.


マスター:佐嶋 ちよみ
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2013/05/07


みんなの思い出



オープニング


 夏の、死ぬような暑さと
 冬の冷え込みと
 祭りの活気
 それから、祖父の背中。
 私にとって祖父との思い出は、そう多くはない。


 天魔に襲われた、と報せを聞いた時は『またか』と思った。
 それくらい、よくある事なのだ。
 同僚が、新聞を手に血相を変えてデスクに来るから、面倒そうに顔を上げる。

「ゲートが出来たんだって!! 多治見駅だって! 由香の実家でしょう!?」

 それが、2月のことだった。




 岐阜県多治見市。
 避難地・古虎渓にある撃退士詰所のミーティングルーム。

「それじゃあ、僕は戻るけど。野崎さんが居てくれるのは心強いねぇ」
 宵闇の陰陽師・夏草 風太はヘラリと笑い、これまでにまとめた資料を野崎 緋華(jz0054)へ手渡した。
「御苦労さま、ビジネスマン。前例のある街だからね、火事場泥棒が出ないとも限らない――久遠ヶ原の風紀委員として、お目付け役だよ」
「怖い怖い。もう、会わないことを願うよ」
「おたくの上司に祈るんだね」
 うなじで纏めた紫紺の髪を指先で弾き、風太は冗談めかして肩をすくめた。
 長い前髪の向こう、アイスブルーの瞳は相変わらず本音を覗かせることはない。
 もとより深入りする気は無し、緋華も適当にあしらい、そうして二人は別れた。

 2月に発生した、多治見ゲート。
 先だって、コアと共に悪魔の撃破に成功した。
 完全に魂が離れていない段階でディアボロ化していた人々は元へ戻り、制御を失い野良化したディアボロの掃討戦を始めとした救助活動も続けられていた。
 そんな中、近隣企業から派遣された撃退士や、自分の領分は終わったと判断したフリーランスたちは現場を離れ始めている。
 緋華は、治安の悪化を懸念して学園から派遣されていた。
 『弱みに付け込んで法外な値を吹っ掛ける撃退士の取り締まり』そんな出来事が、あった街だから。
「土岐川から南は、だいぶ鎮圧することが出来たわ。多治見病院を確保できていたから、弱った人たちの緊急手当てもそこで」
「それはよかった」
 淹れたてのコーヒーを差し出され、緋華は椅子に腰かける。
 多治見の情報屋・陶子が、細かな現状の説明を始めた。
「撃退士の消耗が激しいけど、近隣から救援物資は届き始めているから、トントンね。それと――」
 開けた窓から、柔らかな風が吹き込む。
 ふ、と陶子が顔を上げる。
「……祭りの時期、だったのよね」
 眺めて、ポツリと呟いた。
「陶器まつりだっけ」
「一か所だけじゃなくてね。窯元による蔵出し市とか……まさに『陶器の都』」
「ちょっとだけ、間に合わなかったか」
「来年もあるわ」
「……だね」
 寂しそうな表情は、一瞬だけ。
 陶子は肩口で切りそろえた黒髪を耳に掛け、話の続きを――

