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マスター:ロクスケ
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:7人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2012/05/19


みんなの思い出



オープニング

● 友達ができました
僕がこの学園の高等部に編入してから、二週間ほど経った。
そして、信じられないことだけど、こんな僕にも友達が出来た。
思えば、僕は小さい頃から目つきが悪くて人見知りだったから、今まで友達というものが出来たことが無かったと思う。
いつも、苛められてて。
いつも、僕は一人だった。
でくの坊扱いされて、教室の片隅でひっそりと生きていた。でも、この学園に入る前に、僕は決意したんだ。
生まれ変わるつもりで、自分を変えてみせるって。
見た目が悪いなら、いっそのこと、不良染みた格好をしてみようと思って、僕は髪を赤く染めた。そして、両耳に銀色のピアスだって付けた。多少、言葉遣いも乱暴に成ったと思う。鏡を見てみたら、どこからどう見ても強面の不良そのもので、今まで自分が敬遠していた存在になったのが、なんだかおかしかった。
この姿のせいで、余計、周りから人が居なくなるかもしれないけど、それでも、苛められるよりはマシなはず。少なくとも、僕はもう、俯いて毎日を過ごすのはごめんだった。
けど、予想は良い意味で裏切られた。
今まで僕が通っていた学校と、この久遠が原学園はまるで違っていたのである。
同級生は、僕の外見にまったく恐れずに話しかけてくるし、僕以上に個性的な格好や性格をした人たちがたくさん居たのだ。そんな人たちを見ていると、なんだか、妙に気を構えていた僕がバカらしくて、笑えた。
そんな自由溢れるこの学園で過ごしているうちに、自然と友達は出来た。実にあっさりと出来た。つい最近まで、もっと青春イベントを一緒に過ごさないと友達になれないと思っていた自分自身が、バカらしくて、また笑えた。
一歩踏み出すだけで、こんなに世界が変わるのかと思おうと、僕は――俺は、ちょっとだけ感動して、トイレでこっそり泣いた。
思えば、家族にはたくさん迷惑をかけたと思う。
特に、姉さんは、いつも苛められている俺を庇ってくれて、助けてくれた。俺が自分の強面が心底嫌になっているとき、

「どんな姿をしていたとしても、貴方は貴方よ、しゅーくん。姉さんは、絶対にしゅーくんを嫌いにならないわ」

そんな言葉で俺を励ましてくれたのを覚えている。
俺は、この学園に入って、成長した俺を、姉さんに見て欲しかったんだ。
だから、寮に入って早々だけど、実家に帰る許可を貰い、俺は姉さんに会いに行くことにした。
姉さんをびっくりさせたくて、この外見のことは何も言ってない。いや、言う必要がないだろう。例え、どんな姿になっても、俺は姉さんの弟なんだから。

「そんなわけでただいまー。姉さん、聞いてくれ。俺、ついに友達ができ――――」
「きぃやああああああっ!? しゅーくんがついにぐれたぁあああああああっ!?」
「えぇえええええええ!?」

