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マスター:佐嶋 ちよみ
シナリオ形態:イベント
難易度:普通
形態:
参加人数:16人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2017/08/30


みんなの思い出



オープニング


 岐阜県多治見市。
 日本国内において、一、二を争う夏の暑さを誇る街。
 企業撃退士を擁し、彼らを軸にフリーランスとの連合組織が存在する街だが、今年から籍を置いた撃退士は暑さに悲鳴を上げている。
 過去に街を苦しめたゲートの存在も今は遠く、街に封じられた『風の剣』の影響で天魔に襲われることも無いに等しい。
 暑く、それでも平穏な夏。

 二〇一七年八月。
 そこへ、新たなる風が吹き込もうとしていた。


「あとは……街の反応さね」
「わたしは構わないが、本当に良かったのかい」
「良くても悪くても、居座るしかないでしょう」
「なんで一番態度が大きいさ、そこの大天使」
 多治見の撃退士連合を纏め、堕天使と大天使を引き連れて街へ戻ってきた夏草 風太(jz0392)は、社の会議室で完全にくつろいでいる青髪の大天使を見遣った。
 大天使ユングヴィ。これまで表へ出ることの無かった、権天使ウル(jz0184)の天界における補佐官でありカラス(jz0288)の上司であるという。
 聞けば、彼が岐阜ゲートの主だったのだそうだ。
 カラスと共に王権派に属していたものの、ベリンガムが討たれて派閥は崩壊。
 身の振り方を考えた結果、彼は堕天はせず人界で過ごすことを選んだ。
 ゲート展開や人間への被害を与えないよう、監視の撃退士――この場合は多治見の撃退士組織――が付くこと。
 人界において、状況の立て直しや天魔被害などから人々を守ること。
 以上の条件から、久遠ヶ原学園を通して人界への滞在承諾を得た。
 ――天界では、ベリンガム様の正統性を訴え『生まれ直し』奪還を画策する勢力もありますよ
 彼の不穏な言葉が真実かどうかはわからないが、それはまた、遠い未来の、もしもの話。


 他方、もとより人界での活動が長く、伊豆や岐阜にて暴れた果てに京都で致命傷を負ったカラスは。
 風太の依頼によって久遠ヶ原の撃退士たちと対話をし、
 ――正式なスカウトや。一緒にやらんか?
 ――おぬしを愛している者のことを考えたことはあるか
 ――今まで見たものを、違う位置から見てみるのも悪くないかもしれません
 ――貴方と一緒に、変わる世界で、生きていきたいのよ
 ――彼女達が生きたこの世界を消されたくない、と思っています
 心に揺らぎが生まれる頃、神界での決着を知らされた。
 軟禁されていた部屋を爆破するほどの怒りに駆られるも、タイミングを見計らったかのように訪れたユングヴィにより説得を受ける。
 ――堕天なさい。天使としてエネルギーを維持するより、よほど楽です
 再起不能で余命5年と診断されたことを知った上での助言を、カラスは受け入れた。
 正式に天界との繋がりを断ち切った彼が、天界へ戻ることはないだろう。
 帰る場所として選んだのは己の剣を託した、岐阜県多治見市。
 岐阜ゲートの一件で巻き込んだ人々が、今も多く暮らす街。
 カラスの『風の剣』には低級天魔を寄せつけない術が施されており、それを守ることが罪滅ぼしなのだと彼は言った。

 ひとの為に、生きること。
 
 最期を見据えた堕天使は、これまで生きてきた道を振り返り、ひとつの未来を選んだ。
 ユングヴィがエネルギーを分け与え、カラスの身体的損傷は本来の強度を取り戻した。
 残された時間も微弱な魔力も変わりないが、せめて最期まで穏やかに過ごせるように。
 そうして、二柱は多治見の撃退士たちに付き添われ、夏真っ盛りも甚だしい街へ到着したのだった。




「暑い!!!!」

 筧 鷹政(jz0077)が、叫びながら会議室へ入ってくる。
「筧くん、3分あげるから着替えてきてよ。炎天下の中、バイクで来るから……」
 それを見て、野崎 緋華(jz0054)が野良犬を追い払うような仕草を取った。
「酷くない!? せっかく土産もあるのに!!」
 抗議しつつ革ジャンを脱ぎ捨て、Tシャツまでその場で脱ぎ始めたところで、緋華は真顔でサバイバルナイフを投擲した。
「……着替えてきます、ちょっと待ってて」
 顎の走り傷が十字になるのを直前で躱し、赤毛のフリーランスは会議室を出てゆく。
「賑やかだね。いつも、こんな調子なのかい?」
「まぁ、ほぼほぼ通常運転さね」
 テーブルに頬杖をついて眺めるカラスへ、風太は半笑いで答えた。


 暑い暑い夏の日。
 久遠ヶ原学園から風紀委員、近郊の街からフリーランス撃退士が多治見へ集まったのには理由がある。
「はい、これ北海道直送のー、ラム肉と焼酎!」
「焼酎」
「ちょっと前に札幌でビヤガーデンが開催されたらしいんだけど、そこでは出し損ねたからって手紙にあったよ」
 オウム返しする緋華へ、鷹政が説明を。
 カラスたちが多治見へ来ると決めた日に、学園では野球好きフリーランス撃退士と学園生との熱い試合が開かれていた。
 結果は、8対7で学園生チームの勝利。
 フリーランスチーム内にて『戦犯が焼き肉を奢る』という罰ゲームが設定されていることを聞き知った学園生たちの要望から、今回は生徒たちにも奢る流れになったのだ。
「律儀なレラ君は、3失点を申し訳ないといって送ってくれたけど……先制とサヨナラを許したお2人からは?」
 巻き込まれ被害 違う 投手は、1〜3回を風太、4〜6回を北海道のレジスタンス・レラ(jz0381)、7〜9回をカラスが務めた。
 カラスの身元引受人が風太となることから、焼き肉は多治見で開催することでまとまり、今日は準備に向けた話し合い。
 フリーランスチームの監督をしていた加藤 信吉も、同席している。
「僕からは定番の材料を用意できるさ。加藤さんは監督責任だかんね!」
「……全部私が悪い、か……」
 冗談を言って、信吉は企画を考えておくと返した。彼のいうところの企画など、知人は誰もが知っているので生暖かく頷くに留める。
「夏草くんは、場所と材料の提供でいいよ。現場はあたしが預かる。今回は、コッチの面倒を見ることが重要でしょ。最初のイベントだし」
 緋華はカラスとユングヴィを指した。
 多治見で暮らすことを決めた天使たちを、正式に街の人々へ紹介する。
 それも兼ねたイベントとすることで、風太は大掛かりな開催の了承を取り付けたのだ。
 かつて、街に住まう人々へ恐怖を与えた存在。大切な命を奪った存在。
 天界に属する者の役割上、仕方がなかった――などと申し開くつもりはない。
 これからは、撃退士らと共に街を人を守ることで返してゆきたい。それを許してほしい。
 そうした気持ちを伝え、交流を図る必要がある。




 久遠ヶ原学園、斡旋所。

『暑い多治見で、熱い焼肉しようぜ!!』

 ノリの良い案内を見上げ、少年堕天使・ラシャ(jz0324)が目を丸くした。
「カラス……堕天、したのか!?」
 友人に手を引かれ、面会をしてから然程たっていない。そんなに早く、彼の天使は決断したのか。
 ――戦うチカラだけが、ゼンブと思うか?
 精いっぱいの思いの丈を詰め込んだ問いへ、天使は曖昧な返答しかしなかった。たぶん、それが彼なりの肯定だったのだろう。
「そ、っか……」
 ――失った悲しみを、否定はせぬ
 それから、ずっと傍らにいてくれた友の言葉を思い出してラシャの肩から力が抜けた。
「多治見の夏……暑かったナ。でも、川なら涼しいのカナ?」
 街を流れる土岐川にて開催されるイベントへ参加申し込みすべく、ラシャは斡旋所の生徒へ声を掛けに向かった。





リプレイ本文


 外気は軽く35度を超え、体感温度はさらに上を行く。
 盆地である多治見の夏は、とにかく暑い。

 街を流れる土岐川河川敷は、海の無い街において娯楽の場の一つであった。
 今日は、街で暮らす人々や撃退士、そして新たに暮らすこととなった堕天使との親睦を深める日。
 川を挟んで焼肉のテントとイベント会場が設置され、川では水遊びをする姿がいくつも見受けられる。
 熱中症には気を付けて、楽しい一日となりますように。




 注意事項や準備運動を済ませたら。
「川遊びだー!」
 ――ざっぱん!!!
 一番槍よろしく、まっさきに川へ飛び込むのは雪室 チルル(ja0220)!
 川底まで潜って、一気に浮上して顔を出す。子犬のように頭を振って、水を飛ばす。
「ふーーーっ、夏休み! って感じだわっ」
 海ほどの深さはなく、流れも穏やかな場所。
 生ぬるい水温は、それでも地上にいるよりはるかに気持ちいい。
 チルルにとって、高校生活最後の夏休みだ。
 進級試験のあとは、卒業してしまう友人たちもいるだろう。
 だから今日は、悔いの残らないよう『夏』を全力で楽しむ所存!!
「向こうまで泳いだら、今度はビーチボールを借りてこようっと! ビニールボートも乗りたいし……それから、えーとえーと」
 やりたいことは、たっくさんある。




