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マスター:佐嶋 ちよみ
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/04/30


みんなの思い出



オープニング


 バケモノ。

 そう呼ばれて、生きてきた。


「いってぇえええ……」
「痛ぇよ、痛ぇよう………… クソッ」
 『西の監獄』にて暴徒化した囚人たちは、駆けつけた久遠ヶ原の撃退士たちによって捕縛。
 使い物にならなくなった監獄から、最寄りの収容所へと移送されていた。
 ほぼ無傷の者も居れば、骨折程度の負傷をしている者も居る。それでも、『その程度』に抑えられていた。
 同じアウル覚醒者であるはずなのに、『使い方』を学んでいるかどうかで、こんなにも違う。力の差を突きつけられた。
「俺たちは……違う……『奴ら』とも違う…… 選ばれた存在……この世界の正当なる……統治者」
「まだブツブツ言ってンのかよ、ダセェ」
 『洗脳』が解けずに居る者。気が付けば解けていた者。こちらも様々だ。
「ダサイと思うか」
 薄暗い車内。強固な物理的束縛。その中で、青年の声が明かりのように灯った。
 悪態を吐いた若者は、導かれるように顔を上げる。薄闇の中、逆立つ銀髪がぼんやりと揺れている。
「美馬さん。アンタまでヤラれちまったンですか? ダッセェに決まってるでしょーが。
バケモノだなんだなんて、イマサラって話ッスよ。それに便乗して力振るって逃げそこなってコノザマだ。
劣等も優等もないね。オレぁ誰の指示にも従わねぇ。この混乱に乗じて逃げそこなったことだけが後悔だ」
「ははっ」
 美馬と呼ばれた銀髪の青年は、笑った。笑うと、表情は幼くなる。そして氷のような青い瞳で、若者を見遣った。
 凶悪犯罪者として他者より格段に頑強な拘束を受けている美馬は、両腕を骨折していた。しかし、その痛みなど微塵も見せない。
 回復も早いことを、過去の経験から知っている。泣き叫ぶだけ労力の無駄だ。
「なァ、辛島。お前を見込んで、話がある」
「面白いッスか、それ」
 美馬より三歳ほど年上の辛島だが、青年には一目置いており、砕けた敬語で接するのが癖となっていた。




 久遠ヶ原学園、とある一室にて。
「――やられました」
 『西の監獄』刑務官である永井は、革張りの椅子へ浅く腰掛け、膝上で指先を組んでは大きく項垂れた。
「護送中に囚人が暴れ出し車が転倒、その隙に数名が脱走……か」
 犯罪撃退士取り締まりの権限を持つ久遠ヶ原の風紀委員・野崎 緋華(jz0054)もまた、沈痛な面持ちである。
 護送車は無論、頑健な造りであったし、囚人たちも全員が凶悪犯用の拘束服を着せていたという。
 ガムシャラに暴れただけでは、こうはいかない。
「十分な警備体制であった…… つもりでした。いえ、今はそれを言っても仕方がないこと」
 四十絡みの男は、最後まで洗脳の掛からなかった唯一の刑務官だった。
 『万が一にも洗脳されたら』という、捕縛・収容にも快く応じ、その間は詰所護衛にあたる緋華へ監獄の内部事情を教えてくれていた。
「脱走者は『美馬 諒』……凶悪犯の一人、か。他は彼と親しかった三名、計四名。ふむ」
 美馬 諒。18歳。
 15歳で父親を殺したことによる服役、何事も無ければ新年度から久遠ヶ原へ進む予定だった――
「自己流でアウルの扱いを身に着けているって話だったか。親殺しって言うのは…… また、穏やかじゃないけど」
 穏やかな理由ではないが、数年間の服役後に撃退士の道を学ぶ予定、とはどういうことか。
「家庭の事情というやつなんです。アウルの素養があった諒へ力で敵わなかった父親が、その弟へ暴力を振るっていた。当時、まだ9歳です」
 保護された段階で、弟は瀕死の状態だったそうだ。
 情状酌量の余地あり。そう、判断された。
 美馬はは監獄内でも態度はそれなりに真面目で、荒れくれの多い囚人たちからも慕われていた。
「今回の暴動で逃げ出したのは、既に洗脳の解けていた連中です。『恒久の聖女』とは違う目的があると信じてやりたい。
しかし、いつ、どこであの『声』に毒されるかわからない」
 監獄内で罪を償い、そして社会へ戻り十字架を背負い生きてゆくこと。
 それが、彼らが本来、歩むべき道である。
 こんなところで要らぬ罪を重ねている場合ではない。
 誰しも、罪から逃れることはできない。世界は、そういう風にできている。
 永井にとってみれば、犯罪者といえ少年たちは息子にも似たような存在だった。少なからず情は湧く。
「いえ、私情です。依頼したいのは彼らの捕獲に他ありませんが、闇雲に探したところでどうしようもない。目星が一つ」
 重々しく首を振り、永井は持ち込んでいた封筒から書類を取り出した。
「……『反覚醒者』団体?」
「先日の『放送』の影響は、『アウルの力を持たない』一般人にも及んでいるそうです。すなわち『無力な者を差別するのか』『天魔のみならず覚醒者に襲われるのではないか』」
「で、『やられる前にやれ』ってコト……?」
 緋華が唇に挟んでいた無点火の煙草が、床へ落ちた。
 呆れた。
 ゾッとした。
「まだ大きなまとまりにはなっていないようですが、そのような動きが散見されるようです。そして、その団体の一つに――」
 めくると、顔写真付きの所属者リストがあった。

