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マスター:離岸
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:7人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2013/12/28


みんなの思い出



オープニング


 近くに天魔が居ようと、それで仕事が休みになる訳ではない。
 種子島の郵便局に勤める青年は自転車をえっちらおっちらと漕ぎながら、ここ最近回数が増えたと自覚するため息を意識して吐き出す。
 郵便局に勤める以上各地のポストを回っては手紙を回収するという業務に携わらなければならない。そして不幸なことに、青年の担当エリアは南種子町と中種子町の中間程にあるのだ。
 まだまだ人間の生活領域ではあるが、過去に何度か天界の侵攻によって避難騒ぎが起きた事もあるような、何かの拍子で恐ろしいことに巻き込まれてしまう可能性が高い場所である。
 中種子とは言わない。自分の担当が今は天魔に支配されている南種子や西之表だったら良かったのに、なんて何度思ったか分からない。
 そうであればきっと、今頃中央の安全な所で手紙の仕分けなんて行いながら日々を過ごせていた筈だ。少なくとも、天魔の気配に不安を抱きながら寒空の下手紙の回収なんて行っていないに違いない。

 ため息を、もう一度。
 ポスト巡回ルートの最後の地点を訪れ、慣れた手つきでポストを開ければ素早く手紙を銀色の丈夫な袋に入れる。島から外に出た事の無い青年には外がどうなのかは分からないが、少なくとも自分の持ち回りの範囲ではポストから回収した手紙はこの袋にまとめておき、帰ってから局で仕分けを行う手筈になっている。
 最近は、この袋が随分と重い。島外の知り合いに宛てた手紙を書く人が増えているのだ。例えば今目の前にあるポストから歩いてすぐの位置にある家の老婆は、ここしばらくは三日に一度程の周期で手紙を投函している。ちょっと周りに聞けば、誰と誰と誰に宛てた手紙を書いているのかまで分かってしまうだろう。

 狭い島内の狭いエリアを周っているのだから、当然の話だ。
 それが良い所なのだ、と島外から来た人間は羨ましそうに言うが、ずっと島に居る青年からすれば、この距離の近さは枷にしか思えない。
 知ってしまえば、分かってしまえば。それを知らなかった状態に戻すことなんて出来なくなるのだから。
 そして、手に持っている銀色の袋の重さに意味があるのだと理解してしまえば。もうこの重さを放り投げてしまう訳にはいかなくなってしまうから。

 だから。
 以前天使の勢力が侵攻してきた時に遠目で見たことのある狼が今、目の前で唸り声を上げていた時。
 青年は、知らず持っていた郵便袋を護るように抱きしめていた。


 現地に到着した時、敵は既に町へ続く橋を半分ほど渡ったところだった。
 その日、町へ進行しようと出現したサーバントは、岩を切りだして作られたような無骨なゴーレムだった。
 外見通りに動きは鈍いが、代わりに振るわれる拳は強力なのが重々しい足音だけで分かってしまう。あの重量から放たれる拳をもろに受けてしまうのは危険だろう。
 撃退士ですらそれなのだから、一般人や彼らが住まう住宅なんて、ゴーレムの前では紙細工にも等しいに違いない。
 故に、これ以上敵を町に近づける訳にはいかない。幸い、ゴーレムを真正面から迎撃する立ち位置を取る事は出来た。後は、突破されないように気をつけながら撃破すれば良いだけだ。
 一同が無尽の光を纏うと共に武器を構え、今まさにゴーレムと対峙しようとした瞬間。
 背後から、一陣の風が吹き抜ける。

 驚きに風の吹いた方を振り向くと、黒い毛並の狼が物凄い速度でゴーレムの方へと走り抜けていく。ゴーレムはゴーレムで、狼に対して特段の反応を返さない。まるで、見知った知り合い同士が合流したようにも見える。
 狼は軽快な動きでゴーレムの脚から肩へ、肩から背中へ跳ぶと、彼らを壁にするような位置でようやく足を止めてこちらを振り返る。口元に咥えているように見える銀色の何かが、快晴の太陽を跳ね返してきらりと光る。袋、だろうか。

 あの狼も確か見覚えがある。サーバントだった筈だ。これもまた見た目の通り、機動力に優れる半面防御力はそれ程では無い、丁度目の前のゴーレムとは正反対のタイプの個体だったと思う。
 誰かがそんな事を思い出すと全くの同時、狼が走ってきた方から自転車のタイヤが回る音と、人の怒声。

