいいは正義なのだから!
「まだ、まだだよ……魔法少女エリュシオンはあきらめないんだッ!」
首から下げた青い水晶の十字架を握ってパワーを込め、イリスも変身。
古来よりコスモスがよく似合うとされている帽子を取り出し、ギアはその意匠に触れる事で光に包まれて変身する。コスモスは人界の言葉で小宇宙を表す言葉だと聞いたと、間違った意識を持ってはいるが、それはそれ。魔法少女なら小宇宙も生み出せるかも知れない。
「今度こそはしっかり心を合わせて……!」
宮子は武器を構える。そして全員で大きな声で叫ぶ。誰も恥ずかしがることなく。誰も邪心を抱くことなく。誰も先走ることなく。
「「「「「「「「エリュシオン・レインボー・フィナーレ!」」」」」」」」
先程よりもより大きなボリュームで、そして最高速で、光の矢はブラックブレイド目がけて飛んで行く。
「おのれっ、見破られたかっ!」
瞬間移動さえできなくなっていた魔王ブラックブレイドを、八色の虹の矢が確かに貫いた。今度こそは本当にブラックブレイドの胸に刺さり、ブラックブレイドは断末魔の叫びをあげて黒い灰になった。
「あれが集まって、さらに巨大化、なんてことはないだろうな?」
ギアが思わぬことを言う。
「ならば浄化しちゃいましょう」
イリスは、敵の体に直接【承認】する事で強引に浄化する力技「ブルーインパクト」をその黒い灰に放った。ギアの懸念は蒸発してかき消される。
「勝った……んだよね?」
桜花は再確認する。
「勝ったようだな」
瑞樹がようやく刀を収める。
「悪いこと、する人は……お仕置き……できた」
スピカも呟いてクリスタルを解除する。
「敢えて言うなら、その魔力、欲しかったよね」
カエリーはもう一度、黄金のリンゴのことを考えたが、口にはしなかった。
「正義の魔法少女の勝利なのん★」
デカい男の魔法少女、ラグナが、きゃるんっ♪とウインクした。テレビの前の小さいお子様や、大きいお友だちにはどう映っただろうか?
「じゃ、いつものお約束の」
空色の衣装のイリスが導いて、全員で手をつないでハート型を作る。八色がカラフルに組み合わさった輪ができる。
「魔法少女エリュシオン! 勝利のハートアタック!」
●エンディングムービー
最終回までのバトルシーンを中心に、軽快なエンディングテーマソングが流れ出す。歌っているのは、魔法少女エリュシオン。
低音の男声も交じる歌の中、ラベンダーの瑞樹、ミントの桜花、ハニーの宮子、コスモスのギア、ローズ(本人自覚はリンゴ)のカエリー、ブルーハワイのイリス、ポピーのラグナ、ティアドロップのスピカがそれぞれ大写しになり、最後はラストシーンの「勝利のハートアタック」がポラロイド風に切り取られてエンドとなった。
●爽快な目覚め
「授業終わりましたよ」
少年Tが少女Yを起こしてやると、彼女は魔法少女エリュシオンの下敷きによだれを垂らして、にへらぁ、とだらしなく微笑んだ。
「ハンカチで取り敢えず口拭いてください」
自分のハンカチは決して差し出さない少年Tだったが、相当いい夢を見られたのだろうなと思った。
さぁこれから放課後、一挙手一投足、一言一句もらさずに、夢の内容を聞かされるのだろうなと思い、週末の本物のアニメの最終回を前に、一足お先にアナザーストーリーを楽しむ気持ちでもある少年Tだった。