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マスター:らじかせ
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2013/08/07


みんなの思い出



オープニング

●迫りくる撃退士野球の脅威!
 撃退士野球。
 その胡散臭い単語が久遠ケ原学園の一部で囁かれる様になったのは、つい最近の事である。
 曰く、件の競技は野球にして野球に在らず。
 光纏の力と撃退士としてのスキルを行使し、相手チームの選手を完膚なきまでに叩きのめすその球技は、本来『野球』と呼べる様な代物ではないのだ。
 そんな悪名高き撃退士野球は、最近になって学園内に存在する草野球リーグのいくつかを傘下に収めていた。
 やり方は、極めて強引である。狙いを定めたリーグに所属する全チームに撃退士野球で勝負を挑み、その全勝をもって傘下に加えてしまうのだ。
 ――そして今、彼らの魔の手は、とある女子草野球リーグにまで伸ばされようとしていた。

 撃退士野球の猛威に晒されているとある女子草野球リーグに『ポンコツアマゾネス』(以後ポンコツ)というチームが存在する。
 他のチームが次々と敗北していく中、里帰りをしている主将の代理としてポンコツを率いていたダウナー系の少女――通称ヤル子は徹底して交戦を拒んだ。
 メールや電話は着信拒否。
 手紙は黙って焼却。
 矢文が飛んでくれば撃ち落とし、撃退士野球の選手らしき巨漢に囲まれたら躊躇なく警察を呼んだ。
 基本的にヤル子は草野球をしているのが不思議な程、やる気に欠ける少女なのである。撃退士野球になど付き合う訳がなかった。
 ――だから、彼女が真っ先に狙われたのだ。

