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マスター:佐嶋 ちよみ
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2012/05/10


みんなの思い出



オープニング

●妹の悩み
 如月 唯は、悩んでいた。
 今月の食費――家賃に……抱えている依頼。
 小学生にあるまじき内容である。
 同じく撃退士として学園に所属している大学生の兄と一緒に暮らしているが、生活の支えは何故か妹に拠るものが大きい。
 バイト<依頼解決 ということである。
 しかも、兄は自分を思いやってくれている事は伝わるのだが、空回りするキャラクターである。
「どうしよう」
 10歳の撃退士が、深く深く、溜息をついた。


●兄の悩み
「どうしよう」
 時を同じくして、如月ハジメも、悩んでいた。
 つきまとった『幼女趣味』の噂、『ヘタレ』の看破――自分が受ける傷なら、いくらでも引き受ける――そりゃ、痛いけど。
『妹さんを僕に下さい』
 それは、予想外のパンチであった。
 妹は10歳である。小学生である。有能な撃退士であることは認めるし兄の眼から見ても凛々しく可愛らしいことも認めよう。
 だがしかし。
 相手は、自分の同級生であった。つまり大学生である。ガチの幼女趣味キターー!
 ……というわけでは、なく。
『僕と一緒に組めば、唯さんのアシストを的確にできると思うんだ。
一緒に住みたいとか、あわよくばラッキーチャンスをとか、そういうことを考えているわけではないこともないが、ハジメ君と過ごすことで彼女の能力がダウンされていることは君自身、気づいているだろう?』
 妹さんを、預からせてほしい。
 そういう申し出であった。
 同い年でありながら、高級マンションに一人暮らしの彼ならば、確かに安心できるかもしれない。
 ハジメだって、自分一人で生活する分には困らない程度の働きはしている……かなり、ギリギリだが。

 唯が生まれて間もなく故郷が天魔に襲われ、両親も失った。
 後ろ盾が無いまま、アウルの発動だけを頼りにこの学園へ転がり込み、二人だけでなんとか生きてきた。
 頼りない兄・しっかり者の妹。
 年の差さえ気にしなければ、あるいはあと5年後くらいであれば、笑って自己紹介もできるだろう。
 だがしかし、現実とは今である。

「唯の幸せ、か……」
(俺と過ごすことで、唯が能力を発揮できない?)
 伸び伸びとした暮らしができない……?


●兄妹の悩み
「「話があるんだけど」」
 数日後の夜。如月兄妹の食卓にて。
 ハジメがバイト先からもらって来た白身魚のフライを前に、二人の声が重なった。
 なんとも気まずい空気が流れる。
「あのね…… おにいちゃん。私、来週から依頼に出発するんだけど」
「ああ、知ってる」
「その間、おにいちゃんのフォローを誰かに頼みたいなと思って」
「!?」
「おにいちゃんも、依頼に行くでしょう?」
「そうだけど」
 なんだかんだと命懸けで20年間生きているが、日常ってこんなに予想外のパンチにあふれているであろうか。
「あの、な。唯。俺からも……話があってな。その、来週、お前が行く依頼」
「簡単なディアボロ退治だよ。1体だけ。6人で行くの」
「その中に、水無月って奴が居るだろ、大学部の」
「うん。おにいちゃんの友達って聞いてるよ」
 そこでハジメは咽こんだ。既に手回ししていたか。
「どんな奴だと……思う?」
「どうって…… 頼りになる人だよね。相談中も、中心になって話を引っ張ってくれて。色んな大人が居るんだなって思ったよ」
 誰かと違って。
 暗に、そう言われているが、爆発を抑えられる程度にはハジメも成長している。
「その、水無月がな……。お前を預かりたいって言ってるんだ」
「……え?」
「よければ、今回の依頼のあとにでも……。俺と暮らすより、依頼にも撃退士としての訓練にも集中できるだろうって」
「な、なに言ってるの?」
「毎回毎回、依頼へ行く度に、俺の心配をする必要も無いだろう?」
「なに言ってるのよ、わけわかんない!」
 唯は立ち上がり、食事に手もつけず隣の寝室へと引きこもってしまった。
「……あ」
(言葉の選び方、間違えたか……)
 箸を置き、ハジメもうつむく。
(けど……)
 とりあえず、今夜は居間で雑魚寝か。
 六畳二間のぼろアパート。
 別々の寮に入るより、はるかに安上がりの環境。
 でも、それでいいのだろうか。


