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マスター:佐嶋 ちよみ
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2012/10/15


みんなの思い出



オープニング

●泣け、叫べ、何もそこまでは言ってない
「たっ、頼む、話す! 何でも話すからっっ」
 うろたえる男を、久遠ヶ原の風紀委員・野崎 緋華 (jz0054) が冷ややかな眼差しで見上げる。
 つい先ほどまで、何も知らない、自分は悪くないと連呼していたというのに。絶体絶命と知るや否や、簡単に手のひらを返す。
「やっすい自由だね?」
「くっ…… 頼む、頼むから……」
 犯罪に手を染めたフリーランス撃退士は、追い詰められた状態で涙を流さんばかりに懇願する。
 いい年をした男が、情けないとは思わないのか――
 緋華は冷めた思いで、鼻を鳴らした。
「頼むから、もっときつく縛っt」
「言わせねぇよ!!!!?」
 この変態!!
 荒縄で縛りあげられ吊るされた中年男をブーツの先で蹴りあげると、それは実に良い声で鳴いた。
 求めてない。そんな反応は、求めていない。



●偽りの幸福風景
 ――ということがあってね。

 思い出したくもないが話さなければ進まない。
 依頼斡旋所で事のあらましを説明した緋華が髪をかき上げた。
 受付の生徒も、気の毒そうに視線を逸らしている。
「依頼内容はね、変態とは関係ないから安心して欲しい」
 こんな変態を生み出さないためにも――いや、変態にだって人権はある、問題は変態的嗜好ではなく手を染めた犯罪に在るわけでええいそんなものヤギに喰わせてしまえ。
「変態が所属していたフリーランスの事務所に問い合わせたら、そんな男は居ないというんだね。そんなわけがない、情報はこちらで握っている。久遠ヶ原の情報網を馬鹿にしてもらっちゃ困る。つまり、トカゲのシッポ切りだ」
 縛り上げたところで絞りとれた情報も、たいして役に立ちそうでは無かった。その程度の構成員だったのだ。
 事務所は、その撃退士について何一つ責任を持たないものと言い張っている。
 踏み込んだが、雇用履歴も消されていた。
「そこで、――ここからは、公式な風紀委員とは動きが別になる、あたし個人としての依頼だ」
 声をワントーン下げ、緋華は持ち込んだ書類を机に広げた。

「……『七五三参拝キャンペーン』なんですかこれ」

「十一月十五日ってのがメジャーだけど、それが最良の吉日ってだけで、十月から十一月の間が、参拝期間なんだよね」
「へぇ、豆知識 いえ、そうではなくて」
「写真スタジオなんだ。貸衣装やメイク室、背景セットなんか揃ってる。結婚式とか見合い写真なんかももちろんだけど、今は時期的に七五三を倍プッシュしてるんだってさ」
 パンフレットには、仲睦まじい家族の笑顔がある。
「この父親が、例の変態」
「  」
「スタジオでは家族レンタルもしてる。このご時世、家族のピースが揃ってないところも珍しくないから、『理想の家族、お貸しいたします』そんなところだね……」
 写真の中だけの、家族。作りものの笑顔。こんな写真――きっと、こんな写真でも、大切な物となるのかもしれない。
 そして犯罪変態撃退士にとって――自由である時間、なのかもしれなかった。そうではないかもしれないが。
「スタジオ自体はシロと見てる。ただ、この変態を雇っていたことから、何か引き出せないかと思ってねぇ……。ちょうど人手が足りないって話で、バイト斡旋を取りつけてきたんだ」
「なるほど…… スタジオ内では、聞き込み調査を?」
「いや、具体的に動くとスタジオも変態関連から目をつけられる――あるいは既につけられてるかもしれないね。久遠ヶ原の名を伏せて、一学生として普通に働いてきて欲しい。その中で、持ちだして欲しい書類がある」
「変態さんの履歴書ですか……」
「ビンゴ、……でもその言い回しは何とかして」
 使うあての無いライターの蓋を開け閉めしながら、緋華は空いている手でスタジオパンフレットの次にある書類を示す。
「実際に働いてもらえば分かると思うけど……メイク室の、この通路。突き当たりが事務室。ここに、モノはある」
 身分証明をして提出を強制すれば済むだけの話だが、それでは標的を取り逃す。
 秘密裏に持ちだす必要が、ある。
「バイトは週末の2日間。忙しい時期にこの人数で押しかければ、向こうも目端が行かなくなるだろう。変態の履歴書、及び関連記述の書類もあれば。こっそり持ちだしてきて欲しい」
 履歴書そのものは、偽造されたものだろうが――否、あるいは変態の素顔かもしれない。
 いずれにせよ、緋華の追う事件の足がかりとなる。
「モデル、メイク、撮影補助…… スタジオの仕事はたくさんある。バイトをこなしながら、連携して事務室に忍びこむ隙を作るって寸法だ。頼んだよ」



