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マスター:佐嶋 ちよみ
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
形態:
参加人数:8人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2013/02/04


みんなの思い出



オープニング


(間に合う、か……?)
 東の方角を見やり、米倉 創平(jz0092)は奥歯を噛む。
 東要塞への増援送りこみは、裏門を撃退士に抑えられてしまいままならない。
 とはいえ、消耗戦となるだろうが時間の問題で押し切ることは可能だろう。
 それまでの間、監視塔内部のサーバントへの指令を変更した。
 単純とはいえ司令官の指揮能力さえあれば、時間稼ぎが出来る。
 増援サーバントが裏門を突破すれば、改めて陣を敷き、東を立て直すことが出来る。
 東西南北、四方向から撃退士達が攻撃を始めているが、どれ一つとして甘く対応するわけにいかない。
 どれ一つとして捨てるわけにはいかない。
(しかし、最悪――)
 最悪の場合。
 考えたくはないが、考え、手を回すのが己の務めだ。
 米倉は思考を巡らせる。



●司令官撃破戦
 増援を抑え、監視塔の調査をしている東要塞攻略部隊から、至急の応援要請が入った。
 要塞に異変が起き始めたというのだ。

 急遽ミーティングルームへ集められた撃退士達を前に、教師が説明を始める。
「監視塔については、調査結果が提出されている。中はガランドウ、吹き抜けで中央部分に一本、螺旋階段が伸びているだけだ」
 そう言って、スクリーンに現地から送信された画像を映し出す。
 明かり取りの小窓があるだけの、監視塔内。
 薄暗いが、視界に支障をきたすほどではない。
 内部左右に足場が突き出ており、そこにサーバント達が控え、階下を睨み据えていた。また、足場とは無関係に内壁には巨大蜘蛛が張り付いている。
「3階構造になっていて、一番上が司令官のようだな。
画像では解りにくいが、龍の紋様が入った鎧を付けたサブラヒがいるらしい。恐らく、そいつがボスだろう」
 高見の見物をし、サーバント達に指令を与えていた上級サーバント。
 要塞一つに据えられるのだ、相応の力を与えられているのだろう。
 おあつらえ向きの階段は、人間一人がようやく通れるだけの幅である。
「異変が起きた、というのはな…… 調査のため、幾度か内部侵入を試みていたらしいが、1階を護る巨人が――」

 螺旋階段を壊すそぶりを見せ始めた。

 高い知能を持たないサーバントだ、指揮官による単純な指令なのだろうが、それが今までと変わったことを示している。
 それまでは、単純に外敵の排出だけに動いていたというのだ。
 階段を壊す、つまり撃退士による司令官の撃破を防ぐ。あるいはその時間を稼ぐ。
 稼いだ時間で――?
「現在、現場の撃退士達は要塞の裏門で増援サーバントの足止めに掛り切りということだ。それで諸君らに、監視塔攻略の要請が来た」
 押し寄せる増援。
 入るなり破壊されようとする階段。
 与えられた時間は、決して多くない。
「どの程度の力で階段が壊れるか、それは壊してみないとわからない――などと、冗談のような返答しかできないのが情けないが事実だ。
要塞の外壁や扉も、天界の技術で加工された素材で作られているということだからな……。
ただし、監視塔内部の敵は報告に上がっているとおり。階段を壊すだけの馬鹿力があるのは巨人だけだろう」
 とはいえ、配置された敵たちは、いずれも曲者がそろっている。
 個々の能力、敵の特性を読み切っての作戦が必要となるだろう。



リプレイ本文


 声が聞こえる。
 戦いの音が聞こえる。


 京。
 天界勢に制圧された都。
 しかし時間をかけ、人間の手に戻さんと、ここまで追い詰めてきた。
 彼らの拠点である中京城。そして力の源にされてしまっている大収容所。
 それらを取り巻く、八の砦が一つ、東要塞。

 城門は破壊され、要塞敷地内の敵は掃討、あるいは中心の監視塔へ逃げ込み、あるいは裏門へ。
 陥落も近いというところで送り込まれてきた増援部隊は、常駐して警戒に当たっている撃退士達が裏門で必死に押しとどめている。


