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マスター:佐嶋 ちよみ
シナリオ形態:イベント
難易度:普通
形態:
参加人数:31人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2016/08/16


みんなの思い出



オープニング


 二〇一六年六月。
 かくして、札幌の街は人類の手へ取り戻された。

 しかし、これで終わりではない。むしろ始まりだ。
 捕えられていた一般人たちは近郊の支配領域外の病院で手当てを。
 札幌市は対冥魔最前線の基地都市として再建が進められ、撃退士や研究職員が投入されている。
 レジスタンス・サブリーダーの『オヤジ』はいつでも光旗槍を発動できるよう街へ留まることが余儀なくされており、彼を守るためのメンバーも常に気を張っている。
 祈光陣については、コアの維持に必要な撃退士が常時一名は必要となり、やはり万が一を案じて守りの撃退士も付いている。
 決して両手放しで『メデタシ・メデタシ』ではないが――これが、戦いというものかもしれない。
 勝つということなのかもしれない。
 人類と天魔の戦いは未だ途中で、その中で勝ち得た足掛かりの一つの、証なのかもしれなかった。




「戦勝記念イベント、ですか」
 ポンと降ってわいた言葉に、学園から協力人員として札幌入りしている撃退士・御影光 (jz0024)は豆鉄砲を喰らった顔をした。
 何しろ、札幌は立て直しで手いっぱいだし収容所として使われていた学校など大型の建物以外は荒廃している。
 宴といっても、集まって騒ぐとしたら整備を終えた大通公園くらいだろうか?
「ふふふ」
 真剣に悩む光を前に、ニコニコしているのはミーナ・ヴァルマ(jz0382)。長らく、陰で北海道を守っていたレジスタンスのリーダーだ。
 外見は高校生くらいの少女だが、学園の保護を離れた堕天使である。
 レジスタンスが地下組織として活動してきたには、彼女が学園へ紐づけされていなかったことも一因で、それには事情があるのだが――
「無尽光研究会の千塚華さんがね、花火を考案してくれたの」
「花火……ですか」
「個人個人のアウルの力に反応して、異なった火花を見せてくれるそうよ。研究の合間に開発したんですって」
「へええええ、素敵ですね……!」
 世界にたった一つしかない花を咲かせるなんて。
「札幌から車で40分くらいの場所に海水浴場があるの。支配領域の近くだったから荒れてるけど、イベントまでには整備しておくわ。だから、そこで」
「海ですかー。良いですね。気合があれば、泳げそうですし!!」
「気……合?」
 北海道の六月だ、さすがに早くないか……? え? そんなことはないの?
 光が嬉々として語るものだから、ミーナはツッコめない。
「打ち上げ花火といった派手なものは、さすがに冥魔を挑発するから控えるけれど……。
手持ち花火なら、いくらでも楽しめるでしょう? 北海道の星空も自慢だし」
「ええ、本当に。日中は砂浜でも遊べますよね。北海道産の食材を用意してバーベキューも良いと思います」

「リーダー、こんなところに居た」

 そこへ、地獄から這い出るような低い声。オリーブ色のフライトジャケットを羽織った青年が、睨むような視線を送っている。
 レジスタンスメンバー、レラ(jz0381)だ。ずかずかと大股で歩み寄ってくる。
「午後から撃退署や学園とのミーティングだと言ってたでしょう、なんで抜け出してるんですか!」
「だって、早く伝えたかったのだもの」
「お陰で天斎が代表と勘違いされて引きずられていきましたよ。滞りなくミーティングは進行してます」
「……彼にはあとで謝るわ」
 天斎(jz0165)は、ミーナお付きのレジスタンスメンバー。
「ねぇ、レラ」
「はい」
「札幌は奪還されたけど……あなたは、まだレジスタンスでいてくれるの?」
「なにを当たり前のことを。札幌は北海道の都市の一つでしょう、ようやく『一つ』です。俺たちの戦いはこれからだ」
「……そうね。うん。ありがとう」
 レラは、レジスタンスへ身を投じる際に本名を捨てている。
 レジスタンス参加へ匿名である必要はないのだが、そうしたいのだと彼は言っていた。
 軽く聞いた話だと、冥魔ゲートによって家族を喪ったのだそうだ。故に、怒りは深く静かだ。
「レラぁー!!! っと、とととミーナさん! お久しぶりです!」
「ナナ! 湊も。函館方面の担当が交代になったのね。お疲れ様、元気そうでよかったわ」
「オヤジには、さっき会ってきました。リーダーたちも無事で安心しています」
 そこへ、凸凹コンビが姿を見せる。
 活発な少女はナナ、落ち着いた青年は湊。コンビで活動しており、先日まで道南の守りについていた。
「やれやれ。すぐ大声を出す癖を直せ、ナナ」
「だって、ソングレイとの戦いに参加したって聞いてたし……心配くらいするじゃない」
「ナナは、レラが大好きだものね」
「みっ」
 隠しきれないながらも隠してきた乙女心をリーダーにサラリと暴かれ、ナナは絶句する。
「お前みたいな妹、持つだけ苦労する」
 更に玉砕する。
「じゃ、じゃあ、ミーナさんはお姉さん?」
「? リーダーはリーダーだろう」
「ですよね!!!」
 その様子を、湊はニコニコと見守るだけだった。助けろよ相棒。
「ええと……」
 一気に賑やかになったところで、光がおずおずと先ほどの話を切り出した。




 久遠ヶ原学園、講堂の一つ。
「今日は、お集まりいただきましてありがとうございます。高等部の御影です」
 札幌奪還祝賀会へ参加する学園生たちを前に、光がペコリとお辞儀する。
「祝勝会は、石狩浜の海水浴場を使って予定されています。
昼は砂浜でBBQやビーチバレーなどを楽しんで、夜は特製手持ち花火を。テントで一泊して翌朝帰還というスケジュールです」
 一泊は強制ではなく、日帰りを希望するのならそれでもかまわない。
 そして札幌の街は再建途上であり、思い描くような『北海道のお土産をショッピング』はできないのだと前置きをしてから、
「日中に札幌市街を訪れることも可能です。一般人は退避済みで、街に居るのは撃退署や研究職、レジスタンスの人々ですね。
彼らから話を聞く機会かもしれませんし、再建中の街を見て歩くのも一つかもしれません。大通公園は整備が済んでいて、憩いの場となっているようです」
 とうきびワゴンは出ていませんので、有志が出店することに問題はないそうです。

 初夏の北海道。
 爽やかな風、どこまでも青い海、続く砂浜。
 宝石箱のような星空、自分だけの花火、仲間たちと過ごす夜。
 歩き始めた札幌の街、戦いの爪痕、憩いの公園。


 どんな楽しみ方をするかは、あなた次第。
 どうか、思い出に残る大切なひとときを。




リプレイ本文

●灼熱の手前の季節
 さわやかな潮風が、浜を渡る。
 太陽は真夏の輝きに比べれば随分と手加減をしてくれていて、散歩するには程よい加減。
 札幌奪還成功の戦勝祝賀会は、札幌市より少しだけ離れた石狩浜海水浴場で開催された。


「北海道って、夏でも寒いイメージがあったのですが……」
 本州に比べれば気温は低いが、寒いというより涼やか。心地いい。
 夏本番の前だから、髪に絡まる潮風もさほどベタつかない。
 雫(ja1894)は驚きを隠さず、祝賀会に賑わう砂浜を見渡した。
(BBQ会場が楽しそうですが、手ぶらで行くのも悪いですし)
 材料の用意はあるというけれど、せっかく北海道まで来たのだ。
「え。……釣り、ですか?」
 『海』と聞いて用意してきた道具を手にしたところで、後ろから声が掛けられる。振り向くと、青髪ポニーテールの少女…御影 光が目をパチクリとさせていた。
「はい。新鮮なものを獲って、BBQを楽しもうかと。よければ御影さんもご一緒しませんか?」
 その誘いに、御影の瞳は輝きだした。
「いいんですか? あっ、でも私、釣りの経験はあまりなくて……釣れないかもしれないですけど 挑戦してみたいですっ」
「釣れない時は、素潜りすればいいと思うんです。泳ぎなら得意ですよね」
「え?」
「はい」
「……はい、泳ぎなら……?」
 さりげなく大冒険要素を盛り込まれた気がするが、流れに飲まれて御影は頷く。
「人の手によって荒らされることのなかった海、きっと宝の山ですよ。楽しみです」
「!! はい!」
 淡々と進む雫の荷物を半分持って、御影は並んで歩きだした。



