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マスター:佐嶋 ちよみ
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
形態:
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2016/02/22


みんなの思い出



オープニング


 一歩踏むたび、パシャンと水が跳ねる幻影が浮かぶ。
 くるぶし程の深さを湛える水はゲート主が施している幻影にすぎず、靴の先すら濡らさない。
 水を基調としてデザインされたこの場所は、ゲートコアも水の膜によって守られていた。
 胎内で眠る命のように、それは美しく淡い輝きを放っている。
「カラス。調子はどうだ」
 幻想的な光景を見上げていた天使カラス(jz0288)へ、粗野な声が掛けられる。上役の権天使ウル(jz0184)だ。
 カラスは向き直り、膝をつく。
「上々です。フギン、ムニン、どちらもテスト運用は終えました」
 フギンと呼ばれたのは銀髪の翼人、ムニンと呼ばれたのは赤髪の翼人。コアの両端に直立している。
 いずれも端正な顔立ちをした青年サーバントだが、一言も声を発することなく表情もない。
「ホンットーにテメェらは小細工が好きだな」
「ウル様のお陰で、我々は小細工をするだけで済んでいるのですよ」
 ウルへ付き従うのは、青髪の大天使ユングヴィ。天界においてウルの補佐を務めている男だ。
「ユングヴィ様!? なぜ、このようなところへ……」
「ゲート程度でしたら問題はありませんよ」
 天界を離れることのない補佐官は、驚くカラスへ穏やかに微笑んだ。
「ヴェズルフェルニル、私はもう少し時間が掛かります。手勢が整うまでは……」
「承知しています。ゲート位置が知れてしまったのはわたしの失態です。当面は近寄れないよう、徹底的に潰しておきます」
 ヴェズルフェルニル。風を打ち消す者。真の名で呼ばれたカラスは、神妙な面持ちでユングヴィへ頭を下げた。
「ははっ、徹底的にか。慎重派のお前がなあ。面白ぇ、俺様も手を貸してやらあ。……なんだそのツラ」
「……いえ。頼もしすぎて涙が。まさか、お一人で行動なさるつもりではありませんよね」
「冗談を言え。あんなド辺境の原住民相手に手勢なんざ連れ込めるか」
 そう言っては囲まれ大打撃を受けて撤退を繰り返している過去を棚に上げているウルである。
「念には念を。ムニンと、少数のサーバントをお付けします。サーバント間の指揮はムニンに執らせますので、ウル様はご自由に行動下さい」
「チッ、水を差しやがって」
「わたしはウル様の手足です。ゆえに、大事な御身を傷付けたくないのですよ」
「あー、ハイハイ。わぁかったよ」
 ウルは雄山羊の面を片手に、カラスを追い払うような仕草を見せた。




 岐阜県、多治見市。
 現在は七色薬品ビル内の会議室をゲート対策の拠点とし、企業撃退士及び有志フリーランス撃退士たちが集まっていた。その数、五十近くだろうか。
「おー、野崎さん。来ると思った」
「居ると思ったわ筧くん。元気?」
 近畿・東海を拠点とするフリーランス撃退士、筧 鷹政(jz0077)が久遠ヶ原の撃退士・野崎 緋華(jz0054)を出迎える。
 多治見に纏わる戦いを重ねるうち、互いに友人と呼び合えるような関係となっていた。もしくは情報収集先。
「俺の事務所からは離れてるんだけどさ。まあ……この街を拠点として大きな動きがあるって聞いたら……ネ」
「……そっか。筧くんは、そうだよね」
 かつて、この街に冥魔ゲートが開かれたことがある。
 その悪魔が従えていたヴァニタスに、鷹政の相棒は殺された。彼の『隣』は、今も空席のまま。
 弔い合戦ではないが、ついぞヴァニタスを倒し主たる悪魔を倒し解放したこの街は、彼にとって思い入れが深い。
「静岡の時のように、大掛かりなゲートでも無ければ軍団でもない。ただ、カラスが居るなら権天使殿も居るだろう。
アレが組んで勢力拡大を狙っているのだとしたら……厄介でね」
 ここ最近の調査結果を運んできたのは、多治見の企業撃退士。宵闇の陰陽師・夏草風太だ。
 紫紺の髪を犬の尾のようにうなじで束ね、陰陽師然とした狩衣の下は細身のジーンズというラフなスタイルはトレードマークとなっていた。
「野崎さんが送ってくれた【震風】関連、目を通したよ。その後の様子も各自治体へ確認を取った」
「どうだった?」
「今までは、コトを為したらサッサと退散していた。が、何をするでなく居座ってるんだな。今回は特殊ケースと見ていい」
 ラストランの吸収再活性化をするでなく、近隣の人間を連れ去るでもない。
「どちらかといえば冥魔の支配が強い場所で天界ゲートっていうのもアレなんだけど。もしかしたら『出入り口』の一つなのかもしれない」
 ゲートは、異界を繋ぐ門だ。
 人知れず設置した門を使用し、今まで活動していたと?
 それならば、必要以上に大きくないことも目立つ略奪行為をしないことも納得できる。
「僕たちに潰されちゃあたまらんから護衛を置いてるカタチかな。ま、野放しにはできないさね」
「勝算は?」
「撤退にさえ追い込めたら、今は御の字かなー。まずは目先をどうにかしたい」
「ふむ」
「で、そこな少年は?」
 話を振られ、ラシャ(jz0324)はビクリと顔を上げた。