 美馬 賢 12歳

「待て待て待て、この子は」
「諒の、実弟です」
「嘘だろ、何で? この子を庇って兄貴は監獄送りになったんだろ、助けてくれたヒーローじゃないのか?」
「私は面識がありませんので、なんとも言えません。諒からは軽くだけ聞いたことがあります。大人しく、いつも兄の後を付いて歩く可愛い弟だったと」
 9歳から12歳―― 小学生から、中学生へ。
 その成長は、目覚ましいものだ。

 父を失い、兄は罪を背負い、親戚に預けられ育った少年は…… あの『放送』を見て、何を感じただろう。
 一般人の父は、自分へ暴力を振るった。
 アウル覚醒者の兄は、そんな父を更なる暴力で死へ至らしめた。
 自分を護るため? それとも――
 兄は、見下していたのだろうか。すべてを。自分のことも。

「現時点では、全てが憶測の域を出ません。そこで、ひとつお願いしたいのです。この団体――『セロシアの集い』と、接触を持っていただきたい」
「……それはまた、穏やかじゃないね」
「脱走者のメンツを見ればわかる、主導は美馬に違いない。何がしかのタイミングで、弟には接触するはずです」
「それで『目星』ね」
「美馬たちの足跡は、我々が全力を挙げて追っています。その多方面で、網を張っていただきたい」
「確かに、久遠ヶ原なら外見年齢も性別も多様に揃う。潜入も交渉も可能だろうね」
 どうアプローチしたものか、と緋華は書類に目を通しながら思案する。
「『反覚醒者』…… 『撃退士』にも、あまり好意的ではないようだね」
 くしゃり、前髪を掴んで溜息を。
「少なくとも、高圧的に接すれば反感を買うことだけは確かでしょう」
 人界を脅かす天魔と戦う能力を持つ者全般への、『持たざるゆえの恐怖』が凶器になってしまっている。狂気となってしまっている。
「一度の接触でどこまでいけるか…… どうやって動いていくかも考えどころか。わかった。その方向で、引き受けよう」

 同族相手に、先の鈍った刃を突きつけ合うような、無様なダンス。
 悪魔の掌の上で踊らされ続けてたまるか。
 床に落ちた煙草を拾い上げると、緋華はそれを指でへし折った。





