.


マスター:佐嶋 ちよみ
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
参加人数:10人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2013/03/04


みんなの思い出



オープニング


 ――自由に

 それが、最期の言葉だった。
 悪魔はヴァニタスの奔放な振る舞いを楽しみ、
 ヴァニタスは主の自由を願った。
 現実という束縛からの、解放を。
 願った末に、ヴァニタスは撃退士に討たれ、
 ヴァニタスの死にかかわらず、悪魔には遂行すべき任務が下されていた。
「自由、なんて……何処に?」
 ゲート展開を無事に終えた女悪魔が、ようやく言葉を発した。
 

 天魔被害の多い地域であることから人間達が一極集中して生活しているため、規模の小さな結界でも効率よく吸魂できる――それが、この地を選んだ理由の一つ。
 『天魔被害に慣れている』ゆえ、ゲート展開中の無防備状態を警護するディアボロが現れても、即座におかしいと判断されない――これが、もうひとつ。
 結果として、目論見は成功した。
 住民・撃退士達が異変に気付いた頃には、術式は完成していた。
 とはいえ、女悪魔自身は力を注いだヴァニタスを喪い、またゲートの展開でも消耗している。
 ……まずは『壁』が必要だ。
 本来であれば魂の収穫効率が悪くなる為、望ましくない形であるが。配下のディアボロを使って手近な人間達をゲート内へと引きずりこんだ。
 ――ゲート内で魂を抜かれた人間をそのままディアボロにし、尖兵とする。
 ゲート内部へと直接一般人をひきずり込んだ場合、魂は一瞬で引き抜かれるが、ゲートそのものに吸収されてしまいデビルの力には出来ない。だから、普段であれば行なわれない選択だろう。普通はゲート内部ではなく、その外部に展開される支配領域で拘束し時間をかけて吸収する。
 しかし、今回は事情が事情。

 ミイラとりがミイラに――などといった言葉は、喪ったヴァニタスが教えてくれたもの。
「自給自足、とも言ったかしら?」
 女悪魔に、仲間と呼べる存在が居ないわけではない。
(でも。これは……私の領分だわ)
 意地でも、全うする。譲らない。
 ヴァニタスに寵愛を注いだ挙句の自滅―― そう、笑わせてなるものか。
 


●残されたもの
 岐阜県多治見市。
 陶器の街として歴史と伝統を誇り、人々は天魔に屈することなく生活を営んでいたが……異変を感じた頃には、遅かった。
 南部郊外・古虎渓。廃墟群のあるこの場所を仮の避難地とし、結界の張られた街を臨む。
「また、来ることになるとはなぁ……」
 情報屋から要請を受けて訪れた筧 鷹政(jz0077)は、この地で終焉を迎えたヴァニタスとの戦いを思い出す。
 『刀狩』と称された、銀髪のヴァニタス。
 追い続け、遂に仕留めたのがこの廃墟群での戦闘だった。
 怒りも憎しみも、これで解き放たれ――それでおしまい、そう思っていたけれど……。
 ざわめきの向こうに見慣れた姿を発見し、鷹政は意識を切り替え歩を早める。
「陶子さん! 多治見にゲートって」
「筧君、遅い!!」
「痛い!」
 駆けつけるなり腹パンを極められ、鷹政は地に沈む。
「加減…… 引退撃退士に、加減を求める…… こんなこと、してる場合じゃないでしょうに」
「だって、本当に遅いんだから……」
 年齢不詳の黒髪の女性は、楚々とした仕草で拳を収めた。