俺が何かを言う前に、姉さんは自室に引きこもってしまった。
……ちょっと、心が傷付いた。


リプレイ本文

●事前準備

 がたいの良い体に、真っ赤な頭髪、両耳には銀のピアス。そして、極め付きには泣く子も黙るような強面。傍から見たら、不良以外の何者でもない。それが客観的な視線から見た、佐藤修吾の容姿だ。
 けれど、久遠ヶ原学園では、そんな容姿などただのパーツに過ぎない。
「そりゃあこのカッコで来たらグレたと思われるよね」
「親しき仲にも礼儀って大事ですよ?事前に『自分を変えたくてイメチェンしたんだ』ぐらい言ってれば、避けられたかもしれない事体ですよ?」
 それは、修吾の外見にまったく臆することなく、鴉乃宮 歌音(ja0427)と黒瓜 ソラ(ja4311)がツッコミを入れていることから明らかだ。
「ボクだって、親しい人がいきなりこんな風な変化見せ付けられたら、傷付きますもん」
「うぅ、すみません。まさしくその通りですぅー」
 そして、修吾が外見に似合わずヘタレだということは、ソラの追撃により、すっかりへこたれていることで証明してくれるだろう。
「……まぁ、不良といえば、客観的に見れば……」
 風紀委員長であるイアン・J・アルビスの一言に、修吾は慌てて弁解を始めた。
「あぅ……不良っぽい格好になろうとしたのは事実ですけど……これでも、僕、学園では影が薄いほうですよね? もっと濃い人とかたくさんいますよね?」
「だからと言って、久遠ヶ原学園の常識が外に通用するとは思っていけませんよ」
「基本的に学園の中と外じゃ、常識が違うから」
「……ですよねー」
 久遠ヶ原学園の緩さを知っているイアンはため息混じりに、歌音は着慣れない男子学生姿で淡々と答える。久遠ヶ原学園は、服装に関してかなりの自由が認められているので、今回のようなケースも珍しくないのかもしれない。
「でも、僕はしゅーくんがええー人だって知ってるでー。しゅーくんのお姉さんもきっとそうやって。だから、はよ仲直りできるよう、がんばろー!」
「友真くん……あ、ありがとー」
 落ち込む修吾を、小野友真(ja6901)は明るい笑顔でフォローする。本来なら、人見知りの修吾だが、友真とはすぐに仲良くなれたみたいだ。それは、友真と修吾が、どこか似た部分があるかもしれない。外見ではなく、内面で。
「家族から理解されないのは辛い。だから、頑張れ」
 月詠 神削(ja5265)もぶっきらぼうに修吾を励ます。しかし、どこか神削の表情には張り詰めたものがある。
「あ、ありがと……」
 どこか引っかかる物があるものの、修吾は笑顔で励ましに答える。しかし、その笑顔もまた、凶悪。
 その笑顔を見た歌音は、とりあえず修吾の格好を見れる程度に改善することにした。

●作戦名『天岩戸』発動!

「はい、終わり」
 歌音の手によって、修吾は完全な不良から、顔が怖い男子学生程度にまで落ち着いた。
「買出しも大丈夫ですよ」
「弁当も一応作ってきた」
 ルーネ(ja3012)と長成 槍樹(ja0524)により、食料調達も既に完了済み。加えて、槍樹とイアンの丁寧な対応により、修吾の家族から不信感は取り除いている。
 準備は全て整った。後はドア一枚隔てた先に居る、修吾の姉を説得するのだけ。
 これより、撃退士たちは修吾の姉を説得して仲直りしつつ、学園の偏見を是正する作戦、『天岩戸』(命名:ソラ)が発動する。
「こんにちは、修吾君のお姉さん、風紀委員会のイアン・J・アルビスです」
「初めまして、久遠ヶ原学園1年29組に在籍しているルーネと言います」
 たった一枚のドアなんて、撃退士たちによっては何の意味も持たない障害だ。けれど、今開けなければいけないのは、目の前のドアではなく、修吾の姉が閉じこもっている心のドアである。だから、イアンとルーネはまず、丁寧な言葉で修吾の姉へ語りかけた。
「……帰ってください」
 しかし、戻ってくる言葉は有無を言わさぬ拒絶。このままでは、いくら言葉をかけても意味を為さないだろう。
 だから、まずは先んじて槍樹が修吾の姉を刺激する。
「キミが俺たちのことをどう思おうがかまわないが、一つだけ。キミは、キミの弟を見かけでイジメてきた者達と、同じ者になるつもりかい?」
「――な!?」
 ドアの向こう側で、思わず修吾の姉が言葉を詰まらせた。なぜなら、槍樹の言葉は、余りにも修吾の姉自身が自覚している痛い部分へ、突き刺さったのだから。
「そ、そんなこと! しゅーくんを不良にした貴方たちに言われる理由がありません!」
 修吾の姉の叫び声を聞きながら、飄々と肩を竦めて槍樹は静観に努めることにした。これから言葉を尽くすなら、刺激する言葉を言った自分より、他の者が適していると判断したのだろう。
「お姉さん。修吾さんを不良になられたと誤解しているようですけど、修吾さんは特に問題は起こしていなかったはずですよ?」
「え?」
 その判断が正しいと証明するかのように、イアンの言葉がカウンターとなって、修吾の姉の頭に冷水をかけた。
「で、でも、あの学園には不良がたくさん……」
「不良というか、変人はいます。しかも多いです。でもみんな優しい人ですよ」
 若干被害妄想気味になっていた修吾の姉へ、冷静な意見を丁寧に伝えるルーネ。修吾の姉は、自分の予想とまるで違う撃退士たちの反応に、ドアの向こう側で戸惑う。
 そして、今だ、畳み掛けろとソラや歌音に背中を押されて修吾が姉に語りかけた。
「姉さん、皆が言ってることは本当だよ。ほら、ちゃんと友達だってできたんだ」
「しゅーくんの友達の小野友真でっす! 学校でも仲良うしてもらってますー」
「え……」
 柔らかで明るい友真の言葉を、疑うほど、修吾の姉は疑心暗鬼に陥ってはいなかった。
「見た目不良なのに、普通の友達が出来るって凄いと思いませんか? 佐藤さんの見た目じゃなく、性格を知って友達になってくれたって事ですよね」
 ルーネの言葉を、修吾の姉は否定することができなかった。なぜなら、修吾の優しい性格は、一番、修吾の姉自身が理解していたのだから……だが、
「う、うるさい! うるさい! みんな、私を騙そうとしているんだ!」
 理解しているからこそ、修吾の姉は子供みたいに喚きたてる。帰ってきた弟が、まるで、自分の知らない存在になっているような、そんな寂しさが、弟離れできない姉心がそうさせる。
 こうなってしまってはもう、話の聞ける状態ではない。事態を静観していた槍樹は、撃退士たちに一時撤退の合図を出す。とりあえず、修吾の姉の頭が冷えるまで、時間を置くことに。
 だが、最後に状況を見守っていた神削は、ドアの前で淡々と呟く。
「俺たちの言っていることを信じたくないなら、それでいい。けど、あなたの弟の言葉だけは、信じてやってください」
 その呟きは、確かに修吾の姉へ届いていた。