●友人(希望)の相談
「という事情なんだけどね」
 栗色の長髪をかき上げながら、依頼人が事情を説明した。
「水無月さん、えぇと……何をどうしたいんですか」
 如月兄妹の事情は分かった。
 以前も『唯が依頼で重傷中に、ハジメが一人でディアボロ退治依頼に突っ込んだ』という事件があり、受付担当の生徒も記憶していた。
 しかし……渦中の一人である水無月が、この兄妹に関して依頼を持ち込む意図が、解らない。
「僕としては、唯さんを引き取りたい。養子という事じゃなくてね。あー、幼女趣味でもないよ。
ハジメ君の不器用さは、妹さんを気にする裏返しだと思うんだな。他人がとやかく出来ることではないが、今は、離れて暮らすことがそれぞれの為だと思ったんだ」
 離れると言っても、同じ学園の生徒なのだ。完全に交流を断つわけでも無し。
「兄離れ・妹離れを促したい。彼らの自立は、学園にとってもプラスになるはずさ」
「自立……ですか」
「僕はハジメ君の友達だが……まだ、日が浅い。信頼を得るのも難しいと思って、周囲にフォローをお願いしたいんだ」
「フォロー……」
 生徒の表情は、まだ晴れない。
「今回の依頼で、僕は唯さんと確実に親睦を深める。そこは約束する。その上で、セッティングした場所でフォローをお願いしたい」
「セッティング……」
「唯さんは甘いものが好きらしいからね。新しくできたカフェあたりでどうかな、と思う。軽食もデザートも良いが何より珈琲もね」
「陰謀渦巻くお茶会、という事ですか?」
「ハハッ。……なんだか悪意を感じる言い回しだなぁ」
 水無月タケルは爽やかに笑い、白い歯をこぼした。


リプレイ本文

●ふわふわ生クリーム
 『ベリーベリー』。美味しいスウィーツで話題のカフェ。
 その2階席、相席用の大きなテーブルには『予約済み』のプレートが立てられていた。
 可愛らしい制服姿のウェイトレスが、それを取り払い予約客を迎える。
「ごゆっくりどうぞ〜」
 メニューを開き、そして去ってゆく。
「さ、今日は僕のおごりです。任務からの帰還を祝して、甘いもので素敵なひとときを」


 主催の水無月、そして状況を把握できないまま彼に連れられて来た如月兄妹が、順に挨拶と自己紹介をした。
 さて――水無月により、如月兄妹との関係取り持ちを依頼された女子6人はというと。

「或瀬院 由真と申します」
 まず名乗りをあげたのは、或瀬院 由真(ja1687)。
 いわゆる『誕生日席』に着く水無月から一番離れた角席を選んだ。
 ここであれば、依頼人である水無月、そして如月兄妹の3人の表情を怪しまれること無く観察できる。
「メニューがたくさんあって、迷ってしまいますね……。そうですね。ではまずは、モンブランと紅茶を、セットで」
 由真がおっとりペースで注文をした後、水無月の左隣に着いていた雫(ja1894)が自己紹介をする。
「初等部三年の雫です。レアチーズケーキと紅茶をお願いしまーす!」
(苦しい……です)
 雫の事前調査によると、年下好みの水無月はマイナス6歳まで交際歴があるという。16歳当時、10歳。
 年齢が上がるにつれ、相応に交際相手の年齢も上がっているが『16歳で10歳と交際』。いかがなものか。
 好みのタイプは『明朗快活・運動系』。自らそれを演じることで水無月の反応を伺おうとするも、先に己が爆発しかねない厳しいミッションであった。

「高等部1年の九曜 昴なの…… メニューの右から全 ううん、とりあえず、4つ持ってきて……ほしいの」
 九曜 昴(ja0586)が、精いっぱいの自重でオーダーする。水無月の右隣、雫と向かい合わせの席だ。
 これが、ティーパーティーの本格的な幕開けとなる。

「雪成藤花です、ご招待ありがとうございます」
 続いて雪成 藤花(ja0292)。如月妹――唯の右隣に着いている彼女は、昴との間に唯を挟む形となる。
「ベリータルト、オレンジのババロア、それからこちらの……ベルギー? チョコレートのオペラをお願いします」
 
「わしは叢雲 硯。よろしくなのじゃ」
 叢雲 硯(ja7735)は唯と向かい合わせ、ハジメの右隣である。
「あ、パフェメニューのここからここまで全部で」
 自己紹介の後に、オーダーを通す。こと甘いものに関し、彼女に迷いという文字はない。

「さて、さて、楽しい楽しいお茶会だ。僕はジェーン・ドゥだよ。端から端まで、オーダーよろしく。飲み物は珈琲を」
 自己紹介もそこそこに、ジェーン・ドゥ(ja1442)は昴が思いとどまった壁を容易く突破する。由真と向かい合わせの角席で、硯と共にハジメを挟む位置取りだ。
「ええ、ええ、きっと素敵な一時になるだろうね」

