●とある日常の配送場面?
人工島で人気の焼きそばパンの製造元である「ちばそば屋」は、今日も元気に焼きそばパン配達のトラックを走らせている。
人工島へ焼きそばパンを送る為、茨城県のとある港で一度、トラックを停車させ、船で待機している人工島の業者へ、焼きそばパンが詰まった段ボールを渡すのだ。
今日は近場の倉庫で取引になったようであり、トラックはやや古びた比較的規模の小さい倉庫の中に入って行く。
ぎらり!
倉庫の屋根で羽ばたいている複数の黒い物体の眼光は、鋭くトラックを凝視。
ぶるるるん。
トラックは倉庫出入口から半ば付近で停止。
運転席から降りてきた業者三人がトラックの背後に回り、ドアを開け、焼きそばパンが積まれた段ボールをせわしく運び出そうとする。
段ボールから溢れ出す出来立ての濃厚なソースの香りが上空を彷徨い、倉庫の屋根にいる物体たちは踊り出す。
そのときだった。
ギャー、ギャー、ギャー!
と、黒い物体は奇声と共に羽ばたきだし、群れをなして、段ボールに向かって猛進してきた。
「きゃあああああ!」
業者の女は、尻餅をつく。
「ひゃあああああ!」
もうひとりの業者の女は、こけて地面を這う。
「うわあああああ!」
業者の男は、諸手を挙げて倉庫奥に逃げ込もうとして壁にぶつかって倒れた。
業者たちは叫び声と共に、ぎこちない動きで逃げ回る。
その黒い物体―すなわちカラス型ディアボロ―たちは、逃げ惑う業者たちの表情に快感を覚え、追っかけ回し、クチバシで突いたり、鉤爪で蹴飛ばしたり暴れ出す。
だが、カラスたちの悪事も長くは続かなかった。
パパパン!
乾いた銃声が倉庫に響き渡る。
シュパッ!
鋭く空気が切り裂かれる音が銃声に続く。
倉庫の奥から聞こえてきたと思ったら、次の瞬間には業者たちを追い回していたはずのカラスたちは三匹、上空からばたり、ぼとり、と次々に落下していった。。
倉庫の奥の10m先では、煙が上がるオートマチックP37を構えているレイラ(
ja0365)と矢を放ったばかりの強弓を構えている神城 朔耶(
ja5843)の姿が、出入口の光から照らしだされ現れる。
さらに倉庫内に設置されている、出入口から横6m、高さ6mのクレーンのてっぺんからは、火種の匂いが新しいアサルトライフルを構えている更科 雪(
ja0636)の姿がちょこんと覗きだす。
●罠だったんだよ、カラスさん
「ギャギャギャ!?」
前回同様、まんまと「ちばそば屋」のトラックを襲ったとご満悦だったカラスたち。
まさかの失態か。
突然のアクシデントに混乱しているカラスたちは、倉庫出入口周辺で右往左往に飛び回る。
「カラス連中に焼きそばパンなんて代物は似合わないわよォ……。大人しく死体か残飯でも漁っていればいいのにさァ……♪」
襲われていたはずの業者の女が呟いた。
そして、面前で飛び回っていたカラスたちにショットガンの散弾を勢いよく連打して浴びせる。
スガガガガン!!
顔面にショットガンを直撃したカラスの二匹は、力なく落下する。
ばたり、ぼとり、と。
その業者の女、いや、正確には業者に扮装していた女、黒百合(
ja0422)はカラスたちの死体を見て冷ややかに微笑。
仲間たちが訳も分からず次々と倒されていく有様が視界に入り、カラスたちの何匹かは逆し出す。
カラスのうち一匹が大勢を立て直し、4m上方に舞い上がる。
黒百合を狙って、急降下攻撃!