●言葉は心を繋ぐためにある

修吾の姉が冷静になるまで、撃退士たちはとりあえず、居間で休憩がてらに腹ごしらえをすることになった。
「すみません、皆さん。折角説得してもらったのに……」
 待機中、修吾は撃退士たちへ頭を下げた。その言葉には、自分の無力さや、後悔など、後ろ向きな感情が篭っている。
 そんな修吾を嗜め、励ますようにソラが口を開く。
「ボク等がどれだけ言葉を尽くしても、最終的に一番大事なのは、修吾さんの言葉ですよ」
「……そう、ですね」
「そうそう、お姉さん好きなんやったら絶対わかってもらって、仲直りしよ。好きな人と仲良くするんは幸せですからねー」
 友真も、怖気づきそうになる修吾へ、笑いかける。
 そんな二人の言葉に、修吾は初めて学園で友達ができたときの事を思い出す。その時も、こうやって折れそうになっていた修吾の心を、学園の皆が助けてくれたのだった。
「さて、少年本人の決心がついたなら行こうか。これは本来、キミ自身が解決しなければいけない問題だ。キミがへこたれている状態では、何をしても意味がないからな」
 飄々とした口調だが、槍樹の言葉にはしっかりとした芯がある。その言葉が、最後の後押しとなり、修吾は覚悟を決めた。
「そうですね。これは本来、私たち家族の問題です。部外者は口出ししないでください」
 そして、その覚悟を試すかのように修吾の姉が現れる。撃退士たちは足音で修吾の姉が来るのを察知していたが、修吾はただ、目を見開いて驚く。
「皆さん、修吾のためにご足労ありがとうございました。ですが、これ以上は家族の問題。こちらで解決しますので、どうぞお引取りを」
 ドアから出てきた修吾の姉は、口調こそ冷静になっていたが、今度は逆に冷め切っていた。まだ撃退士たちを信じ切れていないのと、急な弟の姉離れが、姉の心を凍りつかせていたのである。
 しかし、その程度の意地を撃退士たちは認めない。まだ現実から逃げている相手に、臆することも、遠慮することも、必要ない。
「そうはいきませんよ。誤解を受けてるんですから、仲間が」
 修吾の姉の言葉を、イアンはきっぱりと断った。あまりの直球に、修吾の姉は虚を突かれ、冷静な仮面にヒビが入る。
「お姉さん! 修吾さんの言葉、聞いてあげてください。修吾さんの言葉に、嘘偽りがないか、お姉さんなら、分かるでしょう!?」
「そうだな。目蓋が赤くなるほど泣きはらしたキミなら、分かるはずだ」
 ソラと槍樹の言葉で、完全に冷静な仮面は崩れ落ちた。仮面が崩れ落ちた後の本当の顔は、ひどく不安げな、どこにでも居るような、弟想いの姉のものだった。
「お姉さん、例えどれだけ見た目を変えても、性格の根っこの部分、優しさとかそういうのって、簡単には変えられませんよ」
 そして、ルーネの言葉で修吾の姉は俯く。今までずっと、意地を張ってきたものが崩れてしまったから。
「姉さん……」
「修吾、君の言葉でちゃんと伝えるんだ。別に君が容姿を戻したところで、誰も君を見捨てない。だから、飾った葉ではなく、格好つけない言葉で伝えるんだ」
 淡々と、けれど、しっかり意味と想いが込められた歌音の言葉を受け、修吾は自分の想いを姉へ告げる。
「姉さん、ごめん。いきなりで戸惑ったよね? でも大丈夫、どんなに外見が変わっても、僕は僕だよ。姉さんの弟だ」
「しゅーくん……でも、どうしてあんな格好を……」
 戸惑う修吾の姉の前に、神削は躊躇うことなく歩いていき、
「お願いだ、佐藤の話を聞いてやってくれ」
 迷い無く頭を下げた。
 そして、小細工なしの、真剣でまっすぐな言葉を紡いでいく。
「あなたから見れば、イヤーカフとかをつけている俺は、不良のように見えるかもしれません。けど、くだらない格好付けのために俺はイヤーカフを付けたりしてるんじゃない。大切な、とても大切な理由があります。だからきっと、佐藤の奴も、あの格好にはちゃんとした理由があるはずなんです。だから、あいつの話を聞いて、向かい合ってください」
 人とわかりあうのは難しい。
 それも、頑なにこちらを拒絶してくる相手なら、なおさらだ。けれど、人には言葉がある。心を伝える手段がある。
「…………ふふっ、しゅーくん。良い友達ができたね」
 想いを乗せた言葉は、きっと相手に伝わるのだ。
 修吾に向けられた姉の笑顔が、それをちゃんと証明していた。