「皆さんとの焼肉パーティー、楽しみですね」
 焼肉の準備をしながら、ユウ(jb5639)は野崎緋華へ話しかける。
「ユウさんたちの戦果だからね。でも、良いの? こんな時まで手伝いで」
「戦果ですから。それに、北海道でのジンギスカンのことも聞きたくて」
「ああーー。そうよね、せっかく北海道から送ってもらったんだし、それっぽく……それっぽく」
 今年の春、北海道のレジスタンスからの誘いで学園生向けの花見案件があった。
 参加できたのは少人数で、彼らと親しい付き合いのあるユウは参加しそびれた経緯がある。
 野崎がそこへ顔を出していたことから、当時の様子など聞ければと思っていたらしい。
「……。天宮くーん」
「はい?」
 ヒリュウを召喚し、冷えたドリンクを周辺の人々へ配っていた天宮 佳槻(jb1989)が振り返る。
 焼肉が振舞われるのはもう少し先だが、待っている間に暑さに倒れては大変だから、と河原で雑談を楽しむ人々や釣りに向かう参加者へ、事前に渡していたのだ。
「ジンギスカンって、どの焼き方が正解だと思う?」
 当時、同席していた佳槻へ野崎が問うた。
 あの時は生まれも育ちも北海道のレジスタンス・レラと、それなりの頻度で遊びに行く筧 鷹政とで不毛なジンギスカン論争が繰り広げられた。
「筧さんには聞かないんですか」
「筧説押しに決まってるじゃない」
「たしかに」
「戦争と聞いて」
 そこに、緋打石(jb5225)が首を突っ込んでくる。
「あら。石ちゃん、可愛い格好だね」
「ふっふ。夏じゃからな! 野崎殿の水着も似合っておるぞ」
 普段は無造作な銀髪をポニーテールにし、涼し気な浴衣に愛用のマントを羽織る石へ、野崎は驚きの感想を。
「ありがと。……ところで、なんで浴衣にマント?」
「アイデンティティというやつじゃ。して、ジンギスカンか!」
「そうそう。今回は、どういう焼き方にしようかなって」
 焼肉という設定上、今回も用意されているのは鉄板だ。いわゆるジンギスカン鍋ではない。
「それだけの量があれば、如何様にもなるじゃろ。……ほんとに律儀じゃな、レラ殿は。もう一人の戦犯は?」
 戦犯――先だって、学園でフリーランスの野球好き対有志学園生で試合が行われた。
 敗北したフリーランスチームの、投手陣が戦犯として今回の焼肉の材料や場所などの提供にあたっているのだが……レラは北海道からラム肉、多治見の撃退士・夏草風太は他材料と今回のイベント開催、そしてサヨナラ打を許したカラスは――
「……見てよ、コレ」
 目を逸らしながら、野崎はクーラーボックスから箱を一つ取りだした。

「「黒毛和牛霜降り肉」」

 どこかで見た流れのような気がする。
「人界で活動していた頃の手持ち金があったんだって。クッソ腹立つ……。ちなみに二箱しかありませんので、誰に当たるかはナイショ」
 もちろん、一般参加の市民の口に入る可能性もある。
「他にも何か企んでいたようだけど……、立場が立場だし悪いことはしないと思うわ。適当に声をかけて、サプライズのハードル上げといてくれるかな」
「任せておけ! 得意分野じゃ。野崎殿も、手が空いたら一緒に飲もうぞ。そうじゃな、北海道の焼酎をロックで」
「りょーかい」
 パタパタと走り去る姿は外見年齢そのままの少女だ。石を見送り、野崎がクスクス笑う。
「それじゃあ、もう少し配ってきますね。向こうの団体も、白熱すると大変そうですし」
「たしかに」
 佳槻は、流しそうめんのセッティングを進めるグループへ視線を投じ、野崎が深く頷いた。
「ありがと、天宮くんも気を付けてねー! さて、我々はひたすら野菜を切りますか、ユウさん」
「ええ。……不思議ですね、あの野球の試合が随分と前のような……つい昨日の事のような」
「思えば遠くに来たわよね。あたしだって、野球をするつもりはなかったし。ユウさんがグラウンドに居るとも思わなかったわ」
 思い出話に花を咲かせ、2人もまた準備へ向き直った。




 焼肉が本格的に始まる前に、釣り場へ向かう人影がひとつふたつ。
「暑い……溶ける……」
 半ば溶けながら、雫(ja1894)は川沿いを歩いていた。河原の石も熱い。
 学園指定のスクール水着に薄手のパーカーを羽織り、片手には釣り具。
「焼肉だけではなく、魚もあれば盛り上がると思うんですが……」
 子供たちが遊んでいる辺りから、上流を目指す間も陽射しは容赦なく照り付ける。
 パーカーを羽織ることで日焼けは避けられるものの暑い。
 喧騒が遠ざかり、川面に魚の背が覗くようになったところで雫はようやく足を止めた。
 蝉の鳴き声が、遠く近く聞こえる。
 パーカーのフードを被り、釣り糸を川へ投じると腰を下ろして息を吐き出した。
 佳槻から手渡されたペットボトルのドリンクを一口飲む。
「ふう、生き返りま ……あっ」
 餌だけ獲られた……。
 むむ。眉根を寄せて、もう一度。
「…………」
 糸を食いちぎられた。
「針を飲み込んで命に支障がなければいいんですけど……」
 それくらいなら、こちらで獲って美味しく食すのだけど。
 御機嫌に水面を叩く魚の尾びれを、雫は恨めし気に睨んだ。
 ……こちらで獲って?
(その手がありましたか……)
 思い返せば、北海道の浜辺でも単純な釣りは上手く行かなかった。
 しかし、こちらが本気を出せば……
「筧さん……は、いませんね」
 周囲を見渡すが、彼は水遊び中の子供たちへ注意が行っているらしい。然もありなん。
 イベント責任者である夏草も、流しそうめんグループに引っ張られている。
(一回ぐらいなら見つからない気が……)
 そう。たった一回。一回で全てを決める。
 感知スキルで周辺の気配を確認した後、雫はパーカーを脱ぎ捨て川へ飛び込んだ!!




「……えぇと……、この川ではぁ……アマゴ、ナマズ……それからスッポンが獲れるようですねぇ……」
 市内ガイドを片手に、こちらも釣り場を目指して歩いている2人組。
 月乃宮 恋音(jb1221)と、彼女の恋人である袋井 雅人(jb1469)だ。
 前もって多治見の漁業組合へイベントの為に釣りの許可を申し入れた恋音であったが、既に企業撃退士の夏草から話は通っており、常識の範囲内であれば自由に釣りをして構わないという返答だった。
 確かに、斡旋所の案内で『釣りもドウゾ』とあらかじめ書かれていた。無用な心配だったわけだ。
 『常識の範囲内』という非常にあいまいな線引きは、さて久遠ヶ原の常識で測って良いのか否か、であるが。
「スッポンは……焼肉用の鉄板で調理できるんでしょうかね、恋音」
「……うぅん……なんでも、中国料理では……」
 ――残酷映像に付き説明自粛――
「なるほど。炭火焼きも美味しそうですね」
 他に恋音が幾つかメニューを上げると、雅人は安心して胸をなでおろした。
「……その……市民さんとの親睦会でもありますし……子供さんが泣くようなものは作りませんよぉ……?」
 極端な例に引き気味だった恋人へ、恋音がふふりと笑う。
「……稀にですが、ウナギも獲れるらしいですねぇ……」
 ウナギを釣ろうとしてスッポンが引っかかった、という情報もあるらしい。
 いずれも滋養のつく食べ物。暑い夏こそゲットしたい。
「準備は整えてきましたよ。時間まで、たっぷり獲って焼肉を豪華に盛り上げましょう!!」
 恋音へ釣りを教えたのは他ならぬ雅人。2人がかりであれば、なかなかの釣果が期待できるのではないだろうか!




