.


マスター:佐嶋 ちよみ
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
参加人数:8人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2013/07/10


みんなの思い出



オープニング


 京都に穿たれた楔、大収容所を取り囲む八要塞。
 東・西・南・北東が陥落、南東要塞も一押しという局面。
 撤退を重ねながら正門までの橋を下ろすことを達成した南西要塞では、地道に斥候を送り、内部事情の偵察を重ねていた。


「来た! これで行ける!!」
 以前も同じな言葉を聞いたな、と考えながら御影 光(jz0024)は届けられた救援物資内に歓喜している現地撃退士部隊長の背中からヒョイと顔を出した。
 【簡易橋・プロトタイプB】――そうラベルの貼られた麻袋。
「それって、もしかして」
「やってくれた…… 彼らはやってくれたよ、御影君。我々も応えねばならん! 時は来た、今こそ南西要塞へ攻め込むのだ!」
「けど、どうやって……」
 光自身も数度、偵察部隊に同行している。
 要塞内の鉄壁……というか泥沼……というか およそ『人間』の考えではないな、という光景を思い起こし、光は遠い目をした。




 南西要塞。
 周囲を広い堀によって囲まれた、五角形の西洋要塞である。
 石造りで、広大な敷地に頭抜けて高い監視塔。
 高さ10m程の城壁の上には身軽さを備えた射手が待機し、近づく者へ雨あられと矢を降らせる。

 先の戦果より、要塞内部に多くの敵が控えていること、どうやら監視塔が文字通り『目』となっているらしいところまで、掴むことができた。
 要塞側の跳ね橋を降ろし、閉門も不可能とすることに成功したものの、敵が打って出る気配はない。
 それらの情報をもとに、徹底的に注意を払い、一撃離脱を繰り返しての偵察の結果……
「要塞内敷地が湿地って、どういうことですか……」
「このあたりは壬生、水辺であることから付けられた地名だからな。因んだのだろう、な」
「完全に撃退士の足元を見てますよね」
「御影君、誰が上手いことを」
「言ってません!」

 門を潜れば、そこは泥沼であった。とは語弊があるが、深さ20cm程度のぬかるみになっている。
 当然ながら、地に足を着けて動く者は行動が遅くなる。
 撃退士の脚力をもってすれば移動そのものに支障はないが、咄嗟の回避行動がやや難しい。
「また……あの亀さんは居ますし」
「泥沼の中を生き生きと滑ってきたな……。あれはホラー映画に出演できると思う」
 和尚魚、と呼び名を付けた老人頭の亀型サーバント。間近であまり見たくない相手だが、積極的に突進して噛みついてくる。
「先の報告書で、内部に弓兵が大勢控えていたことも納得いきます。向こうは最小限の移動で、侵入者へ攻撃を仕掛けるためなんですね」
「壁を越えての侵入対策も兼ねているのだろう。効率的な配置だ」
 泥地を苦にしないサーバントと、遠距離攻撃を得手とするサーバント。
 これらの組み合わせで、文字通りの『門前払い』を受けた回数は数えたくない。
「それと……あの大型サーバント、ですね」
「うむ。そこでだ。ここまで石橋を叩き続けており、頼んでいた物資も届いた。この機に学園へ応援を要請し、総攻撃を仕掛けるとともに監視塔制圧まで至ろうと思う」
「総攻撃、ですか」
 敵はあくまで迎撃という形でいるから、こちらから手を出さなければ害はなく、最近は偵察も遠方からのみであった。
 現地撃退士たちもコンディションは万全で――この時のために蓄えていた、ということなのだろう。
「我々の動きが敵の掌中にあるというのなら、その指をフル稼働させてやればいい。その一点を鋭く突けばいい」
「……それで、その【簡易橋】を?」
「貫くための、矢の一つだ」
 部隊長は、光へ不敵な表情で応じる。




 陽動部隊と突撃部隊による同時攻撃。
 シンプルなものだ。
 陽動部隊が敷地内で暴れる間に、簡易橋を監視塔まで展開し、突撃部隊が一気に駆け、塔内へ突入する。

 余裕なのか誘っているのか、監視塔への入り口に扉は無かった。
 不気味なことに監視塔そのものには明かり取り以外の窓がなく、外部から侵入するには入り口が『一つしかない』。
 そこまで辿りつくのに四苦八苦、入ると速やかにサーバントのお出迎え。

