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マスター:佐嶋 ちよみ
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
参加人数:7人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/04/01


みんなの思い出



オープニング

●畜生/哄笑
「やるならハデに。それが小生のモットーでして」
 闇に嗤う影が在った。影を這いずる闇が在った。
「まぁ、おそらくは、久遠ヶ原学園の皆様が『あれ? 外奪は?』とか仰ってそうなので、そろそろ行きますよ皆様方。悪魔のウザさ、彼等の尻に焼き刻んで差し上げましょう! 突撃ー」
 腑抜けたような、ふざけたような指揮であった。
 けれど、各地へ向かってゆく悪魔部隊はまるで百鬼夜行。もしくは血管を通る冷たい毒。不気味で、恐ろしく、慈悲など無く。
 それは『恒久の聖女』の再来に対し、久遠ヶ原学園が撃退作戦に出た直後の出来事であった。

 外奪率いる冥魔部隊、各地のアウル覚醒犯罪者専用刑務所を襲撃。

 冥魔達の手には奇妙なラジオめいた道具があった。
 そこから流れ続けるのは、テレビで流れているモノと同じくゐのりの『声』。破壊された監獄から『救出』された囚人が、その声の従者にならぬ理由などなく。

 ――混乱は狂乱へと、頽れてゆく。



●迅雷
『Hey、そこのフリーランス。今から至急、西の『監獄』へ出向いちゃくれないか』
「アロー。……俺のバイクにGPSを仕込んだ記憶は無いんだが」
 久遠ヶ原の風紀委員・野崎 緋華(jz0054)からの連絡に、学園卒業生のフリーランス撃退士・筧 鷹政(jz0077)は顔をこわばらせた。
 書類整理との死闘を終えた後の、軽い運動がてらに任務を終えた直後。家路の途中。路肩に愛車を止めて、通話に応じる。
「風紀委員からの連絡とあっちゃあ、断るわけにもいかないが、俺が首を突っ込んで良い案件なワケ?」
『立ってるものは親でも使え。孫の手だって借りたいくらいなんだよ卒業生。『恒久の聖女』は知ってるね』
「ああ、久遠ヶ原が摘発に動いて―― えっと、監獄ってことはつまり」
 アウル覚醒犯罪者専用刑務所――通称『監獄』。撃退士ですらない者たちが、罪を犯した際に、詰め込まれる場所。
『忘れたつもりも油断したつもりもないけどね、襲撃された。暴れるディアボロに紛れて洗脳装置もご一緒だそうだ』
「洗脳?」
『簡単に言うと、服役囚・刑務官双方が『洗脳』状態に落とされてる。
詳細な原因は不明だが、『恒久の聖女』生存者・ゐのりの『声』が絶えず流されているらしい。
当たり前だけど『京臣 ゐのり』は一人しかいない。その『声』がアチラコチラで流されてるってことは……擬態、複製、遠隔、そんなところだろうか。
音が出るってことは、『出どころ』があるって考えてもいいかもね』
「なるほど」
 第一報では、
 服役していたアウル覚醒犯罪者が『洗脳装置』に踊らされていること、
 刑務官の中にも影響が出始めていること、
 つまりストッパーらしいストッパーが無く、めくるめく暴力と暴力と暴力が展開されていること、
 以上だけが伝えられており、それが今だ。
『こっちで作戦を纏め上げて転移装置で向かうのと、筧くんが直接向かうのとでは、そちらが早い。
先に様子を伺って、情報を流してくれるとベター。寂しくないさ、あたしも向かう。服役囚は何とかするから、暴れる化け物を相手取ってよ』
「お安い御用と言いたいけど、知っているかい、俺は戦闘任務を終えたばかりでですね」
『だから、手加減考慮不要で殴るだけOKのディアボロを譲ると言ってるのよ。返事は?』
「Yes,ma'am」



●逆行カノン
 個が二つ以上存在すれば、何がしかで優劣はつけられるものだ。

『良いなあ、タカにぃ。風邪一つ引かないで、いつだって元気で』
 病弱だった従妹は、今や立派な一児の母。
『良いわね、タカは。成績が悪くたって、誰に責められるでもない。誰も叱らないから私が叱る、全教科赤点とはどういうことなの。そこに座りなさい』
 口うるさい双子の姉は―― ずっと、この調子だが。
『筧、オレはお前が羨ましい。それだけ面の皮が厚ければ、どんな世の中だって渡っていけるさ』
 くっそ宮原、撃退士としての相棒は、その生涯を終えるまで皮肉しか言わなかった気がする。