「久遠ヶ原の撃退士さんがいるって本当!!?」

 ノックもなしに飛び込んできたのは、20代半ばの女性であった。




 林 由香。24歳。OL。
 簡潔に自己紹介をした後、由香は勧められた席に腰を下ろし、ミルクたっぷりのコーヒーを飲みほした。
「祖父が、ここへ運び込まれたと聞いて……会うことはできたのですが」
 落ち着きを取り戻したらしい。
 細いフレームの眼鏡に黒髪をバレッタで一つにまとめた、生真面目な印象を与える女性だ。
 由香は、静かに語り始める。
「こういった状況が、自分だけではないと承知しています。その上で、わがままを承知で、依頼をしたいんです」
 祖父は、生涯現役を地でゆく陶器職人だったそうだ。
 由香の実家は市外だが、親の仕事の都合で預けられることが多く、小学校入学まではほとんどを多治見で過ごした。
 面倒なので『実家は多治見』とすることもある。
「祖父は、強い人だと思ってた」
 振り返ることなく、黙々と仕事に打ち込む。
 二人の職人を従えて、時には声を荒げることもあった。
「けど」
 悪魔のゲート、張られる結界の中では魂ごと揺さぶりを掛ける。精神を不安定にさせ、人を人でなくさせる。
 持ち前の精神力の強弱で個人差はあるけれど、どんな人間にだって抗いようのないものだ。
 衰弱しているのは由香の祖父だけではない。
 遅れても、こうして家族が駆け付けるだけ、まだいい……そんな人だっている。
「ずっと 私の名前を繰り返して……私はここに居るのに……」
 眼鏡を外し、由香は両手を組んで顔を伏せた。
「特別扱いは難しいけど……依頼って形なら、学園へ斡旋することはできるよ。要望は?」
 よくある話。
 そう切り捨てることはできるが、ひとつひとつは当人にとってひとつだけの話だ。
 緋華は咎めず、レポート用紙に書きとめる準備をする。
「喜多緑地にある祖父の実家へ、写真を取りに行きたいんです。きっと……埋もれているはず」
「そちらの方面では、火災の情報はないわね。建物は崩れているようだけど」
 地図を確認し、陶子が情報を添えた。
「道路も生きてるわ。近辺まで乗り付けられる。ただ、現地の状況は……」
「私が覚えてます。なので」
 涙に濡れた由香の瞳が、緋華を見据えた。
「……護衛、かい」
「お願いできますか?」
「相当、リスキーだね。今じゃないとダメかい?」
 しばらくすれば、街の北側も落ち着くはずだ。
 緋華の提案に、由香は首を横に振る。
「時間が無いんです。頑健な人でしたが、今回の影響で衰弱が酷くて……。今の状況さえ乗り切れたなら、かつての祖父に戻れる可能性はあるそうです」
「そっか……」
 緋華は火を着けずに咥えていた煙草を唇から離す。
「死に損ないの爺さん一人のために、一般人のアンタと、学園の将来有望な撃退士が命を懸ける。そういう依頼でOK?」
「死に損ないも将来有望も、同じ命だと思います」
「はははっ」
 真正面から答える由香へ、緋華が乾いた笑いを上げた。
「仕事人間だった両親も2年前に他界しまして、家族は互いだけだったのですが…… 血なのでしょうね。私も、上京先で仕事ばかり」
 それで、良いと思っていた。
 それが、互いの距離なのだと思っていた。
 祖父との思い出は、そう多くはない。
 けれど――現実を、目の当たりにして。
「わかったよ、学園へ依頼として情報を送る。しかし、写真一枚で正気を取り戻せるものかね?」
「家の匂い、というものがあります。焼き物なら、写真を探す間に幾らでも発掘できると思いますし」
「なるほどね。了解」
 案外と気丈な依頼人に悪い気はせず、緋華は走り書きをしたレポート用紙を指先で弾いた。




リプレイ本文


 春の空に、ディアボロの翼が広がる。
 程なく、街中で掃討戦をしている撃退士による攻撃で地に落ちる。
 野崎による荒っぽい運転に皆が閉口する中、振り切るディアボロを車窓の後ろに眺めてErie Schwagerin(ja9642)は細い指先でガラスに触れた。
(結局何の役にも立てなかったけど、自分が関わった土地が変化するのを見るのって…… 悪くはないわね)
 エリーは、この街にゲートが展開し、結界が張り巡らされるその場に立ち会っていた。その後の、悪魔との戦いにも。
「人類の為、とは言わぬが。全ては我々の認識の甘さと慢心が招いた事態だ……」
 彼女の思考を読んだではないが、ゲート展開時の依頼に行動を共にしていたアデル・シルフィード(jb1802)が内心を音にする。
 ――もし、あの時
 多治見に関してばかりではない。
 それは誰もが何かしら、胸に抱えるものであろう。