●レジスタンスの人々
 賑わっていますね。
 喧騒を目にしながら、ユウ(jb5639)はレジスタンス構成員たちのもとへ歩み寄った。
「この度は、札幌奪還おめでとうございます。協力し合って成し遂げられたこと、嬉しく思います」
「来てくれてたのか」
 構成員であるレラが小さく会釈を返し、後ろから同じく構成員の湊やナナが手を振る。
 皆、パーカーにハーフパンツ、ビーチサンダルといったラフな服装をしていた。
「僕たちは道南をしっかり守ってましたよ」
「湊さん達も、お疲れ様でした」
 札幌奪還戦が本格的になれば、他都市が手薄になる。その前に、撃退士たちから『技』を教えてもらいたい――
 そんな、決戦前の合宿依頼もあった。
 湊と、彼の相棒であるナナはそのまま道南へ残り、戦いの後に他メンバーと受け持ちを代わり、今回の祝勝会へ参加している。
「いろんな場所で守ってくださっていたからこその、勝利です」
「そう言ってもらえると有り難い。……本当は、僕たちも参戦したかったからね」
「でもね、みんなに教えてもらった『スキル』のお陰で大活躍だったんだから!」
 ナナは得意げに胸を張った。
「これからも、こうやって『交流』できるといいな。今度は、あたしたちからあなたたちへ何かを伝えたい」
「ナナさん……」
「っと、僕はこれから一仕事だった。約束が入ってるんだ、ごめんね。ユウさんは、楽しんでいって! 海産物も肉も野菜も美味しいよー!!」
「はい、行ってらっしゃい、湊さん…… ……?」
 建築資材を手に浜辺を駆けてゆくその背を見送り、ユウは首をひねった。何に使うのだろう。
「これはレラ殿にナナ殿。こちらに居たか。ユウ殿も一緒とは奇遇だな」
「緋打か」
「セキちゃーん!」
「緋打さん、こんにちは」
 レジスタンスたちを探していた緋打石(jb5225)が、背伸びをしながら手を振っている。
 ユウは微笑して一礼、ナナへ夜に花火をしようと誘いの約束をしてから、散歩して来るとその場を離れた。
「奪還おめでとうじゃ。……と、一方的な祝辞はおかしいかの」
「さっきも、同じような会話をしていたな」
「あはは、ホントだ! でも、喜びの言葉は何度でも嬉しいね!」
 笑いあうレラとナナの姿は、気心の知れた仲間同士そのもので、
(ふむ……そういう顔もするのか)
 レラに関して仏頂面なイメージが強い石は、面白く感じたりする。
 久遠ヶ原の撃退士を『味方』と感じる一方で、『身内』はやはり、別物なのだろう。
「みんな、こんなところに居たのね!」
「おぬしは……」
 屈託のない笑顔で現れたのは、褐色の肌に波打つ黒髪の少女。
 見覚えがあるような、ないような。石は視線を上げ、首をひねる。
「こんにちは。今回は力を貸してくれてありがとう。私はミーナ・ヴァルマよ」
「俺たちのリーダーだ」
「おお! そうじゃった。自分は緋打石じゃ」
 石はミーナと握手を交わし、自己紹介を。
「こんなに多くのレジスタンスが、北海道には居ったのじゃな。古くから、この地は外敵と戦ってきたという。その血脈が継がれているのであろうか」
「……外敵も、もとは『隣人』だった。ユウや、緋打も……そうだろう? かつては敵だったかもしれないが、今は違う」
 人類共通の敵として『悪魔』や『天使』が存在する今の世界で、はぐれ悪魔や堕天使が人類と手を繋いでいる。
 それを真向に信じている者もいれば、疑念を抱き続ける者もいるだろう。
 古くから古くから、根本は変わらない。敵と仲間。種族だけでは語れないものがある。
「隣人が敵となり、そして再び…… そうじゃな、隣人となり得る。そんな未来も、あるかも知れぬな……」
 石の言葉に、ナナが頷いた。
「あたしには、難しいことはわからないんだけど」
 そう前置きをして、
「札幌から取り戻された人たちの中にはね、遠く離れた街で帰りを信じ続けてた家族がいたんだって。それだけで、なんだか泣けてきちゃった」
 これまで、取り返せずに失ってばかりいた。
 それでも人々は帰りを信じていたし、撃退士たちへ願いを託すしかなかった。ようやく、応えることができた。
「セキちゃん。本当に、ありがとうね。今、日本国内のあちこちが大変だって聞いてるよ。北海道はレジスタンスが守るから安心してね。あたし、頑張るから!」
「うむ。しかして無理は無用ぞ、苦しい時こそ助け合わねば、じゃ」
「そうそう、ねばーギブアップの精神こそが大切! だと思いませんか」
 ざざざざっと砂上を滑るように駆けつけたのは、袋井 雅人(jb1469)である。
 その手に、何やら紙袋を持っているようだが……
「は、はじめましてですかね? 私は久遠が原学園の学生の袋井 雅人と申します。今後も依頼等でお世話になることもあると思うので、顔だけでも覚えて貰えたら幸いですよ。はい、これはお土産です!!」
 一息に自己紹介をし、紙袋をミーナへ手渡す。
「……これは」
 覗き込んだミーナの、ライトグリーンの瞳が見開かれたままになる。
 ・納豆←わかる
 ・納豆巻き←わかる
 ・納豆チップス←あるかもしれない
 ・納豆キャンディ←キャラメルだったら、北海道にもあったかしら
 ・バナ納豆ジュース←……、…………?
「これ……は?」
「茨城県にある久遠ヶ原学園の名物品であります! 決して賄賂ではなく・あくまでも善意で・ちなみに嫌がらせでもないのです!!」
 真顔で固まったままのミーナへ、ガチガチの敬礼でもって雅人が答えた。
「面白いわね……。私が学園に居た頃には無かったんじゃなかったかしら」
「リーダー?」
「あっ、ううん、なんでもないの。札幌で留守番をしているオヤジへお土産にしましょう? きっと喜ぶわ」
 レラの怪訝そうな表情へ、ミーナはパッと笑顔を返す。
「そう……ですね。オヤジは関西人ではないはずなので、地雷にはならないでしょう」
「……ミーナさんは関西人でしたか!!?」
 関西人に納豆はNG! 雅人はビクッとする。関西人ではなくとも、納豆はアウトという場合もある。だがしかし、これは久遠ヶ原の誇る、
「いいえ、天界人よ? ふふ、大丈夫。私もちゃんと美味しく頂くから。差し入れをありがとう、袋井さん。納豆はこのまま、焼きそばに混ぜてもらおうかな」
「レラ殿、ちょいと良いか」
「うん?」
 雅人とミーナの会話の合間に、石がレラのパーカーの裾を引っ張る。
「色々と案内してはくれぬか」
「まあ、構わないが」
 見たところ、トラブルが起きているわけでもない。気を張ることもないだろう。
 少しだけ考えて、レラは石の案内役を引き受けた。
「うーん……。『美脚大会』か」
 そして風に流れて飛んできたビラを手にしたナナが呟き、雅人が反応し、石はチラリと振りむいて再び前へと向き直った。
 


●俺たちの城造りはこれからだ!
 海! どこまでも続く砂浜! と来たら――
「見事なお城づくりよね!!」
 ドーンと胸を張り、雪室 チルル(ja0220)は海へ吠えた。
「大勝利だったし、せっかくだから凄いのを作ろう!」
 時間は、たっぷりあるのだ。
 大勝利。まさに大勝利。
 男爵・旅団長級の悪魔を倒し、札幌の街を解放したのだ!
 研究、協力、さまざまな要素が絡み合い、スカッとする結果を叩きだした。
 これを祝わずにして何を祝おうか。
「記念に残るような、すっごいお城を建てるんだから!」
 800mに渡る砂浜を、チルルは端から端へと駆ける。風に飛びそうになる麦わら帽子を、慌てて押さえながら。
 BBQをする者、釣りを楽しむ者たちの傍をすり抜け、築城に最適な場所を探し求める。
「この辺りは砂の質が良いけど、満潮になったら飲み込まれちゃいそうよね。あっちはBBQの邪魔になるし」
 右を見て左を見て、海を見て後ろを見て。
「よっし、決めたー! さあ、やるわよー!!」
 用意してきたのは大きなバケツと、小ぶりのバケツを幾つか。
 乾いた砂に海水を撒き、小ぶりのバケツへ詰めてゆく。ガチガチに固めてからひっくり返して抜けばレンガの出来上がりだ。
 まずはそれを大量に作り、積み重ねて壁にしていく作戦である。
「入口の幅をこれくらいにして……そうね、ここは大きめで……」
 頭を使うことなく体力勝負に見えて、押さえるべきところはしっかりと。
 その姿は根を詰めてるようだが、波の音を聞きながら風を浴びながら、本人は全力で楽しんでいた。


 チルルの築城とは反対方向で、同様に砂の城を建造している少女が一人。黒百合(ja0422)である。
(ふふふ、特大の御城を作ってみせるわよォ♪)
 不敵な笑みを浮かべる彼女の足元には、用途に合わせたシャベルやスコップはもちろんのこと、基礎構造用の鉄パイプまで用意されている。
「黒百合さん。仮設足場材は、こんな感じで良いかな」
 レジスタンス構成員である湊が、残る資材を抱えて到着した。その他、数名の助っ人が居る。
「ええ、今日はよろしくねェ?」
「こちらこそ。砂遊びなんて子供のころ以来かな。精いっぱい、手伝わせてもらうね」
 温和な笑顔の青年はそう言って、黒百合と共に基礎固めを開始した。
 大きなものを目指すなら、最初の土台が肝心なのだ。何よりも注意深く取り組む。
「耐久性の高い建築構造を、砂で再現するにはどうしらいいのか……こう見えて、予習してきたのよォ」
「それは頼もしい」
 黒百合は助っ人たちへ手際よく指示を飛ばし、自身もまた手を休めることなく。
 さあ、日が暮れる頃、どんな城が姿を見せるであろうか。



●歩いて食べて、初夏の海
(気温は高くなくても、日差しはあるな……)
 簡易テントの設営を終え、天宮 佳槻(jb1989)は天候を伺った。
 黙々と砂の城を築城したり、食べ物を片手に歓談したり、砂浜を走ったり……いずれにしても、喉は乾くし体温調整は必要になってくる。
 市販のペットボトルのドリンクも用意されていたが、それだけじゃあ味気ないだろう。
 せっかくの海なのだ。イベントなのだ。
 浜辺を楽しむ人々の姿を視界の端へ入れながら、彼らはどんな飲み物を楽しむだろう、と考えて佳槻はドリンクの準備をする。
 走り疲れて、冷たいもの?
 潮風で体を冷やして、暖かいもの?
 BBQやジンギスカンもいいけれど、あっさりしたものも食べたくなるかも?
「用意しておいて、悪いことはないだろうし」
 前日から仕込んでいたのは、ハニーマスタードチキン。
 調理台の支度を済ませると、佳槻は食パンを取り出してサンドイッチを仕込み始める。
 鉄板焼きメニューとの相性はバッチリだ。

「レラ殿、一番気に入ってる食事はどれか? それから、いい酒はあるか?」
「内地の人間には、一度は美味いラム肉を食ってもらいたいところだな。酒か。……。緋打、年齢的にはセーフでも……良いのか……?」
「構わぬ、こう見えて自分は3桁じゃぞ。教えたであろう?」
 躊躇するレラへ、石がチッチッチと指を振る。
「ではまず、熱々のジンギスカンじゃな! それから酒――……お、あそこに居るのは」
「緋打さんに、レラさん。冷たいものはどうですか」
 並ぶテントの一つから、聞き慣れた声が飛んでくる。佳槻だ。
「天宮殿は、こちら側であったか」
「遊ぶより、こういうことの方が僕には性に合ってるみたいで」
「うむ、本人が楽しいのが一番じゃと思うぞ。して、美味い酒はあるかの」
「酒」
 少女から飛び出た単語に、佳槻が固まる。それからレラへ視線を上げると、彼も肩をすくめていた。
「こう見えて3桁だから大丈夫だそうだ。……いいのか?」
「……久遠ヶ原ですから」
 レラの念押しに、佳槻は頷きを返した。彼の戸惑いも解かる、はしゃぐ石の気持ちもわかる。
「ビールがありますよ。そのままでも良いですし、トマトジュースやカルピスで割ることも出来ますが」
「ふむ、レッドアイじゃな。生卵抜きでお願いしようかの」
「スパイスは?」
「天宮殿に任せる」
「わかりました。レラさんは?」
「うーん、暖かいものはあるか?」
「梅酒なら。ジャスミン茶で割るのもオススメです」
「……随分と洒落てるな。それじゃあ、それを頼もう」
 カセットコンロに火を点けて、湯煎で梅酒を温める。その傍らで、ビールとトマトジュースを合わせ、タバスコやペッパーでアクセントを。
「いい匂いがすると思ったら…… こんにちは、緋打さん。俺もご一緒させてもらって良いかな」
「これは龍崎殿ではないか。うむ、ここの酒は美味いぞ」
 BBQの串を数本乗せた皿を片手に、龍崎海(ja0565)がテントを覗きこみ、石が彼を手招きした。
「……あんたは」
「あの時の依頼は失敗だったけど、今回でソングレイを倒せてよかったね」
 海は、含みのある笑みをレラへ向ける。
 今年の四月に、ソングレイを急襲する依頼があった――その時は、返り討ちに遭ってしまったが。
 当時の戦いには、佳槻も参加していた。思い出し、目を伏せる。
「ああ……。一つ一つの積み重ねがあったから、辿りつけたと思ってる」
「それにしても、ソングレイの祭器への執着の方向性を勘違いしたなぁ」
「というと?」
「いや、俺は祭器の模造品で注意を引くつもりだったのだけど、完全無視だったからさ」
「ああ……」
 佳槻から梅酒のジャスミン茶割りを受け取りながら、レラは海に応じる。
「奴は、東北で『ホンモノ』を見ていると聞いてる。だから『効果』の意味を知っていたのかもしれないな」
 祭器の姿。そして、祭器そのものが武器ではないこと。恐れるべきは、祭器の周囲にいる、力を増した撃退士であること。
「祭器を危険視していたわけじゃなく、祭器の力と戦いたいって感じだったとはね」

 ――祭器なしで俺にケンカを売る度胸は悪くない。今度はもっと、楽しませてみろよ

 『あの依頼』で、海は確かに耳にしていたはずだった。ソングレイの、その言葉を。
 忘れたつもりはなかったけれど、読み違えたか。
 サンドイッチを一口かじり、海は残念そうに呟いた。
「でも。ソングレイらは倒したけどまだゲート自体は残っているし、これからもよろしくね」
「ああ、全てが解決したわけじゃない。これからも協力を仰ぐことがあるだろう」
 敵の領域へ踏み込んだことで、むしろ緊張は増すはずだ。
 

