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マスター:佐嶋 ちよみ
シナリオ形態:イベント
難易度:普通
形態:
参加人数:50人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2013/08/14


みんなの思い出



オープニング


 とある山間にあるド田舎の村。
 訛りに訛って、『モノノケ村』と呼ばれている。
 昨年は、五年に一度の村祭りが開かれ、それはそれは盛況に終えたらしい。
 では、今年は?


●その1
「モノノケ村、ですか」
「村の名前が訛って、めぐりめぐってそうなったらしいです」
 御影光(jz0024)の説明を、どこかで聞いたな、と思いながら斡旋所の男子生徒は頷いた。
「村の片隅に、崩れかけた武道場があるんですよ。お世話になった古式剣術道場の師範の伝手で、合宿に使用していいって」
「合宿」
「はい! 道場の修復作業が交換条件ですが、そのまま宿泊してもいいということですので、せっかくなので学園の皆さんと利用できたらなって」
 山間にあり、避暑地としても良い場所なのだそうだ。
「お祭りとかは、無いらしいんですけど…… ええと、この日程だと麓の海で花火大会があって、とても綺麗らしいです」
 家庭用の物を持ち寄ってもいいだろうし。
 外でバーベキューなんかも楽しいだろうし。
 自給自足の楽しさと鍛錬を兼ね備えた企画だ。
「ちなみに、どれくらいの人数が利用できるんですか?」
「2〜30人は余裕って聞きました」
「……。そこの、修復作業」
「撃退士の力をもってすれば、半日もかかりませんよね!!」
「その後に」
「互いの腕を磨きあう鍛錬です!」
「撃退士同士のぶつかり合いの結果」
「壊れたら、また直せば問題ありません」
「なるほど」
 自給自足に自業自得の文字を書き足して、男子生徒は依頼を貼り出した。



●その2
「モノノケ村ァ……?」
『頼むよ、野崎ぃ〜〜 あんたしかいないの!』
「あたし、ソッチからは足洗ったって言ったよねぇ」
 旧友からの電話に対し、野崎 緋華(jz0054)は迷惑そうな口ぶりである。
『だから、頼んでるの。私ら、締切に追われてるんだものー』
「……だよね。で、モノノケがどしたの?」
 毎年、お盆の時期に行われる神を讃える行事から、緋華が足を洗って久しい。
 しかし友は未だにその呪縛から解かれることはなく崇め奉る偶像の衣装制作に追われているようである。
 昔取った杵柄、緋華とて心得はある。
 友らの行事の手伝いは泥沼へダイブするようなもので、それと別口であるのなら……。
 吐息を一つ、気を取り直して耳を傾けることにした。

「それで、肝試しですか」
「んー、そんなカンジ。変なスポット扱いされて、荒らす若者が増えてるらしいのね。そこをこう、ガツンと何とかしてほしいって依頼」
 緋華の友人のネット上の友人の地元なのだそうだ。ずいぶん遠い繋がりだ。
 どこかで聞いた地域名だな、と思いながら斡旋所の男子生徒は依頼書に視線を落とした。
「場所は、こう、地図にある通り。海辺の町から、神社の裏道を抜けて山に続くライン」
「あー。よくある、よくある」
「特殊メイクから古典的なものまで、衣装制作が必要なものは費用は出すから自前でお願いってことなのね」
「衣装」
「もういっそ、怖いものからかけ離れて趣味に走ってもいいと思うのよ。その辺りは全面的に任せるし、技術面はサポートするし」
「実は面倒なんでしょう?」
「衣装作るのは好きよ?」
「そこだけキリッとされても」
 まぁ確かに、心霊体験冷やかしの一般人の排除など、面倒な案件だろう。
 怖がらせるだけ噂に尾ひれが付きかねないし。
「でさ。海辺の町と山の方とで、合同で報酬が出るっていうから。――ああ、制作費用も含まれるんだけど。
サクラで、肝試し参加グループを用意する余裕もあると思うんだ。これでどうだ」
「叩き売りじゃないんですから」
 今がお得、コスプレ・肝試し・体験ツアー、と太文字で書いて、男子生徒は依頼を貼り出した。



●その3
「第5回美脚大会の開催ですか?」
「え、なにその開口一番」
「あるいは第2回筧節杯ビーチバレー大会ですか?」
「そういう選択肢しかないんですか」
 せっかく海のネタを持ってきたのに!
 筧 鷹政(jz0077)は唇を尖らせながらチラシを広げる。
「去年さ、依頼で持ってきたじゃない。『モノノケ村の夏祭り』」
「そ れ だ !!」
「どれ……?」
 ガタリと立ち上がる男子生徒に対し、鷹政が若干、引く。
「いえね、その地名に関する依頼が今日だけで、ほら」
「……絶賛、村興しだね」
 昨年、人手不足で祭りが開けないからと、学園へ依頼が持ち込まれた村である。
「道場の修復に…… わー、肝試しの件はホントに困りものだな」
「先輩は、何を持ち込んだんですか?」
「俺は、今回はモノノケ関係ないんだよ。その下の町の、そうそう。肝試しスタート地点がある、モノノフビーチ」
「すみません、10分ほど休憩ください」

 男子生徒の頭痛が収まるのを見計らい、鷹政は説明を始める。
「ここら辺一帯が寂れてるんだよね。それで、今年は海の家のお手伝い」
「へぇえええ、楽しそうですね」
「ライフセーバーとか、その辺りも含めてお願いしたいんだ。休憩の合間に泳いでくれていいしさ」
「そして先輩は美脚を眺めるわけですか」
「うん、まずその偏見を払拭するにはどうしたらいいのかな」
「手遅れですね」
「…………」
 手遅れ筧節の海の家、とチラシ一杯に書いて、男子生徒は依頼を貼り出した。




リプレイ本文

●モノノケ村の廃道場
 山間の村へは、昼前には到着した。
 生い茂る木々が良い具合に日差しを遮り、澄んだ空気を川が運ぶ。
 昔ながらの造りの家屋が点在する、のどかな村であった。

「古いが…… 良い道場だな」
「はい。昔の写真を見せて頂きましたが、とても立派でした」
 かつての活気の面影を見つけながら呟く水無月 神奈(ja0914)の隣に、ヒョイと御影が顔を出す。
「ふむ。これから世話になるわけだし、出来る以上の修繕をするとしようか」
(ここ位は、元の使える状態に……、な)
「対戦も、楽しみにしているぞ。光」
「え!? 私ですか!?」
 釘と金槌を手にした神奈が、明るい表情を御影へ向ける。
 天魔を相手取る時とは違う、心地よい緊張感を感じ取り、御影もまた姿勢を正した。

「うわぁ……。こりゃ直しがいがありゃしそうなもんで」
 点喰 縁(ja7176)の瞳は輝いていた。
 撃退士とは別の顔、『修繕士』の腕が鳴るというもの。
 仕事道具も自前である。
「よすがーん、何からすればいい?」
 ノープランな質問を投じるのは月居 愁也(ja6837)、後ろから彼の従兄である夜来野 遥久(ja6843)が必要な板木を運びこむ。
「ああ、遥あにさん。その板を、こいつの長さに揃えて調整してもらえやすか。愁あにさんは、そこにヤスリで」
「あいあいさー」
「やはり、手馴れていると違いますね」
 遥久は、無駄のない縁の動きを眺めて感心する。顔つきさえ変わっているように思う。
 その後ろで、悲鳴。愁也だ。
「愁也。ペンキという単語は、いつ出てきた?」
「わざとじゃないです、事故です」
 ペンキの入ったバケツに足を突っ込んだ愁也が身動きを取れないでいる間に、溜息ひとつ吐いて遥久が古新聞と雑巾を探しに歩いていった。
「……で、俺、どうなんの」
「遥あにさんが戻るまで、ステータス回復は諦めてくだせぇ」
「ですよねー」
 左足をバケツに固定したまま麻痺判定入りました。
「ああ、もし手が足りないなら俺にも手伝わせ……」
 会話を聞きつけた龍崎海(ja0565)が加わり、ちらりと愁也を見、それから縁へ修繕の手順を聞く。
 アストラルヴァンガードでも、バッドステータス・物理は治せない。


