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マスター:天川流星
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/09/12


みんなの思い出



オープニング



「先日捕えた天使から、面白い情報を引き出すことに成功しました」

 暗闇を、プロジェクターの青白い光が裂いて行く。細部を滲ませながらスクリーンに描き出されていくのは、一体のサーバントだ。
 背中には全身を覆う程巨大な翼を持ち。両腕は、岩塊のような盾になっている。この時点で充分奇妙な出で立ちだが、もっとも特徴的なのは……

「ご覧のとおりきわめて強靭な脚を持ち、かなりの速度で動くことが可能らしいです。さらに、口から熱線を吐くようです。天使の開発した生体戦車って所でしょうか?」

 受付嬢が、サーバントの脚を示す。丸太のように太く、縄を捻じり合わせて作ったかのようにゴツゴツとした筋肉を持つそれは、このサーバントの全体重を余裕で支え、かつ高速で移動させるに違いない。
 そして、盾の間から正面をねめつけるガーゴイルのような頭。それを支える首もまた太く発達しており、熱線をあらゆる方向へ素早く照射することが可能だろうと伺わせる。

「盾は物理・魔法両者に耐性があるようで、正面からの攻撃は無謀と言っていいでしょう。側面・後方からの攻撃には弱いようですが、旋回能力だって悪くありません」

 一旦サーバントの映像が消え、先発した撃退士達による戦闘の様子が映し出される。後方や側面から攻撃を行う撃退士達が、サーバントの素早い旋回に追いつけず熱線や盾の打撃で吹き飛ばされるところだ。

「そもそも、このサーバント。かなり高速です。背中の翼を羽ばたかせることで速度を増すようですが……羽ばたかれると、人間の脚ではまず追いつけないですね。走っているだけでも、追いかけるので精一杯ですが」

 受付嬢は軽く肩を竦め……撃退士達に流し目を送る。

「ただ、幸運な事に一度動きを止めれば、加速するまでに時間がかかるようです。つまり、このサーバントを止めるとすれば、単純に正面からぶつかり合って動きを止めるか、翼を破壊した後走って追いかけるしか無いですね……あの速度で走るサーバントの翼に攻撃を与えられれば、ですが」

 戦闘の映像が消え、次に山間部の地図が映し出される。そこに掛かれた各ポイントを、指示棒が転々と渡っていく。

「サーバントは、A地点からD地点にある農村へ向かって進行してくるものと思われます。なので、私達久遠ヶ原学園の撃退士部隊はB地点で待ち伏せ、これを撃破します」

 最後に受付嬢が示したのは、C地点と掛かれた盆地。

「ここに、外部の撃退士機関が待機しています。どうやら我々を所詮学生と舐めているようです」

 なので。そう言って、受付嬢は再度B地点を強く叩く。

「何としても、B地点でサーバントを撃破してください。舐められっぱなしは性に合いませんから」


リプレイ本文



 蝉の鳴き声が、彼方此方から押し寄せる。オレンジ色の夕陽が、山の谷間に向かってゆっくりと身を沈める。舗装されていない農道はアスファルトに塗り固められた都会の道と違って冷めやすく、吹き抜ける風が昼間の熱さを一掃していく。
 農村によくある、平和な夕暮れ。が、それを破壊しようとするものが居る。
 進路を邪魔する岩を、木々を、透過するのではなく熱線で焼き払い。自らの力を周囲に誇示しながら突き進む。跳ねた砂利が盾に当たる音を楽しむ様に、或いは自身の破壊力を改めて確認するように。戦車のようなそれを止める事は、もはや人間には不可能だ。少なくとも、このサーバント・ガーゴイルを作り出した天使はそう考えていた。
 そんなガーゴイルがわずかに歩調を緩めたのは、決して障害物を見つけたからではない。獲物を見つけたからだ。
 正面にいるのは六人の人間。今までにも幾度か遭遇していたが……自分の盾を破ることは勿論、翼に傷を付ける事も出来ていなかった。
 然らば、この六人もまた障害たりえない。引き潰し、己の強さを再認識するための獲物だ。だから、ガーゴイルは己の巨体を最大まで加速させた。