 周辺に出没するサーバントに関しては情報が整っていた。
「二種の翼人が確認されてる。こいつらに関してだけは未知数さね。どうも指揮能力が与えられているらしい」
 赤髪の翼人は、カラスが愛用していたものと同じボウガンを使用している。
「そこから察するに、もう一体の翼人が持っている鞭も、カラスから与えられた可能性が高い」
 銀髪の翼人が手にしているのは伸縮自在の鞭。カラスとの関連を考え調べた結果、かつて伊豆にゲートを構えていた大天使ガブリエルが使徒・北條泉が使用していたものに類似しているという。
「伊豆でカラスが使用していた記録があったが、辿れば伊豆のボスの使徒の武器。カラスにとって、ガブリエルへの忠誠・表敬そういったものかはわからないけど」
「カラスの『劣化コピー』が1体ずつってことかい」
「サーバントだから、かなりの劣化だやね。とはいっても、カラスはサーバントを絡めての行動には定評があるんだろう?」
「ええ、ホントウに」
 風太の言葉に、緋華は棒読みで応じた。
「部隊を2つに分けようと思う。冬の山間を進むルートは限られている。転落、遭難、そういった危険性は排除した道を選ぶ」
「道中で敵さんに遭遇したら、応援しあうってこと?」
「YES。最大の目的は『カラスの足止め』。これに全力を注ぐ」
 成し遂げたいのは『カラスが引っ込まざるを得ないレベルの傷を負わせる・あるいは撃破』。

 話がまとまり、部隊分けが始まった。
「少年、君はあたしとおいで」
 緋華に呼ばれると、逡巡してラシャは彼女へついていった。
「……野崎さんも複雑だろうね。一番長く、カラスを追っていたのは彼女だから」
「夏草君は事情知り?」
「筧さんよりは、ね」
 鷹政と風太が二人を見送る、そこへ歩み寄る人影が二つ。
「おーい、筧もこっちのグループに来るだろ? あっ、夏草くん先日はドウモ!!」
「……野崎さんとは分かれてしまったか……久しぶりの美脚が」
「おう、相模。加藤さんもお久しぶりです」
 ノリの軽い金髪忍軍・相模隼人は鷹政の同期であり、ベテランアスヴァン・加藤信吉は七色薬品と契約を結ぶフリーランスの美脚愛好家だ。
「僕は拠点で情報整理を行ないますんで、現地組はしっかり頼むさね」
 風太は撃退士たちの肩を叩いた。




 そうして撃退士たちは出発した。
 一つはカラスと遭遇し、もう一つの前には……


 権天使ウルが、サーバントを従えて雪原に舞い降りた。






リプレイ本文


 ――道中で敵に遭遇したら、協力し合う
 そういう作戦で、二つの撃退士部隊は多治見の街を後にした。
 安全に歩くことのできる冬の山道は限られている。ゆえに、部隊同士を結ぶラインもわかりやすい。
(仕事前に何だけど、帰りたい……まだ準備が……いやでも、仕事だし……)
 2月。
 浮足立つわけではないし、実際に戦いが始まればそんな思考が吹き飛ぶ性分であることを常木 黎(ja0718)だって自覚している。
 しかし、2月である。
 意識するあまり、部隊の端と端という文字通り両極端な位置取りをしてしまった彼女は、ちらりと赤毛のフリーランスを視線で追った。
 他の学園生と会話をしていたが、こちらに気づいたらしい。一瞬、目が合う。
「……っ」
 今は、何を言えるわけでもない。黎は恋人へ小さく手を振ると、再び進行方向へと向き直った。
(集中、集中。久しぶりの現場なんだし)

「鬼が出るか蛇が出るか……。ゲートの主はウルと見ていいんでしょうか」
 周辺を警戒しながら、天宮 佳槻(jb1989)は筧へ訊ねていた。
 先日の調査依頼に、佳槻も参加している。対峙した天使・カラスからは、ゲート展開による力の減少は感じられなかった。
 むしろ更に厄介なサーバントを従えており、面倒さに磨きがかかってやしなかったか。
 ならば、あの時に姿を見せなかったカラスの上司・ウルのゲートと考えるのが道理だと佳槻は考える。
 久遠ヶ原へ調査依頼が出された後も、近隣で活動するフリーランスたちで情報収集は続けられたという。
 参加している筧ならば、詳しいことを知っていないだろうか。
「うーん、なんとも言えないんだよな。たしかにウルの姿は今まで確認されていない。……天宮君は、ウルと遭遇したことある?」
「数えるほどですが」
「俺は無いんだけどね。過去資料を見る限り、絵に描いたような猪突猛進型だろう。自分でゲートを持つかな」
 ゲート展開には、大きなリスクが伴う。それを嫌い、自由気ままに行動するのがウルだ。
「カラスが開いたわけでもないようでした」
「そうそう。となると『第三者のもの』って可能性が高い。カラスは元々が東海地方、この辺りで活動していた天使だろう。
人界と天界の行き来の足掛かりとして、この岐阜ゲートを使っていたって考えればスッキリするんじゃないかな」
 そうすると……、どういうことだ?
「……ゲートを守る天使が別にいる、ということですか?」
 会話を聞いていた鳳 静矢(ja3856)が、思考を整理して言葉を挟んだ。筧が短く頷く。
「多分。俺たちは今、周辺をうろつくカラスとの接触を想定しているわけだけど」

