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マスター:
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2013/04/19


みんなの思い出



オープニング

●どこか山奥で

「――……―…」

 その声は、一定の拍を刻みながら、途切れることなくその部屋に響いていた。
 何かの経文のようにも、また朗々とした歌のようにも聞こえるその声は、一人の人間の喉から生み出されているのではなく、数人の人間の声が合わさって作り出しているものだ。

 声の主達は、その中心に鎖で縛られた奇妙な生物を囲みながら、その歌を奏でていた。
 その歌を聞くたび、じんわりとした光がその生物の体を包む。見る者が見れば、間違いなくそれはアウルの光であり、またその生物は天魔であると断定しただろう。しかしこの場において、その光はアウル、と呼ばれることはなく、“霊力”と呼称されていた。

 その天魔と思しき生き物を囲う彼らは、久遠ヶ原の卒業生ではない。にもかかわらず、彼らは天魔に対抗することの出来る力を保持していた。なぜか。それは彼らがアウル行使者として久遠ヶ原に育成された訳ではなく、古くは数百年、数千年の昔より続く旧退魔文化の流れを汲む者たちであるからだ。

 アウルを発現した者の殆どが久遠ヶ原へと向かう現代において、彼らはかなり厳しい立場に置かれていた。後継者、という意味でもそうであるし、能力と言う意味においてもそうだった。彼らの持つ能力は確かに天魔に通用するし、V兵器はなくとも古来より伝わる退魔具がある。だから戦えないわけではない。
 けれど――。
 だからと言って時代の趨勢に簡単に逆らえるわけではない。
 彼らのような撃退士とは異なる系統のアウル行使技術を持つ集団は、現代においてはかなり少なくなっているし、久遠ヶ原と言う合理的・現代的なアウル行使者育成組織がある今、一体どのような若者が彼らの後継者となるというのだろうか。
 勿論、彼らとしても、自らの技術に誇りがあった。長い時を継いできた自分たちの文化に、そしてなにより天魔が初めて確認されてからの初期の時代を戦ったのは自分たちであるという矜持があった。
 しかしそれでも、どうしようもないものがある。久遠ヶ原が実績を重ね、社会に浸透していくにつれ、彼らの肩身は狭くなっていった。面と向かっては言われないものの、その必要性を疑われたこともあった。
 許せなかった。それは、歴史に賭けても、またプライドに賭けても、許せることではなかった。

 だから、彼らは実績を求めた。それも、初期のようにただ天魔を殲滅するのではなく、天魔それ自体を捕獲・研究し、そこから新たな技術や退魔具の開発を行うことに。後進の育成にも力をいれ、今では組織にもそれなりの人数を確保することができている。
 後は、天魔研究の結果を出すだけ――。
 今この場で行われているのは、それだった。東北の端に位置する街に存在する山、その山奥にひっそりと建つ、山寺。それが彼らの本部だ。内部は外観からは想像できないほど複雑で広大な作りになっており、ここで天魔の研究及び後進の育成が行われていた。
 天魔は、彼らの組織の中でも特に優秀な者が選抜され、捕獲にあたり、そして山寺内部の設備に運び込み、特殊な器具で固定し透過能力を無効化、さらに数人の霊能力者――アウル行使者の事である――が持ち回りで霊力を行使して天魔の能力を減退・封印する。その状態の中で組織の研究者が思い思いのテーマに沿い、研究を行っているのだ。

 聊か手間のかかりすぎ、と思われるこの方式だが、彼らはこれによってある程度の結果を出そうとしていた。
 今回捕獲された天魔は、上半身が人間であり、下半身が馬の形をしているケンタウロスのようなディアボロだった。目は赤く染まり、上半身だけ見ても明らかに人間ではないことが分かる。しかしそんなディアボロも今は大人しいもので、特殊な鎖と霊能力によってその力と精神を封じられていた。
 研究者達はそんなディアボロの周りをうろうろと歩き回り、その体に触れ、また電極を刺し、脈を測った。そうして、そのディアボロが十分に実験に向いていることを確認して、研究者たちの一人が言った。