 事前の取り決め通り散開していく撃退士達に、黄昏ひりょ(jb3452)が韋駄天を付与する。高速で接近するガーゴイルが相手だ。移動するわずかな時間ですらも惜しい。
(かなり厄介な相手だけど…皆を、そして自分を信じて全力を尽くそう)
 全員に韋駄天を付与し終わると同時に、鞘から抜き放つのは一振りの太刀。刃は存在しないが、それ以上に鋭く敵を斬り裂く水の刃を持つ。太刀・弥都波。ガーゴイルの像は雨樋として使われ、水を導く役目を果たすと言われるが。果たして、このサーバントには効果があるのか。
 韋駄天の速度を活かして散開していく撃退士に向かって急速に接近するガーゴイル。それを見ても、慌てるものなど一人たりとも居ない。強いて言うならばRehni Nam(ja5283)が少し目を丸くした程度だ。
「なんという超速。小回りこそあまり利かないようですが……こんな速度に対抗できる人なんて……」
 いや、居た。一人居た。彼女の頭の中に浮かんだのは、金色の瞳と艶やかな黒髪が似合う小柄な少女……
「……うん。知り合いに居ましたね。この依頼に参加していませんが」
 まぁ、何はともあれ。Rehniがポケットからヒヒイロカネを抜く。一度手元で輝いたそれは、即座に五芒星の形を取る。
 魔法攻撃能力も兼ねた大盾、パルテノン。四方から刃を噴きだしたそれを、確認の為に軽く振り回し。
「当方に迎撃の用意あり!」
 身軽に盾を構えるのと、ガーゴイルが大きく息を吸ったのはほぼ同時だ。まだ熱線の範囲には入っていないが、あの速度では接敵までそう余裕はない。
「さぁ……ガーゴイルさん、いらっしゃいですわ」
 居並ぶ撃退士の何れに狙いを定めるか。目玉を動かし獲物を見定めていたガーゴイルの視界で、真っ白なフリルがはためく。
 頭の先から爪先まで真っ白なメイドが、スカートの裾をつまんで一礼していた。顔を上げ、閉じていた眼を開き……唯一白以外の色が。真紅の瞳が、ガーゴイルを見据える。
 斉凛(ja6571)。彼女のスキル『タウント』の力だ。ガーゴイルから見れば、斉凛は一人輝いて見える事だろう。
「戦メイド……参りますわ」
 言葉と共に、スカートから零れ落ちるのは白銀の装甲。それは即座に組み合わさり、彼女の腕を覆い尽くす。部品同士がかみ合い、組み合わさっていく。
 そうして完成するのは、ランタンシールド。籠手に据え付けられた盾が開き、暖かな火の光を灯す。
『オォォオオオオオオ!!』
 それを見て、何を考えたのか。否、何も考えることなど無いのだろうが。ガーゴイルが軌道を微調整、斉凛目がけて突進を開始する。当然正面から衝突すれば、少女の小さな体は弾き飛ばされるだろう。
「も、物凄い移動速度です……でも、絶対負けません、止めて見せます!!」
 ガーゴイルの進路上に、的確に結界が張られていく。高速で移動するガーゴイルの進路を見極めるのは難しい事だが、斉凛のタウントでガーゴイルの進路は確定されている。そうなれば、事前に有利な状況を作り出すことは充分可能だ。
 結界を幾重にも張り巡らせたのは、久遠寺 渚(jb0685)だ。そうして張られた結界に向かって、ガーゴイルが熱線を吐きかけ……
『ゴォォオオオオ!?』
「この程度なら……!」
 熱線の一部が、ガーゴイル目がけて反射される。吐きかけられた熱線の大半も、張られた結界に散らされ、容易に盾で受け止められるほど攻撃力が低下した。
 スキル・四神結界と八卦水鏡の効果だ。完全に護りに入った撃退士と陰陽師のスキル群を突破することは、たった一体のサーバントだけでは困難を極める。
 しかし、まだだ。熱線は、所詮牽制に過ぎない。本命は、その巨体全てを活かした突進だ。
「攻撃するチャンスはかなり限られてしまいますね」
 砕けた結界群を補うように。一歩前に出た撃退士が居る。遠目に見れば無手にも見えるが、よくよく目を凝らせば透明の盾を握りしめているのが分かるだろう。
 雫(ja1894)が構えるのは、塗壁の盾。かの有名な妖怪に見立てて作られたものだ。伝承のように、ガーゴイルを止める事は出来るのか。
 ほぼ全員がガーゴイルとの激突に備える中で、敢えて距離を取っているものも居る。
 ミハイル・エッカート(jb0544)。彼には、ガーゴイルの足止め以上に重要な仕事がある。
「撃退士トップクラスでもそうそう無い移動力。とんでもない性能だが、どこか弱い部分があるのがサーバントだ」
 彼が見据えるのは、ガーゴイルの体を覆う翼。物理攻撃には高い耐性を持つ一方で、魔法攻撃には弱いという報告が入っている。これを羽ばたかせることで驚異的な速度を発揮するわけだが、破壊してしまえばもはや撃退士から逃げる事も敵わない。
 この翼を破壊できるかどうかがこの依頼の成否に関わると言っても過言ではないだろう。
 盾役達が突進を抑えると同時に即座に攻撃が可能な位置に移動し。静かに深呼吸をしてタイミングを見計らう。
「さて、そろそろ頃合いですね!」
 そして、少しでも盾役の被害を抑える為に、Rehniが動いた。手の中に青白い球体が生まれ、それが握り絞められる事で強度を増し……
「前面の盾を壊すのはほぼ不可能でも、貫通攻撃ならどうですか?!」
 ガーゴイルに向かって彗星のごとき勢いで叩きつけられた。叩きつけられた彗星はさらに分散し、ガーゴイルの全身を叩く魔法攻撃となる。
『…………!?』
 この攻撃がよほど効いたのか。翼から、岩が擦れあうような鈍い音が響き渡る。
「わ、私も……!」
 さらに、久遠寺が手元で素早く印を切り始める。
 陰陽師のスキル、ドーマンセーマン。天魔の侵入を阻止する結界型スキルだが……その動きを、Rehniが遮った。
「今使うと、ドーマンセーマンの範囲外の人に突っ込むか、最悪私達を無視してそのまま走り去るかも……そうなると、とても抑えきれないです」
「そ、そうですね……分かりました!」
 久遠寺が頷くのと、雫が詠唱を開始するのがほぼ同時。
「サーバントの一匹や二匹、物の数ではありません」
 砂利を踏みしめ、鋭く息を吐く。同時に周囲に湧き出るのは、渦巻く風で作り上げられた防壁・ブレスシールドだ。
『オォォオオオオ!!』
「ッ……!!」
 次の瞬間。ガーゴイルの全体重を乗せた一撃が、雫を襲った。総力を挙げて防御に専念していてもなお受け止めきることは出来ない。雫は、歴戦の撃退士だ。それでも、ガーゴイルの巨体を一人で抑える事は不可能だっただろう。
「……全力で受け止めますわ」
 が、彼女にはガーゴイルとは違い仲間がいる。雫のすぐ後ろに居た斉凛、久遠寺、Rehniが即座に飛び込み、共に受け止めに入る。
『ガァアアアアアア!!』
 四人掛かりでもなお、即座に止める事は出来ない。四人の脚が深々と地面に埋まり、長い溝を刻み込み……ついに、ガーゴイルの動きが止まった。
「相手が止まった。翼に一斉攻撃だ」
 さすがに、わずかながらよろめく四人に代わり。二人の撃退士が、ガーゴイルの側面から飛びかかる。
 黄昏と、ミハイルだ。



