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マスター:佐嶋 ちよみ
シナリオ形態:ショート
難易度:やや易
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/02/19


みんなの思い出



オープニング


 2月。
 年末年始や冬休みのラッシュを乗り越え、スキー場も繁忙期ながら少しだけ穏やかさを取り戻す頃。
 御影 光(jz0024)のもとへ、一本の電話があった。
「あっ、お久しぶりです。今年もお世話になります。ええ、3月頃に――……え、これから?」
 相手は、光が冬季の自主訓練で世話になっているスキー場にあるペンションの老婦人だ。
 一昨年は天魔被害にも遭い大変だったが、それからはトラブルもなく平穏に過ごしているようだった。
『御影さんの予定が合えば、なんだけど。うちの人が、ケガで入院沙汰になっちゃってねぇ。一泊二日くらいで良いの、留守を頼めるかしら』
「それは御愁傷様です……。でも、留守を預かるって、私で良いのでしょうか。そんな大役」
『平日に、宿泊客が途切れるところがあるのさ。お友達を誘ってくれていいから、室内清掃や雪かきをしてもらえると助かるわ』
「そ、それは安心いたしました。さすがにおもてなしは素人には。ふふ、ありがとうございます。それでは、お言葉に甘えて」
 ――心置きなく鍛錬にも打ち込めるわよ
 悪戯っぽく囁かれた言葉に、自然と笑みがこぼれた。




「いつもはスキー場内で足腰やバランス感覚を中心にしていましたが、ペンションの敷地も使えるとなると……」
 ノートを広げ、記憶を頼りに簡易な地図を描きだす。
 老夫婦で経営しているペンションで、小ぢんまりとしたもの。
(宿泊客が居ないなら、アプローチのスペースで簡単な実戦訓練もできるでしょうか)
 ゆったりとしたあのスペースで、刀を振るうことが出来たら気持ちいいだろうなぁ、なんてコッソリ考えていたのは内緒であったが、まさかのチャンス。
(お食事も、わいわい作って…… あ、もうすぐバレンタインですか……甘いものも、何か)
 斡旋所へ向かいながらぼんやりしていると、廊下の曲がり角で誰かと衝突した。
「あたた、すみません、おケガはありませんか?」
「あたしなら平気、そっちは? ずいぶん、嬉しそうな顔をしてたけど」
 相手は、風紀委員の野崎 緋華(jz0054)だった。アイスブルーの瞳が愉快げに光を見下ろしている。
「これから斡旋所?」
「はい、スキー場にあるペンションで……。そうだ。野崎先輩は、インフィルトレイターでしたよね」
「そう、だけど」
「雪中戦闘に興味は?」
「………………」
「ッ!?」
 素朴な問いだったのだが、急激に緋華の表情が温度を下げた。光はたじろぐ。
「何か、あるの?」
「え、ええと……」
 声は冷ややかだったが、微かに興味も交じっている。
 光は要点をかいつまんで、今回のことを話した。
「なるほど、それで、ね。いーなー、いーねー。近接戦同士の組み手も良いけど、銃撃が混ざるのもアリだと思わない?」
「はい。先輩が宜しければ、ご一緒しませんか」
「嬉しいな。作戦の練り甲斐もありそう。ああ、それと自炊なんだっけ」
「はい。ペンション内の清掃と、皆のごはんと…… 手分けしながらだったら、お菓子を作る時間もあるかなとか」
「お菓子」
「バレンタインも近いですし、そういう鍛錬を」
 学校、自宅、寮。そういった場所で練習をするにしたって、作ったものを自分一人で食べるのも大変。
 こっそり練習するのも大変。
「【戦闘鍛錬】と【お菓子鍛錬】の2コースってわけね」
 バレンタインと言えば、女子から男子への甘いイベントがメインであるけれど、最近では友情だったり感謝だったり意味合いは多岐にわたる。
 それを名目に、甘いものがたくさん食べられるという時期でもある。
 宿泊は全員が個室だというし、参加者に男女の差を付ける必要はないだろう。
(女子高生一人が主導ってのも…… 危なっかしいって自覚が無いわよね、この子)
「野崎先輩?」
「なんでも。裏方はあたしがサポートするから、光ちゃんは両方の鍛錬をがんばりな。ね?」





