●A班、トンネルへ
時刻は正午を過ぎているが、古びたトンネル内部はじんわりと暗い。
「コウモリ……ねぇ。ネットでしか見た事ないや……」
あくびを抑え込みながら、眠そうな目をしている桝本 侑吾(
ja8758)は呟いた。
「コウモリですか……。潰しに行くとしましょう!」
侑吾とは対照的に、戸次 隆道(
ja0550)はコウモリ退治に熱意を燃やし、眼光も赤く輝いている。
「話を聴く限りでは、あまり強い個体ではなさそうですが、地の利が向こうにあるから気をつけていきましょう!」
仲間たちに注意を呼びかけたのは、二人の背後にいるシャルロット(
ja1912)だ。
派遣された者のうち三人の侑吾、隆道、シャルロットは、トンネルの那須塩原市側出入口から侵入するA班である。
案内してくれた巡査は、トンネルの閉鎖を一時解除し、三人をトンネル内に送り込んだ。
「作戦開始にあたり、電話した方がいいでしょうね」
シャルロットは女子儀礼服のポケットから携帯電話を取り出し、反対側にいる仲間を呼び出す。
すると、三回目のコールで、相手が出た。
「はい、こちらB班、十笛です。…………。了解しました。こちらも作戦に移ります!」
電話に出たのは、撃退士の十笛和梨(
ja9070)であった。
確認が終わり、A班は作戦開始!
●B班、トンネルへ
A班が反対側でトンネルへ入る準備をしている頃、同じくB班も行動を開始しようとしていた。
「暗くてジメジメでヤんなること。な、何か面白い話でもねェかい?」
島津・陸刀(
ja0031)は、トンネルの日光市側出入口前で、仲間たちにそう問いかけた。
あまりやる気がしないのだろうか、と傍にいた仲間たちは首をかしげていたが、当の本人は、とてもやる気に充ちている。
「面白い話ですか? コウモリ狩りって楽しいのでしょうか?」
和梨は陸刀の問いかけに対して、さらに問いかけで返す。
「んんーん♪ ふん、ふん、ふん♪」
鼻歌を歌いながらご機嫌なのは、鳳月 威織(
ja0339)である。
威織は戦闘依頼は得意だが、今回の場合、「戦う」というよりも「掃除」する気分でいるらしい。
「それでは、駆除しに行きましょうか。トンネルが使えないと、不便ですからね」
威織は笑顔で促す。
案内係であった巡査は、閉鎖されているトンネルの出入口を一時解除し、撃退士の三人を送り出す。
三人がトンネルに入ろうとすると、携帯電話が、るるる、と鳴り出した。
「あ、僕?」
三コール目で気がつき、和梨は慌てたように電話を取り出す。
「こちらA班のシャルロットです。今から作戦に移ります。そちらの班も直ちに決行してください」
了解しました、と用件に答え、和梨は電話を切る。
B班も同時に作戦決行に移った。
●A班、100m地点で
A班は、隆道を真ん中の先頭にし、右壁寄りを侑吾、左壁寄りをシャルロットにして、お互いの死角を補い合う形で探索を進めた。
報告では、巡査はトンネルの壁の隙間に挟まっていたコウモリを見つけたそうなので、三人は持ってきた懐中電灯で周囲を照らしながら警戒して進む。
「どうですか? 連中、いましたか?」
隆道は、懐中電灯を天井と車道を上下して照らしながら、歩く。
探索するよりも応戦するつもりだ。
左右の壁のどこかにいるだろうコウモリは、周囲の二人に任せている。
「いや、全くいない」
侑吾は隆道の問いかけに首を横に振る。
「こちらもさっぱり」
シャルロットも片方の手を横に振る。
「ところで、こちらが今のところ異常がないことを、B班に連絡する頃かと思いますが」
シャルロットは携帯電話を取り出し、先方の連絡係の和梨に電話をする。
「こちらA班、シャルロット。現在、100m地点を探索中。全く異常ありません。そちらは?」
●B班、100m地点で