「うむ、此れだけあれば足りるで御座るかな」
「屋内の作業ですけど、クーラーがありませんしね……」
 エルリック・リバーフィルド(ja0112)が、既に修繕が終わっている縁側へクーラーボックスを置く。
 神月 熾弦(ja0358)、ファティナ・V・アイゼンブルク(ja0454)がそれに続く。
「手の空いた方から、休憩どうぞー! 冷たい物はこちらですよ」
 中には、飲み物の他にも凍らせたおしぼりなど、熱中症対策アイテム。
「ファティナ先輩、ありがとうございます」
 パタパタと、御影が駆けつける。
「力仕事は向いてませんので、こういった形でフォローできればと」
「すごく、助かります」
 一礼してから、御影はファティナの両隣の存在に気づいて姿勢を正す。
「御影 光と申します。ファティナ先輩には、いつもお世話になってます!」
「神月 熾弦です。ファティナさんは、御影さんと会うのをすごく楽しみにしてらっしゃったんですよ。ご一緒させてくださいね」
「お見掛けしたことはあれど、お会いするのは初めてでござるな。拙者はエルリック・リバーフィルド。宜しくお願いするで御座る〜」
 ぺこりぺこりと、お辞儀のウェーブが起こる、そこへ、
「ひゃう!!?」
 ファティナが冷えたおしぼりで不意打ちを掛けた。
「あら。色っぽい声を出されますね、光さん♪」
「……ファティナさん?」
 にこり、熾弦が笑顔で威圧を掛ける。
「スキンシップですよ、スキンシップ♪」
 ここまでは、スキンシップ。
 今は、ここまで。



●モノノフビーチは大賑わい
 時を同じくして、山のふもと・モノノフビーチ。
 潮風かおる青空に白い砂浜が広がる。
「夏だ、海だっ、海水浴だぁ〜っ♪」
 これも依頼だった、と慌てて気を引き締める栗原 ひなこ(ja3001)だが、夏の海という解放感は、やっぱり別格だ。
「お仕事もしっかりしておかなきゃね。ビーチの平和、守ったら遊ぶぞ〜!!」
 海の家はもちろん、ライフセーバーも居るという事前アピールが功を奏し、今までにない客入りを見せていた。
 リゾートホテルが立ち並ぶ土地ではないので、自然と家族連れが目立つ。
(柄じゃあない気がするんだけど、まぁ……いいか)
 戦場のようなスリルはないけれど、たまにはこんな『任務』も悪くない――そう考える常木 黎(ja0718)の表情は、普段より心持ち明るい。
 学生時代の延長で、水泳や潜水は得意であり趣味だけれど。
 慣れた競泳用の水着姿で、ライフセーバーの任務はしっかりと。


 灼熱の太陽の下、白黒の大きな影が、のそり。
 その両手には、かわいらしいプラスチックのバケツやら網やら何やら。
 ファンシーな姿に、悪ふざけをしていた子供たちの視線が集まる。
「――海での楽しみは、泳ぐ事のみに非ず」
 白黒なるパンダが、ビシリを網でもって岩場を指し示す。
「諸君ら…… 自由研究は、終わったかね?」
 子供たちが、一斉に震え上がる。
「道具は、ここに。材料は、この海だ。この海に住まう生き物たちの観察こそ至高。研究対象としてこれ以上の物はない」
 パンダ――否、下妻笹緒(ja0544)の熱弁に、子供たちも聞き入り始める。
「行くぞ! レッツ収穫タイムだ、諸君。何が獲れるかなー!?」
「おさかなー!」
「かにー!」
「ひとでー!!」
「他にもいるかもしれん、他にも名前があるかもしれん、毒を持っているやもしれないぞ!!」
 笹緒の言葉に、ちびっこテンションだだ上がり。
 ハーメルンの笛吹きもびっくり状態で、パンダの着ぐるみへ着いてゆく。
「あ、大丈夫です、久遠ヶ原の撃退士です、安全です」
 すれ違いに筧が保護者へ簡単に説明をしてゆく。
「パンダさんなら安心だな、……うん」
 磯の水棲動物ウォッチングへ向かった笹緒の背を、筧は見送った。


 幾つか建ち並ぶ海の家は、何処も盛況だった。
 泳ぎ疲れた家族連れが小休憩を取りに来る。
「……何に…… 致します…… か……?」
 ゆっくりゆっくりのペースでオーダーを取るのは華成 希沙良(ja7204)。
 ワンテンポどころではなく間を外しての接客に、熱気でカッカしている酔っ払いも醒めるというもの。
 笑いながらビールの追加注文をしていく。飲み過ぎ防止に一役買っているようだ。
「料理は得意だから、任せておいて」
 ソフィア・ヴァレッティ(ja1133)が、慣れた手つきで定番メニューを仕上げていく。
「私もお手伝いしますから、接客は酒井さんにお願いしますね♪」
「あ、あぁ……。それは構わないんだが、その、村上さん」
「はい、なんでしょう」
 ほんのり焼きすぎてしまった焼き鳥をこっそり口へ運ぶ村上 友里恵(ja7260)へ、友人である酒井・瑞樹(ja0375)が訊ねる。
「これが…… 本当に正装なのか?」
 白いビキニの上にエプロン。
 水着姿そのものでいるよりも露出は少ないはずなのに、恥ずかしいのは何故だろう??
「とっても、お似合いですよ。衛生面から考えても全く問題ないのです」
「う、うむ、そうか。そうだな」
 友人が言うのだから、間違いはないはず。
 得心すると、瑞樹は各テーブルへと向かってゆく。
 トロピカル水着にパレオを装着した友里恵は、にこにこと手を振って見送った。ちなみに彼女はエプロンをしていない。
 更に言えば、希沙良も水着にパーカーである。
「……俺も、運ぶよ。前、メイド服で給仕した事あるから」
 そこへ、さらりと爆弾発言で加わったのは七ツ狩 ヨル(jb2630)だった。
「俺も……エプロン、するべきなのかな」
 学園指定水着にパーカーを羽織っているヨルは、人間界の風習に溶け込むべきか小首をかしげた。
「自由でいいと思うよ。あたしも自由にさせてもらってる。これ、接客の皆で分けて」
 片目を瞑り、ソフィアが有りもの材料で焼き上げた即席のピザをヨルへ。
「美味しかったら、メニューに追加しようよ」
 せっかくの海だもの、+α要素も自分たちで盛り込んで、楽しんでいかなくちゃ!


 ヒリュウを召喚し、沖合の様子を確認しながら浜辺を歩くのは竜見彩華(jb4626)だ。
「悲しい事故なんか起きないようにしないと。見回り頑張るぞ!」
「子供や年輩者の多い辺りが、要注意か」
 ライフセーバー用の目立つ色合いの水着を着用している神凪 宗(ja0435)が彩華の隣を歩き、目視できる範囲に気を配る。
 応急手当てを始めとする一般的なマニュアルは、事前に頭に叩き込んでいる。
「っあーー!! あの子、流されちゃってる!」
 小さな浮き輪で、波に引かれてゆく影。ここから叫んでも、恐らく声は届かない。
「自分が向かうから、ヒリュウで浮き輪を支えてもらうことは出来るか。あれ以上、流されないように」
 焦る彩華を落ち着かせるように、宗は努めて冷静な声で。
「わ、わかりました。あの子のこと、お願いします」
 小さく頷き、宗が海面を駆けてゆく。
 幼子を浮き輪ごと抱きかかえ、戻ってくるまで、彩華は息を詰めて見守っていた。
「よかったぁあ。怖がったねぇ、もう大丈夫だよー」
 柔らかな背をさすってやると、程なく少女の親が筧に誘導され駆けつけてきた。
 大きな波で手を離してしまい、必死に探していたとのこと。
 年若い両親は二人にしきりに頭を下げ、それから親子三人で手を繋いで去っていった。
「……皆にお願いして、よかったな」
 宗と彩華を労いながら、筧が振り向く。
「竜見さんだね。改めてよろしく、卒業生の筧です。気づいてくれてありがとう」
「えっと、鰹節がお好きな方…… でしたっけ?」
「……いつの間に、そうなったんだろう」
 依頼斡旋だなんだで身を削るあまり、そのように形容されることはある、が。
「えっ、違いました!? その、初めてお会いする有名人なので、その」
「俺、有名人なの!?」
 そっちに驚きだ。宗が、曖昧に頷く。
「よかったら飲み物どうぞ、ええと、まだ出したばっかなのでちゃんとしゃっこい…… じゃなくて、冷たいと思います!」
「わ、ありがと」
 受け取ったスポーツドリンクの冷たさに、筧ははにかんだ。
「ビーチ全域を見てるから、また何かあったら連絡ください」
「筧殿、時間に空きが出来たら一緒に昼食はいかがですか」
 宗は、筧に一つ、聞いておきたいことがあった。
「オッケー、カレーくらいならおごるよ」
 そんな考えなど全く知らず、筧は請け合う。昼食時、古傷を抉られ枯れたはずの涙を落とすこととなる。


