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マスター:西
シナリオ形態:ショート
難易度:やや易
参加人数:6人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2013/05/15


みんなの思い出



オープニング

 世にも奇妙な、といってよいだろう。
 少なくとも、まれなケースであることは明白だった。電話越しからだったが、異様な雰囲気であったことは、伝わってくる。

「それで、深夜の廃寺で、貴方はその現場を見ていた訳ですね?」
「はい。何か夜中に、変な音が聞こえると思って――怖くはありましたけど、怖いもの見たさで、寄ったんです。すると女の人が、その木に釘を打ちつけているのを見ました。……女の人は、なんというか、ひどく怒っているような、取り乱しているような、とにかく尋常ではない様子でした」
「女の人の服装は? その木は普通の木でしたか?」
「女の人は……仕事帰りだったのか、スーツを来ていました。別に変な服装ではなかったです。……木は、他の周囲の木と比べると、一回りか二回りは大きかったかと」

 木に、釘を打ちつける。
 それを聞くだけなら、まるで丑の刻参りでもしているようではないか。確かに不吉な話だが、それだけなら斡旋所にわざわざ依頼せずとも、警察に届け出れば済むことである。

「詳しく、その様子をお話し願えますか?」
「はい。……女の人の意識は、『朦朧』としていたみたいで、目の焦点が合っていませんでした。幻覚でも見ていたのか、誰もいないのに、ぶつぶつとその誰かに向かって、恨み事でもつぶやいていたみたいで……」

 どこからか、精神攻撃でも受けていたのか。天魔の仕業か、と疑いたくなる状況ではあるが、まだ本人が異常だっただけという可能性もある。

「まともな精神状態には見えなかった?」
「ええ、恐慌をきたしているのは、間違いなかったと思います。ただ、そうかと思えば、突然恍惚とした表情で自分の腕やら足やらにも釘を打ち込み始めて――慌てて飛び出して、取り押さえたんです」
「自分に、自傷行為ですか?」
「はい。まるで、何かに『魅了』されたみたいに、嬉々として。……で、取り押さえたら、相手の女性はすぐに意識を失いました。最初は痛みで気絶したのかとも思ったのですが」
「……なんでしょう?」
「あまりにも唐突だったので、自然にそうなったとは思えません。きっと彼女は、眠らされたんです、目の前の木に。……あの異常な行為も、全てはあの木が彼女にやらせていたんです。私は、あのとき、すぐそばで……間近で見たんですよ」

 その木には、憎悪にゆがんだ人の顔が、いくつも浮き出ていた。
 震えた声で、そう彼は言った。

「女性を抱えて、何とか逃げることができました。……追ってくる気配はありましたが、山の外から少し離れると、それも消えました。たぶん、山に近づいた人を呼び込んでいるんだと思います。自分に釘を打ちつけさせて、何がしたいのかまでは、わかりませんが」
「その女性は、どうしましたか?」
「今、病院です。今も意識が目覚めません。そうとう衰弱しているみたいで、げっそりとやつれていました。……まるで、何日も食事もせず、睡眠もとっていないかのように」
「わかりました。――では、その木を発見した場所について、詳しく話してください」

 人の多い市街から離れた、田舎の田んぼ道。そこを少し山の方に向かって歩いていくと、住職が亡くなって、手つかずとなった寺がある。本堂は人の手が入らなくなって久しく、補修が必要に見えるほど崩れていた。
 そして本堂の裏に、問題の木があった。本堂の裏は小さな社があるだけで、後は山の木々と山肌が見えるばかりである。その木々の中に、問題の敵がまぎれているのだ。

「一目見れば、わかりますか?」
「……ええ、きっと。もしあの場に戻っているなら、すぐわかるはずです。小さな社の真後ろに、周囲の風景から切り離されたみたいに、一本の大きな木が立っていますから」

 斡旋所の職員は、それから少し軽く話をして、聞けることを全て聞くと、その依頼を受理した。
 樹木の天魔とは珍しいが、ありえないことではない。しかし丑の刻参りを模して、何がしたいのか。あるいは、その天魔の意志ではなく、作り出した別の天魔の意向なのかもしれない。
 ……理由は色々と考えられる。呪いを模した、ということは、『人の持つ恨みや妬み』といった感情を噴出させて、それを集めるというのが第一。やり方が非効率的だが、効率を狙うばかりが天魔のやり口ではない。
 第二に人が狂う様を見て楽しむ、という理由。あるいは、それに巻き込まれた人の周囲で、動揺や恐怖が広がるのを期待しているのか。
 規模は小さくても良い。実際に肉眼で見物せずとも、結果として何かしらの形で人々が悶え苦しめば、愉快犯としては成功だ。