「――おい、待てよ! 手紙、返せ! 返してくれよ!!」

 郵便配達員、だろうか。もしかしたら先程の狼に襲われていたのかもしれない。着ている制服はあちこちボロボロで、所々から覗く引っかき傷が何とも痛々しい。
 彼は撃退士達を認めると、その場に倒れ込むような勢いで自転車から降りて縋りつくような目線で一同を見上げて叫んだ。

「誰か! 誰かあいつが持ってる袋を取り返してくれ!! 手紙が、手紙が取られたんだ!!」


 種子島では無い、日本の何処か。
 まだまだ幼稚園に入ったくらいの歳だろうか。子供がこたつにあたりながら窓の外の雪を眺めている。
 祖母が住まう種子島にはめったに雪が降らない。今度祖母から手紙が来たら、その返事に封筒の中に雪を入れて返してあげようとこっそり考えている。
 普段見た事が無い雪が封筒の中から届いたとあれば、天魔によって辛い目にあっている祖母だって元気になるに違いない――そう信じて、疑っていない。

「ねー、おかあさーん。おばあちゃんの手紙、いつ来るかなー?」


リプレイ本文


 突然の乱入者に撃退士達は一瞬、驚いたような表情を浮かべたが、郵便局員と思わしき男の真剣な表情と声で、ある程度の事情を察したようだった。
 元々ゴーレムと戦う予定であった阿修羅の少年が青年を連れて行くと告げ、速やかに彼を背負って去っていく。

「思いの詰まった物は取り返さないと…っ!」
「そやねぇ、手紙言うんは誰かが誰かに気持ちを込めたもんや。そない簡単に持ち逃げでけるとか思わんとって欲しいもんやね」

 深紅の光と緋色の花弁を身に舞わせ、音羽 千速(ja9066)と九条 泉(jb7993)はゴーレムの奥に居る狼、それが口に咥えている銀色の袋を見遣る。狼はと言えばゴーレムという壁を得て一息ついたのか、足を止めて周囲を見回している。あの場で勝ち誇ってしまったのが狼の運の尽きだ。

「手紙という貴重な情報伝達手段を奪うとは中々にえげつない手を使うであります!」

 アンリエッタ・アルタイル(jb8090)の声には、非常事態であると言うのに何処か楽しげな色。今から手紙を取り戻し、人々に笑顔を取り戻す事が既に決まっているような、そんな、自信に満ちた声でもある。
 その声に応じたか、ずん、と。ゴーレム達がこちらへ一歩、近づいてくる。
 エヴァ・グライナー(ja0784)の視線は、狼よりもこちらの方に向いていた。石人形の額や胸部を、両手で双眼鏡を作るようにしながら見つめる。

「石人形に『emeth』の文字はあるかしら?」
「あら、『Schem-ha-mphorasch』、かもしれないわよ? ただ、EもSもあんまり期待できなさそうね。それに、引き抜くべき羊皮紙も向こうの子犬が持っているみたいだし、ねぇ?」

 クレール・ボージェ(jb2756)が手に持つハルバードの底でこつりと一度地面を叩き、エヴァの声に応じる。彼女の眼が湛える深い青の中、瞳が蛇の眼の如く縦に裂け、狼と石人形とを交互に見遣る。迫る敵に、興奮が隠しきれない。

「うふふ、久しぶりの狩りだわ。うずうずしちゃう」
「あまり時間もかけてはいられません。そろそろ、始めましょう」

 その場を取り仕切るような山科 珠洲(jb6166)の声。妙な力に目覚めた。そう呟く悪魔はしかし、腕の中に収まる妙な力を、誰かのために使う事を選んでいる。
 故に、この場も退く事は無い。誰かが助けを求めるならば、それに応じよう。手に持つ本に、小さく力がこもる。

(しっかし、郵便の兄ちゃんは凄いな。すげぇ恰好いいな)

 一同は再度意識を戦闘へと切り替え、武器を構え直す。
 足に力を溜め、大きく呼吸を一つ。大狗のとう(ja3056)はふとそんな事を思う。待っている人のためとはいえ、一般人が随分と無茶をした物だ。

『誰か! 誰かあいつが持ってる袋を取り返してくれ!!』

 それは、おそらく偶然だっただろう。けれど、一同は男の言葉を思い出していた。傷だらけになりながら、それでも必死に誰かの想いを護ろうと張り上げた、あの声。
 戦っているのは、自分達だけでは無い。種子島の地に居る全ての人達が、戦っているのだ。
 その戦いを、無為にしない為に。

(俺も、君みたいに人の笑顔を護れるよう頑張るのな)

