●アイスクリーム補完計画発見!
「なになに……。アイスクリーム補完計画?」
安原 壮一(
ja6240)は、飲食街をぶらついていると、とあるアイス屋の前で奇妙なタイトルの公募広告を発見した。
「へえ……。新アイスを公募と? しかも採用者には、新アイス全品試食という報酬まであるのですか」
近くを通りかかったカーディス=キャットフィールド(
ja7927)も眼鏡をかけ直し、広告をじっくりと読みだした。
「あ、どうも。同じ学園の人ですか? この広告、面白そうですね?」
壮一はカーディスに話しかけた。
「ああ、あなたも関心持ちましたか? なんなら一緒にやってみましょうか?」
「いいですね。そうしましょうか」
●新アイス開発の為のミーティング
壮一とカーディスは学園に戻ってメンバーを集めようと、一緒に学園生に声をかけまくり、八人メンバーを集めることができた。
「さて、皆さん。さっそくですが、どんなアイスを作りたいですか?」
カーディスはわくわくしながら、皆にアイデアを求めた。
「そうねえ……。アイスにフルーツのトッピングをたくさん乗せるの!」
若菜 白兎(
ja2109)はトッピングを想像しながら身振りで説明した。
「良さそうですわね。さらに特産品の干し納豆はいかがかしら?」
天野 ルミナ(
ja0574)はトッピングをさらに乗せる方向を促した。
「いやいや、学生にウケる為に、がっつりと食べられるおイモのトッピングなんてどうかしら?」
ミーミル・クラウン(
ja6338)もトッピングには賛成なようで、こちらは学生食から攻めようと考えた。
「あの……。シャーベットでもいいのでしょうか? 梅のシャーベットなんかあったら、これからの季節、涼しげでいいかな?」
トッピングに続きシャーベットもいいのではないかと、天月 楪(
ja4449)も提案した。
「シャーベットも良いですが、果肉も盛ってみてはどうでしょう?」
海柘榴(
ja8493)は楪の提案に賛成だが、甘い果肉を思い出しながら、さらに改良できないかと思いを巡らせていた。
「ところで、ジェラートはどうでしょう?」
露草 浮雲助(
ja5229)は今の二つの方向性に加えてジェラートという可能性も広げたいと思い立った。
「そうだなあ……。ジェラートに塩でも一振りどうだ? オーソドックスに攻めようか? さらに、これからの暑い季節に塩分摂取できるとアピールすることもできる」
壮一は、もともと塩アイスが作りたかったようであり、基本的にジェラートに賛成なので、浮雲助をフォローした。
「そうねえ。塩ジェラートにもう一工夫どうかしら? もっちりした白玉が乗っていれば、さらに美味しいかな?」
巫 聖羅(
ja3916)はヒヤリとした甘いジェラートもいいが、食べたときの食感も重視したいと思い、白玉付きをさらに提案した。
「では、チーム分けをしましょう。まず、混ぜる&トッピング系が若菜さん、天野さん、クラウンさん。そして、シャーベット系が天月さんと海柘榴さん。最後に、ジェラート系が、安原さん、露草さん、巫さん」
カーディスが手際よくまとめた。
「ちょっと待った。カーディスと奈緒(清良 奈緒(
ja7916))は?」
壮一がとっさに質問した。
「我々は、紅茶チームとなります。私は、本場イギリスから紅茶を淹れる技術がありますし、清良さんは、義兄さんとよく一緒に紅茶を飲んでいたそうなので、紅茶の味が詳しいですから」
「うん。それがいいよね。あと紅茶と一緒に食べるバタークッキーも用意するよ」
カーディスと奈緒は、我々は後方支援からがんばらせて頂きます、との意思表示を出した。
「なんか……お前ら楽してない?」
