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マスター:追掛二兎
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2013/01/15


みんなの思い出



オープニング

※このシナリオは初夢シナリオです。オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。


 その少年は山間の町に住んでいた。小さな町だが、人望ある町長の下よくまとまっており、町民同士仲が良かった。
 町民は滅多なことで町を出ることもなく、閉鎖的な環境でもあった。外への憧れというものがあまりないのかもしれない。
 山には様々な動物が住んでいるが、町へ迷い込んでくるということはないようであった。だから少年は、動物との触れ合いを求めて度々山へと入っていたのである。
 少年には友達がいた。山に住む野兎だ。小さな巣穴に一羽で暮らしている。どうも家族はいないらしい。
「やあ、今日も元気みたいだね。実はね、今日はとってもいい日なんだ。キミを飼ってもいいって、お父さんが言ってくれたんだよ。だから一緒に行こうよ」
 いつものように巣穴を覗いた少年は手を伸ばし、野兎を抱き上げる。
 野兎は鼻をひくひくとさせ、喜んでいるのか、そうでないのか、よくは分からない。恐らくは少年の言っていることを理解していないのだろう。
 しかし野兎の鼻の動きを肯定に見立てた少年は一つ笑むと、山を降りて町の方へと向かった。
 その時に出会ったのが、町長である。何かの用事なのか、休暇か何かで出かけているのか、ともかく、町を出てすぐのところに、一人でいた。
「あ、町長さん」
「どうしたんだい、その兎は」
「今日から、ボクの家族になるんだ! 今まで山で暮らしていたんだよ」
 少年の言葉を聞いた町長は、すぐさま顔色を変えた。
「なんだって、野生の? それはいけない」
「どうして?」
「どうしてもだ。さっさと返してきなさい」
「でもお父さんは飼ってもいいって」
「お父さんがいいと言っても、町長である私がダメだと言うんだ」
 この町長、少年のためだとか兎のためだとか、そういったことを考えたのではなかった。
 あまり知られてはいないが、町長は大の動物嫌いである。潔癖症でもあるようで、野生の動物が町へ入ることも極端に嫌う。家畜や既に人が飼っているペットには何も言えないが、野生の動物は片っ端から処分しなければ気が済まない気性の荒さも備えていた。
 腹の底の黒さを備え、しかし彼は人望があった。何故か。それは、実はこうして町を出た時に見かけた野生動物を適当な理由で害獣とし、早期討伐に乗り出すといったことであたかも町を守っているように装い、英雄を演出しているためである。もちろん、事実を知る者はいない。
「いいからよこしなさい」
「さっきは返してこいって言ったじゃないか!」
「とにかくよこすんだッ」
「い、嫌だ……、嫌だ!」
 無理矢理にでも兎を奪おうとしたところで、少年は逃げ出した。兎を抱えて駆け出した。
 育ち盛りの少年に追いつけるほどの体力は、町長にはない。いや、追いかける必要はなかった。
 少年が逃げた方向を確認した町長は、足早に町へと退き返した。


「本当なのですか、町長」
「ああ、まったく、凶暴な兎だよ。見てくれないか、噛まれた痕さ」
 集会場に若者を数人集めた町長は、己の手を示して見せた。
 親指の付け根辺りに刺し傷のようなものがある。町長はこれを兎に噛まれた痕だと言うが、その実、ノミを使って自らつけたものである。
「兎にこんな力があるなんて」
「とにかく、山に入った者がこの兎に手を伸ばして、こんな風に噛まれたら大変だ。すぐに駆除せねばならない」
「そ、そうですね、危ないですし、しょうがないですね」
 町長の言葉に頷いた若者たちは、その手の猟銃をカチリと鳴らした。