B班は、陸刀を真ん中の先頭にし、右壁寄りを和梨、左壁寄りを威織にして……
つまりA班と同じ陣形で、死角を補い合う形で探索を進めている。
同じく、壁の隙間に挟まっていたコウモリを見つける為、三人は持ってきた懐中電灯で周囲を照らしながら警戒して進む。
こちらの班は、陸刀が懐中電灯を頭上に二本巻いているところが、A班と違う。
残りの二人は普通に懐中電灯を携帯し、先ほどから真剣に壁際を照らしながらゆっくりと歩んでいる。
A班の隆道と同じく、陸刀は探索するよりもむしろ敵が来たら即座に応戦できるように構えている。
その為にこそ両手を空けているのだ。
「そろそろ100mぐらい歩いているんじゃないですか? 何も出てきませんね」
口笛を吹くのをやめていた威織は、あまりにも何も出てこないので残念そうにしている。
そのときだった。
るるる、と電話がかかってきた。
和梨は、さっと、携帯電話を取り出す。
相手は、シャルロットだ。
「……はい。こちらB班、十笛です。同じく、100m地点、全く何も異常ありません!」
A班・B班、共に今のところどちらも異常なし。
●A班、250m地点で
「そろそろ、アレを使うべきじゃないかな?」
探索に飽きてきた侑吾は、A班で考えてきた例の作戦の用意を促す。
「そうですね。とっておきの手段、アレを使いましょう!」
ディアボロが引っかかってくれるといいけど……。
シャルロットの身体からは、纏わりつくかのような紅蓮の炎が燃え上がった。
彼女は、トンネルに遮り見えない天に仰ぎ、祈るかのようにして――
星の瞬きが煌めくかの如く、彼女の周囲から輝きを生み出す。
まるで、暗闇というものが、彼女が生み出す光の引き立て役にでもなったかのように……。
シャルロットが発動した「星の輝き」は彼女を中心として、半径20m周辺が眩く輝き出した。
すると……。
「チー!!!」
「チチチ!!」
「チー、チー!」
周囲に隠れていたコウモリが眩い光に反応して、バサバサと飛び回る。
うち一匹は、右壁の隙間から、もう一匹は左壁の隙間から、そして最後の一匹は天井の隙間から。
侵入者の態度を許しておけないと、挑発された三匹は荒れた鳴き声を発している。
三匹は、シャルロットたちを威嚇する為に、三人の周囲をぐるぐると上下左右に羽ばたき出す。
「く……。さすがに素早いですね。当たるか!?」
隆道は手に持っていた懐中電灯を地面に放り、携帯していたヒヒイロカネを変形させる。
右手には、クロスファイアを。
左手には、召炎霊符を。
隆道は、右手から銃弾を、左手からは火炎玉を連射するが、なかなか当たらない。
「これ、あまり使ったことないけれど、当たるかな……まぁ、いいや!」
侑吾は懐中電灯を放り投げ、携帯していたオートマチックP37を標的に向けて発射する。
「的小さいなぁ……」
文句言いながらも、パパパン、と銃を連射していくが、こちらもなかなか当たらない。
「よし、今のうちに……」
シャルロットは戦闘から外れ、距離を取ると即座にしゃがみこみ、地面に「阻霊符」をぺたりと張り、祈りを込める。
よし、これで半径500m以内のコウモリは透過して逃げることができなくなった。
どうやら、回避力に関してはコウモリたちはなかなかの腕前だ。
「ピピピピピ―――!!」
天井に舞い上がったコウモリは、「超音波攻撃」を発動させ、侑吾を標的に狙った。
「ぐあああああ!」
超音波を頭上から浴びてしまった侑吾は頭を抱えだす。
そして、四方八方、銃を連射する。
「はっ!」
天井に向かって銃を連射している侑吾の背中に、隆道は肘鉄をくらわす。
「ぐはっ……。痛てえ! でも、ありがとう!」
正気に返った侑吾は苦痛の表情を浮かべながらも礼を言う。
だが、敵は待ってはくれない。
コウモリは、ふらふらしている侑吾目がけて牙を剥き出すのだ!