リプレイ本文


「うわー、雪がいっぱい! 久遠ヶ原とは、ずいぶんちがうんだねぇ」
 ペンションへ到着し、草薙 タマモ(jb4234)は銀世界に負けないくらい瞳を輝かせた。
「遊びに来れるなんて、楽しいな!」
「えーと、鍛錬合宿…… ですよね」
 笑顔のタマモへ、北條 茉祐子(jb9584)が目をしばたかせる。
「え、鍛錬!?」
「バレンタインサバイバルナイトを勝ち抜く為の、スキルアップとなりますよう。先輩方、どうぞよろしくお願いいたします」
「お菓子作り!? やっぱり遊ぶんじゃん!」
 恭しく頭を下げるレティシア・シャンテヒルト(jb6767)の言葉に、天使の少女は安堵の笑顔へ戻った。
「誰がどういうチョコを作るのか、私気になってしまって…… ぽっ」
 頬に両手を添えて恥じらうのは、村上 友里恵(ja7260)。
 作ることも楽しみだけれど、皆で試食も非常に楽しみ。色んなチョコレート、お菓子、想い、きっと素敵に違いない。



●鍛錬、戦闘編!
「高いところの雪おろしなら俺がやるよ」
 防寒具とカイロで寒さ対策も万全な龍崎海(ja0565)が、陰影の翼を広げて見せた。
 バルコニーの雪下ろしも、リクエストが多かったのでついでに請け負うことに。
「雪は……堆雪場に投げ捨てても良いけど、鍛錬時のフィールドに遮蔽物を作るのはどうかな」
 高さは胸程度、等間隔。
 着々と、戦闘鍛錬の準備は進められていった。


「最初に来たのが二年近く前か。あの頃も今も、少し血の気が多過ぎたな……」
「もう、そんなに経つのですね。こうしてまた訪れることが出来て嬉しいです」
 水無月 神奈(ja0914)と御影は思い出話をしながら、模擬戦の準備を進める。
「真剣は不慮の事故が怖いが、見たところ竹刀より刀が振るいたいようだな?」
「えっ。ほ、ほら、相手が神奈さんだから、思い切り胸を借りられますし!」
「実戦形式ならこちらの方が良さそうか。光の成長は早いが……、まだ負けてやるつもりはない。存分にやろう」
「はい!」
 二人の剣士は、白刃を向け合った。

(速い)
 二人の立ち合いを見学しながら、茉祐子は瞬きを忘れる。
 スピードだけなら御影が上、しかし神奈が的確に攻撃を捌く。力押しの打ち返しではなく、流れに沿って払って距離を取る。
(水無月先輩が…… 押されている、わけじゃない)
 払われた御影の刀が、スイと遮蔽物の角を切り落とすたびに、少しずつ視界が開ける。
 ――『場所』が作られているのだ。
「危ないっ」
 茉祐子が思わず声を上げる。
 神奈が足払いを仕掛ける、御影が後方へ跳躍し回避する。遮蔽物に上がり、そのまま大上段に――
「引っかかったな」
 振り抜いた刀から、風の衝撃波が御影の足元を狙い飛ばされる! 空中では避けきれない、バランスを崩した御影の身体が落下し――
「勝負あり、で良いか?」
「負けました」
 切り結ぶことに意識が回り、スキル運用を失念していた。
 御影が、ペソリと肩を落とす。
 雪にまみれた少女へ、神奈は手を差し伸べた。


「よろしくお願いします」
「あたしが茉祐子ちゃんの勇姿を見るのは今回が初めてか。楽しみにしてるよ」
(経験の差を考えると、勝負にならないような気がしているんですが……。でも、全力でぶつかっていきます)
 愛用の和弓を手に、茉祐子は深々とお辞儀を一つ。
 対する野崎は、ショットガン。射程は同じくらいか。
(ただの、屋外戦とは違う…… 自然、それも『雪』は特別ですね)
 剣士たちの動きから注意点を読み取っていた茉祐子は、遮蔽物を削りにくる野崎の弾丸を躱しながら機会を伺った。
 キラリ、キラリ、白銀の雪が視界に舞う。反射しては目に痛い。
 まずは『慣れる』こと、そして足場をしっかりと保つこと。
 遮蔽物から遮蔽物へ移動しながら、茉祐子は確認してゆく。確認作業が不自然と思われないよう、牽制攻撃を交えて。
(迷いのない矢だ、性格が出るよね)
 無駄撃ちのない攻撃を、野崎はそう解釈していた。
「さて、そろそろ隠れる場所もなくなって来たねぇ……、どうする!?」
 今までより大きめに身を乗り出し、野崎は茉祐子の隠れていた遮蔽物を吹き飛ばした。
「隠れられないなら、隠すまでです」
 雪の塊が飛び散る――それに乗じて、砂嵐が舞った。
「!?」
 野崎の狙った先に、茉祐子は居ない。
 彼女の攻撃に合わせてサンドストームを巻き起こした少女は、そのまま直進して野崎の背後に回り込んでいた。
「……武器が、一つだけだとでも?」
 野崎の背へ、茉祐子が番えた矢を突きつける。
 野崎は、後ろ手に苦無を構えていた。
「なんて、ネ。背後を取られた時点で、あたしの負けだ。撃ちあいだけが遠距離戦じゃない。勉強させてもらったよ」