 与えられた時間は、決して多くない。
 たった8人の撃退士達は、これまでの多くの撃退士達が越えてきた・切り拓いてきた道を進み、眼前にそびえる塔を見上げた。


 風が強い。
 戦いの声も 音も 全てが流され、届き、そして去ってゆく。



●長き道を越えて
(皆が頑張って、ここまで来たんだ。……落としてみせるよ)
 桜木 真里(ja5827)は、揺らがぬ瞳で決意を固める。
「ここは確実に落とそう、京を取り戻すんだ!」
「……ちょっとした大一番か。気合入れてかないとな」
 久遠 栄(ja2400)の声に、千葉 真一(ja0070)が拳を鳴らす。
 八ある砦の、一つに過ぎない。
 しかし、一つも落とせず何が出来る?
 一つを落せば、何が出来る!!
(確かに難関だが、皆と力を合わせて必ず突破してみせるぜ……!)

「天・拳・絶・闘、――ゴウライガぁっ!!」

 真一は、強く覚悟と気合を込めて光纏。
「この戦力で敵の要塞を攻略ですか。……まあ、お仕事ですから、やりますけどね」
 対して、肩をすくめるのはエイルズレトラ マステリオ(ja2224)であった。
 塔の内部へ入りこめるのは、たった8人。
 得ている情報だけでも、敵はその倍も居るという。
 感情論だけでは、どうにもならないことがある。
 流されないよう、戦局をキチンキチンと見極めていかなければ。
「ここを攻略したら、東側は優位に立てるですか?」
 天羽 伊都(jb2199)は、そんなエイルズレトラに訊ねた。
「えぇ、それはもう。――攻略、出来たなら」
「だったら、攻略するですよ♪」
 エイルズレトラの含みに気づくこと無く、伊都は天真爛漫に拳を握る。
「狭い場所ならスネークバイトが有効かな……」
 突入に向け、若杉 英斗(ja4230)は今一度、装備の確認。
 愛用の武器は幾つかあるが、『竜牙』と名付け、改造も加えた得物を選ぶ。
「指揮官撃破による監視塔制圧、これを最優先として良いのですよね」
 アステリア・ヴェルトール(jb3216)が、作戦の最終確認をした。
 悪魔であるが、お嬢様育ちで温和な物腰だ。
「効率よく行きましょう」
 短く、エイルズレトラが頷く。
 厳しい戦いとなることは、目に見えている。
 だからこそ、全員で意識を共有し、目標を素早く打ち崩す。
 少ない戦力で、効果的に。
「ここを取り戻した時、皆が一体どんな顔をするのか。……それを見るのも一興だよね」
 七ツ狩 ヨル(jb2630)が静かに呟いた。
(人と天魔の争いなんて、どうでも良いって思ってるけど)
 ヨルは、先の要塞内突入戦にも参加している。
 現地で戦い抜く撃退士、そして京を取り戻さんと息巻く学園生たちと共闘した。
 その経験は、ヨルの心に少しだけ、変化を与えた。
 『目標達成』――そんな言葉が、ヨルの胸に浮かんでいる。

 皆――
 要塞を落とされた天界勢。
 今回はここへ来れなかった、かつて共闘した学園の撃退士達。
 自分は知らない、この街に思いを残した人間達。
 皆、どんな顔をするだろう。



●そびえし塔を駆け上がれ
 監視塔の扉自体は常駐撃退士達の力によって既に開閉自由となっており、用意が整った段階で飛び込んだ。
 薄暗い、が――資料にあった通り、視界に影響を与えるほどではない。
 冬の寒さ、石造りの冷たさで、シンとした空気が張り詰めている。
 なるほど、中央部にまっすぐと――頼りなげな、螺旋階段が最上階まで伸びている。
 あれが自分たちにとっての『蜘蛛の糸』であるか。