 さあ、素敵な密談は誰の為に開かれるのだろう。


●トッピングチョコレート
 広いテーブルに、所狭しと並べられるケーキにパフェ、ドリンク達。
「このケーキ美味しいの……唯も一口……どう? もちろん僕のおごりなの」
 水無月が何かを言い掛ける、気づかぬふりをして昴は唯へ、オレンジショートケーキを『あーん』してあげる。
 反射的に口を開いた唯が、酸味の利いた甘さに、とろけそうな笑顔を浮かべる。
「おいしい! こんなに美味しいの、生まれて初めてです」
 年上、同年代、同じ学園の女性たち。今は戦いのことなど忘れてゆっくりお茶会。
 唯にとって、それはとてもとても楽しいことのようだ。
「あ、でもね!」
 甘い食べ物、温かい飲み物に心を解された唯が、慌てて言葉を足す。
「おにいちゃんが、毎年作ってくれるケーキも美味しいよ!」
 ガタリ。甘味好き女性陣の視線が、ハジメに集中する。話を振られたハジメもうろたえて腰を浮かせた。
「市販のスポンジケーキに、ボロボロになった生クリームだけど…… 私はそれも、すき」
 警戒心など微塵もない言葉。それは、まぎれもない本心なのだろう。
「いいな。僕も、そのケーキを食べてみたいな。一度といわず……この先も、何度も」
 そして、本心が行方不明な水無月の言葉である。
 「ひとにたべさせるものじゃないですよ」と、唯はさりげなく酷い切り返しをしていた。
 『僕は唯さんと確実に親睦を深める』、依頼提出時の彼の言葉は確かに守られているようだ。
(本当に兄妹の事を思って行動しているのかもしれません。然し……)
 カップに唇を付けたまま、由真は3人の動向をそっと見守る。
(水無月さんは、妹さんの本心を知った上でこんな事をしているのでしょうか……?)
 結果的に兄妹を引き離そうとすることに、どうしても納得がいかない。
(どうすることが一番いいのかな……)
 上質なチョコレートとコーヒーの風味が織りなすハーモニー。初めて味わうベルギーチョコのオペラを口に運びながら藤花も考え込んでいた。
 事前の聞き込み調査からは、水無月に不審な点は見当たらない。
 両親健在の一人っ子、裕福な家庭で生まれ育ったという。撃退士としての能力は言うまでもない。
「初等部の制服、可愛いですね」
 フレッシュジュースをこくこく飲んでいた唯へ話を振ると、彼女は照れた笑いを見せた。
「勝負服なんです!」
「まあ、水無月の世話になれば、制服の一着や二着……私服だって困らないだろ」
 ぼつり。
 なごやかなお茶会に、珈琲の染みのような暗い色の声。ハジメだ。
「それはもちろん、唯さんは育ち盛りだかね。色んなコスチュームが似合うと思うな。今度、三人で出かけてみようか」
 水無月は単語のチョイスを間違えている。10歳児を相手にコスチュームは無かろう。
「ハジメ君もさ、もっと……」
「俺の事は、いいだろう。自分一人くらいなんとかなる」
「一人って言ったって……」
 紳士的な態度の水無月へ、ハジメは苛立ちを隠せなくなっている。
 そこで由真が、そっとスプーンを器に戻した。

「ここは一度、間を置いて頭を冷やしませんか?」

 兄と先輩の不穏な空気に、唯はすっかり怯えていた。
「あちらの席は眺めがよさそう。女同士でゆっくりしてきていいですか?」
 由真の提案に同意した藤花が、唯の肩をそっと抱き寄せながら水無月へ了解を求めた。
 昴も、4つめのケーキを味わってから頷く。
「……ちょっと、取りみだしてしまったね。すまない。唯さんを頼むよ」
 そうして藤花と昴が唯を伴い、窓辺の席へと移動した。