 どちらにせよ、気分のいい話ではなかった。聞く限り、戦闘能力に秀でた敵ではない。問題は精神的な攻撃をしてくることだが、撃退士ならば(たとえ強烈なトラウマ、過剰な憎悪を抱いていても)慣れたものだろう。適切な戦力で臨めば、難なく処理できるはずだった。
 手続きを済ませ、応募を募る。そして職員は、なるべく早く、この事件が解決されることを祈った。


リプレイ本文

「丑の刻に参らせる天魔、ねぇ。相変わらず天魔はワケわかんねー」

 虎落 九朗(jb0008)が、下見を終わらせた所で、そうつぶやいた。

「丑の刻参りというと確か、自分の身も省みず、一心に相手の事だけを思っての奇行……?」

 和泉早記(ja8918)が、首をかしげながら答えた。こちらも、準備は整えているようである。
 彼は一般人の侵入を危惧し、念の為に廃寺の入口方向と本堂側の細道に、簡易立入禁止現場的にロープを張り巡らしている。

「奇行といえば、これほどの奇行もない。随分と悪趣味な敵だが、一気に畳みかけてしまえば問題ないだろう」

 現場で張り込んでいたルーノ(jb2812)が、二人の傍によって答える。とりあえず、一般人が近づく気配はない。誰かが乱入してくる可能性は、今の所なさそうだった。

「ずいぶんとタチの悪いディアボロじゃないか。精神攻撃、自傷行為。人の内側を引っ掻き回して、気に入らないな」

 しかし、それは人の心に憎しみがある証明でもあるのかと、紗姫・カスティリャーノ(jb5103)は感慨深く述べた。
 これ以上の被害は、出ないようにしたい。そう思う彼女の心は、この場にいる誰とも共通している。

「タチが悪いってのと、気にいらないってのには、同感っすね。……ま、なるようになるっすよ」

 安形一二三(jb5450)が、若干の緊張を言葉に表した。心なしか、声もこわばっている感じがする。
 初陣というなら紗姫も同じだが、こちらは緊張しながらも、心を落ち着ける術を知っているらしく、見た目に気負いは感じられない。
 それを彼は羨ましく感じながらも、己を鼓舞するように言った。

「初陣なんで花々しく飾りたいもんですねぇ……」

 花々しくなるかどうかは、始まってみなければわからないことだ。
 色々と思案するなか、九朗の携帯が鳴る。出てみると、それは仲間からの報告だった。

「下見した感じでは、夜まで敵が出現する気配はなさそうです。今は、一般人が入ってこないように注意しておけば、よろしいかと」

 アステリア・ヴェルトール(jb3216)は、九朗とは別に探索を行っていた。その彼女からの報告を聞く限り、やはり日中に戦闘に持ち込むのは難しいらしい。
 とすると、想定通り、夜間戦闘になる。初陣の二人には、厳しい戦場になりそうだ。

「まだ時間はある。休んでおきましょう」

 早記が、一二三と紗姫にサンドイッチとジュースを投げて渡した。実際、敵が出ないなら夜まですることはない。
 彼は彼で、夕方まで寝るつもりらしく、適当な所に腰を掛けて、目を閉じた。そうした態度を見て毒気を抜かれたのか、二人も軽食をとりつつ休息を取った。
 これで、緊張は解れただろう。九朗は安心して、現場で警戒に務めた。今しばらく、交代まで時間はある。ただの見張りとはいえ、出現が確認出来たら、すぐに戦闘なのだ。気を引き締める前に、休める者は休んでいくのがいいと、そう思う。