リプレイ本文

●火の無いところに煙は立たず
『お子様の成長を祈願して』
 そんなキャッチコピーで、幸福そうな家族写真が貼られているギャラリー。
 中には、例のターゲットが映るものもあった。
(趣味って、人それぞれだね……)
 ミシェル・ギルバート(ja0205)は、複雑な複雑な表情で眺める。
 一見、どこにでも居そう、ちょいメタボの優しそうなお父さん。
 ……縛られて喜ぶ、か。ミシェルには解らない世界だ。
「七五三…… うに! ちょっと楽しみなんだよー!」
 七五三という慣習を知らず育った真野 縁(ja3294)は、天真爛漫な笑顔で一行について受付へ向かう。
「バイト希望の、白露院まほろですわ」
「話は伺っています。どうぞどうぞ!!」
 白露院 まほろ(jb0500)が背伸びをしてカウンターから顔を出すと、スタッフの女性が快く応対してくれた。

 まずは一階にある各施設の紹介をされた後、二階のスタッフ休憩室で仕事内容について説明を受けることになった。

「ヘアメイクと衣装係を希望しますわ。家事は苦手ですが、センスには自信がありますの」
「……ん。影野 恭弥。衣装希望で」
 まほろの後に、影野 恭弥(ja0018)が言葉少なに挙手で続く。
「はいはーい! ミシェル・ギルバートだしーっ 撮影補助希望!」
 元気一番、ミシェル・ギルバート(ja0205)が身を乗り出す。
「狩野 峰雪です。僕も撮影補助で。父親や祖父のモデル需要があるようならば、そちらも」
 落ち着いた笑顔で狩野 峰雪(ja0345)は告げると、テーブルに広げられた写真を数点手にした。
 『父』『母』この辺りが、やはり足りないようでモデルの重複が散見される。
(借り物の家族は余計に寂しさが募るようにも思うけれど、束の間であっても、縋らずにはいられないのだろうな……。特に、子供は……)
 欠けた家族のピースを埋める『レンタル家族写真』。その是非はともかく、求める声があるから成り立っているのだろう。
 早々に病で妻を亡くし、男手一つで子供たちを育て上げた峰雪自身は、寂しさを感じる暇などない日々だった。
 ――子供たちは、どうだったろう?
「モデルの仕事をするんだよ!」
 峰雪の胸の内を知ることなく、縁が長いみつ編みを持ちあげた。
「家族のピース、埋めてあげれたらいいなーって思うんだね」
 縁自身、直接の血縁を知らない。そのかわり血の繋がりではない『家族』、ぬくもりを知っている。
 反面で親兄弟、姉妹というものにもちょっとした憧れもあることも、事実。
 お仕事であるという自覚はあるけれど、楽しめると良い。そう、思う。
「俺は…… モデルで」
 役立てるだろうか、やや不安げにドニー・レイド(ja0470)がスタッフを上目遣いで見つめる。
(俺達撃退士の中から犯罪者が出た、それを放っておく訳にはいかない。……けど、それとは別に、このアルバイトには複雑な気持ちもある……)
「お子さんの機嫌取りなら、おまかせください」
 簡単な自己紹介の後、エイルズレトラ マステリオ(ja2224)は何処からともなく指先からトランプカードを展開し、閉じたかと思うと花弁へと変化させた。
「ね?」
 器用な手先、特技はマジック。種と仕掛けは笑顔の中に。
「私は衣装を担当させていただきましょう。お客様の雰囲気に合ったお洋服を選び喜んでもらえるように努力いたします」
 スタッフがエイルズレトラのマジックへ感嘆の声を上げているところへ、カーディス=キャットフィールド(ja7927)がスッと入りこんだ。