 ……釣れない。
 釣り糸を垂らしてしばらく経つが、小魚が数匹という釣果に雫の目は死んでいた。
「御影さん」
「はい」
「こうなったら潜りましょう。少々、水温が低いですがどうですか? 魚がいるのはわかっているんです、針に掛からないのなら素手で獲るのが早いでしょう」
「は…… ええええ!?」
 あまりに自然な流れで雫が言うものだから、御影も流されそうになりつつ踏みとどまる。
「今ならきっと、海老や蟹に鮑なんかも獲れるかも知れませんよ」
「えび……」
 踏みとど……まる
「炭火で焼き上げた蟹の脚……」
「うっ」
「網の上で踊る鮑……」
「……ッ」
 踏みt(ry

 そして、30分ほど後のこと。
「すごい新鮮な海の幸だねぇ、さすが北海道」
 海が熱々の海老を堪能するテントの奥で、バスタオルを羽織った少女2人が体育座りで蟹の脚をむさぼっていた。
「獲りたて新鮮なだけあって、美味しいですね」
「運動の後だと、尚更です。あ、雫さん、お魚も焼けたみたいですよ!」




●夏を制する――脚
「それにしても」
 ちゃんちゃん焼きを頬張りながら、雫は浜辺で開催されている謎の大会を見遣る。
 足元には、風に吹かれて落ちて来たビラがあった。
 曰く『美脚大会in北海道』。

 ――全日本美脚愛好協会をご存知か。
 知らなくてもこの際、何の問題もない。
 文字通り、老若男女不問で美脚を愛でる者たちの集いだ。

 自らの美脚を披露するもの、
 自らの美脚愛を語るもの、
 様々な形で思いを抱くもの達が、ぶつかることなく愛を語り合う。

 それが『美脚大会』。

(以上、『美脚大会in北海道』より抜粋)

「あの大会って、規模の大小に関わらずに色んな所で開催されてますね」
 雫の呟きを聞いて、おにぎりを手にしていた御影が会場へ首を伸ばした。
「美脚大会……ですか。私は初めて見ます。雫さんは参加されたことが?」
「警備で、ですけど」
 不逞な輩も居れば、常人には理解しがたい熱意溢れる者もいた。過去を振り返り、雫はゆっくりと首を振る。
「警備が必要なのですか……」
「一触即発の騒ぎになることもあるそうですよ。結構、世界的に有名なのでしょうか?」
「……世界は広いですねえ」
「ええ、本当に」
 会場は、拍手や歓声で楽しそうである。
 今日は、穏やかに終わると良い。そう願いながら、2人は食べる手を止めることだけは無かった。


 左右を荘厳な砂の城(絶賛建築中)に挟まれた特設ステージで、『美脚大会in北海道』は開催されていた。
 季節先取りの水着姿、可憐なワンピース、華やかな女性陣に紛れて男性の参加もチラホラ。
「なかなか見ごたえがありますねえ」
 散歩の途中で通りかかり、雅人も観客に加わる。
 かけがえのない恋人のいる身ではあるが、イベント盛り上げに歓声が必要とあらばいくらでも盛り上げようではないか。
 太腿、ふくらはぎ、足首、つま先。『脚』の魅力はあらゆるところへ宿る。
「ふむ……『美脚大会』か。レラ殿は、美脚をどう思う?」
「どう、と言われても……。まあ、個人の趣味だからな。俺にはよくわからなi ……ナナ!?」
 同じく通りがかりの石が足を止め、レラと問答を展開しようとしたところで青年の声が吃驚に変わる。
 ステージ上には見慣れた姿――レジスタンスメンバーの、ナナが登場していた。デニムのショートパンツにビーチサンダル。健康的な脚が輝く。
「おー、やっぱり参加してたんだな」
「居たのか湊。止めろよアレ……あいつ、何やってんだよ」
「だって楽しそうだったし。僕はホラ、砂の城建設の手伝いがあってナナの相手が出来なかったからさ」
 見れば、湊の顔や手は砂にまみれている。ステージの片側を彩る砂の城、黒百合が制作しているそれの手伝い中であった。
「レラ殿にとって美脚とは何ぞや、さあ白状せい!」
「白状も何も、思い入れがある部位ってわけじゃないし」
「乳派であるか」
「なんでそうなる」
「レラ、それだけはナナの前で言ってやるなよ」
「言わねぇし」
「よし、では自分も参加して来るぞ! 一部の層にウケるかもしれぬ!」
「どうしてそうなった!!」
 嬉々とした表情で駆けてゆく背中を止めることはできず、レラは呆然と立ち尽くした。
 



 美脚大会が終了に近づく頃、砂の城ふたつも完成を迎えていた。
「うん! これは、とってもすごいわ!!!」
 正面は西洋風、左右は巨大化を目指した末に万里の長城のようになった城を正面から眺め、チルルはドーンと胸を張る。
「なるほど、和洋折衷とでしょうか。独創的で素晴らしい!」
 美脚大会の傍らで築城も気に掛けていた雅人が駆けつけ、拍手を送る。
「中へ入ることもできそうですね」
「奥行きもあるんだから! ね、ね、見ていってちょうだい!!」
「喜んで。写真を撮って、お土産にしましょうかね……」
 チルルに背を押され、雅人は「おじゃまします」と一言告げて、城の内部も堪能した。

 数mに及ぶ高さの物見の塔をもつ城を完成させたのは、黒百合である。
「やり遂げたわぁ……」
「お疲れ様です。はい、冷たいものでも飲みましょう」
 サポートをしていた湊が、佳槻の出店から購入してきたドリンクを差し出す。
「あとは爆破しておしまいよぉ」
「ば!?」
 受け取りながら応じる少女の言葉に、青年の笑顔は固まった。
「金属も使ってるでしょぉ? 放置したんじゃゴミを残しちゃうだけだものぉ」
「せっかく、これだけ立派なお城にしたんだから。せめて日没までは待ちましょうよ」
「……そうねぇ」
 離れたところで半日の成果を眺めていれば、美脚大会参加者たちがキャッキャと写真を撮っている。
 己の楽しみへと注いだ全力であるが、まあ、悪くないんじゃないだろうか。
 よく冷えたアルコールを喉へ流し、黒百合はうっすらと笑みを浮かべた。




●奪還の地にて
 ところ変わって、札幌。
 祝勝会へは参加せず、前線基地として復興中の札幌市街の散策を希望する学園生たちは思い思いの場所を巡っていた。


「お疲れ様です」
「ああ。えーと……そうか、君たちは久遠ヶ原の」
「差し入れに来ましたー♪ お腹の空く時間ですよね」
 崩れた建物の復興現場へ顔を出したのは、樒 和紗(jb6970)と砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)の2人。
「助かるよ。今のところ、すぐさま敵さんが追撃を仕掛けてくる様子は無いが、緊張しっぱなしで余計に腹が減る」
 竜胆が差し出したサンドイッチの詰め合わせを受け取り、作業員の一人がニカッと笑う。
「おれたちは造って戦う大工さんだしな、いざって時にはいくらでも対応するんだけど」
「……撃退士、なのですか」
 祈光陣の効果で、一般人も札幌へ入ることができるようになり、だから作業員は一般人ばかりかと思えば……全てがそうというわけでもないらしい。
 目を丸くする和紗へ、作業員のひとりが得意げに片目をつぶる。
「おうよ。といっても、第一線は引退した身だがね」
 激しい戦闘には向かないが、いざという時の自衛なら問題ない。
 そういった『元・撃退士』が現場にいることで、一般人の作業員も安心して労働できる。
 今まで道内に潜んで活動していたレジスタンスの他にも、こういった人材登用で最前線は造られようとしていた。

 つい先日まで冥魔に制圧されていた街は、次の来たるべき戦いに備え活気にあふれていた。
 そんな様子を見て回りながら、和紗と竜胆は大通公園へ到着する。
 真っ先に整備され、札幌の人々の憩いの場になっているという。
「真緋呂と米田、楽しんでいるでしょうか」
 楽し気に休息をとる様子を眺め、和紗が視線をそのままに竜胆へ呼びかけた。
 蓮城 真緋呂(jb6120)と米田 一機(jb7387)。和紗たちと同じ小隊【SST】のメンバーで、あちらは海を堪能している。
「あー、頑張った後のご褒美楽しんでるでしょ」
「食べる気満々でしたね、真緋呂は」
 北海道へ着いてからそれぞれの目的地へ別れる際の友人の姿を思い起こし、和紗は口元に微笑を浮かべた。
 それが友人の『平常運転』と知っていて、その『平常』が何より嬉しいと感じるのだ。
 真緋呂は一時期、【SST】を離れていた。
 彼女なりに悩み、考え、そうして戻ってきてくれた今回の戦いで、小隊として功績を挙げられたことが和紗にとっての喜びである。
「まさか、小隊長がMVPとるなんてねー」
「ええ、そして『小隊皆で取ったんだ』ですか……。俺も同感です」
「米田がねぇ?」
 見直した、と男相手の場合には心で思っても口にしないのが竜胆である。
「ま、こっちはこっちで、パーッとしましょ」
「ええ。……竜胆兄、テーブルはもう少し右へ」
 雑談しながら2人は長テーブルに白いクロスを敷き、ボトルを並べ、簡素なカウンターを作り上げる。
「天候に恵まれて幸いでした。さあ、存分に客引きでもするが良いです」
「……もう。僕の歌が聞きたいなら素直に言えばいいのに、ツンデレさんなんだから!」
 和紗が提供するのは、初夏の気候に心地よいカクテル。
 ノンアルコールから各種取り揃えている。
 通りがかる人の脚を止めるのが、竜胆の役割。
「こほん。全力で歌ってあげよう。――だから僕にもカクテル下さい」
「一仕事終えたなら、とっておきを作りますよ」
 その一言で、竜胆のヤル気が俄然、上昇する。

 晴れ渡る空、花の香り。そこへ、竜胆の歌声がのびやかに響く。
 優しい表情を浮かべ、和紗がボトルを華麗にフレアする。
 ほんの少しでも人々が元気になれて、復興の士気が上がるよう祈りを込めて。



●花ひらく公園で
「……復興途中…では…ありますが…花…が…綺麗です…ね……」
「良い景色だな……」
 遠く、美しい歌声が聞こえる。竜胆の歌だ。
 キサラ=リーヴァレスト(ja7204)とサガ=リーヴァレスト(jb0805)夫婦は、ゆっくりとした足取りで公園の風景を楽しんでいた。
(……北海道には…縁が…ある…もの…です…ね……)
 キサラの大好物であるイクラとラーメンを求め、修学旅行では毎年函館を訪れていた。
 大規模招集令が掛かる少し前にも、レジスタンスからの依頼で函館に来ている。
 そこから更に北へ足を伸ばすのは、今回が初めてだろうか?
「冥魔が勢力を拡大し函館まで制圧されては、あの味噌バターラーメンも二度と味わえなくなっていただろうな」
「……はい…」
 キサラの考えを読んだようで、サガが笑いかける。
 函館の平穏を、人知れず守っていたというレジスタンス。彼らが蜂起し、奪還を願った札幌。
 キサラたちが協力するに迷いなどなく、こうして結果も挙げられた。
 奪われるままではなく、襲撃に怯えるままではなく、立ち向かっていくこと。取り返すこと。
 果たせてよかった。
 来年も、新鮮なイクラを味わえるだろうか? いつか札幌の街も『前線基地』ではなく北海道の都として、再び栄えるようになるだろうか。
「…少し……休憩…しましょうか……」
 思いを巡らせたところで空腹を感じ、キサラはサンドイッチの入ったバスケットを持ち上げた。

