●まずは普通に
「「「よろしくお願いしま〜す!」」」
沙酉 舞尾(
ja8105)、東城 夜刀彦(
ja6047)、ジーナ・アンドレーエフ(
ja7885)の声が、ペットショップ「ワンワンキャッスル」に響く。店長も「うん、よろしくね」とほどよい笑顔で応答するが、その笑顔の中にあるブラックな部分がこの後に起るあの事件を暗示していた‥‥。
「はい、ごー、よん、さん、‥‥」
「はい! 今日はワンワンキャッスルさんに来ています! 店長さん、今日はよろしくお願いしまーす!」
ジーナのカウントを合図に、舞尾によるレポートが始まる。夜刀彦によるカメラもびしっと店長と舞尾の二人を収める。
「今人気のワンちゃんやネコちゃんって〜」
「今はベドリントン・テリアとラパーマですかね〜」
ロケは続く。段取りしておいた通りに進行していく。事前に作っておいたフリップもバッチリである。
「うわぁ〜、かわいい〜」
カメラの夜刀彦によるアドリブ発言も上手く決まり、ジーナの手持ちライトによってカメラ写りも良い感じ。
「はうう〜‥‥、か、可愛いです‥‥っ」
もふもふ。
「ほ、本当にかわいいです‥‥」
もふもふもふもふ。
舞尾が犬や猫、ハムスターなどをモフモフし、そこに夜刀彦が合いの手を入れる。もふもふ。
「それじゃあ、ちょっと休憩だわぁ」
休憩とは言え、やらなければならないことは沢山ある。夜刀彦は動物単体の撮影に行っているし、舞尾は先ほどのモフモフを想い出しつつ、ペットの飼い方など、お伝えしなければならないことを確認している。
「あぁらv立派な蛇ちゃんだわぁv」
次の撮影の打ち合わせをするジーナの目の前には、立派な蛇ちゃん。
「あ、分かります? おすすめしてるんですよ、蛇。飼うのに最適ですからね」
爬虫類好きなジーナと意気投合する店長さん。次に紹介するペットを用意しつつ、その口元には何か、いたずらを仕組んでいる小学生のようなにやっとした笑顔が浮かんでいた。
●そろそろリアクションが欲しい
「じゃあ休憩明けますぅ」
休憩中、「そ、そんなに撫でろオーラを出されたら‥‥逆らうなんてできません〜」とか言いながらずっとモフモフしていた舞尾も、カメラに興味を持って近づいて鼻コツンとなるワンちゃんなど、視聴者が「きゃーv」となる画像を撮っていた夜刀彦も、顔を引き締めスタンバイ。
「はい、それでは次のペットは、こちらです!」
ケージにはなぜか布がかけてあり、その中をうかがい知ることは出来ない。
「さぁ、次のペットちゃんはこちらです!」
最初の打ち合わせ通り、かけられた布をめくり、ケージの中をカメラさんに見せ「きゃああぁぁあああぁあ!」
布を開けるところまでは打ち合わせ通り。その中には。
「へ、へへへ蛇! 蛇! へびぃぃぃぃ!」
「え? え? ココ、大きめの犬じゃなかったの? 蛇? 蛇?」
スタッフ一同(店長とジーナ)は少々笑みを浮かべつつ、店長登場。
「このリコリスブラックラットスネークはですね、初心者の方にとってすごく飼いやすいペットのひとつなんですよ〜。これぐらいのケージを用意してあげれば良いんですから」
意気揚々と説明する店長。ココまでの比では無いぐらいのテンションである。
「ちょっと、その蛇ちゃん触ってみましょうかねぇ?」
ジーナのその一言に一瞬だけではあるが固まるレポーター。
「へ、へへへ平気ですよ? 目とか可愛‥‥ああぁ這うのはやっぱり駄目ええぇ‥‥!」(ぞわわわわ!)