「では、これからこのディアボロと我が組織の霊能力者で戦闘し、データの収集にあたらせていただきます」

 このディアボロはそのために捕獲されたのだ。比較的目撃事例の少ないタイプのディアボロで、その生態は未だ不明の部分が多かった。それを明らかにし、データ化すればそれだけでもそれなりの成果と言える。もちろん、安全を考えて一対一、などとは言わず、十分な人数で戦闘に当たるよう研究員は指示した。まず大事なのは攻撃パターンや知能の把握であり、それ以上の成果は今は必要ではなかった。
 研究員の支持に従い、ディアボロを拘束していた鎖がゆっくりと外される。しかしそれでもディアボロは動かなかった。周囲の能力者たちによって能力を減退・封印されているからだ。そのことに不満をもった研究員が言う。

「ちょっと……これでは戦いに耐えられるかどうか、わかりませんね。少しでいいので霊能力行使をやめていただけませんか?」

 その台詞に、霊能力者の一人が慎重に反論した。

「多少弱っているとはいえ、それは危険です。研究員の皆さんは部屋から出て頂いた方が……」
「いや、大丈夫ですよ。僕達も少しですが、アウル――おっと、霊能力ですね。の、行使訓練は受けていますから。とは言え、おっしゃることはもっともです。退出する必要は感じませんが、少し下がっておきますので、よろしくお願いします」
「……わかりました」

 霊能力者の男はため息ついて、諦めた。確かに、この山寺にいる者は、皆ある程度の訓練を受けている。ディアボロ一匹にどうにかされるということはないだろうと思った。

「では私が霊能力行使をやめます。他の皆はそのまま続けてくれ。流石に完全にディアボロを自由にするのは危険だ」

 その男は、その場にいる霊能力者のリーダーだった。そのため、霊能力者達は彼の言葉に従い、朗々と歌を歌い続ける。そして、リーダーの男だけが、その歌をやめた。
 すると――

「……おや、何も起こりませんね」

 研究員の男が、つまらなそうにそう言った。
 しかし次の瞬間。

 ひゅん、と音がすると同時に、何か直線的な光がリーダーの男の胸を貫いた。

「ぐがっ……」

 ゆっくりと倒れていく、リーダーの男。しかし、霊能力者達は立ち直りが早かった。
歌をやめることなく歌い続ける。先ほどよりも強い力を込めたそれは、ディアボロの行動を止めるはずだった。
 しかし、ディアボロは止まらない。設備の上に横たわっていた筈のそのディアボロは、いつの間にか立ち上がり、屈強な上半身に弓を番えていた。
 それから、次々と、光の矢で霊能力者たちを絶命させていく。
 そうして、最後の霊能力者が倒れたとき、その場に残っていたのは、研究員の男ただ一人だった。他の研究員は、死ぬか逃げるかしたようである。