 ――まずは真面目に働き周囲から信頼を。
 『仕事』はその後に控えている。
 与えられたミッションは『事務室から重要書類を奪え』。
 忍びこむのはエイルズレトラ、カーディスの二人で当たる作戦だが、スタッフ達の足止めをする仲間たちの協力も不可欠だ。

(火の無いところに、煙は立たないというけれど)
 人当たりの良い笑み、豊富な話題、その端でエイルズレトラはブルーの瞳を光らせる。
(何を、隠し持っているんだろうね)
 指示を出された書類は、さてどれほどの重要性を為すのか―― しかしそれは、自分たちの任務の範疇外。
 部屋の一つ一つを確かめながら、そうしてエイルズレトラはスタジオへと踏み入った。



●幸せの欠片
 衣装部屋。和服洋服、色とりどりの衣装が並ぶ。
「うに! どうしたのかなー?」
 縁が、部屋の片隅でぐずる子供に気が付き、歩み寄る。しゃがみ、視線を合わせ、両手を握る。
 どうも、お仕着せの服が嫌いで親を困らせていたようだ。
 事情を聞いた恭弥が、縁にあやされ泣きやむところまで見守ってから、すっと暖色系のドレスを引きぬいた。
「こっちの方がお似合いだよな」
 恭弥に傅かれ、七歳女児の顔が赤く染まる。幼かろうが、女は女。
「お顔が華やかなので、派手な衣装もお似合いですわ。お姫様になりましょう」
 少女はこっくり頷いて、更衣室へと共に向かっていった。
「お母様も、こちらへ」
 カーディスが、夫人物の衣装コーナーへ案内した。

 予約を入れて衣装まで決めてある客も居れば、飛び入りで撮影希望をする家族も居る。
 本来ならば子供の笑顔を自然に引き出せるよう、じっくり対応することがポリシーなのだが、時期的にそれが難しい。
 そんな矢先の、8人の助っ人。
 願ったり叶ったりだが、大丈夫だろうか…… ひやひやと見守っていた案内役のスタッフが、一連の行動に胸を撫で下ろし、スタジオへと向かっていった。

「とても綺麗な瞳…… 瞳を活かして、少しアイラインを引きますわね」
 衣装選びはカーディスと恭弥に任せ、まほろはヘアメイク専門に回る。
「よく似合ってるよ。さあそれじゃ撮影だ」
 恭弥が、小さな姫君をスタジオへ案内してゆく。
(……家族、羨ましいです)
 ピカピカの衣装、ほんのり淡いメイクで、両親の手を繋ぎスタジオへ向かってゆくお姫様達。
 己の身上を思い、まほろは小さく嘆息した。



●仮初としても
「だだっ子は変顔で笑わせちゃうぞ! にらめっこしょーぶだぁ!」
 カメラマン――社長の隣で、ミシェルがオーバーアクションでグズる赤子の機嫌を取った。
 母親である女性の腕には赤子、向かいにドニー、そして主役たる五歳の少年が、強張った表情でカメラを睨んでいる。
 『父はいないけれど……せめて、頼りになるお兄ちゃんが居ると―― 居たと』そういう要望であった。
(家族写真……。アタシ、一枚もないんだよね……)
 華やかな背景に、笑顔の家族。
 幸せの構図……なので、あろうか。ミシェルは笑顔の底で、首を傾げる。
 数組の撮影のうち、涙をこぼす親の姿もあった。
(でも、レンタルとかはいいかな……。アタシのお父さんとお母さんは、やっぱりあの2人だしっ)
「ミシェルちゃん、だっけ」
 休憩タイムに、カメラマンである社長が話し掛けてきた。
 40代に差しかかるくらいの、働き盛りといった男性だ。
「何か気にかかることがあるかい?」
「えっ、あー…… 何でこのお仕事してるの?」
 口をついたのは、ド直球だった。
「えとっ なんだか、アタシは……ピンとこなくって…… ゴメンナサイ」
 欠けた家族を、他人で埋める。そのことに、どんな意味があるのだろう?
「写真は素敵なものだと思う…… 大切なものになるのだと思うしっ でも、だから」
 大きな手が、ふわりとミシェルの頭を撫でた。父親のように、温かく大きな手。
「うん、そうだね……。だから、この写真が『きっかけ』になればいいと、思っているんだ」
「きっかけ……」
「最初は、現実逃避の穴埋めで良い。時が経ち、傷が癒えるまでの仮初で良い。けど、『そこ』から卒業するための……卒業した時の、記念になると思うんだ」
 やはり、よくわからない。

