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マスター:佐嶋 ちよみ
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2016/11/10


みんなの思い出



オープニング


 夢があった。
 夢が叶えば、幸せになれると思った。
 夢を叶えるには、故郷から飛び出さねばと思った。


 あれから、10年。




「これでも学生時代は、そこそこの選手だったんだ」
 賑やかな街中、小洒落たカフェの外壁に背を預けて呟く若きサラリーマンの周辺だけが、妙な静寂に包まれていた。
「大学で靭帯を痛めてね……それで陸上人生が終わっちまったなぁ」
 青年が語り掛けるのは、中学生の少年。
 美馬 賢、13歳。無垢な瞳で、少年は途切れ途切れの語りを聞く。
「夢って、何だろうな」
 通り雨からの雨宿り。同じ庇で肩を並べた縁。ただそれだけのきっかけ。雨は止んだが、青年の語りは止まらなかった。
「俺がね、美馬君くらいの年頃だった。このままじゃダメだって、そう思って」
「……このまま、じゃ」
「うん」
 青山と名乗る青年は、そう言って寂しそうに笑った。
 高校は都会へ進学。期待のルーキーとして注目を浴び、大会で幾つも記録を出し、雑誌にも載った。
 推薦で入学した大学でも順調で――……ケガをするまでは。
 懸命にリハビリをしたが、復帰はできなかった。
(夢……)
「美馬君は? 大きくなったら何になりたいの?」
「……僕は」
 青年に、他意は無い。彼は賢を知らない。


 美馬 賢には年の離れた兄がいる。名を、諒という。
 幼くしてアウルに覚醒していたが久遠ヶ原へは入らず、家族で普通の生活を送っていた。
 父が、豹変するまでは。
 母が病で命を落としてから、父は酒を飲むことが増えた。そして、賢に対する暴力が始まった。――力では、諒に敵わないからだ。
 それはいつも、諒が家にいない間に振るわれる。何度も、何度も何度も――
 諒が久遠ヶ原へ行かなかったのは、幼い弟を護るためだったのかもしれない。しかし、四六時中を共にすることはできない。父は、その隙を突く。

 視界が、自分の血で真っ赤に染まる。
 頭がグラグラする。首は、ぽきりと折れちゃってるかもしれない。
 息が苦しくて、痛くて、見えなくて……真っ赤な闇の中、鈍い音が一つ。そして賢は解放された。
 諒は親殺しの罪に問われ、警察へ連れていかれた。


(……もうすぐ)
 あの時の兄が、15歳。もうすぐ、賢も追いつく。
 兄が服役中にも事件はあって、昨年、脱獄騒ぎがあった。
 結果として兄の刑期は延びたものの情状酌量の余地は認められ、あと一年後には正式に久遠ヶ原へ入学するという。
 アウルの正しい使い方を学び、それを活かした職に就くも一般生活へ戻るも、選べるのだそうだ。
(あの時の兄ちゃんは、どんな夢を持っていたんだろう)
 賢は、15歳の美馬 諒を思った。弟を護るために父を手に掛けてしまった少年は、その事件さえなければどんな未来を思い描いていたのだろう。
 彼の夢を潰してしまった自分に、なにかを思い描くことが許されるのだろうか。
(兄ちゃんが、誰も傷付けなくていいように……強くなり、たい。けど)
 アウルの力を持たない自分に、何ができるだろう?
「このままじゃ……ダメなんだ」
 ぐるぐる考えて吐き出された言葉に、青山は笑った。
「うん。うん……そう考えちゃうよねぇ」
 くしゃくしゃと、大きな手が少年の頭を撫でる。
「でもねぇ」
 青年は、ついと空を見上げた。先ほどまでの雨はどこへやら、美しい秋晴れだ。
「例えば夢が叶わなくても。例えば夢が叶っても。その先にも、人生は続くんだ」
「…………」
「何になりたいか、がゴールじゃない。どんな風に生きていきたいか。それがね、大事なんだなって……今は思うよ」

 夢。目標。そんな言葉で、ゴールなんて区切りを付けないで。
 切り捨ててしまった何かを、恋しいと思うこと。
 戻りたくても戻れない場所があること。
 遠く離れてから、ジリジリと胸が焼けるように恋うことがある。

