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マスター:佐嶋 ちよみ
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
形態:
参加人数:10人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/04/26


みんなの思い出



オープニング


 天界にて。

 ぐ、と背中に力を込める。
 足元へ届くほどの大きさ、猛禽類の如き黒い翼が、バサリと音を立てて顕現した。
「……ふむ。久しい感触だな」
 『力』が、十割戻った。カラス(jz0288)は満足げに目を細め、翼を畳む。
 人界での数年は、天界に戻れば瞬きのようなもの。とはいっても、人界を拠点として動く彼にとっては長く感じられた。
 そこへ、伝令として従えている白い鳥が言伝を携え戻ってきた。


「ヴェズルフェルニル、参りました」
「呼び立ててすまないね」
 カラス――天界での名をヴェズルフェルニル――が権天使ウル(jz0184)の居館を訪ねると、応接の間でウル直属の部下・青髪の大天使ユングヴィが迎え入れる。
 荒々しい気性のウルとは対照的に、穏やかな物腰の男だ。外見の年齢は、ヴェズルフェルニルより少し上くらいか。
「なんだかんだで生き残ったのはお前だけか、平天使」
 玉座にて退屈そうに肘をつくウルは、戦闘用の雄山羊の仮面を外していた。
 栗色の髪を、荒く後ろへ流している。猛々しい素顔は、戦場以外でも変わることなく。
「……はい」
 人界でのことを――静岡での戦いのことを、指している。
 元同階級だったイスカリオテ・ヨッドへ、ウル自ら、そして自身が戦線を移してからは配下を援軍にまわす程度に気にかけていたことを、ヴェズルフェルニルも知っている。
「面倒事は片付けた。俺も人界へ戻る準備はできている。一人で構わんが、コレがうるさくてな」
「私はウル様の天界における立場を補佐するため、ここを離れる訳には参りません。……人界の様子も、変化が起きているのでしょう?」
 『コレ』と呼ばれ、小さく咳払いをして。ユングヴィは、最後の言葉をヴェズルフェルニルへ投じる。
「わたしを、ウル様の配下にと?」
「特定の上役は居らんのだろう。人界にて俺の手足になれ。眼になれ。面倒な情報整理をして、要点だけを寄越せ」
「という方ですが、それでよろしければ」
「……ユングヴィ、お前」
 主従のやり取りに喉の奥で笑いを噛み殺し、ヴェズルフェルニルはこうべを垂れる。
「謹んで、お引き受けいたします。非才の身なれど、微力を尽くしウル様へお仕えいたします」



●闇孕む風
 それが、数日前のこと。

(異例の大出世だ)
 階級が上がったわけではないが、権天使と繋がりを得たことはそれに等しい。
 人界に降り立ったカラスは、そう考えている。
 相手はウル、生粋の武闘派。
 力押しの単独行動を好む彼が『情報収集役』を欲して自分を指名したというならば、この上なく『やりやすい』。
「現場指揮も先陣切っての戦いも、わたしは苦手なんだ。願ったり叶ったり、だね」
 地上へ降りて、翼を消す。何処からとなく、情報収集に飛ばしていたサーバントらが飛来して、肩や腕へ止まる。
 鼻先をくすぐる、春の匂い。
(拠点から、伊豆を目指したのも、この季節だったろうか)
 生き残りの使徒も、軍団長も、司令殿も、すべて喪ってしまった。
 ウルは、イスカリオテに貸しがあるのだと言った。奴はそのまま旅立ってしまったと。
 カラスに、その肩代わりが出来るとは思わないし、ウルだってそこまで考えてはいないだろう。
(それでも)
 嬉しかったのだと言ったなら、笑われるだろうか。 
「……人界は、時の流れが早い」
 深い深い雪山を、思う。
 長く天界の支配下にあった其処は、ついぞ人の手に落ちてしまった。
(今は冥魔が、何やら騒がしいようだね)
 静岡の向こう、山梨辺りの騒動とは別に、西の伊吹山にゲートを張るサマエル陣営にも少なからず動きがあったようだ。
 カラスが拠点としていた地域の、東西端で冥魔の騒動。
 撃退士たちも、さぞ警戒態勢を強くしていることだろう。

 良い言い方をするのなら、今までのウルの『仕事』は人界にゲートを持つ下級天使たちの補佐だった。
 派手に暴れて人間たちを強制的に結界内へ追いやったり、
 派手に暴れて感情を吸い尽くされかけている人間のラストランを最大限に引き上げたり、
 派手に暴れて陥落寸前のゲートにて撃退士を完膚なきまでに叩きのめしたり、
 気が向いた時に旧支配地を荒らすディアボロへサーバントをけし掛けたり。
 単独で動くからこそ、多くを敵に回さない。弱者を相手にし、力量差で押し切る。

「撃退士も強くなっている、今まで通りとはいかないだろうね」
 だから、自分が必要とされたのだろう。
 戦いの場を選びながら、カラスは呟く。
 服装を外見年齢と容姿に合わせた『人間らしい』ものへとし、情報収集を続けた。