リプレイ本文


 警察署にて。
「捜索届けは出ていない、ですか」
「学校へも問題なく通っているようですねぇ」
 身分と事情を明かし、状況を確認した鳳 静矢(ja3856)だが、返答に顔を曇らせる。
 血の繋がった甥が行方をくらましたというのに、捜索するでなく学校へ確認するでなく、美馬 賢の叔父夫婦は何をしているのだろう?
 警察側も困惑しているようだった。
 一礼をし、静矢は反覚醒者団体『セロシアの集い』集会所があるビルを目指した。


 ビジネス街に林立するビル、その中の一つに『セロシアの集い』集会所はある。
『撃退士が、何の用じゃ!』
 インターフォンを鳴らし、軽く自己紹介をするなり老人の怒声が返ってきた。大久保 誠に違いないだろう。
「とある事件に関して、協力を願いたいのです」
『協力…… 事件じゃと?』
「はい。覚醒者・非覚醒者・撃退士の関係なく、発生し直面している事件です」
『……ふぅむ。わかった、話だけでも聞こう』

 広い会議室では、数名ずつのグループが作られて議論とも雑談ともつかぬ賑わいを見せている。
 会議室と直結している奥の小さな応接室へと静矢は通された。熱いお茶を出され、一口飲んでから話を切り出す。
 美馬 諒と、賢について。
 諒を筆頭とした囚人たちの脱走。
「美馬諒、彼が賢君との接触を試みる可能性は高いと思っています。もし彼が姿を見せたら、連絡を頂けないでしょうか?」
「そういう事情ならば、仕方なしだの」
 アウル覚醒犯罪者専用刑務所が襲われた事件が同時期にあちこちで起きた。
 その中の一つに、賢の兄の収容所があってもおかしくない。
「よろしくお願いします。……ところで、失礼ですが過去の事を多少聞きました。何故、反天魔では無く反覚醒者の活動を?」
「天魔なんぞ、わざわざ反対するまでも無かろう」
 老人は笑う。
「あの放送を聞いた時、ゾッとしたのさ。一般人は、天魔に抗う力を持たぬ。覚醒者に頼るしかない。――が、それは甘えか? 唯一の選択か?」
「と、申しますと」
「圧倒的弱者であると、自ら認めてしまってはいかんと思ったのよ」
(……その対立思想こそが、敵の思うところではないだろうか)
 非覚醒者も覚醒者も、静矢にとって『護るべき命』であることに変わりは無い。そこに線を引くこと自体が危ういと考えられた。
「そういえば。セロシアという言葉……様々な意味があるようですが、どういった意味合いで命名されたのでしょうか?」
 話題を変えられ、大久保は嬉しそうに笑った。
「『希望の灯』、花ケイトウの花言葉じゃな。ついでに言えばケイトウは『鶏頭』、昔から言うじゃろう『牛尾たるより鶏頭たれ』!」




「大久保さん、大変よーう! 女の子が倒れてたの」
 静矢と入れ違いで、中年の婦人が少女の軽い体を抱き上げ駆けこんできた。
 着古した衣服に身を包むのはRobin redbreast(jb2203)であった。白金の髪はブラウンのウィッグで隠し、翡翠の瞳はカラーコンタクトで落ち着いた色へ。感情を殺すことに慣れた表情だけが彼女の素だ。
「なんじゃなんじゃ!!」
「……っ、ごめんなさい、ごめっ、なさ……」
 大久保の声に、少女はビクリと震え、婦人の腕の中で小さくなる。
「わけありみたいだのう……。星野さん、一緒に来てもらえますか。爺だけなら怖がらせてしまう」

 昔懐かしい包みの菓子を前に、ロビンは背を丸めて事情を語り始めた。
 両親は離婚して、母親に引き取られて生活していること。
 母はフリーの撃退士で、滅多に帰宅しないこと。ネグレクトを受けていること。
 先日の『放送』を聞いて、着の身着のままで逃げだしてきたこと――……
「おうちに帰るのが、怖い、です。おかあさん、『恒久の聖女』へ行っちゃうかもしれない……」
 刑務官でさえ洗脳されてしまうというのだから、絶対な安心などない。
「少しの間でもいいんです、ここに置いてもらうことはできますか……?」
「……そうさな。今は、それが良いか」
「のんびりすると良いわ。年頃の近い子らも居るからね」
 一緒に食べておいで。星野は、お菓子の入ったバスケットをロビンへ手渡した。こくりと頷き、少女は会議室へと向かう。
(あの子かな、『美馬 賢』)
 周囲から一線を引いた雰囲気の少年を会議室の片隅に見つけた。




