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マスター:佐嶋 ちよみ
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
参加人数:10人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2013/04/01


みんなの思い出



オープニング


 鬼。
 『悪い物』『恐ろしい物』の代名詞として、しばしば利用される。
 古来より人の世界では北東の方角から鬼が入るといわれ、都には相当する位置に寺社仏閣を配置し、鬼の侵入を防ぐ役割を果たしたという。


 京都。封じられた都。
 天界勢が詰める中京城、それらの周囲に大収容所。
 更なる外側に、要塞が八――それが今の天界勢の防衛ラインだ。

 南と東が落とされ、北東へも撃退士達が進撃を開始した頃、陥落したはずの西で異変が起きた。

 京都代将である大天使、ダレス・エルサメク自らが乗り込んできたのだという。
 そこには隻眼の使徒、そしてザインエルの使徒である米倉 創平(jz0092)の姿もあった。
 今までの報告書を読む限り、相当な勢力を傾けている。
 背後となる北東要塞は城門が破られ、そのまま撃退士側の猛攻が続くように思われたが……。


 鬼の入り込む北東。
 さて、その『鬼』とは誰にとっての何であるのか。




 久遠ヶ原学園、ミーティングルーム。
 召集の内容は、北東要塞陥落戦についてだ。

「もうひと押しに、手が欲しいと要請が来た」
 京都の冬は厳しい。
 それを越え、春の足音も聞こえてきたところだが、緊張の連続に身を置いては消耗も激しい。
「前回の城門粉砕戦の結果から、常駐撃退士達のダメージも最小限に留めることが出来ている。
それでも――『足りない』そうだ」

 それだけの勢力が、北東要塞内に用意されていた。そういうことだ。

 無策に城を空けたわけではない、置き土産を準備した上であった。
「詳細は、連絡を受けている。プリントにまとめてあるから熟読するように。
雑魚は現地入りしている撃退士達で抑え込む、その間に敵の大将首を落として欲しいってことだ」
 抑え込む、そう一言にいうのは簡単だが、時間を掛けるほどに味方への負荷は大きくなるだろう。
 短時間で、爆発的な攻撃を―― それを求めるのなら、学園へグループでの参戦を依頼することに納得できる。
「鬼門封じに猿を配備していたくせにな」
 教師は説明ついでに鼻で笑った。
「待ちかまえているのは、鬼だそうだ。手ごわいらしい」
 鬼の侵入を防ぐのか、鬼を要塞内へ封じていたという意味なのか――
「所詮は、こちらの世界とは別の存在が造りだしたモノだ。
深く考えることはない。外見に惑わされず、ぶつかってくると良い」




リプレイ本文


「鬼退治と行きますか」
 愛用の戦斧を肩に、マキナ(ja7016)は要塞を見上げた。
「節分には……だいぶ、遅刻ですね……。もったいない、です」
「遅れた追儺、だね」
 水葉さくら(ja9860)の言葉に、龍騎(jb0719)は肩を竦めて見せた。
「負けぬ考は必要。ケド、勝てば負けないじゃんね?」
 子供らしくシンプルな、龍騎の考え。
 封都、と呼称を決定づけられた戦いで故郷から救出されたのが龍騎だ。
 懐かしい? 取り戻したい?
 他者から不思議と言われようが、個人的にはその感情は薄い。


 京都。封じられた都。奪い返すべき都。
 天界勢の構える八要塞が一つ、北東の門は開かれた。
 獣の叫び、鬼の咆哮が春風の向こうに入り乱れる。
 撃退士たちは武器を手に、戦闘へと身を投じた。



●道を繋げて
「この流れは断ち切らせません。鬼退治して見せましょう!」
 Rehni Nam(ja5283)が、真っ先に飛び出す。
 青白く輝く靄状の光を纏い、かざす両手より無数の隕石を大地に叩きつける。
「鬼の首、ねえ。ま、人助けとかいうよりはキョーミあるかな。……強いならもっと、キョーミある 」
 軽い身のこなしで、龍騎がヒョイとレフニーへ続き、クレセントサイスを放った。
 隕石をまともに受けた数体の黒猿に更なる追い打ちを。
 レフニー・龍騎の範囲攻撃を回避した猿たちは四方に散ってゆく。
「ちぇ、スバシッコイな」
 まとめて仕留めるとは至らず、龍騎は軽く舌打ちをしてハイドアンドシークで身を隠す。
「攻撃を受けないのが一番ですが、うまく猿を避けてください」
 黒猿の抑えに当たる龍騎と新崎 ふゆみ(ja8965)へ、黒井 明斗(jb0525)が聖なる刻印を与えた。
「鬼退治か…… こんな所で止まれるか」
 大炊御門 菫(ja0436)は共に猿対応に回る仲間たちへ守護の壁を巡らせる。――鏡花水月、儚くも堅実な盾となれ。
「道は拓く! 進め!!」
 襲いかかる猿たちの動きに合わせ、距離を詰められる前に先手を。
 爪が鋭かろうが牙が鋭かろうが、接敵しなければ攻撃を与えられないのが敵の欠点だ。
 菫は槍を繰り出し、群れなす猿を夬月で吹き飛ばす。