 最後は、二対一の模擬戦だ。
「ルールはスキルなしで、戦闘不能や気絶判定に降参したら負けって感じでいいかな」
「わかりました」
「……骨が折れそうだよね」
 スキル無し、とは言え。相手は鉄壁の盾たるアストラルヴァンガード・海。
 御影と野崎は、顔を見合わせ肩をすくめる。
「そのままだと、長期戦になりそうですよね……。制限時間を5分として、より有利な状況にあるほうが勝ち。どちらとも言えなければ引き分け、と言うのはどうでしょう?」
 茉祐子が提案し、時間制が採用された。いずれ、途中で戦闘不能になるようであれば、そこまで。

(雪上戦、というのも普段とは違う雰囲気で勉強に、なるな)
 海の槍と、御影の刀がぶつかり合って火花を散らす。その足元を野崎の銃弾が狙った。
「光ちゃん、がんばってー」
 棒読みの声援と共に、援護射撃が飛ぶ。
 御影の攻撃は、海にしてみれば軽い。正面から切り込まれれば、受け流す・薙ぎ払うといった対応ができる――野崎の横やりが無ければ。
 スキルの使用は不可としたけれど、雪原を狙って攻撃されれば舞い散る雪で視界は遮られる。煌めく白刃が直視を妨げる。
 軽い攻撃も重なれば、寒い状況で確実に体温を奪う。
「あまり、のんびりもしていられないか」
 海は大振りに槍を旋回し御影の攻撃を弾き飛ばす、その隙に野崎に対して魔法を繰り出し、遮蔽物ごと襲った。
 魔法書から槍へ、再び持ち替えるより―― 御影の立て直しが、早い。
「チェックメイト。どうかな?」
 海の背後へ回り込む御影と、正面から銃口を突きつける野崎。
 ただし、三人とも傷だらけ。
「――時間です。引き分け…… でしょうか?」
 茉祐子が、試合終了を告げた。



●鍛錬、お菓子編!
 一方。
 館内清掃を終えた面々が、広いキッチンでお菓子作り鍛錬を開始。
「皆で大きなチョコケーキを作るのです♪」
 うきうきと、友里恵が計量を始める。
「目標は3段ウェディングケーキを超えるものですね。楽しみです」
 自身の試作準備を進めながら、ファティナ・V・アイゼンブルク(ja0454)は友里恵へ頷く。
「素材は拘りますよ、こちら、高級板チョコです。ケーキに使うチョコクリームは私にお任せあれ!」
「ファティナ…… それを材料にするのか」
 ゴのつくブランド品だ。強羅 龍仁(ja8161)も流石におののく。
「美味しさ、楽しさに手抜きはしませんよ♪」
「そうだな、だったら…… ホワイトチョコやビターも織り交ぜて、味が単調にならないよう組み立ててみるか」
「お菓子は作るより、食べる方が得意なんだけどなぁ」
 ヒョイと覗き込みながら、タマモは自分は何をしようかと首を捻る。館内清掃を頑張ったので、実はすでにちょっとお腹が空いている。
(私にもできることってなんだろう……)
「あっ、よくわからないけど、私混ぜたい!」
「うん? タマモがやるのか。けっこう力仕事だからな、根気強くな」
「……私、技術ないよね」
「それを身に着けるための鍛錬ですよー。楽しめばいいのですから」
 ショボンとする少女へ、ファティナが泡だて器の持ち方から教え始めた。