●震える大地
 地響きが、山間に響く。
 深い渓谷を中心に張られた結界で、生かさず殺さずの生活を強いられていた人々は最期の時を覚悟した。
 こんな場所にゲートが開かれていただなんて、知っている存在の方が少ないだろう。
 こんな場所のゲートを破壊するより、優先すべき場所があると考えるだろう。
 救助を諦め、それでも自らの命を絶つことを選べず、そうして数年が経過していた。
 地域を総べる天使は、時折思い出したかのようにサーバントを放ち、人を襲う。
 襲い、欠けた分をどこからとなく補充する。
「貴方も…… 『補充』、ですか?」
 ふらりと姿を見せた黒コートの男へ、長く暮らす娘が呼びかけた。
 濡羽色、とはこのことをいうのだろうか……つややかな黒髪は肩辺りまであり、サラリとしている。その間から、暖かみのある金眼が覗いた。
「車が故障して、道に迷ってしまってね」
 なるほど、仕立てのいいスーツなんて着ているわけだ。
「御気の毒に……」
「?」
「この谷へ来てしまったら最後、天使に搾取され続けるだけです……。きっと、それももうすぐおしまい。あの音を聞いて。終焉の天使が来たのだわ」
「終焉?」
「天使ゲートにより滅びた街の近隣で、聞こえる音だそうよ。大地を叩き割る、終焉を告げる音」
「終わらせやしないさ」
 男は、優しく笑った。
「時間は、わたしが稼ごう。助けを呼ぶと良い。この国には『撃退士』が居るのだろう?」
「でも、結界からは出られません」
「わたしが出してあげる」
 男はコートの内側へ左手を差し入れたと思うと、古めかしい意匠の西洋剣を、スラリと抜いた。
「贄の振りをして、やってきた。ただ、わたし一人ではゲートを護る天使を倒せやしない。だから、助けを」
「!!!」
 娘の瞳に、生気が戻る。長らく忘れていた希望を取り戻す。
 男が剣で結界を破ると、娘は着の身着のまま走り出した。



●棄てられた街から
 ――助けて下さい

 久遠ヶ原学園へSOSが飛び込んだ。
 結界から逃げ出してきた一般市民からだという。
「結界から?」
「おかしいですよね」
 野崎 緋華(jz0054)が怪訝な顔をすると、出来る限りの情報を引き出し通話を終えたオペレーターも頷く。
「先行撃退士が居るなら、本人が偵察をすればいいことだろう。……黒い長髪に金の眼か。厭な奴を思い出す」
(ラストランは珍しくないと思うけど……)
 少なからず、ゲートを展開している天使の他にもう一柱、居るということは理解した。
「二部隊制で行こう。調べたいことがある、後発隊にはあたしも同行するよ」


 その後。
 先遣隊壊滅の報が届いた。
 力は微弱ながら大量のサーバントが結界手前に布陣しており、その後方には――雄山羊の面に巨大な石斧を持つ、権天使・ウルの姿があったという。





リプレイ本文


 渓谷に、地を揺らす音が響き渡る。響き続ける。
 ぬるい風が、血の匂いを運ぶ。
 血にまみれ、満身創痍を引きずって、撤退してきた先遣部隊は後続の姿を目にすると崩れ落ちた。
「もう少しで、更に援軍が来る。待ってて」
 野崎は部隊長と二言三言交わし、倒れ伏す撃退士たちへ呼びかけた。
 