「俺の里帰りは……それが見つかってからかなぁ」
 いつか、帰る。
 今は、その気持ちが支えになる。
「なんて。ごめんね、語りに付き合わせちゃって。すっかり雨も止んだな、会社に戻らないと。美馬君は?」
「僕は……えっと、家に帰ります。ここから歩いて行ける距離なんで」
「うっわ、マジで!? ホントごめん、完全に足止めしちゃったな。美馬君さ、実家に居る弟にどことなく似ててね。つい話し込んじゃった」
「弟さん?」
「うん。別れたのは弟が12だったから、順調に行ってるなら大学生か」
「そっか……。僕の兄ちゃんも、青山さんくらいだから。ちょっと楽しかったです」
「そう? だったらよかった」
 人懐こい笑顔で、青山は笑う。
「じゃ、俺こっちだから。今日はありがと!」
「はい」




 たとえば10年前に、こんな大人に逢えていればよかった。
 そんな風に生きるのも悪くないって思う。
 あの時に得たかったものを、せめて与えられる人間になれていたなら。
 ――こんな考えも、10年先には『青臭いことを』なんて思うのだろうか。
 今は、通過点だ。
 ゴールテープを切ることより、そこへ至る過程を楽しめるようになって――良かったと、腹の底から言えるようになりたい。
 たぶん、それが俺の今の夢だ。

 ――青山さん、青山さん
 子供が泣きながら自分の名を呼んでいる。
 郷へ残した弟かと考えるが、今頃はいっちょまえの大人になってるはずだ、違う。
 じゃあ……


「助けて下さい、街中に化け物が……それで、青山さんが、青山さんが!!」




 久遠ヶ原学園、ミーティングルーム。
「というわけで、市街地へサーバント出現による出動要請だ。個体の特徴について詳細は書類を参照のこと」
 四十がらみの男性教師が、野太い声で説明を始める。
「消防、救急が現地へ向かっている。一般人の負傷者対応はそちらへ任せるにしても、彼らの安全も確保しながらの立ち回りが要される。
また、通報した少年の傍にも要救助者がいるようだ。瓦礫の下敷きになり救出が困難だという。状況を目の当たりにした少年のケアも頼む」
 ――通報した少年。その名に、どこか見覚えがある気がして、教師の手が止まる。
「うん? ……この少年は――」




リプレイ本文


 崩壊する街中に、鈍く光る巨体が覗く。
「おお、怪獣だ!! これで変形ロボットがあれば浪漫だな」
「せやなあ。撃退士は3分間で片付ける縛りを入れよか、ミハさん」
「……俺は何故、この場へツッコミハリセンを持ってくるのを忘れたんだろうな」
 はしゃぐミハイル・エッカート(jb0544)とゼロ=シュバイツァー(jb7501)の後ろで、浪風 悠人(ja3452)は遠い目をした。
「なんやて! ゆーはん、ツッコミの自覚たりないんとちゃうか!!」
「これ、緊急救出依頼だからな!!?」
「要救助者もいるみたいだし、ささっとやっつけようね!」

 ガン ガン ガン

 ツッコミ要員のツッコミアイテム不所持というトラブルへ、雪室 チルル(ja0220)が特殊合金製のスコップでもって助け舟(物理)を出した。
 これくらい、撃退士なら耐えられる痛くない痛くない(暗示)。
「通報者の『美馬 賢』は、たしか『セロシアの集い』に所属していたはず……。僕が連絡を取ってみます」
 呻くゼロたちを華麗に放置して、天宮 佳槻(jb1989)は通信機を手にした。




 踏みにじられて、初めて立っていたことを知る。
 草花は、踏まれても背を伸ばす。伸ばすから刈られると言われても、生えてくる。

 ――佳槻が遭遇した、昨春の事件。
 セロシアの集い。『圧倒的弱者であると、自ら認めてしまってはいけない』という思想のもと集う人々。
 『恒久の聖女』による洗脳工作でアウル覚醒者の暴動が多発した時期があり、それに抗う主張を打ち出した団体の一つだ。
 罪を犯し服役中であるアウル覚醒者を兄に持つ賢が『セロシア』へ身を寄せている頃に起きた一件へ、佳槻は携わっている。
「――聞こえますか。久遠ヶ原学園からの救助部隊です。現在、そちらへ向かっています」
『あ、ありがとうございます』
 少年の震えた声が、佳槻の耳へ飛び込んでくる。
 事件当時、佳槻が賢と直接会話をしたことは無い。彼はこちらを知らないだろうけれど、救出作戦自体はしっかりと覚えているようだ。学園を信頼してくれているのだと、声からわかる。
「大まかな状況は伺っています。そこに、青山さんが居るんですね?」
『は、はい……』
「頭を打っていると聞きました。僕たちには専門的な医療知識がありませんので、本格的な救助隊の到着には少し時間が掛かります」
『…………はい』
 淡々とした佳槻の声に、賢の対応も少しずつ落ち着いてくる。
「ですから、その間は青山さんを励ましてくれますか。呼びかけて、生きようとする意識を繋ぎとめておいてくれますか」
 通話の向こう、息を呑む気配。
「それと、周囲の音や声で気がつく事はありませんか? どちらの方向にサーバントの姿があるとか、他の救助者の気配があるとか」
『……ッ、はい!』
 泣いて掠れている少年の声が、佳槻からの『要請』を受けてシャキッとなる。
 ――自分にも、できることがある。
 撃退士のように、敵へ立ち向かう力が無くても。
 大人のように、知識や経験が無くても。