 羨ましい。
 そう言われることもあれば、鷹政自身がその感情を抱くこともある。
 けれどそれは『優劣』の言葉で割り振りされる類ではない。
 が、そう思っているのは鷹政だけであって、相手が実際にはどうだったか――
 たとえば、アウル覚醒以前・学生時代の鷹政は、剣道場へ通う傍らで各種運動部の助っ人要員だった。
 どこか一つに根を下ろすことは無かったが、人並み外れた運動神経で『ジョーカー』扱いされていたことは確か。
 助っ人報酬は主に学食で、それで食いつなぐ姿が同情を誘い、妬みやっかみ嫌がらせといったことにはならなかったが。
 必死にレギュラーを狙う真面目な部員からは面白く思われていなかっただろうと、今にして思う。

 『恒久の聖女』。アウルを持つがゆえに虐げられし者たちが、心寄せる処。
 幸いにも不幸にも、鷹政は『彼ら』の気持ちが、わからなかった。想像はできるけれど、想像にしか過ぎない。
 
 犯罪に手を染めること自体は、簡単だ。
 誰にでもできる。
 アウルの力があっても、無くても。
 人間でも、天使でも、悪魔でも、混血でも。

 やるか、やらないか。それだけだ。そう思う。

 嬉しい。憎い。悲しい。楽しい。
 感情の波は、追掛ける、追掛ける、追掛ける。
 時として反するものが、ぶつかり合い、すれ違い、それでも追掛ける。
 
 人里離れた頑強な砦の如き場所で、素直に心を入れ替えるモノが、どれだけいるだろう。
 刑期を終えた未来を、明るいものだと信じているのは。
 この混乱に乗じ、彼らは何を望む?

 ヒトは――心持つモノは。
 何を機に、その価値観を変えるに至るだろう。
(もし)
 ――もし。機会があるとしたなら……
「チャンスをつかむのも自己責任! ま、やれるだけやりましょう」
 『監獄』手前でバイクを乗り捨て、煙が所々で上がる建物へと鷹政は向かって行った。

 建物内部から、少女の『声』とディアボロの暴れる音が途切れ途切れに響いていた。





リプレイ本文


 蒼天へ、一条の稲妻が閃く。昇り、落ち、そして屋根の辺りで爆発する。
 盛大な音をたて、頑強な建物がガラガラと崩れる。その周囲には、チカチカと光を透かす羽持つ雷精。
「あーあぁー……」
 見上げ、砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)が呆れにも似た声を出す。
「なんだか嫌ァなとこですねぇ」
 空いた穴から、現在地では不明瞭だが『声』が響いていることはわかる。
 連絡手段の確認をしながら、百目鬼 揺籠(jb8361)は眉間にしわを刻んだ。
「どっぷり悪魔の手を借りて、京臣ちゃんは何処へ向かいたいのか……。やってる事、ただの復讐だよね」
(懲りないねぇ……。と言うかますます拗れちゃってる感じ?)
 京臣ゐのり。彼女が、『ここ』ではなく今回の事件本体に居ることはわかっていた。
 先の制圧戦で、彼女の信奉する聖女も朋友も命を落とした。それ故に、『今の』彼女がある――ともいえる。
 竜胆は昨年の騒動を思い起こす。
「なんにせよ、彼らは利用されて良い存在ではないし、ここで死んで良い存在でもありません」
「……とりあえず、目の前の事から片付けましょーか」
 揺籠の言葉に、力なく頷きを返すばかりだ。
 犯罪者とはいえ。
 洗脳されているとはいえ。
 利用されているだけの者に、不要な罪を重ねさせるわけにもいくまい。
「『恒久の聖女』は単純にココで騒ぎを起こしたかっただけなのか、それとも戦力を増強したいのか……」
 監獄の見取り図を確認しながら呟くのはエルム(ja6475)。
(後者なら、味方としたアウル覚醒者を収容するためになにか手を打っているハズだけど……)
 大人数を移動するための手段。
 洗脳状態のまま、自力で何処かへ向かうような指示でも出すのだろうか。そんなことが可能なのだろうか。
「……ん、ボクたちは敵を倒しますの」
 考えても仕方がないと、振り切るように橋場・R・アトリアーナ(ja1403)は前を向いた。
 戦場はすぐそこ。
 入り口前に、赤毛の撃退士の姿がある。こちらに気づいて手を挙げている。
「筧さん、お疲れ様です。大丈夫ですか?」
「どーも。えっとエルムさん、だね。今回はよろしく。俺の方は掠り傷――……」
「掠り傷だって、先に治しておくよ。か弱い僕を護って貰わなきゃいけないし」
「うは。ありがと、砂原君」
 キリッと表情を作り、竜胆がライトヒールで筧の体力を回復する。
「鷹政さんお待たせ。……で、その、もうひと踏ん張りお願い」
「へーき、俺も今きたトコー。なんて。加勢サンキュ、黎。で、どういった作戦で?」
 疲れているだろうに、と案じながらも共闘必須の状況へ、申し訳なさそうに常木 黎(ja0718)が呼びかけた。
 戦場デートも慣れたものだと、筧は笑いながらの。
「被洗脳者対応部隊との協調を以て事態を打開したいと思います」
 作戦、という言葉へ応じたのは只野黒子(ja0049)。
 目元は前髪で隠され、表情が読みにくい。
「全体は北方へ向かってゾーンプレスを掛け、被洗脳者対応部隊の捜索範囲を拡大していく形ですね」
 黒子自身は中央に在る中央刑務官詰所周辺にて、連携仲介や周辺制圧にあたるとのこと。
「オッケ、確かにあの位置が一番見通しが良い設計だね。何かあったら、連絡を頼むよ」
 放射状に独房が配置されているのは、少ない手勢でも速やかに房の様子を確認できるようにという工夫だ。
 おそらくは、黒子もそれを読み取ったのだろう。
「行きましょう。ボクたちじゃなくちゃできないことが、待っています」
 翠と漆黒のメタリックカラーで構成された、人型戦闘マシン――本来の悪魔の姿でもって、ヴァルヌス・ノーチェ(jc0590)は一行を促した。