 ある休日、とある河川敷の野球グラウンド。
 ポンコツの選手達は主将代理である茶髪の少女の指示のもと、野球の練習に励んでいた。
「ばっちこーい」
「ばっちこーい、ですわ!」
「ばっちこないで〜」
 ノックを行うために打席に入っていたヤル子は「ばっちこないで〜」と言った最近野球を始めたばかりの選手――ヤル子のルームメイトでもあるノンちゃんという少女――に狙いを定める。
「ノン、そっちいくよー」
「きゃあ〜」
「あらよっと」
 やる気のない声に反し精密な打撃軌道を描いた茶髪の少女のバットは、カキンという小気味良い音を立てながら、おっとりしたルームメイト目がけてフライを打ち上げた。
 ――次の瞬間。
 不意に土手の方から飛んできた剛速球が、茶髪の少女に直撃する。
「ぎゃふーーーん!?」
 奇声を発しながら、吹き飛ばされるヤル子。
 ノンちゃんは、ピクピクと痙攣している親友の傍に慌てて駆け寄り、肩を揺すった。
「だ、大丈夫っ、ヤル子ちゃん!」
「う、うう、ノン。アタシがこのまま死んだら、どうか何も言わずに、PCのドライブを破壊しておくれ」
「や、ヤル子ちゃ〜ん、気をしっかり〜!」
「と、特に、画像ファイルと動画ファイルだけは絶対に誰の目にも触れない様に――ガクッ」
「ヤル子ちゃ〜んっ、ヤル子ちゃ〜ん!」
 自らの腕の中で意識を失った友人に、必死で語りかけるノンちゃん。
 他のポンコツのメンバーも半数がその周辺に集まりオロオロ、ザワザワしている。
 そして、残り半数は土手の上の下手人――筋骨隆々とした大男達を睨みつけていた。
「貴方達、一体何者ですのっ? 何故ヤル子先輩にボールをぶつけましたの!」
 ヤル子の学園の後輩であり、草野球の後輩でもある縦巻きロールの少女――通称ドリルちゃんが皆を代表して大男達を怒鳴りつけた。
 その言葉に対し9人いる巨漢の中心に立った、頬に十字傷のある男は挑発的な言葉を返す。
「我らは撃退士野球の戦士也。何、いつまでもコソコソと逃げ続けるうぬらの実力を測ってやろうと思ったまでの事……やはり、取るに足らぬ相手の様だがな」
「な、なんですって!?」
 それが煽り目的の発言である事に気付いた者もいたが、大半のポンコツメンバーはヤル子が殺られた(注:死んでません)事に激怒し容易く挑発に乗ってしまった。
 そして、なし崩し的に始まる撃退士野球。
「ぬうんっ、隼投法!」
 目に止まらぬ瞬速の投法から放たれた剛速球は、多くの打者を空振りに抑え――。
「させぬっ」
 どうにか球をバットに当てた選手も、一塁に辿り着く前に『まるで影を縛られでもしたかの様に』不自然に動きを止め、アウトにされてしまった。
 十字傷の男がスキルを温存した際、稀に一塁まで辿り着けそうになるポンコツ選手もいたのだが――。
「クケケ、通さねえ!」
 盾を構えたモヒカン頭の一塁手の強力な防壁によって、接近を阻まれる。
「走塁妨害ですわ!」
 堪らず、ベンチにいたドリルちゃんが審判に訴えかけるも、撃退士野球のルールで判定を行っていた主審は、首を横に振るだけで決して反則を取ろうとはしなかった。
 更にポンコツが守備に回った際も、紫焔が纏わりついた打球はキャッチしようとした内野手の少女を行動不能に追い込み、走者が一塁に辿り着く際に放った掌底は一塁手を数メートル吹き飛ばした。
「守備妨害ですわ!」
 ドリルちゃんの悲鳴の様な訴えは、例によって審判に無視される。
 結果として次々と選手をベンチ送り→病院送りにされたポンコツは、控えの少女達まで総出で迎え撃っているというのに、とうとう人数が九人に届かなくなってしまう。
 ――そんな中、極悪プレーの数々に敢然と立ち向かう二人の少女がいた。
 一人はドリルちゃん。縦巻きロールの少女は「そっちが、そういうつもりでしたら……」と自らもスキルの使用を解禁したのだ。
「でえええい! ヴァルキリー打法! ですわ!」
 雷を纏ったドリルちゃんの弾丸ライナーは、キャッチしようとしたスキンヘッドの巨漢を消し炭に変え(注:生きてます)遥か彼方に飛んでいった。
「ク、クケケ、無駄な足掻きをっ、貴様らもあのやる気の無さそうな女の様に葬ってやるぜ!」
「……やる気のない女って、ヤル子ちゃんの事ですか〜? ヤル子ちゃんの事ですか〜!」
 もう一人はノンちゃん。おっとりした暴力装置は、親友であるヤル子を殺られ完全に堪忍袋の緒がブチ切れていた。
 撃退士の基準で見ても些か規格外の近接戦闘能力を誇る天才は、目にも止まらないはずの打球を完全に捕捉し打ち返し、拳一つで祝福された防壁を打ち砕く。
「ふ、ふは、ふははははっ、そうだっ、撃退士野球とはこうでなくてはな! 血沸き肉踊るとは正にこの事よ! ……しかし、それだけに惜しい。こんな形の決着になるとは」
「ま、まだ、勝負はついていませんわ!」
 七回裏。1対8で負け越しているとは言え、三塁にドリルちゃん、一塁にノンちゃんがいる状況である。縦巻きロールの少女は、まだ諦めていなかった。
 しかし――。
「続く打者がおるまい」
 そう、塁上の二人を残し、ポンコツの少女達はものの見事に全滅していたのだ。
 つまり、走者はいても、打者がいない。
「な、何て事ですの……」
 今更の様に自軍の状況を把握し、呆然と呟くドリルちゃん。
 しかし、不意に振って来た小雨が少女を救う。
「ふ、確か雨天の場合は両チーム同意のもと試合を延期出来るというルールがあったな」
「クケ? しかしお頭、こんな小雨で――」
「構わぬ。おい小娘、この試合預けておいてやろう」
「な、なんですって」
「うぬらとの死闘を、こんな形で終わらせるのも忍びない。来週まで待ってやろう、その時までにもう少しまともな仲間を揃えておく事だな」
「ぐ、ぐぬぬ」
 くやしそうに歯を食いしばるドリルちゃんだったが、その時は、去っていく撃退士野球の選手達を黙って見送るしかなかった。