 撃退士たちはそれぞれ常時連絡を取れるようにして、作戦はスタートした。
「おーおー、やること一杯やなぁ。まぁキチッと仕事しますかね」
「敵が移動するだけで、瓦礫が崩れて危険そうですね……。他の救助者の何名かは、居場所も掴めましたが」
 ゼロと佳槻が翼を顕現し、上空から様子を伺う。出来る限り早く敵を倒したいところだが、下手を打てば被害が広がってしまう。
「瓦礫の下敷きになっているという救助者を全て把握することは難しいかもしれんな。それなら『絶対に人が居ない場所』を選べばいい」
 二人からの情報を受けながら、ミハイルは荒らされた結果として開けた場所が無いか尋ねた。
「そうね! まずは要救助者から引きはがして、安全を確保して誘導ね」
「……わかった…」
 チルルが身の丈より巨大な剣を引き抜いて太陽に照らし、Spica=Virgia=Azlight(ja8786)は蒼い狙撃銃を構える。

 サーバント対応班のタイミングに合わせ、悠人が後方へ控える救助隊員たちへ告げた。
「要救助者の位置は把握しました。救援ルートを割り出し次第連絡しますので、応援よろしくお願いします!」
(人命救助も俺の戦いだ。他にも助けを求めている人たちがいるというし、とにかく急ぐ!!)
 悠人はボディペイントを施し、単身、瓦礫の合間を縫って全力移動で駆け抜ける!




「さぁて、トカゲの丸焼きの時間や」
 建物が倒壊し、車が横転している市街地。どこに、助けを求める声が下敷きとなっているかわからない状況。
 ――ならば、『空』は?
 ゼロは好戦的な笑みを浮かべると、ことさら強く翼を打ち付ける。
「地べた這いずり回っとらんと、コッチの相手もしてぇな!!」
 大袈裟な宙返りからの急降下。真っ直ぐ伸ばした足が、シルバーリザードの眉間にヒットする!
 リザードは咆哮し口を大きく開くも、空中のゼロを捉えるには至らない。
「……ッ、縛!!」
 痛みにもがきながら、リザードは長大な尾を振るおうとする。その兆候を読み、佳槻は上空から背を越えて式神を飛ばした。
「ナイス、かっちゃん! そのまま縛りつけたってな!!」
 式に束縛され、リザードが巨体を捩る。周辺の瓦礫が幾つか崩れるが、それだけだ。
「こっち側に空きスペースできたで、押し込め!!」
「……了解…」
「よぉっし!! みんな、行くわよ!」
 敵の意識を引き付け続けるゼロが、地上を走る仲間たちを誘導する。
 頭はゼロ、尾は佳槻が抑えきった。
 今なら――
「大きい……ちょっと、静かにしてて…」
 スピカの手にする狙撃銃がアウルの輝きを纏い、『破滅』を冠する剣・レーヴァテインを象る。
 並走するチルルは、武器と両腕を一体化させるようにアウルの氷塊を生成し始めた。
「……ここだ!!」
 ポイントを尾と胴体の付け根へ絞り、合図を出すのはミハイル。
 三者がタイミングを合わせ、渾身の一打を繰り出す!!
 
 ――ズ、……ズ……

 動いたのは、5,6mといったところだろうか。
 何しろ質量のある対象だ。たった一人で仕掛けていたなら、ビクリともしなかったかもしれない。
「大きいし、被害もすごいけど……上はがら空き…?」
 その場へ束縛したこともあり、ここからが本気の戦闘開始。
 スピカは武器の疑似再現を解きながらリザードの背面へ回る。
「正面は、あたいに任せて!」
 大剣を携え、チルルが正面へ。スピカは無言でうなずきを返し、翼を広げた。
「腹へ潜り込むのは、今は無理だな」
 どこをどうみてもとにかく堅そうな表皮の敵を前に、腹部ならば……と考えていたミハイルだが、それは今ではないと切りかえる。
 チルルをサポートするように、正面側へ。ここなら、仮に立ち上がった際にあらゆるパターンで対応できるだろう。