「先輩、ごめんなサイっ。雫もどりましたー★」
 自身のロールプレイに耐えきれなくなった雫もまた一時離脱し、化粧室にて密かに悶えて発散させてから復帰した。
 3人が抜け、がらりとした印象のあるテーブルは、既に水無月とハジメを個々に取り囲む形を取っていた。
「こちらこそ、僕から空気を乱してしまって……。やっぱり、フォローを頼んで良かった」
(悪いひと……だとは思わないんですが)
 雫は茶会スタート時から感知能力をフル活用して水無月の様子をうかがっているが、邪なものは感じられない。故に、水無月がわからない。
「水無月さんは、どうして、今回の事を?」
 席を移動して来た由真が、そっと核心に迫る。
「貴方は唯さんの事を……、どこまで本気で考えていますか?」
 ゆっくりとした由真の口調は、水無月の心を鎮めさせる。
 責めるのではなく、相手の心を引き出そうとする語り口。
 返答に詰まる水無月の表情から、雫は一つの感情に気づいた。
 女性陣が常軌を逸したオーダーを敢行しても笑顔を崩さなかった好青年の、その仮面に亀裂が入っている。
「本当に信を得たいのならば……他者の力を借りるのではなく、もっと実直に、自分の考えと想いをぶつけるべきでしょう?」
 由真の言葉一つ一つが、水無月の心の中の何かを揺さぶっているようだ。
 雫は、水無月の動向をじっと見守る。
「そうでも無ければ……家族の絆という、とても強い力には敵いませんよ」
「……家族……うん、そうだね、……家族」
 水無月は口の中で言葉を繰り返す。
「僕は…… 唯さんだけじゃない。ハジメ君のことも……」
 導かれるように、水無月から笑顔という仮面が落ちる。
 恵まれた環境の爽やか優等生から、裕福ゆえに孤独な暮らしをしてきた青年の顔となる。


 一方。
 硯とジェーン・ドゥに挟まれたハジメは、完全にすくみ上がっていた。
「たしかに、たしかに、こんな素敵なケーキを食べられるのなら、妹さんも幸せだろうね」
 フォークの先にスフレチーズケーキを踊らせて、ジェーン・ドゥが惑わせる。
「けど、それが本当の『幸せ』なのかな?」
 自分で言って、覆す。惑わせて、踊らせて、魔女は茶会を楽しむ。
「水無月氏の傍でなら、妹さんも裕福に暮らせるだろうさ。けれど結果的にお兄さんと離れる事を、妹さんはお望みかな?」
 利点。欠点。恐らくはハジメ自身も葛藤したであろうことを、丁寧に確認する。
「大好きなお兄さんと一緒なら、どんな苦しい生活でも妹さんなら喜んで耐えてくれる。果たして、それは本当かな?」
 曰く、惑わす言葉こそ魔女の業だとか。
「『君がしたいようにするのも1つさ』お兄さん?」
「……お互いを気にするが故に行き違うのは、不幸な事じゃの」
 硯はペロリとパフェスプーンを舐める。彼女の手元には、空になった5本のパフェグラス。そして、新たに和風抹茶くず餅パフェへと進攻順調続行中。

「妹の為になることは、果たして妹が望み、幸せになれることなのかの?」

 魔女と対照的に、ストレートな硯の言葉。
「……自分がどうしたいかということを、疎かにしているように思えるの」
「俺は……唯の為なら 俺なんて」
「頼りなくて情けない兄が立派になってみせる、という選択肢は如何かの?」
「うぐ」
 ジェーン・ドゥが、愉快と笑った。
「君にとって大事な事は、優先する事は、さて、さて、何なのかな」
 妹の思い、自身の思い、身近な幸せ、将来の幸せ、そのどれを優先するのか。
 答えなんてないのだから、必要なのは納得と決断だ。


「次はここから三つもってきて……ほしいの。あ、会計は最初のと一緒の伝票で……なの」
 窓辺席へ移った三人は、それぞれ次のオーダーをする。
 遠慮も容赦もない。
「お兄さんは唯さんのことを大事に思ってるんですね」
 わたしは一人っ子なので、ちょっと羨ましいな。藤花はそう付け足す。
「……うん。いっつも、心配ばっかり……かけちゃって。これも、そうなんです」
 聞けば、制服を縫い直すのは、兄の手ずからだと言う。
 ダアトの能力を持つ兄と対照的に、唯は接近戦で力を発揮するタイプ。
 そのことも、兄の無力感を募らせる一因のようだと、察することができた。仮に同じ任務に赴いても、兄は直接、妹の盾になる事ができない。
「唯さん自身は、本当はどうしたいんですか?」
「え」
「僕たちは……唯の意見を一番尊重したいと思ってるの……」
「自分の口で、本当に言いたいことを言わないと、伝わりませんよ?」
 唯は驚いて、左右にいる先輩を交互に見る。
「もちろん……ここでの話は兄にも……水無月にも言わないの」
 唯の、味方なの。
 昴の言葉に、唯はあふれ出る涙を止められなくなった。