「エイルズ、俺たちが戻るまで頼むぜ!」
 真一の声が、塔内に反響する。
「努力はしましょう。タイムリミットにご注意を。――さぁ、ショウ・タイムと行きましょうか」
 一歩、踏み出すごとに地響きが。
 近づいてくる2体のシルバージャイアント。
 側面へと駆けだしたエイルズレトラは、アウルの力で薄闇の中・スポットライトを作り出す。
「一発でももらうと、キツそうですね」
 ニヒルに笑い、注目効果で引き寄せる。
 たった一人で、巨人二体を相手の囮―― 厳しくないといえば、嘘になる。
 しかし、ここは自分が最上の適役だ。
「大将首はお侍さん達に譲るとして、忍者は忍者らしく影の功労者を狙いますか」
 空気を震わせ襲い来る剛腕をヒラリと避けて、エイルズレトラは感情無き巨人を見上げた。


 まるでプログラミングをされたロボットのように、巨大なサーバントは情報通りに動いている。
 低知能の精一杯といったところなのだろう。
「階段は、破壊させないのですよ!」
 破壊行動を止める位置へと、伊都が滑り込む!
 まずは最上階へ続く道を確保すること。それを塞ぐ敵を、真っ先に倒すこと!!
 フロアに入るなり、2階からはハルピュイア達が矢を射ってくる。
 身を隠す場所など無い。長く留まることは危険だ。
 矢を回避しながら、伊都はシルバージャイアントに攻撃を仕掛ける。
「これで少しでもダメージが増えれば……!」
 温度障害狙いで、真里がフレイムシュートを放つ。
 金髪のハルピュイアによる物理属性の矢は真里にとって脅威だが、だからこそ、眼前の敵へ集中!
(通れ!!)
 白銀の巨人を、炎が包む。
「魔法の方が、防御は低いか……?」
 能力調査も兼ね、間合いを詰めた英斗が竜牙で斬りつける。
 真里の攻撃のお陰で、物理でも攻撃はそれなりに通りやすいようだが、バッドステータスが通ったことからも、この手合いには魔法攻撃が効果的なのかもしれない。
「てりゃああああっ!!!」
 巨人が、伊都から英斗へと体の向きを変える、その隙をついて、真一が華麗な雷打蹴で飛びかかる!
 振り向きざま、もう一体のシルバージャイアントを、エイルズレトラがしっかりと引きつけている様子が視界に入る。
(これで、地上の敵の行動は全部引きとめたな!!)
 あとは短い効果期間に、どれだけ攻撃をブチ込めるかだ!
 シンプルな状況の完成に、真一の瞳がキラリと光る。

「ふふ…… 敵は、地上だけだと思いましたか?」
 
 魔龍の偽翼を展開したアステリアが、吹き抜けの上空から両刃の直剣を振り下ろす。
 2階に待ちかまえるハルピュイア達の矢が黒焔の翼を掠めるが、アステリアの体を傷つけるには至らない。
 広くない塔内を立体的に動くには、あちこちに罠が張り巡らされているようなものだ。気を配り、小回りを利かせ機敏にアステリアは飛翔する。
 アステリアが飛行することで、壁に張り付いている蜘蛛たちにも動きが見え始めている。
 翻弄するように舞い、アステリアは剣を振るう。
「これは……楽だね」
 味方が全力で敵の注意を引きつけ、判断を鈍らせてくれている。
 ハイドアンドシークで身を隠すヨルが、神出鬼没に確実にダメージを与えてゆく。
「やらせるか!」
 最大出力攻撃のモーションに気づいた英斗が、シールドバッシュでそれを防ぐ。
「よそ見してる場合じゃないぜ?」
 巨人が攻撃を打ち消されたところへ、栄がとっておきのダークショット。

「……今だ! 水晶閃ッ!!」

 英斗が畳みかけ、シルバージャイアントを撃破した!!
 ――が、安心するには早い。
 次いで、一人で2体を引きつけているエイルズレトラの援護だ。
「おし、次だ!」
 チャージアップで能力を高めた真一が叫ぶ。
「一体ずつ確実に行くぞっ」
 視界を広く持ち、栄は次の標的を定める。
 階上からは雨のように矢が降り注ぐ、とはいえ上の敵は4体。こちらは8人。
 足を止めることなく固まることなく、かすり傷を厭わず、進む。




