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「私ね……」
久遠珍獣ジャックニットンが現れた現場へ向かいながら、ゲルダ グリューニング(
jb7318)は静かに口を開いた。
輸送車の中、メンバー達は神妙な顔つきで彼女に目を向ける。
「この戦いが終わったら幼馴染に告白するんだ……」
「それは素敵だね〜」
決意を口にするゲルダに、星杜 焔(
ja5378)は小さく拍手。
何かを背負って戦うことは、悪くない。
焔は荷物を漁り、缶詰を一つ取り出した。
「力をつけないとね〜。ステーキレーションをおたべ〜」
「いいんですか?」
にこりと笑んだ焔から、ゲルダはおずおずとレーションを受け取る。
蓋を開ければ、見てくれこそ美しいとはいえないが、確かな肉の香りがした。
フォークを取り出し、サクリと刺したその時だった。
「着いたわよ。降りなさい」
「あぁっ、私のステーキがぁ〜!」
輸送車は現場へ到着。田村 ケイ(
ja0582)が慌ただしく下車するよう促した。
折角もらったステーキレーション。しかし、ゲルダは口にすることは叶わなかったのである。
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O村の住民避難は済んでいない。というより、逃げ場がないのだ。
テレビもなく、ラジオもなく、車もそれほど走っていない村民が徒歩で山を越え、隣町へと逃げるには無理がある。
この山間部に位置する村を救うべく訪れたのが、WADの隊員たちであった。
「ジャックニットンの侵攻ルート割り出し。地雷設置を急いで」
山の上に見えるニットンの影。その足取りを見ながら、ケイは地雷設置を指示しながら輸送車から中型バイクに跨り飛び出した。
これを受け、エルレーン・バルハザード(
ja0889)は走る。
「ただちにせっちに向かいますなのっ!」
「ふふふ……地雷術師の私に、地雷を持たせたのがジャックニットンの敗因です」
同時にゲルダも走った。地雷と名のつくものに関する扱いに長ける彼女は、ステーキレーションを食べれなかった鬱憤を晴らすかのようにあらゆる場所へと地雷を撒きまくった。
一方で、雁久良 霧依(
jb0827)は冷静にニットンを観察。保有する能力を割り出しにかかっていた。
彼女が身につける片眼鏡には、相手の力を算出する機能がある。これを用いれば、戦闘を有利に進めることもできよう。
「せ、戦闘力五十三万……!」
どこかで聞いたような数字である。
「ところで、あの子はどうしようかな〜」
焔がいうのは、奥山 文美のことであった。
彼女は一も二もなく、ガトリングを抱えて真っ先にニットンへと突撃していったのだ。命令も何もあったものではない。
「放っておきましょう。時間を稼いでくれるならそれに越したことはないし」
溜め息混じりにケイは口にする。
地雷の設置は、飽く迄予防線に過ぎない。O村にニットンが到達してしまったことを想定しての、最終防衛ラインとしての位置づけなのだ。
山に茂る木々の間から、大量の飴玉が宙を裂く。文美は早速暴れているらしい。
同時に、地雷の設置が完了した。
なんとしても、ニットンを止めねばなるまい。
WAD隊員たちは、一斉に山を駆け登り始めた。
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ガトリングを乱射する文美の脇を抜き去り、最初にニットンの足元へと到達したのはケイであった。
悪路をものともせず走るWADバイクが、他の隊員の誰よりも先に彼女を運んだのだ。
「レッツパーリィー。ヒャッハー特攻だー」
妙に棒読みな台詞を吐きつつ、ケイは敢えてニットンの真下へとバイクを進める。
踏まれる! その瞬間、彼女はバイクを乗り捨てて身を投げた。
珍獣の足がバイクを捉える。
「ニ、トォォン……!」
すると、バイクはおぞましい勢いで爆発。多量のクッキーを撒き散らした。
バイクの荷物入れには、ぎっしりとクッキー地雷が詰め込まれていたのだ。
体勢を崩したニットンが苦悶の声を上げる。
爆風を利用して宙に翻ったケイは、そのままワイヤーを発射。ニットンの腕に巻き付いたそれに身を預け、勢いに任せてニットンの肩へと飛び乗った。
「無茶しますね〜。それじゃあ、俺もいきますか〜」
その様子を目にした焔は、いそいそと白いスーツを身に包んだ。
説明しよう! 星杜隊員は白いシーツを被ることによって飯食えお化けへと変身してしまうのだ!!
しかも今回は特別編、なんとそのまま巨大化してしまうのだ!!