 翌日、斡旋所に一つの依頼が提出された。


リプレイ本文

●試合再開! 炸裂する友情パワー(物理)!
「たー!」
 ピッチャーである瀬波 有火(jb5278)は勇ましくも愛らしい掛け声を発しながら、渾身の力を込めて球を放った。小細工なしの直球勝負である。
 狙う場所は無論、相手の頭部だ。
 8回表、草野球チームの守備で再開されたこの試合。ポンコツの助っ人に駆け付けた6人の撃退士達の覚悟は本物だった。
 彼らの動機は様々であったが、全員が『撃野球チームと血で血を洗う戦いを繰り広げる覚悟』で試合に望んでいる。
 元気溌剌、猪突猛進な投手はもちろん――。
「ウヒヒ、馬鹿めっ。この俺様に死球が通用す――ゴハッ!?」
 捕手であるラテン・ロロウス(jb5646)もまた、容赦なく、隠し持っていたバットで敵打者を殴打した。背後の襲撃者に気を取られた一番打者は、もろに頭部で死球を受ける羽目になる。
「グッ、グオォ、お、おのれっ、卑怯な!」
「フン、浅かったか。どれもう一発……」
 フラフラになりながら講義する撃野球選手に、尊大な雰囲気の堕天使は悪びれる様子もなく、再度バットを振りかぶった。
 思わずラテンの方に身構える一番打者だったが、撃野球という競技においてその行動はあまりに軽率だ。
「あーるーかーマグナム!」
 視線を外した隙に間合いを詰めてきていた有火の拳が、男の鳩尾にめり込み、一撃のもとに彼を戦闘不能にした。
 撃野球、一番、遊撃手――脱落。
「やったー!」
「……フン」
 笑顔でハイタッチを求める元気娘の小さな手に、ラテンは優雅な動作で軽く掌を合せた。中々息の合ったバッテリーである。
 自然と沸き返るポンコツナイン。この河川敷までラテンを乗せてきたペットのアルパカも「フェ〜」と気勢を上げている。
 対する撃野球ベンチ側では、下位打線の選手達が軽くパニックに陥っていた。
「お頭、奴らっ、前回と違いますぜっ」
「うろたえるな。あちらも『戦士』を集めてきたというだけの話だ」
「で、ですがお頭、クリーンナップの鎌瀬の旦那が――」
 男は尚も言葉を続けようとしたが、背後から伸びてきた巨大な手に首を掴まれ持ち上げられ、呼吸さえままならない様な状態に陥る。
「グフフ、お黙りなさい。主将がうろたえるなと仰っているのです」
 撃野球チーム内においてさえ、頭抜けて巨大な肥満体の男――二番打者の八斗の言葉に続くかの様に、他のクリーナップ達も口を開く。
「鎌瀬がやられたか……」
「クククッ……しかし奴は我らクリーンナップの中でも最弱……」
 その男達の只ならぬオーラに、撃野球の下位打線達は自信を取り戻した。
 巨体の拘束から解放された男も例外ではない。
「ゲホッ、すいやせんっ、八斗様っ、弱気な事を言っちまって!」
「グフ、分かればよいのです。では、わたしが本物の撃退士野球というものを、教えてあげるとしましょう」