 ふぅ。
 エイルズレトラは、小さく息を吐き出した。
 疾風の効果で微かに回復し、回避値も上昇。
 巨人に挟まれ、避けそこなって喰らった一打は小さく無いが、これで少しは再び時間を稼げるだろう。
 足を止める暇も無く、薄闇の中を動き続ける。
「――……!?」
 味方が階段周辺で一斉砲火を浴びせている中、小さな異変。
 見ると、エイルズレトラが相手をしている巨人の一人が、身動きを取れないで居る。
 その足元には、アウルの力による無数の『手』……

「大丈夫?」

 向こうの火力は十分と、サポートに駆けつけた真里による、異界の呼び手!
「……面白い事をしますね」
 これには、エイルズレトラも自然と笑みを浮かべた。
 ショウ・タイムの効果は依然として効いている。
 そこへ、ギチリと束縛されたシルバージャイアント。実に滑稽な姿だ。踊れないピエロだなんて。

「行くよ」

 闇に紛れ、ヨルの声。
 炎の狂想曲が、縫いとめられた巨人を襲う!
(うん、魔法の方が効くみたいだ)
 続け、ひらりと体を返し、もう一体へも同様に。
(裏門でも、ずっと戦いは続いてる…… 出し惜しみなしで、できるだけ早く叩きたい)
 階段破壊を止めることに成功した以上、監視塔攻略に関しては急ぐ必要はないように思える。
 しかし、東要塞全体を考えれば?
 わざわざ『8人』を学園から呼び寄せた理由を考えれば?
 『指揮官撃破による監視塔制圧』自分達は、目標をそう絞り込んだ。
 その意味を忘れちゃいけない。
 ないがしろにしちゃいけない。

「前線は任せろ!!」
 魔法攻撃が、巨人には有効打。
 そうとわかれば、真一は前線で相手の動きの押さえに回る。徹しで持てる限りの攻撃を叩きこみ、後方から援護がしやすいよう、隙を作ることを意識する。
(無心に…… 射るっ)
 呼吸を整え、栄がアウルの矢を放つ。
 神経を研ぎ澄ませた精密狙撃は、的確に巨人の頭を貫いた。
(視界を潰すことが出来れば……)
「おぉっと」
 予測していなかった攻撃に動揺した巨人が闇雲に腕を振り回すも、エイルズレトラは軽快に回避。
「一矢で指令スイッチが切れましたか? アクシデントに弱いだなんて、とんだポンコツだ」
 揶揄したところで、そのポンコツとて当たれば痛い。身をもって知っている。
「行きます……!」
 雷帝霊符へと攻撃手段を切り替えた英斗が、栄に続き、雷の刃を走らせた。

「もうひと押し、だな―― くらえっ!」
 真一が、再度の徹しを叩きこむ!!




 一局一局に集中し、かつ同時に少数で次への道を拓く。
 階段妨害の巨人を倒した後、一方は残る2体の殲滅へ。
 そしてこちらは、階段を上る前に射程を活かし、届く限りの敵を撃ち落とすために立ちまわっていた。


(数の上なら相手が優位。BOSS戦前に、できるだけ手駒を減らすです……!)
 2階との間の壁に張り付いていたホワイトスパイダーが、戦いを感知して這い降りて来る。
 伊都は刀を構え、巨人と戦っている味方たちへ向かわないよう相手取る。
「うわっ!?」
 壁、そして地上へと降りた途端に、ホワイトスパイダーの移動速度が上がり、伊都は驚きながらも噛みつき攻撃を紙一重で回避した。
 粘糸による束縛攻撃が先に来ると思ったら――否、ここからか。
 カサカサと足音を立て、蜘蛛は白い糸を吐きだしてくる――!
「麻痺や束縛ってやっかいだね……」
 粘糸の回避が主体となってしまっていた伊都へ、真里がライトニングでサポートに入る。
「桜木さん! 巨人は大丈夫なのですか?」
「残り1体。向こうは大丈夫だよ」
 会話の合間に、オートマチックに持ち替えたヨルが放つ、アウルの弾丸が走る。
「蜘蛛は……厄介。きっと。前より強くなってるなら……尚更」
 潜行状態を維持したまま、攻撃の手を止めずにヨルは囁いた。