 早起きをして作ったサンドイッチ。
 水筒にはコーヒー。
 爽やかな風の吹く公園で、のんびりランチ。

 過去を振り返り、未来を夢見て、語らいながら楽しい時間を。
「……如何です…か……?」
 サンドイッチを口へ運ぶサガを、キサラは緊張の面持ちで見守る。
「うむ、美味しい……。ありがとう、キサラ」
 妻の不安を、夫が優しく包み込む。
 深い紫の瞳が笑みを湛え、大きな手のひらがキサラの髪をなでる。
「……美味しいなら…良かった…です……」
 くすぐったそうに目を細め、キサラもサンドイッチを手に取った。
(平和だな……)
 遠くには野鳥の声。
 とても激戦を終えたばかりとは思えないのどかさだ。
(いや。……激戦を終えたからこそ、か)
 戦いの末、勝ち得た平穏。
 この平穏もまた、努力により維持されている。
「まだ完全には、冥魔の手から、解放された訳では、無いしな」
 今日という安息の一日の後には、再び目まぐるしい日々が待っているだろう。
 遠く空を眺めながらサガが呟くと、
「……くぅ……」
 小さな声と、肩にのしかかる体温。
「……ふむ、疲れていたのだな。……ゆっくりお休み、キサラ」
 気持ちを張り詰めることが、続いていたから。
 戦いはまだまだ続くが、一つの区切りを、成果を、今は享受するとしよう。
 キサラに膝枕をしてやり、サガもまた目を閉じた。
 


●『今』を届けに
 札幌市、レジスタンス本部にて。
「久遠ヶ原学園の新聞部・小田切ルビィだ。取材させてもらいたいんだが」
「同じく、巫 聖羅よ」
 小田切ルビィ(ja0841)と巫 聖羅(ja3916)が、取材に訪れていた。ルビィの妹である聖羅は、アシスタントとして同行している。
「あんたが『オヤジ』さんか、話には聞いてるぜ」
「これは活きの良いのが来なすったようだ」
 レジスタンス構成員に案内され、通された部屋には椅子に深々と腰掛ける虚無僧の姿があった。
 耳ざわりのよい低温の声は、編み笠の向こうからでもわかる。鍛えられた体躯に装束を纏っており、さぞ手練れだろうと――思わせるはずなのだが虚無僧である。その手には尺八が在る。
「俺は未来のジャーナリストの端くれなんだ。復興途中の札幌の『今』を、伝えたいと思ってる」
「新聞部……、もしかして、これはお主の作成か」
「読んでくれたのか、『久遠ヶ原新聞・号外』!」
 オヤジが懐から取り出したのは、ルビィが函館で発行したものだった。
 大きな戦いの前の、穏やかな街を。今年も間違いなく久遠ヶ原の学生たちが訪れた街を。
 ――この灯火を消させやしねえよ
 そうルビィが夜景に誓った街の話題。
 配布して良いかどうかをレラへ確認してもらっていたが、レジスタンス本部へも届けられていたのだ。
「今回の取材内容は後日記事として纏めて、札幌や学園で配布したいと考えてるんだ。許可貰えるだろうか」
「学園についてはそちらの判断に委ねるが、札幌については構わんよ。せっかくだから函館にも届けよう」
 号外には続きがあった、それも朗報である。
 札幌とは冥魔支配領域によって分断されている函館だからこそ、新鮮な情報は喜ばれるに違いない。
「我らレジスタンスは、ずっと裏に徹してきた。『表』が繋いでくれることを、嬉しく感じておる」
「……そのことで、質問があるんだが」
 勧められた対面の椅子へ腰を下ろし、ルビィはオヤジに問うた。
「レジスタンスとして戦い続けて来た事への想い、今後の展望等について聞かせちゃくれねえか」
「それも載るのか?」
「載せて構わない範囲で良い」
 レジスタンスサブリーダー、祭器を使用した者の『声』を聞かせてほしい。ルビィが言う。
「ま、語れるほどの事でもないがな。名を持たず群れず留まらず、繰り返してきた戦い……今なら明かせることを、幾つか話そうか」
 尺八を傍らへ置き、虚無僧は膝の上で指を組んだ。
 
 ――地下道に足音が響く。
(札幌は解放されたけれど、本当の戦いはこれから。何よりも、ルシフェルがこのまま黙っているとはとても思えないわ……)
 レジスタンスの歴史を紐解けば、ルシフェルが洞爺湖ゲートを開いた時へ遡るという。
 『撃退士』の認識も教育制度もままならなかった頃、特殊な能力だけを頼りに抗い続けた者がいた。
 個が集い群れとなり、長を立てて奔る。
 撃退士の存在が確立されて後、偶然の接触からレジスタンスへ参加する者も現れ――その一人がオヤジだそうだ――実力をつけていった。
 血のにじむような話をメモに書き留めて後、聖羅はずっと考えている。
 レジスタンスの人々にとって、洞爺湖ゲートがどんな存在であるか。
 札幌奪還は確かに大きな戦いであったけれど、それが彼らの本懐ではないのだと知った。
 力量差は依然としてある。
 今は日本国内各地で不穏な動きが活発化していて、再び北海道へ今回のような大きな戦力を投入できるかも怪しい。
(札幌が、このまま追撃を受けるようなら……いいえ、その時は)
「聖羅、ちんたらするな。時間は限られてんだ、キビキビ歩く! 機材は俺が持ってやってるだろう」
「!! 取材用機材と支援物資の重量を同等に考えないでよね!!? ――くっ! ……レミエル様、私は負けません!」
 先を歩く兄に対し、聖羅は歯を食いしばる。
 たしかにアシスタントだけど! 学園からの支援物資引き渡しも請け負ったけど!!
(冥魔の次の動きは皆が警戒しているけれど……。レミエル様は、一体どんな手を考えていらっしゃるのかしら?)
 3つ重ねられた段ボール箱を抱え、聖羅は力強く踏み出した。
 オヤジから話は伝わっているらしく、警備のレジスタンス構成員がこちらに気づくと先へ案内してくれる。一人が苦笑いで、聖羅の荷物を2つ引き受けた。
 ……祈光陣。
 地脈の力を利用し、札幌を冥魔の支配から守るもの。
「うわぁ、綺麗……」
 陣の中央に浮かび、純白の輝きを放つのは『星幽核(アストラル・コア)』。言葉の通り、陣の『コア』だ。
 段ボールを下へ置き、聖羅は改めて輝きに目を奪われる。
 先の大戦でも、【新聞部】として地下戦闘に参加していた2人だが、落ち着いて眺めるのは初めてだ。
「ここで……戦ったんだな」
「えぇ」
 振り返るには、激戦の記憶は生々しい。ディアボロの群れも、撃退士たちの流した血の匂いも。
 そして、
(リザベル……敵ではあったが)
 この地に倒れた、女男爵をルビィは思う。
 彼女もまた『譲れないもの』を抱え、戦い、果てたのだろう。
 責任、信念、プライド、そういったものを。
「戦士には敬意を。――静かに眠れ、女男爵……」
「せめて、魂は安らかにあらんことを」

 2人が黙祷を捧げていると、気配を隠すつもりのない足音が近づいてきた。
「来てくれていたのね、撃退士さん」
「あなたは……千塚さん?」
 凛とした声が地下に響く。聖羅が顔を上げて、名を呼んだ。
 千塚 華、白衣にフチなし眼鏡、黒髪ショートカットの女性は知的に微笑む。恐らく、その傍らにいるのが弟の護だろう。
 華は、無尽光研究会から派遣されている職員だ。護は、彼女の護衛についている学園の大学生。
「会えてよかった。俺は久遠ヶ原の新聞部、小田切だ。あんたたちにも話を聞きたいと思っていた」
 ルビィは姉弟と握手を交わし、それから激励の言葉を掛けた。
 この地に留まり活動を続けていく、戦士たちに幸運があるように。



●地獄の境界
 祈光陣のコアがある、その少し手前。
 地下道が大きく崩れ、立ち入り禁止となっている区域がある。
 正確に言えば、そこが女男爵リザベル最期の場所だった。

 カツン、と石を蹴り、少女が『立ち入り禁止』その先へ進む。
 戦闘時はリボンで束ねている黒髪は、今は自由に揺れていた。
(……リザベル)
 心の中で、少女は、雨野 挫斬(ja0919)は呼びかけた。
 ねえ。貴女は覚えてる?
「最初に戦えたのは最初の双蝕の時だから、もう2年も前なのね。その時は1撃入れるのがやっとだった」
 記憶を辿る。解体しようと追掛けた月日を思う。
(そして今回は左腕か)
 感触は、手の中にしっかりと残っている。捕えたと、思った……のに。
「2年で1撃から左腕かぁ。なら、もう2年あれば私1人で解体できたのかな?」
 誰に邪魔されることなく、2人きりで。1人きりで貴女を。それはきっと、とても素敵なことだろう。
「貴女が死んだ今、考えても答えは出ないんだけどね」
 もう、リザベルを解体することはできない。愉しく、快楽に満ちた刻は戻らない……けれど、
「まぁいいわ。まだ強い天魔は一杯いるから、解体する獲物には困らないし」 
 いつか、自分1人で強い敵を解体できたなら、胸に留まる霧も晴れるだろう。
 それに、
(もし天魔を解体し尽したら―――を解体すればいいしね)
 何を、とは声に出さない。
 さすがにそれは、誰かに聞かれてはいけないと挫斬にも自覚はある。
 寂しいような、どこか暖かいような、形容しがたい感情を抱えたまま、挫斬は地面に膝をついた。
 自分は、生きている。
 いつ死の淵へ足を滑らせてもおかしくないようなバランスに立ちながら、今も生きている。
 リザベルは死んでしまった。
 生者と死者の境界が、冷たい石の壁で成り立っているように見える。
「じゃぁね、リザベル。いつか地獄で会いましょ。その時は今度こそ解体してあげる……」
 忘れないで。忘れないわ。
 約束のキスを、境界の壁へ。
 
「ふぅー。今から向かえば、花火大会に間に合うかしら」
 酒とつまみを大量に買いこんで。連絡用のバスくらいは出ているだろう。
 少女は気持ちを切り替え、暗い地下から日の注ぐ地上へと向かって行った。



●静かなる眠りを
 街のあちこちで、復興の音が聞こえる。
 瓦礫の撤去、建物の建造。
 そういった隙間を、黒井 明斗(jb0525)は歩いていた。
 その背には大きなリュックサック。キャンプ用キッチングッズや食材を詰めている。
「……あ」
 人々の活動区域から離れた場所で、さび付いた眼鏡のフレームが落ちていた。明斗は拾い上げ、じ、と見つめる。
 持ち主は、どうしているのだろうか。無事に逃げ出せただろうか。或いは凶刃に倒れたか――
 冥魔ゲートは、ひとのたましいを揺さぶる。
 その支配領域に長期間置かれた人間は、魂を抜き取られる前に原型を保てなくなり……ディアボロになる。
(ディアボロも元は人間か、他の世界の住人です)
 この眼鏡の主が、どうであるかはわからないけれど。
 札幌で命を落とした人々もそうだけれど、ディアボロにもまた鎮魂の祈りは必要ではないだろうか。明斗はそう考える。
 戦いに勝敗は付き物だが、加害者と被害者とには完全に分けることは難しいのではないだろうか。
 眼鏡を拾い上げ、明斗は再び歩きはじめた。

 どこをどう、歩いたか。
 日は暮れようとしていた。
 ゆっくりゆっくりとした夕暮れ時、小高い丘で。
 明斗はキッチングッズを使って湯を沸かす、持ち込んだトウモロコシやジャガイモを蒸かす。
 その合間に周辺の石を積み上げて簡素な慰霊碑を作り、拾い集めた遺品を置いた。
 碑に言葉を残しはしないが、見れば意味は伝わるだろう。そして伝えたい相手は『此処』にいるわけでもない。
 蒸し上がったトウモロコシの甘い香り。
 バターを落としたジャガイモの香り。
 そして丁寧に淹れたコーヒーの豊かな香りが、周辺を満たしていく。
「……長い間、お待たせして申し訳ありませんでした」
 胸の前で十字を切り、鎮魂の祈りを。
 生きていたことを、忘れない。
 だからどうか、穏やかな眠りにつくよう。
 この街は、もう大丈夫だから。

 これまでの戦いで失われた命の数だけ、自分たちは救っていくことができるだろうか。
 果ての見えぬ戦いを続け、そこに価値を見出せるだろうか。
 幾多の犠牲の上に、世界は成り立っている。




 季節の花々、空の色。
 公園でカクテルの提供を終えた和紗は、ベンチに腰掛けてスケッチを始める。
「こうして、外でのスケッチも久々です……」
 美しい自然の向こうには、立て直し途中の姿もある。
 平穏だけではない、世界。
 少なくとも、隣の青年は平穏極まりないようだが。
 オリジナルカクテルを堪能した後、竜胆はうとうと寝入ってしまった。
 先の戦いで頑張った反動が来たのだろう。
 和紗がスケッチブックを相手にし始めたから、退屈になったのかもしれない。
「……完璧です」
 無防備極まりないその頬に、和紗は絵筆で猫を描いた。それでも、彼は気づくことなく眠ったまま。
 いたずらに気づかぬはとこ殿は、目覚めたらどんな反応をするだろう?
 