 多治見の情報屋・陶子は面子が揃ったことを確認すると、ネットワークを駆使して集めたフリーランス達へ説明を始めた。
「これが、今までの情報。結界発生時、直近に居た加藤さんと、それから周辺住民救出のための道付けをしてくれてた、学園生の皆さんからの提供です」
 陶子の隣に立つ小太りな中年男……加藤 信吉と目が合い、鷹政は軽く会釈する。幾度か世話になったこともある、ベテランのアストラルヴァンガードだ。
 最近になり故郷の岐阜に活動拠点を移した噂は、耳にしていた。
「学園生?」
 資料に目を通しながら、久遠ヶ原の生徒が一枚噛んでいたことに鷹政は驚きを見せる。
「私の読みが甘かったの……。ただの大量発生だと思って、その時は久遠ヶ原へ救援を」
「あぁ、なるほど。それなら、今回の件も学園に要請した方がいいんじゃないのか?」
「その辺りは、筧君にお願いしてもいいかしら」
「白羽の矢、ありがとうございまーす……」
 見抜かれている。
 昨年の夏に相棒を喪って以降、鷹政はずっと一人で活動をしている。
 二流フリーランス一人にできることなど知れている。何かにつけて、学園へ助力を求めては訪れている。
 今回の件も、持ち込むには適役だろう。ついでに有益な情報も、あちらで拾えるかもしれない。
「話の腰を折ってすまない。結界は展開されて間もないんだよな」
 鷹政からの確認に、陶子は切りそろえられた黒髪を揺らし、頷く。
「ゲートの内部、つまり異世界内部に取りこまれた人々は……もう、無理だけれど。
その外。あくまでゲートが地球側に展開する支配領域、結界内で衰弱してる人達は、こちらまで退避させることが出来れば、回復していくわ」
 間に合う。
 そう、陶子が告げる。
 平素は感情を表に出さない『情報屋』は、真摯な眼差しで訴える。
「……待って。陶子さん、この悪魔……」
 資料をめくる手を止め、鷹政が声を震わせた。
 黒髪は頬の当たりで短くカットされているけれど。
 赤い瞳、赤い唇、広げられた翼の特徴―― 彼女、は。



●希うこと
「先生!!」
 鷹政は学園へ着くなり教師に事情を伝え、ここ最近の報告書を調べてもらった。

 鷹政が持ち込んだ『刀狩』の依頼、
 学園で解決した多治見――『陶子』より情報をもたらされた依頼。
 一か所、すれ違うように納められた報告書がある。
 そこから約一か月後に『刀狩』は討伐されるも、主人である悪魔は姿を見せることはなかった。
 既に、準備段階に入っていたというのか。

「ヴァニタスで引きつけ、ゲート展開の下準備をしたか――とはいっても、力を分けた配下の損失は悪魔にも計算外だろう」
 ぱたり。ファイルを閉じて、鷹政をなだめるよう、教師は言葉を続ける。
「ヴァニタスを喪った。ゲートは展開したばかり。……つけ込む隙は、今だろうな」
 支配領域と呼ばれる結界を入り、その先には『ゲート』……天魔の作りだす異空間がある。
 『ゲート』の中に『コア』があり、結界内で吸い上げられた魂はそこへ集う。
「コア自体は脆いですけど、多くの場合それを守る障壁が張られています。破壊は簡単には行かないでしょう。
敵の世界であるゲート内では撃退士達に一律の能力ダウンが課せられる。このことから、長時間の滞在も厳しい。
まず、確実な情報の入手が必要かと」
 自治体としての力が強くない土地ゆえ、外部からの撃退士達に頼ることになる。
 そしてその数は、決して多いとはいえない。少ないなりに、戦うよりない。
「そちら側の戦力は?」
「数十。といっても、全てを突っ込むわけにもいきません」
 支配領域内での救助や、避難地の警護もある。
「道付けは、こちら側で引き受けます。その分、ゲート戦を学園生にお願いしたいんです。
サポートとして、回復に加藤さんを。俺は悪魔の顔を知ってるんで、先導を務めます」
「学園なら、光信機も貸出できるし、か」
「てへ」
「良い年してやめろ、気色悪い!」
 スパン、教師が遠慮ない力で卒業生の頭を叩く。
「痛! まぁその、万が一の保険として! はい!!」




リプレイ本文


 荒れた大地を、撃退士達が駆け抜ける。
 襲い来るディアボロは両側を固めるフリーランス達が振り払い、久遠ヶ原の撃退士達は駆け抜ける。
「さぁ、初めての依頼でござる。どのような戦場が待っているでござろうか?」
 伊都(jb4312)は、力を使う場面へと思いを巡らせる。
 瓦礫を越え、橋を渡り――眼前に浮かぶ、時空の歪み。ゲートの入り口。
(ゲート…… また罪無き命を奪うつもりなのね……)
 イシュタル(jb2619)は、強い眼差しで歪みを見据える。
 争いは好まない……好まないけれど、『それを選べない者』が傷つく様子を放置する方が、よほど厭だ。