手が触れるのかどうかのギリギリのライン。ケージに手を入れ、触るか、触るか、触るか‥‥ と言うところで手を引っ込める。カメラさんは横で「おいしそー」とか言っていたりする。まさに四面楚歌、である。テレビ的には、「オイシイ」と言う。いろんな意味で夜刀彦の言っていることは正しい。
とりあえずケージを開けて、蛇を出してあげる店長。テレビでよく見る、「美少女アイドル、もしくは若手芸人が肩に蛇を巻いてなんかマフラー的な感じにする」やつの撮影である。
やばいです! これはやばいです! と言いながら、その蛇を受け入れようとしつつ、かといってその受け入れる勇気も無く、ダメですムリです出来ないです! と言って聞かない。
「じゃあ、私がやりましょうかぁ?」
「俺がやりましょうか?」
「じ、じゃあ、わ、私が‥‥」
「「どうぞどうぞ!」」
俗に言う某芸人的なお約束である。このお約束は譲れない。
「こ、これ本当に大丈‥‥はに゛ゃーっ!?」
背後からこっそりと。かといって、確実に。
その店長の腕には件のリコリスブラックラットスネークが、しっかりと。そのぬるっとした感触と、ひやっとした冷たさを受け、ひゃ、と腰を抜かす。その腕からするりとレポーターの肩に乗った蛇ちゃんはそのままスルッとその体を這って地面へ無事着地、直ぐにそばにあった池に向かって一直線。
攻撃性が低いとはいえ、触り慣れていない個体だったら急に触られると噛まれることもあるというリコリスブラックラットスネークが、噛まずに這って逃げていくことを考えると、きちんと調教されているしっかりした蛇だったのだろう。ココまでしつけられる蛇は、なかなかいない。
「な、ななな慣れたらか、かかかわいいモノででですねねね!」
若干声が震えながらも、少しは慣れてきたのか、はに゛ゃーっ!? もなく何とか肩にリコちゃん(先ほど命名)を肩に乗せている。
「どーです、かわいいでしょ?」
「は、はいぃ‥‥」
「アナコンダとか素敵よねぇvでも最近は大きくなったからって飼えなくなったペットを捨てる人がいるでしょう?引き取り手を募集するなり、何処かに相談するなりするべきだと思うのだけれど‥‥」
ジーナの寂しげな言葉がきこえてくる。
「そうなんですよねぇ‥‥ 野生化しちゃうとイロイロ問題があるから、せめて相談して欲しいんだけどねぇ‥‥。可哀想じゃないですか、蛇が」
しんみり。ペットも、同じ家族。しかし、その家族を捨ててしまう人間がいることも事実。ちょっと、この気持ちが、みんなに伝われば、と思う一同であった。
「素晴らしい鷹ですね」
次のペット、鷹に食いついたのは夜刀彦。失った里では鷹は連絡に必要な相棒だったこともあり、懐かしさが胸を打つ。その鷹の目や翼も素晴らしく、しつけも、手入れも完璧であることに感動していた。
「はい、じゃあこれで終わりねぇ」
ジーナの一言に、全員の緊張がふっと抜ける。専門用語でクランクアップ。店長など、協力してもらった方々への挨拶回りもすませ、さぁ撤収だと言うその時に。
「はぁ〜、モフモフですぅ〜」
「もふもふーv」
モフモフモフモフ。
モフモフ引力が、舞尾と夜刀彦を引きつけて放さない。
「あぁ〜、もう、かわいいわねぇ〜♪」
そして、そのモフモフ引力で引きつけられた二人に引きつけられていくジーナであった‥‥。
●メイドになる瞬間に
「えーっと、君たちが今日の体験入店の娘達ね?」
ここは@メイド事務室。店長と最初の打ち合わせである。
「連絡もらった服装は用意してあるからね。服を着るのは‥‥?」
あ、私です、とハイハーイるっちょデスー! と、月臣 朔羅(
ja0820)とフェルルッチョ・ヴォルペ(
ja9326)は答える。
「はい、了解。でも、君たちみんなかわいいよねー。そこのカメラ構えてる娘も、うちでバイトして欲しいぐらいだよー」
撮影前の練習としてカメラを回していた藍 星露(
ja5127)の顔が少し赤くなったような気がしたのは気のせいだろうか。
「よし、じゃ、女子更衣室はこっち、男子はこっちね。じゃ、また後ほど」
「ハイ、ゴー、ヨン、サン、‥‥ ‥‥」
「私は今、@メイドさんに来ております! 今日は1日メイドさんとして、ご奉仕していきたいと思います!」
フレンチメイド姿の朔羅と、執事姿のヴォルペ。そして星露がその様子をカメラに収めている。言うべきことは言いつつ、ご主人様への給仕は忘れない。このメイド、ノリノリである。
「このお店では、メイドさんが入れる紅茶とケチャップで何か書いてくれるオムライスが人気で‥‥ あ、いらっしゃいませ、御主人様♪」
‥‥本当に、このメイドノリノリである。
「いやー、イイヨイイヨー! かわいいヨー!」
ライト片手に、ヴォルペも乗っかっていく。カンペも出しつつ、ライトでカメラ写りも確かめるこの姿、見た目によらず敏腕なのかも知れない。
「あー、撮影してるからカメラの前来ないでねー 来ないでねー!」