 足に込めた力を爆発させ、大地を蹴る。
 その場に居る全ての撃退士が、想いの重さを護るために走りだした。


「まずは右から!」

 声を張り上げながら千速は大きく身体を振りかぶり、まだ殴りつけるには遠い距離に居るゴーレム目がけて拳を振り抜く。その挙動と共に拳型のアウルが生み出され、ゴーレムを穿たんと飛ぶ。
 その一撃にアンリエッタが合わせる。放たれた拳を受ける体勢を取ったゴーレムの側面に素早く回り込み、膝を掌底で殴る事で体勢を崩す。それによって千速の飛拳はゴーレムを的確に捉えた。
 それだけでは終わらない。エヴァが詠唱と共に火鬼の王とその従者を呼び出す。右の掌をゴーレム目がけ振り下ろすと、火鬼達は一斉にゴーレムを焼かんと襲いかかる。

「何ともタフでありますね……!」

 アンリエッタの、何処か感嘆したような声。
 初手からの流れるような連撃にも、ゴーレムの動きは止まらない。千速の拳に一瞬だけ怯んだように動きを止めたが、追撃の焔をその剛腕で強引に振り払う。
 誰にお返しをしてやろうか、と言わんばかりに三人を順に見遣り――、一番近くに居るアンリエッタに狙いを定めたか。アンリエッタの小柄な体の方へと向き直ろうと身体を動かし。

「おっと! 君は俺と遊んでもらおうかな!」

 その動作を、のとうの声が邪魔をした。弾かれたように視線を声がした方、のとうの体躯へ意識を向ける。アンリエッタはその隙にゴーレムの間合いから素早く離れたが、挑発されたゴーレムは気にも留めない。
 乱暴に左腕を右腕でもぎ取ると、のとう目がけて全力で投擲する。その挙動の間に、もぎ取られた左腕は既に生えていた。
 凶悪なまでの速度で迫る弾丸に対し、のとうは受け止める事を選ぶ。避けられない事は無いが、背後に味方が居る位置取りだった以上、自分が受け止めておいた方が事故が少ない。
 それに――

「石の雨何ぞ要らへんわ。うっといねん」

 仲間も、助けてくれる。のとうに迫る岩石を迎撃するように泉が放った高速の衝撃波が真正面から岩石と衝突し、その勢いを大きく殺した。
 こうなればそれ程怖くない。腰を落として盾にした大剣越しに伝わる衝突の衝撃も、想定の範囲内。

「いっしし! 泉、ありがとなー!」
「どないしまして。せやけど、無理しちゃ駄目やで?」
「――! 大狗さん! 他のゴーレムが!」

 泉へ親指を立てて見せていたのとうは、千速の声にハッとしたようにその場を飛び退った。直後、別のゴーレムの剛腕がのとうの居た場所を叩き潰すように振り下ろされる。
 ズンッッ、と重く鈍い音。僅かながらにヒビが入ったアスファルトを見ればその威力は推して測れる。

「あぶねぇ……ってまだ来るのか!」

 息つく暇もありはしない。更に一体、のとうを狙い岩石を投げつけてくる。泉が再度衝撃波を飛ばして岩の速度を減ずる間にステップを一つ踏み、二つ踏む。
 のとうを押しつぶす筈だった凶悪な重量が、それで意味を成さなくなる。

「大狗殿、横殴り失礼するであります!」
「今の内に体勢、立て直して!」

 のとうの負担を減らそうとアンリエッタが、尚ものとうへ拳を振るおうとするゴーレムに立ち向かう。同時に、千速も別の個体目がけて拳を振るう。
 二人の行為により二体のゴーレムの注意は逸れ、のとうへの負担は大きく軽減される事となる。
 が、その代償も無視できるものではない。二体のゴーレムは攻撃を仕掛けた二人へ対象をスイッチ。体勢を崩しながらも真横に振り抜かれた手刀がアンリエッタを捉えて橋の手すりまでその小さな体を弾き飛ばし、飛んできた拳に対抗するように放られた岩の左腕が千速の視界を埋め尽くす。

「アンリエッタ!」
「音羽はん!」

 最後の一体をのとうがいなす間に、エヴァと泉が素早く二人に駆け寄り様子を見る。
 深刻な状態では無いが、無視できる被害では無い。特にナイトウォーカーたるアンリエッタに関しては、次に食らえば昏倒もありえるダメージである事はすぐに見てとれる。
 けれど、アンリエッタも千速も、まだ自身に倒れる事を赦さない。