●最後はみんな笑顔で

人と人がわかりあうのは難しいが、一度、わかりあえてしまえば、案外、事はさくさくと進むらしい。
「しゅーくんどれ食べる?最初に選んでええよー☆ んで、お姉さんのも選んで持ってったってなー」
「紅茶の準備もできたよ」
 友真のお土産であるケーキの争奪戦からの、紅茶談義。
「弟さんが心配なら、この後散歩でもどうだい? 久遠ヶ原学園の学生たちの青春について、色々語ってあげようか?」
 そして、自然と修吾の姉を槍樹が口説いたり、
「もっと弟さんはワイルド押しで行ったらいいんじゃないですか?」
 歌音と修吾の姉による、修吾のコーディネートが始まり、場の雰囲気がにぎやかになっていく。
 どうやら、修吾の姉も事情さえ理解してしまえば、お堅い人間ではなく、むしろノリが良い方の人間だったらしい。
「ええと、ありがとね、神削くん」
「……別に俺は何もしていない。お前が頑張った結果だ」
 そんな中で、どこか神削の表情は暗い。修吾がお礼を言っても、どこか複雑そうに言葉を返すだけ。
「俺ができることなんて、所詮はたかが知れて――」
「でも、僕は嬉しかったよ! あの、その、うまく言えないけど! あんな不良な格好でもですね、僕はそれなりに気に入っていたというか! 不良になりたかったわけじゃないけど、その……」
 修吾はあわあわと焦ったり、慌てたり、恥ずかしがったりながら、神削に言葉を伝えた。
「認めてくれてありがとう。神削くんや、皆のおかげで僕は助かったよ!」
 その言葉は思いのほか、大きく、居間に響いて、周りの人間は一瞬、きょとんと目を丸くした後、朗らかに笑い始める。
「……そうか、それはよかった」
 周りの笑いに釣られたのか、それとも修吾の言葉に対してか、神削の表情は柔らかく変わり、微笑を作る。
 新しい自分になることは悪いことじゃない。けど、その結果、全部がうまく行くほど現実は都合よく出来てはいない。
 それでも、仲間が隣に居るのなら、意外と何とかなったりするのも、現実だったりするのだ。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: ドクタークロウ・鴉乃宮 歌音(ja0427)
 釣りキチ・月詠 神削(ja5265)
重体: −
面白かった!:4人

守護司る魂の解放者・
イアン・J・アルビス(ja0084)

大学部4年4組 男 ディバインナイト
ドクタークロウ・
鴉乃宮 歌音(ja0427)

卒業 男 インフィルトレイター
泰然自若・
長成 槍樹(ja0524)

大学部9年172組 男 ダアト
誠士郎の花嫁・
青戸ルーネ(ja3012)

大学部4年21組 女 ルインズブレイド
インガオホー!・
黒瓜 ソラ(ja4311)

大学部2年32組 女 インフィルトレイター
釣りキチ・
月詠 神削(ja5265)

大学部4年55組 男 ルインズブレイド
真愛しきすべてをこの手に・
小野友真(ja6901)

卒業 男 インフィルトレイター