「やらせないよ!」
侑吾の4m背後から、光を纏ったチェーンがコウモリ目がけて飛び掛かってきた。
「チ!?」
コウモリは、チェーンにがんじがらめにされ、地面に叩き付けられる。
さらに麻痺攻撃も与えたようで、コウモリは、ぴくぴく、としてから動かなくなった。
チェーン―「審判の鎖」―を手繰り寄せているのは、シャルロットだった。
コウモリは仲間が一匹やられたので怯んでいる。
侵入者が意外と強いことがわかったからだ。
「チーーー!」
コウモリは近接攻撃に切り替えてきたらしく、「体当たり」を発動させる。
うち一匹は、侑吾目がけて突っ込んでくる。
「さっきのお返しだあああ!」
侑吾はヒヒイロカネを変形させ、ブラストクレイモアに持ち替え、「スマッシュ」を発動させる。
上段から振り下ろした高速の剣が、突っ込んでくるコウモリ目がけて振りかざされる。
バシュ――。
斬った、というよりは叩き落とされた、という感じで、コウモリは前方に吹き飛ばされ、落下し、動かなくなった。
最後の一匹の方は、隆道目がけて突っ込んできた。
「牙」攻撃で首をかじろうと狙っている。
「近接ならこっちのもの!」
隆道は「闘神阿修羅」を発動させ、覚醒状態に入った。
眼は赤く輝き出し、全身の筋肉が引き締る。
全身から赤色の闘気が吹き上がり、髪も真紅に染まる。
彼は文字通り、阿修羅と化した!
「そらあ!」
隆道の首を狙ってきたコウモリ……。
反撃として、足を高く振り上げ、上空目がけ、敵を蹴り飛ばす。
「チ!?」
何が起こったか分からないコウモリは天井にまで蹴り飛ばされ、上空から力なく落下する。
「ふう……。とりあえず倒しましたね。そうだ、B班に連絡入れましょうか!」
隆道はシャルロットを探して呼び掛けた。
●B班、250m地点で
「む、なんでしょう、この怪しい亀裂?」
威織は調べていた壁が1m×1mで、バツ印のように削られている奇妙な箇所を発見した。
怪しいので、とりあえず懐中電灯の光を入れてみる。
「チ!?」
すると、コウモリの首が、ひょっこりと覗く。
「お! いましたね!」
250m進んだ地点であろうか、やっとのこと、コウモリを見つけることができた!
威織が明かりを照らすと、コウモリは、チーと、短く叫び、羽ばたき出した。
「チー!」
「チチチ!」
天井から一匹、威織が調べていた壁から一匹、コウモリたちが飛び出てきた。
二匹は侵入者三人の周囲をぐるぐる飛び回りながら、チーチーと不気味な声を上げている。
威織はヒヒイロカネをロングボウLに変形させて、コウモリを狙う。
敵の超音波の射程は5。
自分の弓の射程は6。
ぎりぎりこちらのリーチがある分、当たれば儲けもの。
シュパッッッ――!
空気を切り裂く音速で、矢が放たれる。
だが、当たらない。
ならば、もう一発。
と、威織は連射するがコウモリは、ひらひらと回避する。
だが、お互いに同じ行動を何ターンも繰り返しているうちに、そろそろ決めたいと焦り出す。
「チーーー!」
コウモリは射程内に敵を入れれば、超音波攻撃が撃てる、とばかりに威織をめがけて突っ込んでくる。
「ピピピ―――!」
「待ってましたあ!」
コウモリから発動された超音波を正面から威織は浴びてしまうのだが……。
一方で彼もこれはチャンスとばかりに、武器をヒヒイロカネでハイランダーに持ち替え、「スマッシュ」を発動させる。
中段から振り落とされた「スマッシュ」の斬撃はコウモリの羽を斬り飛ばし、コウモリそのものも地面に叩き付けるのだった。
「おらァ!!」
「チー!」
陸刀は、彼の周囲を飛び回る好戦的なコウモリの攻撃を、ガントレットで応戦していた。
射程が近くなってきた。射程3ほどに入るだろうか。
「そらョ!」
手持ちの忍苦無を投擲して、コウモリの羽を狙う。
だが敵は回避したものの、右羽にかすった。
「チー!!」
コウモリは頭に血が昇ったようで、バサバサと威嚇して羽ばたく。
お? 来るか!?