「陽動部隊と簡易橋の活用で、突撃部隊の行動は監視塔内部での戦いに絞り込むことができる。
要塞の指揮官と護衛を相手取った、閉所戦闘だな」
 内部は壁沿いに螺旋階段が設置されていて、幅から考えても大人数で雪崩れ込むのは効率的ではないだろう。
「陽動部隊は、どれくらい引き付ければいいでしょう」
 全滅させるのは、場所と敵の数から考えて厳しいだろう。
「突撃部隊の帰還まで……が最前提だが、作戦全体として30分が限度だろうな」
 その時の戦況次第で、引くか押し切るかの判断となるだろう。
「陽動と突撃と……互いの連携が必要なのですね」
「そうなるな。一つ一つの部隊は、それぞれの戦いに専念してもらえれば充分だ。ただし、どちらかが撤退となれば他方を置き去りに、とも行くまいよ」
 もちろんだ。光は強く頷いた。



●牛鬼
 城壁上、そして壁下の射手。
 自在にフィールドを移動する和尚魚。
 そしてもう一つ厄介なサーバントが、『牛鬼』と称されるものであった。
「あれが、監視塔に向かって背後を突くことがあれば面倒になろう」
「真っ先に、引き付けて倒しておきたいです、ね」
 牛の頭に蜘蛛の体を持つ、2m程の巨大なサーバント。
 近距離ながら吐き出す炎は強烈だ。
「滅多なことじゃ動かない、しかし突けば向かってくる……挑発はしやすいが」
 バッドステータスを掛けてくる和尚魚の相手が面倒になってくる。
 しかも、親分気取りなのか和尚魚が撃破される度に逆上して能力を上げていく。
「隊長、私……人間の顔が見たいです」
「俺の顔は人じゃないというか」
「そ、そんな意味では!!」
 1mほど後ずさり、光は平身低頭で謝るが、失言は取り返せない。
「老人の頭の亀、牛の頭の蜘蛛……。御影君。学園からの応援部隊に加わって、彼らの心の衝撃を和らげてくれ」
「衝撃的だって、隊長も認めてるじゃないですか!」
「冗談だ。長く戦うには手がいる。それだけのことだ」





リプレイ本文


 曇天。
 蒸し暑さに加え、脛まで埋まる泥地が気を重くする。
「湿地帯か」
 カイン 大澤(ja8514)は微かに顔をしかめ、アサルトライフルの銃口を地面に付けないよう注意を払う。
「成程、聞きしに勝る醜悪さだ。見るに堪えん」
 割り当て区画へ向かう途中、他方で繰り広げられている戦闘にて和尚魚の姿を確認し、リョウ(ja0563)は額を抑えた。
「や、また会ったね」
「常木先輩!」
 後ろから肩を叩かれ、御影は常木 黎(ja0718)へ振り返る。
「またご一緒できて、心強いです」
「I have now returned―― とか言ってみたりね」
 皮肉気、というよりはどこか楽しそうな笑みを黎は浮かべている。
「この間の続きとは行かないけど……、いいんじゃないの、こういう戦場も」
 前回、この要塞へ橋を架けるという任務は、時間、そして数との勝負であった。
 状況を考えるなら、今回の方が味方の突撃を背に負っているだけに更にホット。
 知らず、黎の気分も高揚しているようだ。
(京都に関わって、やっとここまで来た。ココを落せば折り返しだ。待ってろ天使ども)
 一歩ずつの重さを噛みしめるのは、黒井 明斗(jb0525)。
 一年前、学園全体が動いた大規模作戦には、明斗は参加していない。
 それでも京都奪還戦へ携わるようになり、感じることは増えてきている。
 故郷を護れるよう、強くなりたい。その願いは、誰かの故郷である京都へも通じるからだ。
「突撃部隊の成功まで、塔入口を死守しますよ」
「防衛は一応得意分野ですからね、張り切って行かせてもらいましょう」
 明斗の言葉に、イアン・J・アルビス(ja0084)も続く。
「それだけをやるのは久しぶりですが、一匹たりとも通さぬように働かせていただきましょう」
「御影さんも、防衛部隊をお願いできますか?」
 臨戦態勢前の戸次 隆道(ja0550)は、静かな口調で御影へ声をかける。
「はい、この太刀にかけて!」
「はは、そう肩肘張らずに。うまく行ったら、スイーツでも食べに行きましょう」
「はぅ!?」
「……フラグではありません、ありませんから」
 どこからとなく集う視線を、隆道は乾いた笑いで振り払った。
 和尚魚との対面も二度目――といっても前回は無理やり振り切って突破したのだが、隆道は肩の力を抜き、戦闘へ臨むよう心掛ける。
「陽動や防衛も、重要な役割……」
 自分のやるべきことを頭の中で繰り返し繰り返し、リアナ・アランサバル(jb5555)は周辺をキョロキョロ見回した。
 自分たちがしっかりと防衛ラインを築いたら、突撃部隊が一気に監視塔へ向かうはず。
「ええ。しっかりと、護り切りましょう。そして、打ち倒しましょう」
 騎士然と武器を手に、アステリア・ヴェルトール(jb3216)は前を見据えた。
 目的地は、もうすぐそこだ。