 スポンジケーキが、次々と焼きあがる。
 チョコレートの良い香りが室内に広がっていた。
「お疲れ様ですー! うわあ、良い香り!」
「お帰りなさい、光さん♪」
「ファティナ先輩は、何を作ってらっしゃるんですか?」
 模擬戦を終えた御影が、エプロンを付けながら駆け寄る。
「フォンダンショコラのストロベリーチョコverです。抹茶はマスターしましたが、ストロベリーはまだ完璧ではないので」
「七色……では、ないです?」
「贈り物ですから……」
 いつぞやの出店で食べたものを思い出した御影へ、ファティナが苦笑い。
「光さんはお料理特訓中と聞きましたし、出来る限り教えさせて頂きますね。どういったものを?」
「えーっとですね、プチシューなんですけど…… チョコを掛けて……」
「プロフィットロールでしょうか?」
「それです! 小さく作って、積み重ねて……」
「シュー生地さえ上手く作れれば、少ない手間でたくさん用意できますものね。シュー生地さえ」
 問題は、そこです。


 湯通ししたレーズンをラム酒へ漬け込む間に、洋梨のコンポート作り。
 レティシアは手際よく進めてゆく。チョコレートは温度管理が命、室内温度も調整も彼女が担った。
 贈る予定は、すでにある。その人の好みに合わせて、甘さは控えめ、大人っぽくシックな味わいを目指す。
「……たとえば。たとえばですが。チョコを渡すなら、どのタイミングが正義だと思います?」
 その合間に。さりげなーく、話題を振ってみる。
 女子一同の手が止まった。
「二人きりの夕食の後に…… というのも、素敵ですよね」
 なんてことをいえるのは、恋人がいるファティナ。
「『果たし状』を忍ばせて、校舎裏で手渡しというのも…… ぽっ」
 斜め上に行くのが友里恵か。




 甘いチョコレートの香りにカレーの香りが混じっての、夕食時間がやってくる。
「カレーなら文句は出にくいし、余ったら朝の分に回せばいいよね」
「同じことを考えていたな」
 用意をしたのは、海と龍仁の男性陣だった。
 見事な限界突破5段チョコレートケーキ(頂上の一段はプチシューのチョコレート掛け)、
 ファティナのフォンダンショコラストロベリー、
 タマモと友里恵のハート型チョコ(友里恵特製チョコは、コインが入っていたら当たりです!)、
 龍仁は種類豊富にマフィンやブラウニー、クッキーといった焼き菓子を。
 レティシアはラムレーズン入りのトリュフに、洋梨コンポートのチョコレート掛け。
 そして御影のプロフィットロール。不格好だが、中のクリームはファティナ仕込だ。
 テーブルの上は、そうそうたるものだった。
「……『誕生日おめでとう』? それに、桜の飾りって」
 限界突破ケーキのデコレーションに、野崎は笑う。
「テーマは『季節感無視』です。寒さが続いてるので、暖かい季節も混ぜてみました♪」
「楽しそうで非常にいいと思います」
 友里恵の悪意なき善意に、野崎の腹筋が辛い。
「御影さんには、私から…… これ、食べて下さい…… ぽっ」
「えっ、良いんですか、村上先輩。えへへ、嬉しいです」
「後でステキなプレゼントが贈られる当たりコインで、幸せにしてあげますね♪」

 甘味と笑いに包まれて、夜は更けてゆく。




(あの時もこうして眺めたが……今と昔とでは違うものもある、か)
「光、寒くはないか?」
「防寒対策はバッチリ。雪って、たっぷり積もると暖かいんですよね」
 赤いダッフルコートを羽織り得意げな表情の御影へ、神奈も少しだけ口元が緩む。
「私は……、光の笑顔が好きだ」
「……」
「これで二度目だが…… 想いが届くなら、何度でも伝える。光――」
「神奈さん」
 言葉を、御影が遮った。一歩、後ずさる。距離を置く。俯いて、表情は見えない。

 ――時間を、いただけませんか?