「そうはさせんぞ!」
業者の男、いや、こちらも業者に扮装していた男、リチャード エドワーズ(
ja0951)は、「小天使の翼」を発動させ、背中から、天使の羽が黄金の光に包まれ発現。
リチャードは、羽ばたきを利かせて4m上方へ。
バサリ、バサリ。
急降下攻撃中のカラスと上方で対面。
ツヴァイハンダーFEを抜きだし、大振りに急降下中のカラスに斬りかかり、そのまま下降してカラスを地面に叩き落とす。
カラスたちは、意外と業者?の二人が強いことを思い知った。
そのうちの二匹は二匹態勢で、まだ戦闘に着手していないもうひとりの業者の女にクチバシを怪しく光らせ挑む。
「よーしっ! これは焼きそばパンの恨みだからね!」
運転手をしていた業者の女、いや彼女ももちろん業者ではなく撃退士である永瀬 雫(
ja3899)は、メタルスタッフを懐から素早く取り出し、正面にかざし、二つの小さな魔法陣を発動。
ふんわり、と空中に出現した魔法陣からは、二本のレーザー状の魔砲が、薄紫色の光の矢となり、カラスたちを襲う。
雫の「デュアルレーザー」は正面から向かってきたカラス二匹の胴体に突き進む。
ビィィィ……、ぐさっっ!
カラスたちを貫通。
と、リチャードや雫がカラスたちと戦っている最中、黒百合は「阻霊符」を倉庫床に張り、アウルの力で呪いを込める。
リチャードや雫、そして先ほどの倉庫奥からの急襲を恐れたカラスたちは、撤退しようと、出入口を目指し慌てて羽ばたきだす。
そのうちの二匹は、壁から透過して逃げ出そうとしたが、黒百合の仕掛け―「阻霊符」―によって、逃走を妨げられる。
「あはははァ、ほら新鮮な死体の完成よォ。貴方達は仲間の死体漁りくらいがちょうどいいでしょォ♪ 」
ハルバードをトラックから抜きだした黒百合は、2m「跳躍」して、上方の壁から逃げ出そうとするが逃げれないカラスに、力を込めて一撃を振りかざした。
そして、首を狙い、上段から振り下ろす。
カラスをハルバードに引っかけ、黒百合は爛々とした目つきでカラスを地面に叩き付ける。
パパン!
銃声が上方から響き渡る。
もう一匹の壁透過で逃げ出そうとしていたカラスも、ぼとり、と出入口付近で落下。
倉庫奥のクレーンのてっぺんから、雪のアサルトライフルが再び火花を散らしていた。
「ヒット♪……」
と、雪は獲物を仕留め上機嫌。
それでも倉庫出入口は門などなく開けっぴろげなので、カラスたちのうち二匹は素直に出入口を目指して逃げる。
カラスたちは、逃げ切った、のか?
●もちもちカラスと激辛カラス、そして撃破
倉庫出入口付近で激しい戦闘が展開されていたのと同じ頃。
倉庫奥20mのベルトコンベアーには、なぜか、焼きそばパン、コッペパン、ジャムパンが山積みになって、ぽつんと置かれていた。
カラスたちは、我さきに、と四匹も群がり出す。
うち二匹はベルトコンベアーに着地しながら、うち二匹は空中からパンを突っついていた。
だがそれは宴の始まりではなかったのだ。
着地していたカラスのうち一匹は、なぜか体がもちもちとした物体に絡み取られ、身動きが取れなくなり、じたばた暴れ出す。
同じく着地していたもう一匹のカラスは、喉から不気味な悲鳴を上げる。
ギャー、ギャー、ギャー!
そして、もがき出す。
ぎゃふん、ぎゃふん!