「それでは一つ、役目を果たしてきましょうか」
 その一言を機に、隆道の顔つきが変化する。
「勝利を積み上げて奪い返すために…… 立ちはだかる敵は蹴り飛ばす!」
「届かぬが故に引きずり落とせ――水底の魔性」
 リョウが水上歩行で足場を確保し、不敵に笑う。
 牛鬼だけを見据えて駆けだす隆道に襲い掛かる和尚魚を、【影蝕】にて動きを止める。
 直視したくないサーバントだが、倒すほどにボスである牛鬼は力を蓄えるという。
「倒し過ぎも要注意、ってねぇ」
「段取りは大切だな」
 黎の返しへ頷いて、リョウは真っ先に襲い掛かる和尚魚を蹴散らすにとどめる。
「ち…… 後任せたよ」
 初弾で切り上げ、黎もまた牛鬼撃破へと向かう。
「塔内には誰も通しません。安心して、そちらのお仕事を完遂してください」
 その背へ、イアンが声を投じた。
「さて……。ここから先は通行止めですね。通りたくば強引に突破していってください」
 できるものならば。
 門前の壁となり、イアンは残る和尚魚へタウントを発動した。




(こっちから手出ししなきゃ襲ってこないってえけど)
 遠方に牛鬼を捉えながら、カインは行く手を阻む和尚魚をターゲットとする。
 和尚魚は、牛鬼を護るように立ちはだかるものと、塔を護る部隊へ襲い掛かるものとに分かれて行動していた。
 アサルトライフルで先制を撃ちこみ、すぐさまブラッディクレイモアに活性化を切り替え、接敵と同時に首を斬りおとす。
「随分と非効率な体してるな」
 拳に噛みついてきた個体には、そのまま火薬式のパイルバンカーを打ち込む。
「頭だけ人間の使ってるから妙に脆い、こいつ作った奴相当趣味悪いな」
 蔑みの目で、果てたサーバントを見下ろし。
「……いってえ」
 毒が回るのを自覚するも、零す言葉は無感動だ。
 人の形をした部分を破壊することには慣れているが、気持ちのいいものではない。痛みより不快が上回る。
「悪趣味なことさせやがって、掃除が面倒だ」
「大澤、そちらから直進は射手の範囲内だ、こちら側へ」
 顔に跳ねた泥を拭うと、先を行くリョウが振り返っていた。




「まずは、先手必勝ですね」
 イアンのタウントに釣られる敵を含め、明斗がコメットを降らせる。
「こっちに来ないでいただけますか? 邪魔ですので」
 コメットの射程外から接近してきた敵をシールドで受け止め、イアンは振り払う。
「牛鬼の関係もありますから、倒しすぎないようにしておきましょうか」
「そうですね……」
 明斗たちと肩を並べる御影もまた、シールドを展開して防御ラインの維持に努めていた。
「大丈夫ですか? 頑張りましょう、僕らが倒れなければ突撃部隊は必ず勝ってくれます」
 御影の顔色が悪いことに気づいた明斗が、すかさずクリアランスで治療する。
「あっ、ありがとうございます、黒井さん」
 ふるふると、御影が首を振る。
 いくつもの攻撃を受けているうちに、自覚なく朦朧状態に陥っていたらしい。
 特殊抵抗値が高ければ、回復も早く、足を取られることもないのだろうけれど。
「そうですね。牛鬼対応部隊も…… それに、今、監視塔で戦ってる皆さんも…… ここを、護れば必ず」
 塔の入り口は狭い、監視塔を背にすれば3人でも無謀な包囲は敷かれない。
 こちらが二手に分かれたことで、向こうも戦力を裂いている。
 勝算は、充分にあった。
「けど、黒井さんも無理はなさらないでくださいね」
 自分たちの傷は、明斗が回復できる。
 しかし、明斗自身は誰も癒すことができないのだ。
 高い防御力で盾となるも、ダメージは蓄積する。
「こう見えて、僕はしぶといんですよ」
 和尚魚の一体を槍で貫き、明斗は笑顔で応じた。
 泥にまみれ、それでもなお穢れることのない強い心でもって。