 焼肉のテントから、食べれますよー、と声が掛かる。
「さぁ始まりました、人の金で食う食い物はうまいイン多治見! どうですかスポンサー兼解説の夏草さん?」
「みずにはいりたいさね」
「おっと死んだ魚の目で本音がポロリしましたねー。しかし残念、解説席の後ろはたこ焼き屋台となっております」
「暑いと思ったさ!!」
 愉快げに夏草へマイクを向けるはゼロ=シュバイツァー(jb7501)。今日もたこ焼き屋台のセッティングはバッチリです。
 普段は略式陰陽師の服装をしている夏草も、今日ばかりはラフな私服姿だ。
「夏草ちゃーん! こっち来て一緒に流しそうめんやろうよー」
 遠くから、砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)が大きく手を振っている。
「そうめん……」
 ふらり、憑りつかれたように歩き出す夏草をゼロは引き止めなかった。
 ――が。
「お前らはちょい待ち」
 本日は夏草と行動を共にするようにと指示を受けている堕天使カラスと大天使ユングヴィを、ゼロは呼び止めた。
「こいつら、ちょっと借りとってええか?」
「ゼロさんなら大丈夫さね。前の騒動でも街に顔が知れてるから、安心して任せられるさ」
 カラスの『風の剣』を少年が郊外に持ち出したことにより、街が多方面から天魔に襲われた事件があった。
 夏草がカラスを多治見へ呼び寄せることを決めた事件でもあり、その顛末は市民にも伝えられていた。
 その件へゼロは同行しており、場を鎮めることに一役買っている。
「そんじゃ、遠慮なく」
「……今日は、わたしに選択権が無いことは承知しているよ」
 カラスは肩をすくめ、夏草が座っていた『解説席』へ大人しく腰を下ろす。場所がないので、ユングヴィはテーブルそのものへ腰かける。
「それで?」
 この炎天下で、シャツとスラックスを着崩すことなく涼やかな顔をして、堕天使はゼロを見上げた。
「こないだの、返事を聞きたい」
 ――一緒にやらんか?
 ゼロは、カラスを自身の抱く構想へ誘っていた。
 時は、神界で戦いが行なわれている真っ最中。
 ベリンガムの生死、世界の勝敗、全てが見えない頃だった。
 故に、カラスは答えを保留していたのだが……
「申し出は、嬉しかった。しかし……わたしが居たい場所は、この街なんだ」
 仕える者すべてを喪った。己の余命もわずか。
 その中で、何をしたいか考えた時――人々を騙して連れ去った後、彼らが生きるこの街へ力を返したいと思った。
 『するべき』ではなく、『したい』と。
 天界へ戻り、ベリンガム支持派の残党として力を燃やし尽くすこともできただろう。微々たる力だとしても、それも一つの意思の形だ。
「君は言ったね。『誰の命令も受けず、自分たちの意思で』……わたしも、そうありたいと思う」
「せやったら」
「遠距離恋愛に自信は?」
「俺にそういうネタふりはやめんかい」
 バシン、とハリセンで叩く。――今回は、重体にならない。
「わたしが君の経理を務めることはできないし、多治見は組織が成立している街だから外部の介入は難しいだろう」
「……何が言いたい?」
「君たちがプライベートで来訪する分にはトラブルは起きないはずだ」
 プライベートという建前で、あれば。
 先の夏草の言葉の通り、ゼロや学園の撃退士たちは多治見の人々には馴染みが深い。遊びに来るといった理由であれば誰も疑わないだろう。
「街には、わたしやユングヴィ様をよく思わない者が必ずいる。こちらから、あまり大きな行動はできないんだ」
 特にユングヴィは岐阜のゲート主であったし、堕天していない。彼が特別に何かを助けたという実績もない。
 怒りや憎しみ、悲しみといった感情を受け止めながら、信頼を築く必要がある。
「じゃあ、そちらさんも業務提携は難しい感じか?」
 カラスの意思は理解した。事情もわかった。ゼロは神妙に頷き、大天使へと顔を向ける。
「お噂はかねがね。……そうですね、当面はおとなしくする必要がありますから」
 ゆったりとした白の装束を纏う青髪の天使は、にこりと微笑んだ。笑顔の下に腹黒さが透けて見えるような気がする。
「あんたは堕天してへんよな。天界ルートの構築はできるんか?」
「残念ながら。人界に居る以上、同盟に反します」
 エネルギーさえ吸収しなければ――というものでもないらしい。三界同盟のもと、各地のゲートが解放されているにはそれなりの理由がある。
「固いやつやなぁ……」
「私の目的は人界ではありませんから、波風を起こしたくないのですよ」
 ゼロの悪態へ気を害するでもなく、ユングヴィは笑う。
 この大天使は、決して新体制を支持しているわけではない。『形式として』同盟に従い、人界に滞在する許可を得ているのだ。
「まるで、他に目的があるみたいやな」
「……貴方たちのお話は楽しそうですが、直接的な力になることはできないんです」
「ほう」
(間接的にはOK、ってことかいな)
 含みのある言い回しを、ゼロは都合のいい方へ解釈する。この手合いに関していえば、それで正解のはずだ。
「――ま、生きてるうちは会う機会はいくらでもあるわな。お偉いさん、たこ焼き持ってってくれるか」
 焼きたてを3パックほど持たせ、ゼロはユングヴィを夏草たちの下へ送り出した。
「大天使を使い走りさせるとは、怖いもの知らずだね」
「よく言うわ、お前かて止めへんかったやないか」
「ユングヴィ様は柔軟な方だから。そうでもなければウル様の片腕は務まらない」
 ……さて、2人きりになり。
「まぁ、答えはどっちでも良かったんやけどな。勝手に巻き込むから」
「だろうねぇ」
 断ったところで無駄であることを、きっとカラスも知っている。
「見張りとして、出張所所長・兼・我らがへーかつけるからよろしく。ワインもそのうち持ってこいよ」
「? ワインは――そうだね、頂いたものは、天界へ眠らせっぱなしとなって申し訳ないけど」
「ほんまに取っといたんかい」
 出張所の意味がわからず小首を傾げつつ、カラスはワインに関しては快諾した。
「それから――俺は『はぐれ』をやめるで。この戦い、大筋には納得いっとらんけど状況は利用せんとな」
「魔界へ帰るのかい?」
「それ、姫も同じこと言うてたな。なんやの、絶対に戻らなあかんルールでもあるんか」
「エネルギーラインの切り替えには、相応の手続きがが必要だろう? 切ることは勝手にできても、戻すとなれば都合よくはいかないはずだ」
 天界や魔界から所属を外れる理由はそれぞれだから、内容次第で違いも出るだろうけれど。
「天界・魔界・人界も、同盟とはいえ接点は最小に絞られるんじゃないか。所属を戻した後の身の振り先は、一つ決めたら当分は変えられないだろう。とはいっても、君は揺らがないんだろうけどね」
「そーゆーこっちゃ。俺は『俺』を取り戻す。それだけや」
「……うん」
 カラッとしたゼロの言葉に、堕天使は何かを噛みしめるように頷いた。
 自分を取り戻す。
 自分の意思を貫く。
 カラスが己の最期が見えた時に『この場所』を選んだには、自我を譲らぬゼロの姿、言葉に感化された部分もあったのかもしれない。
「名残惜しいが、そろそろわたしも移動するよ。ユングヴィ様がいじめられている」
「よく言うわ。……長生きせえよ」
「それなりに」
 いつもの笑顔に戻し、カラスはゼロの隣から離れて行った。
「しーっかし、ほんま暑いで今日は。なぁ、かっちゃん」
「テントの中でも、熱中症にはなりますからね」
 差し入れの飲み物を持って来ていた佳槻の気配に気づいたゼロが、青い空を仰いだ。




 川遊びや美脚大会で盛り上がる中、浮かない顔の青年が一人。陽波 透次(ja0280)だ。
 河原に腰を下ろし、何処を見るではなくぼんやりしている。
 焼肉がたっぷり乗った紙皿を手にしているけれど、食は進んでいない。

「透次?」

 不意に、視界に影が出来た。
 驚いて顔を上げれば、向こうも少し驚いたようにこちらを見下ろしている。金色の眼に、猛禽類のような黒い瞳が真ん丸になっている。
「あ……」
「暑さ、大丈夫かい? 具合が悪いなら人を呼ぶよ」
「そうじゃ、なくて」
 反転しようとしたカラスを、慌てて引き留める。

 ――赤子に戻されたベリンガム

 ずっと。ずっと、透次の胸に引っかかっていたこと。
 それは、幸せな結末なのか。祝福として受け入れることなのか。
 結末を知ったカラスは、激怒したと聞いている。
 天界には、ベリンガムの『生まれ直し』を画策する勢力があるという話も聞いた。
 天界で生まれ、育ち、『王』へ忠誠を誓い戦ってきた天使であれば当たり前のように思う。
(サリエルだって)
 苦しみながら戦っていた幼天使を思い出す。
 彼女も『王』を信じ、その為に鎌を振るっていたはずだ。

「ベリンガムは……」

 考えがまとまらないうちに、言葉だけが先に出た。
 何かを察したカラスが、少しだけ流しそうめんの賑わいへ視線を遣ってから透次の隣へ腰を下ろす。
「あ、えっと……良いんですか」
「たぶん、もう少しくらいは頑張ってくれると思う」
「がんば……る??」
 そういえば、同行しているはずの夏草やユングヴィという大天使はどうしたのだろうかと透次は疑問を抱きつつ、話に付き合ってくれる様子に甘えることにした。
「……彼は……、かつてのベリンガムのままで生きて行く事も、死ぬ事も許されなかったんですよね」
 せめて思いが残っていれば『やり直し』の意味があったかも、知れない。
「彼にも経験の積み重ねで築いてきた心があり、それを大切に思う自負……尊い尊厳はあった筈なのに」
(この結末に、彼の心は尊重されたのだろうか)
 傀儡の王。
 古い糸を断ち切り、望む世界があった。その方法が、方向が、間違っていたとしても。
 より強い意思が世界へ干渉するというあの場で、全ての意思を揃えることなど不可能に近く、赤子として生まれ直すことが叶えられた最低ラインだったのかもしれない。
 わずかにでも、ベリンガムという存在が残ることを望んだ声へ、応じてくれたのかもしれない。それでも。
(ベリンガムを救いたかったのなら、そのままの彼と向き合い、対話すべきではなかったのか……)
 時間がなかった。戦力に余裕がなかった。『仕方がない』理由はいくらでも出てくる。
 でも、そうじゃない。
 『仕方がない』で諦めるのではなく、だからこそ足掻くべきではなかったのか……
 透次も、願った一人だ。この世界の軌跡を消さないでほしいと。ベリンガムの願う『世界』を止めたいと。
 けれど、それは――こんな形ではない。
 『ベリンガムの過去を無かったことに』、それはベリンガムが行なおうとしたことと何が違う?
(カラス達に何と言えば……)
 ここに居る堕天使も大天使も、王権派だ。ベリンガムを信じ、正統な王として玉座に着くことを願った天使たちだ。
 うまく、言葉にならない。
 途切れ途切れに、まとまらぬ考えを話す透次の隣で、カラスはじっと聞き入っている。
「僕は上に行きます」
 唐突な切り出しだったかもしれない。口にしてから、透次はハッとなる。
 しかし、カラスの表情は穏やかなままだった。学園の屋上で、サリエルやリカの話をした時のように。
 それに背を押されるように、透次は言葉を続けた。
「努力して……世界を動かせる人間になります。撃退士として見て来た者達の意志を、無駄にしない世界にしたい」
(忘れない……。世界を救おうとした天王の情熱を)
 彼には彼の、意思があったこと。
 自分たちには到底受け入れられないものだとしても、もしも対話が成っていたなら違う世界が待っていたかもしれない。
 ベリンガムが抱えた苦しみ全てを、知る者は今は誰も居ない。
 だから――透次は、忘れないと決めた。
 彼が望んだものを。
 これまで見届けた者たちが望んだものを。

 学園を卒業し、一人前の撃退士になり、悲しくも優しい世界を守り続けられるように。
 語り継ぐべきものを、受け継ぐべきものを、繋いでゆけるように。
 未来へ、進むんだ。
 