こういうロケ、さらにメイド喫茶という場所と言うことも考えると野次馬が来てしまうのは仕方がないことと言えば仕方がないこと。本当は人払いのスタッフがいればよいのだが、今回は本当に最低限の人間しかいないため、そういうスタッフもいない。念のためアウトローをつかっておいたのだが、それでもこういう野次馬が来てしまうのはしょうがない。
「撮影してるって言ってるでしょうがぁ!」
そういうときは実力行使に限る。咆哮一発、野次馬は蜘蛛の子を散らすように逃げていく。さすがである。
「それでは、ごゆるりとお寛ぎ下さいませ」
先ほどのフレンチメイドから、某中学生メイド的な、この人が私のご主人様です、と主張したくなるようなメイド服に身を纏い、接客を続けていた朔羅。そのナイスバディ故にこういう露出が多めのメイド服もバッチリと着こなすことが出来るのである。
「こんこんるっちょ♪ いらっしゃいませ♪ ご主人様達♪」
先ほどと違うのは、ヴォルペが執事として映る側に来たぐらいであろう。しかし、朔羅も事前に喜ばれる接客というモノを学んでいるらしく、接客もカンペ「ねぇねぇ、君新人?」「へー、体験なんだー! ここ、すごく良いよね!」「君指名しても良いかな?」「え、ええとええと‥‥」ちょっといじられているとき以外は完璧である。ちなみに、このとき星露は熱心に実況してました。
●お披露目
ちょいちょい。
ちょいちょいちょいちょい。
店長の手招きに、お店にいるメイドさん達(含む執事)が集結、一時撤退する。さぁ、ショータイムである。
ステージを照らす一筋のスポットライト。そのライトの照らす先には。
「こんこんるっちょ♪体験執事のるっちょさんだョ♪ご主人様達、盛り上がっていこうネv」
一人の体験執事が前口上をつとめる。まさか体験スタッフに前口上をさせるか、とも思ったが、一目見て彼なら出来る、と踏んだらしい。
大判スカーフを取り出し、自分の左、ステージを隠すように揺らす。
「じゃーん! 冥土さん達のご登場だョ♪」
その一言とほぼ同時。スカーフを上に放り投げると、ステージ上には、喪服に模した和服に着替えたメイドさん達。そう、今日はイベント「冥土喫茶」のお披露目だったのである。
先ほどの明るめの、しかしそれでいて落ち着いた感じの店内から一転、ほの暗く、純和風な空気が店内を包む。メイドさん達が、うらめしや〜 と自分たちが着ている喪服風の和服を披露していく。ちなみに、朔羅はステージ裏で「流石に、着崩すのは拙いわよね?」と言っていたのはナイショである。
「メイドと冥土を掛けて、それをイベントとして実際にやってしまうだなんて。中々に思い切った、ユーモアのある店長さんね」
朔羅も感心しきりである。ちなみに今は、ショーの休憩時間、ヴォルペによるマジックショーをやっている。野郎がステージにいても受けるのはそのマジックがすごいからであろう。
「朔羅ちゃん、最後のお仕事、お願いね!」
と言う店長、そしてメイドさん達と共に、最後の『ビンゴ大会』を行うため、ステージへ向かったのであった。
「良く頑張りました、御主人様。これは御褒美よ?」
ステージ上では、ビンゴになったご主人様の頬にキスをしようとしている。
どうするべきか。カメラをする、となったときに考えていたこと。
『メイド姿の月臣さんたちを撮る時、ローアングルからの映像もあった方がいいかしら?』
やはり、そういう映像が受けるのではないだろうか。しかも、今はステージにいるわけだから、ローアングルから撮りやすくはなっている。ローアングラー歓喜の状況だ。
「‥‥やめやめ。あたしのキャラじゃないわ」
キャラじゃないし、必要ないだろう。そういうのを伝えたいんじゃないんだもの‥‥。
●編集、その後
「‥‥や、やっと出来た‥‥」
高瀬光は、そう独りごちた。放送当日、ケーブルテレビ局の編集室。何時間にも及ぶテープを編集し、10分程度のVにしていく。切っては貼り、切っては貼りを繰り返し、テロップを入れていく。しかし、ドコを切ろうかなかなか決まらない。それだけ映像が素晴らしい。どの映像も、生き生きとしているし、頑張って撮ってあるのがよく分かる。編集になれている光をして「使えない部分がない、どの部分をカットするのも惜しい、むしろそのまま2時間番組で使おう」とまで思わせてしまうクオリティである。それを泣く泣く切って10分にまとめたのである。ちなみに貫徹である。
そういえば、カメラを受け取ったときに朔羅から聞かれたこと。
「そういえば。謎のオフ会って、結局は何だったのかしら」
ふふ、と笑いながら「まぁ、謎って言ってるんだから謎のままにしておいた方が良いんじゃない?」とは言っておいたのだが。まぁ、次の仕事もあるし、彼らには一度連絡を取っておいても良いかもな、と思いつつ、完パケしたVを持って光は放送中のスタジオへ向かうのだった。