 どこか見覚えのある鳥型サーバント。
 雄山羊の面の権天使・ウル。

 それらの存在を報せたのは、命を懸けて戻ってきた先遣部隊だ。
 情報を無駄にはしない。
(あの鳥がおるってことは…… いてくれるよな? カラス)
 先を急ぎながら、ゼロ=シュバイツァー(jb7501)の脳裏には黒い影が背を向けていた。
 後ろを行く矢野 胡桃(ja2617)は、きゅっと唇をかみしめたまま。
「地響き……。大地を叩き割る、終焉を告げる音って話だけど、火山が噴火しそうなのかな?」
 緊迫した空気を割るように、Robin redbreast(jb2203)が呟いた。
「それとも何かを壊しているのかな?」
 おっとりとした口調。柔和な表情。『少女らしい』それは、血で開かれたこの道に、酷く似合わない。
 『日常』と変わらぬ調子で、少女は『戦場』を駆ける。血に染め、血に染まる。それが彼女の『日常』だった。
「火山じゃないことは確かだな」
 郷田 英雄(ja0378)が軽く応じる。
(結界の中で生きる人というのを俺は見た事がなかったが、あの女の様子では人間的な生活というには程遠いのだろう)
 オペレーターから、当時のやり取りを録音したものを聞かせてもらった。
 引き攣り、震えた声。
 縋ることしかできない、縋ることすら恐れるような、圧倒的な弱者。そう感じた。
(力のない奴はそれでも文句を言えない、が)
 英雄は、常から考える。
(人間社会では美化されるが、――弱者は本来、悪だ。だから俺は力を求める)
「今回の敵の目的って何だろう。存在を知られていないゲートに撃退士を誘き出すって」
「依頼人と同じような人間が、今も結界に閉じ込められているんだろ。『助けが来るかもしれない』なんて餌をチラつかされてよ」
 サーバントは、結界の外に布陣している――『一般人』を襲うために配置されているわけではない。
 山間に響く終焉の音は、結界内で起きているわけではない――『一般人』へ聞かせるための、デモンストレーション。
 ロビンの問いに対する英雄の答えはシンプルだった。
 弱者は悪だ。
 いつの時代も、強者の思うように利用される。利用価値とは何か……考えれば、見えてくる。
「救助を願った人を、ぬか喜びさせるだけなのか……?」
 いつでも各方面へ援護を取れるよう部隊の中央に位置している龍崎海(ja0565)は、二人の会話を聞いて考え込む。
 呟き、それから思い至る。
「……ラストランということなら、撃退士が戦っている姿を結界内に見せているのかも」
 結界から、人々は出られない。ガラス越しに観戦を強いられるようなものだ。
 『結界前に、サーバントは布陣している』――そこに理由が、あるのなら。
「仕組まれた戦場か」
 後衛の影野 恭弥(ja0018)が吐き捨てた。
 個々人の疑問と見解を結んで行くと、反吐の出るような答えが浮かび上がるようだ。
「やれやれだな」
 あらゆる感情を載せ、フィオナ・ボールドウィン(ja2611)は一言にまとめて声にする。
「天使だろうが権天使だろうが雑魚だろうが、我らが為すべきことは何も変わらぬ」
 ――為すべきことは変わらない。
 フィオナの言葉に、同じく最前線の一角を担う若杉 英斗(ja4230)の唇が、微かに震えた。
 何事か言いかけ、引き結ぶ。
(そうだ)
 今までも、ずっと、そうしてきた。
 仲間たちの盾となり、壁となり、戦ってきたんだ。
 仲間を護る、それが英斗にとって勇気の源だった。
 誇りの盾、――それをすり抜ける銃弾。全てが零れ落ちていく感覚。
 その瞬間を思い出せば、ぞっとする。
 怖いのは、斃れることじゃない。自身の体の痛みじゃない。
 自分が斃れることで、誰ひとり護れなくなること。
(怖かったんだ)
 為すべきことは変わらない、けれど為すべきことを為せなかった。そのことが。怖かった。
 繰り返してしまうのではないかと、怖かった。
 けれど、恐れてばかりでは進めない。越えられない。
(いまの俺に足りていないのは…… 勇気! 鋼のハート! この戦いで、取り戻す!)
 青年の瞳に、強い光が宿る。それは、不屈の闘志。
「追い風は、止まらない……」
 紫の毛先を風になびかせ、フィル・アシュティン(ja9799)……その別人格である『エルム』は前のみを見据える。
 追ってきた。風を打ち消すという名を冠する者を、ずっと。こうして。
 今回の騒動に一枚噛んでいるというのなら、今度こそ。そう胸に秘める。
(カラス……ね)
 同行メンバーの数名が、その天使を強く意識していることを天宮 佳槻(jb1989)は察していた。
 佳槻自身も、気にならないと言えば嘘になる。
(何を考えているかわかれば、動きも掴めそうだけど……。今の段階で、断定は多分無理だな)
 権天使が戦場へ直々に姿を見せていて、下級の天使が不在という段階で怪しい。
 彼奴の目的は撃退士勢力の情報収集か。
 或いはこちらの部隊を出し抜いて後方を狙うか。
 情報提供者が告げた状況のまま、今も撃退士の振りをして結界内で一般人に紛れている可能性だってある。
「まずは目の前の鳥を何とかしないと、か」
 この一戦がどう転ぶかで、何か掴めるかもしれない。何かが動くかもしれない。
 あらゆる可能性を考慮した上で、一度は振り払い佳槻は戦いへと意識を切り替えた。


 前方、約50mの距離。
 紅翼と蒼翼の鳥型サーバントの群れが、けたたましく鳴きながら待ち構えている。
 高低差をつけた布陣の向こう、確かに石斧を地へ突きたてた白翼の権天使の姿があった。




「それぞれに色々、思うところはあるやろうけど」
 飛翔高度は地上の仲間から離れ過ぎない程度に保つ。
 顕現した大型の鴉が翼を開き、ゼロの右腕と同化する。そうしてゼロは、声を張り上げた。
「誰が指揮官とか、俺の今から言うことが命令だとか、絶対だとか、そういうことやない。ただ、『聞いて』ほしい」
 この声は、聴こえているか。届いているか。
 戦線を共にする、撃退士たちへ。
「だだっ広い戦場や、どうかバラバラにだけはならんでくれ。誰かの手ぇが届く場所に居ってくれ」
 個々人の能力がいくら高くても、『敵わない』場面がある。ゼロは知っている。
(どうか)
 侮らないでくれ。
 功を急かないでくれ。
 視野を、広く。
(全員の心を一つに、足並みそろえてー、なんて この際、贅沢は言わん。フォローは俺がやればえぇ)
 祈るように、告げる。
「先陣は任せる、わ」
「仰せのままに、陛下」
 ゼロの心を読んだかのようなタイミングで、後方から少女の凛とした声。魔道書を手にする、胡桃だ。
 広い視野故に背負いすぎる彼の、荷物の少しは受け持とう。
 大丈夫。この戦場は、ひとりじゃない。
 顔を歪めるように笑い、不死鴉を冠する男は先陣を切った。