倉庫奥で隠れていた二人の女性が姿を現す。
「ふふん、引っかかりましたね?」
レイラは武器を銃からブルウィップ(鞭)に持ち替え、しなやかに鞭を構えていた。
「にょぷぷぷっ! ワサビタップリの「悶絶★焼きそばパン」を食らったにょろ!」
イタズラっ子な笑いを浮かべ、戦部 小町(
ja8486)は愛刀の蛍丸を中段で構え距離を詰める。
山積みになった三種のパンととりもちは、レイラが仕掛けたものだ。
カラスの目的が焼きそばパンなのかどうか調査をする為であったそうだが、どうやらカラスたちはパンならば何でもいいことが判明した。
レイラはカラスたちの非道っぷりに血が沸騰して、鞭を床に叩き付ける。
ぺしり、ぺしり。
一方、焼きそばパンにワサビがたっぷり練られていた方は、小町のアイデアである。
「ちばそば屋」の無念を晴らす為に、お仕置きだ。
「行きますよ!」
「やっつけてやるにょろ!」
レイラはもちもちして暴れ出しているカラスに、びしばし、びしばし、とブルウィップの連続攻撃を浴びせる。
小町はワサビの効果でもがいているカラスに、蛍丸の一刀をすばずば、と切り込む。
罠にはまっていたカラスたちは、鞭と刀の攻撃を散々くらって、動かなくなる。
もっとも、空中からパンをつっついていた二匹は、仲間の異常を早くから察したので、上方に羽ばたいて逃げようとしていた。
レイラと小町がはめられたカラスたちをお仕置きしていた頃、与那覇 アリサ(
ja0057)は、逃がすものかと、「縮地」を発動させ、床を思いっきり蹴飛ばし、2m上方へ飛び上がる。
焼きそばパンを襲うカラスたちに怒りを覚えたアリサは、光纏―金色の炎―をまとい、凶暴化―金髪に真っ赤に光る瞳―の姿で、カラスたちに迫った。
「焼きそばパンはおれの命の源(の一つ)さ!」
空中で鉢合わせになった。
「鬼神一閃」を発動!
メタルレガースに集中した紫焔は燃え上がり、全身のアウルの力は燃焼により加速し、迅速なブローの一撃がカラスの胴に突き刺さる。
ぐさっっっ!
アリサが一匹を仕留め、落下する最中、4m空中に舞い上がっていたカラスのもう一匹は、ここぞとばかり、急降下。
カラスの鉤爪が、斬撃になって肩に斬り込む。
ぐっさり、そして、なぜかじんわり、と痺れる。
「うわっ!!」
なんとか態勢を持ち直し、アリサは右手をついて地面に着地。
着地の様子がおかしいと、朔耶は、弓を片手に持ちながらも、アリサに駆け寄る。
「大丈夫ですか!?……今、状態異常を解除します!」
朔耶は負傷しているアリサの肩に「聖なる刻印」を施す。
純白の優しげな光に包まれれ、ほっとする。
「けがもしてますね? あまりご無理をなさらぬよう……気を付けてくださいね」
さらに急いで「ヒール」を重ね掛け。
アウルに照らされた黄色い光が朔耶の手元からアリサの肩に流れていく。
と、他人の治療を大人しく見ているカラスでは、もちろんない。
カラスは奇襲のチャンスだ、と眼光をぎらつかせ、アリサに向かって再び急降下。
そのときだった。
乾いた火薬の響きと共に、カラスが急落下。
オートマチックP37は、本日、二度目の火を噴いていた。
ふうっと、溜息をつくレイラ。
●逃げ切ったカラスたち?
話は、倉庫出入口付近の戦闘でカラスたちが敗走しているところまで遡る。
ギャー、ギャーと、悲鳴をあげながら、必死に羽ばたき出入口から外へ逃げる二匹のカラスたち。
二匹は、逃げ切った……と、思ったが。
「逃げるのはお仕置きされてからに、してください、です」
出入口付近に隠れていたユイ・J・オルフェウス(
ja5137)は、カラスが出入口をくぐる瞬間に寸でで現れた。
スクロールを片手に構え、光の玉を放ちながら、カラスの軌道を遮る。
ひゅん、ひゅんと飛んでいく光の玉は、カラスを撃ち落としはしなかったもののさらなる動揺を与えた。
「焼きそばパンこそ至高! 焼きそばパンこそ正義!! 焼きそばパンに仇なすヤツはフルぼっこあるのーーーーーみ!!! 」
光の玉で軌道がずれたカラスたちを、外の何処かから叫び声と共に衝撃波が襲う。
衝撃波の一撃は、カラスのうち一匹の羽を切り飛ばし、攻撃の勢いでさらに後方に吹っ飛ばす。
地面でぺしゃりとぽっしゃったカラスは動かなくなる。
「ふう……なんとか、一匹仕留めたね?」
倉庫外出入口付近から衝撃波―「飛燕」―の放ち主、並木坂・マオ(
ja0317)は、片手で汗をぬぐう。
逃げ切られなくて、よかった。
もっとも、もう一匹いるので油断はできないが。
最後の一匹は、やけっぱちで最後の悪あがきに走る。
上空で態勢を立て直し、ユイめがけて急降下。
最後の一撃に出たのか?