●ベリーベリーハッピー
「どうする? 僕が変わりに……言おうか?」
 卓へ戻ってきた唯の様子が違う事に、一同も気づいている。
 昴の言葉に、しかし唯は首を振った。
 きりりとした眼差しで、兄を、そして水無月を見つめ、それから全員へ向けて、お辞儀をした。
「私は、おにいちゃんが大好きです。撃退士として、水無月先輩を尊敬しています」
 そうして、上げた表情は笑顔だった。
「だからね、あのね。先輩、おねがいがあるんです」
「なっ、なにかな、唯さん!!」
 ガタタッ、男二人が挙動不審に席を立つ。ハジメは青ざめ、水無月は紅潮している。
「おにいちゃんを、助けてあげて下さい」
 ぺこり。もう一度、唯は頭を下げた。
「私はだいじょうぶ。ほら、こんなに素敵なお姉さんが味方でいてくれるんだもん」
 藤花と昴の腕を取り、誇らしげに胸を張る。
「でも、おにいちゃんは……ともだちすくないから」
 ガタッ、ハジメが床に落ちた。
「水無月さんが助けてくれたら、おにいちゃんも撃退士としてのお仕事、もっと活躍できると思うんです」
「僕の方こそ喜んで!」
 応じ、水無月がハジメの様子をうかがう。
 テーブルに手を突いて立ち上がったハジメは、青ざめた顔が一転して真っ赤になっていた。
「ま、わしとしては三人で組めば良いのではないかと思うのじゃ」
 硯が一石を投じる。
「タケルがどちらを狙っていたとしても、組んでいれば兄妹もお互いを見張っていられるじゃろうからな」
 ガタッ、今度は水無月が落ちた。
 青ざめた顔で立ち上がる。
「えー どこでそうなったんでしょう」
「水無月さんの守備範囲がマイナス6歳までOK、最年少記録は10歳と聞きまして」
 ロールプレイを終了させた雫が、兄妹の前で公表する。如月兄妹が、そろって顔をひきつらせた。
「かっ、勘違いしないでくれよ、二人とも! 僕はっ 家族が欲しかったんだ、その……日常を共有できる兄妹が欲しかった」
「家族、って……アンタは両親ピンピンしてるだろ」
「でも、一緒には暮らせない。暮らしたこともない。与えられるのはお金だけ、撃退士の能力に目覚めてからは、より顕著にね」
 成り金トンビが鷹を生んだ。
 心ない周囲の言葉から、両親は水無月を遠ざけた。
「2人だけで生き抜いているハジメ君と唯さんは、とても眩しく思えた。
ささいな喧嘩を繰り返していることも、よく知ってる。僕に何かできることはないかって、考えてた」
 そこで、唯を引き取るという事を思いついたのだそうだ。唯へ会うためにハジメも家を訪れるだろう、第三者が入れば2人のすれ違いも収まるだろう。彼は由真と雫の前で、そのように告白していた。
 自立した上での、友情。その為の基盤を、強引な方法でもいいから築きたかったのだと。

 誰かを思いすぎるあまりに、結果として残念な行動をとるのは、優等生とて同じ事であった。

「水無月さんの意見も分かるのですが、家族が離れ離れになるのは認めたくありません」
 雫の言葉に、水無月が力無く笑う。
「そうだね。今日は――唯さんの本心を聞く事ができて、良かったと思ってる。皆さんには、改めて感謝を」
「俺の本心は何処に」
「あ、ケーキはごちなの」
「ケーキは別腹です、ええ別腹です」
「甘味が食べられればそれで満足さ」
「本日の私の言動の一切は、他言無用徹底してくださいね」
「パフェも持ち帰り可能とは、やりよるの!」


 参加者全員が、この日とびきり気に入ったスウィーツを手土産に。
 依頼者水無月は、分厚い伝票を片手に。
 それでも、誰もが皆、笑顔だった。

 密談の席には、甘いものを。
 大概、これで、上手くいく。



依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 歴戦の戦姫・不破 雫(ja1894)
 身を滅ぼした食欲・叢雲 硯(ja7735)
重体: −
面白かった!:8人

思い繋ぎし紫光の藤姫・
星杜 藤花(ja0292)

卒業 女 アストラルヴァンガード
秘密は僕の玩具・
九曜 昴(ja0586)

大学部4年131組 女 インフィルトレイター
語り騙りて狂想幻話・
ジェーン・ドゥ(ja1442)

大学部7年133組 女 鬼道忍軍
揺るがぬ護壁・
橘 由真(ja1687)

大学部7年148組 女 ディバインナイト
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
身を滅ぼした食欲・
叢雲 硯(ja7735)

大学部5年288組 女 アストラルヴァンガード