 ――鬼が出るか蛇が出るか。

 遠く。足元を揺らす地響きが鳴る。
「今まで誰の目にも付かなかったゲートを、『誰』が直接守っているかはわからない」
 笑顔を張りつかせ、筧は顔を上げた。
「……カラスは、存在を主張するように近隣へ出没していますね」
 同じ方向を見て、佳槻。
「そして……ウルもまた、縛られる存在ではない。と」
 愛刀に手を掛け、静矢。

 なだらかな坂を越え、枯れ木の点在する広い平地へ出る。

「わー……」
 紫ノ宮莉音(ja6473)は待ち受けていた光景を前にして、そんな言葉しか出てこなかった。
 整然と並ぶサーバント。一団の向こうから、石斧を地に打ち付け近づいてくる大きな影。

「よう、来やがったか。……待ちくたびれたぜ」

 雄山羊の面の向こう、赤い瞳が光る。
 褐色の肌に白い長衣をまとった権天使は、石斧を肩に担ぐと強靭な翼で飛翔した。文字通りの一足飛びに、サーバントの最前線へと舞い降りる。
(天使……!)
 莉音の隣を歩いていた山里赤薔薇(jb4090)は、ライフルを握る手に力を込める。
「ふむ。予定より楽しそうなものが出て来たな」
 部隊中央・前線へ進み出ながら、鷺谷 明(ja0776)が口角を上げた。アウルで構成されたタトゥを体に刻み、能力を上昇させる。
「……仮にも権天使、油断は出来ないな」
 静矢はウルと正対する位置へつきながら、学園に刻まれている対ウル戦の記録を思い起こしていた。
 結果だけを言えば撃退士側の勝利と認められるものが多い。ただしそれは、ウルという個に対して圧倒的な撃退士の数がある場面がほとんどだ。
「腐っても権天使のウルを落とすのは流石に難しいでしょうね」
 陣の右側を担う佳槻は、四神結界を発動する。ウルとぶつかり合うであろうメンバーを加護に入れる。
(既にウルが中央にいる以上、ウルかサーバントかどちらかに攻撃対象を絞るのも難しい。……ならば、難しい状態を逆に利用できないか?)
「彼は本来、こんなところでサーバントに細かく指示するタイプでは無いはずです」
 先の会話を、佳槻が繰り返す。
「ウルがサーバントを従えているんじゃない、サーバントがウルを守る役割を与えられている、ということは考えられませんか」
 佳槻は、敵陣最後方に控える翼人を知っている。『ムニン』とカラスに呼ばれていた。
 カラスが、アシストとしてウルに付けたものだとしたら…… その行動は、通常の戦闘とは違うのではないか。そう考える。
「ふうん、あのヤギ頭が権天使ねー」
 とんとん、地を蹴ってから、ラファル A ユーティライネン(jb4620)は飛行形態に変化し、一気に飛翔する。
「恨みなんざひとつもないが、楽しく遊んでもらおうかな」
 砕けた口調、好戦的な笑み。軽い調子にも受け取られるだろうが、戦いに向けるラファルの姿勢は真剣そのものだ。
(カオスレート差がデカイんだから、手抜きも手加減もナシよっと)

「天使も悪魔も関係ないよ。私達、人類を脅かすならお前らの行き先は一つ……地獄のみだ」
 赤薔薇の声が怒りで震える。
 人間を完全に見下した態度、その傲慢さで、今までどれだけの人間を屠って来たのかと思えばはらわたが煮えくり返る。
「ウルか……。前に戦ったのは天魔大戦やったかな……?」
 莉音は記憶の糸を辿る。三年ほど前になるか。
(隙の多いやつって感じ……でも、圧倒的に強い)
 しかし、あれから自分たちだって成長している。
「ちょっと怖いけど……力を合わせれば絶対、大丈夫!」

