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マスター:ロクスケ
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:4人
リプレイ完成日時:2012/10/09


みんなの思い出



オープニング


「なぁ、夜中にサバゲって楽しそうじゃね?」
 始まりはとある男子生徒が、教室内で呟いた一言だった。
 夜中に学校でサバイバルゲーム。
 なるほど、確かに楽しいだろう。夜中、しかも学校という日常の象徴で、ちょっぴり非日常チックなことをしでかすのだ。男の子なら、いや、『遊び心』を持っている者なら、胸を躍らせるに違いない。
 現に、その男子生徒の一言が発端となり、そのクラスでは昼休みの話題を掻っ攫うほどの関心を集めた。
 けれど、その熱が冷め切らず、授業中にまで持ち込んだのがいけなかった。
「こら、高橋! 授業中に紙切れを千切って、こっそり回すんじゃない!」
「うげっ! どーして、わかったんですか、先生!?」
「ばかもん! この学園で教師生活をそれなりにやっていれば、視認することなく教室内の空間を把握することなど動作もない!」
「ぱねぇ! 教師ぱねぇ!」
 そして中年の男性教師は、生徒たちが回していた紙切れを読む。そこには、昼休みに話題になった夜中にサバイバルゲームのネタが書いてあった。
「お前らは、俺の授業中にこんな……」
 教師はしばらくその紙切れを眺めた後、ばんっ! と教卓を激しく叩き、そのまま鬼気迫る勢いで教室を飛び出していった。
「おい……」
「ちょっと、やばくね?」
「だ、誰か謝りに行けよ……」
 その教師は多少、口うるさく生徒を叱るところがあっても、遊び心を理解できて、本気で怒ったことなど一度もなかったのである。
 教室内はざわめき、不安と授業中にくだらない妄想にふけってしまった自分たちを恥じる声がぽつぽつと零れていく。
 そして、五分後。
「っしゃあ、お前ら! 校長から夜の校舎の使用許可もぎ取ってきたぞ! レクリエーションの一環として無理やり押し通したから、各自、参加したい奴は自己責任で来いよ! あ、装備とか持ってない奴はこっちで全部請け負うから、遠慮せず手ぶらで来いよな!」
『教師ぱねぇ!』
 ものすごく生き生きとした目で帰ってきた中年の教師に、生徒たちは揃えて驚きの声を上げた。


「そんなわけで夜の学校でサバゲーをやることになったのだが、いかんせん、楽しみにしていた教師陣は校長から『大人なんだから、大人しく審判してなさい』と釘を刺されてしまった。このまま何も無しは悔しいので、諸君らに『イレギュラー』として戦場を引っ掻き回して欲しい。ゲームとは不確定要素があるから、面白い、そう思うだろう? ん? ああ、そうだな―――――私の生徒が手ぬるい戦争をするようだったら、全滅させても構わんぞ」


リプレイ本文

●パーティの始まりだ!
下校時間はとっくに過ぎた。日は沈みきり、漆黒の夜空が世界を包んでいる。この時間帯なら、滅多に久遠ヶ原学園の校舎には人が居ないのだが……この時だけは勝手が違っていた。
「デストロイ!」
「サーチ・アンドデストロイ!」
「我らは赤き炎! 全てを飲む赤い炎なり!」
 赤い腕章をつけた生徒たちは、もう、なんかどこぞの特殊部隊みたいな完全防備で玄関前を陣取っている。フラッグは校舎と肯定のギリギリの協会に。
「敵は本能寺にあり!」
「居ないけど!」
「とりあえず、我ら、青き雷はこんなノリでぶっころじゃー!」
 青い腕章をつけた生徒たちは、迷彩服やバンダナなど、どこぞのゲリラ部隊の如き格好で放送室に陣を構えていた。もちろん、フラッグはそこに立てられている。
 二つの勢力は今、深夜のテンションでテンションが上がりまくっていた。そして、ついに先生の号令により、その火蓋が切って落とされた。
「では、これよりサバゲーもとい、夜の課外授業を行う! なんかエロい響きだけど気にすんな! んじゃ、開始ぃ!」
『ヤーハー!』
『怨敵排除ォ!』
 赤と青、二つの勢力は雄たけびを上げながらぶつかっていく。だが、彼らはまだ知らない。この戦闘にはもう一つ、先生の悪ふざけで投入された部隊が居ることを。
「むー、ガンマンがこういう玩具使うの、アリなのかなー、なのだ……」
 フラッペ・ブルーハワイ(ja0022)の呟きが漏れたのは、一回の廊下。赤と青がそれぞれ、机と椅子を用いて障害物を作り、そこで撃ち合いをしているときだった。
 それはさながら、青の雷のお株を奪う動きだった。
「な、なんだ、あいつは!?」
「弾が当たらねぇ!? くっ、ガンアクション漫画の主人公か!」
「どこの勢力だ!? アンノウン……いや、黄色だ!」
 黄色の腕章を身に付けたフラッペは、自らのアイデンティティに悩みつつも、スケートとレガースを巧に扱ったジクザク走行で弾幕を潜り抜けていた。弾け飛ぶBB弾を置き去りに、彼女は疾走を続ける。そして、放つのはBB弾による指弾。それが赤と青、両方の勢力を喰っていき、
「はいはーい。そこの三人アウトなー」
 先生の判定が出たところで、生徒たちは完全に状況を理解した。
『この先公! 自分が出れないからって、代理を頼みやがったな!?』
 こうして、第三勢力は認知され、夜の校舎は更に混沌と化していく。