「モノノケの季節やね。楽しみやわぁ」
 去年、モノノケ祭りがあった村は、あの山あたりだろうか――。
 宇田川 千鶴(ja1613)は潮風を受ける山並みを眺める。
「今年もこの季節ですね〜」
 祭りが開かれないかわりに、今年は麓のビーチでイベント。
 昨年と変わることなく千鶴の隣に居る石田 神楽(ja4485)が、柔らかく笑う。
 今年は二人、ライフセーバーとして。
「…………」
 黒地に白のラインが入った、トランクスタイプの水着に長いパーカーを羽織った神楽を、千鶴は爪先から頭の先まで眺めて。
「石田 神楽と、夏の海……。いや、なんでもあらへん。神楽さん、熱中症対策はしとるん?」
 キャップを目深に被り、笑いをこらえる。
「ライフセーバーが熱中症で溶けるとか、笑いのネタやからね?」
「ネタといえば」
 ふと、神楽は遠く遠くに新鮮な『ネタ』を発見する。
 白い丈長パーカーを翻し、千鶴も指す方向を振り向いた。
「あれはまた、とびっきりのフラグやね」
「ライフセーバーとして、助けに行かないといけませんね」
 頷き合いながら、しかしゆっくりとした足取りで、二人はネタへと向かっていった。


 海の家の当番は後からということで、一足先にビーチ満喫のグループはこちら。
「怪我しても、俺が治してやるから全力で楽しめ」
 不穏な言葉を笑顔で吐くのは強羅 龍仁(ja8161)。
「強羅さんも言うてくれてるし、全力勝負や!」
 小野友真(ja6901)がスキルのセッティングを確認する傍らで、加倉 一臣(ja5823)が周囲を見渡す。
 開催されるは、スキルOK☆男だらけのビーチバレー〜ポロリは命取り〜。
 タッグマッチしようぜ、と盛り上がったはいいが。
「筧さん、どこだろ」
「おー? 父さーん! こっちなんだぞー!!」
「索敵能力が自然の嗅覚に負けた……だと!?」
 冷えたドリンクを片手に巡回していた筧を彪姫 千代(jb0742)が発見し、一臣はくずおれた。
「おーう。どしたどした、楽しそうなメンツだね」
「久遠ヶ原は空前のカレーブーム、カレーハウス『鰹の家』は午後からオープンでっす」
「なるほど」
 キャピッとポーズをとる一臣へ、筧は神妙な面持ちで頷いた。
「鷹政と一臣には、鰹節特盛カレーを用意してやるからな」
「……なるほど」
 龍仁が作るのであれば、味に間違いはないのだろう。トッピングに間違いを感じないでもないが。
 筧を父と呼び慕う千代が自陣へ呼び込み、血も涙もないビーチバレー開幕!
「この編成、スターショット撃ち込まれたらおしまいじゃねぇの?」
「闘気解放してる人が! 何を言うてんですか!!」
 腰を低く落とし、相手のサーブに備える筧へ友真が叫ぶ。
 精密狙撃で絶妙な位置を狙うも、千代がアウルで作り上げた純白の鯱を呼び出しレシーブを上げる。
「ナイス、千代!!」
 跳躍から身体をしならせ、筧が鬼神一閃のスパイクを放つ。
「ふっ、ならばこちらは緑火眼――……」
 神経を研ぎ澄ませた一臣が素早く喰らいつく、高速回転するビーチボールが彼の腕の上で火を噴いた。
「はははっ 受け止めるならば防御力も大事だよな!!」
「おとなげねぇええええ」
 ボールごと後ろへ押されながら、一臣の脚は膝近くまで砂に埋まる。
「一臣さんの死は! 無駄には! せえへん!!」
 後ろへ倒れ込む一臣の腕からヨロヨロとボールが上がる、距離を詰めた友真がクイックで殺撃を落とした。
「行くんだぞ『舞虎』!!」
 筧が片腕で何とか凌いだところへ、今度は千代が仕掛ける。
 影とアウルから生み出された虎が、陽気な千代へ応じるようにビーチボールを捕え――

 敵陣コートへ突っ込んだ。

「まさかの虎サイズビーチボール」
「「いやいやいやいやいや」」
「――お前ら、少し頭を冷やせ!」
 青い空から、煌めく隕石が降り注いだ。
 波が悲鳴を攫っていった。

「さて、鷹政…… 弁解があるなら、聞くが」
「子供のヤンチャは親の責任ですね、知ってます。いやだけどだな、強羅さん」
 この流れは。コメットからの全員回復が終わってからの、これは。
「もう一度、頭を冷やしておくか」
 筧が言い終える前に審判の鎖を発動、そのまま力任せに海へ還す(比喩)。
「兄貴、一足先に実家(海)へ帰るのか……」
 一臣が、遠く見送る。
 その背後に、音なく忍び寄るは白と黒のライフセーバー二人。
「兄弟は仲よくせな。鰹節的な意味で」
 人命救助用のロープによる影縛り(物理)が一臣に仕掛けられる。
「さて、里帰りのお時間です」
 一臣の背後に立つライフセーバー(狙撃手)は、にこにことしている。
 至近距離からの三連弾による、放流(物理)完了。
「乾して(回復魔法)、再びたっぷり削られる、か……」
 龍仁は腕組みをして、海へ還る二人の行く末を見守った。


(派手な水音がしたと思ったら)
 異変を察知した黎は、救助対象を見つけて判断を迷った。
 筧である。
 九割、冗談にしか見えないが、どうやら残る一割がバッドステータスによる麻痺らしい。
 冗談じゃない。ふざけ半分でも死に至りかねない。何をやっているんだか。
 筧の背後に回り、脇から腕を差し込んで引き揚げにかかる。
 麻痺が解けたのか、筧の体に僅か、力が入るのを感じる。
(大丈夫、そのまま大人しくしてて)
 解るように合図して、力強く水を蹴って海面へと向かう。

「Hey、生きてる?」
 浜まで辿りついたところで、黎が声を掛ける。
 一臣は無事に友真によって救助されていた。
「……鷹政さん?」
 異変に、黎は未だ気づいていない。
「鷹政。痛いのと痛くないの、どっちのヒールが良い?」
 龍仁がしゃがみ込む、筧が首を振る、口元を押さえている手の隙間からパタタと血が滴る。
「常木さんの、当たっ……」
 一拍おいて、黎は察する。
 なるほど。まったく意識していなかった。後ろから密着して救助するということは――
 それにしたって、なんという解りやすい反応か。
「――で、足フェチだって?」
「!?」
 艶やかに笑い、黎はすらりとした美脚を差し出した。
 容赦ない追撃弾。
 龍仁が、何処から取り出したのかピンヒールとスニーカーのどちらを使用するか吟味を始めた。
「助けてくれてありがとうね、常木さん」
「『仕事』だからね。そっちはもう、大丈夫……なの?」
 軽い弄り程度に済ませようとしていた黎だが、気の毒さを隠せなくなってきた。
 慣れてる、とスニーカーの足跡を背に焼き付けて言われても。


「あ、そこのお姉さん! 休憩していかない? ――急にごめんね、あんまりにも綺麗だったから……」
 若干、方向性の偏った呼び込みをしていた二階堂 光(ja3257)の笑顔が、凍てつく。
「この暑い中、大変ですね〜」
 銀髪ビキニ美人の隣に、黒い影。相手を間違えた。
「モノノフビーチに地中海の風☆ 流行の水着エプロンで癒し系男子がお出迎え、ですよー」
「お似合いやねぇ。かき氷二つ、お願いできる?」
 ちょっとレトロなかき氷機を操る紫ノ宮莉音(ja6473)へ、千鶴がオーダー。
「美人さん、お一人さん?」
「あいにく、予定が入っとるんよ」
 嗚呼、去年の今頃も、同じような会話をしたな。
「知ってるー♪」
 けれど、莉音の返事は去年とは違っていて。
 穏やかな笑みを浮かべ、千鶴は莉音の手から、かき氷二人分を受け取った。その隣には、神楽がいる。
「グラッツェー♪」
 明るく手を振り、莉音は二人を見送る。
 変わる関係、変わらない関係、深まる関係。時が流れれば、変化は生まれる。
(ヨルくんや千代くんも、通りかかるかな?)
 あの時には知らなかった友達も、随分と増えた。
「あ! サファリのお姉さん、チャオ♪」
「や、莉音ちゃん。涼しそうなの作ってるね」
 休憩に入った黎が、呼びかけに足を止める。
「……あー。鷹政さん、もう来た?」
「まだですよー。何かあったんですか?」
「ちょっと…… やりすぎたかな、と」
(鷹政さん、歩くコント職人だから、なー……)
 行く先々で丁寧にトラップに引っかかる筧だが、悪気のない人には気を遣わせてしまうのかもしれない。
 気まずい表情をしている黎を見て、どう言葉を掛けたものやら莉音はしばし、考えた。

 黎が去り、程なくして白いキャップを被った筧が姿を見せる。最初の集合時に、そんなもの被ってなかったように思う、が。
「暑さ対策、ね……。鼻血とか気絶とか麻痺とか発生するからさ」
 黎は言葉を濁していたが、これか。
「鷹政くん、暑い中お疲れ様。かき氷どうかな? もちろん、タダでとは言わないよ☆」
 光はキラリと眩しい笑顔を向ける。
「容赦ないな!? じゃ、二階堂君のオススメを頼もうかな」
「お任せあれ」
 光がウィンクを投げる、受け取る莉音が即興でステップを踏んで歌いだす。

 ――クルクルガリガリ最初は? 氷! クラッシュ!