 火災が起きていないのは、不幸中の幸いだ。
 荒廃した市街地を、跳躍を交えながら駆ける悠人は顎を伝う汗をぬぐう。
「対サーバント部隊が動き出したよ。そちらの状況はどう?」
『化け物……離れて、行きます』
「良かった」
 賢たちから遠ざけるようにサーバントを誘導する作戦は、きちんと成功している。
 敵の移動は作戦なのだと伝えることで、状況がわからない少年を安心させる。
 悠人は走りながらもできるだけ穏やかな声で会話を繋いでいた。
「見つけた!」
 最後の瓦礫を飛び越えたところに、頬を涙で濡らした少年と、瓦礫の下敷きになっている青年がいた。
「もう大丈夫。連絡をくれてありがとう」
「た、たすけて、青山さんを助けて!!」
「任せろ」
(とはいったけど――)
 瓦礫で圧迫されているから、ある程度止血されていると見るべきか?
 下手に動かすよりは……
 悠人は膝を着き、瓦礫を退かす前にヒールを掛ける。やわらかなアウルが、青山の身体を包み込んだ。
「――……う」
「青山さん!!」
「痛むと思います、少し待っていてください」
 それから悠人は瓦礫を退かし、青山を救出した。
 まだ意識は朦朧としているらしく、目はうつろで言葉も曖昧だ。
 専門の救助部隊へ託すのが最善だろう。悠人は、これまで駆け抜けた道と戦闘が行われている方向から安全なルートを割り出して連絡を入れた。
 そして。
「賢くん」
 呼ばれ、少年が顔を上げる。
「俺はね……覚醒した時、厳しい躾に耐えきれずに父親を傷付けた経験があるんだ」
「…………」
 賢の目が、大きく見開かれる。
「父も覚醒者だったから、その時は命に別状はなかった、けど……」
 もしかしたら。
 先を言わなくても、予想できる惨事を少年は理解している。
「けどね。そんな俺でも、今は人命救助に従事しているんだ。この手で、この力で」
 悠人は、震える少年の両肩に手を添えた。
「……お兄さんも、こうなる事を保証する。誰かを助けるために動くことのできる人だって聞いたよ」
「はい……」
 誰かを助けるために、加減を間違えたり貧乏くじを引いたり。そういう兄だ。
 少年の様子が落ちついたのを確認し、悠人は次に戦闘部隊へ連絡を繋ぐ。
「聞こえるか、ゼロ。こっちは俺が引き受けた、お前は食われても良いから絶対こっちに通すな!」
『おっけい、ゆーはん。カチカチ眼鏡の材料、おみやに待っててや〜』
「要るかァア!!」




「束縛が有効な間は、純粋な攻撃へ集中した方が得策か……」
「そういうこっちゃな。――そら、おどれの背筋はどの程度や? 反り返ってみぃ!!」
 スタンで意識を刈り取る手もあるが、佳槻の施した式神は時間経過とともに体力も奪う。下手にバッドステータスを重ね掛けしない方が賢明だとミハイルは判断し、仲間たちにも呼びかける。
 その間、上空で引き付け役のゼロが敵の鼻先を飛び回って挑発を続けた。
 完全に届かない場所へ出てしまえば、向こうも手近な獲物を探してしまうだろう。それでは囮の意味がない。
「ッとぉ!」
 ギリギリを狙いすぎたか、不揃いな牙がゼロの脚を掠め――否、これは、
「立った……トカゲが立ったぞ……!!」
「クララより感動的やな、ミハさん!」
「――マテリアライズ……」
 ツッコミ不在の状況で、スピカは敵の背面からアウルで具現化した雷を纏う巨大な槌でブン殴った。
 式神に縛られながらも立ち上がったシルバーリザードの、足元がふらつく。
 束縛は外れたものの、続けざまにスタンが決まった。
「一人の力じゃ、ひっくりかえすのは難しいみたいだし。だったら――!!」
「束縛では『移動はできない』ものの、その場での行動は可能だったか……。厄介だな」
(束縛状態で火を吐かれても、スタンから目覚めた直後に吐かれても面倒だ)
 この機に、徹底的に潰すべきだろう。ミハイルが口の中で呟いた。
 チルルは、大剣へアウルを収束させ氷の突剣を生み出す。
 一方でミハイルは敵の喉元へ照準を定める。

 元気よく跳躍からの氷の一閃と聖光のアウル弾が交差した!