 樹木の出現が確認できたのは、やはり、夜になってからだった。人の怨念が目に見えるように、幹には人の顔が浮き出ている。悪霊と植物の混合物といえば、その異質さが分かるだろう。
 位置も社の後ろであり、目撃情報と一致する。ディアボロ以外の、なにものでもなかった。休憩していた者も連絡を受け、集合している。
 下見の段階で把握できた頃だが、山肌・本堂からの道から狙撃は、難しそうだった。山の斜面は急で、狙撃する体勢を取るには向かず、無理に狙っても効率が悪い。本堂からの射撃はまだマシだろうが、射線が限られる上に夜間戦闘である。当然、離れれば離れるほど命中精度は落ちる。それでもあえて狙おう、と考える者はいなかった。
 ともあれ、視界は常に星の輝きで光源を確保している。直接戦場に乗り込んで戦う分には、問題はなかった。

 まず最初に、早記が動いた。攻撃が通る範囲で可能な最大距離を常時確保するのが、彼の戦術である。
 仲間の後ろに控えておけば、味方の様子がおかしければ周囲にも注意喚起できるし、予め警戒しておけば回避準備も出来る。

「俺はあの辺りから、射程ギリギリで牽制します。支援は任せてください」
「ああ、頼む。精神耐性のある俺が、まず一度あたってみる」

 早記の言葉を背に、九朗が聖なる刻印を掛けて徐々に接近、距離を確かめる。安全地帯を確認する意味もあるが、おそらくそう上手くはいかないだろうと予想もしている。
 戦場はせまい。もしかしたらすでに全員範囲内かも――と。予測していたのだが。

「うぉッ!」

 案の定、であった。九朗が敵の攻撃に反応し、両手を交差して顔面をガードする。
 飛んできたのは、釘だった。おそらく、これまで樹木に打ちこまれたであろう釘。それが木の幹から打ちだされたかのように、勢いよく飛んできたのだった。
 バッドステータスは受けていない。幸運だったと思うことにして、今度は躊躇なく踏み込んでいく。本堂の裏はまるまる敵の射程だと思うべきだが、その外はおそらく安全。
 だがそれはこちらからの攻撃も届かぬか、確実性に欠く。火力を集中させて一気に畳まねば、敵の逃走を許しかねないと思えば――もう選択肢は即時決戦、それ以外にない。

「撃ちます。状況はどうあれ、攻撃手を止めなければ何時かは倒せる筈」

 早記のフレイムシュートが、九朗の後ろから飛んだ。敵が木である以上、当たれば燃えてもおかしくないが――そこはディアボロ。あきらかに樹木の見た目でも、完全にそのものとはならぬらしい。
 炎上はせず、ただ数秒燃え広がった所で消えた。それでも効いてはいるのか、悶えてうごめき、枝葉が辺りに散らばる。
 その敵のダメージを確認した後、他の仲間、後衛からの射撃が続いていく。

「手を止めるなよ……押しきれ!」

 ルーノが味方の行動を阻害しないよう、射線に注意して位置取りし、ヴァルキリーナイフが幹に打ちつけられていく。釘より太く長いそれは敵に食い込み、確実にダメージを与えていく。
 敵は厄介な能力もちだ。早々に片付けるにこしたことはない。

「了解。――行きます。アウルの炎よ!」

 アステリアが行ったのは、偽翼を展開しての空中戦、対地攻撃である。ファイアワークスによる火勢攻撃も選択肢のうちだが、残数が少ない。初手で使った後は、弓による射撃に切り替えた。
 そして初陣の二人、紗姫と一二三が召喚したヒリュウをそれぞれに従え、攻撃に加わった。統制のある攻撃といって、良いだろう。
 集中した火力は確実に敵の力を削ぐ。幹に浮かぶ人の怨念の表情も、一つ、二つと消えていく。それを呼応するように、幹から伸びる大きな枝が、またいくつか地面に落ちていった。

「よく狙って、ヒリュウ」
「うッし! やッちまえ、ヒリュウ!」

 経験不足、という不安要素も、連携して攻める分には問題も消える。
 特に紗姫は意識して、前衛の援護となるように、メンバーの動きを見ながら攻撃タイミングを図っていた。一二三もまた、突っ込む九朗のサポートのつもりで、チクチクと援護する形で攻めている。
 そして、九朗が敵の目前へと肉薄する。敵の注目が、ただ一人の前衛である己に集中しているなら、後ろの味方への注意も弱まるだろうと思って。