●Go to the EAST
 ――全てのアウル覚醒者に告ぐ。我々は選ばれた存在であり、この世界の正当なる統治者である。
 ――劣等種は我等に何をした? 心の中では異形と罵り、化物と厭いながらも、利用する為に擦り寄って来る。
 ――全てのアウル覚醒者よ、我等優等種の未来の為、世界の為……――

「迷い事を! その程度で救われるなら、生きるのはずっと楽だろ!」
 天へ向かい、ヴァルヌスは叫ぶ。
「こんなの妄言だ。ただ力だけをもって他を滅するなら、それは天魔と何が違う?」
 悪魔のヴァルヌスだからこそ、人界を選んだヴァルヌスだからこそ、その気持ちは深い。
(破壊された独房、から…… すぐさま逃げるってェわけじゃなし、囚人たちは何を?)
 東班。
 揺籠は、行く手を阻む雷精へ弓による先制攻撃を与えたのちに武器を替え、最前線へと進み出る。
 被洗脳者たちの姿は、すぐには見えない。
「あー、ストップ。独房の中にいるみたい。手前から二部屋に2体ずつ雷精、被洗脳者は3人だね」
 竜胆の生命探知にヒットした。微妙な高さの反応は、恐らく雷精と見ていいだろう。
 ディアボロと人間が、同じ場所に居る。その意味は……
「……『優』優しいという字は、人を憂うと書く。そして優という字は、優れるとも読む。人を思うこと、優しさを無くした人間が、天魔よりも優れるわけがない!!」
 一撃加えるだけで崩れるほどに、壁は脆い状態へと細工されていた。
 撃退士の接近に合わせて、『敵』が通路へ躍り出る。奔る雷撃を受け止め、ヴァルヌスは叫んだ。
「罪はきちんと償わねぇとなりません。――こんなとこで、殺しゃしませんぜ」
 自分たちの声は届かないと見て、揺籠は被洗脳者たちを連携班へ託すことを選ぶ。ディアボロの懐へ飛び込んで蹴りを一撃、それから前方へとすり抜ける。
 穴を埋めるように竜胆がそこへ入り、雷精たちが散らばる前に火球の圏内に収めた。
「雷のお返し、で」
 悪戯っぽい声と裏腹の、辛辣な一撃。
 通路目いっぱいに豪炎が炸裂する。魔道の炎はディアボロだけを消し炭へ。
「データ補正良し、目標をセット…… Feuer!」
 負傷を厭わぬヴァルヌスが追撃を掛ける。
 雷精、4体撃破。
 撃退士として修練を積んだ三人の本気の脚力へ、覚醒しただけの囚人たちは追いつけず罵声を飛ばすだけだった。
「ノーチェちゃん、焦げてるよ」
 次の戦いへと入る前に、竜胆が癒しの魔法をヴァルヌスへ。
「……あ」
「回復は、お兄さんに任せなさい。体力は温存しながら進もう」
「ありがとう、ございます」
 柔らかな光が、ヴァルヌスを包む。あたたかい。
(……そうだ。ボクはそれに強さを感じるから、人が好きなんだ。戦いで壊すより、平和を維持する方がずっと強い意思がいるから、それに憧れるんだ)
 人を思うこと。優しくすること。
 心が荒れるような戦場においても、忘れずにいること。
 悪魔だからと特別視しない竜胆の態度に、ヴァルヌスの心は救われる。
「ここに捕まってる奴らも、聖女に縋る奴らも、かつての『妖怪』なのかもしれません」
 既に潰された独房を遮蔽物として身を潜め、先を伺っていた揺籠がそんなことを口にする。
「手を差し伸べてくれた人が居なかったり違ったりしただけでさぁ」
「妖怪…… ですか」
「行き場を見失った物の怪に、道理は通じにくい。ただ、難しいだけで無理じゃあない」
 命を取るだけが答えではないはず。
 線を引き、蔑むことが解決ではないはず。