 光は歌に合わせ、シロップのボトルをジャグリング。
 
 ――サラサラザクザクお次は? シロップ! スプラッシュ!

「今日はイチゴで決まりッ!」
 高い位置からここで仕上げの追いシロップ!
 流れる動作でグラスを筧へ――渡す瞬間に手元が滑った。
「うわ! ごめん!! ……熱中症にはならなさそうだ、ね……?」
 頭からひんやりかき氷を受け止めた筧へ、光は精いっぱいのフォローを。
「鷹政さん、歩くコント職人だから……」
 そこで莉音が、仕上げの追い削り。


「いらっしゃいませー! 美味しい焼きそばは如何ですかー?」
 水着姿で、元気いっぱいに屋台の売り子をするのは西行 龍希(jb6720)。
「西行、焼きそば2つ。6番テーブルに」
「はーい!」
 鉄板で焼きそばを作る不破 玲二(ja0344)が、彼女の背へ声を掛ける。
 アロハシャツに短パン姿、暑さにだらけきった姿の玲二の屋台が盛況なのは、売り子が龍希だからだろうか?
(可愛い嬢ちゃんがやった方が、お客さんも集まるってもんだなぁ)
 しかも龍希は機器類にも強い。
 屋台設置に必要な機材の配線関係も、随分と手伝ってもらった。
(泳ぐのもいいけど、折角だし一稼ぎしとかないとな)
 折角、手伝ってくれる人がいるのだ。
 ボーナスとまでは行かないけれど、何かしら上乗せできるように。

「ほら、これならビーチが良く見えるだろう。親御さんが見つかったら教えろよ。すぐに連れってやるから」
 ビーチで迷子になっていた子供を肩車し、真城 遥臣(jb3136)が浜辺を歩く。
 ライフセーバー、がメインのつもりだったが、混雑の中では迷子も多発していた。どちらかというと、そのフォローが多い。
 遥臣が、人一倍気を配っているからかもしれないが。
 風貌から取っつきにくく思われやすいが、子供にはそう言った『目』がないから、てらいなく遥臣の手を取る。
 その純真さも、どこかくすぐったいものだった。
「真城さーん」
「おう。もう少しで休憩だ、先に飯にさせてもらっていいか」
 焼きそば屋台から遥臣の姿を見つけた玲二が手を振って声を掛けた。
 半身を返し、遥臣が応じる。
 頭の上で、子供が『おとーさん!』と叫んだ。

 玲二特製の焼きそばと、それから冷えた缶ビールで簡単な昼食。
「信じられん、売り子に見惚れて子供の手を離すとか」
「あはははー お仕事、お疲れ様です!」
 文字通り『看板娘』であった龍希も流石に苦笑い。
「繁盛してるみたいだな。材料の追加搬入はどうする?」
「まだ、なんとかなりますね。このあと、休憩入るんで厨房お願いできますか」
 玲二が在庫と時計を確認する。
「わかった。じゃ、今のうちに見学させてもらうか」


「あ、ありがとう…… ございます?」
「礼には及びません、ライフセーバーですから」
 抱き上げられた青年は、疑問形で恩人を見上げる。
 ライフセーバーは、紳士的にヒゲをピンと伸ばして応じた。
「海では危険がいっぱいなので、注意して遊びましょうね―― そこの、お子さん方も!」
「「はっ、はい!!」」
 背後へ回っていた気配も見逃さず、ライフセーバーは悪戯を仕掛けようとしていたちびっこへビシリ。
(着ぐるみ……だよな?)
(黒猫…… でけぇ)
(でも、ニンジャみたいだったぜ、さっき、海の上はしった!)
(水に濡れても平気だった……)
(着ぐるみなのに、海パンはいてるぜ?)
(グラサンかけて、前見えてんのかな)
「心配ご無用。中の人など…… いないのです」
 青年を砂浜へ降ろし、真夏の太陽を浴びながらカーディス=キャットフィールド(ja7927)は振り向いた。
 首へ巻いたUVカット仕様のストールがヒラリ、潮風になびいた。


 救護用テントで涼んでいたひなこが、足音に気づき顔を上げる。
「わわっ、大丈夫?」
「熱中症のようです」
 浜辺を巡回していた玲獅が、ぐったりした少女を抱き上げていた。
 フリルワンピースの水着姿そのままに、御堂・玲獅(ja0388)は、手早く応急処置を始める。
「首、それから脇の下ですね」
 玲獅の言葉に頷き、ひなこはクーラーボックスから保冷剤を取り出す。
「クリアランス、効かないね…… ヒールもダメだったし……」
 ひと段落したところで、ひなこがションボリと。
「試してみて、考えたのですけど。『クリアランス』は『アウルの流れを補助』ですので、アウルを持つ撃退士にしか効果はなく、
回復術は『失われた細胞の再生』ですから……、脱水症状などにも当てはまらないのでは、と」
「うっ……。アストラルヴァンガードも全能じゃないんだ……」
 治してあげられるって、思ったのに。
「救急車も呼んでいます。今は、できる限りのことをしましょう」
「……うん」
 生まれ故、医師としての知識を少なからず持っている玲獅は冷静だ。
 表情に出していないだけかもしれないけれど。
 眩しい太陽は諸刃の剣。
 中天は越えたけれど、温度は更に上昇するだろう。
 ――ビーチの平和を守るお仕事。
 やり遂げてから、友達と目いっぱい遊ぶ。
 海を目にした時と、少しだけ、ひなこの心境に変化が起きていた。
「ケガ人が出た。軽く処置はしたが、念のため診てもらえるか?」
「はーっい!」
 海の家周辺での事故・トラブル警戒に当たっていたサガ=リーヴァレスト(jb0805)が、悪ふざけの延長で流血騒ぎに至った青年の背を支えて姿を見せた。
 暗い顔は、見せないで。元気よく、ひなこは立ち上がる。


 午前中に海の家を回したグループが、ようやく休憩タイムへ入る。
 友里恵や瑞樹は波打ち際で遊び、ソフィアはゆったりと潮の流れに沿って泳いでいた。
(太陽が気持ちよくって…… 楽しいなぁ)
 調理場が暑かった分、解放感もひとしお。
「ん、っと」
 白のホルターネックビキニ姿で、ソフィアは深く潜ってみる。
(魚も、たくさん……)
 休憩時間目いっぱいを海で楽しもう、そう思う。
「……前に…… なかなか……進まない…… です」
 のんびり、どころではないスピードで、希沙良が泳ぐ。
「たまにはこうして、時間を忘れるのもいいさ」
 焦ることもない、と行動を共にするサガは優しい表情で。
 浜の賑わいと、まるで切り離されたような海の穏やかさ。
 時折、高めの波が来ては押し返される。それも楽しい。



●いざ、尋常に
 道場修復、それから軽い昼食を終えて、モノノケ村の撃退士たちが鍛錬という名の模擬戦を迎える。
 綺麗に掃除もされて、息を吹き返した武道場。
 開け放たれた窓から、涼しい山の風が吹いてくる。気温の一番辛い時間帯を越え、過ごしやすい環境へとなっていた。

「僭越ながら審判を務めさせていただきます、中等部三年の御影と申します」
 道着へ着替えた御影が一礼。それから簡単なルール説明をする。
「対戦は参加申し込み時に希望があった方々は、そのように。他の皆様は、こちらで抽選にて組ませていただきました。
光纏、スキル、V兵器の使用は自由ですが、道場を破壊するようなことがございましたら自己責任に基づいて、修復をお願いいたします。
負傷時の、応急手当は――」
「負傷者が出ましたら、治療いたします。けれど、あまり無理はなさらないでくださいね」
 光の隣に立ち、熾弦が申し出る。
「模擬戦の後のBBQも楽しむために、全力で回復いたしますですよ〜」
 修復作業中に料理の下準備を進めていたRehni Nam(ja5283)の笑顔も頼もしい。
「ふむ……、夏休みの一日、気の置けない仲間と一緒に鍛錬をしながらすごすのはじつに実のある一日だな」
 穂原多門(ja0895)は、対戦相手である友人のギィ・ダインスレイフ(jb2636)へ視線を流した。
「花火も楽しみだし、気合い入れていこうな?」
「……ん」
 口元を微かに動かし、ギィは了解の意を。