●負けるなポンコツ! 没収試合の罠!
「やー!」
 再び有火が全力で投じたその一球は、真っ直ぐ巨体の頭部に吸い込まれた。
 ――吸い込まれ、男の脂肪を前にあえなくはね返された。
 背後でバットを振った、ラテンの攻撃にしても同じである。
「グフフ、わたしの体は特別製でね。その程度の衝撃は通らないんですよ」
 肥満体の男は笑いながら、頬から跳ねた球をバットで弾き飛ばす。
 レフト目がけて高々と飛んでいった打球は、確実にホームランの軌道を描いていた。
 人間の跳躍でどうにかなる高さではなかったが、左翼手、橘 樹(jb3833)は己の翼を広げる事でそれに割って入った……野球的には凄い光景である。
「わしに任せておくんだの!」
 普段は高貴でありながらものんびりとした雰囲気を漂わせている樹だが、この時ばかりは凛々しくも頼もしいオーラを発して――。
「し、しまったの!?」
 ――いなかった。
 ボールが届く少し前、彼は飛行をさせたら右に出る者『しか』いないと言われるその才能を存分に発揮し体勢を崩したのだ。グラブを掠らせ下に落とすのが精一杯である。
 とは言え、野球はチーム競技。
「大丈夫……任せて」
 慌てて急降下する樹よりも先に、砂塵を巻き上げながらセンターから疾走してきた燐(ja4685)が、ワンバウンドしたその球を速やかに拾い有火に回した。
 無表情な少女が直接一塁にボールを回さずに、わざわざ投手に送ったのには訳がある。
「来るなら来いっ、ですわー!」
 盾を構え防壁を張る一塁手、ドリルちゃんはもちろん、この時ポンコツの大半は一塁に集まっていた。彼らは撃野球の『グラウンドの内外間における干渉を禁じる』というルールに目を付け「じゃあ、孤立した敵走者を一人ずつ血祭りに上げていけばいいじゃね?」という冷酷極まりない――もとい、極めて効率的な戦術にうって出たのだ。
 ゴリ押しで一塁に辿り着いた八斗だが、構わず攻撃し続けるポンコツ選手達を前に体力は既に半分を切っている。
 ヤル子が笛を吹いたのは、その直後だ、
 蜘蛛の子を散らす様に自分の守備位置に戻って行く選手達を見て、八斗は思わず――舌打ちした。
「……グフ、このまま『没収試合』になるかと思いましたが、多少は頭が回る者もいる様ですね」
 あらゆる妨害行為が許容される撃野球であるが、3アウト制などの根本的なルールに変化はない。そのため、試合を長引かせる様な行為を一定時間以上続けると審判に反則を取られ、『没収試合』=強制敗北となるのだ。
 『事前の打ち合わせ通り』審判を観察していたヤル子は、相手の挙動から警告ないし反則を取られるのを察したタイミングで笛を吹いたのである。
 素知らぬ顔で二塁に戻って行った白髪の男、ジェラルド&ブラックパレード(ja9284)の提案通りに。
 パッと見チャラさ迸るジェラルドだが、ルールの確認や、自分達の作戦の問題点の洗い出しに気を配った彼の行動は、賢明なものである。

 続く三番打者との攻防も熾烈を極めたが、この時最も激戦となったのは1塁から移動してくる肥満体の強敵を迎え撃った、ジェラルドと燐の『2塁防衛戦』である。
 最終的に、走者の脂肪を蹴りの連打で移動させたジェラルドの技と、被弾覚悟で相手の懐に飛び込み一撃を叩きこんだ燐の勇気により、無敵の皮下脂肪の持ち主はあえなく地に伏した。
 相討ちになる直前「舐めるなっ、小娘が!」と叫んだ八斗に「貴方達こそ……スポーツを馬鹿にしないで」と返した無表情な少女の雄姿は、本試合のハイライトの一つと言える。
 撃野球、二番、三塁手――脱落。
 草野球、燐――脱落。

 ちなみに、燐が壮絶な相討ちを遂げている裏では、撃野球の三番打者が雪室 チルル(ja0220)と樹の連携技に討ち取られたり(誤字ではない)、累審が10メートル程吹き飛んだり、ノンちゃんが「わざとじゃないんですよ〜!」と言いながら退場させられたりしていた。
 撃野球、三番、左翼手――脱落。
 草野球、ノンちゃん――退場。

●激戦! 散りゆく者達!
 犠牲を払いながらも敵のクリーンナップを0点に抑えたポンコツではあるが、3対8の5点差で負け越している状況に変わりは無い。
 だから、主将代理である一番打者のヤル子は『あらゆる意味で』手段を選ばなかった。
 必死で一塁まで出塁した彼女に、まるで8回表の焼き直しの様に集まっていく巨漢達。
 誰が見ても八斗の様な持久力は――没収試合になるまで耐えられるだけの防御力は、ヤル子にない。
続く打者達にも、ない。
 それを知ればこそ、彼女は勝利のために自爆を選んだのである。
 閃光と爆風が一塁を包んだ。
 撃野球、七番、二塁手――脱落。
 撃野球、八番、右翼手――脱落。
 草野球、ヤル子――瀕死。
 