「ひっ……」

 悲鳴をあげても誰も助けには来ない。ディアボロは、静かに研究員の男を見つめ、そしてその口を大きく開けて、彼の首を刈り取った。

●逃げた研究員

「まずいまずいまずいまずいまずい!」

 出来るだけ、ディアボロのいた部屋から遠ざかりつつ、その研究員は携帯電話を手に取ってかけた。
 つながった先は、

「はい、こちら久遠ヶ原…」
「……捕獲していたディアボロが逃走しました! 詰めていたアウル能力者は皆死亡しました! どうか応援を!」

 面子にこだわっている場合ではなかった。


リプレイ本文


 自然の洞窟を活用したその施設は、人の手が入り、いくつもの道や部屋が遍在する入り組んだ作りになっていた。
 撃退士たちは周囲を警戒しながら、施設内を探索していた。
 今のところは生存者の気配もなく、本当にここに天魔が闊歩しているのかと疑問に思うくらいに静かだ。
 しかしそんな静寂も人類の敵、天魔の前では容易く破られる。
 何かに気づいたかのように洞窟の奥を鋭くにらみ始めた龍崎海(ja0565)がぼそりと呟いた。
「……御堂さん、気づいてるよね?」
 その相手は白銀の髪を垂らした美貌の女性、御堂玲獅(ja0388)だ。
 彼女の目線もまた、まっすぐに龍崎と同じ方向を見つめている。
「はい。勿論……では、あとは手筈通りに。皆さん! 前方に天魔の反応があります……人間は、いないようですね」
 本来ならあまりにも舌足らずな台詞だったかもしれない。
 しかしここにいるのは全員が天魔と戦うことを職業とする撃退士だった。
 当然、既に戦う準備は整っている。
 それに、しばらく天魔を探し回っていたことで退屈も頂点に達していたのだろう。
 撃退士たち全員が戦意に満ち満ちていた。
 とはいっても、今回の依頼の目的上、全員が戦いに参加するわけにもいかない。
 その場には事前に決めておいた班分けに従い、戦闘を主体として行動することとなった四人が残り、生存者の保護を目的とする四人は天魔のいない方向へと走り去っていく。
 その姿を見送った一人である、アルクス(jb5121)が学園依頼としては初めての天魔との戦闘に気合を入れてウォフ・マナフを握り笑う。
「こっちに来て最初の仕事かぁ。んー、多分何とかなるかな」
 施設侵入前にも、人に喜ばれるように依頼を完遂したい、と言っていたところから、善良なその性質が見て取れた。
 アルクスと同様、仕事に対するやる気満々なのが、灰色がかった銀髪を二つに結んだメイベル(jb2691)だ。
「同業者さん、になるのでしょうか 友のピンチはすなわちチャンス! 全員お助けして、目一杯感謝されてみせますよっ!」
 メイベルの明るく元気なその性格と口調は、一緒にいる人間の気持ちを和ませる。天魔の前に和みも何もあったものではあいかもしれないが。
 そんな二人とは対照的に、ナヴィア(jb4495)は冷静に前方から迫ってきているであろう天魔に対する評価を述べた。
「ここの能力者を殺したというのなら、結構な強さでしょうね」
 彼女の感覚はどこまで行っても合理的、だった。もしかしたら生存者たちの保護すら、どうでもいいと思っている節がある。
「そろそろ来るよ。気を張って」
 龍崎の声に、全員が頷いた。
 洞窟の暗闇の向こうから近づいてくる不気味な影がその輪郭を明らかにする。
 強靭な筋肉で構成されたその肉体。
 馬と人間の複合されたその奇妙なキメラ。
 それは、まず間違いなく情報通りの存在。
 ケンタウロスだった。


