.


マスター:佐嶋 ちよみ
シナリオ形態:シリーズ
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2017/06/21


みんなの思い出



オープニング

●野球やろうぜ!
 撃退士野球組合なるものをご存知だろうか。
 超人的身体能力を誇る撃退士は、一般人のスポーツ競技各種へ参加することが出来ない。
 同列に技を競い合うことが出来ない。
 『だったら撃退士同士でやればいいじゃん』と、熱狂的野球好き有志が結成した組合である。
 全国各地にあるという噂の真偽は定かではないが、とりあえず一定数、存在していた。

「お〜い、筧。野球やろうぜぇ」
「準備万端じゃねぇか。拒否権ナシかよ」
 事務所へ戻ったフリーランス撃退士・筧 鷹政(jz0077)は、留守番をしていたはずのパートナー・相模隼人がクローゼットの奥から用具一式を取り出しているのを見て頭を抱えた。
「最近、使ってないだろ。道具が泣くぜ……?」
 チャライ容姿の金髪忍軍は、ドヤ顔で鷹政愛用のグラブを指しつつボールを山なりに放る。
「ご丁寧に手入れまでアリガトよ」
 パシンとボールをキャッチして、たしかに久しい感触に目を細める鷹政だ。なんだかんだと、隼人は頃合いを見てのガス抜きが上手い。
「日程は学園に連絡を入れといたから。こっちのメンバーも、都合付けといたし」
「わかっ…… ……。早いな!!?」
「隠密迅速がモットーのシノビをナメてもらっちゃ困る」


 本格的な夏が来る前。
 暑すぎず寒すぎず過ごしやすいこの季節。
 撃退士同士だから力をぶつけあえる場所がある。




 久遠ヶ原学園、斡旋所。
「ということで、試合のお誘いです」
「あーーー、何年か前にもありましたね」
 依頼書に目を落とした少年は、4年半ほど前の12月を思い出す。
 当時を覚えている学生がどれほどいるかはわからないが、『野球やろうぜ!』というファイルに内容が保管されており、とにかく熱量が凄かった。
「問い合わせたら、学園のグラウンドも1つ借りられるってOKもらったからさ。あの頃と今では状況も違うだろう? ――そう。俺も本気を出せる」
「……はい?」
 
 ということで。
 一呼吸おいて、鷹政は拡声器を取り出した。

 
 ――若者たちよ、野球やろうぜ!!
 こちらは指折りの選手が待ちかまえている。
1番〜二塁手、塁を盗むなら俺に任せろ、チームトップの出塁&盗塁率! 二つ名『クセ者』に偽りなし!
2番〜遊撃手、以前の試合から引き続き参加の瞬足選手! 脱最年少おめでとう!
3番〜DH、問答無用のパワーヒッター! 塁上に出ればただのヒト!!
4番〜三塁手、強肩強打のスラッガー。メンタルの弱さが守備に出ちゃうのが玉に瑕!
5番〜中堅手、守備範囲の広さには定評あり! 得点圏打率は脅威の5割!!
6番〜右翼手、外野手頭越えはHRカウントしてあげて下さい。打率は高いが長打は貴重な『繋ぎ役』!
7番〜一塁手、下位打線だと誰が決めた。撃退士通算安打2000本まであと10本! ※最年長55歳
8番〜左翼手、バックホームは精密狙撃。刺すことなら任せて頂戴。クールな風紀委員!
9番〜捕手、期待の若手25歳。怖いもの知らずのリードでセオリーを壊すぜ! 打率は聞かないでください。