 十字傷の男はその光景を見て憤慨するのではなく、歓喜した。
 それでこそ、戦士だと。
 投手と捕手を除けば、もう一塁手と中堅手しか残っていない撃野球チームであったが、そこから先の男の投球は鬼神の如きものであった。
 ジェラルドのバットをへし折り、バントを狙った有火をバント姿勢のまま後ろに吹き飛ばしたのだ。
 その投球を前に、8回裏、ポンコツは完全に封殺された。

 九回表。撃野球の攻撃。
 敵の四番打者は、怪物だった。
 その男との闘争を語り始めるととてもではないが尺に収まらないので、中略し結果のみ記載する。
 撃野球、四番、中堅手――脱落。
 草野球、ドリルちゃん――脱落。
 草野球、ラテン――脱落。
 草野球、樹――脱落。
 四番打者を後ろから羽交い締めにし「構わぬっ、わしごと殺るんだの!」と叫びながら散っていった樹の犠牲がなければ、草野球側の被害はより甚大なものになっていただろう。

 続く五番と六番は、打撃を放棄し、生き残る事に注力した。
 結果として追加点は発生しなかったが、撃野球チームはバッテリーをほぼ無傷で残す事に成功する。

●決戦! 決死! 最後の戦い!
 ポンコツ四番チルルと、撃野球エース十字傷の男の対決は、完全に野球と呼べる代物ではなかった。
 根拠なき自信に充ち溢れた可愛らしい少女、チルルが掲げるそのバットの名をツヴァイハンダーFEという。
 審判が投手を見ると、男は一言「構わぬ」と言った。
 投手が握る球体の名は不明だが、スパイクの付いた鉄球の様な物である事は分かる。
 審判が打者を見ると、少女は「その挑戦! 受けて立つ!」と啖呵を切った。
「……初球から、うぬの首を取りにいく。小細工を弄する間はないと思え」
「あんたこそ覚悟なさい! けっちょんけっちょんにしてやるんだから!」
 かくして、紫炎を纏う剛速球と、吹雪を巻き起こす打撃が激突した。
 ――結果として残ったのは、衝突した箇所に『真っ二つになった状態で転がっている球』と、後方に吹き飛ばされたチルルの姿だ。
 痛み分けに終わった事に頬を膨らませるチルルだが、それはそれとして一塁目がけて爆走を開始する。
 一塁手が防壁を展開するも「そこをどけー!あたいのお通りだー!」と叫びながら突っ込んできたチルルを止めるには至らない。
 ――故に一塁を踏んだ瞬間、チルルを襲ったのは投手の攻撃である。
「ぐぬっ」
 咄嗟に大剣を盾としソレを受けるチルルだが、飛んできた物体が『球の半分』である事を見て危険を察し、察すると同時にもう半分の鉄球を食らい吹っ飛ばされた。
「うわー!?」
 キラーン☆
 という効果音を残し、土手の向こうに消えていった勝ち気な少女の姿を、残されたポンコツメンバーは呆然と見送るしかなかった。
 草野球、チルル――お星様になる。
 この時投手は、捕手からありったけの強化を受けており、チルルが食らった一撃は過去最強のものだ。とは言え強過ぎる力にはそれ相応の対価があるらしく、十字傷の男の方も片膝を着いて呼吸を荒くしている。

 打順的には次は五番打者の番だが、ポンコツの五番から九番、ついでに一番は、既に全滅していた。
 撃野球は選手の消耗が激しい競技なので、負傷退場しても怪我を直せば戻ってこられるのだが、ベンチの端に立たされ『私は審判に暴力を振いました』というプラカードを持たされているノンちゃんを除けば、ポンコツの脱落者の中に戦える者は残っていない。
 必然、二番打者であるジェラルドに、ニ回目の打席が回ってきた。
 今の彼に余裕はない。
 激闘を繰り広げてきた白髪の男の体は、既に全身が悲鳴を上げていた。
 されど。否、なればこそ。
「――ま、女の子達があれだけ頑張っているんだ☆ ボクだけ格好悪いところは見せられないさ♪」
 男は打席に立つのだ。
「矜持のために命をかけるか……フ、面白い」
 再び投手にかけられる強化の嵐。その手に握られているのは、接着されたチルル殺しの魔球。
 赤黒い闘気を纏ったジェラルドは、ランタンシールドを構えてそれを迎え撃った。
 河川敷にトラック同士が正面衝突したかの様な轟音が響き渡る。
 全身の骨という骨が砕け、筋肉という筋肉が引き千切られる様な衝撃にジェラルドは耐えた。
「ば、馬鹿な、お頭の、必殺の魔球を?」
 一塁のモヒカンは、打席に立ったまま一歩も後退しない男の姿に驚愕する。粉々に砕け散った球を見て恐怖する。
 だが――。
「見事だ」
 そう言って、フラついた足取りで近付いて来る投手に、ジェラルドは何の反応も返さなかった。
「一歩も退かずに、逝ったか。大した漢だ」
 草野球、ジェラルド――死亡(その後、人工呼吸で蘇生)。