 戦いの火ぶたを開けるように、ゼロの右腕が、鴉が、アウルによる漆黒のレーザーを放つ。

「まさかこの距離で届くとは思わんかったか?」
 天魔ハーフの男が背負いし業、眷属殲滅掌の威力を乗せた上に完全なる不意打ちとなり、最前線のロード一体を軽々と焼き落とす。
「教えたる。慢心が、最大の敵やで」
 挑発するように、ニヤリと。
 それを号砲に、敵陣営もじわり動きを見せ始めた。数羽の群れを作るロード達が、淡く赤い光を放ちながら距離を縮める――命中率を上げるスキルを互いに掛けているようだ。
「移動力・攻撃の射程は、こちらの狙撃陣ほどではないのか。或いは一気呵成を狙っているのか……。いずれ、前線は乱さぬ方が良いな」
 二枚四対の翼を広げると、フィオナはゼロと高度を合わせ、反対方向の前線を押し上げる。
 敵の突撃が来たとしても食い止め、そしてすり抜けるならば叩き落とす、そういった位置だ。
(……いいえ、駄目、ね。まずは目の前に集中、を)
 胡桃は見覚えのあるサーバントの陣容を前にして、無意識のうちにその主の姿を重ね、かき消すように小さくかぶりを振る。
「おっ。来たか、えるえる♪」
「……その名で呼ぶな」
 前線を押し上げ、ケイオスドレストで防御を上げたエルムへ、『彼女』と承知でゼロが軽口を。
 シリンダーをセットしながら、エルムは上空を軽く睨む。
「後ろへは通さない…… このライン、守り切って見せる!」
 要となる中央には、英斗が。聖なる刻印の効果で、ブローによる攻撃にも耐性を付けておく。
(ここで派手に負ければ一般人は絶望し一気に感情を持ってかれる、増援が来るまでの希望を繋げないと……だな)
 恭弥は敵の範囲攻撃の広さに警戒し、前衛とはある程度の距離を測る。
(援軍が到着したって、こっちが素直に離脱出来るとは限らないしな)
 如何せん、敵陣にはウルが居る。敵の本心など解からないが、無傷で逃げられるとは思えない。思わない。甘い考えは捨てておく。
「こんな場所にゲートを開いていたのは、人に知られずにおきたい研究とかをやっていたのかな?」
 ロビンはひとり、山肌に背を預けて窪みに身を潜めながら考察を深めていた。
 10名やそこらで守りきるには、全員が横一直線になったところで不安の残る道幅で、更に完全な配置分けとはいかなくても前衛・後衛と距離をつけている。
 中央寄り、東西どちらかに敢えて偏りを、あるいは斜めやV字に陣形……といった策は提案されていなかったため、撃退士サイドは全体的にボンヤリとした布陣。
 一丸とならない不安はあるが、いざという時にロビンの位置ならば切り札として動くこともできるだろう。
(ウルとサーバントは陽動で、ウルの方に引き寄せて、カラスが挟撃してきそうかな……。挟撃するとしたら、何処からだろう)
 側面や後方上空?
 側面と言っても両サイドは山肌で固められていて、ここへ来るまでは一本道だから……時間を稼いで山向こうから後ろを突くか。
 大量のサーバントと戦闘が本格化してしまうまえに、考えられることをとにかく列挙しておく。
「崖崩れとかで、退路を塞がれることだけは…… 大きな不安かな」
 ちらり、少女は碧空を見上げる。
 火山という気配はないし、落石の危険性も今のところは感じられない。
 きっと、そもそもが危うい道であったなら、事前情報として告示されていただろう。
 ただ、派手な戦闘による不測の事態というものがある。そこだけを、忘れないように。
「手の内の探り合いしてる間にも、少しでも数は減らして行くで!」
 もう、一歩。
 軽く踏み込み、ゼロが二撃目を放ちロードを落とす。わずかに詰めていた最前線の紅い三羽が、光の残像を描いて襲い掛かってくる!
「来る、とわかっとったら多少の余裕はあるでぇ!」
 一撃、二撃、翼を打ち付け体の向きを変え、微かな動作で嘴を回避する。
「ゼロさん、左も来てる!」
「ほいさ!」
 野崎が回避射撃でアシストし、
「ようやく入って来たか」
 間合いに掴んだ恭弥がすかさず弾丸を撃ちこんでは落とす。
「ふん、直線状の突進など、野生の猪とてやってみせるぞ」
 他翼を担うフィオナもまた、予測回避を持ってやすやすと攻撃を避けると同時に、周囲へ赤光の魔力球による『門』を展開する。
 スッと伸ばした指先を、上から下へ。
 投影魔術によって生み出された数多の刃がロードを襲う。
「力が微弱ってことなら、効果はあるはずだと思うんだけど」
 フィオナの攻撃から逃れたロードへ、海が『星の輝き』の効果を試してみる。
 日中に置いてなお明るい輝きが周囲を満たす――、が、直近或いは遠方待機の陣営にも変化は見られない。
(ある程度、抵抗が高い……のかな)
 個体に与えられたレベル、それ以外にも効果を発揮するには条件がある。どちらであるか特定はできないが、これだけの数を範囲に収めて一体も反応を示さないということは…… いずれにしても答えの一つなのだろう。
「すばしっこさも、弾丸並といったところか」
「後ろへは、抜けさせないよ」
 フィオナへ集る鳥共へ、英雄とロビンが左右から挟み込むようタイミングを合わせて追撃を始める。
 片や眠りを誘う凍てつくアウル。
 片や炎の華の大爆発。
「……しぶといな! 降り注げ、ディバインソード!!」
 しかして回避、あるいは首の皮一枚で仕留め損ねる。
 そこへ、英斗がトドメとなる聖剣を天から降らせた。左右・上空、檻に閉じ込められた鳥たちはそこでようやく地へ墜ちた。
「結界を張ります。上手く使ってください」
 防衛ラインを此処と見て、佳槻は四神結界の印を切る。
「もう、守られてばかりの私じゃない、わ」
 結界の加護を受けながら、胡桃は更にウィンドウォールで回避も上げる。
「……確実に仕留めるぞ」
 両手で銃を構え、エルムは斜めに射線を通し、封砲でゼロに群がるロードを狙撃した。
 標的に集中していたサーバントは完全に虚を突かれ、風を受けて落ちてゆく。
 やるなぁ、とゼロが口笛を吹けば、暇があったら一体でも倒したらどうだなどと睨み返されコミュニケーション。
「敵は半数を後方に残してる、第二陣に備えよう」
 残党を打ち崩しながら、野崎が声を上げた。
 後方へ残っているロードは、スターク・ブローへ命中率上昇の光りを掛けている。厄介になりそうだ。