「コーヒーブレイクといきましょう」
 そこへ、エイルズレトラがトレイにコーヒーを用意して登場した。
 実にさりげなく事務室に入り、事務員と打ち解け用意してきたものである。
「社長さんは砂糖とミルク入れる派っ?」
「あー……」
「ふふっ 伺いました。100%オレンジジュースがお好きなんですよね」
 ミシェルの問いに詰まった社長へ、エイルズレトラが悪戯っぽい笑みで返した。
 大柄な社長は可愛らしく縮こまり、後頭部へ片手を回した。



●ミッションスタート
「おはようございます。今日も良い天気ですね」
 忙しさに飲み込まれて終了した一日目だったが、二日目の朝。
 恭弥は爽やかに、開店準備を始めるスタッフへ声をかける。

 ――さぁ、本番はこれからだ。

 皆、慣れた動作でそれぞれの持ち場へと向かってゆく。
「僕も妻を亡くしましてね……」
 モデルとしての準備を終えた峰雪が、社長へと世間話を持ちかける。
 仕事に打ち込む傍ら、子育てもこなしてきたこと。
 子供が独立し、仕事も失った今のほうが、孤独を感じること。
 峰雪の言葉へ、社長が深く頷いた。
「ここでモデルをされる方にはね、多いですよ。家族を失い、自らがピースとなることで、何かを埋めようとする方が」
「……それは」
 少々、意外であった。
 仮初の家族。それは、依頼側だけのものではなかったのか。
 しかし、父親役として――時には若い祖父役として、ピースを埋めた峰雪も、少しだけ気持ちはわかる気がした。
 シャッターが下りるその瞬間だけ、自分も『家族の一員』となる。不思議な気分だった。
 男性二人が話しこんでいると、「早く早く!」と縁が撮影を急かしていた。
 ああ、今日も忙しくなるだろう。


「マステリオさん、こちらは手が足りていますか?」
 眼鏡をふきながら、カーディスがスタジオへ姿を見せた。
「ちょうど休憩に入るところでしたよ」
 腕まくりをしながら答えるエイルズレトラ。
 これが、『忍びこみ』のサインとなる。メンバー達の間に、張り詰めた空気が走った。
「気分転換しよう!」
 ぐいっ、ミシェルが社長の腕を引いた。
「……実は、その。折り入って、相談したいことがありまして。時間は取らせません」
 表情を改めて、ドニーが社長に向き合った。


(此れは、悪い事ではありませんわ。わたくしに悪い事をさせる切欠になった、変態様が悪いのです)
 まほろは緊張しつつ、事務室をノックする。
 女性事務員が姿を見せた。
「あ、あの……お恥ずかしいのですが、その…… 同じ学園の方には、言い出しにくくて。できれば一緒に、お買い物に……」
「あらあらあら」
 下腹部に手を当て、額には脂汗――緊張によるものであるが、そうと知らぬ『大人の女性』が、『この年頃の少女』に頼られる内容といえば……
 あとは、自動的に勘違いしてくれる。
(お仕事ですもの!)
「そうね。さっき、狩野さんにもレジの小銭の件を伝言されてて、銀行にも行かなきゃだし。ふふ、お昼時だもの、ちょっと二人で抜け出しましょうか♪」
(第一関門、突破ですわー!)