「思い出って、とっても大事だもんね!」
 にこりと笑い、依頼人の手に自身の手を暖かく重ねるのは犬乃 さんぽ(ja1272)。
「ボクは、犬乃 さんぽ! 見ての通りニンジャだよ。よろしくね!」
「……」
 セーラー服風にカスタムれた忍装束姿に、思わず依頼人である林は深刻そうな表情のまま硬直した。笑いをこらえているようだ。
「ねぇ、林さん。今の内に、家の間取りを覚えてる限りで描いてもらうことできる?」
「間取り……ですか」
「崩れてても、大体の位置が分かればボク達も探すの手伝いやすくなると思うから」
「解りました」
 筆記用具を手渡され、揺れる車内で林はペンを走らせる。
(死に損ないとか将来有望とかなんて関係ない。こだわるものなんて人それぞれなんだし)
 そんな姿を見やり、天宮 佳槻(jb1989)は今回の任務――それを巡る感情の動きについて考えていた。
(これは正規の依頼で、無責任に価値観を押しつけて働かせるものでもない。リスクなんていつものことだ)
 それから、車を運転手へと視線を移す。
 彼女は依頼人を試すような物言いをしたという。
 依頼であるなら、助けを求める声があるなら、それをふるいにかけるような真似をする必要はないだろうに。
 佳槻なら仕事と割り切ることはできる。
 佳槻に理解できないことがあるとすれば――身内に対する思い、だろうか。
 理屈としては解る、が、共感できるかといえば、根本になるものを抱いたことも、寄せられた記憶もなかった。
(家族……か)
 泣くほどに、震えるほどに、誰かを思う。
 それが羨ましいかどうかも、佳槻にはピンと来ない。仕事は仕事。それだけだ。
 記憶を辿り祖父の実家の間取りを書く林の瞳から涙が零れおち、紙面を濡らしていた。




 廃墟群となった地域の手前で車が停まると、皆が凝り固まった体を解す。
「護衛任務ねェ……。敵が来ないと滅法暇なのよねェ……」
 春風に長い黒髪を躍らせて、黒百合(ja0422)は冗談交じりの本音を口にした。
「あまり目立つことして敵を集めるようなのは避けた方が無難かな?」
 ユリア(jb2624)は、持ち込んだ手鏡の反射で死角をなくせないか確認する。
「あらぁ……? そっちの方が楽しそうじゃなぁい?」
 黒百合、ブレることなき戦闘狂である。
「……冗談よぉ」
 固まるユリアへ、ふふっと毒気なく笑った。
「不意打ちの可能性を減らす為、阻霊符は使いたいなって思うんですけど」
「あ、あたしも大丈夫そうなら、って考えてたよ」
 佳槻の提案に、悪魔であるユリアが同意を示す。透過能力を持つユリアが承知の上であれば、問題も発生しないだろう。
「野崎さんは現地までご一緒してくれるのかな?」
「ん、場合によっては車にも護衛を付けておいた方が良いかと思ってたけど」
 狩野 峰雪(ja0345)からの確認に、野崎は軽く応じる。
「絶対守りますから、離れないでくださいね」
 依頼人のガードに徹する紫ノ宮莉音(ja6473)の声が聞こえる。
「……林さんの護衛も心配なさそうだね。あたしも周囲警戒に入るよ」
「じゃあ、少しだけ先行しましょうか」
 インフィルトレイターである峰雪と野崎であれば、敵を察知することも早いだろう。
「オーケー。異変に気づいたらすぐに―― ……どうかした?」
「あ、いえ」
 妙な距離をとる莉音に気付き、野崎は言葉の後半を彼に投げかける。莉音は慌てて背筋を伸ばす。
(美人だけどめちゃ怖そう……、なんて言えないし)
 切れ長の瞳のせいで、ちょっとした視線も睨んでいるように見えるだけ、見えるだけ。
 姉妹に挟まれて育ったことから女子とのコミュニケーションには慣れている莉音であるが、若干、緊張している。
 そうとは知らず、野崎は微苦笑して再び前方へと意識を戻していく。
「良かったら、探してる写真とお祖父さんの思い出も聞いてみたいな」
 瓦礫を軽いステップで避けながら、さんぽが林を振り返った。
「日本の伝統文化のヤキモノ職人さんだったんだよね! ボク、父様の国のこと、たくさん知りたいんだ!!」
 そこでようやく林も、さんぽがハーフであること、流暢な日本語、やや間違った日本解釈に合点がいく。 
(思い出の街が、家が崩壊してるのは、ショックが大きいと思うけど……)
 先を歩く峰雪が心情を気遣って横目に確認した頃には、さんぽの明るさに引かれる形で、崩れた街並みを指しては思い出を語る林の姿があった。
(……おじいちゃんは、とっても優しかった)
 莉音は、そんな依頼人と並び歩きながら、自身の祖父を思い出してみる。
 遊びに行くと、おばあちゃんと一緒に迎えてくれて、ローマ字の書き方を教えてくれて。
 最後に会ったのは、病室。
(寝てるのか起きてるのか、わからないおじいちゃんに、元気になってねって言ったけど……)
 もし、もし、それが叶ったら……
(叶えてあげたい)
 莉音の祖父は、他界してしまった。『元気になってね』。その願いは天へと召上げられた。
 けれど…… 隣で、泣きそうな顔をして笑っている女性は。彼女のおじいちゃんは。