 対戦順はー、と御影が模造紙に書いてきた手製のプログラムを広げようとした時。
「……さて。のぅ、こうして顔を合わせるのも久しいのぅ」
「……顔も合わせたくなかったけどね」
 ゆらり、中央へ進み出る影が二つ。互いに徒手。
 左眉に走り傷を持つ青い瞳が見下ろすのは、遥かに体格差のある飯島 カイリ(ja3746)。
 普段は無垢な愛嬌をふりまく彼女が、憎しみのまなざしを向ける茶髪は千 庵(jb3993)だ。
 並々ならぬ殺気を振りまいている。
「え、えーと」
 対戦希望者同士、ではあるが順序は後だったはず……御影はオロオロと参加申請書に目を通す。
 ――関係:婚約者
「時には……思い切り戦う必要があるんだよ」
 肩を叩いたのは、庵の友人である愁也だった。
「たぶん」
「たぶん!?」
 最後はアバウトな一言でまとめ、愁也は縁が暇を見て作った手製のゴングを鳴らした。


「さぁ、来い。……全力で受け止める」
「ハ! それ挑発?」
 カイリは吐き捨て、間合いを詰める。
 リーチの差? そんなもの、初動で潰す。
「っ、はァ!!」
 繰り出される庵の蹴りを左腕で往なし、押し返し、反動をつけて上から振り下ろされた拳を交わす。
 跳躍から、庵の首筋を的確に狙ったカイリの蹴り。
 急所をわずかに外し、庵は受け止めきる――そのまま腕を伸ばし、カイリの首をつかんで床へ叩きつけた!!
 メキ、と鈍い音。
 綺麗に磨いた床板に穴が空く。
「そんなもんか、この■■■!!」
 口の端を上げ、庵が挑発する。
「あぁん!!? ンだと、この●●●が!」
 カイリは庵の腕へ両足を絡める、関節が極まる。
「……っ、く!」
「ケホ…… この程度? 現実に受けた痛みの方が……よっぽど痛いよ」
 拘束を解かれ、間合いを取ったカイリは、昏い瞳で庵を睨みつけた。
 『日本の不良』ではなく、きちんとした武術の構えを取り、庵。
 打ち込まれるカイリの拳を、庵は受け止める。半歩後ずさり、威力を軽減したところで、

 ――カーン

 二人の開けた穴に、仲良く落下したところで試合終了のゴング。
「床下も掃除しておいて、良かったです……」
 見送るしかなかった神棟星嵐(jb1397)は、せめてもの慰めを。
「……。アンタの武術、すごかったよ」
「……成長したのう」
「うるさい」
 穏やかな空気を取り戻した庵は、カイリと目を合わせることなく床を修繕する。
 黙々と進められる作業。その傍ら、そっとカイリの黒髪を撫でた。横顔は、その手を拒絶しなかった。
 彼の口元に笑みが浮かんでいることを、けれどカイリは知らない。


 というわけで、道場の半分は危険領域となりました。
「続きまして第二試合…… 蓮城 真緋呂先輩対、亀山 淳紅先輩!!」
「よろしくお願いします!!」
 BBQ前にお腹を空かせよう、そう息巻く蓮城 真緋呂(jb6120)は元気良く。
「よ、よろしゅお願いしま……!」
「ジュンちゃん、ファイトなのですよー!!」
 ダアトとしての能力なら随一の亀山 淳紅(ja2261)だが、近距離戦闘となると……!?
(勝っても負けても、いい経験に。せやけど――)
(まともに食らえば厳しいけど、胸を借りるつもりで!)
 試合開始のゴングが響く。
 イニシアチブから先手を取ったのは淳紅だ。
「――Canta! 『Requiem』」
 真緋呂の足元に、血色の図形楽譜が展開され、そこから無数の死霊の手が伸びる。
「う、えぇえ!?」
 真っ向勝負の魔法攻撃であれば、大剣でガードからの反撃を試みようとしていたが、これでは。
「からの―― 女の子には、悪いんやけど!!」
 束縛効果が切れないうちに、淳紅はマジックスクリューを繰り出す。
「そこまで!!」
 気絶直前と見て、試合終了。
「うああ怖かった!」
 が、真っ先にへたり込んだのは淳紅だった。
「怖かったのは、こっちです……!」
 一手も返すことができなかった。束縛効果からの連続攻撃。目は開いているのに移動できない恐怖。
 悔しさもないまぜになって、
「おかげで……すごく、お腹が空きました」


「さて……。手合わせ願おうか」
「よろしく」
 続いて、剣を手に多門とギィが進み出た。
 試合開始と共に、ギィが手数で攻め込む。
「軽い!!」
 受け防御と防壁陣を使い分け、多門が受け止める。
「ッ!」
 多門の反撃の一振りを脇腹に受け、ギィが派手に吹き飛ぶ。
 壁板に、穴が空く。
 追い打ちを掛けようと多門が間合いを詰める、そのタイミングで縮地を発動させたギィは、素早く対角線上へ移動し、背後を取る。
 ヒュゥ、空いた穴から風が吹き込む。多門が振り返る。剣撃が来るかと身構える――その足を、ギィは払った。
「剣だけが…… 武器ではない、か」
 戦いに高揚し喜びの笑みを口元に湛えるギィを、多門は見上げる。
「が、まだまだ……!」
 その手から、武器は離されていない。
 不利な体勢からの、反転。
 互いの喉へ、突きつけ合う剣先。
 試合終了の鐘が鳴る。
 ――両者、引き分け。

 力の入れ過ぎで壁を再破壊しないよう、慎重に慎重にギィは壁の修繕に取り組む。
「板は、これで足りそうか」
 多門が隣へ腰を下ろす。
 ――試合より、難しい
 三度目に金槌で壁を打ち抜いたところでギィが真顔で呟き、多門は笑った。


 対戦希望:グラマー女子
 そう書かれた参加用紙に、御影は頭を悩ませていた。
 当日に調整できればと考えていたが、仮組のままで行くしかないようだ。
「第四試合。エルレーン・バルハザード先輩対、鑑夜 翠月先輩!」
「よろしくお願いしますね」
 可愛らしくお辞儀をする鑑夜 翠月(jb0681)は、グラマーではない。ましてや、女子でもない。
「男の娘…… なの?」
 予想外の展開にエルレーン・バルハザード(ja0889)が半歩下がる。
 彼女にとって敵視すべき対象ではない、しかしここは戦いの場。
 男の娘の意味が解らぬ翠月は小首を傾げている。
「腐女子の力は、いついかなる時でも飛翔するの……ッ!!」
 自ジャンルでなくとも妄想を展開してこそ、真の腐女子なり。偉い人が言ってた。
 他ジャンルへ無暗に突っ込むなとも、言ってた気はする。
 遠距離魔法攻撃で翠月が距離を取る間に、エルレーンは迅雷を発動。
「うぷぷ…… こっちだよぉ〜」
 挑発するように駆け巡るエルレーン。その姿に、翠月の心がチリと焦げる。
 ――距離。
 届かなかった、あの一手。
 どれだけ強力な攻撃力を擁していても、相手に届かなければ――
 詰めても詰めても、距離を武器として逃げられてしまえば――。
 逃がさない。
 エルレーンが剣を振りかざすタイミングで、周囲を闇に落とす。

「暗転は、お約束初級編なの……!」

 しかし、腐女子の繰り出す兜割りは止まらない。
 翠月の意識が朦朧とする中、加減はしておいた、とか15秒待ってやるなの、とか聞こえた気がする。
「はうぅーっ! 萌えはせいぎぃぃ!!」
 目覚めた瞬間、渾身の蹴りが翠月を襲った。
 ――カーン
「生半可な気持ちで腐女子に触れると新刊のネタにされるの!」
 エルえもん先生、秋の新刊にご期待下さい。
「いたた…… ありがとうございました」
 立ち上がり、翠月は最後まで礼儀正しく。
(距離……難しいですね)
 自分一人の想定だけで、進めることは出来ない。相手がいればこその『距離』。
 機動力を得手とするエルレーンとの一戦で、翠月は何かを得ることができただろうか。