「おかしくえ〜」
何故か武器まで巨大化し、背負っていたバズーカをニットンへと向ける。
発射された巨大な飴玉が、ニットンを正面から襲う。
しかし……。
「ピポポポポ」
着弾寸前、ニットンの全面に光の壁が出現し、一瞬にして飴玉を粉々にしてしまった。
反撃とばかりに、ニットンは口から灼熱の火球を吐き出す。
咄嗟に、焔は巨大クッキー生地を展開。火球を受け止めた。
「おいしく焼けました〜」
するとなんと、生地はこんがりと美味しく焼けたのである。このクッキーは後でスタッフが美味しくいただきました。
が、形成は不利。焔が気を引き、ケイが零距離での射撃でじわりと相手の体力を削るものの、足止めするので手いっぱいだ。
さっと周囲に目を走らせた霧依は、最も大きな木へと駆け寄った。そして背負った水飴放射器を発射してゆく。彼女には策があるのだろう。
「いい加減に止まりなさいって!」
ケイは銃口をニットンほ首に突きつけて飴マシンガンを撃ち放つ。
それを、この珍獣はうるさそうに身震いするのみで先ほどの地雷バイクほどの抑止力にはならなかった。
どちらかといえば、振り落とされないようにしがみつき、射撃の反動にやられないよう姿勢を保つことに意識を注がねばならない。
一方、エルレーンはというと。
「ほらぁ、とっときの見せたげるからぁ」
目標すら定めず飴玉ガトリングを乱射する文美をなだめていた。
相手を攻撃してくれるだけならいいが、味方まで攻撃してしまっては困る。
そこで、エルレーンはとっておきの薄い本をちらつかせ、文美の興味を引こうとしていたのだ。
「いらない! そんなことより、撃っちゃうぞー!」
だが文美は聞きわけなかった。彼女は、あろうことかエルレーンに向けてガトリングを発射する。
慌てて身をかわすエルレーン。
飴玉は、焔の方へと飛んだ。
「もったいな〜い」
胴鍋を取り出した焔は、飛んできた飴玉をその中へと納め、身を防ぐ。
その間、ニットンは歩を進めていた。
そこでようやく、霧依は下準備を終える。
木陰に身を隠し、おもむろに隊員服と下着をずらした。尾てい骨の辺りからは、名状しがたい尻尾が生えている。
そう、彼女は、地球人ではない。
IGEN(逆から読んでみよう)星からやって来た戦闘種族リーク(日本語に訳してみよう)人のプリンセス、戦姫カリグラなのだ!
さらに説明すると、リーク人は尻尾に蓄積したネギミソカエキスを粘膜から吸収すると巨大化できるのだ!
どうするのかって? 言わせるな恥ずかしい。
長ネギの形をした尻尾を取り外し、それをケt……いや、なんでもない。
ともかく! 彼女は巨大化したのだ!!
「Fooooooo!!」
雄叫びと共に光の巨人となった彼女は、最早雁久良 霧依ではない。凶冥姫カリグライストなのだ!
彼女は水飴でべたべたにした木をむんずと掴むや否や、文美を見下ろした。
ガトリングを手にする少女は、あらぬ方向へとガトリングを乱射している。
その火線を木で遮り、飴玉を受け止める。
飴玉の付着したその木は、さながら棍棒のようだ。
「ネギャアッ!」
気合一発。武器を手にしたカリグライストは、ニットンの背後へと回り棍棒を振り降ろした。
この様子を見ていたゲルダはというと。
「今がチャンス!」
なんと彼女まで巨大化してしまった。その手には飴で作られた剣、キャンディソードが握られている。
誰もが巨大化して戦う状況。文美としては面白くない。
「私の見せ場奪わないでー!!」
敵も味方もあったものではなく、文美は目につくもの全てに向けて飴玉ガトリングを発射していた。
これまで必死になだめていたエルレーンであったが、これを収めるのは不可能だと判断。実力行使に出た。
身を屈めて踏み込み、文美を押さえつける。
そして無い胸元からペンライトのようなものを取り出し、空へと掲げた。
すると、不思議な光に包まれたエルレーンは巨大化。彼女もまた地球人ではなく、べーこんれたす星出身のホモォ星人なのだ!
どのような姿をしているか、文章で説明するのは難しい。
よって、図解したいと思う次第である。
ホモォ星人の容姿。それは……。
┌(┌ ^o^)┐
↑これだ!!