「絶対元気になって貰えるよう、ボク頑張る!」
 張りきるさんぽの背を、佳槻は近くに居ながら、どこか遠い思いで眺めていた。
(愚かとか貴いといった評を付ける気にはならない。が……)
 他者に対する感情の希薄さは、佳槻も自覚するところであった。
 『薄い』自分だからこそ、守れることがあるかもしれなかった。それはきっと、悲しむことではないだろう。




 崩れかけた鳥居が見えてきたところで、林が足を止めた。
「もうすぐ、です……」
 二階建て、三階建ての家屋がそのまま残っているものもあれば、半壊しているもの、更地状態になっているものまで被害は様々だ。
「少し様子を見てこようか。……まだまだ先は長いが、借りは返そうではないか」
「あら、殊勝だこと。そうね、依頼の方に集中しましょ」
 冷やかすエリーへ口の端を歪め、アデルは小天使の翼で飛翔する。
「……急いで、探さないとね」
 与えられた時間は30分。
 探索対象は一軒家の跡地から大判の写真一枚。
 莉音が生命探知、アデルが周囲のディアボロの様子を確認し着地したところで峰雪が時間を確認し、各々の行動へ移ることとなった。


 アデルの後を継いで、ユリアが高度に気を付けながら、闇の翼で周囲警戒に当たる。
 地上では、静音・消炎機能搭載のカスタム・スナイパーライフルを手にした黒百合が家屋周辺を巡回していた。


「この瓦礫も、みんな思い出の一部だね」
 丁寧に取り除く峰雪の一言に、考えても居なかったと林が振り向く。
「とてもいい焼き物だね」
 その下からは、原型を残した美濃焼の湯呑が出てきた。
「家族とか近しい存在は、いつでも会える……という思いがあるから」
 峰雪は目を伏せ、自身の家族を想った。
 既に独立した子供たち。……他界した、妻。
「感謝を伝えたり、深く理解しようとしたり……、後回しにしがちになってしまうね」
(いざ、喪うとなると……。もっと早く、気づいていればよかったと)
 林の前では、その言葉は飲み込む。
「手遅れにならないよう…… 写真を見つけましょう」
 まだ、彼女には可能性があるのだから。
 感謝も、理解も、伝えられる可能性が。

 足場の悪さも壁走りでフォローし、家屋の奥へとさんぽは進む。
(家族写真なら、いつも見れる仕事場付近にあるんじゃないかな)
 あまり会えていなかったなら、余計に。
 居間、台所、寝室、色々考えてみたけれど、林の思い出話では、いつも祖父は『仕事場』に居た。
「元気になって貰えるよう、絶対見つける!」
 壁が崩れてふさがれた廊下を崩し、拓く。
「こっちかな、……あれ」
 写真では、ないけれど。
 見つけたのは、恐らくは仕事道具のひとつ。
「職人さんの道具には、魂が篭もってるって聞いたから…… きっと、元気になる助けになるよね!」
 それもまた持ち帰ることとし、さんぽは再び写真を探し始めた。