「こっちです!」
 叫びながら御堂は多くの人間を誘導していた。
 全員の腕にその傷害の重症度に合わせて色分けされた紐がつけられている。
 御堂の診察によるトリアージの証だった。
 施設内部の生存者を見つけたのは、先ほど龍崎たちと別れてからすぐのことだった。
 旧退魔師施設内部の生存者たちは、こういった事態も想定済みだったらしい。
 天魔の襲来や、実験用天魔の逃走など緊急事態の際は、一所に集まり、救助を待つ。
 特に組織の中でも能力が弱いものはそれが徹底されていた。
 そのことが今回、功を奏した。
 施設職員の殆どが、同じ部屋に詰めていたからだ。
 しかし何事も例外はある。
「ここに彼がまだ戻ってきてないんだ!」
 そんな声が部屋の中に響いた。
 見ると、ひとりの研究者風の男が桜花(jb0392)に必死な形相で縋っていた。
 御堂が近寄り、話を聞く。
「どうかしたのですか?」
「いやさ……なんだか、一人、逃げ遅れた人がいるらしくて」
 その言葉にシロ・コルニス(ja5727)とギルバート・ローウェル(ja9012)も集まってくる。
 生存者保護はこの班の何よりも目的だから。避難場所への誘導もほぼ終わった今、逃げ遅れた人間がいるならその保護に走るべきだった。
「そのひとはどこですか?」
 シロが研究者の男に質問する。
「……分からない。ただ、彼は天魔の実験室にいたはずなんだ。今あの部屋はどうなっているんだ?」
 それを聞いて、シロは気の毒そうな顔をする。
 男は、そのシロの表情で察したらしい。うつむいて、静かに涙を流した。
「……そうか。分かった……」
「ごめん。私たちがもう少し早く来ることが出来れば……」
 桜花が申し訳なさそうにそう言った。
 男も人に八つ当たりをしようなどと考えている訳ではないのだろう。
ゆるゆると首を振る。
「いや。そういうことじゃないのは、僕も分かっている。無理を言った……」
 桜花が何とも言えずにいると、ギルバートがふと思いついたかのように言った。
 これ以上、この話を続けるのは良くないと思ったからかもしれない。ただ、その判断が事態をいい方向へと導いていく。
「そうです。聞きたいことがあったのですが……」
「なんだ?」
「この施設にいたであろう、実験用の天魔の数です。この広さではかなりの数に上るだろうことが推測されますが……」
「いや、天魔をとらえておく、ということが思いの外、大変だったからな。この施設にいた天魔は二体だけだ。どちらとも、なんだ……ケンタウロス、のような容姿をしている天魔だった」
「そうなのですか……では久遠ヶ原に連絡していただけた人にもお話を聞きたいのですが、どこにいるか分かりますか?」
「依頼? 異変を感じてここに来てくれたのではないのか?」
「いえ、流石にそれは……新見さん、という方から依頼の電話があったので」
「新見!? 彼は生きてるのか?」
「……もしかして彼は先ほど言っていた?」
「そうだ……そうか、まだ生きてるのか……?」
「それは分かりませんが……希望はあるようですね」
「では、頼む。彼を……彼を助けてやってくれ」
「勿論です」
 男の真摯な瞳に、四人は顔を見合わせて頷き合った。
 生存者の避難もそろそろ終わる。今こそ、敵を殲滅するときだった。



 その半人半馬の生き物は極端に素早く、また高い射撃能力を持って撃退士たちを翻弄していた。
 目にもとまらぬ速さで弓に矢を番え、放つ。
その繰り返しで、撃退士たちは既に結構な傷を負っていた。
 ただ、ナヴィアが阻霊符を使用し、壁や床に潜れないようにし、アルクスがその優れた移動力を活用してケンタウロスの側面に回り込むなど、辛うじて対応できてはいる。
「全く、早いなー。まぁ馬だもんね。当然と言えば当然か。足を狙って……っと!」
 アルクスの撃ち込む闇の弾丸は確実に敵の体力を削り、徐々にその機動性を蝕みつつある。しかし、だからと言って、油断はできない。
「痛ったいなぁ……盾張ってもキツイね」
 いくつも放たれる光の矢を、龍崎は盾を構えて引き受けていた。
 その矢は早く、また重かった。しかし、龍崎もやられっぱなしではない。
 合間を縫って近づき、十字槍を思い切り薙ぐ。
「グオォォォォ!」
 ケンタウロスは、獣か人か判別のつかない叫び声をあげて暴れた。
 傷は浅くない。ただ、致命傷と言えるほど深くも無かった。
「やれやれ。俺もまだまだかな」
 そんなことを呟く龍崎の後ろから、ナヴィアが闇を纏った戦斧を振りかぶって飛び出してくる。
「捕獲なんて考えてられる相手じゃなさそうね。悪いけど、消えてもらうわ!」
 ブォンと巨大な音を立てて振り切られたその戦斧は、ケンタウロスの腕を一本刈り取っていく。ただ、流石は天魔の端くれ、と言うべきか、化け物、というべきか。
 ケンタウロスはそんな体になりながらも、弓を引く。手で引けなくなったケンタウロスは、口で弓を引き絞り、矢を放ってくる。
 速度は先ほどより遥かに落ちたものの、今度は一撃の攻撃力が増している。
「あ、やば」
 ふとそんな声を上げたナヴィアの耳に、
「危ないですっ!」
 という叫び声が聞こえた。
 見ると、目の前にアウルが網状に展開され、それが自分の体に纏わりついていくのが分かった。
 ケンタウロスの放った光の矢は、ナヴィアの纏ったアウルによって、その攻撃力を減退させられる。
 声の方向を見つめてみれば、そこには、ぶい、を手で形作ったメイベルがいた。
「ふふ……ありがとう」
「いえ! どういたしまして……あぅっ!」
 よそ見をしていたその瞬間、メイベルにケンタウロスが突っ込んきて体当たりを食らわせた。
 光の矢よりはマシとは言え、ダメージは小さくない。
 一瞬、立ち上がれず隙が出来た。
(まずい、やられますっ!)
 そう思った。
しかし。
次の瞬間、ケンタウロスは大きく体を痙攣させて倒れた。
 その後ろには、
「……ふう。大丈夫だった?」
 十文字槍を切り下げた龍崎が立っていた。