「ぶち、かますッ!」

 アウルの槍の投擲。九朗の手で作られ、投げられたそれは、見事木の幹の中心に直撃した。浮き出た人の顔らが、苦悶の表情にうめく。のみならず、樹木自体も大きく揺れ、その葉のほとんどを散らした。
 再度、樹木のディアボロは釘の射出を行うが、九朗が前面に出ることで攻撃を受け止める。――状態に異常はない。あるいはこのまま、思い通りに戦い、勝てるかもしれない。
 六人の奮闘が、完全な形で報われることになるか。戦いが佳境に進むにつれて、そうした楽観も生まれてきた頃――。

「これなら、楽に勝てますかねって……ありゃ?」
「……うん?」

 紗姫と一二三が気付いたのは、偶然だった。つまり、偶然に頼るまで、気付かなかった。
 そして一人空中戦に徹していたアステリアは、真っ先に敵の攻撃を理解していたが、距離をとっていたがゆえにどうしようもなく。九朗は近すぎる上に、前衛の仕事が多忙すぎて見逃し。
 何が起こったか把握して、具体的に行動に移そうとしたのはルーノと早記のみ。それでもギリギリの所であったため、できることは少なく――。

「皆、散って!」
「足元を警戒しろッ」

 落ちた枝葉がまるで意志を持ったかのように動いていた。だが警告も遅く、空を飛んでいたアステリア以外の全員が、この攻撃にさらされる。
 敵にとって、枝葉は武器なのだ。こちらが撃退士と理解して、容易にその武器を使わず、温存し、追いつめられたこの状況で初めて出したのだ。
 葉が、枝が、撃退士らの足を取り巻く。拘束か――と思いきや、そうではない。

「なんだこりゃ……あ」

 一二三は気づいた。
 その葉に。
 枝の節一つ一つに。

「ちょ……ッ」

 紗姫は見た。
 幹から消えたはずの、うらみがましい人の呪い顔が、びっしりとこびりついていた。

――うろぉぉぉん。うおぉぉぉぉぉん。

 至近距離で、それらは撃退士らの体を登り、顔の目前まで迫り、正気を失った表情で、暗い両目と暗黒の意志だけを見せつけて、弾けるように消えた。

――ぱぁぁぁぁん。

 この場にいる誰もが、同じ音を聞く。そして、その中の幾人かは、『目の前が真っ暗になった』。






「正気です!」

 早記は抵抗できた内の一人だった。いち早く我を取り戻して叫ぶ。

「俺も大丈夫だ! 皆はどうだ!」

 九朗も問題ない。耐性をつけていたことが、ここで活きた。

「こっちも正気だ! 大丈夫なのはあんたらだけか!?」

 紗姫も正常である。運に助けられた、というほかない。そしてアステリアは最初から攻撃を受けていないため無事であり、二人の異常を理解したのも、やはり彼女が最初だった。

「一二三さん! ルーノさん! しっかりしてください! ――皆さん、お二人がかかりました! ご注意を!」

 一二三は幻惑されている様子で、体を震わせ、おびえながら、めちゃくちゃに光のリングで辺りを攻撃していた。

「くるな、くるなよ怪物がぁ。……くっそぉぉぉッ!」

 攻撃は敵の方にも向かったが、味方の方にも流れ弾が飛びかねない様子である。このまま放置は望ましくない。

「――ッ! あ……」

 ある意味もっと心配なのが、ルーノだった。ただ、呆然と立っている。身動きどころか、指先一つ動かしていない。目は開いているから、眠ってはいないらしいが――これは意識が朦朧としている、と考えるべきだろう。

「一二三さん幻惑! 回避してください!」

 早記の警告の声が、戦場に響いた。しかし、前には樹木の敵がなおも控えている。敵は攻撃をやめた訳ではなく、釘の射出に加えて、切り落とされた枝葉を用いての撹乱をも狙ってきていた。そして、これ以上の混乱は戦線の崩壊を招く。悠長にしてはいられなかった。
 決戦を焦る撃退士たち。そして敵は確かに、追いつめられていた。撃破も目前だろう。
 二度目の不覚はとるまいと、全員が警戒していた。だからこそ、再度敵が大きく体を揺らし、大規模な範囲で枝葉を動かしにきた時、全員が覚悟を決めた。