「ありがとう」
 透次の決意へ、カラスは素直に謝辞を述べた。それ以上の言葉が浮かばない。
 刃を交えながら、理解を示しながら、陽波 透次という青年は成長を続けている。
 決して間近で接してきたわけではないのに、幾度かの会話からその光景が目に浮かぶようだった。
「透次。覚えていてほしい。君の優しさは強さだと、わたしは思うよ。忘れることなく、悲しみから目を逸らさない強さは、優しいと思う」
 きっと、サリエル様もリカも、君の優しさに少なからず救われただろう。
 その繊細な感性は――本人に自覚があるかはわからないが――得難い『強さ』だと、カラスは感じている。
「君の進む先に、幸運の風が吹くことを祈っている」




 さっそく人々が列をなしている焼肉会場。
 まとめて鉄板で焼いて振舞うブースと、お好みで自分で焼き上げるテーブル席も用意されている。
 紫陽花柄の浴衣姿で、蓮城 真緋呂(jb6120)はテーブル席にてオーダーを吟味中。
「真緋呂、決まった? 肉を貰ってくるから、ここで待ってて」
 米田 一機(jb7387)がメモを手にしながら席を立ちあがる。彼も濃紺の浴衣に下駄と、涼やかな夏の出で立ちだ。
「えーっとねえ」
 痩せの大食いである真緋呂のことは、一樹がよく知っている。
 メモを取るのはメニューの種類ではなく、何人前かという覚書。
(そういや、デートするのは初めてか)
 列に並びながら、一機がふと気づく。
 大規模作戦の小隊メンバーとして共に戦ってきた『仲間』で大切な『友人』から、関係の名前が『恋人』になって……
 初デートが、川原で焼き肉。
(俺たちらしい)
 実に無理のない関係。良いと思う。
「あ。注文お願いしまーす」
 
「カルビと、ラムに……タン塩! 美味しい♪」
 オーダーした肉を一気に焼いて、一気に食べる!
 付き合う前も後も役割は変わらず、一機が焼いて真緋呂が食べる。
 大きく口を開ける少女を見守るのが幸せの一つだ。
「真緋呂、口の端に付いてるぞ」
「ん? タレ付いてた?」
「逆だ、逆。世話が焼けるなー」
「んんん」
 小首を傾げる真緋呂の、右の唇端を親指でグイと拭ってやる。
「っと。痛かったか」
「大丈夫。ありがとね。ちょっと驚いたの」
 彼女がキュッと目をつぶるから、慌てて体を離す一機だが……
「一機君も食べなきゃ。はい、あーん」
「……あ、ああ。うん」
 これは。ちょっと恋人っぽい。

 いつもと変わらない距離感のようで、いつもより近づいているようで。




 一方、焼肉会場から少し離れた場所で流しそうめんをしている一団がある。 
「あ! お久しぶりです夏草さ…… ご主人様♪」
「うわぁ、そうめんだぁ……。久しぶりさね、春都さん、砂原くん」
 浴衣姿でいつぞやのメイド調の挨拶をしてみせる春都(jb2291)、竜胆や、和紗・S・ルフトハイト(jb6970)は夏草にとって顔なじみの友人たちであった。
「お久しぶりです、夏草」
「久しぶりー。樒さんは相変わらず美人さね〜」
「あ……」
 樒と呼ばれ、和紗が表情を微かに変える。
「うん?」
 ともすれば、反応するならはとこ煩悩の竜胆かと思いきや。
「もう樒ではなくて……春に結婚したので」
「けっこん」
 ルフトハイトという姓にもびっくりだ。
「え。いいの、砂原くん、いいの」
「和紗が幸せなら……和紗が幸せなら、僕は……僕は……!!!」
「竜胆兄、暑苦しい小芝居は結構ですから」
「樒さん、容赦ない。……。急に呼び方を変えるのも難しいさね?」
 下の名で読んだら、竜胆が怒るだろうか。
 浴衣の袖を噛んでいるはとこ殿の顔色を、夏草が伺う。
「この際だから、思いきっちゃおうか。和紗さん、ジェンティアンくん。……うん、これで行くさ。それにしても、浴衣姿は目にも涼やかさねー」
「夏草ちゃん、陰陽師の肩書放り投げたよね」
 竜胆は藍のしじら織を男らしく着こなし、和紗は紫地に菖蒲の絞りが大人っぽい。春都は赤地に八重桜を咲かせた明るい柄だ。
「多治見の何が辛いって、この季節さね。そりゃあ投げるさ……。こんな素敵な企画をしてるとは思わなんだ。ご一緒させてもらっていいのかい?」
「もちろん。……噂の天使たちも一緒かと思ったけど、別行動?」
「んー、ちょっと込み入った話があるみたいでね。そのうち合流するさ」
 信頼できる話し相手だから大丈夫と告げて、夏草は竹筒を流れる涼やかな水に目が釘付けになっている。
「めいっぱい遊びますよーっ!」
「え、遊? え?」
 浴衣の袖をたくし上げ、そうめんを流す位置に春都がスタンバイ。
 不穏な気合が聞こえた気がした夏草だが、聞き返しても二回は無かった。
「お、来た来た……――」
 ――すいっ
 さっそく流れてきたそうめんを、美しい箸さばきで和紗が掬う。
 2玉目は竜胆が。
「今度こそ……っ」
 清らかな流れに、夏草が箸を差入れ――
「お。当たりそうめん」
 赤い麺を掬い上げ、表情が綻ぶ。
「いいよねー、こういうのって、なんか嬉しくな ――ぐふっ……」
「わーい! 夏草さん、大当たり♪ 特製・唐辛子そうめんなんですよー!!」
「はるとさん……」
「夏草ちゃん、食べ物は粗末にしないよねー?」
「しないさ!!? 唐辛子はホラ、汗を流して血行を良くするってね!?」
「……夏草、無理をせず。水をどうぞ」
 強がる企業撃退士へ、和紗がスッと冷水を手渡し……
「食べきるまで、次のそうめんはお預けですからね」
 鬼の一言。
「夏草さーん! これも流していいですか?」
 唐辛子麺と格闘する夏草に、春都が次に用意したのは――

 多治見特産★ウナギだよ!

「ナマモノはアウト――! 衛生的な意味で!!」
「ちぇ……。でも、衛生的な意味なら仕方ないですよね……。せっかく生け捕りにしたんだけどな」
 ぬめぬめ元気なウナギは、あとでかば焼きにしよう……。


 プチトマトは誰も掬えなくて3巡ほどしたとか、ドタバタしながら流し手が和紗へ変わる。
「また唐辛子麺!!」
「全て逃さず掬う夏草ちゃん、さすがだわー」
 美味しい手延べそうめんをすすりながら、竜胆が2杯目の水を差し出し。
「そうめんでも、産地や銘柄……? で違いがあって楽しいですね!」
 食べる側に回った春都はご満悦。
「……おろ?」
 つるんっと食べ終えたところで、近寄る足音に気づく。
「日本の夏の風物詩、どう?」
 竜胆も振り向いて、足音の主――ユングヴィを招いた。
「たこ焼きの差し入れを預かってきましたが……私もご一緒しても?」
「たこ焼き……流しましょうか」
「ストップ、それは流すモノじゃないさ、和紗さん!?」
 大阪のソウルフードへ、自然に手を伸ばした和紗を夏草が慌てて止める。
「これが箸でー、向こうから流れてくるものを掬ってー」
 その間に、竜胆はユングヴィへ流しそうめんの流儀を教える。
「では、再開しますよ」
 一段落着いたと見て、和紗が次の麺を――
「何てもの流すの!?」
「多様に展開していくのが人というものです」
 反射的に捉えてしまった水羊羹を麺つゆに付けてしまった竜胆が青ざめる。仕掛け人の和紗は顔色一つ変わらない。
「あっ、これは取れないッ」
「ところてん…… 心の目で見るのですよ!!」
 水と同化する透明なモノを、春都が獣の如く鋭さでもって捕えた!!
「なるほど……反射神経を競う戦いですか」
「危険物も混じっているから、なんでも取ればいいわけじゃないのさ」
 2回連続唐辛子そうめんで涙目になりながら、夏草がユングヴィへアドバイスを。
「あらあら……さすがの大天使も、箸の扱いは困難みたいだね?」
「む」
 金色の髪にオッドアイ、純日本人からは離れた容姿の竜胆が、綺麗に箸を扱いながらユングヴィを微笑ましく見守る。
「堕天はしてないって聞いたけど、人界で箸を使えないと難儀するよ。今回は練習だと思って」
「荒っぽい練習さね!? でも、まあ……いいかもねぇ」
 気が付けば、何事かと一般人のギャラリーも出来ている。
 ユングヴィやカラスの紹介はイベント開始時にしてあるが、自分たちとは遠い――あるいは仇とも言える存在が、身近なモノを相手に悪戦苦闘している姿が印象的らしい。
「あっ、良かったら一緒に食べませんか?」
 春都が、小さな子供連れの親子へ呼びかける。2人の子供は、幼稚園児くらいだろうか。こちらへ興味津々だ。
「少なくとも、流れてくるのは食べ物ですから。好き嫌いが無ければ是非、一緒に」
「大天使と、どっちがお箸を上手に使えるかな?」
 和紗と竜胆の言葉に後押しされ、1組の親子も飛び入り参加。
「さーあ、これで恥ずかしいところは見せられなくなったね♪」
「どんどん見せてくれていいんですからね、ユングヴィさん! 私、教えますから!」
 竜胆と春都が、ユングヴィへフォローともつかぬフォローを。
 ユングヴィは声に出さず視線で夏草へ助けを求めるも、『これも交流だから』と笑顔で跳ねのけられた。