 その研究員は追い詰められていた。
 いくらアウル行使能力があるとはいえ、撃退士として働けるほどのものを持っている訳ではない。
 そんな状態で、手練れの撃退士すら瞬殺するほどのポテンシャルを持つケンタウロスにかなう筈がなかった。
 にも関わらず、男はひたすらにケンタウロスに追い立てまわされながらも、生きていた。
 それは、男の能力の故ではない。
 そうではなく、それは。
「くそ……こいつ、遊んでやがる!」
 ケンタウロスの醜くゆがむ顔を見ながら、男は吐き捨てるようにそう言った。
 そう。どうやらこの天魔は、男を追い立てまわすのが楽しいらしい。
 だから、いつまでたっても殺さずにいたのだ。
 しかし、それもそろそろ終わりのようである。
 ケンタウロスはその手に持つ弓に矢をゆっくりと番え、よく狙いすませて男を見つめた。
 射抜くような、とはまさにこのことだろう。
男は、もはや逃げられないことをこのとき悟った。

 あぁ、弓が……放たれる。
 そう思った瞬間、ケンタウロスの腕にロングボウの矢が突き刺さる。
「ガァ!?」
 断末魔の悲鳴を上げるケンタウロス。
 当然、男を狙っていた矢は明後日の方向に飛んでいき、男は自分が助かったらしいことを知った。
 きょろきょろと周りを見渡すも、その矢を放ったらしき狩人の姿は見当たらなかった。
 けれど、突然耳元に声が響いた。
「あまりきょろきょろしすぎると、またねらわれますよ。ゆっくりとうしろにさがってください。しずかに、おとなしく。おまえもまだ、しにたくはないでしょう?」
 ぎょっとして声の方向を見てみると、そこには頭がすっぽりと隠れる巨大な牛の頭蓋骨を被った上半身裸の男がいた。果たしてどちらが天魔なのかとついケンタウロスと見比べてしまう。しかし少し物騒ではあったが、その台詞や行動からみて明らかにその男は味方である。
「すまない……助かる!」
 男はそうシロに言って下がった。
 シロはそれを確認すると武器をナイフに持ち替え、ケンタウロスに向かっていく。
 そんなシロの後ろから、高速で銀色の炎がケンタウロスを刺し貫く。
「容赦はしない。する必要も感じない。異端の怪物よ、血の川に溺れろ。お前達の存在は許されない、だから死ね」
 見ると、そこにはギルバートが立っていた。ケンタウロスを見つめるその冷徹な目の中には憐れみと言った感情は一切垣間見ることが出来ない。その聖職者としての矜持は人のためだけに費やされるのだろう。
 ケンタウロスが話すいくつもの光の矢も、全く怯まずにその持つ盾で受け止め、掻き消していくその姿は、確かに美しき神の使徒であった。
 そんな中、打ち刀を構え果敢にケンタウロスに向かっていくのは桜花だ。しかし、ケンタウロスの機動性に足がついていっておらず、とうとう、足が止まってしまう。
 そんな桜花の油断を、ケンタウロスは見逃さなかった。ケンタウロスは大きな口を開けて、桜花を飲み込もうと近づく。
 けれど、桜花の前に御堂がシールドを構えて立った。
「大丈夫ですか?」
「ごめん、助かったよ」
 そうして、二人は笑いあう。
「では、このまま一気に倒してしまいましょう。幸い、シロさんとギルバートさんのお陰で敵は満身創痍です」
「オッケー!」
 御堂の言葉に頷き、桜花はバヨネットハンドガンを打ち込む。
 それと同時に、御堂が雷霆の書を開いた。すると、雷の剣が真っ直ぐにケンタウロスに向かい、その胸を貫く。
 さしものケンタウロスも、これには参ったのだろう。一度大きく痙攣すると、そのまま横倒しになって、大きな音を立てて倒れたのだった。