「いいかい、ここに隠れているんだよ。町長さんに見つかったら、酷いことをされてしまうかもしれないから。お父さんが言ってたんだ、風と、雲と、太陽にも心があって、友達を守るために人は生まれることを教えてくれたって。だから、ボクはキミを守るよ。絶対に」
 兎を巣穴に押し込んだ少年は口早にそれを告げ、その場を去ろうと立ち上がり、振り向いた。
 ……が、遅かった。そこには町長率いる町の若い衆が猟銃を手にやってきていたのだ。
 この様子を見れば、彼らにはその巣穴に兎がいるのだとすぐに予測できた。
「そこに兎がいるのだろう?」
「い、いないよ!」
「嘘をつくな。ほら、穴から出てきたぞ」
 町長の言葉に、驚いた少年が巣穴を振り向く。……が、そこに兎の姿はない。
 騙されたのだ。
 少年は振り向いてしまった。兎の姿はそこに見えなくとも、これは確証を得るのに十分である。
「やはりそこにいるのだな。さぁどきなさい」
「ち、違う、ここにはいないんだ、本当だよ!」
 しかし少年の言葉は無力。にじり寄る町長たちを押しとどめることはできない。
 自棄になった少年は、奇声を上げて町長へと飛びかかった。友達を守るために。
 丁度その時。兎がひょっこりと顔を出した。穴でじっとしていたくとも、外が騒がしすぎたためだろう。
「逃げて、早く、早く逃げて!」
 少年が叫ぶ。が、兎は逃げるどころか、銃を持った若者の足に体当たりをかました。
 意外に重量のあるそれが衝突した勢いに負けて、若者が倒れる。
「この、観念しろ!」
「だ、駄目だ!」
 他の若者が兎に銃を向け、引き金を引き絞る。
 町長を蹴り飛ばす勢いで、少年が駆ける。
 若者と、兎。その間に、少年が割って入った。放たれた銃弾が、少年を撃ち抜く。
「あッ!?」
 驚いたのは、銃を撃った若者の方だった。少年がこのような行動に出るとは思っていなかったのである。
 撃たれた少年はどうと倒れ込む。言葉も、呼吸もない。即死とも言えた。
 兎が鼻をひくひくさせ、少年に歩み寄る。
 動揺する若い衆は、町長を残して逃げ去ってしまった。少年を撃ち殺したという事実から逃避するように。
 少年の死を理解したらしいその兎は、町長を見据えた。
 オマエノセイダナ。
 町長には、兎がそう言ったように思えた。
 そして瞬きした次の瞬間。兎は二本の足で立ち上がり、むくむくと膨れ上がっていく。
「な、何だ、何が、何だ!?」
 巨大化。少年よりも、町長よりも、周囲の樹木よりも遥かに高く。都心のビルほどの大きさにまで膨れ上がった。
 化け物。そんな言葉が、町長の脳裏に過る。
「た、たたた、た、助けてくれぇーッ!」


 Worm and Alien Destroyer――WADとは、人知を超えた何かしらの存在が人類に牙を向いた際に対処するため組織されたものである。分かりやすく言えば、例えば怪獣が現れたりした時にその討伐を担う組織だ。なんだか突拍子もないような話に思えるかもしれないが、実際には怪獣関連の情報がもみ消されているだけで、過去には既にいくつかの実績がある。
 日本のベースで情報整理をしていたオペレーターが入った連絡を読み上げる。
「S町に怪獣出現。巨大な黒い兎の姿、そしてその鳴き声と思われるものから、以後本怪獣をニットンと呼称、至急討伐に当たられたし」
 これに待機していた隊員たちが一斉に敬礼し、駆け出す。
 久遠怪獣ニットン。これを倒すことが、今回の任務だ。


リプレイ本文


「こちらイーグル13号。目標を捕捉しました」
「FFFも同様、間もなく射程に入ります」
 S町付近に突如出現した怪獣ニットンを退治すべく出撃したWADの隊員坂本 小白(jb2278)とファング・クラウド(ja7828)が報告を入れる。
 戦闘機を駆る二人が他の隊員より早く接敵し、攻撃態勢へと映った。これ以上あの怪物を町へ近づけるわけにはいかない。
「クオンホーク、僚機の援護に入ります」
 その後ろを飛ぶ鳳 静矢(ja3856)は小白とファングのサポートに就く。
 現在、急ピッチで対巨大生物兵器の開発が進められている。完成の目途は立っているとのことだから、今はとにかく時間を稼ぐしかない。