(……ウル、何故あいつがここにいる)
 見たところ、指揮を執っているでもなさそうだ。が、存在するだけで威圧となる。
 英雄は遠目に睨み、それから向き合うべき前線へと切り替えた。
(今の目的は時間稼ぎだ。奴の相手はその後に、いくらでも)
「ちっ」
 攻撃を外した恭弥が、短く舌打ちを。完全に仕留めたと思った。
 当たれば落とすに易い敵だが、それを承知の上で『軽く』仕上げられているといったところだろうか。
「ダンスのお相手なら喜んで? でも、順番に並んで頂戴、ね」
 前線を抜け、魔道書を手にする胡桃へとサーバントの群れが突っ込んでくる。風の壁を張った少女は一羽目を難なく躱し、二羽目を掠り傷に留める。
 三羽目の翼は―― 蒼だった。
「……ッ!!」
 肩口を貫き、ブローは蒼い翼を地に染めて着地する。
「だっ」
 大丈夫か、同様に中衛を担っていた英雄が倒れた少女へ手を伸ばそうとした、その脇腹もまた、同様に蒼い影が貫いた。
「っ、ゲホッ……、結構でけぇな」
 体力が高い分、なんとか踏みとどまる。地に強く足を踏みつけ、再び凍てつくアウルを周囲に落とす!
 アウルに貫かれたロード達はその場で果て、ふてぶてしく血に濡れたブローだけが残る。
「全てが、間合いの中か」
「中途半端な回復は、逆に重症の芽となるな」
 佳槻は自らへ八卦水鏡を施し、反撃の準備を整える。他方で海は少し悩み、気を失っている胡桃へ先にライトヒールで傷の軽減を試みた。
 底上げしてから目を覚まさせた方が、最終的な回復値は大きいはずだ。
 予想外の攻撃を受けたはずだったが、重体に至る致命傷は負っていないことは幸運だった。
「わたしは進む…… どこまでも……風は、流れて舞い踊る!」
 戦線を瓦解などさせない。強い意志を持って、エルムは二派目の封砲でブローとロードの二体を狙う。
 全力を、決して惜しまない。短い時間に、どれだけ確実に相手の動きを止められるか。自分の動きを止めずに行くか。そこだ。
「もう一回、行くよ」
 部隊の最後方へ移動しながら、ロビンがファイアワークスで援護。
「背後から卑怯、とか言うなよ!」
 次いで、英斗が白銀の手甲で仕留めそこなったブローを貫いた。