●夜に咲く花
 温度を下げた風が涼しく吹き渡る。
 日中は主に体を動かして遊び、夜は花火で穏やかに。祝勝会も終わりに向かっていた。

 浴衣に着替えた川澄文歌(jb7507)は、袖口を掴んでくるりと回る。
「どうかな……?」
 白地に薄紅色の花を咲かせた、涼やかな柄だ。
「……ん。とても可愛い、ねぇ」
「っ、カイ。迎えに来てくれたの?」
 ぽふ、と頭を撫でながら優しい声が降ってくる。恋人の水無瀬 快晴(jb0745)だ。
「そろそろだと思って、ねぇ。行こうか」
「うん。アウル花火って、どんなのかな?」
 ひとりひとりに、違った火花を見せてくれるという無尽光研究会特製の『アウル花火』。
「スキルによっても違うの、かな……」
「みんなの花火も楽しみだね」
 手を繋ぎ、2人は花火会場へ。




 浜辺では、既に花火を楽しんでいる人々の姿があった。
 淡い光、力強い火花、多種多様な輝きにあふれ、歓声が飛び交う。
 楽しんでいるのは人だけではない、そう、パンダも―― ……パンダ?
「打ち上げ花火は無しということだったが……アウルの反応次第では…… ふむ、あの光は取り入れるに値する……」
 全身に赤青黄緑その他いろいろカラフルな電飾を纏い、闊歩するパンダの姿があった。
 一見するとラブリーイルミネーションパンダちゃんだが、ただ可愛いだけではない。
 仲間たちの花火を目で楽しむ一方で、研究にも余念がない。
 個々のアウルに反応する花火だというが、意図的な反応で通常の花火では成し得ない花火を生み出すことはできないだろうか。
 現地入りしてから、パンダちゃんはずっと考えていたのである。光について研究するあまり、イルミネーションを身に着けてしまったのがその証明である。
 これらを如何にしてアウルへ変換し、空高く飛ばすか……。
 目指すは『夜空に広がるパンダ花火』。完璧なものにするために必要とされる、場所・タイミング・光量……
 パーフェクツなパンダちゃん花火を打ち上げるのは至難であり、超絶難易度と言えよう。
「……それに比べれば冥魔男爵を撃破するなど、ねずみ花火のようなものだ。いや、待て。ねずみ花火……? 回転させた状態で上空へ飛ばしたなら……ふむ」
 呟きながら、パンダちゃん……下妻笹緒(ja0544)の研究は続く。




「花火か……」
 強い『光』は苦手だが、花火独特の火薬の香りや火は嫌いじゃない。
 パウリーネ(jb8709)は周囲で弾ける花火を見渡しながら、自身へ配られたそれを手にする。
「ふっふ…… 火薬だ! 煙だ!!」
「たくさんもらってきたからな、楽しもうぜ!!」
 金色の目を子供のように細め、ジョン・ドゥ(jb9083)が向かいあう。
 気心の知れた仲だ、何を取り繕う必要もない。
 せぇの、で指先に力を込めて、アウルを流す――……

 闇夜になお黒い煙が立ち上る、その内側からパチパチと銀の光が爆ぜては散った。

「…………」
 なんたる地味感。
 呆然とするパウリーネの向かいで、紅い閃光が弾けた。
 スパークタイプの花火、凄まじい勢いで火花が砂へ飛び出している。
「うわっ、すげーーー! さすが俺、派手だわ!!」
「…………豪華だな」
 己の花火にショックを受けた『魔女』は、テンションだだ下がりの眼差しをジョンへ向けた。
「パウリーネ、お前、なんて顔してんだよ」
 開始前とのテンションの落差に、ジョン・ドゥは遠慮なく笑う。
「今度は、もう少し近づけてみようぜ。普通の花火であるじゃん、火の玉同士をくっつけるの。アレ」
「ふむ。それはそれで、変化が生じそうか」
 対照的な2人の花火だからこそ、新しいものが生まれるかもしれない。
 気を取り直し、パウリーネはしゃがんだ体勢でジョン・ドゥへ近寄る。
 花火の先を触れ合わせ、もう一度。

 暗い闇の煙。それを突き破る紅い閃光に、銀の瞬きがキラキラと絡む。
 光と炎。銀と紅。
 ひとりだけでは、生み出せないひかり。

 初夏の夜空に、どこか懐かしい火薬の香り。
 どちらからというでなく、優しい微笑が口元に浮かぶ。
「ずーっと見ていたい気持ちになるの」
「消えたあとの暗闇も、嫌いじゃねぇな」
「うむ」
 咲いて散って、そしてまた火を点けよう。
「花火の後は、テントで語り明かすぞ。安眠は与えぬ……そう、今夜は寝かさない!」
「よしきた! 今夜は寝ずでいける! 騒がしさで目立ってMVPが貰えるレベルで今夜はいける!」
 花火の儚さは、『人間』に与えられた時間の儚さに似ているのかもしれない。
 魔界からはぐれた自分たちは、この世界で生きる『人間』たちと、どれくらいの時間を共有できるのだろう。
 それは川の流れのように抗うことのできないモノであり、意識することすら忘れるような当然のこと。
 大切な人と紡ぐ思い出の尊さを考えながら、パウリーネは次の花火を手にした。
 



 青い閃光がほとばしり、闇夜に翼を広げる。
「わぁ、ピィちゃんそっくりだね〜」
 ピィちゃん――青翼の朱雀、文歌の召喚獣。召喚と共に弾けた花火は、ピィちゃんと同じ輝きを放つ。
 光の残滓が、ゆっくり落ちていく様子に、文歌は穏やかな歌声を乗せ始めた。
 澄んだ声に合わせ、快晴も歌を口ずさみ、いくつもいくつも花火を咲かせる。
「こっちはティアラみたいな感じ、か?」
 快晴がサイレントウォークを発動しながら反応させた花火は、闇色の火花の中に瞳の輝き一つ。飼い猫・ティアラを連想させる。
「あわわ。カイ、けっこう大きく浮き出たよ」
「飲み込まれそう、かな……」
 文歌の手筒花火から、パサランよろしく白い煙がモクモクあがる。愛嬌のある姿に、快晴が笑った。
「文歌のは面白いのが多い、な」
「カイの花火も、綺麗だよ♪」
 氷の夜想曲を通した花火からは、凍てつくような蒼の火花がキラキラと咲く。
「ん……。蒼い色で涼し気、だねぇ」
 浴衣の裾が肌蹴ないよう足元に注意を払い、文歌は花火を両手に軽くステップを。
 くるくる、きらきら、光の軌跡が闇に浮かんでは消える。
 消える光は途切れない歌声に溶けてゆくようで、儚いけれど寂しくはない。
 恋人の姿を眩しそうに見つめながら、快晴は最後の花火に手を伸ばす。流すアウル、意識するスキルは――…

 光が全て、消えたかと思った。
 闇に溶け込む炎。そこから次々ととりどりの色が噴き出す。踊るように、手拍子をするように。

「さあ……、炸裂だ」
 快晴の言葉へ応じるように、全ての色が同時に爆発し、チリチリと周囲へ消えていった。
「……ふむ? 綺麗な花火、だねぇ」
「すごかったね♪ 今のは?」
「ん、ダンスマカブルのイメージ……」
 なるほど。
「あっという間だったなぁ」
 名残惜しげに、文歌も最後の一本を手に。

 ――あけぼのweek サクラ咲く……

 静かに歌い出した言の花に合わせるように、舞い散る桜の花弁のような線香花火。
 ひらひら。ひらひら。
 歩き出そう、みんな一緒に。
 大きな戦いが終わった後だから、なおさらに歌詞が沁みるよう。
 ここからまた、歩き出すんだ。
「楽しかったね。また、来ようね♪」
「うん……。また、きっと……」

「ちゃんと入ってるかな? 角度、おかしくないかな」
「大丈夫、大丈夫」
 花火を終えて、最後は2人で記念撮影。
 お揃いのスマートフォンで、順番に。
「それじゃあ撮る、よ」
 ――カシャ
「……っ」
 快晴がボタンを押した直後、文歌は彼の頬へ不意打ちのキス。
「ふふっ、油断大敵だね?」
「……むぅ?」
 暗い中でもわかる、快晴の頬はうっすらと染まっている。

 ――仕返しは倍にして返す、よ

 そして。
 文歌のスマートフォンには、乙女が唇を奪われる瞬間が収められたのであった。




「静矢さん。この浴衣、どうですかぁ?」
「相変わらず蒼い浴衣が好きだねぇ……。よく似合っているよ」
 蒼を基調とした、少し大人っぽい浴衣に着替えた鳳 蒼姫(ja3762)を、夫である鳳 静矢(ja3856)は穏やかな笑みで迎えた。彼自身は、着慣れた和装姿。
「昼間の暑さが、嘘みたいに涼しいですねぃ。さすが北海道……?」
「うむ、本格的な夏到来の前に花火というのも風流だね。たくさんもらってきたし、やってみようか」
「アウルで点火するので火の後始末は不要と言われても、水を張ったバケツは欠かせないですねぃ★」
「ロウソクの灯りもね」
 笑いながら、2人は『日本の花火』の準備を整え、見た目は普通の手持ち花火であるそれらを手にした。
「わっ。見てください静矢さん、この花火綺麗なのですよぅ?」
 流れる水のように噴出した淡青の火花は、ゆるいカーブを描きながら、金色へと変化してゆく。散り際は、花弁のようにひらひらと。
「ほう……。なるほど、蒼姫の光纏の姿に似ているね。これがアウル花火か。では……」
 本人のアウル、心の姿を素直に映し出すもののようだ。
 ならば、意図的な変化というのはどの程度、可能だろう。
 知的好奇心をくすぐられ、静矢は己が花火を持つ指先に力をこめる。
(イメージを……。そうだな、どこまでも遠く遠くへ飛ぶ、紫鳳翔……)
 シュッ、――……
 紫銀の炎が噴出し、するりと静矢の指から抜ける。
「むっ?」
「静矢さんのは、ロケット花火です??」
「……そんなつもりでは……。なかなか難しいが、面白いな」
 なるほど、鳳凰は翼を広げて飛んで行ってしまった。花火ごと。
「もう少し試そう。少しつかめたような気がする」
「難しい顔して〜。祝勝会なのですよぅ、楽しまないと! ……静矢さんには、それが『楽しみ』なのですねぃ?」
「どうにも性分でね」
 天真爛漫に、様々な彩を見せてゆく蒼姫の花火。
 試行錯誤を繰り返し、一つの形を目指してゆく静矢の花火。
 どちらも、本人の心をそのまま表現しているようだった。