●In the WEST
『東班、雷精4体撃破しました』
「こちらは2体撃破、……で、2体と遭遇。東西、同じバランスなのかな」
 全体の中継を担う黒子からの情報を得て、黎は敵の数をカウントしながら予想を立てる。
 総数は把握しているが位置がわからない場合、撃破数の把握は重要だ。
 どこで倒し、未制圧箇所はどこか。
 そこから導き出せる事象もある。
 頭の中をキンと冷やし、黎はバレットストームで敵に対して先手を取る。
 アウル弾の猛雨と刺し違えるように、二筋の雷撃が走ってきた。アトリアーナの足元を狙うそれは、一撃目こそ回避できたが、タイミングが遅れて届いた二撃目が手痛いダメージとなる。
「……止まりましたね? 逃がしませんの、まとめて……おちるのですの」
 しかし、少女は痛みで攻撃の手を止めたりなどしない。 
 瞳の紅。両拳の黒。宿すアウルが共鳴し、膨れ上がっては炸裂する!
 紅黒攻撃――二重の波動が雷精を襲う!
「橋場さん!」
「後ろ!」
「っ」
 前方に意識が集中していたアトリアーナの背後――潰された独房の瓦礫に隠れていた――から、鉄パイプを手にした囚人が襲い掛かろうとしていた。
 筧が鋭く声を発し、黎が回避射撃の要領で鉄パイプをピンポイントで落とす。舌打ちをして破れかぶれとばかりに体当たりを仕掛ける相手を、アトリアーナは難なく躱す。
 囚人の男は勢い余って逆方向の壁へ激しく激突した。鈍い音がする、恐らくは肩が砕けたのだろう。
 その間に、筧が最前線へと上がり太刀を横薙ぎにして眠りに落ちていた雷精二体を斬り払う。道を開く。
 全速力でその場を後にしながら、エルムは被洗脳者対応班へと連絡を入れた。
「こちら、ディアボロ対応班。被洗脳者、一名確認しました! 応援、お願いします!」
(不愉快な声を止めないと事態は収まりませんか)
 洗脳を促す『声』の所在は、特定できないまま。アトリアーナは天井を睨んだ。
「……兎に角、今はこの騒ぎを収める事に尽くすのです」
(幸い、服役者や刑務官はもう一グループが対応してくれるので……やる事はひとつ、敵を倒し進むのですの)
 細やかに連絡を取り合いながら、互いに不安な個所を潰しあう。
 現状において脅威と言えるのは、数の多いディアボロと音源の所在不明な『洗脳装置』だろう。
「神使……、通路の先に、今、見えました」
 弓を手にしたエルムが呟く。西側は潰されている独房も多く、見通しが良い。
 その中で、大仰な翼と揺れる金髪は嫌でも目につく。
「待って、アトリアーナちゃん。足を見せて」
「これくらい、大丈夫ですの」
「『大丈夫』なうちに、手当てしておかないと、ね」
 避けそこなって脚に受けた稲妻の痕跡を、黎は見逃していない。応急手当で素早く治療を施す。
 指揮官の姿こそ目視圏内に収めたが、ディアボロ全てを撃破したわけではない。
 指揮官を倒せば配下が離脱する確証もない。
 まだまだ予断を許さない状況は続く。