 敵の猛攻への迎撃、内側に入られて痛い目も見たが、気づけば半数近く殲滅に成功している。
 部隊を分けて波状攻撃を狙っていた敵陣にも、その余裕がなくなってくる。
「来たれ、鳳凰」
 撃退士陣営の上空には、佳槻の召喚した朱き鳥竜が翼を広げていた。
 鳴き声に導かれるかのように、胡桃が気絶から目を覚ます。海による神の兵士で、戦線へ戻れる回復を得た。
「まだまだ、これから……よ」
「心地よい御目覚めであれば、なにより」
 安心した表情で、ゼロはランカーによる攻撃を逆手に利用し、胡桃の直近の敵を撃破しては前線へ戻る。
「ダンスのリズムも、上げていかないと、ね?」
 足止めよりも、殲滅を。
 少女は呪文を詠唱し、幾本もの灰銀の矢で、ブローを串刺しにした。
「後方! 気を付けろ!!」
 フィオナが鋭い声で注意を促す。
 範囲魔法の射程を抜けて、紅い軌道が行く筋も駆けていったのだ。
 直線状に。上空から。側面から。
 それらが狙ったのは、最後方のロビンだった。
 移動力という名の敵の射程、完全に囲んでの安全圏があるわけではない陣形において、多少の『後方配置』は特別な意味を為さない。
 或いは『孤立』さえ促しかねない。
 ロビンに油断は無かったが、正面からの攻撃を受けて体が宙に浮く。消飛びかけた意識は、海の『神の兵士』が繋ぎとめるも――二撃目で、更に深くへ落とされた。
「どいつもこいつも……」
 ガードを固めながら英雄は悪態を吐く。
 確実に間合いを詰めていたブロー達が陣を荒らす。それでも深手とならないのは佳槻が事前に四神結界を張っていたことが大きい。
 鎌を振るい、一体を切り裂く。裂いて開けた視界の先で、スターク・ブローが大きく口を開いていた。
 春だというのに、ひやりと冷たい風が集束されている。

 真正面から吹き付ける、季節外れのスノウストーム。
 間髪入れずに、側面からも襲ってきたそれは、範囲攻撃を頭に入れて距離を取っていた恭弥を襲う。スタンで意識を刈り取られ、その場に膝をついた。
 それ以上の追撃を許さないよう、海が立ち位置を変えてライトヒールで回復を促す。
「やりたい放題もいいところだな……。が、その程度の牙で我は倒せんぞ」
 ブローの三連貫通攻撃も凌いで見せたフィオナは、まともに受けた一撃さえも痛みに顔を歪めたりなどしない。
(が、これでは他の者たちには荷が重いであろうな)
 そうとも考える。
「英斗くん!! あたしのタイミングに合わせて、一気に潰して!」
 腰を落とした野崎が、暴れまわるブローを射程に収める。
「っ、わかりました!」
 カウントダウンは短い、アウル弾の豪雨が注ぐ。
 バレットストームに乗せ、英斗が再度、聖剣を顕現する。


 嵐の後の、空は晴れる。
 そんな言葉が似合うような、強引な一斉掃射だった。




「ようやく、我の本領発揮といったところか」
 白い鞘・白い柄の忍び刀を抜き、フィオナは残るブローを貫く。
 魔道も不得手とは言わないが、剣を手にしている時が何よりしっくりする。
「密着したダンスも、嫌いではないのだけれど。適度な距離は大事よ、ね」
 胡桃の指先がクルリ踊るように円を描いては魔道の矢を放ち。
「大丈夫? まだ、戦えそうかい?」
 周囲の様子を見て、海はロビンへと癒やしの光を注いだ。
 少女は二度、三度のまばたきの後、こくりと頷く。
 それを見て、佳槻は今一度の四神結界を張り直した。

 前線へ接触してこないブローが1体。それを取り巻くようにロードが2体。
 ロードのほとんどは撃破していたが、前線へ食い込んできた4体ほどのブローが面倒だった。
 下がりながらのスノウストームに翻弄される。
 一度目でスタンに落とされたゼロが、そのまま二度目をまともに喰らって気を失う。
 同様に、英雄もまた魔道の挟撃で倒れた。
 立ち上がったロビンが、敵味方の距離を調整してオンスロートで蹂躙するも全撃破には至らない。


「……来やがったか」


 混戦の極み、それでも倒れる味方より倒した敵の数の方がはるかに上回る。
 応援到着まで、あと少し。
 その時、恭弥が低く呟いた。

 来た。
 今まで、ずっとこちらを見据えるだけであった、褐色の肌の天使が、動きを見せた。
 石斧を引き抜き、デモンストレーションのように地へ打ち付ける。強く、強く――
 それは大地を割り、地響きを呼び、終焉の音として渓谷に反響した。




(『声』は、まだ……ね)
 ウルの動きに警戒する一方で、胡桃は『もう一柱の存在』に意識を巡らせる。
 サーバントが『彼』のもので、恐らくは指揮を執っているのなら……どこかで見ているはず。動くはず。
 ウルの行動だけに対応したのなら、そこを突かれるはず。
「ウルは、自分が抑えます!!」
「『盾』は、任せる」
 威勢のいい声とは裏腹に、英斗の額には脂汗が浮かんでいた。
 『盾』としての己に、少なからず自信を喪失している……それでも、取り戻すと決めたのだ。
 それを知ってか知らずか、信頼を乗せて恭弥は彼の背を押した。
「せめて一撃、でかいのを決めないとな……」
 サーバントの殲滅続行は他の者たちへ任せ、英斗と組んで恭弥は反撃の準備を整える。