●いろんな意味でびびったお化け作戦!
怒声と悲鳴が鳴り響き、生徒たちはアドレナリン全開で銃撃戦を行っていた。そんな時、ふと、赤の生徒たちが奇妙な音に気付く。
「おい? なんかピアノの音聞こえねーか?」
 その音は音楽室から聞こえていた。赤の生徒たちは拳銃型のモデルガンを構えながら、そうっと、音楽室の扉を開け、それと同時に、ダーンという、メロディを破壊するような勢いの音が響く。
「…あ…あぁ…ああああああ!!!!」
 そこから現れたのは、ご丁寧に赤黒い絵の具でメイクし、ブリッジをしながら生徒たちに迫る亀山 淳紅(ja2261)の姿だった。しかも、スキルまで展開し、無数の腐敗した腕がリアリティをかもちだしている。
「ぎぃやぁ! 出たぁ!」
「というより、天魔!? 撃退士を呼べぇ!」
 もはや完全にエネミー扱いされちる淳紅は笑いを堪えながら、ブリッジ状態でかさかさと動き、生徒たちを翻弄する。ここまで驚かれれば、美術部員冥利に尽きるだろう。
「あ、よく見ろ! 人間だ! 黄色い腕章も付けている! くそ、騙された!」
「あちゃー、ばれてまったな」
 正体が看破されるや否や、素早く淳紅は体勢を整え、窓へ。予め準備しておいた縄を使って、ダイナミックにこの場から離脱する。
「やっばい凄ぇわくわくするやっふぅぅぅ!!!」
 淳紅の叫びはきっと、この夜に参加した生徒たち、全員の気持ちだろう。

 場所は二階の女子トイレ。BB弾が飛び交う中、そこだけは不可侵というか、男子は普通に入れないし、『ゲームが始まる前にお手洗いは済ませておこーぜ!』の心がけで女子たちもほとんど入らないのだが……そこから、ぴちゃん、ぴちゃん、という水音が響いてくる。
「……もー、蛇口の閉め忘れ?」
 やれやれ、仕方ないなぁ、と青の女子生徒は女子トイレに入っていくのだが、
「え?」
 そこには、天井に張り付いたぼさぼさ髪の女――のメイクをした道明寺 詩愛の姿が。ワンピースもしわくちゃで、ぼんやりと発光する姿はまさしくお化け。
「っつ! 天魔!? こんなところで……皆には手を出させない!」
「夜の学校…七不思議やお化けの出番…」
 詩愛は女子生徒の叫びに、不服そうに呟く。オカルト好きにとっては、不思議現象が全部、天魔の仕業と思われるのは悲しみを禁じえないのだ。なので、詩愛はその悲しみをぶつけるべく、水風船をスカートの中から取り出し、そのまま投擲。
「奥義!! 血の雨地獄!!」
「ぎゃー!? 赤っ!?」
「ふふ、幾人もの撃退士を葬ってきたこのデスソース…生半可な覚悟じゃ耐えられないですよ」
「葬るなよ!? そして、辛いというよりもはや痛いよ! そして、掃除の時間が大変だよ! 手伝ってあげるからちゃんと掃除しようね!」
 こうして、二回の女子トイレでは色んな意味で惨劇が巻き起こっていたのである。