「いえいえ。とんでもありませんよ。紅茶は淹れますし、皆さんのアイス作りはお手伝いしますし、とても忙しい身分です」
こうして、各自、材料を集めに出かけることになった。
そして一時間後、また家庭科室に集合である。
●塩団子ジェラートチーム
「よし。素材もメンバーも揃ったし。始めようか! ところで、お前ら、料理はできるか? 俺は家が洋食屋だから、ある程度はできるぞ」
壮一はチームメイトがどれぐらい料理ができるのか確かめるところから始めた。
「いやあ、あまり経験ないですねえ」
浮雲助は自信なさげに答えた。
「科学的に調理するのは得意よ」
聖羅はそこそこ料理はするようであり、計算して作るのが得意なようだ。
「そうか。まあ、基本、俺に任せてくれ。俺が指示出すから」
壮一はアイスクリーマーを調理テーブルの上に乗せ、素材を丁寧に並べた。
レシピの指示を確認する為、簡単なメモを浮雲助と聖羅に渡した。
「なるほど。まずは、ボールでかき混ぜる、と」
聖羅は、メモ通り、卵黄3個と砂糖65gをボールに入れた。
「浮雲助はこれを混ぜてくれ」
壮一は手の空いていた浮雲助を促した。
「はい、了解!」
浮雲助は勢いよくボールを泡立て器でかき混ぜだした。
壮一は鍋の方に向き合い、慎重に調合を開始した。
彼は、牛乳600ml、生クリーム200ml、砂糖65g、バニラエッセンスを3滴、食塩2gを鍋に入れ、へらでかき混ぜ始めた。
「これを沸騰直前まで加熱と。ちなみにアイスクリームのベースは基本のバニラと。食塩は好みがあるから、味が強すぎないように2gと」
壮一は周囲にいるチームメイトたちに現状を説明しながら調理を続けた。
「私は白玉団子の用意してるね。さっき買ったSサイズ(直径1cm)をボールに入れておくから」
聖羅はチームメイトたちにそう話しかけると、先ほど買い物で買ってきた白玉のパックをはさみで切りながら、そっと白玉をボールに入れ出した。
壮一と浮雲助はそれぞれの調理に取り掛かりながら、聖羅に了解したと返事を返した。
「混ぜるのできました! これをどうすれば?」
浮雲助は何とかうまくできたと笑いながら壮一に呼び掛けた。
「この鍋に少しずつ入れてくれ。さらに混ぜるから」
壮一は指示を出し、浮雲助は卵黄と砂糖を混ぜた液体をそっと鍋に注ぎ込んだ。
そして、壮一は、鍋を混ぜながら、とろみが付くまで、沸騰しないように火を通した。
「よし、そろそろいいかな?」
壮一は鍋に入っている液体をざるでこし、別のボールへ移した。
さらにそのボールを氷水で冷却した。
「とりあえず。これで、カスタード液は終了。あとはこのカスタード液をアイスクリーマーに入れて15分待つ。最後に出来上がったものに白玉団子を加えればおしまい!」
調理は終盤にさしかかり、壮一の口元は微笑していた。
「じゃあ、私がアイスクリーマー見てようか?」
「白玉の盛りつけは任せてください!」
聖羅はアイスクリーマーの番を、浮雲助は白玉の盛りつけをしたいとそれぞれ申し出、作業はいよいよ大詰めである。
「ああ、頼むよ。俺は他のチームがちゃんと出来ているかどうか見てくるから」
●干し物スペシャルチーム
「だから、こうするのですわ!」
ルミナはカスタード液を作る為の調合が失敗したので、再度、測り直して、混ぜ直し、作り直したのだが、味がいまいちであった。
「違うの! 絶対に違うの!」
一緒に作っていた白兎は味見をしたのだが、何かが違う、しかし何が違うのか具体的にはわからない、と困惑していた。
「あれ? それさっきも同じ間違いやらなかった?」
同じくミーミルも一緒に味見したが、先ほどの失敗作とあまり変わりがない味なので、堂々巡りしている感覚になった。