 応接室に腰掛ける大炊御門 菫(ja0436)の表情は、何処となく暗い。
 団体代表者が武道を嗜んでいると聞いてから、胸の奥に引っ掛かりを抱いている。
「代表をしとる、大久保 誠ゆう者です。娘さんは?」
「大炊御門 菫、大学生です。……単刀直入に訊ねますが、何故あなたは反天魔団体では無く反覚醒者団体を作ろうと思ったのですか?」
「大炊御門さんは、あの放送を聞いておらんのかね」
 それからの説明は、先に静矢へしたものと同様だった。
「……可能であれば、一日体験所属をさせて頂けますか? 他の皆さんの考えも、聞いてみたい」
 『恒久の聖女』による、毒電波。あの騒動が起きた時、菫はテレビ局へ乗り込んでいた。結果、多くの仲間たちが倒れたのも遠くない過去の話だ。
 膝の上で固く拳を握る彼女の姿をどう解釈したのか、大久保は深い頷きを一つ。
「構わんよ。ようく考え、娘さんのいいようになさい」

(人の境界はどこなんだろう。天魔からも化け物と呼ばれてしまった私は、いったい何なんだろう)
 かつての戦いでのことだ。彼女の戦闘力をして、そのように言われたことがある。
 敵に言われたならば、賛辞にもなろう。それが、守るべき『人間』からだとしたら?
「失礼します。所属されている方々で、若い人があまり居ないのは何故ですか?」
「あっらー、あたしだってまだまだ若いわよう!」
 恰幅の良い中年女性に声を掛けたら、煎餅を手にした肘でドーンと突かれる。
「大久保のおじいさんの声掛けで集まったから、なんだか寄り合いみたいな感じよねぇ」
「でもね、言いたいことはわかるからねえ」
 オバチャンたちは、煎餅を食べながら器用に話す。
「あたしたちは、まあ良いのよ。子供たちや若い世代に、辛い思いをさせたくないってのが本音ね」
 反覚醒者…… 具体的な行動というより、思想を持つ者たちが集まっている段階、だろうか。


「……撃退士から電話が来たぁ?」
 大久保の裏返った声が室内に響き、視線が集まる。
「切れ切れ、通り一遍のことしか言わんに決まっとる。綺麗な言葉なら間にあっとる」
 振り払う仕草をするが、対応の女性が『どうしても』と受話器を押し付けてくるので根負けした。
『急なお話で申し訳ございません。ですが、我等が敵となる前に話し合いたいのです』
 電話の相手は、天野 天魔(jb5560)だった。




 正装姿で、天魔は集会所を訪れた。
 白黒反転した赤い瞳に、頬を伝う文字通りの血涙。彼の姿は、少なからず波紋を呼ぶが、当人は胸を張り堂々としたものだ。
「――なるほど、人間としての尊厳を守るために設立されたと」
「自分の身を守れぬのなら、せめて『心』は守りたい。力あるものに屈することなく在りたいのよ」
「お話を聞かせていただきありがとうございます。覚醒者を不安に思うのは当然です。……ですが、その為に我々撃退士がいます」
「お前さんらに至っては、同じ力を持つ者同士で、差別をするのかい?」
 ふわりと天使の微笑を浮かべた天魔へ、大久保は悲しそうな、憐れむような表情をする。
「差別とは、違いますね。日本は自由の国。故に皆さんは俺達を嫌って良い」
 ゆっくりと首を振る青年へ、老人は怪訝な顔をする。
「俺とて堕天前に友や家族が何人も悪魔に殺されている、同じ学園に所属する悪魔には思う所がある。だから、嫌うのも憎むのも良い。自分達と異なる者を理解できず、恐れ厭うのは当然でしょう」
「理解……できない、とは、またハッキリ言うねぇ」
 上っ面の理想を語るだけの、綺麗な言葉ではなかった。
「だがこれだけは信じて欲しいのです。俺達は手を出されるまで手をださない。だから俺達に先に手を出さないで欲しい。互いが先に手をださない。それだけで、互いに嫌いあい憎みあっていても平和が作れるのです」
「信じる根拠は? わしらは、手を出したくとも『出せない』。そちらは、如何様にでも出せる。この差を埋めずして、その言葉は成るまいよ」
 無論、撃退士に感謝はしている。老人は添える。
「これまでの『撃退士』がどうあってくれたか、それを棚上げするつもりはない。が、『恒久の聖女』が存在する限り、火種はゼロではない。そうある以上、わしらはわしらの戦いをせねばならん」
 好悪の私情ではなく。危機は、確実に存在していること。それだけが、揺るぎようのない事実。
「……覚醒者に脅かされたら、学園に連絡を。我等が皆さんを守ります」
「一人で来て、何が『我等』かはわからんがね……。別件だが、今日は他にも撃退士が訪れたよ。気持ちは、有り難く受け取ろう」