「邪魔してでも掬う。流し素麺は戦いです」
「手加減? しませんよ♪」
 流し手が竜胆へ交代し、一般家族の飛び入り参加もあったことからしばらくは普通のそうめんが流れ――……流れてこない、下の方へ。
 本気を出した和紗と春都が、スポーツ競技か何かかという勢いを見せている。
「えい」
 そんな中、何度流そうが誰もが苦戦するプチトマトを、少年が椀で筒を塞ぐという荒技で取って見せては笑いが起きた。
「まだ、そうめんは残っているかな」
 ようやくユングヴィも箸使いに慣れてきた辺りで、カラスが合流。
「いじめられませんでしたか、ユングヴィ様」
「……あなた、最初からわかっていたでしょう」
「楽しいでしょう?」
 呆れた表情で大天使は部下を見遣り、部下は風へ流すように笑う。
「……カラス、さん」
「…………ご無沙汰していました」
 他方、子供たちの親は。
 ――岐阜ゲートに囚われた後、解放され多治見へ越してきた家族だった。
 ユングヴィの姿、経緯を伝えられてもピンと来なかったのが、短期間とはいえ共に過ごした存在が眼前に現れたことで現実味を帯びる。
 震える声で名を呼ばれ、カラスは表情を真剣なものへ戻して一礼した。


 天使たちが彼らと話し込む間にも、そうめんは流れる。
 流しながら、竜胆は夏草へ話しかけた。
「僕ね。多治見に来るのは今日が最後かもしれないんだ」
「え」
 唐突な切り出しに、夏草の前を苺が流れさってゆく。下流で少年の奇声が上がった。
「一緒にバカやれる子達に出会えたんだ」
 竜胆が出会い、目指したいと思ったのは『冥魔空挺軍』。
「何でまた冥魔って思うかもだけど……彼らにも前代未聞だって言われたよ。でも、前代未聞なら僕が最初の例になれば良いんだよね」
 前例がない・イコール・不可能、というわけではないはず。
「大事な子からは、卒業かい?」
「それは変わらないよ。大事なものは、変わらない。でも、あの子を託せる相手がいるから。僕は僕が歩みたいと思う道へ、素直に進みたいんだ」
「そっか……そっか」
 世界は。ゆっくりと変わっていく。
 三界同盟の受けとめ方は様々で、これまでの戦いへの携わり方も様々で、それぞれにかけがえのない経験を積んできた。
「夏草ちゃんも、どうか自分の道を」
「ありがとうさ、ジェンティアンくん。僕は……この街に来て、ようやく根を張れた気がする。根を張りたいって思うようになった」
 根無し草の企業勤め。代わりの駒は、いくらでも。自分の立場を、そう割り切ってきた夏草だが……。
 天魔被害から逃げるだけではない強さを持つこの街で、自分だから出来ることを見つけた。
 捨て鉢になった時もある。そんな時に、駆けつけてくれたのは竜胆を始めとする久遠ヶ原の撃退士たちだった。
「君と出会えてよかった。君の夢が叶うことを、僕も応援してるさ」
 なんだか良い会話をしながら、夏草は本日3玉目の唐辛子そうめんを掬い上げた。
 そろそろ、この色へ警戒心を持つようになっていいと思う。
 



「子供だけで深いところ行くなよーー あああああ」
 河川敷はさほど危険はないとはいえ、子供同士だけになれば何が起きるかわからない。
 水場の注意巡回をしていた筧は、たびたび川へ飛び込むことになっていた。
「筧さん、お疲れ様です。休めそうですか?」
 戻って来たところへ、飲み物と焼肉の皿を手にした佳槻が現れる。
「わーー、差入れありがと」
「後で行ったら肉が無くなってたというのもちょっと哀しいですし」
「それなー。残しておいてくれるとは聞いてるけど、怪しいところだよね」
「戦犯側ですし」
「言わないで。……天宮君は? ちゃんと食べてる?」
 楽しんでる? そう聞かれ、佳槻はあいまいに答える。
「そうですね……。こうして体を動かすことが、僕には合っているみたいです。楽しいですよ」
「それならよかった」
「筧さーーん! 水中バレーの人数が足りないの、一緒にやらない?」
「えっ、なにそれ楽しそう。行く行く。雪室さん、ちょっと待ってて!!」
 川の中では、チルルがメンバーを集めてビーチボールでバレーを企画していた。
「天宮君も一緒にどう?」
「いえ、他にも配ってこないと」
「そっかー。暑さには気を付けるんだよ」
「野崎さんにも言われました」
 大人は、揃って同じことを言う。
 とは言っても、佳槻だって今期で高校卒業となる。大学生になったら『大人側』へなるのだろうか?


 河原の上流へ向かうと、石とラシャが水切りの腕比べをしていた。
「熱中しすぎて倒れないようにしてくださいね」
 佳槻が差し入れを持って行くと、ラシャがパッと顔を上げる。
「アマミヤ! 今の見たか!? 4回跳ねた!!」
「新記録ですか?」
「特訓の成果が出ておるようじゃのう」
 春の北海道で、ラシャは石から水切りを教わっていて。以来、どこかで特訓していたらしい。
「あっついけど、こういうの楽しいナっ」
「うむ……」
 くるぶし辺りまで水に浸かり、少年堕天使は無邪気の塊だ。
「アマミヤも、水切りしないか?」
「お誘いありがとうございます。でも……」
「遠慮はナシじゃ、天宮殿。すこーし濡れるくらいが夏は丁度良いのじゃよ」
 水切りで……濡れる?
 ぐいぐいと石に背を押され、しばし佳槻は巻き込まれることとなる。


「はぁい!! ねえねえ、スイカを冷やしておいたの。みんなでスイカ割りしない!?」
 やがて、水中バレーを制したチルルが駆け寄ってきた。彼女の体力は尽きることを知らない。
「すいかわり」
「目隠しも木刀も用意してるから! こういうのって、皆で遊ぶから楽しいのよねっ」
「そうじゃな、せっかくの誘いじゃ。行こうか、ラシャ殿」
 チルルの言葉に、周辺で水遊びをしていた他の子供たちも反応する。
「それじゃあ、僕はそろそろ戻りますね」
 水切りの石投げで、水中の魚を仕留められないかなど冒険に巻き込まれていた佳槻が、解放されるとばかりに体を起こす。
 膝辺りまで水に濡れるとは予定外だったが、少し涼しくなったかも。
「アマミヤ、また遊ぼうなーー!!」
 大きく手を振り、ラシャたちは佳槻を見送った。

 橋のたもとで冷やしていたスイカは、まさに食べごろ。
 ジリジリ焼ける河原の石の上に置かれ、割られるのを待っている。
 目隠しをして、木刀を軸にぐるぐる回ってからスタート。
 右だ左だと周囲から声が掛かる中、チルルは感覚を研ぎ澄ませ――
「ここよ!!」
 盛大に地を叩きつけ、割れた地表から水が湧きだした。
「……おお、これがスイカ割り……」
「若干、威力が高いがの」
 あの攻撃力でスイカを直撃したら、食べる箇所がないほどに粉砕しないだろうか。不安を抱きつつ石が答えた。
「うーん、残念ッ!! 次は誰の番――!?」
 太陽に負けない笑顔で、チルルが振り返る。
 あちこちから立候補の手が挙がった。
「それにしても、カラスが堕天するとは思いもしなかったぞ。ラシャ殿の言葉が効いたのかな?」
「どうだろ? ヒダの言葉かもしれナイ」
 スイカ割りの順番を待ちながら、石が問いかける。ラシャは複雑そうに笑った。
「アイツも……戦う以外のチカラを、見つけたのかな。そうだと嬉しい」
「じゃな」
 学園へ帰属した堕天使・はぐれ悪魔たちも、個々の『生きる道』を見つけているように思う。
 石がそうであるように。ラシャがそうであるように。
「時に、ラシャ殿は自身の『将来』について何か考えておるのか?」
 卒業、進学、そんな言葉が聞こえてくる季節だ。
 石の問いへ、ラシャは小さくうなる。
「『将来』までは、よくワカラナイ。今は、トモダチたちと撃退士としてチカラを磨いていくのに精イッパイだ。それを役立てることができる何かになれるとイイナ。ヒダは、何か決めてるのか?」
「うむ。自分は直ぐに卒業し、知り合いの伝手を頼った撃退士関連のなんでも屋をしようと思っておる」
「……卒業、しちゃうのか」
「永遠の別れではないよ」
「……うん」
 人界知らずの少年堕天使は、久遠ヶ原学園での『世界』が人間関係の多くを占めている。『外』は、まだまだ知らないことが多い。
 しょんぼりとして浴衣の袖を掴むラシャへ、石はカラカラと笑った。
「ところで、スイカ割りを堪能した後は焼肉へ行ってみないか? あのカラスが身銭を切ったようだぞ? 気になるじゃろ」
「……うん!!」




 熱い戦いの流しそうめんが終わり、参加面々が川遊びに顔を出す。ちょうど入れ違いになった石は、少し離れた位置を歩くカラスやユングヴィを見つける。
「久しゅう。そちらは初めましてじゃな。そなたがユングヴィ殿か。自分は緋打石じゃ」
「どうも。楽しんでいるようだね」
「初めまして。あなたもカラスの知合いですか?」
「そんなところじゃ。逆転サヨナラヒットを放ち、本日の焼肉会の功労者とでも言おうかの。なぁ戦犯?」
 ユングヴィに尋ねられ、石は意地悪くカラスを見遣る。向こうは変わらず涼やかな笑顔のポーカーフェイス。
「出来る限りの用意はしたつもりだよ。どうぞ、楽しんで」
 ――黒毛和牛霜降り肉。
 カラスが用意したブツを思い出し、石の表情がいささか引き攣る。
 肉は未だ、残っているだろうか。
「……カラス!」
 石のあとを追いかけながら、ラシャが振り返る。
「また、遊びに来るナッ!」
「……お好きにどうぞ」
 少年堕天使は大きく手を振り、青年堕天使は少しばかり呆れ。その後方で、大天使はクスクスと抑え気味に笑っていた。