 三階廊下。青のフラッグがある階層なので、特に激しい前線区となっているのだが、そこにもやはり、混乱を呼ぶ黄色を掲げる撃退士の姿が。
「……いたい……痛、い……」
 そう、腹部から赤黒い液体を流しながら、うめき声と共に――大鎌を持って全力疾走する紀浦 梓遠(ja8860)の姿が。
「痛いなら走るなぁー!」
 追いかけられている男子生徒はサブマシンガン型のモデルガンで応戦するのだが、機敏な動きで射線を予測し、直前で回避行動を行っている。加えて、逃げ回っていた男子生徒はなぜか、バナナの皮を踏んでしまい、体勢を崩して大鎌の餌食に。
「作戦成功っす」
 夏木 夕乃(ja9092)はにんまりと悪戯な笑みを浮かべながら、廊下の角から現れ、サブマシンガンで前線の生徒たちへ掃射する。
「せっかく、怖いBGMを用意したんっすけどねー……フラッグはあるわ、先生には『や、さすがに夜の校舎だから』って妙に真面目な口調で止められるし……っと、お?」
 ぶつぶつ言いながら掃射を続けていた夕乃だったが、いつの間にか赤と青の生徒たちから無数の銃口を向けられていた。
「ふ……これだけは使いたくなかったっす」
 けれど、夕乃は素早くアンモニア水風船を投擲。異臭が撒き散らされ、生徒たちの間に悲鳴と怒号が上がり、混乱に包まれる。
「ほら逃げろ逃げろほらほらほらァ!」
 そこを梓遠の銃撃が火を吹き、どんどん生徒たちを食っていく。
「大丈夫。濃度は調整したから掃除は楽なはずっすー!」
『んじゃ、ここはお前も一緒に掃除な!』
 その隙を縫い、夕乃はしゅたたん、と軽やかな動きで射線から逃れて離脱。
「ぎぃあ! こっち来たぁ!」
「なんかあいつ、瞳孔開いているですけど!?」
「あーちょっと待ってよ置いていくなんて酷いなぁ鬼ごっこでもするの?あっははははははははは!!!」
 一方、梓遠はというと、愉しさのあまり軽く瞳孔を開きながら、ハイテンションで生徒たちを追い掛け回していた。

●楽しきは夜の日常
 黄色の腕章を付けた撃退士たちの舞台は、実に戦況をよくかき回していた。お化けを装って相手の恐怖心を煽る作戦も、ちょっと予想外の反応がありつつも、順調に場を掻き乱し、生徒たちをその銃撃で倒していった。
 しかし、問題はここからだ。もう既に赤、青のチームには情報が伝達され、迅速なる判断の元、冷静に彼らをしとめていく方向へシフトする。
「……学校。学校、か。ふふ。どんな人たちに、出会えるんだろう」
 花見月 レギ(ja9841)は頭に白い三角を付けたい外は、ほぼ普段通りの姿で校舎を探検していく。ある意味、非日常の側に浸かりきっていた彼にとっては、こういった日常が珍しくもあり、楽しくもあるのだろう。
「む……」
 けれど、幾度も戦場を潜った彼の感性はほぼ、反射的に体を駆動させ、パチンコを使い、確実に赤と青の生徒たちを倒している。
 そして、気配の消し方も熟知している所為か、
「ひゃあ!?」
「ん?」
 むしろ、お化けの姿をしているよりも驚かれ、そのショックで気の弱い女子生徒は尻餅を着いてしまう。
「ん。んん? ……いや。そんなに驚くとは、思わなかったん、だ。大丈夫、か?」
 戦場での、レギの優しい気遣いに、思わず女子生徒は顔を赤らめて、差し出された手を取る。
「は、はひ。大丈夫ですー」
「そうか。なら、よかった」
 女子生徒によっての非日常の戦場は、レギにとっての戦場ではない。けれど、そのことを知らない生徒が居るこの日常は、レギにとってはきっととても楽しい物になるだろう。

「天呼ぶ地呼ぶ人が呼ぶ、サバゲを制せとボクを呼ぶ! そう、ボク参上!」
 高々と名乗りを上げたのは、イリス・レイバルド(jb0442)だ。イリスは序盤、リアルなゾンビに扮装し、生徒たちを驚かせて、状況を掻き乱していた。けれど、段々と生徒たちがそれになれてくると、作戦をガチモードに切り替えたのである。
「レッツパーリィー!!」
 つまり、小細工なしのガチ勝負へ。
 イリスは満面の笑顔で、アドレナリンを全開。背負っていたグレネードランチャー型のモデルガンを発射する。
「ちぃ! ついに黄色たちも本気を出してきたか!」
「上等だ! 俺らのゲームをこれ以上乗っ取らせはしねぇぜ!」
 相対する生徒たちの士気もクライマックス。
 各自、残り少ないBB弾を残らずつぎ込み、イリスを迎え撃つ。
「玉砕上等! あーばれるぞー!」
 楽しんだ者勝ち、と言わんばかりに生徒たちに特攻していくイリス。そう、結局のところ、これは……一番楽しい思いをした者が勝つゲームなのだ。いや、全てのゲームは総じて、一番楽しんだ者が勝者なのかもしれない。