「悪戯するカラスさんは、お仕置き、されちゃうですよ」
ユイも負けてはいない。
やはり焼きそばパンを襲うカラスは許せない。
上空から距離を取って向かってくるカラス目がけて、「クリスタルダスト」の正面直撃!
煌めく氷の錐はユイの手元から現れ、どんぴしゃのタイミングでカラスは氷弾の一撃を正面から浴びて背後に吹っ飛ぶ。
氷の錐が胴に突き刺さったカラスは、そのまま動かなくなる。
「危ないところだったです……。お仕置き、完了です!」
今回の作戦で、ユイとマオの二人は、倉庫外周辺の警戒役担当であった。
港の市民には避難を事前に呼び掛けていたが、逃げ遅れた人を助ける、あるいは倉庫から逃げてきたカラスを倒す為、外で待機していたのだ。
こうしてカラスを取り逃がすことなく、功を奏で、ユイとマオは互いに駆け寄り、手を取り合って踊り出す。
やったね、待機作戦、成功だ。
●後日談、もちろん焼きそばパンあるよね?
こうして、撃退士有志による「焼きそばパン救出作戦」は大成功。
カラスたちは撃退士たちの前に敗れ、ちばそば屋にも人工島の焼きそばパン産業にも明日が戻った。
学園には、作戦に参加した有志たち宛に、ちばそば屋から、ひと箱の段ボールが直送で工場の配達人によって届く。
有志たちは、中の品物が何かは既に想像ができるので、間違っても他の学園生たちがいる食堂では開封しない。
高等部のとある無人の教室の一角で、開封することにした。
ご存じの通り、ちばそば屋の焼きそばパンは、パン生地・ソースの濃さ・量に特色がある。
こんがりと小麦色に焼けた柔らかい生地のコッペパン。
濃厚な味わいのソース。
そして何より大盛り。
「いい匂いがするぞ! 開けていいか?」
アリサは大好物の美味しい匂いがする段ボールを急いで開ける。
「じゃあ、さっそく分けようかな! みんな、手を出してね」
涎をじゅるり、とマオは焼きそばパンに手を伸ばす。
まずは、自分の分をひとつ確保、と思ったが。
「おつかれっ!」
「おう、おつかれ!」
開封してくれたアリサに一つ目を手渡す。
「仕事後のご褒美は特に美味しいよねっ」
隣で焼きそばパンに見とれていた雫の目の前に二つ目を差し出す。
「やはり食べ物は粗末にできないです」
三つ目は、思わず頬がほっこりとしているユイにこちらも笑顔で手渡し。
「まあ、ありがとうございます」
律儀にひょっこりと礼をする朔耶にも、律儀に返して四つ目を渡した。
持ち運び用のホワイトボードに「うれしいな、ありがとう」と気持ちを啜る雪の片手に五つ目を。
「ワサビ抜きを頼むにょろ」
ワサビ入りなわけないよね、とマオと小町は笑い、六つ目の焼きそばパンを小町に。
「焼きそばパンを守るのもいいものですよね」
達成感に浸っているレイラにも報酬として七つ目が。
「カラスの死にカンパァイィ!」
カラス退治を思い出し悪戯な笑みを浮かべている黒百合に、八つ目をどうぞ、と。
「ここは騎士道精神として、レディ・ファーストでいいぞ」
「うん、ありがとう!」
リチャードが譲ってくれたので、マオは自分の分を有難く先に受け取り、最後のひとつをリチャードに大事に手渡すのであった。
配給終了!
「では、いただきまーす!」
<完>