「休む暇などありませんね!」
 シルバージャイアントを全て打ち果たした後、エイルズレトラは壁走りで動かぬ蜘蛛に立ち向かう。
 ホイホイと向かってくる蜘蛛も居れば、微動だにしない蜘蛛も居る。その違いはなんだろう。
 しかし、深く追及している時間は無い。
「避けてばかりじゃ、なまります」
 散弾銃で、先制攻撃。放たれるのは、アウルで形作られた切れ味鋭いトランプカードだ。
「蜘蛛の糸を断ち切るのには、なかなか良い趣向でしょう?」
 後方から、英斗も雷刃で加勢する。

「援護するっ!」

 側面から壁を這い、エイルズレトラへ襲いかかる蜘蛛に気づき、栄が回避射撃を放つ。
「こいつらの『スイッチ』はどこなのでしょう……っ くぅっ」
 間一髪回避、その着地を狙い、真っ先に攻撃を仕掛けた蜘蛛が粘糸でエイルズレトラを束縛してきた。
 たとえばシルバージャイアントは頭部を砕けば指令が無効になる。
 そんな指令『スイッチ』。
 敵の攻撃を読み、回避をしながらもエイルズレトラは思考を続けていた。
 ただ漠然と囮をするだけだったら、カカシにでもさせておけばいい話なのだ。
 味方の力となるために―― 考えろ。考えろ。
「ゴウライブラストだ、喰らえ!」
 ライフルに装備を切り替えた真一が、派手に攻撃をブチかます。
 英斗との集中攻撃で、エイルズレトラを束縛していた個体が吹き飛んだ。
「こんな所で足止めは出来ないんだよ、邪魔するなっ」
 矢を放った後に応急手当をしようと駆けよる栄を制し、エイルズレトラは疾風で自己回復。大丈夫、まだ大丈夫だ。
 今回のメンバーで、他人を回復できるのは栄の応急手当だけ。使いどころは慎重に選ばなくては。 
「あえて――設定されていないのかもしれませんね」
 蜘蛛に関しては、指令のスイッチが。
 近い標的へと良いように釣られては、蜘蛛同士での連携は見られるものの、特定の動きは無いように思う。
 『足止め』『邪魔』栄の言葉に、ピンとくるものがあった。それこそが――敵の狙いかもしれない。

「賭けの要素はありますが」

 残る蜘蛛をそのままに、エイルズレトラが壁を駆ける。さらに上へ。
「時間が惜しいんでしたよね!!」
 コツコツと倒している場合ではない。
 真っ向から仕掛けてくる蜘蛛の行動、それすら敵の罠か!!
 1階で応戦していた仲間たちもハッとなる。
「行きましょう、上へ」
 黒焔の翼を広げ、アステリアは一気に二階へ。
 二つある足場の一つへ着地し、長距離攻撃である弓を封じる。
 アルマスブレイドを手に、立ち向かう。
「無理は禁物だよ……っ」
 他方のハルピュイアをエイルズレトラが引きつけたことを確認し、栄えがアステリアに対して回避射撃を放つ。
 翼を持つ者として行動の早さは利があるものの、ナイトウォーカーが天界勢を相手に長時間の対峙は厳しい。
「接近戦は、任せてくださいなのです」
 伊都は一気に階段を駆け上がり、迷い無くアステリアのいる足場へ飛び移る。
「ここは、僕が押さえるですよ!」
 ハルピュイアの剣戟により深手を負ったアステリアを庇う様、伊都が立ちまわる。
 英斗、真里の二人も階段を昇りはじめ、魔法攻撃の援護が届いた。