 一方で、陸上から攻める者もあった。
 戦車を持ち出したルーガ・スレイアー(jb2600)は、一目散にニットンへと向かう……かと思いきや、山間に停止してスマホをいじっていた。
 アプリを起動し、戦車に備えつけられたカメラと接続する。
 上手くアプリが動作していることを確認するとまたスマホを操作し、今度は文字を入力してゆく。
『【ゆるぼ】怪獣の倒し方求む!やばいなう(;・∀・)【拡散希望】』
 某ミニブログに彼女が投稿した呟きである。
 ルーガが行っていた操作は、インターネットを利用して映像を生放送するサイトへの接続である。その上で、放送サイトに備え付けられたミニブログでのコメント機能でニットン討伐の策を募ろうというのだ。
 ちなみに、寄せられた意見は以下の通りである。
『それを考えるのがWADの仕事じゃないのかw』
「あれは、何をしているんだろうな」
「いつものことだ。気にするな」
 青戸誠士郎(ja0994)が呟けば、アリシア・タガート(jb1027)が嘆息する。
 二人が搭乗するのはジープ型特殊車両のディフェンダー。ミサイルなどを積んだ車である。
 それに併走するのは十一式自走式多連装噴進砲。操縦者は御幸浜 霧(ja0751)だ。
「あれであの黒兎を倒せるのでしょうか」
「いやいやいや、巨大すぎるし、キツいでしょ」
 ルーネ(ja3012)が肩を竦めた。彼女が跨るのはバイク。武器は手持ちの光線銃だ。
 相手は40mを越える巨体。いくら世間のアイデアを募っても、果たして倒せるかどうか。
 ……いや。考えてみれば、いかに巨大といえど相手は生物だ。人間が拳銃の弾丸で殺傷できるのであれば、それより巨大なロケット弾やミサイルが効かないわけがない。
「と考えれば、簡単な気もするな」
 誠士郎が口にする。なるほど、と周囲は頷いたが、そう上手くいくだろうか。


 行動は戦闘機の方が早い。
 前を飛ぶイーグル13号が、備えつきのレーザーを発射。凝縮した光による攻撃は、相手を怯ませるのに有効なはずだ。――が。
「う、うそっ」
 小白は身を乗り出した。
 光が届いたかに見えた瞬間、ニットンの周囲に光の壁が出現。レーザーを消滅させてしまったのである。
「それならこっちだ!」
 ファングは熱線――ビームを放つ。
 光が駄目なら熱はどうだ、という算段であったが、結果は同じ。光の壁に阻まれてしまう。
「ダメです! 強力なバリアーのようなものによって、攻撃が弾かれてしまいます!」
 急旋回してニットンから距離をとりつつ、小白が悲鳴のような声を上げる。
「これじゃあ近づけないな」
「ええ、もふもふすることができません!」
「……は?」
「あ、いや……」
 それにファングが呟けば、小白が胸の奥に隠していた言葉をポロリと出してしまう。彼女の駆るイーグル13号のコクピットには、ファンシーなぬいぐるみがところせましと並べられていることは誰にも内緒である。
 ニットンはその隙に動いた。顔面中央に赤い光が収束したかと思うと、そこから火球を発したのである。
 小白、ファングはこれを回避。だが、その後方に位置していた静矢は――。
「くっ……しまった! コントロール不能、コントロール不能!」
 左翼を蒸発させられ、墜ちた。