「平穏を乱すのなら、それを阻止するまでよ」

 静かに、力強く、イシュタルが告げる。それを合図に、皆がゲートへと飛び込み始めた。


「ゲート内は初めてで御座るが…… なんか気味が悪いで御座るよ……」
 静馬 源一(jb2368)は仲間たちとはぐれることのないよう立ち位置を確認しながらも肩を抱く。
「ここは魔界? 酷く懐かしいような…… いや、ゲートによる紛い物か」
 見渡し、蒸姫 ギア(jb4049)はポソリと呟いた。
 血のように赤い大地に、何処までも続く赤い花畑。
 見上げる空は目に痛い黄、ずっと遠くに銀色の穴――満月がプカリと浮く空間。
 ここが、名も知らぬ悪魔の造りし『ゲート』内部。
「力が抜けるような感覚…… このゲートの内部って奴、ギアどうも昔から好きになれない」
 撃退士・天使・悪魔の種族を問わず、ゲートは『敵』と見做した対象の能力を低下させる。
 それは、撃退士達が扱う魔具や魔装の許容量にまで影響する――普段であれば支障なく振るえるV兵器にも、制限が出てくる。
「この纏わり付いてくるような感じが嫌だよね」
 天使にしてアストラルヴァンガードである白鳳院 珠琴(jb4033)にはカオスレートの反発が大きく、一撃が珠琴には大きな意味を持つ。当たっても、受けても。
「筧さん、加藤さん。よろしくお願いします」
「ん、よろしく片瀬君。こっちも出来る限りフォローするから」
「気絶しようものなら、片端から【神の兵士】で叩き起こすでの」
 片瀬 集(jb3954)へ、先陣を切る筧と後衛の加藤が頼もしく応じる。
「おー! 俺、頑張って父さんに良いとこ見せるんだぞ!」
 ゲート内の不穏な気配を振り払うのは、彪姫 千代(jb0742)だ。
「千代は、元気だなぁ」
「父さんは元気ないのかー?」
 千代が筧と出会ったのは、学園のクラブでの事だ。
 両親を知らない千代が、ギリギリ適正年齢の筧を父と呼ぶようになるまでに時間は要さなかった。
 しかし、こうして戦闘任務で肩を並べるのは今回が初めて。
 千代が気負うのも当然かもしれないし、間接的な仇と対峙するであろう筧の雰囲気が少しだけ柔らかいのも、千代の存在があるからかもしれない。
 自分を慕ってくれる存在が無為に傷つく姿など、誰だって見たくはないし見せたくもない。
「……成程、力を削られている感じだね……。損耗しきらない内に役目を果たさないと」
「時間制限があるとはいえ、必要以上の損耗は避けねば戻ることもままならん」
 鳳 覚羅(ja0562)の懸念に、フィオナ・ボールドウィン(ja2611)は頷きを返す。
 往路で力尽きるわけにはいかないのだ。
(悪魔にも考えがあって、やり方があって、意地があって、……仕方ないんだろーけど、少しだけ思い切り走りづらいのだ……)
 作戦決行が叫ばれる中、フラッペ・ブルーハワイ(ja0022)は少しだけ表情を曇らせた。
 先の報告書に目を通せば、このゲートを造りだした悪魔も、小さくない代償を払っている。
 人間達だって、大きな犠牲を払っているけれど……
 フラッペは、大きく首を振る。
 今は、専念しなければ。
 走らなければ。