「血止めだ、無茶はするなよ」
「まだ……私は飛べます」
「もちろん。ここの皆で、取り戻すんだ。最後まで、皆で戦おう」
 アステリアに応急手当を施しながら、目を合わせ、力強く栄が告げる。
 誰ひとりの能力が欠けても、攻略は難しい。
「はい。必ず」
 頷きを返すアステリアの眼差しは、毅然とした騎士のそれだ。
 

(厄介な蜘蛛が……罠か)
 明らかに他の個体よりも多く配置されているホワイトスパイダー。
 確かに『全てを倒そうと』意識すれば苦戦は必至だ。
 闇の翼で2階へと到着したヨルは、ハイドアンドシークの効果を発動させたまま、エイルズレトラの引きつけるハルピュイアへと斬りかかる。
 側面、背面、止まることなくあらゆる角度から。敵にこちらの場所を認識させないよう。
「足がかりは、充分なようですね」
 向かい側の足場では、集中砲火でハルピュイア達が2体とも落とされた。それを確認し、エイルズレトラが大技を放つ――『ハートのK』。
「今です!!」
 跳躍からの、カード投擲――剣を握る銀髪のハルピュイアに命中し、朦朧状態となったことを確認してエイルズレトラが叫ぶ。
 それを受け、ヨルが一気に3階へと上昇した。途中に控える蜘蛛たちを、一切無視して。

(龍の紋様の鎧……)
 指揮官。そいつさえ倒せば、この要塞は陥落だ!!
 ――居た!!
「こっちだ!! 右手の足場に居る!」
 ヨルが叫ぶ。
 それは、普段の彼らしからぬことかもしれない。
 しかし、今は。



●待ちわびし鬨の声をあげ
「皆さん! 下がってください!!」
 今再び、翼で最上階へと到達したアステリアが、初手にクレセントサイスを放つ。
 敵味方不問で襲う無数の刃が飛び交う。
 範囲外へと退避したヨルはハイドアンドシークによる潜行を切り、ゴーストバレットを敵将に撃ち込む!!
 どれだけ怪我を負ってもいい。
 後はひたすら敵将に攻撃を叩きこむだけだ!!!
「ここまで来たら後には退けねぇしな」
 真一が、勢いよく先陣を切り、3階へ。身軽に足場へ飛び移る。
「あれさえ倒せれば……」
 真里は逸る気持ちを抑え、狙い澄ましてフレイムシュート。
 倒す対象を絞り込んでも、襲い来る攻撃が止まるわけではない。周囲を意識しながらのラストバトル。

「手加減は無しだ、行くぞ」

 緑火眼を発動した栄が、全てを賭けて矢を番える。
「ふん、どんな立派な鎧でも貫けないものなんてないんだ、覚悟しな……!」
 自分たちの標的は1体だが、階上の敵は4体。
 配下のサブラヒナイト達から魔法矢が降り注ぐも、集中を高めた栄には掠り傷にしか感じない。
 武器を再び愛用の竜牙へと切り替えた英斗は、真一と並び足場へ飛び移る。

「唸れッ! シャイニングフィンガー!」

 強烈な魔法攻撃を、至近距離で撃つ!!
 足場が揺れる。しかし、まだまだ!!

 他方。
「――ッ!!」
 肩口を射抜かれたヨルが、飛行のバランスを僅かに崩す。
 苦痛に顔がゆがむ。が―― 持ち直す。

「この程度で引くと思った? ……悪魔、舐めないでよ」

 笑う。
 ほんのかすかな表情の動き。
 ……動く。怪我を負っても、体が動く限りは敵に立ち向かおう。
(俺が今ここで出来る事はそれくらいだから)
 ――皆、どんな顔をするだろう
 この状況で、改めて思う。
 それはきっと、楽しい事になるはずだ。
 それを、見たい。だから。
「俺は引かないよ」

「勝負だ!」
 仲間の集中攻撃で作られた間合い。隙。
 そこへ、真一が全力を乗せる。
 イグニッションを発動、そこからの――

「ゴウライ、流星閃光キィィィック!!」
 ――BLAZING!!
 紫焔のアウルを纏った一筋の流れ星の如き、最大火力の蹴りが炸裂した!!