 有り余る攻撃力で、巨大サーバントの頭を吹き飛ばす!!
「尻尾切り、で……動かれても困る、から……」
 頭部を潰しても、下が動くかもしれない。
 スピカは油断することなく、遺された胴体から尾に掛けて、レーヴァテインとミョルニルを丁寧に連発で叩きこんだ。
「もっと、攻めたかったのに……」
 最後は荒死でフィニッシュというコンボを予定していたが、その前に巨体はぐたりと動かなくなってしまった。
「充分、エグかったで」
 それは、ゼロからの最大限の賛辞である。




 サーバントの死を確認後、残された救助者の保護にメンバーは走り回っていた。
 ミハイルが回復魔法を施し、スピカとチルルが瓦礫の撤去や細やかな処置にあたる。
「ガレキ、場合によっては…どかすの、危ないかも…。気を付けて……」
 スピカはクラッシュシンドロームの危険性を伝え、プロに任せるべき仕事があることも共有する。
 程なく救急隊員が到着し、周囲に安堵の空気が流れる。
「応援、ありがとうございます。ここまで手伝っていただけるとは……」
「乗りかかった舟だもの! 全員、元気に帰るんだから!!」
 敬礼を受けて、チルルは元気いっぱいの笑顔で答えた。
 敵を倒して、要救助と指定された人だけ助けてサヨナラなんて、なんだか薄情じゃない?




 サイレンの音と共に、佳槻が賢たちのもとへ現れる。
「大丈夫ですか。救急車が到着しました」
「あ、あなたは……最初の」
「会うのは初めまして、ですね」
 声で察した賢が、佳槻を見上げる。
「青山さんとは、『セロシア』で?」
 賢は今も所属しているのか、そこで交友は広がっているのか……。過去の件に携わっていたことにも触れながら、佳槻は問う。
「いえ、たまたま一緒に雨宿りをしていたんです。『セロシア』は、なんだか大久保さんによる武術道場みたいになってるんですけど」
 簡単な護身術や、武道の心得や。いわゆる『ひとの心を健全に保つ』もの。
(このままで良いとか駄目だとか、正直僕にはわからないけど……)
 『このまま』という状況に対する不安。
 それは佳槻も考えないではない。しかし、いつだって目の前の『事実』の方が重要で、対処しているうちに時は流れ続ける。
 賢はどうだろう。あの頃から、変化しただろうか。
 小さな寄り合いだけを頼りにするのではなく、行き会った人の助けを求めること、その相手を的確に判断すること……それが今、少年には出来ている。
「そう、でしたか。お兄さんにせよ青山さんにせよ他者を『物』ではなく、思いや考えを持った『ひと』として見て思いを馳せられるのは、素敵で大切な事だと思います」
「も、の?」
 考えてもなかった。そんな無垢な視線を受けて、佳槻の方こそ少し動揺する。
「……あ。ええと。思う人、待つ人がいる事はそれだけで誰かの灯りになるのだろうから」
 青山の回復を願い、
 兄の帰還を待つ。
 真っ直ぐな思いは、孤独の中に居る彼らを暖かな光で迎えることだろう。
「不幸も立派な経験値や。どう生かすはお前次第。まぁ俺は、不幸を知ってるやつやからこそ優しくなれると思うけどな」
 たこ焼き屋台を建てるスペースなかったわー。
 ぼやきながら、ゼロが姿を見せた。ミハイルも一緒だ。
「少年」
 救急車へ搬送される青山へ付き添う賢へ、ミハイルがホットココアの缶を手渡す。自販機で購入したてのホカホカだ。
 温度は、人の心を和ませる。
「青山の意識が戻ったら、君の事を少しずつ話したらどうだろう。話せることだけでいい」
「……?」
「青山が君に身上を話したってことは心を開いたということだ。会話のボールを投げられたら、投げ返してみては?」
 コミュニケーションは、癒しだ。
 不安を吐き出すのもいいだろう。
「……はい!」
 少年は晴れ晴れとした笑顔で、救急車へ乗り込んでいった。



 ――何になりたいか、がゴールじゃない。どんな風に生きていきたいか。
 離れた家族。会いたい人。
 誰もが抱く、遥けき彼方――……
 迷いながらもいつか辿りつく、夢路の果て。






依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: おかん・浪風 悠人(ja3452)
 縛られない風へ・ゼロ=シュバイツァー(jb7501)
重体: −
面白かった!:6人

伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
おかん・
浪風 悠人(ja3452)

卒業 男 ルインズブレイド
さよなら、またいつか・
Spica=Virgia=Azlight(ja8786)

大学部3年5組 女 阿修羅
Eternal Wing・
ミハイル・エッカート(jb0544)

卒業 男 インフィルトレイター
陰のレイゾンデイト・
天宮 佳槻(jb1989)

大学部1年1組 男 陰陽師
縛られない風へ・
ゼロ=シュバイツァー(jb7501)

卒業 男 阿修羅