「……力と共に精神も鍛える」
 天魔を見送る大久保の背へ、ぽつりと菫が呟いた。
「不完全な力を持った者を導くのも、武道を追求する者としての使命だと思っていました」
「押し付けになってしまっては暴力と変わらん」
「あの放送……『心の中で化物と思い、従わなければ多数で少数を追いやる』事を私達がしてしまえば、本当にその通りになってしまう」
「止むを得ん部分はある、その中で帳尻を模索する必要がある。時代の変化を傍観することだけはできない、そう思っているよ」
「私は…… 彼等を、彼等と共に歩める道を探したいと思いました」
 深く頭を下げ、菫は一日の礼を。
 そうして、集会所を後にした。




 調査が始まって、数日が経過した。
 龍崎海(ja0565)はそれまでの情報をメンバーから取りまとめ整理すると同時に、脱走した美馬 諒のメンバーに関する情報も集めていた。
「ジョブ系統も判ればよかったんだけど、学園に入学してなければ振り分けもできないか」
(能力によって、特異な接触方法をするかもしれないし……。うーん)
 辛島、松井、則本。16〜21歳といった若者たちで、いずれも素手による傷害罪で収容所送りとなっている。
「調べがつかない部分は、外堀を埋めるか。弟の行動範囲、習慣等から、接触タイミングを見つけられるかもしれない」
 そうして、海は集会所外での賢の動向に注目を置いた。

 朝。大久保の自宅から、電車で4駅ほどの中学校へ。
 夕方。部活動や委員会には所属せず、電車で3駅の集会所へ。
 夜。大久保とともに帰宅。
 キッチリとした生活サイクルで、静矢から報告を受けていたものの『叔父夫婦』と接触はしていないようだった。
 既に報告済みなのか、電話などで会話しているのかまでは不明。
「接触しやすいタイミングと言ったら、下校時かな」
 朝は通勤通学ラッシュもあって、意図的な接近は難しい。
 下校時刻であれば、通学路・駅・集会所への道すがら、何処でもできそうだ。
「乗りかかった船だしね」
 諒が収容されていた監獄の事件へ、海も関わっている。あの時に捕縛した囚人たちが脱走したとあれば、看過するのも後味が悪い。
「変装のバリエーションも苦しくなってきたけど、まあ顔を覚えられたり通報されなければいいわけだしね」
 背丈、髪の色、姿勢、遠目で個人を識別する際に必要となるのは、この辺りだろうか。
 海は自身の特徴を消すと同時に、同様に賢を追う影が無いかも気にかけていた。
 諒、或いはその仲間が、賢との接触の機会を伺っているかもしれないと考えたからだ。
(今のところ、それらしい影は無いな……)