「クオンホークがっ! チッ、誠士郎、もっとスピード出ないのか!」
「これ以上接近したら蹴飛ばされる」
「構わない、やれ!」
「俺の愛車だ!」
「支給品だろ!」
 空の抑止力が減ったことで、地上の戦力は一層激しく攻撃せねばならない。
 アリシアは運転手の誠士郎に向けて声を荒げ、機関銃を撃ち続ける。
 弾丸はニットンへ届いている。が、距離が遠くてなかなか威力を発揮できずにいた。
 しかし敵は巨大故に歩幅が大きい。下手に近づこうものなら蹴飛ばされ、踏み潰され……。誠士郎も生きている限りはそんな目に遭いたくない。とはいえ、近づかねば有効打は与えられない。
 二人の問答を止めたのは、誠士郎の嫁たるルーネであった。
「だったら私が先に行く」
「それはいけない。ええい、ままよ!」
 共に接近して攻撃しようと考えていた彼女だったが、誠士郎とアリシアのやりとりに決着がつかなかったため、単独で接近しようとしたのだ。
 大事な嫁にそんなことをさせるわけにはいかない。誠士郎が大きくハンドルを切ろうとした、その時だ。
「こちらも参りますよ。噴進弾発射!」
 先に攻撃をしかけたのは霧であった。噴進弾――即ちロケット弾は機銃より威力も射程もある。光線も熱線も光の壁に弾かれたが、機銃の攻撃は届いていた。実弾武器ならば……。
 着弾。一瞬ニットンの動きが止まったように見えた。
 有効だ! そう感じたルーガがニタリと笑む。ミニブログに『戦車で出撃なう(`・ω・)』とエントリーして全速前進。
 この勇壮な光景をネット回線に乗せ、リスナーへお届けしようと思った。
 ニットンは一度立ち止まり、足元に目を向ける。そして足を上げ、そこにあった戦車を踏みつけた。
 ロケットが効いたのではない。大きなものがぶつかり、ようやく地上に注意が向いただけだったのである。
 間一髪、ルーガは脱出。彼女は即座に『戦車ぺたんこなう(´;ω;`)』とミニブログにエントリーした。
 以下はその呟きへの反応である。
『ざまぁw』