陸刀は迎撃の準備をする。
彼は脚部にアウルの力を集中させ、―「縮地」―を発動し、思い切り地面を蹴り飛ばし、2m上方に舞い上がる。
多少、軌道がおかしいコウモリも3m上空で羽ばたきながら、陸刀の頭上を目がけて「体当たり」で急降下!
「よぉ蝙蝠野郎、こんばんわ?」
空中で視線がぶつかる。
ガントレットは、極限まで圧縮されたアウルの力が集積されて赤く輝いている。
陸刀が拳を振るうと、一瞬だが、巨大な炎の獅子の顔が現れ、コウモリを噛み砕いていく。
彼が着地し、炎が消え去る頃には、そこにコウモリの姿はなかった。
「ふう……。たいしたことねえなァ!」
と勝利に酔いしれる間もなく……。
「うおおおお!」
威織がハイランダーを振りかざし、斬り込んで来た。
「ほれよォ!」
陸刀はハイランダーの一撃をかわし、威織の腹をめがけて、軽くボディーブローをくらわす。
「がはっ……。すみません……」
威織は痛そうな顔をしていたが、正気に戻った。
B班の仲間たちは、コウモリと戦っているが……。
二人ともなかなか強そうなので負けることはないだろう。
だが、負けなくても、コウモリを捕り逃した場合、依頼は失敗するかもしれない。
和梨は、前方の戦場から10m下がり、周囲を警戒していた。
もし、こちらに逃げてきたとき、捕り逃さないためだ。
「それ、やっておくか!」
和梨はパーカーから―「阻霊符」―を取り出し、トンネルの壁に張り出す。
念を入れて、祈っておこう。
さあ、そろそろこっちに逃げてくる頃かな?
と、待機していると、コウモリが地面をとことこと歩いているではないか!
先ほどの戦闘で、出遅れたコウモリだろうか?
「逃がさん!」
和梨の右手の中で、アウルの力が凝縮された影が生み出される。
やがて影は棒手裏剣の形状に変化する。
6m先にいるコウモリ目がけて、「影手裏剣」を連射!
「そらよ!」
1、2、3発……。
ぐさ、ぐさ、ぐさ!
二発は外したが、一発はコウモリの腹に突き刺さり、ぽしゃった。
「ふう……。危ないところだった」
そのとき、和梨の携帯が、るるる、と突然鳴った。
「おや? あちらも終わったのかな?」
●合流地点で
A班・B班、共に戦闘が終了し、トンネルの350m地点、すなわち中間地点で合流した。
「ご無事でしたか? こちらは三匹倒しました。そちらはどうですか?」
先頭を歩いていた隆道が、反対方向から歩いてきたB班に話しかけた。
「おゥ! こっちも三匹倒したぜェ!」
同じく先頭を歩いていた陸刀が返事を返す。
「確認された数を全て片付けたようですが、念の為、最後に見回りだけしておしまいにしましょう」
陸刀の後ろを歩いていた威織が確認を呼び掛ける。
A班・B班、共に来た道を引き返し、他に敵がいないか確認作業を遂行するのだった。
結果、敵の姿は一切なし。
これにて、ミッション完了!
こうして撃退士たちの活躍により、コウモリの脅威は拭い去られ、地元のトンネルは平和を取り戻したのであった。
<完>