 まったく未知の領域で、下手に分かれて動くことは命取り。かといって無策に固まったとて恰好の的でしかない。
 フレキシブルに対応できるよう、形式上の2班編成で進む。
「あれが……アレクト」
 上空を旋回する灰鳥は情報通り、攻撃を仕掛けてくる様子はない。
「仕掛けてきたらその都度の対応でいいのではないか?」
 灰鳥を横目に、フィオナはゲート奥へ進むことを提案する。
 避けられる戦いであるのなら、今は回避が最善だろう。能力20%ダウン、と文字で読むのと体感するのとでは随分と違う。
 愛用のV兵器でさえ、生命に影響を与えているメンバーも居る。
 提案に反対の声はなかった。多くが、同様の事を考えていた。
「では、敵がいるかいないか、偵察してくるで御座る!」
 視界は開けているが、悪魔の掌中に飛び込んでいる以上、目に見えるものだけを信じていいのかも疑わしい。
 源一は遁甲の術で気配を消すと、無音歩行で先を行った。
「……潜行してるのに、頭からマントにくるまる必要はあるんだろうか」
 集の呟きに、誰もがそっと視線を逸らした。言いたいことは解る。
「んー、このゲートの中で動いているものは、ボク達以外は魔界のものだと考えて良いんだよね」
 珠琴は後方で、できるだけ視界を広くとる。
 普段の防御力も、ここではあまり活かせない。むしろ、相反するカオスレートを利用して攻撃手に回る方が良い。
 で、あれば先手必勝――

「来たで御座る! ええっと、ここから二時の方向で御座る!!」
「アンデッドナイトか…… 連携が脅威となる距離に踏み込ませねばよいだけの話ではないか」
 源一の報告に、フィオナを始め皆が臨戦態勢に入った。
「物理系では同時破壊、了解なのだ!!」
「毒蛇も厄介だけどね。専念できるうちに、やっつけるか」
 フラッペは用意していた筆記用具で素早くマッピング・敵の出没方向をチェックしてから、影を見せたアンデッドナイト達に銃口を向けた。
 集も、後方からクロスボウを構え、先制の一矢を放つ。
 騎士を名乗るに相応な、迅速な動きで接近してくるアンデッド。
 後方部隊が、先陣の剣士へ集中砲火を浴びせる間に、前線部隊はその奥の弓兵へ攻撃を掛ける。
「ははっ これは良い連携だね、面白い」
 筧は大太刀を振るい、アンデッドナイト達との間から飛び出してきた毒蛇を振り払うように切る、それが混戦突入の合図となった。
 ――能力ダウン? それがどうした
 戦う力は抑制されても、思考能力まで落ちるわけじゃない。
 低下するなら、それなりの戦いがある。
 源一の潜行により、確実に先手を取り、遠方からダメージを与えた上で乱戦に入れるのは大きい。
「時間が惜しい。速攻で行くぞ」
 召炎霊符での攻撃を行なっていたフィオナは、剣士と槍兵の接近を認めた段階で【円卓の武威】により、槍兵の方を吹き飛ばす。
 もとよりフラッペ達の攻撃でダメージを重ねていたところだ。アンデッドは光の力で散って行った。
「弱気な事ばかり言っていられないで御座るよ……」
 源一も雷神の名を冠した大剣を手に、剣士へと斬りかかる。
「うっ、く……っ」
 腐っているように見えるのに、表皮が硬い。剣を握る手が痺れる。
「大丈夫、ひとりじゃないわ」
 反対から、イシュタルがイオフィエルでもって援護に当たる。
「行け、蒸気の式よ!」
 そこへ、鋭くギアの一声。
 雷帝霊符による金色の刃が源一をイシュタルの間を走り、アンデッドナイトを貫いた!