「が! ……っあ、は――。くそ、本当に、趣味の悪い……」

 そして彼も覚悟は決まっていた。ルーノが正気を取り戻す。
 ダガーで自分の腕を傷付けて、己の正気を確かめた。……まだ己は戦える、それを確認して、戦闘に参加する。

「あれ。――え。……もしかして俺、やっちまってたっすか」
「安心しろ、俺もだ。気にするな」
「……申し訳ねぇっす。もう、負けませんから」
「良し」

 ルーノに遅れる形で、一二三が己を取り戻し、改めて射撃の列に加わった。
 その攻撃のすぐあと、敵は倒れた。もう、限界だったのだろう。地面に倒れて、枯れ、一本の腐った樹木になり果てた。もう、怨霊らしき人の顔も、怨嗟の声も聞こえない。
 途中で焦らされたが、最後はあっけない。格別の強さを誇る相手ではなかったにしろ、それでも、とにかく不愉快で厄介な敵であったことは、間違いなかった。





 一二三は緊張でカラカラになった喉を潤すように、烏龍茶をがぶ飲みした。

「過程はどうあれ、勝ちました。いい経験になりましたね」
「どーなんすかね……俺、足引っ張っちまったみたいで」

 アステリアの言葉にも、一二三の反応は鈍かった。精神攻撃で幻惑されたのが悔しいらしい。

「敵がね、でっかくなって、迫ってくるみたいに見えたんすよ。で、怖くなって、めちゃくちゃにやりました。情けないっすね、俺」
「誰もそんなこと思ってない。そういうことだって、ある」

 紗姫が、淡々と答えた。
 誰がああなっていても、おかしくはなかった。その点を考えると、自分の代わりに、彼が犠牲になったような気もして、落ち着かない。

「『私はこんな幻覚に惑わされない』……なんて。考えるのは容易です。でも、実際に抵抗できるかどうかは、運みたいなものですから」
「そーだな。あんまり深く考えても、足かせになるだけだ。幻惑、魅了、その他いろいろ、戦い続けていくなら、こういう目には絶対にいつかは会う。後悔を引きずったままでいる方が、よっぽど有害だぜ?」

 だから割り切った方がいいと、九朗はアドバイスした。アステリアの言葉も、もっともに聞こえた。経験の豊富な戦士たちの言葉なのだから、当然だろう。

「どんな感情だって、心にあるだけなら、良くも悪くもないから。恐怖なんて、誰の心にもあるし、刺激されたら過剰反応もしますよ。……どんな形であれ、戦う意思を捨てなかったのだから、一二三さんは立派に戦えたと思います」

 早記がそう指摘すると、そうかもしれない、と一二三も思えた。己は生きているし、次がある。

「すいません――じゃなくて、ありがとうございました。何とか、やっていきますよ、これからも」

 気を取り直して、一二三は礼を述べた。そして気付く。一人、欠けていることに。

「あれ、ルーノさんは?」
「帰還する、って言って、もう帰られました。……思う所が、あったのでしょう」

 今回の敵は、そういう敵だった。朦朧とした意識の中で何を見たのか、一切話さず、翼を可視化・飛行しその場を離れた。
 なら追及はすまいと、皆は思い思いに別れの挨拶をして、解散する。

 余談だが、被害者の女性は後日、無事に目覚めたとの報が入り、皆を安心させた。








 そして、どこかの空の下で、ルーノは物思いにふける。あの時見たのは、友の幻影。
 生きているはずのない彼の、己の名を呼ぶ声が、責める声が、耳を塞いでも聞こえてきた。
 ただの幻覚であることはわかっていたし、理解もしている。だが、今は少しでも早くここから離れたい。
 そして早く忘れてしまいたい。今日の事も、あの時の事も。
 ルーノは飛ぶ。過去の想いを振り切るように。その姿を仲間にさらす事さえ、しようともせずに……。



依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 撃退士・虎落 九朗(jb0008)
重体: −
面白かった!:3人

撃退士・
和泉早記(ja8918)

大学部2年49組 男 ダアト
撃退士・
虎落 九朗(jb0008)

卒業 男 アストラルヴァンガード
撃退士・
ルーノ(jb2812)

大学部5年229組 男 アストラルヴァンガード
撃退士・
アステリア・ヴェルトール(jb3216)

大学部3年264組 女 ナイトウォーカー
撃退士・
紗姫・カスティリャーノ(jb5103)

大学部3年286組 女 バハムートテイマー
V兵器探究者・
安形一二三(jb5450)

大学部3年109組 男 バハムートテイマー