 愁也、遥久、縁は三人による総当たり戦を希望していた。
「時間はとらせないよ、武器弾くか追い詰めれば勝ちの、一本勝負だから」
 燃えるような赤髪を揺らし、愁也は好戦的な笑みを浮かべた。

 銀光煌めく剣を手にする縁へ、愁也は軽く目を見開く。
「ほー、そう来るか」
「達者とは行きやしやせんが、多少は扱えますんで」
 対する愁也は、身軽さ重視のスネークバイトを装備。
 開始直後から連続攻撃を仕掛ける。
 が、完全に防御に回られてしまうと縁相手では分が悪い。
「なーんて……!」
 いたずらっぽく、愁也の眼が輝きを見せた。
 身を低くした刹那、足払いを掛ける!
「卑怯? なんのことかn」
 ガイン、
 倒れるように見せかけた、縁の剣が油断しきった愁也の爪を弾いた。
 勝負、あり。

「こっちもステゴロ上等のつもりでいやしたしね」
「……頭が痛い」
 額を押さえながら、遥久が進み出る。
「遥あにさんと手合わせたぁ、こっちは胃がいてぇですね。お手柔らかに」
(相手が上手なのは重々承知、だったらその流れ、乗せてもらいやすぜ……)
 刃がぶつかり合い、火花を散らす。
 筋の読み合い、持久戦だ。
(……悪いが、ここは)
 縁の慎重さを、逆手に取らせてもらおうか。
「もらった!」
 大振りからの隙を見て、縁が仕掛ける――しかし、それは遥久の術中。
「……れ?」
 体捌きで剣を往なされると、そのまま縁は転倒した。
「スタミナ切れ、ですね。愁也と一緒に走り込みをお勧めします」
 キラースマイルで、その喉元に剣先を。

 武器を剣へ持ち替えた愁也が、すっと遥久と対峙した。
 互いに手の内は知り尽くしている。
 開幕と同時に懐へ飛び込み、愁也が剣を一閃する。
 回避よりは防御が得手であるのは両者共通で、つまり初手を遥久が防ぐことも想定のうち。
 愁也は右足を踏み込み、遥久の側面へ回り込む。
(ここからは、攻撃しか、考えない)
 それは愁也の考えで、そして遥久の読みだ。
 スタミナ切れを待つか。攻撃の隙を突くか。
 選択肢はいくつかある。愁也の攻撃を打ち払いながら遥久は機を伺う。
「お前の悪い癖、な」
 あえて隙を作り、呼び込もうとした矢先に愁也が小声で呟いた。
「優しい時は、ぜってぇ罠!!」
 隙の逆方向からの打撃。
 弾かれた剣が、ヒヒイロカネに戻り床へと落ちた。

「試合に勝って勝負に負けた感じですね、愁あにさん……」
「なんだよ! 褒めろよ!! 遥久に勝ったのに!!」


 御影に呼び止められて、海が振り向く。
「半端だったら二人を一緒にお相手できるということでしたが、お願いできますか?」
「ああ、大丈夫だよ。大きな戦いに備えて、武装強化してみたんだ。試してみるのに、丁度いいかなって思ってね」
 そうして、三人によるバトルロイヤルが行われることとなった。
「急所狙いは、なしね」
「了解。……訓練用のゴム弾が入った銃でも、蜂の巣になるかしら?」
 アウルの通らない銃を手に、鴉乃宮 歌音(ja0427)は加減を調整する。
「基本的に、実戦前提ということでいいんでしょうか」
 星嵐はソウルサイスを手に、確認。
「そうだね。ただし各々、意識が飛び始めたら早めに降参すること」
 神の兵士の効果で、気絶は免れるだろうけれど。
 カオスレートも得意分野も対照的な戦いが、幕を上げた。
「私達はとても脆いんだ」
 脆いから。脆いので。脆いから、ね?
 真っ先に能力底上げの行動を選ぶ星嵐へ、歌音は初期行動の速さを利として攻撃を撃ちこむ。
「ギャラリーの皆様、危険ですよー」
 特に私の正面、と言い添えて、星嵐に反撃の間を与えず弾幕を張り、
「まず、一人」
 背後へ回り、訓練用のナイフを星嵐の首元へ。
「V兵器無しに、気が引けるけど…… 能力が下がるわけではないしね!」
 海は十字槍によるインパクトを歌音に向けて。
「……急所狙いはなし、って、龍崎せんぱい……」
「うん…… 狙ってはいないけど」
「平気だ、まあ、こうなる予感はしてた」
 回避を選択しても受け止めることを選択しても、どうしようもないことは、ある。
 海に回復魔法を施されながら、動じる様子を見せず歌音は御影へ頷きを返した。
「なかなか難しいですね」
 星嵐が唸り、輪へ加わる。能力を上昇させることは不可欠なはずだ、けれどそれを待ってくれる相手ばかりとは限らない。


「光。……竹刀で、剣道の対戦でも構わないか?」
 最終戦。
 どこか気恥ずかしそうに、道着へ着替えた神奈が竹刀を差し出した。
「まともに剣術を学ぶ機会もなくてな。これを機会に、良ければ光から学ばせてもらいたい」
 古くから魔を祓ってきたとされる水無月の家は、京都で剣道場を開いていたという。
 けれど、それは、天界勢が古都を制圧するよりずっと前に滅ぼされていた。
 水無月の技を継ぐのは、今は神奈一人。教え、伝えてくれる存在は無く、表向きであった剣道も然り。
「っ、私こそ……神奈さんから、学びたいことが、たくさんあります」
「遠慮はいらない。……よろしく頼む」



●モノノケタイム
 モノノフビーチから少し離れた場所にある、山のふもとの神社。
 陽が落ち、鬱蒼とした木立が一足先に闇をもたらす。
「……事前準備は、OKですぅ……」
 地域住民への説明、口裏合わせを頼んできた月乃宮 恋音(jb1221)が合流する。
「一度、こういう格好もしてみたかったんだよね」
「血糊、これくらいで足りるかなぁ??」
 『怪異の仕込み役』を演じる弥生丸 輪磨(jb0341)は変身後の衣装を胸に宛て、森田良助(ja9460)は既にスタンバイOK。
「あはは、二人ともよくできてる。さんぽちゃん。サイズはどう?」
 野崎は彼らを横目に、手伝いを頼まれていた犬乃 さんぽ(ja1272)へ衣装合わせを。
「わぁ、先輩、やっぱり凄く上手…… ありがとう」
「最後の仕掛け位は易いものさ。単独行動だっていうけど、平気?」
「うん、村を荒らす若者達をニンジャの力でビックリ肝試しして、懲らしめちゃうよ!」


 ――出るんだってよ、この道
 葉擦れの音に若者たちの声がノイズのように混じる。
「君たちも肝試しですか?」
 先を歩いていた袋井 雅人(jb1469)が振り返る。その隣には恋音。
「いやぁ、『出る』んでしょう、ここ。私たちも名だたるスポットを巡ってきましたが、久々の大ヒットを引き当てた予感がしてるんです」
 二人が演じるのは『オカルトマニアの恋人たち』。
 黒髪をさらりとながし、恋音が美しく微笑んでみせる。
「一緒に向かいませんか? いざという時、人は多い方が良いでしょう」
 雅人の言葉に得心したのか恋音に釣られたのか、三人の若者は頷いた。
「その時は三人で車で向かったんです。四人用の車に三人。解りますか? 帰りに一人、乗せれるように、ってね」
 わらえねぇ。
 尽きることなく披露される雅人と恋音の体験談に、若者たちの顔が強張りはじめる。
 あとどれくらいで、神社に着くのだろう。

「やぁ、良い夜だね。此処で遭ったのも何かの縁。御一緒にどう、かな?」

 かさり。
 軽い質量の音を立て、物陰からそっと輪磨が姿を見せる。
 夏用のブラウスにミニスカートの、銀髪美少女。
 あどけなさの残る笑顔に、若者たちは一瞬息を呑む――見惚れたのだ。
 恋音は彼氏持ち。で、あるなら……。
 若者たちは二つ返事で輪磨を誘う。
「いいね、二人はカップルなんだ」
 雅人たちの背へ、輪磨が声を掛ける。
 二組目のカップルを狙う若者たちは、輪磨の事しか見ていない。
「僕もね。ずーっと一緒にいようって、約束した相手がいたんだよ」
 寂しそうに話す、その口調から、相手はもうこの世にはいないのかと誰もが思う。