 撃墜された静矢に大事はなく、大破したクオンホークからようやく這い出していた。見上げればニットンが地上から空から攻撃を受けているが、それらを全くものともしていないようだ。
 まだ戦う力は残されている。
 戦闘服の内側から棒状の何かを取り出した彼は、それを高々と掲げた。
 陽光に反射してキラリと光る棒。だがそれだけで、何も起こらない。
 不思議に思った静矢が手にしたものをよくよく確認してみる。棒状のそれは、ナイフだった。
「ま、間違えた!」
 出撃直前は愛する人が作ってくれたステーキを食べようとしていたところであった。一口も食べることなく出撃してしまったが、慌てていたためかナイフを持ってきてしまったようである。
 スッとナイフを投げ捨て、今度こそ。懐中電灯のようなものを取り出し、空に掲げる。
 すると静矢の体を光が包む。それは次第に膨張し、ついにはニットンと同程度の大きさにまでなった。
 光の中から現れたのは、紫の体色をした巨人だ。
「来たのね、シズトラマン!」
 小白が歓声を上げる。
 説明するまでもあるまい。久遠の巨人シズトラマンとは、人類に害を及ぼす巨大な怪物を退治してくれる謎のヒーローである!
 「シズトラマンを援護だ!」
 特殊機能メテオリグを起動したファングがニットンを再ロックする。各部ブースター、スラスターに出力を集中させ機動力を極限まで高める機能がメテオリグだ。
 分身でも残りそうなほどに派手な軌道でニットンへ迫るファング。この動きこそがFFFの真骨頂である。
 ニットンが火球を撒き散らす。が、それが撃ち抜くのは残像ばかりでFFFを捉えるには至らない。
 その隙にシズトラマンがニットンへ飛びかかる。チョップを繰り出すような攻撃は、しかし、ニットンに軽くあしらわれてしまった。
 これしきで怯んではいられない。
「デュワッ!」
 再び組みつき、FFFが攻撃されないようにと注意を引きにかかった。
「シズトラマンが!」
 小白はミサイルを発射。近距離に寄ってからの攻撃ならば、多少なりとも効果があるだろうと信じて。
 が、着弾してもニットンは微動だにしない。
「怪獣ごときが現代兵器舐めんなよ、ウーラーッ!」
 地上ではアリシアがロケットを放ち、霧もどんどん攻撃をしかけていく。
「よぉし、私も」
 ホルダーからデコンポーザー(光線銃)を取り出し、ガンマンよろしくトリガー部分に指をかけてくるりと回すルーネ。が、回した時にうっかりとトリガーに力が加わってしまい、あらぬ方向へ光線が放たれてしまった。
 着弾箇所は――。
「ぬぁっ!? こ、殺す気かっ!?」
「ごめんごめん、つい……」
「ごめんでは済まされないぞ」
 誠士郎とアリシアの乗るディフェンダー、前輪スレスレのところに光が炸裂した。幸いにして被害はなかったが、何とも心臓に悪い。
 思わず誠士郎が怒声を上げるのも無理はないが……。
「何よ、謝ってるじゃない」
「謝り方に誠意がない」
「ハイハイドーモスミマセンデシタ」
「な――っ!」
「誠士郎、いいから運転に集中しろ!」
「ルーネさんも落ち着いて……」
『痴話喧嘩勃発なう_(:3」∠)_』
 二人の喧嘩にアリシアと霧が止めに入り、地上はしっちゃかめっちゃかだ。
 その騒ぎがニットンの耳に届いたのかどうかは謎だが、その黒兎はシズトラマンを押し返して足を上げた。
「逃げろ誠士郎、来るぞ!」
「うぉっ!?」
 アリシアと誠士郎がディフェンダーを飛び降りる。直後車両はニットンによってペチャンコにされてしまった。
「俺の愛車が!」
「だから支給品だろう!」
 悲鳴を上げる誠士郎にアリシアがツッコミ。
 ルーネはニタニタと笑み、霧はやれやれと肩を竦める。
「とにかく、可能な限り攻撃を」
「ふん、見てなさいよ……!」
 霧が残弾数を気にしながらロケットを撃ち、ルーネがバイクを加速させてニットンへ近づいてゆく。
 しかし地上の脅威が減ったと見たニットンは気にすることなく前進。
「うわっ、とと」
 その時、ルーネのバイクが蹴飛ばされかけた。バランスを崩した彼女はバイクを大きく旋回させて態勢を立て直し、安全のために一度停止する。
 これに怒ったのは、誠士郎であった。
「霧、乗せてくれ!」
「はい? え、ええ、後ろが空いてるので」
「よし!」
 霧の車両に乗り込んだ誠士郎は、緊急自衛用のミニガンを可能な限り連射してゆく。
「人の嫁に何すんじゃゴルァー!」
 ……何だかんだ嫁命である。
 一方で、アリシアの方ではある通信を受けていた。
「了解、指定ポイントに向かう」
 彼女はニットンへ一瞥くれてやると、そのまま駆けていった。
 空の戦いも激化していた。
 小白もファングも勢いを失い、時折向かってくる火球をかわすことで手いっぱいになっていたのである。今頼れるのはシズトラマンしかいない。
(何故お前は暴れるのだ?)
 そのシズトラマンは、何度もニットンへ組みつきながらこう問いかけていた。
 互いに人知を超えた存在同士、意思疎通が可能かもしれない、との考えだ。
 ニットンに声が届いたかどうかは分からない。だが、答えは返ってくる。
(トモダチ)
 とだけ。
(友達とは誰だ?)
(トモダチ……)
 こうしたやりとりは、人間には以下のように聞こえる。
「デュワ、ヘァッ!」
「ニットォン……ピポポポポポ」
 つまり、人間にやりとりの内容は分からない。
 スマホを取り出したルーガはこうミニブログにエントリーした。
『シズトラマンと怪獣が会話してるなう。日本語でおk( ^ω^)』
 そんな彼女は、車両についていくのでやっと。時々攻撃しては、自分が狙われないよう姿を隠す。その連続であった。
 シズトラマンの方はというと、ニットンからそれ以上の言葉を引き出せないと見ると攻撃を開始した。
 何か理由があるのは間違いない。だが、だからといって放置することもできない。……倒すしかないのだ。
 腕を掲げれば、前腕に光が集中する。
「引き裂き光刃だ!」
 ファングが喜声を上げた。
 振るわれた腕から、光の刃が飛ぶ。これまで怪獣の尻尾を切断するなど数々の場面で活躍してきたシズトラマンの必殺技が、引き裂き光刃である。
 だが、この引き裂き光刃でさえ、ニットンの光の壁に弾かれてしまった。
「そんな、あの技でさえも! ……と、とにかく援護を!」
 これに絶望しかけた霧が、震える手でロケットを放つ。が、誘導性がないロケットは狙いを逸れ、山の方へと飛んだ。
 瞬間。ニットンの姿が消えた。
「迷彩!? まさか……」
 霧が驚きを口にする。が、そうではないと直後に知るのだ。
 消えたニットンが出現。ロケット弾の飛ぶ方へ。
 砲弾をその身に受けたニットンが、霧を見下ろす。
「自分から当たりに? どういうことでしょう」
 疑問に答えを出す時間はない。ニットンが霧に向かって火球を発射したのだ。
 動けない。思わず手で顔を覆う霧。直後に車両は爆散した。
 ……が。
「あれ、生きて……」
 車両の壊れる音は聞こえた。だが、生きている。恐る恐る霧が目を開けると、その眼前に小さなケースが突き出された。
「頼む、これ……を」
 ハッとして顔を上げる。そこには、煤だらけになったアリシアの顔があった。
「これは……?」
「完成した、パラ……」
「アリシアさん? アリシアさん!」
 彼女はそのまま力尽きた。火球の衝撃から霧の盾となったためだろう。その身を焼かれた彼女は、もう二度と動かない。
 揺すっても、叩いても。
「嘘ですよ、アリシアさん、アリシアさん!」
「全く、無茶をする」
 その手からケースを拾い上げたルーガが、中の弾丸を銃にセットする。そして通信機を起動した。
「奴の動きを止めましょう」
「了解です。やりますよ」
 連絡を受けたファングと小白がありったけの攻撃を繰り出す。とにかく届いたばかりのパラソルロケットを当てればニットンを倒せる。
 それは、どうやらシズトラマンにも伝わったようである。ニットンの背後を取った彼が、黒兎を羽交い締めにする。
 動きが止まった。
「SAYONARA NITTON!!」
 ルーガの放ったパラソルロケットが、ニットンに命中。黒兎はそのまま宙に浮き上がり、そして爆散した。