●京の東より光を導け
「やれやれ。少しは皆さんのお役に立てましたかね」
 明り取りの窓から、光が差し込む。
 一斉に退避するサーバント達を見届け、エイルズレトラは深く深く息を吐きだした。

 ――終わった。

 声が聞こえる。
 勝鬨の声だ。
 裏門で戦い続けていた撃退士達が、歓喜の声を上げている。
 増援を含めたサーバント達が、東要塞陥落を察知し、引き揚げていく。


 監視塔を出ると、冬の京都の冷たい風が一同に襲いかかった。
 冷たく、新鮮な風だった。
 アステリアが目をつぶり、銀の髪を押さえる。
 戦いで火照った体に、心地よくさえあった。
「終わったですか?」
 伊都が、誰に言うでなく呟く。
「終わった……ね」
 魔法書を抱きしめ、半ば放心状態で真里が応じる。
「久遠さん、大丈夫ですか? 久遠さん」
「はは、気が抜けた…… どっと来るなぁ」
 塔の壁に背を預け、座り込んだ栄に、英斗が歩み寄る。
「救急箱で……少しでも」
「ありがとう」
 自己回復スキルを所有しているメンバーは数人いたが、栄の傷を癒せる者は、今回は居ない。
 一つ一つは掠り傷でも、累積すれば大きなダメージとなっていた。
 緊張の糸が切れただけに、反動も大きい。
「ここは……お前等が自由にしていい場所じゃないんだぜ」
 既に姿のない天界勢に向け、栄が呟く。

 ここを―― 京を、自由にするんだ。
 今一度、気持ちを一つに。

「おう! まだまだ、取り戻さなきゃなんない笑顔があるんだよな!」
 言いきる真一の表情は、昇る朝日のように、まぶしい。
「……笑顔」
 真一の発言にやや驚きながら、ヨルは空を見上げた。
 突入時には曇天だったが、強い風が雲を追いやり、今は青空を覗かせている。
(寒いのは苦手―― だけど)
 綺麗な空だな。
 そんな事を、感じていた。




 八ある砦の一つ、東の要塞。
 本日、この戦いをもって、陥落。
 しかし―― まだ、京都を奪還する戦いは終わらない。

 サーバント達の立て籠る要塞は存在し、人々が捕えられている収容所が存在し、中京城では『封都』六星枝将の長・シュトラッサー米倉 創平は健在である。
 大天使ダレス・エルサメクとは刃すら交えていない。

 押し寄せていたサーバント達は、どこへ向かったのか。
 中京城の固めか、あるいは残された要塞の固めか?

 先は、遠い。
 しかし、京都を奪われたあの頃より、確実に距離は縮まっているだろう。


 冬、来たりなば 春、遠からじ。
 まずはこの一戦の勝利の、喜びを。




依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 天拳絶闘ゴウライガ・千葉 真一(ja0070)
 奇術士・エイルズレトラ マステリオ(ja2224)
 夜明けのその先へ・七ツ狩 ヨル(jb2630)
重体: −
面白かった!:12人

天拳絶闘ゴウライガ・
千葉 真一(ja0070)

大学部4年3組 男 阿修羅
奇術士・
エイルズレトラ マステリオ(ja2224)

卒業 男 鬼道忍軍
心眼の射手・
久遠 栄(ja2400)

大学部7年71組 男 インフィルトレイター
ブレイブハート・
若杉 英斗(ja4230)

大学部4年4組 男 ディバインナイト
真ごころを君に・
桜木 真里(ja5827)

卒業 男 ダアト
黒焔の牙爪・
天羽 伊都(jb2199)

大学部1年128組 男 ルインズブレイド
夜明けのその先へ・
七ツ狩 ヨル(jb2630)

大学部1年4組 男 ナイトウォーカー
撃退士・
アステリア・ヴェルトール(jb3216)

大学部3年264組 女 ナイトウォーカー