 十字傷の男は意識を失ったジェラルドの体を掴むと、彼を一塁まで引きずっていった。
 己の魔球を退けた漢に対する、男なりの敬意である。
「代わりの走者を出せ。代走者が出る間は攻撃せぬ」
 そう言われて有火は、困った。とても、困った。
 というのも、既に戦力として残っているのが自分しかいなかったからだ。有火が一塁に行けば、続く打者が消滅する。
 猪突猛進娘が、どうしたものかと頭から湯気を噴いていると、思わぬ『仲間』が声をかけてきた。
「フェ〜」
 ……9回裏、元気娘の天才的なひらめきを制止出来る者は全員意識を失っていた。

 打席に立つ有火。一塁には、牧歌的な雰囲気を漂わせる代走者、アルパカのムサシが控えている。
 実質一人(+一頭)チームと化したポンコツだが、チルル、ジェラルドと二連投で魔球を使用した敵投手の球威は明らかに落ちている。
 そして、他の仲間が一死一殺の勢いで削っていた敵の守備陣は、もはや一塁にしか残っていない。
 ならば、有火が一か八かでしかけたバント――と見せかけたバスターが通るのは必然であった。
 しかし悲しいかな、前走者はアルパカである。ムサシはムサシなりに頑張ったが、結局、ニ塁までしか進めなかった。
 ――結果、打者が尽きた。
「前回と同じ結末か……」
 満足いかない様な様子の十字傷の男であったが、そんな彼とは関係なしに審判は試合を終わらせようとする。
 打席に一つの影が舞い降りたのは、正にその瞬間だ。
「げ、げえっ、貴様は死んだはず!?」
 モヒカンが驚愕の声を上げ。
「フェ〜!」
 アルパカが鳴き。
「――地獄から、舞い戻ってきたわ!」
 雪室チルルは、雄々しく笑った。
 九回裏の第一打席でお星様と化したチルルだが、どこぞの商店街に墜落した後、そこから全速力で戻って来たのだ。タフである。
「フ、うぬは不死身か?」
 愉快そうに笑う十字傷の男だが、彼に余裕はないはずだ。
 打席に立つと同時にチルルは捕手を始末しており、それを見た有火が「ど〜ん!」と言いながら突き出したランスによって一塁手も気絶している。
 つまり、投手の男が斃れれば、撃野球チームの敗北が確定するのだ。
「正しく死闘だな――が、勝つのはこちらだ。この一球でうぬを葬り、試合終了としよう」
「ふんっ、逆にあたいの――あたい達の凄さを思い知らせてやるわ!」
 かくして、最後の打席が幕を上げ――吹雪は紫炎を制した。

●試合結果報告
 最終スコア、6(草)対8(撃)。
 最終選手数、2人+1頭(草)、0人(撃)。
 撃野球規定に基づき、ポンコツアマゾネスの勝利とする。




依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 伝説の撃退士・雪室 チルル(ja0220)
 ドS白狐・ジェラルド&ブラックパレード(ja9284)
重体: −
面白かった!:9人

伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
道を拓き、譲らぬ・
燐(ja4685)

中等部3年1組 女 阿修羅
ドS白狐・
ジェラルド&ブラックパレード(ja9284)

卒業 男 阿修羅
きのこ憑き・
橘 樹(jb3833)

卒業 男 陰陽師
バイオアルカ・
瀬波 有火(jb5278)

大学部2年3組 女 阿修羅
自爆マスター・
ラテン・ロロウス(jb5646)

大学部2年136組 男 アストラルヴァンガード