 アンデッドナイトの一団を退けた先からは、毒蛇、再びのアンデッドと息つく間もなく戦いが続く。
「血は知と也て、天魔降伏する利剣と成らん……」
 覚羅は剣に血文字の印を書き術式発動の祝詞を唱え、遠距離サポートから接近戦へと切り替える。
「これは……面倒だ。一気に行くよ、巻き込まれないように気を付けて」
 覚羅とは逆方向から、迫りくる毒蛇に対して、集はスイと前に出て炸裂陣による爆発で蹴散らす。
「っ、――」
 隙をついて噛みついてきた毒蛇の攻撃を防ぎきれず、伊都が硬く目を瞑る。それは一瞬だけ。
「……刃凰流の冴えを見よ!」
 引かず、太刀を振るって再度の攻撃を防ぐ。
「推して参る!」
 動じることなく、堅実に。
 恐らく、ゲート内でなければ苦戦するような敵ではないに違いない。
(少しでも、近付いているので御座ろうか)
 空気が重苦しく感じるのは、毒が回っているから?
 伊都の足元がよろめく、その頬をアンデッドナイトの矢が掠めた。
「そら、若いの。まだ寝るには早いぞ」
「伊都君、大丈夫? ボクがすぐ傷を直すんだよ♪」
「おろ……?」
 気絶しかけたところで、加藤の【神の兵士】が伊都をすくい上げ、続けて珠琴がライトヒールを掛ける。
「なんだか、アンデッドになった気分で御座る……」
「……死んだら終わりなのよ?」
 イシュタルの一言に、伊都は何度も首を縦に振る。
 運が良かった、確かにそれもあるだろう。
 運が良かったのだ。こうして、即座に連携の取れる仲間たちと臨むことが出来たのだから。
「ここは、と……」
 少し、戦況が落ちついただろうか、珠琴の他にイシュタルも回復手に加わり、酷い傷の応急処置に当たる中、ギアやフラッペは情報を簡単に取りまとめていた。
 ゲート入り口からのマッピング。
 といっても、身を隠す物などないだだっ広い花畑で、方向感覚が狂うことこそ心配だ。
 漠然と敵襲に対処しているだけであったら、満足な情報を持ちかえることは出来なかったであろう。
 都度都度で源一が潜行で敵の方向を伝えてくれたから、これまでのルートを描くことができている。
「残り時間はどれくらいだ?」
「あと10分と少しくらいだろうか。時間制限内にゲート内部・コア、悪魔の確認をしておきたいが」
 フィオナと覚羅は言葉を交わし、これからの方向性を考える。
 コアまでの距離が判れば、ゲートの規模も知れる。
 コアを守る障壁がどういったものか、悪魔と交戦は無理であってもどのような存在か……そこまで知ることが出来なければ調査として成功とは言えない。
「父さん……縮地を掛けて欲しいんだぞ」
 二人の会話を聞いていた千代が、筧へそう申し出た。
「【隠虎】と【黒猫】で、単独でコアを探すぞ」
「千代……、けど、それは」
「縮地を掛けてくれなかったら全力移動するぞ」
「まさかの脅し!?」
「それなら、ボクも行くのだ。二手に分かれれば見つけやすいし逃げるのも楽なのだ」
「フラッペさん……、あっ。阿修羅か!」
「しかし、最速のガンマンなのだ」
 左手で帽子を押さえ、フラッペは不敵に笑って見せた。
 巧みに銃火器を操るものだから、すっかりインフィルトレイターだと思い込んでいた筧である。
「光信機は学園から借り受けしている。どちらかがコアや悪魔を発見したら、退避なり合流なりすることで問題ないだろう」
 残ったメンバーで、正面切って進んで行けば、敵はほとんどそちらへ向かうはず。
 単独行動は、より安全になる。
 フィオナも頷き、陽動を買って出る。
「わかった。それじゃあ、本隊は加藤さんに任せる。俺は千代とフラッペさんのフォローに動くよ」
 意見がまとまったところで、筧はサポート先を変更する。
「皆で生きて帰ってくるのが前提でござるよ」
「もう【神の兵士】は使いきったからの。最後はお嬢ちゃんを担いで帰ることになる」
「御免で御座る!?」
 加藤にからかわれ、伊都は飛び上がった。
「なんだかんだで、奥まで進んでこれたようだな。鳥さんも無反応ってわけにはいかないようだ」
 覚羅が上空のアレクトに異変を感じたところで、ラストスパートは始まった。
 任務を成功させるために。
 全員が生きて、多治見の街へ戻るために――
「行くよ、千代」
「おー!」
 筧が縮地を掛けると同時に、虎が如く千代は駆けだした!


 ばさり、上空の灰鳥が翼を広げる。
 デカイ的だ、と集中攻撃をものともせず、集団へ向けて滑空を仕掛けてくる――!
「ふん。捨て身の攻撃など、所詮、切り捨てられるだけにすぎん」
 フィオナがパリィで捌き、攻撃範囲外にいた覚羅がカーマインで翼を絡めたところで、集がクロスボウを撃ち込んだ。
「指示を受けてるというより、縄張りなのかしら?」
 イシュタルは光の翼を展開し、尚も残る上空のアレクトに挑む。
 地上からの援護が届く位置へ誘導しながら、一撃離脱の範囲をキープして攻撃を掛けた。




 ジェットレガースを活性化し、【Stride『BlueHawaii』】でフラッペは駆ける。
 蛇が跳ねようが虫が飛ぼうが、一切気にせず振り切る勢いで。
(丘になっていたのだ)
 目がチカチカするような色合いの世界、その奇特さに気を取られていたが、真っ平らな平原ではなかったようだ。
 なだらかな丘陵を登ると、更に頂上は窪んでいる。
(……あれが)

 ――あれが、コア?
 