「手紙を書いた人にとって、一大事だからね…絶対、取り戻すんだ…!」

 呻くように呟きながら、千速は立ち上がる。
 言葉に吐き出した宣誓に、裏も表も存在しない。
 突如積み上げられた誰かの想いを取り戻す戦いとはいえ、諦めようとは思えないから。

「戦うということは、何とも楽しいのであります!」

 犬歯をむき出しにして何処か笑っているような表情で、アンリエッタは立ち上がる。
 この身を焦がす興奮は、未だ冷めやらぬ。
 たかが石人形ごときが刻みつけたこの程度の痛みで、この場から退こうとは思えないから。

 二人の気概に気押されたか、ゴーレム達の動きが一瞬止まったような錯覚。
 時間にして一秒にも満たない静寂が、周囲を包む。
 その静寂を打ち破り、二人は再度、ゴーレム目がけ走りだしていた。


 狼はと言えば、自分を追っていた郵便局員が離れていくのを遠目に見て完全に油断しきっていた。石人形と人間達がやりあっている光景をまるで別の世界の出来事であるかのように、退屈そうな目線でしばらく眺めていたが、やがてそれにも飽きたのか、この場から離れようと回れ右、一歩足を踏み出した。

「あらあら、ちゃんとお座りしてて偉いわねぇ。御褒美に可愛がってあげる」

 声は、狼の真上から。咄嗟に狼が視線を宙へ向ければ、ハルバードを構えたクレールが進路を妨害するようにゆっくりと降りてくる。彼女が送りこむアウルに呼応し、ハルバードに埋め込まれた宝珠が灯す光が、怪しく輝く。

「グ、ルゥ!」

 己の道を塞ぐな、と言わんばかりに狼が一度低く唸り、クレールへと飛びかかる。しかし、遅い。繰り出された爪による一撃をサイドステップでかわせば、はためくコートに追従するようにハルバードが一閃、狼の身体を傷付ける。
 舞う鮮血が嘘ではないのだと、痛みに吠える事で証明したかっただろう。
 しかし、自分の獲物である銀色の袋を離したくない。そんな根性からか、狼は喉の奥で小さく唸るに留めると、そのままクレールを迂回するように逃走を図ろうとする。

「それは、赦しませんよ。大切な物を、返していただきます」

 上から声が聞こえたと思えば、今度の声は自分よりも低い位置から。それだけでは無い。無数の妖蝶を纏った光の羽根が、狼の背後から幾つも突きささる。
 地面から現れたのは珠洲だ。透過能力を利用して橋の下を通る事で、ゴーレムに目をつけられることなく狼へ攻撃を届ける位置を掴み取ったのだ。
 怪しげな蝶は狼の周辺をひらひらと舞い踊り、狼の意識を呆、と遠のかせる。意識の混濁に合わせて口元が緩み、銀色の袋がするりとこぼれ落ちる。

「うふふ、お使い御苦労様。行き先は正反対だったけれどねぇ」
「今程、手紙を取り戻しました!」

 袋が地面に着く前に、クレールがそれを素早く拾い上げ、駆け出す。
 同時に珠洲がゴーレムへ対応している者たちへ素早く連絡を飛ばし、手紙の奪還を知らせる。

「エヴァちゃん、お願いね」
「任せなさいって!」

 ゴーレムを橋の右側に集めた結果、左が空いている。奪還報告を受けてエヴァが戦場の空隙へ移動し、クレールから銀の袋を手渡しで受け取る。
 小さなエヴァでも軽いと感じるほどの、袋だった。けれど、その軽さに誰かの想いが積み上がっているのは理解できる。だからこの袋は重いのだ。狼ごときが一人占めしていい物ではないのだ。

「ガァアアッ!!」

 朦朧としていた意識を取り戻した狼は、銀の袋を持つエヴァに怒りの形相を向けて飛びかかる。
 珠洲が、クレールが、狼を止めるために武器を振るうが、放たれた矢の如き勢いを止める事が出来ない。
 その場に立っているエヴァに牙を突き立てようと大地を強く蹴り――、小柄な少女など物の一撃で噛み千切ってしまうような勢いで迫る顎は、しかし空を切った。

「…!?」

 金の髪を持つ少女が動いた様子は無かった。だから喰い千切れると狼は確信していたし、銀の袋を取り戻せると疑っていなかった。
 けれど、狼の視界に映る黒い礼装姿は、全く別の位置に居た。まるで、瞬間移動したかのように。