『覚悟しろよ』

 背を向けたまま、石はカラスへ思念を飛ばした。
 短い余生、退屈する暇など与えるものか。



「はーーー、川の水が気持ちいい……。せせらぎはいいねー」
 足元を水に浸し、竜胆が涼を取る。
「癒されるさねぇ」
 悪戦苦闘はあったが、最終的にはお腹いっぱい食べた。夏草も足を放り出して伸び伸びしている。
 和紗は、水切りに適した石を探すことに没頭しているようだ。

「お二方かくごーっ!」

 食休み中のひとときを襲撃してきたのは春都。いつの間にか浴衣から水着姿へチェンジ、水鉄砲を手にしている。
「こんなこともあろうかと、準備はバッチリしてきました。油断大敵ですよ♪」
「なんのっ」
 とっさにシールドを張った竜胆は水浸しを免れ、夏草は頭から濡れ鼠。

「ふむ。これならよく跳ねそうです」

 他方、ようやく石の選定を終えた和紗が大きく振りかぶり水面へ向かって投げ……
「痛ぁ!!?」
 石が、何故か予想外の跳ね方をして春都と向き合う竜胆の後頭部を直撃した。
「邪魔しないで下さい竜胆兄」
「僕、何もしてないよね和紗!?」
「そんなところにいるから、変な方向へ跳んだじゃないですか」
「えええええーーー」
 それぞれに進む道が見え始めている。そんな時でも、感傷的になることなく2人は2人らしく。
 そっと見守る夏草の側面を、再び春都が襲い――
「ふっ、同じ手は食わないさ」
 八卦水鏡、反射スキルで春都にも水が掛かる。
「ふふふふ、やりましたね……。こちらも加減はしませんよ!」
「まさかの火に油」
「わー、夏草ちゃんがんばれー」
「竜胆兄、何を他人事のように」
「えっ。ちょっと待って、和紗! やだ、濡れたら僕セクシーじゃない!」
「たっぷりアピールするが良いです。どうせ誰も見ていません」
「ひどい」
 呆れた眼差しを投じつつ、和紗は水面から水を掬って竜胆に浴びせた!


 ようやく、穏やかな時間が訪れる。
 堕天使たちも河原へ腰を下ろし、平和な光景を眺めていた。
「お疲れ様です。繋ぎの潤滑剤にもどうぞ」
「わたしたちもいいのかい? ありがとう、いただくよ」
「……また『箸』ですか」
 頃合いを見て差し入れを持ってきた佳槻から、カラスは笑顔で飲み物と焼肉の載った皿を受け取り、ユングヴィは柳眉を寄せる。
「箸、苦手でしたか? フォークもあったと思うので、貰ってきます」
「ああ、いいんだ。人界での生活が長くなるなら、慣れて頂かないといけないからね」
「ヴェズルフェルニル、あなたは本当にいい性格をしています」
(……なんだか楽しそうだ)
 思えば、カラスが『仲間』と共にいる姿を見たことはほとんどない。ウルとも似たような掛け合いはしていたか。
 どちらかといえば1人で戦わざるを得ない状況が印象に残っているが、背景は孤独ではなかったのかもしれない。
(仲間……)
 焼肉の手伝い、周囲の見回り。イベント事となれば佳槻は知人と騒ぐより裏方仕事を選ぶことが多い。
 その合間に見知った顔があれば会話をするけれど。
 不意に。
 周辺の音が消える感覚がした。
 大勢の笑顔。明るい陽射し。太陽の熱。
 認識できるのに、自分一人だけが『外』にいる。そんな感覚。
(……僕は)
 ――それでも気付くのは面白い
 佳槻が、カラスへ掛けた言葉だ。
 短い余生であったとしても、他者との距離感が違ったとしても……自分の中に、まったく感情が無いわけでは、ない。
 かといって、ことさら口にするようなことでもないと、佳槻は思い始めていた。音にすることで、作り物のようになってしまう場合もある。
「おっ、天宮くん! 今日も勤労少年さ?」
「夏草さんも、お疲れ様です。……すごいびしょ濡れですね?」
「あははは、やられたやられた。天宮くんは泳いでいかないの?」
「いえ。僕は、こうして体を動かしている方が性に合っているようで。……林さん達は、お元気ですか?」
 林由香、多治見の復興関係の部署に勤める役所の女性だ。
 悪魔ゲートからの立ち直り期間に、幾度か学園へも依頼を出していた。一般人ながら、芯の強さを持ち合わせている。
「元気元気。『風の剣』の管理体制について、こっぴどく説教受けたさ。なんて、ナイショだよ? ……ほら、向こうで子供たちの相手をしてる。良かったら行ってごらん」
「はい」
 指された方を見れば、チルルとのスイカ割りが大盛況で、一緒に分けあって食べる姿があった。
 随分と懐かしい姿だが、記憶の中との変化は少ない。
 あれから、自分は――どれだけ変わっただろう。大きな変化はないかもしれない。ああ、身長は幾らか伸びた。相手は、自分を覚えているだろうか。
 カラスとの戦い。
 多治見での出来事。
 それぞれ別に起きていたことが、不思議なことに合流している。
 遠い記憶を呼び起こしながら、佳槻は歩き始めた。




 焼肉を行なっているテントは、学園生・一般市民の隔てなく常に賑わっている。
 雫は釣果を手に、そっと裏から入り込んできた。
「野崎さん……交渉を宜しいでしょうか」
「んー、なになに…… なんなの、ほんとに!!!!?」
「思いのほか、釣れまして」
 釣り具で地道に釣るのは難しかろう大物から小魚、ありったけを手にした雫の姿に野崎が後ずさる。
「流石に体力を消耗しました。こちらと交換で、スタミナ補給できるものがあるようでしたら……」
 美味しい肉の、良い部位を。
 明言しないが、要求はこうである。
「あっははは。ありがとう、OK,OK。ユウさん、まだ例のアレ残ってる?」
「ええ。……雫さんに、足りるかどうかはわからないんですが……」
 数量限定黒毛和牛霜降り肉の存在は、明言していない。当たったらラッキーという形で、少しずつ混ぜ込んでいる。
「これと、ラム肉はスライス・味付け各種ね。せっかくだから、獲った魚も一緒に食べてねー」
「え。これ、雫さんが獲ってきたの?」
 そこへ、周辺をブラブラしていた筧が通りかかる。
「え。ええ、正当な手段で捕獲しました。後ろ暗いことはありません」
「ほう」
 後ろ暗いことなどしようもない川だとは思うが――そのあたりは、久遠ヶ原の撃退士ということでお察しというか見逃しというか。
 川へもぐりこんで濡れた髪も、この暑さでほとんど乾いている。違和感はないはず。
「魚を捌くなら、俺が手伝うよ。この数は大変だろ」
 パーカーの袖を捲り、筧も裏方へ入る。
「たっくさん食べろよー。雫さんは成長期だしね」
「筧さん、セクハラです」
「なぜ」
 上着のあわせを固く閉じて、雫がジロリと見上げる。
 雫は成長期。成長期である。成長の兆しが見えない焦りなんて今は必要ないのである。どことは言わない、言わせない。
「それにしても……水着姿で焼肉をすると、熱気を遮る物が無いから自分も焼かれている気分になってきますね」
「わかるー。ちゃんと水分も摂ってね」
 飲み物はたくさん用意してあるから。
 野崎が、クーラーボックスからドリンクを取り出して雫へ渡した。
 その傍らで、ユウは器用に物質透過を活用し、跳ねる油などを回避している。あくまうらやましい。
「緋華さん、食べている光景を写真に残しても構いませんか?」
 雫の食べっぷりに心をくすぐられたのか、ユウが手荷物からデジタルカメラを取り出す。
「公のイベントだし、大丈夫だよ。どうかした?」
「レラさんへ、ラム肉のお礼の手紙と一緒に送りたいと思いまして」
「ああ、喜ぶかもね。雫さん、いいかな?」
「私は……構いませんが」
 撮られてマズイことはないはず、自問自答してから雫も快諾する。
「あっ、俺も俺もーー」
「筧くんが映ってどうするの? ああ、スカウト責任で無報酬労働に従事していますってことで撮ってあげて」
「これ、そういう扱いなんだ!!?」

 魚類も加わり、焼肉会場は更に盛り上がりを見せる。
 そこへ、恋音や雅人も様々な釣果を手に戻ってきた。
「……スッポン!!?」
「……えぇとぉ……思いのほか、獲れまして……皆さんと分けあえればとぉ……」
 ぎょっとした野崎へ、切りそろえられた前髪から恋音が照れた笑みを覗かせる。
「それは、俺も捌いたことないわ……」
「……大丈夫ですよぉ……そのぅ、心得はありますから……」
 釣る予定だった魚たちは、どういった調理をするかまで恋音のプランには織り込み済み。
 ガサガサと音をたてているクーラーボックスを突きながら引き気味の筧だが、恋音は心配無用と告げる。
「それじゃあ、下ごしらえは私が引き受けますね!」
「……おぉ、お願いしますぅ……」
「せっかくだから、俺も見学してていい?」
 雅人が、クーラーボックスから手際よく魚を取りだしてゆく。
 2人の息の合った仕事ぶりに、筧が首を突っ込んだ。
「見学してても手は動くよねー、筧くん。あたしもお腹すいたなーーー」
「あっハイ、野崎さん休憩どうぞ。肉焼きますね!!」