「なお、組合のピッチャーは3イニングごとに交代するので個性豊かな攻防を楽しめるよ!」




「どうして、あたしが入ってるの」
 おい。
 8番レフトに名前が入っているのを見て、野崎 緋華 (jz0054)は鷹政の胸倉をつかんだ。
「え、得意でしょ、刺すの」
「ここで実演しても良いけど」
 ナイフを活性化する友人へ、鷹政は両手を上げる。
「まぁまぁ、せっかく彼も飛び入り参加してくれるって言うし」
「直接相談したいことがあって、街から出て来たら捕まっただけさね……」
 緋華にジロリと睨まれ、サッと顔を逸らすのは多治見の企業撃退士、宵闇の陰陽師・夏草 風太 (jz0392)であった。
「それにしても、僕が始球式なんてやってどうするんかね」
「え。投げてもらうよ、3イニング。登録してるし」
「企業勤めさ!!? フリーランスじゃないさ!!?」
「顔つなぎしておけば、いつかの時に役に立つでしょーー」
「解雇の予定ないから!!!」
「いやあ、わからないヨー。何が切っ掛けで仕事がなくなるかなんてわからないヨー」
「なくなった結果、俺の事務所に居ついたフリーランスがコイツね、相模ってゆーの。よろしくしてやって」
「縁起でもないことやめてほしいさ……」
 鷹政に紹介された隼人は、軽薄そうに笑った。
 ちなみに隼人が1番セカンド、鷹政が5番センター。 
「監督は私が」
 そこへ、美脚愛好家である加藤信吉がスッと姿を見せた。
「加藤さんまで……。多治見、大丈夫なの?」
 信吉は、風太がまとめる多治見の撃退士連合に名を連ねるフリーランスでもある。
「まあ、その辺りは追々ね。とりあえず3イニングは頑張らせてもらうよ。こう見えてリトルリーグ時代は『疾風の夏草』と呼ばれたものさ……」
 それは多分、誇れるのは走塁技術方面では。

 能力未知数のピッチャーをゲストに迎え、撃退士フリーファイターズ――略称『GFs』は試合準備を進めていた。



●長い一日が始まる
「マネージャーを務める大学部一年、御影光です。よろしくお願いします」
 学園指定ジャージに身を包んだ御影光 (jz0024)が深々と頭を下げ、学園生チームへ説明を始めた。
「泣いても笑っても延長なし・9イニングで終了の試合です。悔いの残らぬよう戦い抜きましょう!」
 勝ったら何か報酬があるわけではない。
 あるとすれば――達成感、充実感、そういった青春の煌めきの類。
「撃退士同士の野球ですが、それゆえに純粋な能力で競いたい。
いいや撃退士だからこそのぶつかり合いをしたい。希望は様々だと思います。
そこで中間を取りまして、3イニングごとに軽く変則ルールを用います」

1〜3イニング……スキル使用、一切なし
4〜6イニング……能力上昇系スキルのみ可能
7〜9イニング……スキル使用解禁。ただし飛行・召喚と、相手チームへ悪影響を及ぼすものは不可

「まずは、3イニング。互いの地力を確かめ合う場面ですね! 光を甲子園へ連れて行ってください!」

 光は、そこまで書かれた台本を読み上げた。





リプレイ本文


 ライト方向への緩やかな風は、打球へ影響を与えない程度。
 実に爽やかな、本日野球日和。


「おー、天宮君! 良い試合にしような!」
 試合前にGFsベンチを訪れ挨拶に来た天宮 佳槻(jb1989)を、筧 鷹政が笑顔で迎える。
(フリーランスの三人と、学園所属の野崎さんはわかるけど……)
「天宮くんも参加なんだね。お手柔らかにね」
 この夏草風太は企業撃退士である。
「夏草さん……勤務先は良いんでしょうか?」
「あー、うん。これでも仕事の一環でね……」
(まさかこの前の事が原因で……)
 言葉を濁す夏草を、佳槻は怪しむ。
 先日、多治見にてち事件があった。企業撃退士の夏草は責任を問われなかっただろうか。
 あるいは問われた結果、企業を解雇されてフリーランスに いやいやまさか。
「とにかくも、よろしくお願いします」
「今の間は何さ!? 色々と端折ったね!!?」