「どうした?」
壮一が渋い表情で割り込んだ。
「それが……。干し物スペシャルがさっぱりできないのですわ!」
ルミナは、うつむきながら、壮一に返答した。
「まずアイスの液が作れていないの!」
白兎もしょんぼりしていた。
「あはは……アイスって、意外に難しいみたいね?」
ミーミルは失敗しちゃったよ、と笑いながら答えた。
「うん。まず、干し物スペシャルが何かから話を聞こうか?」
壮一はそもそもの疑問を投げかけた。
「干し物スペシャルというのは、アイスに干し物のトッピングがスペシャルに乗っていることですわ! まず、干し納豆が乗っていまして」
ルミナは先ほどのミーティングのときから、茨城産干し納豆をアイスに乗せるのが楽しみだったようだ。
「そして、干しぶどうなの!」
白兎はフルーツ各種のトッピングを希望していたが、他のチームメイトたちのトッピングとのバランスを考え、とりあえず干しぶどうで妥協したようだ。
「さらに刻んだ干しイモも乗っているのよ」
ミーミルも干しイモをどかんと乗せたかったようだが、他のトッピングとの兼ね合いから、小さく刻んだ干しイモを乗せる路線に変更した。
「なるほどな。とりあえず、まずはアイスクリームが作れればいいんだな? 一緒に作ってやるから、がんばろう。最後にお前らの好きなトッピングを乗せような?」
「ありがとうなの!」
白兎の表情に笑顔が戻った。
「助かりますわ!」
ルミナも一気にぱっと、明るくなった。
「じゃあ、仕切り直しね。まずは、どうすればいいのかしら?」
ミーミルはさらに張り切り出した。
「ええと、じゃあ、カスタード液の作り方を今から教えるから……」
こうして、壮一は先ほどと同じ手順でバニラアイスの作り方を教え、繰り返した。
ただ違うところは、塩味は抜いて、アイスクリーマーのセットが30分になったところである。
いよいよトッピングのときになり、チームの三人は楽しそうにそれぞれ盛り付け始めた。
「さて、いよいよトッピングですわ! まず、干し納豆、行きますわ!」
完成したバニラアイスクリームにルミナが手始めとして、干し納豆を中心に盛っていった。
「続いて、干しぶどうなの!」
白兎は中心にある干し納豆の周囲に干しぶどうを盛り付けていった。
「最後に、干しイモを乗せて完成ね!」
ミーミルは周囲に盛られた干しぶどうの周辺に刻んだ干しイモを盛り付けた。
「なるほど……。このアイスクリームに干し納豆と干しぶどうを乗せるのですか……」
「ボクも盛るよ! はい、干しイモ!」
近くで紅茶と茶菓子の用意をしていたカーディスと奈緒も楽しそうだったので、一緒に盛り付けを手伝った。
●梅肉シャーベットチーム
「さっきゆずの部屋から持ってきた梅ジュースと梅ジャムあるよね?」
楪は以前に作り置きしていた自家製の梅ジュースと梅ジャムを持ってくることを提案し、海柘榴と一緒に家庭科室まで運んできていた。
「まずは、梅ジュース1000mlをアイスクリーマーに入れるね」
楪が指示を出すと、海柘榴は梅ジュースのペットボトルをアイスクリーマーに丁寧に流し込んだ。
「そして、アイスクリーマーでこのまま30分待つよ」
楪がボタンをいじってセットをかけ、機械が音を立てて動き出した。
二人は他のチームの動きも見ながら、30分、世間話をして過ごした。
「最後に出来上がったら、こちらの梅ジャム(果実付き)をシャーベットに盛り込むのですね?」
海柘榴は梅ジャムを開け、ビンからスプーンでジャムを盛りだした。
楪も同じく、ジャムをスプーンで盛って、出来上がったシャーベットにジャムをたっぷりと混ぜだした。
●試食タイム