 ようやく巨大な鳳凰を生み出すことができ、蒼姫が歴史的瞬間をカメラに収めたところで、休憩しようかと話は流れる。
「レモンスカッシュを用意していたのです☆ 静矢さんは、お茶をドウゾ☆」
「おっ、ありがとう。……少し歩こうか」
「はい♪」
 大好きな家族たちと一緒に騒ぐのも楽しいけれど、夫婦水入らずの時間はこの上なく幸せなもの。
 波の音を聞きながら、2人は花火会場から離れた方向へ歩き始めた。
「そろそろ夏の星空になりますねぃ、静矢さん」
「そうだな……。次の季節が来るくらいには、完全に平和になってからこの空を眺めたい物だ」
 人口の光が少ないから、星が普段よりはっきりと見える。落ちてきそうにさえ思える。
「早く何処もが落ち着いて、平和になれば良いのですが……」
 洞爺湖ゲートに対し、喉元へナイフを突きつける形となった札幌奪還。
 これは『平和の来訪』ではなく、『抗戦の狼煙』だ。
 前線基地都市として、冥魔との睨み合い、争いは明確化していくだろう。
 一つの土地へ力を裂いてばかりはいられない久遠ヶ原にとって、レジスタンスの存在が浮上したことは大きな力となる。
 連携を取りながら、しっかりと守っていけるはず。
 国内は不穏な動きが相次いでいて、同じように協力体制を敷ける現地勢力があればいいのだが、そうとばかりもいくまい。
 撃退士ひとりひとりが力をつけ、対抗できる布陣を整えられるよう努めなければ……
 ……
「せっかくの祝勝会の夜だというのに、どうしても思考は戦術へ向かってしまうね」
 難しい顔をしてしまっていた。静矢はハッとして首を軽く振り、肩をすくめる。
 大丈夫、わかっていますよ。そう応じるように、蒼姫が彼の腕に抱きついて見上げた。
「では、寝る前にはババ抜きで勝負しましょう? 超基本的な戦術ですよぅ☆」
「蒼姫はすぐ顔に出るからねぇ……、ふふふ。楽しみにしていよう」




 楽しげな歓声があちこちで飛び交う中を、逢見仙也(jc1616)はゆっくり歩いていた。
 用意された『アウル花火』は、懐にしまったまま。
(光纏からして、碌なもんにならんしな)
 無数の黒い大蛇や蜘蛛……自身が光纏した際の現象を思い浮かべ、直ぐに振り払う。
 祭りの場で、誰かを楽しませるということは想像するにちょっと難しい。
「まあ、札幌開放……レジスタンス……どのみち正直どうでもいい。肉だポテトだジンギスカンだ」
 仙也の楽しみは、そこにある。遊び人の思考? 大いに結構、遊んでナンボの祝勝会。
「買って回るぞー」
 夜には夜で、あちこちで良い香りが漂っている。
 仲間内での鉄板焼きの他にも、ちょっとした屋台など。
「解放されたおかげで、じきにジビエとか野菜が手に入るんだから万歳だね」
 安全が確保され、北の大地の豊かな自然の恵みは本州方面へも多く渡ってくるだろう。
 ホクホクのじゃがバターに齧りつきながら、仙也は次の店を探す。
「へーえ、ジャガイモひとつとっても、久遠ヶ原のとは味が違うな」
 バターが違うからだろうか? 自然な甘みとバターの塩加減が絶妙だ。
「お、学生さん。チャンチャン焼きはどうだい。ちょうど良い具合に仕上がったところだ」
「もらおう」
 レジスタンスメンバーが、紙皿へ鮭と野菜がたっぷり入ったチャンチャン焼きを振舞う。
「作るためにも素材の味を知らんといけないな。久遠ヶ原へ戻っても、同じようなものは作れるんだろうか」
「土地の物は、その土地で食べるに限ると思うけどね。久遠ヶ原は茨城か。そっちでいい魚があれば、それを使うと良い」
「……この味は、北海道限定か」
「YES。堪能していってくれ」
「言われなくとも。食いつぶすつもりだ」
 青年の不敵な笑みへ、レジスタンスたちは嬉しそうに笑っては手を振って見送った。
「ん」
 歩きはじめた仙也の足が、ふと止まる。
「……たこ焼き?」
 たしかに、屋台と言えば定番だが……
 北海道まで来て?
「『神のたこ焼き〜馬一味〜』……何の店だ」
「らっしゃーい! まぁまぁ食べていきな、もちろんタダとは言わんで〜〜♪」
「金をとるのかよ! いや、それ屋台として普通だな?」
 屋台から顔を出したのは『たこ焼き神』の二つ名を持つ男、ゼロ=シュバイツァー(jb7501)。
 二つ名のみならず、『My屋台』さえ持っている。本日、出張販売である。
「ええノリ突っ込みや、兄ちゃん。合格をくれてやろう。今なら3つ、オマケしたるで」
「ふむ。では1パックもらおうか」
「ここでは作り置きは一切せぇへん、焼き立てアツアツを味わってな! 酒もイケるんやったら一緒にどうや?」
「それはいいな。ちょうど喉も乾いていたんだ」
「ゼロさん? あの、僕、買いに来……」
「ええやん、かっちゃん! 日中にカクテル完売したわけやないやろ。ついでついで!」
 かっちゃん――佳槻の戸惑いも構うことなく、ゼロは巻き込む。
 花火と言えば屋台、屋台と言えばたこ焼き、たこ焼きと言えば祭り、祭りと言えばこういうことだ!
「……何をしてるんだ、馬一味……」
「よッ! 『馬はええで』!!」
 看板を見上げ、心なしか青ざめながらレラがミーナと連れ立って屋台を訪れる。
 『馬一味』、それはレジスタンスと学園撃退士の間で結ばれた絆の一つ(きっとメイビィ)。
「北海道の味を、ここでたーんと楽しめるんやろ? そんなら、俺からは関西の味をプレゼントしたろ思てな!」
「そう、か……。その考えはなかったな」
「わぁ、嬉しい! 美味しそう。ねぇ、レラ。他の皆にも差し入れしに行きましょう?」
「そうですね。リーダーが言うなら…… ……おい、何をしている」
「特注の『馬一味』法被や。この時のために用意したったんやで」
「何故!!」
 ミーナと言葉を交わしている間に背後へ廻ったゼロは、揃いの法被をレラの肩へ。
「ふふ、似合ってるわよ? そうね、馬はいいわね」
「お嬢ちゃん、わかるクチか〜。ええやんな!」
「そういえば、ジビエなんかは味わえる場所はあるんだろうか」
「ジビエ……エゾシカかしら。レジスタンスで準備してるところがあったはずだわ」
 レラとゼロの攻防の合間に、仙也がスイッと入り込む。ミーナは記憶を辿り、浜の一角を指した。
「関西のタコとの食べ比べもオツやな」
「あっ、これカクテルです。脂っぽい料理をサッパリ食べるのに、良いですよ」
 ゼロがたこ焼きを、なんだかんだで佳槻は即席カクテルをそれぞれに仙也へ手渡し、彼の屋台巡礼の旅を見送った。
「かっちゃん、カクテルの材料は残りどれくらいなん?」
「そんな多くはないですよ。だから、僕からはサービスで構いません」
「太っ腹やな……。な、レラ。美味しい地酒とかはないんか? 単品でも、カクテルに使えるようなんでも」
「地酒……。こっちは焼酎が多いな。芋とか。昆布とか」
「……こんぶ」
 オウム返ししたのは佳槻だ。味の想像をしてみる。出汁しか浮かばない。
「婚活頑張ってる姫に、お土産の酒を確保しときたかったんやけど……。……似合うな、焼酎」
 姫。三十路へ突入した戦友である。彼女の酒の強さがどの程度かは知らないが、嫌いではないだろう。
「焼酎だったら、カクテルでアレンジも効きますしね。……でも、昆布か」
「昆布とは決めてへんで、かっちゃん???」
 カクテルの知識はそれなりにあるものの、佳槻は未成年。未体験の味は想像するしかなく、想像の付かない味に対しては……これは手ごわい。




「きゃー!! 飛んだ飛んだ! ユウさん、避けてー!!?」
「大丈夫ですよ。元気な花火ですね」
 手持ち花火だったはずなのに、ロケット花火よろしく吹き飛んだのはナナのもの。
 くすくす笑いながら、ユウは軽やかに回避する。
 彼女の手の先には、銀色の蝶が舞っていた。ほとばしる火花は鱗粉のようで、闇夜に優しい輝きを残す。
 星空の下を伸び伸びと舞う蝶の姿は、飛行を楽しむユウの心を表しているようだった。
 札幌解放――自由を得た空を、満喫している。
(この戦いで得た一番は、レラさんやナナさん達と手を取り合うことが出来たことでしょうね……)
 ずっと、陰に紛れて活動してきた北のレジスタンス。
 それは関東に拠点を置く久遠ヶ原にとって、大きな『味方』だった。
 土地を、そこに住まう人々を守るため……目的を同じくして共に戦う中で育まれた信頼関係。
 組織の上層部は古くから学園と結びついていたという話もあるが、現地で戦う者同士が理解しあえなければ本当の信頼とは言えない。
 彼らは、学園の撃退士を信じてくれた……。
「……へへへ」
 蝶が消えてゆくのを見届けて、ナナはユウの隣へちょこんと座る。
「嬉しいな。また、こうやって過ごせるなんて思わなかった」
「函館では、強化合宿がメインでしたしね」
「うん……。あのね。あたし、ユウさんにお礼を言いたかったの」
「……え?」
「レラとのこと、応援してくれたでしょ。嬉しかったの」
 それは、記録にも残されていないナイショの女子トーク。
「あたし、うらやましかったんだ……。ミーナさんも、ユウさんも。綺麗で、強くて……あたしなんか、女の子らしくないし」
 ナナの、レラに対する甘酸っぱい感情は見ていれば解かる。
 少女の相棒である湊は、知っていてからかいのネタにしている。
「レラは家族を失ってるから、『妹』だって破格の扱いってわかってるんだけど、……」
 戦いはこれからも続くし、レジスタンスの仲間であることも変わらない。
 そこへ恋愛感情を持ち込んで、ややこしいことにはしたくない……
 それでも、と悩むのは年頃の少女だからだ。理屈だけでは割り切れない。
 ビーチサンダルのつま先をすり合わせ、言葉を濁すナナの髪へユウが触れる。姉が妹にするような、優しさで。
「ナナさん……レラさんは鈍いですから」
 戦場を同じくしたのは数えるほどのユウでさえわかる。鈍いというか、無頓着というか。
「ハッキリと自分の口で想いを伝えなくては、一人の女性として見てもらえませんよ」
 真剣さと、その中に優しさを込めた声。言葉。
 まっすぐに向き合った眼差しから、ユウの気持ちはナナへ伝わる。
「……うん」
「行ってみましょうか、レラさんのところへ」
「ふえ!?」
「無理強いはしません。でも……応援、しますから」

「いたいた。ナナ、たこ焼きの差し入れだぞー」

 行ってる傍から、向こうが来た。そして何だろうか、あの法被は。
「たこ焼き……?」
「関西の味をお届けだそうだ。言われてみれば、俺たちはそっちの『本場』を知らないもんな」
 戦場などで見せる、気を張った表情とは違う。昼間に比べても、レラの緊張はだいぶほぐれているようだった。
 ナナが言うのところの『兄』の顔なのだろうかと、ユウは考える。少女が思う程に、それは悪いものではないんじゃないだろうか。
「レラさんは、もう食べたのですか?」
「いや、冷めないうちに配り歩いてた」
「でしたら、お二人でどうぞ。私、飲み物を取ってきますね」
「!? ユウさ……」
(見守ってますから)
 ナナの肩をポンと叩き、ユウは耳打ちする。
「〜〜〜〜ッ」
「? ナナ、どうした?」
「あ、あのね……」
 笑わないで、最後まで聞いて?
 満天の星空の下、少女の小さな恋の行方はいかに。