(預かった命、守りきる……)

 菫によって拓かれた一筋の道を、レフニーが、そして星杜 焔(ja5378)が駆け抜ける。
 戦闘フィールドに入ってしまえば、それだけで鬼の攻撃が飛んでくる。
 魔法の矢、鋭い礫、
 誰が狙われるか恐々とするよりも、懐へ飛び込め!
「束になってかかって来い!」
 明斗は槍を振るい、インパクトを叩きこむ。
「ふふん…… おさるさんたち、ブッコロ★しちゃうよッ!」
 鬼退治に向かう仲間たちの背後をきっちり守るべく、闘気解放で能力を上げたふゆみが重圧効果で機動力に精彩を欠く黒猿たちを仕留めてゆく。
 刀を振る、その動作に合わせ、金色のツインテールが鮮やかに軌跡を描いた。

 ワンテンポ、タイミングを遅らせて。
「鬼さんこちら…… って、今回は俺らが行く方やな」
 小野友真(ja6901)のアウル弾が走り、マキナが戦斧で群がる猿を蹴散らしながら鬼へまっすぐに向かう。
「皆が一生懸命努力して繋いでくれたバトン、ここで取り落とす訳にはいかへんよな。頑張ろっか!」
「後ろは任せる」
「はい!」
 振り向かないマキナへ紅葉 公(ja2931)が応じ、ライトニングで道を付けた。
(スリープミスト……は、難しそうですね)
 猿たちは一つ所に留まることをしない。
 群れるとすれば前衛へ飛びかかる時くらい。
 初手での範囲攻撃連続によって個々による行動へとスイッチしたサーバントの群れを、一つの射程圏内に収めるのは困難だ。
「だったら――」
 青鬼が遠方より放つ魔法矢が公の頬を掠めるけれど、動じることなく掌中に巨大な火球を生み出す。
「出し惜しみなしで! ズドンと行きます」
 決意を固めた公は、揺らがない。
 手早く意識を切り替え、強烈な火球を敵に浴びせた。



●そのひと口も、おそろしき
 遠目からでもわかる、青と赤の肌の鬼が2体。
 巨大な監視塔の下にたち、撃退士たちが城門を潜るなり絶え間なく遠距離攻撃を撃ちこんでくる。
「こちらは、俺が押さえるよ」
 焔は右手、青鬼へと直進する。
「さあ、おいで!」
 突出した焔に、青鬼の矢が向けられる。
(この距離、配置で……この選択か)
 赤鬼・青鬼ともに強力な範囲攻撃を持っているというが、青鬼の方が射程は短い。
 位置取りに注意し、焔は魔法の矢を防壁陣で受け止める。
「仲間達には、近寄らせない!」
 返す刃で、虹色に輝く砲弾を青鬼へ撃ちこんだ!
 勢いで、赤鬼との距離を吹き飛ばす。
 青鬼が呻き、身の丈もある金棒を手にする。
 完全に、ターゲットを焔へ絞ったようだ。
(よし、これでいい)

 二度目のコメットを放ったレフニーは、盾へと活性化を切り替え赤鬼の懐に飛び込む。
「好きなだけ吐き出せばいいのです」
 ブレスシールドを発動し、持てる力最大限で炎の吐息を抑え込む!
 完全に守りへ徹するレフニーの、銀糸の髪ひとつ焦がすに至らない。
「鬼と言えば、どうして赤と青なんでしょう……? 緑や紫では、何か不都合があるのでしょうか……」
 絵本で見たものを忠実に再現したようなサーバントの姿に、さくらは素朴な疑問を口にする。
 おっとりとした口調と裏腹に、放つ雷龍は獰猛。
 炎を吐きだしたことで動きの止まっている赤鬼へ、直撃する。
「攻撃力は鎧で守れても!! 純粋な『力』は防げねえだろ!」
 猿の群れを駆け抜けた勢いそのままに、マキナが掌底を叩きこみ、青鬼との距離をさらに突き放す!
「れふにゃん、防御宜しくな!」
 自らの射程に赤鬼をとらえた友真が一声かけ、ダークショットをお見舞いする。
「早めに落ちてくれんと、当たったら俺も痛いんよなー コレ……!」
 後方の猿は、仲間たちがしっかりと押さえてくれていること確認し、友真は立ち向かうべき相手へ意識を集中させた。
 乱戦。混戦。求められるのは早期決着。
 一太刀浴びようものなら、防御力の低い友真にとって致命的なカオスレート変動スキル。けれど、二の足を踏んでなどいられない。
(多少の無茶も必要やろ。誰も死ぬ事なく明日へ繋げられるように、未来の自分が後悔せーへんように!)
 思いを乗せて、走れ、弾丸!!