「さあさあ、皆さん。お待ちかねのアイスクリーム試食会を始めましょう!」
カーディスはそう言うと、本場イギリス仕込み?のウバ茶ティーバッグで人数分の紅茶を淹れてくれていた。
バタークッキーの方は奈緒が用意してくれていた。
まず、塩団子ジェラートチームの壮一、聖羅、浮雲助が続いて試食した。
「ジェラートの塩加減がいい」
「それに小さい白玉のもちもちした歯ごたえがいいわね」
「塩加減ともちもち食感の組み合わせ、いいですねえ」
次に、梅肉シャーベットチームの楪と海柘榴が続いて試食した。
「梅の味がまた爽やかだね」
「ジャムがほんのり甘く実も味がありますね」
最後に、干し物スペシャルチームのルミナ、白兎、ミーミルが続いて試食した。
「3種類のトッピングがよく混ざっていますわ!」
「うまいなの! ちゃんとしたトッピングアイスになってるの」
「うん、それにそれぞれの歯ごたえが楽しいね」
紅茶チームのカーディスと奈緒も続いて全品試食していた。
「ううん……。どれも市販のアイスと比べても遜色ない味ですね」
「ボク、全部大好きだよ。みんなで作ったアイス、全部採用じゃないかな?」
●アイス・パーティ!
「本日は、お忙しい中、お集まり頂き、ありがとうございました。さあ、堅苦しい挨拶は抜きにして、さっそくアイス・パーティを始めましょう!」
店長の相原が開会の挨拶をすると、参加者全員が拍手した。
選考を勝ち抜いたアイスたちはなかなかの手練れだった。
茨城産トマトのシャーベット、元気爆発系飲料のファイトアイス、学生のパワーフード大学イモジェラート、豪華フローズンベリーミックスアイス、牧場直送生キャラメルアイス、カロリーと糖分控えめの微糖コーヒーアイス、ピザ屋仕込みのトリプルチーズジェラート……。
そして、塩団子ジェラート、梅肉シャーベット、干し物スペシャルである。
「さあ、いっぱい食べるなの! 食べないと負けなの!」
「甘い物を見ると興奮が止まりませんわ! すべて食べ尽くしますわ!」
「今日は、遠慮しないよ!」
白兎、ルミナ、ミーミルはアイスを片っ端からかき集め、ひとつのテーブルを占領して凄まじい勢いで食べだした。
「うーん。洋食屋の息子として、実に勉強になるアイスたちだなあ……。八百屋、酪農家、ピザ屋、なかなかやるな」
「ふうむ。このコーヒーアイス、なかなかできるな……。糖分とカロリーを計算したとは……」
「ううん。うまいなあ。って、お二人とも、感心していると前のテーブルの勢いある三人に全品食べられちゃいますよ?」
壮一と聖羅は感心しながらテーブルでアイスを食べていて、横で見ていた浮雲助は二人の為に数種類のアイスを確保してきた。
「ははは、このアイス、冷たいはずなのに燃えてくるね?」
「パワーフードのジェラートも冷たいのに熱いですね?」
楪はファイトアイスを、海柘榴は大学イモジェラートを食べながら歓談していた。
「ううん。豪華ですねえ。このベリーミックスのアイス。ベリーと名がつく物は全て入っている。きっと、値段が高いでしょう?」
カーディスはアイスを味わいながら、値段の計算をしていた。
「ねえ、店長さん。お土産にアイス持って帰ってもいいよね? 義兄にも食べさせたいのよ」
「ああ。全品持って帰っていいよ」
奈緒が店長にお土産を頼むと、店長は頼まれると断れないタイプなのか、あっさりと承諾してしまった。
こうして店長は、参加者全員をアイス・パーティに招待するだけでなく、お土産まで各自に渡すことになったのであった。
しかし、店長は満足そうな笑みを浮かべていた。
こんなにも新アイスが集結したのだから、きっと、これからも人工島の飲食街で戦っていけるはずだ、と。
<完>