「まずは、翼から奪わせてもらうぞ!」
 反撃を恐れない至近距離への侵攻。極めて迅速に行われたそれは、ガーゴイルが反撃を行う隙も無いほど完璧なものだった。
 気付いた頃には、既に遅い。ミハイルの持つ白銀の魔銃、フラガラッハが激しい紫電に包まれ……
『オォォオオオオオ!?』
 放たれた一撃で、翼全体にヒビが入った。さらに、激しい火花がガーゴイルの全身から噴出し、完全にその動きを止める。
 強力な電撃で対象を攻撃するスタンエッジの効果だ。必死にもがこうとするガーゴイルに、余裕の表情でミハイルが歩み寄り……
「せっかくの自慢の翼だろうが実に困るのでな、遠慮なく潰すぜ」
 フラガラッハの銃床を、翼に叩きつけた。瞬間。
『オォォオオオオ…………!!』
 巌にヒビが入るように。土くれが砕ける様に。翼が鈍い音を立てて崩壊し、地面に散らばった。加速器として機能する翼が砕けたことで呆然とするガーゴイルの隙を、撃退士達は当然逃しはしない。印を結び終えていた黄昏が、ガーゴイルに対し大量の符を叩きつける。
「お前の動き、止めさせてもらうよ!」
 瞬間。ガーゴイルが、ピタリと動きを止める。自らの状態にようやく気が付き、焦った様子でガーゴイルが暴れようとするが、それすらも許されない。
 式神・縛。陰陽師の使う式神が、完全にガーゴイルの動きを縛っていた。が、それでもなお熱線を吐こうと、大量の息を吸い始め……
「物理防御に自信があるようですが」
 その発達した脚の影に隠れる程小さな影が。手の中で、一筋の光を生み出す。即座にヒヒイロカネが引きのばされ、展開し、一本の大剣へと姿を変える。
 全長180cm。使用者の身長を超えるそれの名は、太陽剣ガラティン。物理攻撃に特化した剣であり、決してガーゴイルとの相性は良くないが……
「私も物理攻撃に少々自信があるんですよ……一つ勝負と行きませんか?」
 轟、と。その小さな体から、粉雪が舞い上がる。同時に、太陽のような暖かな光を宿していたガラティンが、その印象を一変させる。
 刀身を、まるで月のような青白い光で輝かせる。それが、半月の形を描いてガーゴイルの体へと叩き込まれ……
「どうやら、私の勝ちのようですねあ」
 大木のようなガーゴイルの脚が、澄んだ快音と共に切断された。さらに、軌道はそのままに、刀身はガーゴイルの首筋に食い込んで満月になり……
「ど、どうにかなりましたね……?」
 おっかなびっくり、久遠寺が魔具をヒヒイロカネに戻すのを皮切りに、撃退士達が武装を解除し始める。
 その背後で、醜悪な悪魔の表情を象った頭が、ごとりと落ちた。