●猿が辻
(ちょっとずつ、チャクジツに……。みんながんばってるんだもん、ふゆみだってがんばるんだよっ☆彡)
 爪で裂かれ腐敗を見せた魔装だが、明斗に施された刻印の効果で早い回復に成功する。
 ふゆみは一度、猿たちと間合いを取り――
「ほらっ、これあげるっ☆」
 携帯していた、チョコレートやカロリーブロックを投げつけた。
 もちろん、敵は猿の姿をしていてもサーバント。人の食べ物に群がることはないが、
「ふゆみのチョー☆カッコイイ必殺技、くらっちゃえっ★ミ」
 宙返りからの、強烈な蹴り!!
「だーりんだって、がんばってるんだもん! ふゆみ、負けないんだからねっ☆彡」
 華麗に着地、サーバントを引きつける。鬼退治に向かっている仲間たちを、襲わせたりなんかしない!
「ちょこまかと…… よし、今だ!」
 槍で猿の動きを止め、菫が叫ぶ。絶妙のタイミングで公がライトニングで撃ち払う。
「……っ、けほっ」
 砂ぼこりに咽ながら、公は周辺の黒猿を掃討したことを確認した。
 立ち止まってはいられない。
 鬼を相手取る仲間たちへの援護だ。
「新崎さん!」
 混戦の中、明斗がふゆみを見つけてライトヒールを掛ける。
「戦いは、これからです。さあ、行きましょう」



●おにやらい
「鬼、やらう」
 遊ぶように追儺の儀の声を発し、龍騎は赤鬼へ向けて炎を散らす。
「シールド? フン、ブチ抜くまでやるだけだね」
 気配を潜めてからの方角を読ませない魔法攻撃に、赤鬼の動揺が見て取れる。
 龍騎の攻撃に対し、魔法のシールドを発動する。
「いち、にぃ…… 弾切れか」
 ファイアワークスを使い切り、残るカードはダークブロウ。敵味方識別不能の大技だ。
「これで、弾切れのはずです」
 さくらが、再びの雷龍でシールドを誘発する。
「! いくよ、言ったからね!」
 好機、到来。
 ハイドアンドシークで潜行し、龍騎は一気に前線へ。
「これで最後!」
 腕に纏った闇の力を爆発させる。
 魔法攻撃が直撃したところで、マキナがネフィリムからゴライアスへと活性化を切り替える。

「鬼の首―― 討ち取ったり」

 鬼神一閃。
 その名に恥じぬ、一撃を。



●鬼の首
 赤鬼が落ちた。
 集中砲火が功を奏したのは、黒猿を抑えていたグループから見ても明らかだった。
「次は、私がお相手いたします、です」
 青鬼を抑え続けていた焔と、さくらが壁役をチェンジする。
 『地』の力を受ける武器を活性化し、さくらの背に岩のような翼が現れる。
「物理半減鎧……ダメージを与えることは、あまり期待しませんが」
 大振りで顔面を狙うことで意識を引きつけ、反撃には防壁陣を。
 小さな体、精一杯で受けて立つ!
 焔へは明斗がすぐさま駆けつけ、回復魔法を施した。
「ありがとう、大丈夫だよ」
「でも」
「これ以上、優しくされると…… 泣くよ?」
「えっ?」
 全快しないまま青鬼へと向かってゆく焔の背に、聞き間違いだろうかと明斗は数度、まばたきをした。