 二階、スタッフ休憩室にて。
 ミシェルが飲み物の用意をしている間にも、ドニーは社長へぽつぽつと語り始めた。
 自分には天魔に母親を奪われた友人がいること。
 その人の悲しみはとても『憧憬の家族』で埋められるようには思えないこと。
「実際にアルバイトに参加して、確かにそれを求める人達がいる事は実感出来ましたが……。決して替えのいない存在を奪われた人に対して、自分はどうしたら良いんでしょうか」
 難しい問いだと思う。
 けれど、人情に厚いという社長ならば――こういったサービスを展開している人ならば、何がしかの答えをもっているのではないか。
 ドニーは期待する。
「喪われた人の『替え』なんて、誰にできることもできないよ」
 社長は、ゆっくりと首を横へ振った。
「けれど誰かが――何かが、別の形で別の位置で、『替えのいない存在』になることはできる……僕は、そう思うよ。そうして、写真を撮っている」


 事務員とまほろが、連れだって写真館を出てゆく。
 エイルズレトラは光纏すると、変化の術でスタジオスタッフに化ける。用意していた魔装で、服装も変えておく周到さ。
 カーディスとともに無音歩行、遁甲の術で事務室を探った。
「うーん、何だかスパイみたいなお仕事ですねえ。不謹慎ながら……何だかわくわくしてきますねえ。ね、カーディス先輩?」
「……それにしては、拍子抜けのミッションです」
 あっさりと書類を見つけると、カーディスは肩をすくめた。
 用意した封筒に書類を入れ、ジャケットの裏ポケットへ忍ばせる。
 後は、このままそっと部屋を出るだけ。
 事務室入り口では、恭弥が警戒に当たっていた。
「……やっと終わりか。資料を提出して引き上げるぞ」
 愛想3割増し(当者比)を演じていた恭弥が、素に戻り首を鳴らした。



●ミッションコンプリート
「みんなみんな、おつかれさまなんだよー!」
 ぺこり、縁が体を二つに折ると、みつ編みが後からピョイと落ちてくる。
 そんな姿を、スタッフ達が微笑ましく見守った。
 書類が奪われたことには、まだ気づかれていない。
 社長が満面の笑みで、ひとりひとりの手を力強く握る。
「アタシの過去は、心の中にしかないから…… これからの為に、始めてみようかなぁ……」
 ミシェルは、手持ちの使い捨てカメラを荷物から取りだした。
「今はこんなのしかないけど…… これでもいい?」
「シーズンオフには写真教室もやってるよ。よかったら、いつでもおいで」
 社長の言葉に、ミシェルが表情を輝かせた。
「今まで仕事が趣味でしたから…… 写真もいいですね」
 峰雪も目を細める。
「社長…… ありがとうございました」
「こちらこそ、力になれなくてね……。レイド君、だったね。いつか、お友達とおいでなさい。替えの無い友人同士の写真を撮ろう」
「……はい」

 己の抱える疑問の答えは、誰かに与えられるものではない。
 欠けた隙間は、誰にでも埋められるわけではない。
 それでも、――それでも。
 偽りでも 仮初でも 縋らなければ立ち上がれない時期はあり、それを滑稽だったと笑い飛ばせる時期が来る。
 その日を夢見て、……この写真館では、明日もまた記念撮影が続くのだろう。
 『幸せな家族』に対する、消しようのない憧憬を誰もが抱いて。




「ありがとう、ご苦労様。楽しめたかい?」
「実に僕たちらしい、汚くてこそこそとした仕事でした。忍者冥利に尽きるってものですよね。ね、カーディス先輩?」
「依頼といえども、気が引けましたよ……」
 エイルズレトラの小悪魔的な表情へ、カーディスが苦笑で返す。
 二人のやり取りを野崎が笑って見守り、そして書類を確認した。
「……たしかに。報酬はスタジオから振り込まれるから、後で確認しておいてね」
「それにしても……野崎様も大変ですわね」
「言わないで……」
 まほろの、しんみりとした視線に野崎は額を抑えた。野崎の『仕事』はこれからである。
「楽しかったんだよー!!」
 えいっ、縁がまほろにハグをした。

 血の繋がりはなくても。家族じゃなくても。
 埋めることのできない存在は、きっと誰にでも。



依頼結果