 フラッペが息を呑む、ふと気配に気づき顔を上げると、同じように判断に困った千代がいた。
 
 蔦状の植物が、1mにも満たない真っ赤な花を囲っている。
 まるで鳥籠のようだ。
 そして、その蔦は……一人の女性に繋がっていた。正しくは女悪魔、だろう。
 頬の辺りで揺れる黒髪、赤いという瞳は今は伏せられており、黒い翼も畳まれている。

「……来たのね? 久遠ヶ原の撃退士さん」

 悪魔は、目を伏せたままで艶やかな唇を動かした。
「キミは…… 誰、なのだ? ボクはフラッペ、フラッペ・ブルーハワイ」
「律儀な子ね。私は―― そうね、隠す名前でもないわ。ディアン=ロッド。覚えておいて。貴方達の首を落す悪魔の名前よ」
 その一言に筧は凍りつくが、その理由を隣の千代は知らない。
『――…… 久遠ヶ原の、撃退士だ。いずれ、お前の首を落とす子たちだよ』
 かつて筧は、まったく同じ言葉を、ディアン=ロッドのヴァニタスへ投じていた。
 意図的な台詞なのだろう。

「ふふ。『他愛ない』わね?」

 ――逃げろ、

 筧が千代とフラッペの手を引き、走りだす。
 刹那、爆発的な魔力が周囲を襲った。
(……ごめん、キミ。ボクはボクの自由の為に、キミと戦わなければいけないのだ……)
 光信機で主力部隊へ状況説明をする中、複雑な思いがフラッペの胸に渦巻いていた。




 ゲート突入より、ジャスト30分で撤退開始。
 総力戦により、ほとんどがボロボロになりながら、ひたすらに入り口を目指して駆けた。
 生きている。
 それでも全員、生きている。

「辺りを包め蒸気の式、そこに写る幻で惑うがいい…… さぁ、今のうちに」
 ギアが奇門遁甲で道を塞ぐ敵に幻惑を掛け、退路を拓く。
 再度気絶した伊都は筧に背負われ、途中で意識を取り戻していた。
「筧殿、ちょこを欲しがっていたと聞いたでござるよ〜?」
「すごいマイペースだな!!?」




●報告書
多治見ゲートについて
・規模 約半径1.5km程と思われる
・特徴 地表は毒蛇の潜む花畑だが、なだらかな丘陵となっており、頂上に窪みあり
・コア 中心部の窪みへ隠れるように浮いており、蔦状の障壁で覆われている 蔦と悪魔は繋がっており、そこから力を注いでいるようにも思える
・悪魔 ディアン=ロッドと名乗る、ヴァニタス『刀狩』の主
撃退士達の撮影した写真も提出する。



依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 『天』盟約の王・フィオナ・ボールドウィン(ja2611)
 正義の忍者・静馬 源一(jb2368)
重体: −
面白かった!:5人

蒼き疾風の銃士・
フラッペ・ブルーハワイ(ja0022)

大学部4年37組 女 阿修羅
遥かな高みを目指す者・
鳳 覚羅(ja0562)

大学部4年168組 男 ルインズブレイド
『天』盟約の王・
フィオナ・ボールドウィン(ja2611)

大学部6年1組 女 ディバインナイト
撃退士・
彪姫 千代(jb0742)

高等部3年26組 男 ナイトウォーカー
正義の忍者・
静馬 源一(jb2368)

高等部2年30組 男 鬼道忍軍
誓いの槍・
イシュタル(jb2619)

大学部4年275組 女 陰陽師
焦錬せし器・
片瀬 集(jb3954)

卒業 男 陰陽師
大切なものは見えない何か・
白鳳院 珠琴(jb4033)

大学部2年217組 女 アストラルヴァンガード
ツンデレ刑事・
蒸姫 ギア(jb4049)

大学部2年152組 男 陰陽師
撃退士・
伊都(jb4312)

大学部3年175組 女 阿修羅