「筧のおっちゃーん」
「はは。元気だねぇ」
 青髪のポニーテールを揺らして駆け寄ってきたのは歌音 テンペスト(jb5186)。本日、学園生側の投手だ。
 手招きされた筧は、小首を傾げつつ軽く身をかがめて少女の身長に合わせる。
「あたしたちが勝ったら、レフトの綺麗なおばちゃんのパ」
「誰がおばちゃんかしら」
 最後まで言わせるか。いつの間にか歌音の背後へ回っていた野崎が、彼女に緩いヘッドロックを掛けた。
「やだー! 当たってる、当たってますわーー!! 大胆なんだからぁ!!」
「かのんせんぱい……」
 困り顔で、マネージャーの御影光が後を追ってきて野崎に頭を下げる。もちろん、互いに冗談と知った上で形式的なもの。
「安心して、光ちゃん。決戦前にアイドルとの熱愛疑惑は鉄板の一つであって浮気じゃないわ」
「そういうことでは」
「歌音テンペストは世界中の誰よりも、御影光を愛しています」
 キリッ。
「まぁ、そこまでが鉄板よね」
 よしよし、と野崎が歌音の頭を撫でた。なんの合格ラインだろう。


「今日は素敵な野球日和ですね。皆さん、楽しんでプレーしましょう」
 御影と共に、メンバー表を手にしてきたのはユウ(jb5639)。
「意外なメンバー構成よね。天宮くんもそうだし、ユウさんも野球経験あったんだ」
「いえ」
「初めてです」
「自分もやったことはないが、ラークスの試合は何度も観ておるぞ!」
 野崎の言葉へ、真顔で未経験宣言をするのは佳槻とユウ、それに緋打石(jb5225)が加わる。
 石は普段は下ろしている髪を無造作にポニーテールに結びあげ、めずらしく赤の体操服姿。
「えっ。ラークス!? 俺、道倉選手のファンなんだよ。今年も楽しみだな!」
 プロ野球球団『茨城ラークス』の名が出たところで筧のテンションが上がった。
「ふっふ……。今回は強敵とかいて『友』と読む展開じゃな。 よろしい……受けてたとう!」


 かくして各方面へ波乱含みな、長い長い一日が始まろうとしていた。




 試合開始のサイレンが蒼天に響く。
 1回の表、GFsの攻撃。
 学園生チームは、それぞれの守備位置へ向かって行った。
 投手、歌音 テンペスト。
 捕手、Rehni Nam(ja5283)
 一塁手、天宮佳槻。 
 二塁手、六道 鈴音(ja4192)
 遊撃手、緋打石。
 左翼手、ユウ。
 以上が主力メンバーだ。

「さー! しまっていきましょー!」
 光纏して気合十分、鈴音がグラウンドに声を響かせる。
(事前サインの確認も終えましたし……あとは女房役として、本領発揮ですね)
 元天界野球リーガーを自称する『師匠』をもつレフニーに、死角はない。
(ああッ、女の子があんなに足を開いてしまってはしたないもっとやればいいと思いますっ)
 煩悩を必死に抑えながら、マウンドの歌音は軽いキャッチボールを始める。
 いささか思考に距離が感じられるバッテリーだが、面白い化学変化を期待したいところ。
「……?」
 肩慣らしのキャッチボールのはずなのに。
 レフニーがサインを出したので、歌音は小首を傾げつつ頷き一つ。
 ――バン!
 アンダースローとは思えぬ剛速球は高く浮き、暴投とも言える派手な荒れ球だった。レフニーが目いっぱい手を伸ばし、何とかミットに納める。
 『女の子だしなー』『威力は凄いね、当たったらマズいんじゃないかー?』GFsサイドから、そんな声が聞こえてきそうだ。
(ふふ……計算通りです)
 不安のあったサインへ歌音がキチンと応じてくれることも分かったし、ゆるやかなボールから急な暴投は相手チームの心理へ良い具合に働きかけるだろう。
 彼女の『本気』の球威もキッチリ知ることができた。
 なお。
(思いっきり不安になってきた)
 一塁ベース上の味方にも、働きかけていたようである。