「――土の下まで、ね」

 ずっ
 やわらかな地表から、血の染みた包帯塗れの腕が突き出る。
「ギギギ…… ウマソウダ」
 若者たちが悲鳴を上げる、周囲を見る、雅人と恋音の姿がない!!
 突如、強い光が瞬く。
「おや、逃げないでおくれ? あのひと、おなかをすかせているの」
 ヴァンパイアのように鋭く尖った刃を光らせ、マントを羽織った輪磨が妖艶に微笑み、一人の肩へ手を置いた。
「ドコヘイクンダァ……?」
 包帯男がついに全身を見せる。
 一目散に、若者たちは逃げ出した。

 木立が切れ、月の光が降り注ぐ神社へとたどり着く。
「おや?」
 そこには、大人しそうな、眼鏡をかけた少年がいた。
 黄昏ひりょ(jb3452)だ。
「ここに冷やかしで遊びに来た方がいらっしゃってですね。どうもその後、不幸な事が頻発してるようなのです」
 顔面蒼白の若者たちへ、ひりょは落ち着いた口調で説明する。
「被害報告を受けてお祓いに来ましたが…… どうやらあなた方も同類のようですね」

(そこな不届き者達により悪霊になってしもうたのぢゃ)

 一人の頭に、少女の声が響く。

(お前から地獄に突き落としてやろうか)

 そして、もう一人の頭へ。
 木花咲耶(jb6270)による意思疎通能力だが、それと知る由もない。
「小童が我を祓えると思うてか?」
 物質透過で社からすり抜けて姿を見せた咲耶は、無邪気に笑い、そして見下ろす。
「それが、霊能者の仕事ですからね」
「おもしろい、ならば見せてみよ、その力のほどを」
 二人は護符を取り出し、激しい戦いを繰り広げる。
 狙いは僅かにはずし、敷地にも被害を与えないよう加減はしているが――パニック状態の一般人にわかるはずもない。

「今回は何とか撃退しました。今後はこれに懲りて、同じような事はしないように―― あれ?」
 ひりょが振り返ると、若者たちは姿を消していた。


 息せき切らして山道を走る、いつの間にか『何か』が並走していた。
 物音が近づく、大きくなる、草を分け、木の上へのぼる、そして――
「首、おいてけー……」
 ライトアップされる殺人兎。
 首ごと食いちぎらん鋭利な前歯。
 よくよく見ると愛嬌のある作りだが、パニック状態の(以下略)。
 一人が混乱の境地で石を投げつけた。兎の背に当たり、びりりと破れ――
「はわわ!? 先輩、これ、バニーガール……」
 兎の着ぐるみの中から、金髪碧眼のバニーガールが登場する。
『……なんで、助けてくれなかったの……?』
『なんで……』
 遠く近く、先のカップルの声が響く。
「風情あるジャパニーズ肝試しも……『地元』に嫌われたら…… わかるよね?」




 ビーチから、盛大に花火が打ち上げられる。
 夜空を彩る鮮やかな花。

 海で
 山で
 山間で

 今日一日、全力を果たした撃退士たちが、同じ空を見上げていた。




「も、もういいだろう、光。似合わんだろうし……」
「お似合いですよ、神奈さん。私だって、浴衣を着ること滅多にないんです。お揃いですっ」
「宜しければ、お一つ如何でござるかな? 御影殿は、甘いものがお好きとか」
「冷えたゼリーもありますよー」
 エルリックとファティナが、ひょいと顔を覗かせる。
「水羊羹! ありがとうございます、リバーフィールド先輩、ファティナ先輩! ほら、神奈さんも!」
「いや、私は…… 光がもらったものだろう」
「じゃあ、半分コしましょう?」
「……仕方ないな」


「ジュンちゃん、お肉焼けたのですよ〜♪」
 自家製ダレで味付けバッチリ、焼き加減にもこだわりを。
「おおきにな、レフニー」
「にゃー…… 花火綺麗なのです」
 山の村からでは、小さな閃光。けれど、一生懸命に咲く七色の花は、美しく。
「……実は、こんなのも持ってたり」
 レフニーは、手持ち花火をこっそりと取り出した。


「自然の中で食べるごはんっておいしい〜〜!」
 焼ける傍から食べ続けるのは真緋呂。
 配膳に回っている歌音が、真緋呂の皿へ野菜をたっぷり乗せて。
「野菜も焼けてるぞ」
「わーん、ありがとうございます。あ、あ、スイカ冷やしてますから、皆さんで食べましょうねっ」


「お疲れ様でしたー♪」
「きゃん!?」
 花火を見上げていた熾弦の首筋へ、ファティナがひんやりドリンクアタック。
「シヅルさん、色っぽい声を出されますね♪」
「もう、ファティナさん……」
「鍛錬は全くしませんでしたが…… 今日は楽しかったですね」
「えぇ、ファティナさんが大人しくてびっくりしたくらいです」
「普段、どういう目で見ているのですか……?」
「ありのままの、ファティナさんを」
 にこり。
 その笑顔に、ファティナは弱い。




「今回の体験で、若者たちに生きることの大切さを知って貰いたいですね」
 神社の境内に、雅人と恋音は腰かけて、高台から臨む花火を鑑賞していた。
 自分たちに、できることは尽くした。
 怖い思いをさせた若者たちは、夜が明けたら自分たちのことを聞きまわるかもしれないけれど、近隣の人々には『知らない』で通してもらうよう頼んである。
 シャレにならない怖い話、霊能者と悪霊の戦い。
 やっつけられたというところまで、覚えていてくれるといいのだけど。


 良助に案内されて、浴衣へ着替えた輪磨が続く。
「まだ包帯が巻きついてる気がするよ……」
「森田君が、いちばん体を張ったものね。土の中は平気だった?」
「冷たくて気持ちよかったね」
 その感想に、思わず笑う。
 ポジティブな良助らしいったら。


「ここから、花火が良う見える」
 咲耶は、ひりょと連れだってベストポジションへ。
「偽霊能者役、お疲れ様ぢゃったの。怪我はしておらんか」
「こちらのセリフですよ。加減はしましたけど、咲耶さんは大丈夫でしたか?」
「平気じゃ。加減してくれたのぢゃろう。それより……」
 咲耶は、うんと背伸びして、手を伸ばし。
「草木を分けてる間に、切ってしまったようぢゃな。絆創膏ぺたんぢゃ」
 ひりょの腕へ、可愛らしいキャラクタープリントのされた絆創膏を貼りつけた。


「っ、くくく」
「先輩、笑いすぎだよっ 確かに中身お願いする時も、兎って言ったけど」
 二段階チェンジの衣装作りまでは無理だったから、仕掛け部分を野崎に頼んだらあの展開だった。
「これでもボク、男の子なんだからねっ」
「わかってるって。今度は王子様の衣装、作らせてよ」




 花火を見上げる筧の元へ、友里恵と瑞樹が連れだって駆け寄る。
「お疲れ様、二人とも。すごく頑張ってたね」
「この機会に聞いておきたかったのだ。好みの女性のタイプは、どういった感じなんだろう」
「ぐは」
「男子の好む女性像を知れば今後の役に立つかも、と思ってな……」
「私も、気になるのです♪」
 はぁー、と深く溜息をついて。
「そうだなぁ、俺の場合は――……」


 派手な連弾花火が周囲の音を掻き消す。
 岩場に腰掛け、ヨルは空の色にただただ魅入る。
 ふとビーチに視線を戻せば、花火に照らし出されるたくさんの笑顔。平和を喜ぶ笑顔。
(もし、この世界を人の手に取り戻せたら、こんな風に笑顔が溢れる世界になるのかな)
 笑顔…… いつか、京都で耳にした言葉。
 それが持つ意味を、今ならわかる気がした。
(……その時、俺は一体どうなってるんだろう)
 天使も 悪魔も 居なくなれば、笑顔が溢れるというのなら――
「たどりついた……」
 ばた、と岩場に手が張り付く。
「タカマサ。どうしたの?」
「逃げてきた……」
 女子高生の追撃が止まなかったので。
「そうだ。ねぇ、タカマサ。ビキャクって、何?」
 そして筧は落下した。


「海で見る花火は、でっかく見える気ぃするー」
「……今年も観られたな」
「ん……」
 二年目の、花火。
 目を細める一臣の肩へ、友真はこつん、と頭を寄せた。


「父さん父さん、一緒に見るんだぞー!! 龍仁も一緒だぞー!」
 岩場から落下した筧を見下ろし、千代に連れられてきた龍仁が苦笑する。
 砂まみれになった手を、引き起こしてやる。
「おー!! 花火キレーなんだぞー!」