(ウルを攻撃することによってサーバントを此方に引き付けて、サーバント班は氷精を退治しつつ、サーバントを翼人から引き離したら翼人の撃破へ向かって……)
 咄嗟に立案された作戦を頭に叩き込みながら、Robin redbreast(jb2203)はハイドアンドシークで気配をギリギリまで薄める。
 対ウルとしてほぼ正面に陣取るのが明、少し間を置いて上空にラファル。二者の間・後方に、アシストの静矢とフリーランスアスヴァンの加藤。
 そこを中心に、左翼前衛に莉音と赤薔薇、中衛に黎、後衛にフリーランス忍軍の相模が付く。
 対して右側には、中衛に佳槻と筧、そしてやや中央寄り後衛にロビンといった布陣になる。
「相模ィ! サポートしっかりな!!」
「誰に言ってんの。ソッチこそ、撃墜第一号とかやめろよなー」
「あっはっは」
 新調した太刀を抜き、振り向かないまま筧が笑う。
 軽口を返す相模にも、友人の危惧は理解できていた。
(お嬢ちゃんは潜行、陰陽師の少年は……飛行も出来るか。一秒でも長く武器を振り回すのが火力担当の仕事だな)
 佳槻、ロビン、筧の陣営が、分が悪く見える。
 相模はそちらの支援も考えたが、赤薔薇と黎が遠方から回り込んでの翼人狙いだというなら、こちらも後方援護が必要となる、離れるわけにはいかない。
「加藤さん、別働隊の様子はどうッスか」
「……まずいね。非常にまずい」
 通信機を懐に戻した加藤が、相模へ応じる。
「あちらもカラスと遭遇したらしい」
「…………ヤダー」
 助けに向かえない。助けを要請できない。
「多治見の夏草くんにも連絡は入れた、最低最悪『死ななければ』回収してもらえるだろうね」
「加藤さん、それ笑えないから」
 いつになく深刻な声を出すベテラン撃退士に、筧の対応も引き攣る。
「どちらでも構わないさ。難題は解く過程が楽しい、私はそう考えるね」
 明は実に愉快そうに、そう告げた。




「ヤギちゃーん、紙食う? 俺と遊んでくれよなー」
 ラファルは空中でウルを冷かし、敵将の視線をこちらへ引き付けるべく挨拶の一撃を。
 肩口のミサイルポッドをポップアップ、着弾地点をウルの手前に設定し、無数の針状ミサイルを乱射した!
 傍らの枯れ木を吹き飛ばし、ウルはもちろん、炎精・氷精をも巻き込んで炸裂する。『アゴニーブロッサム』、ラファルの放つ対天使ミサイルだ。
「おおっと、そっちも釣れたか。みんなで仲良く踊ろうか?」
 爆炎が収まらないうちに、遠方に居た炎の淑女・炎精たち3体がラファルを標的に炎の弓を引き、火球を放った。
 角度を変えて襲い掛かる火球を、ラファルは軽やかに避ける。目立つ行動をとる以上、狙われるのは織り込み済みだ。
「ざ〜んねん、その程度の精度じゃ俺を仕留めるなんてできないね! ……っとォ」
 最後の一撃だけが脚を掠めるも、ここで顔に出すわけにはいかない。
 それ以上、敵の視線がラファルに集中する前に明が続く。
「私を見ろよ。いや、やっぱり見るな。山羊面に見られて歓ぶ趣味は無い」
 撃ち落とすコメットはあいにくとほとんどが躱されてしまうが、本命のウルへ僅かながら傷をつけることができた。
 課した重圧の意味は、小さくないはず。
「まず敵の手を減らそう」
 ラファルに気を取られ明の攻撃に対応を切り替えたばかりのタイミングで、静矢が刀を抜いて紫鳳翔を走らせた。
「……これでまだ、倒れない?」
 範囲に巻き込んだ炎精の1体に至っては揺らめく炎の盾を顕現し、ダメージを軽減させている。
(炎精……、あれが厄介か)
 長距離攻撃を持ち、守りも硬い。もう1体は盾の発動が間に合わなかったようだから、必ずしも鉄壁というわけではないようだが。
(紙防御だから、攻撃くらったらすぐ役立たずになっちゃう……見つからないよう、に)
 味方の猛攻撃に紛れ、ロビンもコメットを重ね撃つ。
「さぁて、こちらも攻めていきますか!」
 彼女の存在が相手に気取られる前に、血界を巡らせた筧がズイと出た。
 重圧の掛かった氷精を切りつけるが、さすがに一撃で撃破とはいかない。
「炎精は引き付けますから、地上は耐えて下さい」
「そいつは魅力的な分担だな!!」
 陽光の翼で飛翔する佳槻が、筧へ呼びかける。
 四神結界の力もある、そう簡単には瓦解しない……そう思いたいところ。

 そして同時進行で、左翼部隊。
(天使もサーバントもここで倒す。次なんかない!)
 赤薔薇が音無く前線を押し上げると同時に、氷の夜想曲を仕掛ける。
(……っ、駄目か!)
 直近3体の氷精を巻き込むも素早く回避され、攻撃の当たった1体も眠りに落とすには至らない。
「赤薔薇ちゃん、後ろから行くよ!」
 このままでは赤薔薇が集中攻撃を受けてしまう、すかさず黎がバレットストームで蹴散らす。
 氷精たちが足を止めたのは一瞬、すぐさま赤薔薇へ向かって牙を向ける!
「お前たちなんかにくれてやる命じゃない!」
 ライフルから大剣へと活性化を切り替え、小さな体で攻撃を受け止めきる。
「お嬢ちゃん、もうひと踏ん張り頑張って!」
 自分より遥かに年下の少女に前衛を託す形になり、情けなく感じながらも、敵が団子状態になったところで相模が影手裏剣・烈を降らせた。
「まだ耐えるのかよ……ッ」
「山里さん、僕も居るからね。持久戦かもだけど、頑張って乗り切ろう!」
 莉音は黎の側面を守りながら、赤薔薇へライトヒールを掛けた。