 避難所には、依頼を終えた撃退士たちと旧退魔師施設の職員たちがいた。その雰囲気はぴりぴりとしたものではなく、助かったことによる安堵と、撃退士たちへの感謝が感じられる。
新見、というあの研究員も彼を心配していた研究員と再会できたようである。
「本当に、今回は助かりました。久遠ヶ原にはもう足を向けては寝られません……」
 そんなことを言っている。
「私たちは仕事をこなしただけよ。気にすることないわ」
 ナヴィアが突き放すようにそう言った。合理的で冷静な彼女のことだ。本心を言っているのだろう。
 メイベルとアルクスは、
「そうですよっ! 気にしなくていいんですっ!」
「そうそう。これ以上つらそうな顔しなくてもいいんだよー」
 と言って笑っている。それでも研究者たちは、
「しかし今回のことは僕らのやり方に問題があったわけで……」
 などと言いつのろうとしたが、今回出た死者の為に祈っていたギルバートが、
「私は教会のもの。どれだけ離れようと、久遠ヶ原で教育を受けようと変わりはしない 古い教えを守り、新しい術を知り、それを持ち帰るのが仕事。我々の教えをより強固にするために。我々の技術がまだ通用することを証明するために。――貴方たちもそうではないのですか?」
 と呟いた。それに続いてシロが、
「シロには、ふるいことやあたらしいことはわかりません。シロはこのクニにきた、すべてがあたらしいです。おどろき、こわいこともありますが、とてもたのしいですね。シロのムラにはなかったものがたくさんありますから」
 と言った。それは彼なりの励ましの言葉だったのかもしれない。そうして、龍崎が提案する。
「やり方が問題だったというのなら、少しずつ変えてみればいいのではないですか。能力者は学園って風潮ですが、学園の修練や能力の方向性等が合わない人もいるでしょう。そういう人達の更なる選択肢として必要だと思いますし」

 一人一人の言葉に、研究者たち、それに施設職員たちも頷き、明るい顔つきになってきている。今回の事件は不幸な事故だった。これで今まで引き継いできたものを諦めるのはあまりにももったいない。そんな心境になってきているのだろう。
 そうして、けが人の応急処置を終えた御堂が言った。
「さて。これでもう大丈夫でしょう。怪我も、そしてこの組織も。みんな、帰りましょう」


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: サンドイッチ神・御堂・玲獅(ja0388)
 仲良し撃退士・メイベル(jb2691)
 撃退士・アルクス(jb5121)
重体: −
面白かった!:4人

サンドイッチ神・
御堂・玲獅(ja0388)

卒業 女 アストラルヴァンガード
歴戦勇士・
龍崎海(ja0565)

大学部9年1組 男 アストラルヴァンガード
牛ハンター・
シロ・コルニス(ja5727)

大学部6年258組 男 インフィルトレイター
甘味は(品ごとに)別腹・
ギルバート・ローウェル(ja9012)

大学部8年69組 男 ディバインナイト
肉欲の虜・
桜花(jb0392)

大学部2年129組 女 インフィルトレイター
仲良し撃退士・
メイベル(jb2691)

大学部2年193組 女 陰陽師
影に潜む殺意・
ナヴィア(jb4495)

大学部4年259組 女 阿修羅
撃退士・
アルクス(jb5121)

高等部2年29組 男 ナイトウォーカー