 1番・二塁手・相模。出塁率の高さが売りだというスイッチヒッターは、左投手の歌音を見て右のバッターボックスへ入る。
「おかしいですねー、さっきのサインはカーブのはずだったんですが……」
 いわゆる『呟き戦術』、打者へ聞こえるように呟きながら、レフニーはサイン交換を。
 歌音は二回ほど首を振り、三回目に頷く。
 無難なファーストストライク、に見せかけて――
「おっと!」
 軌道が、予想より沈む。相模は辛うじてバットに当ててファウル。
「今のは……ツーシーム? びっくりした」
 本格的なんだな。嬉しそうに、打者は口角を上げる。
 次は速球。タイミングを外して、コチラは空振り。
 二球でノーボール・ツーストライクと追い込んだ。
 そして三球目――
「猥獣シューーート!!!」
 気合を入れて投げ込んだチェンジアップは、鋭い打球で三遊間を抜けて行った。
「!!」
 飛びついた石のグラブを掠め、それによって威力を損なった打球は駆け寄ったユウがフォロー。シングルヒットに留める。
「まだ1塁です、取り返していきましょう」
「うむ……」
 ポンっと石の肩をグラブで叩き、ユウが引きずらないように声を掛ける。石の動きが無ければ、2塁まで進まれたに違いない。
 

(一塁手は、ボールを取った時にベースを踏んでるか走者に触れば良いんだったか)
 2番打者が打席に入る。
 佳槻はルールを思い返しながら、自分の為すべきことへ集中し始めた。
 今のヒットは、運が悪かったと切り捨てるべき。むしろ味方の好守備が映えたと言える。
 走者は足にも自信があるというから盗塁の警戒も必要だろう。
(送ってくるか、盗みにくるか……)
 それを、バッテリーが意識しているか。
(……負けたところで死ぬ訳じゃないけど)
 これは『仕事』ではない。
 斡旋所で何やら楽し気な誘いが行なわれていて、聞いているうちに『一度くらい、いいかも』くらいのノリだった。
 でも、せっかくやるからには役に立ちたい、せめて足を引っ張らないように。
「!」
 相模が1塁ベースからリードを広げる。盗塁、あわよくばヒットで3塁まで狙ってる?
 そこですかさず、歌音が身を返して鋭い牽制球を放った。佳槻が一歩も動くことなく、そのミットに球が納まる。
 スライディングで戻った相模は、なんとかセーフ。
「後ろ、信じてるお!」
 茶化し気味に笑い、歌音は返球を受け取った。
「心配してたけど、野球はキッチリ……なのかな」
 見直した、と言ったら相手に失礼か。
(安心した、のか)
 戦闘依頼に近い感覚なのかもしれない。戦いの場を共にする相手を、『仲間』と認識できるか。窮地をフォローしあえるか。
(なるほど)
 これは戦い。そう置き換えると、心がすっきりした。

「気づいた時には命取り……というわけだ、たわけ!」
 パシン。
 2番の送りバントによって相模は2塁まで進んだものの、次の3番は三振。
 4番は力勝負を挑んだ結果、ショートフライ。石がキャッチして、緊張の初回表は終了した。




 1回の裏、学園生の攻撃。
(勝つ!)
 それ以上でもそれ以下でもない信念を胸に、鈴音が打席に立った。
「夏草さ〜ん、お手柔らかにお願いしま〜す」
 しかして、女の武器も忘れない。甘い声と可愛らしい笑顔で、相手に揺さぶりを掛ける。
「こちらこそ〜」
 対する相手も緩い。
(さて……)
 簡単な情報はこちらも教えてもらっているが、実際の球威はどの程度か――
 初球。
「きゃーっ!」
 高めの速球ストレート。
 鈴音は大きく仰け反り、そのまま尻もちをつく。
「打席でみると、すごくこわ〜い」
(と、コレでアウトコースに的を絞っていきますかね)
 これも作戦の内だったが、
「褒めてくれてありがとう? ブランクがあったから心配でねぇ」
 相手は緩い。響いているのかわからない。
(次は、外のハーフスピードの直球か変化球を狙うかな)
 ブランクがあるというなら、それこそ少しずつ種類を試したくなるはず。
 同じ軌道・球種以外で、打ちごろを狙って行ける。
(これ、は!)
 ククッと、球速が落ちる。チェンジアップだ。
 泳ぎそうになるバットを気合で調整し、当てる!!
「くーーーっ!」
 しかし、相手も撃退士。
 二塁手が素早く反応し、ゴロに打ち取られた。