 思いのほかに、敵は手ごわい。或いは、撃退士側が押し切れないのか。
 決定打を欠いた状態で、残る敵が距離を縮め始める。
 致命傷を受ける前に、加藤はラファルへヒールを飛ばす。中央の回復役は要になるだろう、陽動を引き受けてくれているラファルや明へ甘えることにして突出した行動はとらない。
「地上でのサポートは果たして見せよう」
 直近の氷精2体が静矢へ飛び掛かる。角度を変えて囲い込むような牙、爪の連続攻撃にも、剣士は落ち着いた体捌きで往なした。
(氷精相手なら難なく躱せるか。……あとは、ウルの攻撃の直撃は避けねばな)
 獣を相手取りながら、静矢は視界から権天使の姿を決して外さない。
 敵うなら敵の範囲攻撃に味方を巻き込まない位置取りに立ちたいものだが、それもなかなか難しい。
 自身と味方の射程・戦闘スタイルによって瞬間を突かれてしまうこともあるはずだ。後は、警戒を解かないに尽きる。
 炎精の火球を筧が回避し、その動作と交差するように移動してきた翼人が斜め方向から放つ矢をラファルもまた全弾回避する。
「どうしたの、ヤギちゃ〜ん? 自分からは手が出せない? ほらほら、こっちよ〜」

 ――ウルを狙えば、サーバントは『ウルを守るために』動くだろう

 その仮定は、恐らく間違っていなかった。
「……外敵排除。そちらか」
 先ほどから、サーバントはラファルを執拗に狙っている。その様子を見て、佳槻が呟く。
 肉壁になるばかりが『守る』ではない。特に、翼人や炎精は優れた長距離攻撃を持っている。
 陣の最後方に在りサーバントの配置・撃退士の攻撃目標を大雑把にでも把握できる位置に翼人が居る以上、『守る対象』へ脅威を与える存在へ的を絞る指示を出すのは難しくないのかもしれない。
「ヤギさんこちら、メーメーよ」
 ラファルの声が、届いていないはずはない。しかし、ウルは積極的な動きも、言葉による反応も見せない。
 当てられた攻撃はラファルと明による攻撃、それも表皮を浅く裂く程度。先手こそ取られたがサーバントは1体として撃破されていない。
(それでは権天使を『動かす』ほどの影響にはならないということか……?)

 ――天宮君は、ウルと遭遇したことある?

 戦場で対峙したのは、昨年の初夏か。当時はどうだった。
 やはり撃退士をあざけるように、中央前線に立ってやいなかったか。

 ――はっ、どうした? こっちにはこねぇのか

「こっちにはこねぇのか」

 当時とまるきり同じ言葉を、権天使は吐いた。面の向こうで笑っているのがわかる。
「つまらねぇ。ああ、つまらねぇなあ!!! 俺様より、そこらの雑魚と遊ぶ方が楽しいか!」
 ウルが吠えた。
 ズシン、と石斧を地に打ち付け、それから再び肩にかつぎ、緩慢な動きでウルは歩き始めた。
「遊んでくれるんだったよなぁ」
「もちろん♪ 楽しくダンス踊ろうぜ」
 ラファルは、ギリギリまで移動を耐える。すぐさま引いたのでは、囮の意味がない。つかず、離れず――……
 余裕を絶やすな。笑え。笑え。大丈夫、自分だったら避けられる……
 ぐ、ウルが踏み込みに力を込める。担いだ斧をぐるり旋回し、遠心力をつけ――
「来るぞ!」
 静矢が叫ぶ、笑みを湛えたままに明は石斧による『祓い』をパリィで捌く。静矢は跳躍一つで回避した。
 ただ――
 ラファルは上空でまともに喰らった。
「っ、……ダセェ」
 対天使ミサイルの代償、カオスレートの引き下げ。それでも避けきれると思っていた。自分ならば。
 体が、上と下に引きちぎられたかのような衝撃を腹部に受ける。
 石斧の軌跡は輝きを纏いラファルを襲い、そのまま地へ叩きつけた!
 少女の吐き出す血が、雪を染める。