●流星光底の牛鬼
「気持ち悪い顔して近付いてくるんじゃねぇ!」
 滑るように泥地を移動してくる和尚魚を一蹴し、隆道は牛鬼を攻撃圏内に入れる。
 防衛部隊も、恐らくは和尚魚の数体は撃破しているだろう。
 牛鬼は和尚魚を倒されると逆上し攻撃力が上がるという情報だが、その数値というのはデジタルで表示できるものではない。
 現状、どれだけの火力を有しているのか判断は出来なかった。
「ま、防御が留守になるならそれはそれで美味しいよねぇ」
 隆道と逆方向に回り込んでいた黎が、牛鬼に対し素早くアシッドショットを撃ちこむ。
「どう、とっておきの錆弾は? 『滲みる』?」
 ジワリ、被弾した個所が変色するのを確認し、黎は冷たい笑いを差し向ける。
 ぐるりと牛鬼の巨体がこちらを向く、上身を起こし、鋭い爪を振りかざす、
 刹那。
「余所見たぁ良い御身分だなぁ、えぇ!?」
 真紅に染まった髪をなびかせ、隆道は渾身の蹴り技を叩き込んだ。
 それとほぼ同じタイミングで、牛鬼の周囲が魔方陣に囲まれる。
「参ります」
 高度を保ち飛翔する、アステリアによる範囲型焼滅術式だ。完全に牛鬼から死角となっていた。
 続けざまに黒焔が爆発する。
 焼かれながら、牛鬼が咆哮した。方向転換をして炎を吐き散らす!
「ちぃッ」
 寸でのところで、リョウは空蝉で回避する。
「当たるとデカイね……」
 直撃しようものなら一発で焼き尽くされていただろう、猛火であった。
 狙いを外しやすくするよう、黎は牛鬼の『目』へ狙いを変える。
 命中せずとも、煩わしいと感じさせられれば充分だ。
(狙われると危ないから、狙われないように目立たないように……)
 そんな合間を縫って、リアナはワイヤーを繰り出す。
 一撃離脱の間合いを保ち、敵の攻撃対象を絞らせないように。
 牛鬼が反撃を始めたことから、包囲の輪も少しずつ移動する。
 避けたいと思っていても射手の射程圏内へと押し出され、こちらもまた多方向からの攻撃に注意しなければならなくなる。
「皆さん、下がってください!」
 アステリアの声が響き、それを合図に各々が体勢を立て直す。
 高範囲殲滅術式、敵味方識別無しの『魔剱』が雨のように降り注ぐ!
 牛鬼が暴れ、周囲の泥が跳ねる。無暗に爪を振りかざす。
「そこまでだよ」
 この流れだと、恐らく続けて炎も吐くだろう。
 させてなるかと、黎が下がりながらのクイックショットで今度こそ眼球を狙う。
「……ザマァ、大当たり」
 Jackpot!
 立てた親指を下に向け、黎は片目を瞑った。
「少しの間、止まっててもらうよ……」
 近づける機を得、リアナが蒼い雷を放ち牛鬼の影を縫いとめる。
 生じた間に、カインが泥地に半身を浸しながら牛鬼の胴体の下へと滑り込んだ!

『背中が硬いなら腹はどうよ?』

 流れる動作で下顎へとパイルバンカーを密着させる。肩紐の緊急用の着火装置を歯で引っ張り点火。
 アウルの力を込めた渾身の一撃で、頭部を吹き飛ばす!!
 短く口走った慣れた国の言葉を、仲間たちが聞き取ることは出来なかった。
「!! 大澤!」
 ――ずっ。
 牛鬼の体が泥に沈む、下敷きになるところをリョウが引っ張り出した。
「……無茶をする」
「俺だからできるだろ」
「確かにな」
 迷いなく武器を扱う判断力と、その体躯でなければ遂行はできなかっただろう。
 連携で作り出した、大きな隙というのも重要だった。
『武器も装備も泥抜きがめんどくせえなこれ』
「自身の判断だろう?」
 国の言葉は解らなくても、悪態をついていることは知れる。
 リョウは苦く笑い、肩をすくめた。
「さて、陽動との事だが――別に倒してしまって構わんのだろう?」
 バサリとコートを翻し、リョウは残る敵へと向き直った。
「行かせる訳には、いかない……」
 リアナも頷く。
 防衛部隊の負担を軽くするためにも、ここで残る敵を極力倒すに越したことはないだろう。



●裏鬼門より差し込む光
 遠目にも、牛鬼の撃破は確認できた。
「これで、心置きなく倒せますね」
 ふぅ。イアンは嘆息と共に大剣を活性化する。
「門番は健在だよ。ただで塔に入れるなんて思わないことだね」
 負傷を重ねていたが、明斗もまだまだ余力がある。
 槍を手に、攻勢へ転じる。