(今のがチェンジアップですね。ストレートとの落差は厄介です……)
 鈴音の死(アウト)は無駄にしない。
 ネクストバッターズサークルから観察していたユウが立ち上がる。
「この日の為に、鍛錬はしてきました」
 ルールブックとプロ野球観戦で生きた『野球』を学び、素振りも欠かすことなくやってきた。
 派手なことはしない、確実なプレイを。
「さぁて、肩も暖まってきたかね」
 ふふっと夏草が笑う。
「――……っ」
 鈴音の時より、球速が上がっている? 打席に立つと違って感じるだけだろうか。
 バットを握りなおし、ユウは集中力を高める。
 ファウルで粘るも8球目、惜しくも空振りで倒れた。
「球種は体感できましたし、次は六道さんも塁上に居るでしょう」
 試合は始まったばかり、下を向いてばかりではいけない。


「葬らん」
 ハイライトの消えた目で、レフニーが左打席へ入る。
 挑発的にバットを投手へ突きつけた後、大きく構えて強振を予感させる。
(師匠曰く、『腕の振りはコンパクトに』)
 内角を誘っておいて、差し込まれないタイミングで振り抜く作戦だ。
 すでにツーアウトではあるが、やすやすとアウトになるつもりなどない。
「追い込まれる前に――……!」
 地面へ叩きつけた打球は遊撃手を抜き、左方向へ転がった。


 二死一塁。
 これは好機か危機か。
「スキル禁止か。つまらんのー」
 呟きながら、石はバットを構える。
(先程の借りは、バットで返す……)
 小さな体に、大きな構え。4番を担うだけの力があるとアピールを。
 ここで意外なことが起きた。
 石の身長が低いため、ストライクゾーンが狭いのだ。
「あーっ!!」
 ブランクのあった夏草に、繊細なコントロールは難しい。
 ここでまさかのフォアボール。
 二死一二塁。好機へと、前進する。

 しかし5番打者が内野フライに倒れ、あえなく1回の攻防は終わった。




 2回は互いに、落ち着いた守備で無得点に終わる。
 レフニーは『打たせて捕る』方向へ要求を転換し、少ない球数でアウトを稼ぐとともに守備陣の連携も強化させた。
 歌音にとっても負担が少なく、程よい緊張感と連帯感をチームへ与えられる。
 3回表まで抑えきり、向かえた3回裏。
 
 これまでの流れをじっくりと観察してきた佳槻が打席に立つ。
(夏草さんは、制球に少し難ありみたいだ。投げ損じを狙おう)
 強引に投手へ巻き込まれたという夏草だが、相手チームの雰囲気は悪くなさそうだ。
 みんなが野球を楽しんでいることが伝わる。そしてそれは、自分たちも。
 勝った負けたが付きまとう『勝負』でありながら、不思議なものだ。
 緩急をつけた投球のうち、1つは必ずボール球。
 それを補おうと、慌てて投げる次の球種は……
「打ちごろのストレート、ですよね」
 最速より落とし気味、丁寧なコントロールで。
 読み切った佳槻が、思い切りバットを振り抜く。
「行けぇーー! 走れぇーーー!!」
 鈴音が叫ぶ。
 この一塁打は、非常に大きい。否。
「私が大きくしてあげる。天宮さん! ぜったい生きて還りましょうね!!」
 打席から手を振る鈴音へ、帽子を取って佳槻が律儀に会釈した。