 シズトラマンは、最後にニットンの立っていた位置付近に少年が倒れているのを見つけ、黒兎の言葉を胸中に呼び起こす。
 トモダチ。友達とは、この少年のことではなかったのだろうか、と。
(私の寿命は長い…この子に少し分け与えてあげよう)
 シズトラマンは奇跡の巨人。己の命を少し分けてやることは難しいことではなかった。
 光が少年に宿る。WADがニットンと戦った、その情報と共に彼は蘇った。
 ゆっくりと目を開ける。見上げるほどの巨人が、そこにいた。
 あの兎は自分のために戦いそして死んだ。頭に流れてくる情報に、少年の悲しみが目元から溢れてくる。
 立ち上がる。何に怒れば良いのか、どこにぶつければ分からない。
 少年はど声を上げて、ひたすら泣いた。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 撃退士・鳳 静矢(ja3856)
 駆逐されそう。なう・ルーガ・スレイアー(jb2600)
重体: −
面白かった!:6人

意外と大きい・
御幸浜 霧(ja0751)

大学部4年263組 女 アストラルヴァンガード
ルーネの花婿・
青戸誠士郎(ja0994)

大学部4年47組 男 バハムートテイマー
誠士郎の花嫁・
青戸ルーネ(ja3012)

大学部4年21組 女 ルインズブレイド
撃退士・
鳳 静矢(ja3856)

卒業 男 ルインズブレイド
特務大佐・
ファング・CEフィールド(ja7828)

大学部4年2組 男 阿修羅
大虎撃破・
アリシア・タガート(jb1027)

大学部6年37組 女 インフィルトレイター
ドリームガーディアン・
坂本 小白(jb2278)

大学部1年137組 女 バハムートテイマー
駆逐されそう。なう・
ルーガ・スレイアー(jb2600)

大学部6年174組 女 ルインズブレイド