「このクソ暑いのに走りすぎた。冷えたビール飲みに行こうぜ」
 ミハイルの提案で始まった、社会人撃退士達との飲み会。最初こそ戸惑いを隠せなかった撃退士達も、飲み会の半ばからは時折笑みを浮かべるようになっていた。もっとも、その表情には苦笑いの成分が多めに見えたが……
「どうぞ、遠慮なく」
「あ、あぁ……ありがとう」
 メイド姿の斉凛に料理の入った小皿を渡され。撃退士達は、おっかなびっくり料理に口を付ける。
「……なんでメイド服なんだ?」
「さぁ、それは本人に聞いてみないと」
 微かに首を傾げつつ。黄昏と並んで、つまみに舌鼓を打つ。
 他のテーブルでは、リーダー格の撃退士が雫の体に吸い込まれていく肉料理の量に目を丸くしていた。
「皆さんから見て、今日の私達の動きはどうでしたか?」
 ごくりと。から揚げを飲みこんで、雫が不意に問いかけた。
「素晴らしかったよ。正直に言うが、学生と思って舐めていた」
 雫の問いに、撃退士達が頭を下げる。口を湿らせるようにアルコールを含み。小さく息を吐いた。
「全員、見事に連携していた。個々の戦闘能力も高い。大したものだ」
 そこで、物欲しげにジョッキを見つめるRehniに気が付き、酒の入った瓶を渡そうとする。が、悔しそうな表情で彼女は首を振った。
「故郷では飲めるんですよ、日本ではいつも年齢の壁が!」
「なんだ、まだ二十歳にもなってないのか」
 驚いた様子で目を丸める撃退士に。ミハイルがジョッキ片手に歩み寄る。
「学生を舐めているってのは気持ちは分かる。確かに俺も最初は、学園は子供ばかりだと思っていたさ。あっという間に見る目は変わったぜ」
「……そうだな」
 それぞれ、思い思いに飲み会を楽しむ撃退士達を見渡して。最後に、リーダー格の男は屈託のない笑みを浮かべた。

Fin


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:3人

歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
前を向いて、未来へ・
Rehni Nam(ja5283)

卒業 女 アストラルヴァンガード
紅茶神・
斉凛(ja6571)

卒業 女 インフィルトレイター
Eternal Wing・
ミハイル・エッカート(jb0544)

卒業 男 インフィルトレイター
未到の結界士・
久遠寺 渚(jb0685)

卒業 女 陰陽師
来し方抱き、行く末見つめ・
黄昏ひりょ(jb3452)

卒業 男 陰陽師