 アマゴはシンプルな塩焼き。
 ナマズは蒲焼と、獲りたてならではの刺身。
 スッポンも、今回は塩焼きに。
 ウナギは、春都からの差し入れも一緒に蒲焼にした。

 おっとりとした口調と対照的に、恋音の料理は手慣れたもので鮮やかだ。
 雅人のサポートもあり、テンポよく提供されていく。
「思ってたより生臭くない。へーーー、ナマズの刺身は初めてだな」
「……そのぅ、筧先輩……。事務所の業務拡大の件を、斡旋所でお見かけしたのですが……」
「あーー、うん。あれね」
 フリーランスの個人事務所を構える筧は、業務拡大しなければならない状況となり、開き直った結果の依頼を少し前に出していた。
「……実はぁ……近い内に『事務代行業』を始めるでして……必要な時となりましたら、ご連絡ください……」
 卒業後と予定していたが、在学中にも開始する予定なのだと告げると、筧は少し考え、それから困ったように笑う。
「お申し出、ありがとう。でも、前回の依頼で協力者のほとんどが決まったんだ。それでもどうしようもなくなったら、ヘルプを出させてもらうね」
 就職希望者が2人。率先してアルバイトに来てくれると言ったのは、今、席を同じくしている雫だ。
 彼女たちへ協力を仰ぐことで作業効率を上げる予定でいるし、充分に可能だと見込んでいる。
 ここで恋音にも良い顔をしてしまえば、なんの為の『依頼』だったのか。
 それくらいの線引きは、させてほしい。
「私は戦闘任務のお手伝いをする予定ですから、書類業務までは――今後は知りませんよ、筧さん」
「教育的指導、ちゃんと実践してます。ありがとね、雫さん」
 書類整理の際に、その場しのぎの手伝いではどうしようもないと、筧たちに習慣づけなければならないと言ったのは雫だ。
 中等部生にピシャリとされる大人もいかがなものかと思うけれど、そういった人間関係も、これまで培われてきた信頼だから。




 橋の影で冷たいドリンクを飲んで涼んでいたエイルズレトラ マステリオ(ja2224)は、更に人目のつかない場所からイベントの様子を伺っている少年に気づく。
(彼は、確か……)
 岸 翔平。
 『風の剣』を岐阜ゲート跡地へ持ち出したことにより、多治見を危険に晒した少年。
 エイルズレトラも事件へ同行し、彼とは面識があった。
 カラスによって命を救われ、しかしカラスによって幼馴染の命を奪われた。
 だからといって、報復も出来ず――二度、カラスに助けられた形となり。
 今回に至っては、カラスが街へ定住するという。きっと歓迎できる心境ではないのだろう。
 かといって邪魔も出来ない。彼の存在――『風の剣』に施された術が、街の平穏を守るというのだから。
 近づけない、けれど放置も出来ない。
 グズグズした心境であることは遠目にもわかり、エイルズレトラはやれやれと肩をすくめた。

「ここまで来て、まだ動けないんですか」

 5秒32mの移動力でもって、エイルズレトラは少年の後ろへ回り込む。
「岸君。あなたが何をしたか、僕は知っています。でも、後悔したって償いにはならないんですよ」
「後悔なんて……ッ」
「では、改めて復讐を?」
「…………」
 自分の力が及ばないなら、然るべき相手へ依頼するのも手であるけれど、小学5年生にそれは無理だろう。
 復讐が答えではないと諭されたことも、少年の胸には強く刻まれている。だから、動けずにいる。
「落ち込んでいる暇があるなら、さっさと元気になって人様の役に立ってごらんなさい。あなたが行方不明になったと聞いた時、あなたが帰還した時、親御さんはどんな顔をしていましたか」
「う……」
「あちらで、僕のトモダチも遊んでます。ここまで来たんだから覚悟を決めて今は遊びなさい」
「で、」
「『でも』は、却下です」
 奇術士は意地悪く笑い、少年の手を取って魔法のような早さで河原を駆けた。


 焼肉で腹を満たした後、再び川辺で……今度は水中の生き物に夢中になっていたラシャの下へ、エイルズレトラたちが水上から近づいてくる。
「エイルズレトラ!!」
「遊びましょう、ラシャ君。ボートを借りてきましたよ」
「おおおおおお。お、そっちは?」
「……岸。この街の人間だ」
「キシか! オレはラシャ・シファル・ラークシャサ! 堕天使だ、ヨロシクな」
「…………お、おう」
 金色の髪に赤褐色の瞳。外国人と言えば押し通せそうな容姿だが、堕天使は素直に己の素性を告げる。無論、隠す必要などどこにもないのだけど。
「堕天使っていうと、アレと同じ……なのか?」
 チラリとカラスへ視線を遣ってから、岸少年は恐る恐る訊ねる。
「……カラスか。ん……そうだな。もとの故郷は、オナジ天界。でも、それぞれジジョウが違う。堕天使も、はぐれ悪魔も、混血も、人間だって、ジジョウは違うだろ?」
「それは……うん」
「でも、オレとエイルズレトラはトモダチだ。たぶん、そういう……うまくいえないケド」
「種族の壁は些細なこと、ですね。さあ、ラシャ君もボートに乗ってください」
「わかっ…… なんだソレ!!?」
「ああ、これは『水上歩行』です。いいでしょう?」
 さりげなくスキルを発動し、エイルズレトラはボートを川の中央へひいていく。
 その間に召喚獣である『ハート』を喚んで、退屈する暇を与えない。
「あははっ、水が跳ねてくすぐったいぞ! エイルズレトラも浴びると良い!」
「そんなヘマ、僕はしませんよ」
 水上を軽やかに移動しながらエイルズレトラが水しぶきを回避する。
「わぷっ…… くそっ、負けないからな!」
 そろそろ、岸少年も年相応の顔つきになってきた。
 ずぶぬれになりながら、体力の限界まで遊び倒す。
 ――お子様には、それが一番の発散方法なのだ。言葉にすることが難しい感情を、抱えているのなら。

「キシ……寝ちゃったな」
「そっとしておいてあげましょう。彼にも、色々とあるんですよ」
「そうなのか?」
 カラスの名を出していたことから、何がしかあるのかもしれない。
 エイルズレトラの短い説明から感じ取り、ラシャはそれ以上の問いは止めにした。
「はーー。今日は楽しいな。エイルズレトラ、また一緒に遊びたいな!」
「そのことなんですが」
 濡れた服を風に乾かすラシャへ、エイルズレトラが切り出す。
「今日は、ラシャ君へお別れの挨拶をしに来たんです」
「え。お別れ、って……」
 振り返ると、友人の目はどこか冷たさを宿していた。
「僕は、もうすぐ学園を卒業して欧州の実家へ戻ります」
「……オウシュウ」
 ヨーロッパ。日本からだと、どれくらい移動に時間がかかるだろう? 遠い遠い国だ。
「日本は平和になりました。僕は、闘争を生業とする実家に帰って戦い続けるつもりです」
「戦い……ナリワイ……そう、なのか」
 そういえば、エイルズレトラの故郷について深く話を聞いたことはなかったかもしれない。
 帰る場所があって、そこでやりたいことがある。そう言うのなら、ラシャに止められるはずもない。
「寂しくなる……」
「これもまた、人生というものですね。……お元気で」
「エイルズレトラも!! 元気で……トモダチになってくれて、ありがとう!!」
 楽しいことを教えてくれた。
 厳しい言葉を掛けてくれた。
 優しいだけじゃない、ラシャの大切なトモダチ。

 またいつか、会えるだろうか?
 会えなくなったとしても、思い出が色あせることは、きっとない。




 食事を終えた真緋呂と一機は、手を繋いで河原を散歩中。
「ふーっ、お腹いっぱぁい! あんなにたくさん食べられると思わなかったな」
 定番焼肉メニューから北海道からのラム肉、多治見の川魚にウナギにスッポンにそれから
「今日は焼肉会ってことだったけど、多治見には他にも美味しい食べ物があるんでしょ? 今度は、それを食べに来たいかも」
「ひとつの街を食べつくすまで、真緋呂は止まらないなぁ」
「だって。せっかく来るなら、たくさん知りたいじゃない」
 恋人同士とは思えない、でもこれが2人らしい飾らない会話。いつも通りのようで、特別な距離。
「暑いね……。戦いの場とは違うけど、色々と思い出すな」
「そうだな。こんな日が来るとは思いもしなかった」
 額に滲む汗を、真緋呂はハンカチで拭う。その横顔を、一機は優しく見つめた。
「……うん。でも、一機君はいつだって『帰る場所』で居てくれた。だから、私はここに居るんだよ」
 真緋呂が深い悩みを抱えた時。受け止めて、待っていると言ってくれた。
 小隊が功績を挙げた時、メンバー皆のものだと言ってくれた。
 強いようで、もろい一面のある真緋呂を支えてくれたのが一機だ。
「ねえ、ちょっと休もう? ほら、この辺りだと座れそう」
 真緋呂は草履を脱いで、疲れた足を冷水に浸す。水の流れが絡むようで、くすぐったい。
「あーー、これは生き返る」
「そういえば、近くに温泉もあるんだっけ。寄って帰れたらよかったなぁ」
 真緋呂は、日帰り企画であることを残念に思う。
「川沿いを登って行けば、星空が綺麗な場所にも辿りつけるかもな」
 多治見の街中では難しいかもしれないが、山に囲まれているから高いところへ行けば街明かりも気にならないはず。
「ふふ。お泊り?」
「たまには、仕事抜きで良いんじゃないの」
 ゆるっとした会話。
 野鳥が水面を弾いて飛翔してゆく。
(これは……チャンスでは)
 一機は、真緋呂と接する側の腕に体重を預けて体を傾けた。
(……もしかして)
 何かを察し、真緋呂は思い切って目を閉じた。