●cross
(そろそろ、動くところでしょうか)
 中央詰所周辺の制圧を終え、被洗脳者たちの保護も目途がつき始めてきた頃合い。
 黒子は武器を手に、メンバーとの合流へと動き始めた。
 流れて来る情報をまとめると、1Fに居た雷精・12体は撃破完了。指揮官である神使、その周囲に3体が護衛のように纏わりついているとのこと。
 残る5体は2Fを浮遊しているのだろう。
 不快な『声』は未だ止まない。少なくとも1Fの独房内に音源は無かった。
 連動している被洗脳者対応班からは、既に2Fを探索している連絡も入っていた。
 重要なアイテムだ、指揮官が守っていると見るのが妥当だが、それ自体がブラフだった場合は他班の動きが重要になってくる。
「女の子は来る者拒まずなんだけど、肉食過ぎると引いちゃうなー」
 雷精の遠距離魔法に、当人のチェインフレイル。距離を武器とする神使へ、竜胆は乾いた笑いを浮かべる。
「……指揮官、見つけましたの。指揮を潰させてもらいますの」
 ゆらり、アトリアーナがアウルを左瞳に集中させた。
 ギガントチェーンを握る手に、赤い光が残像のように舞う。

 ――チカリ

 その一方で。遠く、何かが光った。雷精が使用したものだと黒子が気付く、次の瞬間に巨大な雷球が爆発し、対神使戦に集まっていた撃退士たちを跳ね除ける。
 味方の能力を上昇させるスキルがあるという情報だったが、恐らくはそれか。
「鷹政さん、ストップ! 来るよ」
 最前線にいた筧へ向けて追撃弾が発されたことに気づいた黎が、すかさず回避射撃で軌道を逸らす。
「護りの手駒は使い果たしやしたね? 今度はこちらが攻め込む番でさ!!」
 翼へ変化させた布を纏い、揺籠は足場に囚われぬ低空飛行で神使へと左腕を伸ばす。
 白い装束、その首元。捕え、視せるは百目ノ鬼ガ夢。強制的に、意識を刈り取る。
「アウル形成、スクリューウィップ射出!!」
 間髪入れずに、ヴァルヌスがドリル状に高速回転する鋼の鞭を射出した。
「もう、一撃……!!」
 揺籠とヴァルヌスの連携が決まり、指揮官が崩れ落ちる間にも、黒子が背面を突いて残る雷精討伐に当たる。
「ボスを倒して安心とはいきませんしね」
「ここには、洗脳装置はないようです」
 弓から愛刀・雪華へと持ち替えたエルムが、同じく雷精を切伏せながらザッと確認を終えた。
「二階にもディアボロはいますし、向かいましょう」
 音の大小で場所を特定しようとも考えたエルムだが、途中で頭痛が酷くなり諦めていた。
 アウル覚醒者に有効な、『唆し』の魔力が籠められた洗脳の声。
 そんなものに意識を左右されるほどぬるい修行を積んできた覚えはないが、集中して聞き入るものでも無いようだ。

 ――洗脳装置発見、破壊完了しました!!

 『声』が止まり、他班から連絡が入ったのは―― その時だった。




 潰された東階段、その南方・角に在る、潰された刑務官詰所にラジオの形をした『魔道具』が置かれていたという。
 東階段そのものは瓦礫で封鎖され、通ることはできない。
 西階段まわりで、最も遠い場所――敵が制圧済みの場所。
 そこから、歪みの音は発信され続けていたわけだ。


(もう少し、データが取れれば良かったのですが)
 人知れぬ場所で、黒子は手ごたえの弱さに嘆息していた。
 建物自体が特殊な配列で、敵の配置もランダムで、被洗脳者というイレギュラーも乱入する中、今回の結果は決して悪くはなかっただろう。
 自分たちに課せられたのはディアボロへの対応。殲滅に集中という意味では過不足は無かった。
「非常時における、速やかな行動・連携・予測ならびに対処パターン…… 試されてくるのでしょうね、恐らくは」
 同タイミングで散発した、今回の事件。
 そのこと自体の意味を考え、少女は『次』の戦争へと思考を走らせる。
「お疲れ様……体は、大丈夫?」
「つかれたーー」
 瓦礫に腰を下ろして足を投げ出す筧を案じ、黎がしゃがみ込んで救急箱を取り出す。
「今日は、銃火器類もってなかったの? 盾だってあったよね」
「無いこともなかったんだけど、切羽詰った時は相性のいいモノを手にしてたくってさ」
 状況選択の幅を敢えて狭めて、集中したかったのだと筧が答えた。逆を言えば、それだけ彼には余裕が無かったのだろう。
「雷球をまともに喰らった子は他に居ないかい?」
 全てが終わり、味方の手当てをしていた竜胆が顔を上げる。

 ――それにしても。

「僕は幸い聖女様達の気持ちは分からない。想像して同情もしない。納得出来る材料探しなら……、まあ気が向けば手伝うけどね」
 此処には居ない、聖女を継ぎし少女を思い浮かべ、青年はそんなことを呟いた。




 ひとつの戦いは終わった。
 けれど、これは序曲に過ぎないと―― きっと誰もが、気づいている。





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