●それぞれに、星の降る夜
 喧騒から離れた場所。時折、遠くで爆ぜる花火が美しい。
 佳槻が残った材料で作ってくれたカクテルを傍らに、ゼロは潮騒を聞いていた。
 ――冷たい風の、行き先が気になる。
「……なんてな」
 それは、『今』ではないだろう。
「最近は一人でゆっくり飲むこともなかったからな。偶には静かな酒もええもんや」
 ぎょうさん稼いで、汗流して。
 売り切り御免で屋台を畳み、一人の時間を楽しむ。なかなかに贅沢な一日だ。
(きっと……また、騒がしゅうなるんやろな)
 それもきっと悪くない。



(札幌解放……大きな第一歩か……)
 冷たい砂に、足の先がジワリと沈む。
 それから、陽波 透次(ja0280)は星空を見上げた。鈴が鳴るような、美しい星々の瞬き。
 ひとつひとつが、誰かの命の灯火のよう。
 まもりたかったもの。
 まもれたもの。
 まもれずに、消えてしまったものもあるだろう。
(これまで、ずっと辛かったんだろうな。……いや、今でも……これからもずっと、辛いだろうな)
 悪魔たちの『糧』として札幌市内に捕えられていた一般人は、無事に保護された。
 家族の元へ戻れた人々は幸いだ。しかし、恐怖が心の奥から消えることはないだろうと思う。
 戻れず、『糧』となってしまった家族を持つ人々はどうだ? ずっと辛いはずだ……その感情を、撃退士へ向けることもあるかもしれない。
 ――奪われる苦しみは、わかるから。
 透次も、故郷を蹂躙されている。
 姉がいたから、『自分』を保てたのかもしれない。
「……この勝利をぬか喜びにしないように、しないと」
 共に戦ったレジスタンスには、冥魔によって家族を失ったものが少なくないと聞く。
 久遠ヶ原のように、技術習得に恵まれた環境ではなかった。その中で戦い、生き抜いてきた。
 彼らはこれからも、北海道を守っていくのだろう。
 では、自分たちは?
 『北海道』だけじゃない、戦う場所は、もっともっと在る。助けを求める多くの声へ、駆けつけ続ける。
「これからも頑張って、……負けるわけにはいかない……勝ち続けなくてはならないんだ」
 敗北した先の地獄を知っている。
 もう、誰にもそんな思いはさせたくない。
(その一心で僕は戦っている……迷いは、無い)
 問わず語りに、透次は思う。考える。
(たとえ憎めない相手と戦う事になったとしても、刃は曲げない。……けど)
 たいせつにおもう少女たちと出会った。
 互いに譲れないものがあって、ぶつかり合うしかなかった。
(けど、どこかで戦いの糸は断ち切りたい……。この悲しい世界を変えたい)
 知らぬうちに、少年は拳を固く握りしめていた。爪が食い込み、白くなっている。
「まだ糸口は見えないけれど……その為に自分の人生を使いたいな……」
 生きている限り、模索したい。
 
 奪われる苦しみを知っている。
 奪われて苦しいのは『自分』だけではないはずだ。
 『自分』たちの勝利の裏で、きっと同じだけの苦しみを生み出している。

 そんな、悲しい世界に終焉をもたらしたい。
(僕に、何が出来るだろうか……)
 姉が聞いたら、どんな顔をするだろう。
 あの少女たちに伝えられたら。
 具体的な答えは、まだ見えないけれど……『考えること』、それが全ての始まりだと、信じて。



「光嬢」
「ふえ!!?」
 花火を楽しんでいた御影 光は、背後からそっと呼びかけられて飛び跳ねるように振り向いた。
「グランせんせい……」
「札幌解放、お疲れ様でした。学園とレジスタンスとの中継役、がんばりましたね」
「……わたしは、そんな」
 ストレートに褒められて、御影はどんな顔をしていいのかわからない。
 それを見越して、グラン(ja1111)は自身の花火を示す。
「ご一緒しても?」
「……はい」
 断る理由は……無い。少し考えてから、御影は頷いた。
(背が……伸びましたね)
 グランが御影と出会った時、少女は中等部生だった。それがもう、今年の秋には大学部へ進学しようというのだ。時の流れは早い。
(ほんの少女だと思っていましたが、人は成長していくものです。それは喜びであり……)
 それは……
 白銀の火花をくるくる回しては笑う横顔には、まだ幼さが混じる。グランのよく知る御影の笑顔だ。
(今はただ、光嬢の労に報いたい。……それだけです)
 想いは伝えてある。
 それが重荷になってしまうことも知った。かといって、共にいることを拒絶しないでいる。
 ならば、今はこれ以上は望むまい。
「不思議です」
「はい?」
「グラン先生の、アウル花火。火花が渦巻き??」
「ああ……」
 金、銀、闇色の三色が絡み合うように爆ぜている。
「魔法使いですから」
「ふふっ、せんせいらしいです」
 捉えどころのない、けれど軸はしっかりと存在している……そんな輝き。
「それではもう一つ、魔法をお見せしましょうか」
「?」
 御影の目に触れないよう、片手で後ろに隠していた小さな箱を差し出した。
「保冷バッグ…… ……?? あっ、『菜の花亭』の箱ですよね。えっ? えっ?」
 保冷バッグに、たくさんの保冷剤。その中から顔をのぞかせたのは、御影が通っている料理教室でもある、『レストラン菜の花亭』のロゴが入ったケーキ箱。
「マスターの桜庭氏に話をして、新作アイスケーキを用意してもらったんです。任務中は、それどころじゃなかったでしょう?」
「っっっ、はううう……」
 ――おつかれさま――
 見慣れた、でもしばらくご無沙汰の、マスターのプレート文字。
 張りつめていた緊張の糸が切れて、御影の目に涙が浮かぶ。
 強い郷愁が、少女の心に押し寄せる。
 依頼の呼びかけで学園へ戻ることはあったけれど、近隣の街を楽しむ余裕のない日々だった。マスターや先輩たちにだって。
「辛いときは心に溜め込んではいけないよ」
「板チョコは、欠かさずストックしてたんです……」
「……それは流石です」
 ポロポロ涙を落としながら、御影はアイスケーキにフォークを差し入れる。
 程よく時間が経っていて、スッとすくい上げることができた。
「マスターの味です〜〜〜〜〜〜 おいしぃ〜〜〜〜」
 レアチーズベースに、レモンとオレンジ、ラズベリーの二層で爽やかに仕上げている。
 層の間に、パリッとしたチョコレート。
 優しくて、甘酸っぱくて、涙が止まらない。
「よく頑張りました」
 グランは言葉を重ね、少女の肩を優しく叩いた。
 大人びたようで、芯は出会った頃と変わらない。
 安堵したような、少し複雑なような、表現の難しい感情が、グランの胸にも渦巻いた。


 尽きることなく燃え盛る炎。
 それこそ、大炊御門 菫(ja0436)であった。
 オレンジ色の輝きを纏う花火をくるくる回しながら、菫は軌跡を見つめる。
 パック詰めで渡された『アウル花火』だが、驚くことに菫のそれは一本目である。
 すでに遊び切った仲間たちもいるようなのに。
 そのことにも気づかず、菫は炎に見入っていた。
 今回の戦いを、その感触を、反芻していた。
(自分だけの力では、到底不可能だった)
 旅団長・ソングレイの撃破。
 引導を渡したのは菫だが、そこに至るまで多くの仲間たちの力があった。
 ――チップ、全部持って行きやがれ
 悪魔は、最期まで笑っていた。
 それは『人間』を見下す類ではない。
 博打という名の勝負に全力を出し切り、満たされた清々しいものだった。
 多勢に無勢であるとか、それを不公平というでない。すべて飲み込んだ上の勝敗。すべて受け止めて、悪魔は逝った。
「北海道での戦いはまだまだ続くんだ。……今は、此処にいる共に駆けた仲間たちに感謝を」
 呟く表情は穏やかだ。
(終わりは何時だろうか……) 
 一方で、そんなことも考える。
 戦いの、終わり。
 天使と、悪魔との、この地を巡る戦い。終わりなんて、来るのだろうか。
 しかし、撃退士として止まることはできない。しない。
 誰も彼もを巻き込んだ身として、せめて多くの人々に安らぎを届けたい。
 仲間たちを肩を並べ、その背に守り抜きたい。
 菫の気持ちに呼応するかのように、花火は輝きを強めた。

「暗いというのであれば、我が身を燃やし尽くして明かりを灯そう」

 私には、それしかできないのだから。
 手を伸ばし続けるしかないのだ。
 燃え続けるしかないのだ。

 それは、創世の炎。
 信を繋ぐ篝火。
 活路を拓き、照らす光。

「共に歩む、仲間がいる限り」




 蒼白い火花がパチパチ飛び散る。
「ふぁー。これがアウル花火ですかー……」
 仄かな光を、Rehni Nam(ja5283)はボンヤリと見つめる。
 ひとりひとりだけの、アウルの輝きなのだという。
 たしかにそれは、レフニーの光纏とよく似ているが――
「!!?」
 パチン。光が弾け、一条の火花が伸びる。
 パチン、パチン、……
「これは、見事な九尾です??」
 放射状に、9つに揺れながら火の粉が散る姿は、妖狐の尾のようだ。
「あら、これは化けたわね」
「あなたは……たしか、レジスタンスの」
「ミーナよ。ご一緒してもいいかしら」
 たこ焼きのパックを片手に、黒髪・褐色肌の少女がレフニーの隣へ腰をかがめる。
(戦いの時は、近くでゆっくりなんて余裕はありませんでしたが……)
 レジスタンスのリーダー、先の戦いでは地下にて祈光陣の発動を担ったのがミーナだ。
 学園生たちは、術式を遂げるために札幌市街・及び地下で戦いを展開し、最終的に女男爵リザベルを討ち果たすに至った。
「いやあ、リザベルは強敵でしたね……」
「……そうね。彼女の『読み』は流石だったし…………皆さんには、本当に感謝しているの」
 術式展開中、ミーナは護られることしかできなかった。
 戦いの音が届く、悲鳴や血の匂い、爆発音、それらに対して何もできない。
 敵将が狙うは自分だと判っていながら、撃退士たちが傷つくことを止めることができない。
 軽い世間話を、と切り出したレフニーだったが、少女の表情が曇ったことで何かを察する。
 ――後衛で楽ができそう
 たとえばレフニーが本科を専攻した理由は、そんなものだった。
 けれど、いくつもの戦いを経て、仲間と呼べる存在と出会い、意識は変わっている。
 後ろにいるだけでは、いたくない。
 大切な人の平穏を、心から祈る。
 それが、『組織のリーダー』という立場であれば、如何ほどだろう?
「そう言えば、学園生は私の知る限り、重体者は何人か出ましたが死亡者は出ませんでしたが……。レジスタンスの方は、如何でしたか?」
 だから、問うてみる。
 もしかしたら傷を深める質問かもしれない。でも、もしかしたら……
「……あ」
 沈んでいたミーナの瞳に、輝きが戻る。
「皆、無事……よ。大きなケガを負った仲間もいるけど、適切な応急処置を受けられたから大事には至ってないの」
「それでは、完全勝利ですね!!」
「……そう、ね」
 パッと笑顔を咲かせるレフニー。ミーナが抱いていた心のモヤモヤも、晴れていくようだ。
「ほんとうに、ありがとう。誰ひとり欠けても、作戦は成功しなかったと思うの」
「えー。でも私、実を言うと戦いの最中については細かいこと、覚えてなくって……」
「そうなの?」
 打ち解けた風に、少女たちが談笑していると……