「ぐっ、なんだこれは!?」
派手なお化けの衣装。そして、派手な陽動。そればかりに目が行っていただからだろうか、生徒たちは次々と久遠寺 渚(jb0685)のブービートラップに掛かっていた。
「えと、あの、すすす、すみません! でも、戦場、ですから!」
 おどおどとした口調で、ブービートラップに引っかかった生徒たちに頭を下げる渚。しかし、そのおどおどとした態度とは裏腹に、彼女が仕掛けたブービートラップは確実に生徒たちの数を減らしていた。
 対象がドアを動かせば、その力によってマシンガンのトリガーが引かれ、対象に掃射される単純な仕掛け。けれど、巧妙に隠されてあり、お化け騒ぎで浮き足立っていた生徒たちはどうしても反応が遅れる。
 一見、地味に見られるかもしれないが、戦場ではこういった目立たないトラップこそ、真に警戒しなければならない。お化けをやっているときも、武術の歩法で足取りを気取らせずに歩み寄ったりなど、おどおどとしているが、渚はしっかりとその役目をこなしていた。
「わ、わたっ、私のぶーびーとらっぷが火をふきますよー!」
 時にわざとトラップを発動させ、敵を呼び寄せたりと、意外とノリノリである。
 渚ではなくても、そう、このゲームに参加している者たちは皆、ノリが良い。他者からみれば、馬鹿にされるかもしれないけれど、でも、それでもいいのだ。
 踊らぬ阿呆より、踊る阿呆。
 どうせならと、彼らは胸を張って、今をまっすぐに生きている。

●戦場の後片付け
結局、このサバイバルゲームは赤と青が黄色によって戦力を大幅に削られ、後半、これ以上戦力を減るのを危惧した両リーダーが突撃を宣言。お互いのフラッグを、ほぼ同時に奪い取るという決着となり、勝敗はドローとなった。
 煮え切らない決着だったかもしれないが、だからこそ、生徒たちの顔には「今度こそ」という熱意が篭って見える。
「ほんま、楽しかった! おおきになぁ♪」
 淳紅はばら撒かれたBB弾を集めながら、戦いを通して友情を深めた生徒たちと笑い合う。
「……ここって数年前に大勢の人が亡くなっているんですよね……」
「ああ、うん。数年前に私たちの学校に何があったんだろうね?」
 詩愛は天魔に慣れすぎて、あまりオカルトを怖がらなくなった女子生徒と一緒に、トイレ掃除をしながら怪談話。
「またやりたいなぁ……」
 梓遠は存分に愉しんだ、狂乱の時を思い馳せて、自らがばら撒いたBB弾を回収している。
「うー、本当にこれだけは使いたくなかったっす」
 夕乃は自分が投げた、アンモニア水風船の処理を。
「きょ、今日はたのしかったですね!」
「……ええ、本当に」
 レギは助け起こした女子生徒が、顔を真っ赤にして声を掛けてくるのを、微笑んで応えてみせて。
「あははは! 皆、楽しかったねー!」
 イリスは互いに戦場で特攻し合った生徒たちと肩を組みながら、談笑する。
「えとえと、せ、先生! せせせ先生の生徒は、り、立派な兵士でした!」
 渚はおどおどしながらも、戦場で銃口を交わした生徒に笑顔で敬礼をした。
「これで締めなのだ!」
 そして最後に、全部清掃が終わった後、締めくくりとばかりにフラッペが校舎の壁を駆け上がる高等トリックで生徒たちを魅せた。

「んじゃ、お前ら、解散。お疲れ! 明日は休みだからって、あんまり夜更かししねーで、早く寝ろよ」
そんな事を、全てが終わった後に、教師は生徒たちに語りかける。
もちろん、教師は彼らが夜更かし、もしくは徹夜すらしてしまいそうになるのも予想済みだ。なぜなら、こんなに楽しい夜だったのだ、このまま夢の中で終わらせるのはまだ早いと知っているから。
 なにより、教師自身だって、胸の高鳴りがまだ収まらず、なかなか寝付けそうになかったのだから。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: また会う日まで・紀浦 梓遠(ja8860)
 撃退士・夏木 夕乃(ja9092)
 未到の結界士・久遠寺 渚(jb0685)
重体: −
面白かった!:9人

蒼き疾風の銃士・
フラッペ・ブルーハワイ(ja0022)

大学部4年37組 女 阿修羅
歌謡い・
亀山 淳紅(ja2261)

卒業 男 ダアト
悪戯☆ホラーシスターズ・
道明寺 詩愛(ja3388)

大学部5年169組 女 アストラルヴァンガード
また会う日まで・
紀浦 梓遠(ja8860)

大学部4年14組 男 阿修羅
撃退士・
夏木 夕乃(ja9092)

大学部1年277組 女 ダアト
偽りの祈りを暴いて・
花見月 レギ(ja9841)

大学部8年103組 男 ルインズブレイド
ハイテンション小動物・
イリス・レイバルド(jb0442)

大学部2年104組 女 ディバインナイト
未到の結界士・
久遠寺 渚(jb0685)

卒業 女 陰陽師