「終わりじゃねぇだろ?」

 これからが、始まりだ。
 退屈させるなと、権天使は言った。




(ウルを止めきることはできない、かといって…… どうする)
 地道にサーバントを撃破している間に、ウルによる被害は増えていきやしないか。
 墜ちたラファルを目にした相模は、必死に思考を巡らせる。
 考えたくはないが、筧単独で対サーバントの前線維持は難しいだろう。
 しかし今の状況で、彼らにこちらへ合流を要請することも、逆も難しい。対ウルとして動いている明や静矢が、今度は側面からサーバントに狙い撃たれてしまう。
「現状突破しかない、か……。嬢ちゃん、行けるか!」
「……そのために、私は此処にいるんです!」
 相模が赤薔薇へ声を掛け、鈍く光る鎖を伸ばす。闇遁・闇影陣、闇を纏った攻撃が赤薔薇の進みを阻む氷の獣の1体を貫いた!
 道が開く。少女は走る。
(この悲しい奪い合いが終わるなら、私の両手がいくら血に染まろうと構わない)
 手にするライフルにアウルが集い、淡く輝く。
「お前から、墜とす……!!!」
 コンセントレートで射程を伸ばした、不意打ちの一撃。
 戦場の向こう側の撃退士に注意が向いている、翼人の側面を射撃する!
 刹那、何かが光った。
 反射するほど、太陽光は強くない。
 では、何が――
 赤薔薇が、目を見開く。その先には、鏡の様な円盾。長距離攻撃を受け止め、そして――
 攻撃と同じ速度で跳ね返る、アウル弾は真っ直ぐに赤薔薇を襲った。
「反射!?」
 莉音が手を伸ばす、神の兵士が発動し、赤薔薇の意識を繋ぎとめた。
「あんなデータ、なかったよねぇ!?」
 動揺を噛み殺し、黎は再びのバレットストームで残る氷精たちの足止めを試みる。
(データが、取れていなかったのか)
 翼人の攻撃手段と指揮能力までは突き止めていたが、これまでの段階で彼奴へ攻撃を仕掛けたことはなかったようだ。
 ――鏡のように、光る
 たったそれだけの、ヒント。
(攻撃をしなかったのは、本能的に危険を察知していたから? ……今更!)
 内心で悪態を吐き、黎は前線を下げる。一撃に賭けた相模はカオスレートが激しく下がっている状態だし、自分とて決して前衛向きとは言えない。
「山里さん、僕が今――」
 莉音が前に出て、回復を掛けようとする――それよりも、獣の動きが速かった。
「山里さん!!」
「まだ死ねないんだ! ……何も成してないんだから!!」
 囲い込まれ、シールドが尽き、それでも神の兵士に助けられながら赤薔薇は立ち続ける。小さな体が、獣の牙で傷つけられていく。
 なんとかなんとか、猛攻を凌いだ――嵐のような爪と牙が止まる。
「赤薔薇ちゃん――、後ろ!!」
 黎が叫ぶ、咄嗟に放った回避射撃だが背面を取られた赤薔薇が回避をするには間に合わなかった。
 当初ラファルを狙撃していた炎精が翼人の指示で音無く戻り、炎の剣を赤薔薇へと振り下ろした。
「……まだ!!!」
 気力だけで立ち続ける赤薔薇、その体へ――
 容赦なく翼人の放つ矢が撃ちこまれた。




 なかなかに厄介だ。
 翼人の攻撃反射、そして赤薔薇への集中攻撃を目の当たりにし、静矢は胸の中で呟く。
 各個撃破。恐らく、現状でサーバントの最優先事項はそれだ。
 あらゆる角度から同時攻撃することで退路を断ち、より大きなダメージを与える。
 狼などの狩りに近い。
「ならば、いくらでも避け続けるしかあるまい」
 先程、静矢はウルの攻撃を躱すことができた。
 避けようとして、決して避けられないわけではない。――許される状況ならば。
 戯れるように氷精の連続攻撃を避ける、それを隠れ蓑にして放たれた火球が脚を掠める。
「――ッ」
 爆炎の威力は思いのほかに高い。続けざまにもう一撃もまともに入るが、根性で立ち続ける。
「私たちが、崩れるわけにはいかないんだ……!!」
 中央部隊が崩れてしまえば、全てが瓦解する。
「静矢君、悪ィ…… 情けない先輩でごめんな」
 ごとっ、雪上に氷精の頭が転がる。太刀を振り上げ1体を撃破した筧の脇腹は他の氷精に切り裂かれ、その状態から放たれた炎の矢によって目をそむけたくなるような火傷を負っていた。
「筧さん!?」
「へーきへーき、冷やせば治る……」
 ひらりと手を挙げ、卒業生はその場に崩れた。

「あーあー……」
「……鷹政、さん」
 相模が苦い顔でその様子を見遣り、黎は呆然としている。
「まあ、追い打ちで殺しに来るような敵で無し、ね。自分を責めるなよ常木さん」
「そんなことは……」
「長引くほどに、コッチが不利だ。オレは火力に専念する、少しでも多く敵を減らせるようにするから」
「……『から』?」
「君が大ケガなんかしたら、オレは筧に殺されちまう。どうか無事で」
 金髪忍軍は、そう言って明るく笑った。