「家族で参加しているところが、多いんだね」
「そうだね」
 お菓子をつまむロビン、向かいの席で賢は文庫本へ視線を落としている。
 他愛もない雑談、身の上話。互いに深くは触れないけれど、何処となく似た背景。賢はポツリポツリだが、ロビンとの会話をするようになっていた。
「はじめまして、間下です。隣いいです?」
 そこへ、姿を見せたのは間下 慈(jb2391)だった。
 人当たりの良い、柔らかな笑顔。目元だけ、ぼんやりと淀んだ雰囲気を湛えている。
「実はここでは緊張しっぱなしで……。同年代の人もあまりいないし。皆さんいい人だってわかってはいるんですけど」
 入団希望者として、三日ほど前から高校の放課後に訪れているのだと簡単に自己紹介をし、『一人でいるのは落ち着かなくて』とはにかんだ。
 構わないと賢は応じ、ロビンも言葉なく菓子の入ったバスケットを差しだす。慈は賢から一つ席を空けて隣に腰を下ろした。
「家族でまるっとって方もいるんですねぇ、僕は家族には内緒なんですけど……」
 ちょうど、二人がその話をしていたところ。賢もロビンも、慈の言葉へ身を乗り出す。
「秘密の相談なんですけど。実は姉が覚醒者だ、……と皆さんに打ち明けてもよいのか・隠すべきなのか、悩んでいます」
 ぱちり。賢の目が大きく見開かれ、二度三度まばたきを。
「同じように家族に覚醒者がいて、それを打ち明けてる方っておられますか?」
「僕にも居る、けど……。身内に居るから白い目で見られるとか、そういう場所じゃないです」
 賢の声が掠れる。
「賢の家族…… 叔父さんが覚醒者なの?」
「ううん、兄ちゃん。今は離れてる、けど」
「そうでしたか……。連絡って、とられてます? 僕の場合、一度、連絡しようって思ってたんですが、その矢先に『聖女』の件がありましてね」
 『聖女』、その言葉に賢は動揺を見せた。何かを言いかけては俯く。
「賢は、お兄さんとお話ししたい?」
 そこへ、あどけない口調でロビンが参加する。
「……『会える時』が、きちんと来るから。それまで待ってるって約束したんだ」
「じゃあ、嫌いってわけじゃないんだね」
「うん。大事な、たった一人の家族だもん。あ、叔父さん達も家族だけど……」
「そういえば、『叔父さん』というのは……?」
 慈の問いへ、言いにくそうに沈黙してから、賢は答えた。
「お母さんの、弟。ずっと、ずっと、お母さんの話ばっかり……。僕が、そっくりなんだって」
 きっと、『賢』の姿は映っていない――
「叔母さんも、疲れてる。僕が居なくなっても二人はきっと、気が付かないよ。お母さんが居なくなった頃に戻るだけ」
 少年は自嘲気味にそう言った。




●報告書
・反覚醒者団体『セロシアの集い』について
現段階で、大規模な暴力的行動に出る可能性は極めて低い
『覚醒者に屈しない』という思想を掲げ、精神的活動の側面が強い

・美馬 賢について
叔父夫婦は捜索届等を出しておらず、賢本人の言葉に依れば彼の不在にも気づいていない精神状態である
兄に対しては変わらず親愛を寄せている様子
『恒久の聖女』の一件に過敏な反応

・美馬 諒の接触可能性について
直近一週間の間に、賢の周辺を探るような人影は無し
賢の生活サイクルは単調で、個人的な接触を試みるならば下校から集会所への道のりが妥当と考えられる



以上をもって、今回の調査報告とする






依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: 非凡な凡人・間下 慈(jb2391)
重体: −
面白かった!:2人

創世の炎・
大炊御門 菫(ja0436)

卒業 女 ディバインナイト
歴戦勇士・
龍崎海(ja0565)

大学部9年1組 男 アストラルヴァンガード
撃退士・
鳳 静矢(ja3856)

卒業 男 ルインズブレイド
籠の扉のその先へ・
Robin redbreast(jb2203)

大学部1年3組 女 ナイトウォーカー
非凡な凡人・
間下 慈(jb2391)

大学部3年7組 男 インフィルトレイター
能力者・
天野 天魔(jb5560)

卒業 男 バハムートテイマー