「あ、僕、押さえてるんで」
「おっと。アリガト」
 不安定な瓦礫の壁に対し、莉音が薙刀でフォローに入る。
 崩れそうだったそれに気付かなかった野崎がニコリと笑い―― そのまま噴出して笑った。
「怖がらなくていいよ。そりゃ、あたし誤解されやすいけど……」
「え!」
「小動物みたい」
「……がおー」
「ゴメン。男の子だよね。失礼」
 涙目で、野崎は莉音の肩をポンと叩いた。


 

 ディアボロの接近に、真っ先に気付いたのはユリアだ。
「ヘルハウンド、群れで来てます!」
 その一言で、護衛・戦闘班が周囲を固めた。
「今ここに入らせる訳にはいかないよ」
 唸るヘルハウンドへ、ユリアが銃を構える。
 屋内では、まだ探索が続いている。
 彼らもまたいざとなれば戦闘対応できるが、それでは肝心の写真探しに支障が出るだろう。
 銃口から月光色のアウル弾が放たれる。
 ヘルハウンドの肩口を掠めるも距離を苦ともせず、敵は跳躍し――
「……入らせない、と言ったでしょぉ」
 ユリアの後ろに控えていた黒百合が、スナイパーライフルで援護射撃をする!
「ふふふ…… 良い子ねぇ、どんどんいらっしゃい?」
 黒百合は3枚刃の巨大な鎌へと装備を切り替え、後続の狼へと刃を振るった。
 地上の黒百合に対し、ユリアは再び闇の翼で飛翔する。もう、コソコソする必要もない。
 狼が跳躍で黒百合を飛び越えようとするのなら、その鼻先へとアウル弾を撃ち込む。
 キラキラと、青空の下に月の光が降り注ぐ。
「……! そこ!!」
 咄嗟にHidden Moonを放つ。不可視の矢が跳躍体勢を取った狼を貫き、月の色に輝く矢がふわりと地表に現れ霧散する。
「アンデッドナイトは…… まぁいいでしょ、何回も戦ってるし」
 真っ赤なドレスを纏ったエリーは、魔法書からカードを生み出す。
「騎士様、綺麗に整列して下さらない? 順番に串刺しにしてあげるわぁ!」
 杭に針へと形状を変えたカードが、アンデッドナイトを襲う。
「連携の出来ないナイトは脆いな」
 エリーの攻撃に合わせ、アデルがルーンブレイドを振るう。
「! こっちも居たか」
「機動力、ねぇ」
 側面から飛びかかってきたヘルハウンドの牙をアデルが防ぎ、斬り払う。
「派手に動かないと避けられないよう範囲攻撃で誘導するから、みんなはその着地の時を狙ってみてちょうだい」
 時間は少ない。
 エリーの声に、黒百合が言葉なく応じ、ニンジャヒーローでヘルハウンドを誘導する。

「躾けのなってないワンちゃんには、お仕置きしなくちゃね。原形を留められると思っちゃダメよぉ〜」

 Demise Theurgia-Bloodyrage Kaziklu Bey-、エリーの魔術により与えられた姿は【串刺し公】。
 地表から血塗れの槍が幾本も突き出し、無差別に範囲内の存在を串刺しにする!
「おやおや、友人相手でも見境無しかね」
 小天使の翼で即離脱しながら、アデル。
「そのまま、動くな!」
 佳槻が呪縛陣を発動し、
「そぉれ!!」
 その上からユリアがクロスグラビティで潰す!
「これで全部かしらぁ?」
 物足りないと言わんばかりに黒百合がディアボロを数える。
「事前情報が全てでもないからな――」
 警戒は必要だ、とアデルが続けたところで、屋内で悲鳴が上がった。
「まさか!」
 入りこんでいた!?