「攻め続けるしかない、か」
(慢心、油断、どんな強者でもそれが弱点となりうる……。見、聞き、知る限りのウルの性格ならば機はある)
 ウルに撤退を選ばせるには、どうしたらいい。静矢は考える。
 サーバントの殲滅も、ウルへ重傷を与えることも、この状況では困難に思える。が、諦めるわけにはいかない。
 ザッと素早く横へ回り込む、ウルと氷精2体を一直線範囲に捉える位置を見つけ、渾身の紫鳳翔で地表ごと削る!! ここでようやく、しぶとかった氷精を撃破に至る。
「いやはや、戦闘民族とは眺めていて愉快だね」
 己を棚に上げ、明は静矢と別の角度からコメットを重ねた。
 微々たるダメージだろうが、今は攻撃をしていくしかないだろう。
 ウルを引き付けている間に、少しでも仲間たちが情勢を逆転してくれるよう信じるしかない。
「俺ぁ、まだまだ足りねぇがなあ!!!」
 高笑いで、ウルは石斧を地に打ち付けた。過去にも幾度か確認されている直線攻撃『衝波』だ。
「うわっ こんな雪山で、雪崩でも起きたらどーしよう!?」
 静矢や明は避けるも、先の先に居た莉音が巻き込まれる。体力の半分近くを持って行かれた。
「どうにか、体勢を整えないとですね」
 静矢へ回復を掛けようとする莉音を、加藤が制する。言葉に甘え、莉音は自身の回復を。静矢には加藤から回復が飛ぶ。




(翼人の反射能力は厄介だが…… 無限なのか?)
 指揮官がいる限り、サーバントの集中攻撃は続くだろう。真っ先に倒すべき相手という認識に変わりはないと、佳槻は考える。
「炎精の盾は、エネルギー体だった。発動にミスもあるみたいだし……」
 『絶対に反射できる能力』なんて、サーバントに付けるくらいなら天使自身が持つはずだ。
 今のところ、カラスもウルも、そんなもの無いはず。
(確率に賭ける……か)
 佳槻が、滑るように上空を移動する。それを見て、ロビンも移動を始める。
 佳槻は愛用の符を手に印を結び、アウルで生み出した蛇を飛ばす、クロスボウを持つ腕に噛み付かせる!
(……反射しない)
 毒の効果もあるようだ。
(当たるかな)
 その背面から、ロビンがグローリアカエルを撃つ。常夜の闇を孕んだ弾丸が翼人を襲――、
「ッッ!!!」
 鏡の盾が光りを放つ、それは翼人の身体全体を包む柱のようだ。
 威力の全てが返されたわけではない、しかしロビンの攻撃力はあまりに強力で、半減したといっても彼女の小さな体を吹き飛ばすには十分だった。
「……まさか」
 盾が『外付け』であるなら、盾を装備していない方向からの攻撃には弱いはず。
 盾が『エネルギー体』ならば、発動にムラがあるだろう。
(これと、同じ?)
 八卦水鏡を発動した佳槻は、胸に手を当てる。
 確率で発動だが、発動条件自体はオート。これか。

 ダメージを与えるには、相応の火力が必要だ。
 しかし、場合に依ってはそれがそのまま術者へ跳ね返る可能性がある――

(どうする?)
 どうする……




 相模の範囲攻撃に、黎が攻撃を重ねて残る敵を一つ一つ潰す。
 タイミングと射線から、バレットストームによる潜行効果を切らすことなく狙撃が出来ている。
 カオスレートが下がり回避が不利になる分、相模は惜しみなく空蝉で確実に攻撃を回避した。
「僕がいる限り、これ以上……誰も倒れさせないからね!」
 莉音もまた薙刀を振るい、前線の一角を担った。

 他方。
 翼人からの攻撃を、佳槻は水鏡で返す。
(……ただで、ダメージは受けない)
 自身も持つ反射能力だろうに、翼人は自分がダメージを受けたことに首を傾げる動作を見せた。しかしすぐさま、炎精2体を差し向ける。
「……まいった、な」
 空中に居るとはいえ、三方向からほぼ同時の射出では回避も難しくなる。
 最後に直撃した火球が致命傷となり、佳槻は緩やかに落下した。

「さて……」
 翼人、炎精、ウルを視界に収めながら、静矢は次の一手を思案した。
 窮地といって、差支えない状況だろう。
 立っているサーバントは翼人を含めて5。更にほぼ無傷の権天使。
 対する撃退士は6。
 数だけを見れば互角だが、戦闘力のトータルではどうか。
「不利だからと、ここで引き下がるわけにはいかない」
 危険だからと、飛びこまないわけにはいかない。
 明暗二種の紫の光が静矢の刀へと注ぎ込まれる。
「――地に膝折り天より墜ちろ、ウル!」
 鳳流抜刀術・奥義、紫鳳凰天翔撃。余韻として、刀身から紫の鳳凰を模したアウルが舞う。
 ウルは咄嗟に石斧で受けるが、それを押して、肩口から血が噴き出した。
「……チッ」
 深くはない、しかし今まで以上の手ごたえはあった。
 ようやく、ウルの余裕を崩すに至る。
「小癪な!!」
 怒りに任せて振るわれる刃は鋭く、今度こそ静矢を傷付ける。
「まだまだだ!」
 諦めるには早い。
 まだ、戦える。