 青・白・銀・赤の火の玉が、ひゅるひゅると天上へ昇る。

「え? あら? 打ち上げ花火は用意していなかったはずだけど……」
 祝勝会とはいえ、遠目でわかるものは敵勢力を刺激しかねない。
 だからアウル花火も『手持ち』に限定していたはずだった。
 ミーナが驚いて目で追う、つられてレフニーも顔を上げた。
 どうやら手持ち花火を束ねて強力にしたようで、強大なアウルを流して放ることで飛翔させたらしい。
 幾筋かの光が、一点に集まり、そして――

「これぞ、パンダ花火」
 短時間でアウル花火の仕組みを応用し再編し狙い通りに打ち上げて見せた笹緒は、夜空にどーんと打ち上げられたパンダの姿へ深々と頷いたのであった。

 平和ですね。
 思わずレフニーが笑う。ミーナも、必死に笑いをこらえているようだった。肩が震えている。
(平和です……今は、凄く。でも、これから冥魔はどう対応してくるのでしょう。天界は、どう介入してくるのでしょう)
 更なる祭器――人類の武器――は生み出されるのだろうか?
 量産化、安定化を目指しているのだと研究会は話していたけれど。
 そして、神器が抱える問題の解決に関する光明は――……
 不安を数え上げればきりがない。
 でも、同じように。強く抱く、希望だってある。
「来年も、こうして平和な時間を過せるといいですね」
「ええ。私たちは、これからも北海道を守るわ。みなさんが貸してくれた力で、北の楔となる。だから……」
 戦い続けることの大変さは、もちろんミーナも知っている。
 軽々しく『頑張って』などとは言えない。
「来年もまた、『アウル花火』をしましょう?」
 だから、小さな約束を。



●安らかに、眠れるときを
「あれ。寝ちまったか?」
 寝かさない、なんて張り切っていたパウリーネが、林檎について熱く語っている真っ最中に電池が切れたようにコトリと力尽きた。
「あー、あー……。ま、テンション飛ばしまくってたしな」
 穏やかな寝顔に、ジョン・ドゥは困ったように笑う。
「ね……もっとくっついて良い?」
「うん? 起きてたか?」
「……んん」
 寝言とないまぜになっている。
 眠りやすい位置へ体勢を変えてやろうと抱きかかえたジョン・ドゥの首へ、パウリーネの細い腕が絡められた。
「ホント大好き。何度でも告白したい。それくらい好き」
「…………はいはい」
 軽く流すようでいて、男の眼差しは優しい。
 ぽん、とパウリーネの背をひとつ叩いて、眠りに就かせる。
「大騒ぎMVPは諦めて、静かな夜も良いだろうよ」
 夜通し語り大会は、おしまい。
 甘い気持ちになって、ジョン・ドゥはテントの明かりを消した。



●戻りたい場所
 くるくると色の変化する花火を楽しむ米田 一機(jb7387)の、隣に居るべき人が居ない。
「真緋呂? おい、真緋呂ーー」
「まっふぇふぇ、一機君。まだ4杯えなの」
 テント前にて石狩鍋に炊き立てごはんを堪能している蓮城 真緋呂(jb6120)が、振り返る一機へ胸元を叩きながら応じた。
 まだ。4杯目。とは。
「だって! お鍋食べ放題っていうから……」
「うん、ゆっくりでいい。ゆっくりでいいよ」
 食に賭ける彼女の姿は、なんだか久しぶりな気がする。
 ひ、引いてない、引いてないよ。安心してるんですよ。
(……よかった)
 安心しているのは、本当。
 一機の分の器を持って、ようやく駆け寄ってくる真緋呂の姿に、心からそう思うのだ。


「大規模、大成功で良かったね♪」
 花火も鍋も満喫完了、テントの中でランプの明かりを確認しながら真緋呂はニコニコしている。
「一機君が、小隊長としてMVPをもらえたことも誇らしかったし。小隊の皆と頑張れて……嬉しかったな」
「うん」
 指先を軽く組み、真緋呂はどこか遠くを見つめる。遠くと言っても狭いテント内だけれど。
 なにか、言いたいことがあるのだろう。
 一機は小さく頷いた後、少女の言葉の続きを待った。
「あの、ね。……故郷の事があって……どうしても冥魔が受け入れられなくて、天魔と共存の未来を一緒に目指すのは無理だって……。私、離れちゃったよね」
 真緋呂の暮らしていた町は、冥魔に滅ぼされた。
 真緋呂がたった一人、生き延びた。
 はぐれとして学園へ帰属する者も増える中で『冥魔』と全てを一括りにするのは乱暴かもしれない、しかし真緋呂にとっては深い傷だったのだ。
「でも……1人でやってる間も、皆の事はずっと忘れられなかった」
 気丈な少女の声は、少しだけ震えている。
 息も出来ないような、苦しさを味わった。行き場のない感情をもてあまし、叫び出したい夜もあった。でも。
「多くを喪っても絶望に飲まれず歩けたのは、一機君や皆のおかげだって改めて気づけたし、……それで変われたの」
 たいせつなひとがいる。
 たいせつなひとを信じる。
 それが、どれだけの支えであるか。
 離れていても、近くに思う。
 戻ってきて、受け入れてくれる。
「……また一緒に居させてくれて、ありがとう」
 真緋呂が、『戻りたい』と思う場所。『ただいま』と言える相手。
 見つけた。気づいた。皆と居たい。
 札幌での戦いは真緋呂自身にとって、きっととても大きな意味を持った。
 だから、一機は言ってやるのだ。その気持ちを受け止めて。
「おかえり、真緋呂」
 
 ――そして。
 幸せそうな寝顔で、真緋呂は穏やかな眠りに就いた。
 一機の手を握り、無防備で安心しきった様子で。
(うん。この絶大な信頼感……つらくない。つらくなんてない)
 横向きになっていることで、真緋呂の胸元がチラッと覗いたりなんかするものだから、慌てて毛布を掛けてやって見なかったことに。

 『何の為に戦うの?』
(ジェン君……)
 同じ小隊で、今日は和紗と共に札幌へ向かっている竜胆が、真緋呂が抜けた頃に一機へ投じた言葉だった。
(『全員が笑顔で生きられる世界を作る事』、それが俺の覚悟だ)
 部隊を設立した時から、それは変わっていない。
 小隊の仲間たちが、個を殺すことなく自然な笑顔でいることを願う。
 時として自分たちから離れることがあったとしても、それが最善ならば背を押そう。笑顔で送り出そう。
(あの時、真緋呂を送り出さなければ……きっと戦後で、こうして笑えなかったのかもしれない)
 だから、賭けた。
 共に居ることが全てではないと、彼女の選択を尊重した。
「でも、乗り越えられたのは真緋呂自身の強さ、優しさがあってこそなんだからな」
 かくして、仲間は戻って来たのだ。
 たくさんたくさん、葛藤しただろう。苦しんだだろう。
 手を差し伸べることができない間、無事であることを願うしかなかった。
 でも、彼女は戻ってきた。自分の足で。意思で。

 ――小隊皆で取ったんだ

 一機がMVPに選出された時、彼は仲間へそう告げた。
 近くに居ても、離れていても、きっと心は一緒だった。
 ぶつかり合って苦しんで、それでも『仲間』の絆は変わらなかった。
 小隊の、皆がいたから……

「生きていてくれて、ありがとう」

 空いている手で、一機は少女の顔に掛かった髪を払う。そのまま、そっと黒髪を撫でる。
 出てくる言葉はありきたりなもので、ありきたりな自分にはお似合いかもしれない。
 でも、ありったけの気持ちは込めている。


 夜は更け、やがて朝が来る。
 きっと、これまでとは違う一日を迎えるのだろう。
(……。俺、眠れるかな)
 真緋呂は握った手を放してくれない。うまく距離を置けない。
 ふふふふふ。貼りついた笑顔で、一機は出来る限り首を曲げて顔を逸らした。
 翌朝、寝不足面の少年へ、事情を知らぬ少女は小首をかしげるまでがお約束である。




●札幌解放、そして……夏が来る
 札幌市街訪問グループ、祝勝会参加グループ、それぞれを乗せたバスが空港へ到着した。
 見送りには、レジスタンスリーダーのミーナ、彼女の護衛としてレラが訪れている。
「学園のサポートを受けながら、この街は私たちが守っていくわ。いつか、北海道に本当のやすらぎが訪れるまで」
「あちこちで、厄介なことになってるっていう話は聞いている。俺たちがどれだけの役に立てるかはわからないが、せめてこっちを気にせず存分に戦えるよう努めるつもりだ」


 戦いの日々は続く。
 たった一日の休息の日は、その中でも小さな輝きとして、ひとりひとりの胸に灯ることを、願って。





【蔡祈烽焔】了





依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 未来へ・陽波 透次(ja0280)
 戦場ジャーナリスト・小田切ルビィ(ja0841)
 歴戦の戦姫・不破 雫(ja1894)
 鉄壁の守護者達・黒井 明斗(jb0525)
 あなたへの絆・蓮城 真緋呂(jb6120)
重体: −
面白かった!:32人

伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
未来へ・
陽波 透次(ja0280)

卒業 男 鬼道忍軍
赫華Noir・
黒百合(ja0422)

高等部3年21組 女 鬼道忍軍
創世の炎・
大炊御門 菫(ja0436)

卒業 女 ディバインナイト
パンダヶ原学園長・
下妻笹緒(ja0544)

卒業 男 ダアト
歴戦勇士・
龍崎海(ja0565)

大学部9年1組 男 アストラルヴァンガード
戦場ジャーナリスト・
小田切ルビィ(ja0841)

卒業 男 ルインズブレイド
高松紘輝の監視者(終身)・
雨野 挫斬(ja0919)

卒業 女 阿修羅
天つ彩風『探風』・
グラン(ja1111)

大学部7年175組 男 ダアト
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
蒼の絶対防壁・
鳳 蒼姫(ja3762)

卒業 女 ダアト
撃退士・
鳳 静矢(ja3856)

卒業 男 ルインズブレイド
新たなる平和な世界で・
巫 聖羅(ja3916)

大学部4年6組 女 ダアト
前を向いて、未来へ・
Rehni Nam(ja5283)

卒業 女 アストラルヴァンガード
薄紅の記憶を胸に・
キサラ=リーヴァレスト(ja7204)

卒業 女 アストラルヴァンガード
鉄壁の守護者達・
黒井 明斗(jb0525)

高等部3年1組 男 アストラルヴァンガード
紡ぎゆく奏の絆 ・
水無瀬 快晴(jb0745)

卒業 男 ナイトウォーカー
影に潜みて・
サガ=リーヴァレスト(jb0805)

卒業 男 ナイトウォーカー
ラブコメ仮面・
袋井 雅人(jb1469)

大学部4年2組 男 ナイトウォーカー
陰のレイゾンデイト・
天宮 佳槻(jb1989)

大学部1年1組 男 陰陽師
新たなる風、巻き起こす翼・
緋打石(jb5225)

卒業 女 鬼道忍軍
優しき強さを抱く・
ユウ(jb5639)

大学部5年7組 女 阿修羅
あなたへの絆・
蓮城 真緋呂(jb6120)

卒業 女 アカシックレコーダー:タイプA
光至ル瑞獣・
和紗・S・ルフトハイト(jb6970)

大学部3年4組 女 インフィルトレイター
ついに本気出した・
砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)

卒業 男 アストラルヴァンガード
あなたへの絆・
米田 一機(jb7387)

大学部3年5組 男 アストラルヴァンガード
縛られない風へ・
ゼロ=シュバイツァー(jb7501)

卒業 男 阿修羅
外交官ママドル・
水無瀬 文歌(jb7507)

卒業 女 陰陽師
大切な思い出を紡ぐ・
パウリーネ(jb8709)

卒業 女 ナイトウォーカー
大切な思い出を紡ぐ・
ジョン・ドゥ(jb9083)

卒業 男 陰陽師
童の一種・
逢見仙也(jc1616)

卒業 男 ディバインナイト