「さっさと終わらせて帰りたいね」
 拳銃を手に、龍騎がぼやく。
 小さな体にはアンバランスなその銃は、まるで玩具のようだ。
「壁の人、ヨロシク」
 その言葉に、裏打ちされた信頼があるのか否か。ゲームのように淡々とトリガーを引く龍騎の表情からは読み取れない。
 恐怖心とモラルを欠いた、子供特有のそれにも思えた。
「ふゆみ必殺☆ずばばーんっ!」
 スタン狙いで、ふゆみが薙ぎ払いを掛けてゆく。
(一度でも当たれば、ボッコボコにできるよねっ★)
 鎧に任せて防御重視であるのなら、回避行動なんて取りにくいのではないだろうか。
(ダメージは与えられなくても)
 レフニーは赤鬼対応の仲間たちへ回復魔法を掛けてから、魔法書で加勢する。
 焔は防戦に徹していたから、恐らく青鬼の魔法シールドはまだ残っているはずだ。
 早い段階で誘発し、消耗させてしまいたい。
「ふむ」
 それまでの戦いを注視してた菫が攻撃の糸口を探す。
 赤鬼の時とは状況が違う。
 防御一辺倒かと思えば拳による通常攻撃も行なう。
 物理攻撃は威力半減の鎧で防がれ、魔法攻撃も威力に応じて通常防御を選択するようだ。
 ならば。
 菫は白銀の槍にアウルを収束させる。
 青鬼が金棒を振り回す、焔がパリィで捌く、鬼の半身に隙ができる。――今!

「いざ、参らん!」
 
 ――雪消月。振りぬいた槍に、魔法の陽炎が立ち上る。
「いっそ、魔法攻撃だと思われなければいいのではないか?」
 それもまた、ひとつ。

「鬼、京の都にはお似合いですけれど…… 京に巣食う鬼は、都の開闢から退治される運命です。役者を、間違えてしまいましたね」
 剣を収め、さくらは倒れた巨躯を見下ろした。



●季節の分け目
「鬼退治終了、首取ったでー!」
 要塞内に、友真の声が響く。
「敵将撃破!」
 明斗も続き、士気を上げる。
「お役に立てたでしょうか」
 公は、乾いた喉でカラカラの声をあげる。持てる力を出しつくした。
「怪我はないか?」
 援護、助かった――そう言いながら、菫が公に歩み寄る。
「私なら、大丈夫です」
「こっちも掠り傷だ。皆に大事がなくてよかった」
 学園生たちへ撤退の指令が下り、要塞を離れながら……皆の安否を確認する菫の横顔を、龍騎がじっと見つめる。
「……? 私の顔がどうかしたか?」
「……なんとなく」
「??」
 龍騎の脳裏をよぎったのは、近くて遠い血縁者。
 なぜだろう、どこか『似ている』と思ったのだ。菫が。
「久遠ヶ原では買えない物…… まだ、ここに来ても食べられナイんだよね」
「京野菜とか、どうなってるんだろうね〜」
 ふっと思い出しただけの言葉に、焔がのんびり乗っかった。
「鬼の首より、重要やんな……?」
「包丁一閃……繰り出せる日がくるのでしょうか」
 友真とレフニーが続く。
「まずは、奪い返してからだな」
「鬼退治をしても、まだまだ物語は続く、ですね」
 緩みかけた空気を、菫とマキナが引き締める。


 風は仄かに柔らかく、冬の終わりを告げていた。
(まだ、終わらない でも)
 明斗が、京都を巡る戦いへ身を投じたのは秋のこと。
 それよりも長く戦い続けている撃退士も居れば、囚われたままの人々も、居るのだ。
 鬼を、退治しても――
(いや)
 それでも一つずつ。一歩ずつ。
 進んでいる。
 護るべき者たちを、救い出せる位置まで。
 明斗は、そびえる北東要塞を振りむいた。


 どこからか、桜の花びらが一枚、風に乗り消えていった。





依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 創世の炎・大炊御門 菫(ja0436)
 BlueFire・マキナ(ja7016)
 ひょっとこ仮面参上☆ミ・新崎 ふゆみ(ja8965)
 泡沫の狭間、標無き旅人・龍騎(jb0719)
重体: −
面白かった!:7人

創世の炎・
大炊御門 菫(ja0436)

卒業 女 ディバインナイト
優しき魔法使い・
紅葉 公(ja2931)

大学部4年159組 女 ダアト
前を向いて、未来へ・
Rehni Nam(ja5283)

卒業 女 アストラルヴァンガード
思い繋ぎし翠光の焔・
星杜 焔(ja5378)

卒業 男 ディバインナイト
真愛しきすべてをこの手に・
小野友真(ja6901)

卒業 男 インフィルトレイター
BlueFire・
マキナ(ja7016)

卒業 男 阿修羅
ひょっとこ仮面参上☆ミ・
新崎 ふゆみ(ja8965)

大学部2年141組 女 阿修羅
エレメントマスター・
水葉さくら(ja9860)

大学部2年297組 女 ディバインナイト
鉄壁の守護者達・
黒井 明斗(jb0525)

高等部3年1組 男 アストラルヴァンガード
泡沫の狭間、標無き旅人・
龍騎(jb0719)

高等部2年1組 男 ナイトウォーカー