 跳躍し、2階部分から入りこんでいたヘルハウンド――
 怯える林の前に、素早くさんぽが駆けつける。
 一触即発のにらみ合い、響くさんぽの声。

「邪魔はさせない…… 伏せっ!」

 発動した影が、無理やりヘルハウンドに伏せの体勢を取らせた。
※影縛りです

「……」
「…………」
「………………」
 峰雪、莉音、野崎、
 それぞれに言葉を失いながら、一拍の後慌てて総攻撃を仕掛けた。




 治癒膏での仲間の回復を終えた佳槻が、ようやく肩から力を抜く。
「……足りないわぁ」
「いっそ、北半分の市街地も制圧したって構わないわよね」
 戦い足りない黒百合とエリーが、燃やしたもののまだ足りない戦闘意欲を持て余す。
「依頼だから、な」
 気持ちが解らないでもないが。と、アデルが諌めた。
「お写真、見つかって良かったですー」
「あ、これ、途中で見つけたんだ。きっと、これもおじいちゃんにとって大事なものだよね!」
 笑顔と共に、さんぽは仕事道具を林へ手渡す。
「……これ」
 目にした林が、今度こそボロボロと涙を落した。
「就職して…… 初任給で、贈ったものなんです……。手に馴染まないと使えないだなんて電話で言ってたのに……」
「来年は、陶器祭で……おじいさんの作った焼き物を買いたいな」
 泣き崩れた林の肩を峰雪が優しく叩き、そしてハンカチを差し出した。


「平和が戻り始めた土地…… ねぇ」
「これからだな」
 光纏を解いたエリーが、多治見の街を見渡す。並ぶアデルも同様に、光景を焼きつけた。
 『元の姿』は知らない。
 けれど、初めて訪れた時はここまで荒れ果ててもいなかった。
 大きな戦いは終わり、そして別の戦いが始まっているのだろう。
 この街で生きる、生きようとする人々の戦い。
「誰も彼も、すべてを助けることは不可能に近い。手のひらから滑り落ちてしまうものの方が多い……。そういった人の力になれるのが、この学園の学生なのかもしれないね」
(そういえば、家どうなってんやろ?)
 莉音の実家は京都だ。
 奪還する戦いは続いているし、参加もしているが、だからと言って実家へ寄るわけではない。
(壊れてたら、アルバムとか埋まっちゃってるかな。持ってこなかったプリクラ帳とか……前のケータイとか……)
 ケータイ。
 ふっと思い出し、莉音は無言で表情が固まる。
(バッテリーに彼女と撮った内緒のプリクラが貼ってたっけ)
 青春あるある。
「帰れたら、探さな……」

 帰りたい場所。
 帰れる場所。
 帰るべき場所。
 帰ることのできない場所。

 誰もの胸に、恐らくは存在する、大切な――。

 辛くても。劣悪な状況でも。
 捨てることなく、汚れることなく抱き続ける願い。
 泥中の蓮、と呼ばれるような。





依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: ヨーヨー美少女(♂)・犬乃 さんぽ(ja1272)
 夜の帳をほどく先・紫ノ宮莉音(ja6473)
 災禍祓う紅蓮の魔女・Erie Schwagerin(ja9642)
重体: −
面白かった!:5人

Mr.Goombah・
狩野 峰雪(ja0345)

大学部7年5組 男 インフィルトレイター
赫華Noir・
黒百合(ja0422)

高等部3年21組 女 鬼道忍軍
ヨーヨー美少女(♂)・
犬乃 さんぽ(ja1272)

大学部4年5組 男 鬼道忍軍
夜の帳をほどく先・
紫ノ宮莉音(ja6473)

大学部1年1組 男 アストラルヴァンガード
災禍祓う紅蓮の魔女・
Erie Schwagerin(ja9642)

大学部2年1組 女 ダアト
魔を祓う刃たち・
アデル・シルフィード(jb1802)

大学部7年260組 男 ディバインナイト
陰のレイゾンデイト・
天宮 佳槻(jb1989)

大学部1年1組 男 陰陽師
カレーパンマイスター・
ユリア(jb2624)

大学部5年165組 女 ナイトウォーカー