「ここまで待ったんだ、ちったぁ楽しませてくれるか?」


 雄山羊の面の下から、低い声が笑いを見せる。
(飛ぶなら、来い)
 淡々と、恭弥は機を伺う。
 自分たちを飛び越え、撤退中の先遣部隊を潰すか? あるいは援軍を挫くか?
 ――させるものか。
「良いか、テメェら。よぅっく見ておけよ?」
 ウルの言葉は撃退士ではなく、その後方―― 結界の『向こう側』へと。
 街の向こう、おぼろげにだが人影が見えた。住民の全てではないだろうが、それなりの数が見守っている。固唾を飲んでいる。
「――……右腕!」
 その中に、見覚えのある姿。
 反射的に胡桃はゼロを呼んでいた。
 じり、と砂を掴み、ゼロもまた顔を上げる。
 仕立てのいいスーツに黒コートを羽織り、古びた西洋剣を手にした男――天使カラス――は、人畜無害そうな笑みを浮かべて人々に紛れている。
「ころしてええですか」
 思わず、心の声が零れた。飲み込む。
(……また相まみえたな、カラス……)
 ブローを相手取りながら、エルムもまたそちらへ視線を走らせる。こちらは彼をよく覚えているが、向こうはどうだろうか。
 前方へ残るサーバントを、佳槻の闘刃武舞とロビンのオンスロートが切り刻む。
 飛び交う刃を遠目に、ウルは強大にして真白の翼を広げると、飛翔してみせたかと思うと滑空の勢いを乗せて今までの比ではない力で大地を割った!
 圧倒的な破壊力が地を走る、振動。隆起。亀裂。それらが押し寄せ、瞬く間に直線30m程を飲み込む。
 英斗の掲げる盾が、黄金のオーラを纏い、その勢いを食い止める。わずか押され、足が地を抉るも凌ぎきる。
「っ」
 ふと、違和感が走る。結界が切れた。
 振り向くと、佳槻が膝をついて顎を伝う汗を拭っていた。ウルの攻撃に巻き込まれたものの、海のお陰で気絶からは立ち戻ったらしい。
「影野さん……」
「問題ない」
 英斗は、視線を他方へと。
 時間は、稼いでもらった。充分だ。恭弥は頷きを返す。
「来い、ウル! お前の斧と俺の盾、どちらが上か……勝負だ!」
 一か八か…… 挑発を掛け、英斗は後方の味方を巻き込まない位置まで駆ける。
「見ただろう! 先ほどの攻撃程度、俺の盾の前では爪の先ほどの威力だ!!」
 海でさえ、大きなダメージを受けていた。ならば、ここは、自分が。
 絶対に退くことのできないこの局面を、引き受けて見せる!!
 面の下で、恐らくウルは笑った。そんな気配がした。
 さらに間合いを詰めるでなく、同じ攻撃をもう一手。
 英斗を、侮っている証だ。攻撃を繰り返し、その盾を破壊する考えだ。
「俺が久遠ヶ原の盾、若杉英斗だ!」
 再び襲う大地の攻撃を、ほぼ完全に食い止める。心臓の音がうるさい。うるさいということは、鳴っているということ。眉間を汗が伝うのは、立っているということ。
(……俺は)
「受けてみろよ。その度胸があるならな」
 安堵するには早い、英斗のすぐ横を弾丸が走る。恭弥の放つ渾身のアシッドショットは、ウルの筋肉に飲まれて消えた。
「ハッ、むず痒い。毛の先程度は期待させろよ」
「体力自慢のアンタには、嬉しいプレゼントだと思ったが」
「……? …………フン」
 傷口が、腐敗に浸食されている。
 もとの体力が高ければ高いほど、そのダメージは深い。
「ようし…… ここでは半壊程度に留めておくつもりだったが…… 構わん、全て殺してしまおう」
 ぐるり、石斧を肩へと掛け、ウルは一歩ずつ進みだした。
「さがって、援軍が到着した! 撤退だ!!」
 連絡を受けた野崎が叫ぶ。
 後退しながら、恭弥はもう一度アシッドショットを。高笑いを上げ、ウルが斧を振りかざす――
 その横を、クロスボウのボルトが走り空を射ぬいた。

「……カラスコノヤロウ」

 振り向いたのは、ウルだ。
 人畜無害の笑顔で、結界内から天使は手を振っている。
 ややあって溜息一つ、翼を出すでなく武器を構えるでなく、天使は結界から出てくる。
「手の内を見せすぎるのは良くないといいました」
「俺に指図するってぇのか」
「ここで撃退士を全滅させては、得られるものが次へ繋ぐことができません。申し上げたはずです」
「メンドクセェんだよ、テメェの話はよ」
「面倒だと、聞く気が失せて結論だけで充分と思いますでしょう? そういう作戦です」
「コノヤロウ」
 ウルは黒スーツの胸倉をつかみ、持ち上げ、地面へ乱暴に叩きつけると、興が削がれたと翼を広げて何処かへと飛んで行ってしまった。