 手負いの氷精と、遠方に居て手出しできずにいた炎精と。
 二者からの挟撃で、ついに相模も倒れた。そもそも不利な相手に、長く立っていたともいえる。
「はは 泣いてる暇もない、ね」
 黎が皮肉げに笑った。
 雪が、音も血の匂いも吸い取っているようだ。
 こんなにも凄惨な光景だというのに、どこかシンとした静寂がある。
 相模を倒した氷精の額を拳銃で撃ち抜き、『こちら』に残るは炎精が2体。
 撃退士たちは左・右・中央と大まかにグループ分けをしたが、サーバントたちには関係ないようだった。
 フィールドを自由に駆け回り、標的を定めては集中攻撃をする。
(諦めちゃだめだ、だけど……)
 緊張の糸が張り詰めすぎて、頭が痛む。黎は眉間を押さえた。
 距離を詰めた炎精が振りかざす炎の剣を、莉音が受け止める。
 次いで、静矢のうめき声が戦場に響いた。
「……静矢くん!」
 足を氷精に噛付かれた、僅かに体勢が崩れる。そこへ炎精が剣を振るう。
 黎の放つ回避射撃で僅かに剣の軌道は逸れ、重体程の傷は回避されるも―― ウルからのダメージの蓄積もある、ついに静矢も雪原に伏せた。

「ははは。愉しくなってきたねぇ」

 タトゥを継続発動し、明は笑って見せた。




 遮るモノのない場所で銃撃戦っていうのもアレなんだけど。
 バレットストームによって巻き上げた雪煙は、潜行効果は生きている。
 しかし、それは『盾』になる存在があればこそ、有効なわけで。
 かといって攻撃の手を止めるわけにもいかない。
 神の兵士で凌いでいた莉音がついに倒れてしまった時、黎も覚悟を決めていた。
(せめて、少しでも倒して。時間を引き延ばして。情報を持ち帰らないと……犬死と一緒じゃない)
 弾丸が炎の盾で阻まれる。炎の淑女が、確かに黎と視線を合わせた。




 血まみれの雪原を、明は踊るように移動する。
 すでに、そこに立つ撃退士は彼一人だけであった。
「一撃でも当ててみると良い。絶対に出来ないから」
 笑い、言葉を投じ、相手の動きを引き出す。冷静さを削ぎ、粗い攻撃を躱す。
「しかして、このままでも埒が明かないな」
 攻撃手が居なければ、いたずらに時間を浪費するだけ。
 あるいは、敵が飽きて帰るだなんてあるだろうか。ないだろう。
 紅蓮『古の霜の巨人』を再現し、凍てつく空気で周辺を満たす。
「……む、炎は待て。今の私は氷だぞ?」
「ははは!」
 炎精に狙われ、そう切り返す明へウルが笑い声を上げた。
「もう良いだろう。大体わかった」
「とは」
「遊びの時間は終いだ、俺も暇ではないんでな」
 ウルが斧を回す。
 炎精たちが距離を取って弓を引く。
「……それは残念」
 形代とパリィをフル活用し、なおも意地と気合で回避を重ね、されど上空側面を敵に取られたところで、最後に斧が風を切った。




 ウルと遭遇した部隊が全滅したとの報は、多治見で待機していた撃退士たちを震撼させた。
「……どういうことなんだ」
 救出部隊を派遣してから、多治見の企業撃退士・夏草は椅子へ座りこんだ。

 カラスには深手を負わせ、撤退に追い込むことができた。
 しかし、同時にウルも出てきた。

 両者とも、ゲート展開による能力ダウンは見られない。つまり、ウルは権天使そのままの力を持ち、この近辺に居るわけだ。
「何を狙って…… いや、それより、あのゲートは誰のものなんだ。まだ控えているのか?」
 岐阜ゲートがある限り、天使たちがいるのなら……排除しなくてはならないだろう。
 一朝一夕で達成できることではない。


 これから、何かが大きく動こうとしている。
 鳥海山・京都・横浜で大騒動が起こったのはそれから程なくのことで、それらと今回の件が関係あるのかどうかは、誰も知ることはなかった。




 


依頼結果

依頼成功度:失敗
MVP: −
重体: 筧撃退士事務所就職内定・常木 黎(ja0718)
   <潜行するも、狙撃の射線を読まれ>という理由により『重体』となる
 紫水晶に魅入り魅入られし・鷺谷 明(ja0776)
   <最後までしぶとく粘ったが完全包囲され>という理由により『重体』となる
 ペンギン帽子の・ラファル A ユーティライネン(jb4620)
   <カオスレートが大きく離れた逆を突かれ>という理由により『重体』となる
面白かった!:4人

筧撃退士事務所就職内定・
常木 黎(ja0718)

卒業 女 インフィルトレイター
紫水晶に魅入り魅入られし・
鷺谷 明(ja0776)

大学部5年116組 男 鬼道忍軍
撃退士・
鳳 静矢(ja3856)

卒業 男 ルインズブレイド
夜の帳をほどく先・
紫ノ宮莉音(ja6473)

大学部1年1組 男 アストラルヴァンガード
陰のレイゾンデイト・
天宮 佳槻(jb1989)

大学部1年1組 男 陰陽師
籠の扉のその先へ・
Robin redbreast(jb2203)

大学部1年3組 女 ナイトウォーカー
絶望を踏み越えしもの・
山里赤薔薇(jb4090)

高等部3年1組 女 ダアト
ペンギン帽子の・
ラファル A ユーティライネン(jb4620)

卒業 女 鬼道忍軍