 ファーストキスはレモン味って、誰が言い出したのだろう。




 ゆったりと時間を過ごした後、帰り道。
「あっ」
 河原の石に足を取られた真緋呂が小さく声をあげた。
「……鼻緒、切れちゃった……」
 浴衣の帯と色を合わせた草履、お気に入りだったのに。
「街に戻れば、直してもらえるよ。俺には出来なくてごめんね?」
「そんなこと言ってないったら。……一機君?」
「とりあえず、乗って。裸足で歩いたら火傷するでしょ」
「それじゃあ遠慮なく」
 こちらに背を向け屈んでいる一機は、どうやた真緋呂を背負ってくれるらしい。
(一機君の背中……広い)
 こうして触れることは無かったから、なんとも不思議。
 触れるところから伝わる体温は、夏の暑さと関係なく心地が良くて安心すると同時にドキドキしてしまう。
(帰る場所、かぁ……)
 それは、こういうことなのかな。
(きっと、10年後もこうして世話焼いてるんだろうな)
 同じ熱を感じながら、一機はそんなことを思う。
 ドキドキも、安心も、これからも一緒に。
「……ずっと一緒にいようね、一機君」
 微笑んで、真緋呂は恋人の背にキュッと抱きついた。




 イベントが終わりに近づいている。
 遊び疲れた子供たちを背負い、帰る家族連れが目立ち始めていた。

 もとより食欲の薄い矢野 胡桃(ja2617)は食事もそこそこに、平和な様子をずっと眺めていて。
 街の人々と天使たちの会話。ぶつかる感情は、激しいものもあれば穏やかなものもある。『彼ら』の姿を、ずっと見守っていた。
「胡桃」
「……佳槻お兄ちゃん」
「喉が、渇くかと思って」
「…………」
 ユングヴィは夏草と共に、他の場所へ移動している。カラスは一人、川原で涼を取っていた。
 ――今なら、カラスと話し合う時間を作れるだろう。
 暗に、そう告げている。
「……行ってくる、わね」
 差し出されたドリンクを受け取って、こくりと一口飲んで。
 少女は、堕天使の下へ向かって行った。


「ヴェズルフェルニル。ありがとう。少なくとも、生きようとはしてくれたみたい、ね」
 急な声にも驚く風はなく、カラスがゆっくり振り返る。
「堕天という手段を選んだのは驚いたけど……」
「わたしが本当に一人だったら、命の使い方もわからなかったかもしれないね」
 空が黒く塗りつぶされた日の、学園での対話。そこで提示された、様々な未来の形。或いは想いの軌跡。
「天界の未来がどうなるか……爪痕すら残す力がないのなら、違う道も良いのかもしれないと考えた」
 天使としてエネルギーを維持しようとするくらいなら、堕天してしまったほうが楽になる。その助言は大天使であるユングヴィからもたらされた。
 生きることだけを考えるなら、そうだろう。
 何かを為したいと思うなら、難しいだろう。
 でも――ユングヴィの抱える『情報』は少なからずカラスへ希望を与え、ならばと己のことだけを考えることができた。
 その時に、何をしたいか――自問自答をして。
「他者に委ねず、残された力でできることを、為したいと思ったよ」
 ――戦わない手段を選ぶことの方が、もっとずっと難しい
 そう伝えたのは、胡桃。
「それが、この多治見で生きていくこと、なのね……?」
「ああ。がっかりさせたかもしれないね」
 カラスの言葉へ、胡桃は俯いたまま首を横に振る。
「諦めないでくれて、嬉しい……わ」
「胡桃? 泣いているのか」
「泣いてないったら」
 震える声に気づき、カラスが身を屈める。否定の言葉は肯定だ。それ以上は追求せず、カラスは少女の言葉を待つ。

「私、貴方が好きよ、ヴェズルフェルニル。吊り橋も何もかも取り払っても」

 京都で。最後の戦いで。貴方が落ちたあの時、やっと気づいた。
 気のせいだと思っていた、危険な戦場で味わう高揚感から来るものだと。或いは重ねる敗北からの意地だと。
 でも、違った。違った。胸に湧き上がる、止めようのない感情は――……

「吊り橋」
「そこ! 笑うところじゃないでしょぉ!? 私だって真剣に悩んで……貴方だって、そう思ってたから、あんな」
 ――お姫様
 からかうように天使は歌い、少女を幾度も狙い撃った。
 距離を武器にする射手を、ならば距離を潰したらどうなると。
 遠方からなら安全と、思いこんでやいないかい? そんな、そこ意地悪く遠慮なく。
「そういえば。貸しがあるっていう話。まだ終わってなかったわ、ね?」
 こみ上げた涙が引っ込んだ。
 ぐいっと目元を拭い、胡桃は話の筋を戻す。口元に手を当てて笑っていた堕天使も向き直った。
 世界の結果が見えなかった対話の場で、YESもNOも言えなかった、あの話。
「私、ひとつ願いがあるのよ、濡羽の君。貴方が多治見で過ごす日々を、一緒に過ごさせてほしいの」
「……君が多治見で?」
「学園なら、卒業するわ。進路を選ぶ自由を与えられるなら……私は、貴方の隣に居たい」
 貴方に残されたのが5年。
 私に残されたのが4年と少し。
 だから、どういう結果になろうと後悔しない為に――
「4……? 胡桃、それは」
「話してなかった、わね。私は――」
 話せるような場なんて、今までなかったから。
 胡桃は自身の生い立ちを告げ、その影響により残された時間が少ないことを伝えた。
「…………」
「おねがい」
 わがままだと、わかっている。それでも、共に在りたいと願うことをゆるしてほしい。

 ――見張りとして、我らがへーかつけるから

(ああ)
 ゼロの、あの言葉は――
「ずるいな、君たちは……」
「……泣いているの?」
「泣いていない」

 自分だけではない。
 限られた時間を背負い、生きているのは。
 自分だけではない。
 見果てぬ夢と、叶えられる現実との間に苦しむのは。
 天使も。悪魔も。人間も。
 それぞれの場所で、それぞれが何かを背負いながら、祈り、生きている。

「胡桃」

 ややあって、カラスは少女の右手を取った。
「……変わる世界を、共に……か。4年や5年で、どれほど変わるだろう」
「少なくとも、私たちはこの3年で大きく変わったと、思わない?」
「……たしかに」
 真っ直ぐに気持ちをぶつけてくる少女へ、カラスは形だけの優しさで触れたくないと考えてきた。
 口先だけの慰めを言いたくないと考えてきた。
 だから、今は――自分もまた、本心から訊ねる。
「君は『生きたい』と……諦めずに、願い続けるかい?」
「貴方が、一緒なら」
「それじゃあ……解けない魔法を掛けよう」
 堕天使は笑う。それから、少女の右手の甲へ口づけを。

「約束だ、わたしの姫君。……諦めは、しないで」

 宣告された余命が、確実に遂行されるデジタルなものである保証はない。
 余命が来る前に簡単な事故で命を落とすことだって有りうる。
 それゆえに、約束を。
 残された時間を、諦めることなく生きることを。

「貴方が、それをいうのね?」

 胡桃が微笑む。
 濡羽の君の髪へキスを落とし、それを誓いとした。




 暑い夏の、とある1日。
 幾つかの約束と別れが交わされた日。
 存分に食べ、存分に遊び、存分に笑って――

「ささやかですが、わたしたちからの感謝を」
 カラスとユングヴィが、魔力でもって川の水を上空へ巻き上げ……噴水のように周囲へ散らす。
 真夏の霧雨は適度に肌を濡らして心地いい。
「そんな技があるんなら、最初からやらんかーーい! 暑さの頂点は過ぎたでー!!」
「焼肉の炭火を消してしまいますから……。あと、川魚が驚くので釣りに支障が起きます」
「真面目か!!」
 ゼロのヤジとユングヴィの応酬に笑いが起こる。
「足りない、足りなーい!! もっとこう、すっごいのやって!!?」
 チルルは大雑把にアンコールのリクエスト。
「……多治見は楽しいところです。今度は一緒に旅行へ来ましょうね、ナナさん」
 空に浮かぶ水を見上げ、その向こうの虹に目を細めながら、ユウは北の地に暮らす友人へ語り掛けた。


 たくさんの思い出を残し、日が暮れようとしていた。





依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 伝説の撃退士・雪室 チルル(ja0220)
 奇術士・エイルズレトラ マステリオ(ja2224)
 久遠ヶ原から愛をこめて・春都(jb2291)
 優しき強さを抱く・ユウ(jb5639)
重体: −
面白かった!:20人

伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
未来へ・
陽波 透次(ja0280)

卒業 男 鬼道忍軍
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
奇術士・
エイルズレトラ マステリオ(ja2224)

卒業 男 鬼道忍軍
ヴェズルフェルニルの姫君・
矢野 胡桃(ja2617)

卒業 女 ダアト
大祭神乳神様・
月乃宮 恋音(jb1221)

大学部2年2組 女 ダアト
ラブコメ仮面・
袋井 雅人(jb1469)

大学部4年2組 男 ナイトウォーカー
陰のレイゾンデイト・
天宮 佳槻(jb1989)

大学部1年1組 男 陰陽師
久遠ヶ原から愛をこめて・
春都(jb2291)

卒業 女 陰陽師
新たなる風、巻き起こす翼・
緋打石(jb5225)

卒業 女 鬼道忍軍
優しき強さを抱く・
ユウ(jb5639)

大学部5年7組 女 阿修羅
あなたへの絆・
蓮城 真緋呂(jb6120)

卒業 女 アカシックレコーダー:タイプA
光至ル瑞獣・
和紗・S・ルフトハイト(jb6970)

大学部3年4組 女 インフィルトレイター
ついに本気出した・
砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)

卒業 男 アストラルヴァンガード
あなたへの絆・
米田 一機(jb7387)

大学部3年5組 男 アストラルヴァンガード
縛られない風へ・
ゼロ=シュバイツァー(jb7501)

卒業 男 阿修羅