 ――そこへ。
 厚い雲の切れ間から、一条の光が差し込む。

「……あれ」
 明斗が眼鏡の位置を直す。
 遠方の射手たちが弓を収め、離脱を開始した。足元の和尚魚も然り。
「これは…… 達成したのでしょうか」
 イアンが、そびえる監視塔を仰ぎ見る。
 明かり取りの窓しかないため、内部の様子を知ることは出来なかった。が。
 指揮官が撃破されたのであろうことは、想像に易い。
 退路確保も兼ねて区画内の敵掃討へと動いていた部隊も、こちらを振り返る。
「終わった…… 陥落、したのか」
 まだ、実感はわかない。それでも。
 明斗は声にすることで、少しずつ状況を把握していく。


 やがて撃退士たちの歓喜の声で、南西要塞は揺れた。


「案外と早かった」
「まだまだ守れましたよ」
 戻ってきたリョウに対し、イアンが胸を張る。
 それは強がりではなく、現実であった。
 30分、フルに戦うとしても十分なペース配分だった。
「いや…… すごいケガよね?」
 黎は明斗へ、残しておいた応急手当で回復を。
「牛鬼部隊の皆さんは、大きなケガはありませんでしたか?」
 御影が出迎え、皆の様子を伺う。
 その中に、深い傷を負ったリアナの姿があった。
「アランサバル先輩!」
「……大したこと、ない」
 射手からの攻撃はほとんどを回避したが、避けそこないも幾つかあった。
 目を見開く御影に対し、しかし当人は感情の薄い表情で首を横に振る。
「そっちへ敵が行かなくて……よかった」
「よかった…… はい、良かったです。皆さんが、止めてくださったから」
 リアナが、敷地内を駆けるサーバントの動向をそれとなく気に留めていたことを知り、御影はその手を強く握る。
「御影…… 泣いてる?」
「え? えへへ……。ちょっと、気が緩んじゃいました」
「緩むと…… 泣く?」
 御影の表情の変化、感情を表す言葉を、リアナは実感として理解することができず、おうむ返しに聞き返すばかり。
「そうですねぇ。泣いちゃう時もあります。すっごい美味しいスイーツを食べた時も!」
「……スイーツ?」
 その単語に、隆道の肩が跳ねる。
「約束ですよー、戸次先輩!」
 さて、隆道はどんな表情をしているのだろうか。
「それにしても…… 見事に泥まみれですね」
 ほとんどを上空に居たアステリアでさえ、衣服に泥が跳ねている。
 ずっと地上で戦闘を続けていた者たちは言わずもがな。
 自ら泥地へスライディングしたカインに至っては迷彩状態だ。
「かといって、あの堀で洗うのは勘弁だね」
「あは、は。たしかに」
 南西要塞をグルリ囲む堀には、しばらくは対面したくない和尚魚が潜んでいる。
 黎の言葉に、御影が力なく笑いを返した。



 京都が天界勢に奪われ、一年以上が経過していた。
 それでも、自然だけは何物にも奪われることなく、雨は降り、風は吹き、緑は繁る。
 巡る季節に焦りを覚えないわけではない。

 2013年、7月。
 京都中京城を取り巻く八要塞の一つ、南西要塞・陥落。
 落とすべき要塞は、残りわずか。

「不当に奪ったもの、その代償は払ってもらう」
 ここからは、見えないけれど。
 この先に在るであろう残りの要塞、そして大収容所のある方向を睨み付け、明斗は決意を刻み込んだ。





依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 守護司る魂の解放者・イアン・J・アルビス(ja0084)
 無傷のドラゴンスレイヤー・カイン=A=アルタイル(ja8514)
 鉄壁の守護者達・黒井 明斗(jb0525)
重体: −
面白かった!:9人

守護司る魂の解放者・
イアン・J・アルビス(ja0084)

大学部4年4組 男 ディバインナイト
修羅・
戸次 隆道(ja0550)

大学部9年274組 男 阿修羅
約束を刻む者・
リョウ(ja0563)

大学部8年175組 男 鬼道忍軍
筧撃退士事務所就職内定・
常木 黎(ja0718)

卒業 女 インフィルトレイター
無傷のドラゴンスレイヤー・
カイン=A=アルタイル(ja8514)

高等部1年16組 男 ルインズブレイド
鉄壁の守護者達・
黒井 明斗(jb0525)

高等部3年1組 男 アストラルヴァンガード
撃退士・
アステリア・ヴェルトール(jb3216)

大学部3年264組 女 ナイトウォーカー
空舞う影・
リアナ・アランサバル(jb5555)

大学部3年276組 女 鬼道忍軍