 想いを告げられ、御影がそう応えたのは昨年の夏だ。
 姉のように慕う相手からの告白は、ただただ驚きでしかなかった。
 友人ではなく。先輩後輩ではなく。姉妹ではなく。
 それが、どういったものか――その先に、何があるのか。どう、なるのか。
 御影なりに、考えてはいた。神奈もまた、待ってくれていたのだと思う。待ちながら、御影の窮地には駆けつけ、手を伸ばしてくれた。
「わたしは、私にとっては、神奈さんは大切なひとです。他のだれとくらべるとか、そういうことではなくて、代りのないひとです」
 でも――

「きっと、私の『好き』と、神奈さんの『好き』は、違うんです……」

 星明かりの下、御影のポニーテールがゆるりと震えた。
 どうしたら良い?
 何を差し置いて自分を大切にしてくれるこの人を、傷つけないために、どうしたら良い?
 『今まで通り』でも気持ちが通わなければ、苦しませるばかりではないだろうか。
 どう、したら。




 ロッジの前、星空の下。野崎は俯いていた顔を上げた。
「強羅さん」
「星を観ようと思ったら、バルコニーには先客がいてな」
「あー…… ねぇ?」
 くわえていた煙草を外し、女が薄く笑う。
「雪上戦の事は報告書を読んでいる、気にはかけていた。……少しは晴れたか?」
「知ってるでしょうに」
 言われ、龍仁の腹の辺りへ軽いパンチを。
「嫌いじゃなければ」
 後ろ手にしていた小さな箱を、龍仁は差し出す。
 種類豊富な焼き菓子を作る間で、丁寧に丁寧に、たった一つを作り上げていた。
 小さなザッハトルテ、シンプルな形にたっぷりと生クリームが絞ってある。本格的だ。
「渡す相手が、もういないからな……。食べるなら女の子に食べてもらった方がいいだろう」
「……」
「緋華?」
「ごめん、ガンと来た」
 アイスブルーの双眸からボロリと大粒の涙が落ちる。
「そうだよね。そうだ。バレンタインって、そういう日だ。――はは」
 もう居ない、渡したい相手。渡すべき人。そんな存在が、野崎にもあった。過去の話だ。何年も前の話だ。
 それ以上は語らない野崎へ、龍仁もまた問いはしなかった。
 涙をぬぐう女から、そっと視線を外して龍仁は空を仰ぐ。いつかの思い出の星座が踊っている。
「今も昔も、星空は変わらず同じだ……」
(だから、星空を見てる時だけは……あの時に、帰れる気がしてしまう)
「なんて……、おっさんが夢見がち過ぎたか。……そんな資格も無いのにな……」
 ふと呟いた横顔に、柔らかく作られた雪玉がぶつけられる。
「なに言ってんの。夢を忘れちまうより、よっぽど素敵じゃない」
 安心していい。どんな美少年だって、行く末はおっさんだよ。




 それぞれに物思う夜が明け、真白の朝が来る。

「光さん」
 ファティナに呼び止められ、御影が振り返る。目元が赤い。
「優先されるべきは光さんのお気持ちです。……だから、『どちらか』を絶対選ぶ必要はありませんよ」

 好きだから、傍に居たい。
 たぶん、その気持ちは同じだと思う。
 それでも ……意味が違うことも、あるのだと。
 承知の上で、傍に居ることを選ぶ?
 『違う』ことの辛さから、離れることを選ぶ?
 その、『どちらか』……


 チョコレートは、甘くて苦い。
 みんなのバレンタイン当日は、甘いもので彩られますように。





依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 歴戦勇士・龍崎海(ja0565)
 刹那を永遠に――・レティシア・シャンテヒルト(jb6767)
重体: −
面白かった!:5人

Silver fairy・
ファティナ・V・アイゼンブルク(ja0454)

卒業 女 ダアト
歴戦勇士・
龍崎海(ja0565)

大学部9年1組 男 アストラルヴァンガード
郷の守り人・
水無月 神奈(ja0914)

大学部6年4組 女 ルインズブレイド
春を届ける者・
村上 友里恵(ja7260)

大学部3年37組 女 アストラルヴァンガード
撃退士・
強羅 龍仁(ja8161)

大学部7年141組 男 アストラルヴァンガード
タマモン・
草薙 タマモ(jb4234)

大学部3年6組 女 陰陽師
刹那を永遠に――・
レティシア・シャンテヒルト(jb6767)

高等部1年14組 女 アストラルヴァンガード
守り刀・
北條 茉祐子(jb9584)

高等部3年22組 女 アカシックレコーダー:タイプB