「命拾いしたね、君たち」

 土ぼこりを払いながら、カラスは笑う。ニコリと、含みなく。悪意なく。
「ウル様は帰られてしまったけれど、君たちの数ならばわたしひとりでも相手できよう。血の海を、後ろに居る善良な囚われ人たちへ見せることになるけれど…… どうする?」
 この場での会話は、結界内の人々には届かないだろう。
 今ならば、『天使を排除した撃退士同士』の会話に見えるはずだ。
「まともに喋るんははじめてかいな? そろそろお前の引き立て役は遠慮したいとこやねんけど?」
「……うん? そちらは?」
 ――鴉の名は俺のもんや
「ああ…… あの時の」
 気力を振り絞るゼロの声へ、カラスは記憶の糸を手繰り寄せる。
「久しぶり、ね。逢いたかったわ。濡羽の君。貴方とダンスを踊りたい、けれど。お楽しみはまた今度、ね」
 ゼロを支えながら、胡桃は無意識のうちに微笑を浮かべていた。嬉しい? 戦いたい? 感情の根は、何処に在るだろう。
「胡桃、君も来ていたのか。――ふむ。なるほど、見覚えのある子たちが多いようだね」
「覚えておけ。わたしはフィル・アシュティン、だが…… 今は流れる風の存在……エルムだ。……ヴェズルフェルニル」
 カチリと目が合い、エルムが名乗る。名乗ることさえできなかったあの時のことを、忘れていない。
「さっさと行け。邪魔だ」
 天使との対話を、恭弥の銃弾が分断した。
 撤退の準備が出来ているなら、無駄に延ばすことも無いはずだ。味方達へ撤退を促す。
 現状で重体者こそ出ていないが、戦力は放出している。これ以上、厄介な敵を相手取る余裕はない。
 右腕を撃ち抜かれたカラスは、意に介すでなく左手をヒラリと振る。
「それがいい。またいつ何処で会うかはわからないけれど…… 命があれば、縁もあるだろう」
「……総員、撤退!!!」
 後方から、苛立たしく野崎が再度、叫んだ。
 その声に、カラスの表情からスッと笑みが引く。
「…………命があればね。形あるものはいつかは壊れる、わかっていても残酷だ」
「言われたくないね」

 かつて。
 野崎の所属する撃退士部隊が、カラスの使徒を撃破した。
 それをさかのぼること数年前。
 カラスの使徒が、野崎の恋人を間接的に殺害している。
 命ある限り。
 形ある限り。
 それは希望で、絶望の約束だ。 


 撃退士の撤退を見届けると天使はコートの裾を翻し、再び結界内へと戻って行った。




 連携を組むサーバントの群れを前に、瓦解こそしなかったが結果的に相当な消耗を強いられた。
 もしも、ウルがあのまま力押しをしてきたのなら。あるいはカラスが参戦してきたのなら。
 壊滅は免れなかったかもしれない。
 逆を言えば、何故、彼らはそれをしなかったのか……
「感情の活性化で、救助に猶予ができたとみるべきだ。でも……」
 気を失ったままの英雄に肩を貸しながら海は思案する。
「町を、守ることができたのだろうか。まだ、囚われたままだ」
 エルムは視線を落とす。
「主目的は果たした。撃退士部隊は先遣隊を含め損害は大きくない。敵勢力が判ったのなら次の指令もまた降りるだろう」
 案じるだけ無駄だと、フィオナは金髪をかき上げる。

 緊張は、まだ解けない。
 きりきり痛む心臓を抑え、英斗は荒い呼吸を整える。
「大丈夫だった、英斗くん」
「あ、はい。自分は ……はい」
「良かった。頼らざるを得ないとわかってても、心臓によくないね」
 呼びかける野崎もまた、複雑な表情でぎこちなく笑った。
 戦場のどさくさで呼び方が変わっていることに、彼女は気づいているのかいないのか。
「ひとりで戦わない限り……きっと、進んでいける。守っていけるよ。あたしは、そう思ってる」
 青年の背を叩き、野崎はクラクションを鳴らす援軍の車へと向かっていった。
(守れた)
 一つの結果を、今は大事にしよう。胸元で拳を握り、軽く叩いて。英斗は、空を仰いだ。


 風が、血の匂いを運ぶ。
 けれどもう、終焉を告げるという地響きは止んでいた。







依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 歴戦勇士・龍崎海(ja0565)
 ブレイブハート・若杉 英斗(ja4230)
 陰のレイゾンデイト・天宮 佳槻(jb1989)
 縛られない風へ・ゼロ=シュバイツァー(jb7501)
重体: −
面白かった!:11人

God of Snipe・
影野 恭弥(ja0018)

卒業 男 インフィルトレイター
死神を愛した男・
郷田 英雄(ja0378)

大学部8年131組 男 阿修羅
歴戦勇士・
龍崎海(ja0565)

大学部9年1組 男 アストラルヴァンガード
『天』盟約の王・
フィオナ・ボールドウィン(ja2611)

大学部6年1組 女 ディバインナイト
ヴェズルフェルニルの姫君・
矢野 胡桃(ja2617)

卒業 女 ダアト
ブレイブハート・
若杉 英斗(ja4230)

大学部4年4組 男 ディバインナイト
起死回生の風・
フィル・アシュティン(ja9799)

大学部7年244組 女 ルインズブレイド
陰のレイゾンデイト・
天宮 佳槻(jb1989)

大学部1年1組 男 陰陽師
籠の扉のその先へ・
Robin redbreast(jb2203)

大学部1年3組 女 ナイトウォーカー
縛られない風へ・
ゼロ=シュバイツァー(jb7501)

卒業 男 阿修羅