「Durch die Tore des silbernen――…」

 狼が再度エヴァへと飛びかかろうとした直前、朗々とした声が響く。かと思えば、一瞬にして彼女の姿はまた別の場所――泉の、隣へ。

「見えたかしら、新しい術式。お代は今時珍しい"e"無し手紙よ」
「はいな、確かに受け取ったで。後ろは任せたて、こっちは任せぇ」

 エヴァから袋を受け取った泉が声を残し、一目散に町の方へと走っていく。
 速い、速い、速い。見る見る内に泉の姿が見えなくなる。後ろには仲間がいる。彼らが、彼女達がいる限り、敵が追い付いてくることなんてあり得ない。だから、泉は走ることだけに専念出来る。
 それを逃がすまいとゴーレムが岩石を放り投げるが、その直前、素早くその射線上に割り込んだのとうが、手に持つ剣にアウルを蓄える。

「あらあら、こっちもこっちで、楽しそうじゃない」

 ゴーレムを挟む形で、クレールも手に持つ武器にアウルを込める。
 既に一体のゴーレムを倒す事には成功している。二人が挟んだ直線状には残った二体のゴーレム。

「ドーンといっくぜー!!」
「うふふ。そうねぇ、どーん、と。行っちゃいましょうか」

 振り抜かれた二つの武器から解放された黒い光の奔流が、挟み込む形でゴーレムへと襲い来る。ゴーレムがどれだけ頑健であろうと、凶悪なまでに強烈な衝撃に挟まれてしまえば最早無事ではいられない。
 二体のゴーレムの体躯が歪に凹み、仮初の命ごとその姿が土くれへと戻っていく。

 そんな中で尚、狼は喰い下がろうとした。瞬間移動によって虚を突かれ足が止まっていたが、袋を持った泉を追うべく足に力を込め、

「通さないのでありますっ!」
「また町に向かわせるような事は、させないよ」

 けれど、六人の撃退士を突破することなど、一介のディアボロに出来るはずもない。
 側面からのアンリエッタの一撃に体勢を崩せば、その頭部に叩きこまれる千速の兜割り。
 目の奥で星が瞬く感触に狼が完全に動きを止めてしまえば、後はもう、お終いを告げるだけ。

「――終いです」

 珠洲のそんな宣言と共に、攻性を帯びたアウルが放たれる。
 狼の全身に光の羽が生える。意識が闇の底へと沈んで行く。


「郵便でーす」

 中種子町の撃退士詰め所に響いたその声に、作業中の教師が顔を上げる。
 声の主は、頬に大きな絆創膏を貼った郵便局員。彼の手に葉書が一枚握られているのが見えた。

「お疲れ様です。郵便なんて、珍しいですね」
「ええ。俺の知る限りでは初めてですね」

 学園からの連絡は、全てメールや学生達からの手渡しで済んでいる。
 なのに、誰が何故手紙なんて寄越すのか。首を傾げながら教師は受け取った手紙に目を落とす。
 一目見て、口元が小さく緩む。

「……少し、お待ち頂いても良いですか」

 言葉と共に机の奥から封筒を取り出せば、葉書を収めて届け先を記載する。
 宛先は久遠ヶ原学園だ。

「はい、確かに。必ずあの子たちに届けますよ」

 封筒を受け取った局員は笑うと、大事そうに封筒を銀の袋に仕舞い、詰め所を去って行った。

 小さく息を吐き出し、椅子に腰を下ろす。
 思い出す。視界に映った、葉書一面の拙い文字。

『おばあちゃんが、たねがしまはげきたいしのみんながまもってくれるっててがみでいってました。
 ほんとうに、ありがとうございます。おばあちゃんを、よろしくおねがいします』

 数日もすれば届くだろうあの手紙を見て、学生達は何を思うのか。
 機会があれば、聞いてみるのも悪くない。
 教師はそんな事を考えながら、作業を再開するのだった。

(了)


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 絆を紡ぐ手・大狗 のとう(ja3056)
重体: −
面白かった!:7人

撃退士・
エヴァ・グライナー(ja0784)

高等部1年1組 女 ダアト
絆を紡ぐ手・
大狗 のとう(ja3056)

卒業 女 ルインズブレイド
リコのトモダチ・
音羽 千速(ja9066)

高等部1年18組 男 鬼道忍軍
Rote Hexe ・
クレール・ボージェ(jb2756)

大学部7年241組 女 ルインズブレイド
弾雨の下を駆けるモノ・
山科 珠洲(jb6166)

卒業 女 アカシックレコーダー:タイプA
騎士殺しの魔拳・
九条 泉(jb7993)

大学部5年55組 女 阿修羅
撃退士・
アンリエッタ・アルタイル(jb8090)

中等部1年2組 女 ナイトウォーカー