(横の変化は小さい感じだったわね……。二打席目だもの、ここは打つわ)
 強打を謳う選手でさえ押さえてきて、学園生側にヒットが出たのだ。
 相手チームも焦るはず。そして初打席は凡退に終わった鈴音を、甘く見てたら大間違いと教えてやらなくちゃ!
「勝つのは私たちです、夏草さん」
 鈴音の瞳に闘志が灯る。
 初打席で観た球、ベンチから観察してきた球種とフォーム、そして配球。
 難しいことを考えて、2秒で捨てる。
 見極めの難しいくさいところはカットして、球数を投げさせる。
 塁上では、佳槻が盗塁のモーションで良い具合にかき乱してくれている。牽制球だって疲れるはずだ。
 待って、待って、待って……
「飛べーーーー!!!」
 綺麗な放物線を描き、打球は内野の頭を越えた。
 鈴音が二塁打を放ち、無死二・三塁という大チャンス。


 手堅くスクイズか、ヒットで二者生還を狙うか?
 思案しながらユウが打席へ入る。
 第一打席での悔しさを、鈴音は見事に晴らした。ならば、自分が選ぶことも決まっている。
(六道さんまで、生きて還ってもらいます……!)
 丁寧に球威を殺したバントは一塁線上へ転がる。
 佳槻が生還、学園生チームが先制点を入れた!


 一死、三塁。
 ここで、初回にヒットを放ったレフニーへ打席が回ってくる。
「まあ、そうなりますよね」
 敬遠とまではいかないが、大きく外れた球が続く。しかして、それを見送るレフニーではないのだ。
 『敬遠時も一応打て』と、教えにある。
 内側へ踏み込んで、長く持ったバットを振り抜くとボールを掠め、ファウルとなる。
 よもや女子にそこまでの根性があるとは思うまい。しかし甘く見るなかれ、此処は久遠ヶ原だ。
「甘くは見てないさ……」
 すっと、夏草の表情が変わる。
 本気の相手に対して、逃げの姿勢は良くないと理解したようだ。
 そうして本気の球は――

「よっしゃぁああああああ!! 追加点!!!」

 (捕手の後ろの)フェンス直撃大暴投で、鈴音が歓声を上げてホームベースを踏む。
 レフニーも1塁へ!

「夏草君、このまま負けたら焼肉オゴリな」
「筧さん!!?」
 外野からの心無い声に、巻き込まれ企業撃退士が青ざめた。




 3回の攻防が終わって。
 GFs   0
 学園生 2
 と、スコアボードに表示される。
「悔しいのじゃ」
 2打席目は打ちに行ったがアウトに取られ、更なる追加点はできなかったことを石が悔やむ。
「大丈夫! 野球は9回まであるんですから。絶対勝ちますよ!!」
 円陣を組み、鈴音が気合を入れた。
「うむ……試合だけは今までも観てきておるのじゃ。積み重ねた知識の顕現を見よ!」
 全てが華麗なプレーである必要はない。
 土にまみれ、汗を流し、仲間と全力を尽くす。それが野球!


 試合は始まったばかり。
 中盤へ向けて、ゴー・久遠ヶ原・ゴー!!






依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 主食は脱ぎたての生パンツ・歌音 テンペスト(jb5186)
 優しき強さを抱く・ユウ(jb5639)
重体: −
面白かった!:6人

闇の戦慄(自称)・
六道 鈴音(ja4192)

大学部5年7組 女 ダアト
前を向いて、未来へ・
Rehni Nam(ja5283)

卒業 女 アストラルヴァンガード
陰のレイゾンデイト・
天宮 佳槻(jb1989)

大学部1年1組 男 陰陽師
主食は脱ぎたての生パンツ・
歌音 テンペスト(jb5186)

大学部3年1組 女 バハムートテイマー
新たなる風、巻き起こす翼・
緋打石(jb5225)

卒業 女 鬼道忍軍
優しき強さを抱く・
ユウ(jb5639)

大学部5年7組 女 阿修羅