「迫力やねぇ」
 浴衣に着替えた千鶴は、神楽と二人で大輪の花火を見上げる。
 近くで打ち上げられているから、音も光も普段の花火大会とは段違い。
「迫力もありますし、綺麗ですね」
 散ってゆく花火の燃え尽きる音も楽しみながら。
「蛍狩りも良かったけど、こういうんもえぇね。……来年も、来れたらえぇな」
 うっとりというよりは、ワクワクした表情の千鶴の姿が、なんだか微笑ましくて。つい神楽の手が伸び、柔らかな髪を撫でる。
「!? 祭りで、周り人多いのに……」
 驚き、照れ臭そうにしながらも、その手を払うことはせず。


「今日はお疲れさん、西行」
「不破さん、一緒に花火観ませんか?」
「へ!?」
「一人じゃ寂しいじゃないですかー。あっ、真城さーん、こっちですー!!」
 缶ビール片手にブラブラしていた遥臣も呼び止めて。
「ああ、うん、そうだよな。一人じゃ寂しいよな」
 誤解したらどうしてくれる。
 髪に指を突っ込んで、玲二は薄く笑った。


「……綺麗…… です……ねぇ……」
「これぞ夏の風物詩……だな」
 浴衣に着替えた希沙良は、サガと二人、海の家のベンチに腰掛けて。
 紺地の浴衣のサガと、白地に青の朝顔を染めぬいた浴衣の希沙良は、夜空とそこに咲く花火のよう。


「たーまやー!」
 晴れ晴れとした表情で、ひなこは花火に歓声を上げる。
「かーぎやー♪ ひなこさん、かき氷どうぞー」
「あっ、リオンくん! 光くんもー!!」
「綺麗なお嬢さん、俺たちと花火鑑賞はいかが?」
「嬉しいな。カップルさんは邪魔できない雰囲気ー」
 しゃくしゃくとイチゴミルク氷を頬張りながら不満げに、でもどこか嬉しそうにひなこは浜辺を眺める。
「かき氷、筧さんに奢ってもらおうと思ったのにすれ違いだし」
「ああ、鷹政くんは」
「ねー……」
「えっ、なになに、なにか面白いことあったの?」




「えーと、この度は、ご協力ありがとうございました」
 朝を迎え、一同を前に筧が。

「ま、追加報酬にしちゃ、ささやかなんだけど」
 肝試しメンバーが宿で身支度を整えているところへ野崎が。

「学園へ戻ってからも、使ってもらえるものを、と思いまして。事前に用意させていただきました」
 朝食を終え、御影が。




「「夏の合宿に来て、土産が学食のカレーとか」」
 時同じくして所別にして、撃退士たちは声を揃えた。





依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: パンダヶ原学園長・下妻笹緒(ja0544)
 歴戦勇士・龍崎海(ja0565)
 函館の思い出ひとつ・穂原多門(ja0895)
 インキュバスの甘い夢・二階堂 光(ja3257)
 JOKER of JOKER・加倉 一臣(ja5823)
 猫の守り人・点喰 縁(ja7176)
 二月といえば海・カーディス=キャットフィールド(ja7927)
 陽へと輝く星の煌き・弥生丸 輪磨(jb0341)
 大祭神乳神様・月乃宮 恋音(jb1221)
 ラブコメ仮面・袋井 雅人(jb1469)
 precious memory・ギィ・ダインスレイフ(jb2636)
重体: −
面白かった!:24人

銀と金の輪舞曲・
エルリック・R・橋場(ja0112)

大学部4年118組 女 鬼道忍軍
撃退士・
不破 玲二(ja0344)

大学部8年181組 男 インフィルトレイター
撃退士・
神月 熾弦(ja0358)

大学部4年134組 女 アストラルヴァンガード
武士道邁進・
酒井・瑞樹(ja0375)

大学部3年259組 女 ルインズブレイド
サンドイッチ神・
御堂・玲獅(ja0388)

卒業 女 アストラルヴァンガード
ドクタークロウ・
鴉乃宮 歌音(ja0427)

卒業 男 インフィルトレイター
凍気を砕きし嚮後の先駆者・
神凪 宗(ja0435)

大学部8年49組 男 鬼道忍軍
Silver fairy・
ファティナ・V・アイゼンブルク(ja0454)

卒業 女 ダアト
パンダヶ原学園長・
下妻笹緒(ja0544)

卒業 男 ダアト
歴戦勇士・
龍崎海(ja0565)

大学部9年1組 男 アストラルヴァンガード
筧撃退士事務所就職内定・
常木 黎(ja0718)

卒業 女 インフィルトレイター
┌(┌ ^o^)┐<背徳王・
エルレーン・バルハザード(ja0889)

大学部5年242組 女 鬼道忍軍
函館の思い出ひとつ・
穂原多門(ja0895)

大学部6年234組 男 ディバインナイト
郷の守り人・
水無月 神奈(ja0914)

大学部6年4組 女 ルインズブレイド
太陽の魔女・
ソフィア・ヴァレッティ(ja1133)

大学部4年230組 女 ダアト
ヨーヨー美少女(♂)・
犬乃 さんぽ(ja1272)

大学部4年5組 男 鬼道忍軍
黄金の愛娘・
宇田川 千鶴(ja1613)

卒業 女 鬼道忍軍
歌謡い・
亀山 淳紅(ja2261)

卒業 男 ダアト
懐かしい未来の夢を見た・
栗原 ひなこ(ja3001)

大学部5年255組 女 アストラルヴァンガード
インキュバスの甘い夢・
二階堂 光(ja3257)

大学部6年241組 男 アストラルヴァンガード
幼心の君・
飯島 カイリ(ja3746)

大学部7年302組 女 インフィルトレイター
黒の微笑・
石田 神楽(ja4485)

卒業 男 インフィルトレイター
前を向いて、未来へ・
Rehni Nam(ja5283)

卒業 女 アストラルヴァンガード
JOKER of JOKER・
加倉 一臣(ja5823)

卒業 男 インフィルトレイター
夜の帳をほどく先・
紫ノ宮莉音(ja6473)

大学部1年1組 男 アストラルヴァンガード
輝く未来を月夜は渡る・
月居 愁也(ja6837)

卒業 男 阿修羅
蒼閃霆公の魂を継ぎし者・
夜来野 遥久(ja6843)

卒業 男 アストラルヴァンガード
真愛しきすべてをこの手に・
小野友真(ja6901)

卒業 男 インフィルトレイター
猫の守り人・
点喰 縁(ja7176)

卒業 男 アストラルヴァンガード
薄紅の記憶を胸に・
キサラ=リーヴァレスト(ja7204)

卒業 女 アストラルヴァンガード
春を届ける者・
村上 友里恵(ja7260)

大学部3年37組 女 アストラルヴァンガード
二月といえば海・
カーディス=キャットフィールド(ja7927)

卒業 男 鬼道忍軍
撃退士・
強羅 龍仁(ja8161)

大学部7年141組 男 アストラルヴァンガード
セーレの王子様・
森田良助(ja9460)

大学部4年2組 男 インフィルトレイター
陽へと輝く星の煌き・
弥生丸 輪磨(jb0341)

大学部4年261組 女 アストラルヴァンガード
夜を紡ぎし翠闇の魔人・
鑑夜 翠月(jb0681)

大学部3年267組 男 ナイトウォーカー
撃退士・
彪姫 千代(jb0742)

高等部3年26組 男 ナイトウォーカー
影に潜みて・
サガ=リーヴァレスト(jb0805)

卒業 男 ナイトウォーカー
大祭神乳神様・
月乃宮 恋音(jb1221)

大学部2年2組 女 ダアト
戦いの中で戦いを……・
神棟星嵐(jb1397)

大学部6年70組 男 ナイトウォーカー
ラブコメ仮面・
袋井 雅人(jb1469)

大学部4年2組 男 ナイトウォーカー
夜明けのその先へ・
七ツ狩 ヨル(jb2630)

大学部1年4組 男 ナイトウォーカー
precious memory・
ギィ・ダインスレイフ(jb2636)

大学部5年1組 男 阿修羅
撃退士・
真城 遥臣(jb3136)

大学部7年257組 男 ルインズブレイド
来し方抱き、行く末見つめ・
黄昏ひりょ(jb3452)

卒業 男 陰陽師
不動の聖魔褌帝・
千 庵(jb3993)

大学部8年88組 男 ルインズブレイド
想いを背負いて・
竜見彩華(jb4626)

大学部1年75組 女 バハムートテイマー
あなたへの絆・
蓮城 真緋呂(jb6120)

卒業 女 アカシックレコーダー:タイプA
撃退士・
木花咲耶(jb6270)

小等部5年4組 女 陰陽師
V兵器探究者・
西行 龍希(jb6720)

大学部3年155組 女 インフィルトレイター