その背には、文美が乗せられている。
エルレーンは、ところかまわずガトリングを撒き散らす文美を自らの砲台としたのだ。
暴れて手をつけられない文美を上手く利用したといえよう。
「何、この珍獣大戦争……」
ニットンの肩に乗るケイは思わず嘆息した。
だが、巨大生物四体に囲まれ、ニットンの足は完全に止まった。
「くらえ! 渾身の巨大地雷!!」
ゲルダは、地雷を設置するどころか投擲した。
起爆した地雷からおぞましい量のクッキーが飛び出、一同の視界を一瞬遮った。
それが晴れた瞬間。彼らは言葉を失った。
「説明しよう! 私の地雷をくらった者は、スク水魔法少女の姿になるのです!」
まさしくゲルダが説明した通り――かどうかは微妙だが、しかし、間違いなくニットンはスク水姿になっていた。それが魔法少女なのかどうかはともかくとして。
この地雷がどのような原理でそうなっているのかは全く以て不明であるが、そこに突っ込んではいけない。
どこの誰がスク水姿になろうと、これもまた世界の理なのである。
「どんな姿になったって――!」
エルレーンの背で、文美はガトリングを放つ。
それが到達する間際。そこからニットンの姿が消えた。
テレポートだ。
次にニットンが現れたのは、エルレーンの背後である。
放たれた火球に焼かれるエルレーン。
だがその隙を逃すまいとカリグライストが肉迫した。
「ネギャアッ!」
その手の棍棒を突き出し、ニットンの背後にある“手ごろな穴”へとねじ込んだのだ。
ただの木ではない。飴玉がイボとなり、穴にあるいくつもの神経を刺激し、言い得ぬ感覚を掻き立てる。
「アッー!」
すると、それまでとは違う叫び声が響き渡った。
これに加勢したのがゲルダ。
カリグライストが棍棒をぶち込んだ穴へ、彼女もまたキャンディソードを突っ込んでいく。
最早、ニットンはバリアどころではない。
強烈な攻め苦に悶絶するのみである。
ずらされたスク水から露出する“手ごろな穴”に突き立つ二本の棒。
あまりにもハードなプレイ(攻撃)に、さしものニットンも為す術なし。苦痛を受け入れ、苦悶に喘ぎ、べたべたする二本の棒がぶち込まれる感覚に、いったいこの珍獣は何を思うのだろうか。
本来火球を吐き出すはずの口からは、ポッと火花が散るのみだ。
焔は、その口へとバズーカの砲口をつきつけた。
「あめくえ〜」
放たれた飴玉が、ニットンの前歯を粉砕する。
この衝撃にケイが振り落とされ、ゲルダがこれを受け止めた。
しかしニットンは倒れない。
WAD隊員たちの攻撃がほんの少し緩んだ隙を見計らってカリグライストを振り払い、距離を取った。
ニットン、反撃に出る。
超高熱の火球を連続で吐き出した。
慌てて回避行動を取る隊員たちだが、一人だけ遅れを取った者がいる。
「ま、間に合わない!」
「か……ゲルダァァッ!」
火球に焼かれた彼女の名をケイが叫ぶ。
序盤で思わせぶりなことを言うからだ。と彼女は思ったが、しかし、巨大化が解除されたゲルダの下へと駆け寄って確認すると、幸いにしてダメージは深刻でなかった。
「ふぅ、死亡フラグを立てていなかったら生き残るところでした」
「いや、間違いなく生きてるからね!?」
ともあれ、仲間の無事を確認したケイは胸を撫で降ろすのだった。
ニットンはというと、相変わらず火球を無茶苦茶に放っている。
これでは近づきようがない。
すると、エルレーンはそっと文美を降ろし、恐るべき速度で駆け出した。
「ホモォ……」
その身に火球を浴びながら、彼女もまた口から腐敗臭のする光線で応じながら距離を詰めて行く。
特攻する気だ。
「いけない、援護を!」
ワイヤーを用いて着地したケイは、バズーカでニットンを狙う。
これに合わせて焔も砲撃を開始した。
体中に火傷を負いながら、それでもエルレーンはニットンを捉えた。
相手は弱っている。倒すことだってできるかもしれない。
それでも、彼女は、ニットンですらもこの世界に生きる命だと考えていた。
久遠珍獣ジャックニットンにも、きっと安住の地がどこかにあるはずだ、と。
同時に、地球を救う方法も必ずあるはずだ、と。
だからエルレーンは、ジャックニットンを抱えたまま、なんと空を飛んだ。
猛スピードで上昇する彼女の行き先は、生まれ故郷べーこんれたす星だ。
「どこへ行くんだホモォ、帰ってこいホモォ!」
母なる大地の上、文美は叫ぶ。
しかしエルレーンは答えもせず、ジャックニットンと共に星の海へと漕ぎ出してゆく。
「行っちゃ駄目だホモォ、ジャイアントホモォォォオオオオオッ!!」
これは、勝利の凱歌なのか。
輝く太陽へ向け、ジャイアントホモォ――エルレーンは飛んでゆく。
二体は、宇宙の彼方へと消えてしまった。
その方向を見つめ、WAD隊員たちは言い知れぬ心の揺らぎを感じていた。
そして……。
気がつくと、誰もが、飛び去ったエルレーンへ敬礼を送っていたのだ。
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地球に平和が蘇り、ニットンは消え去った。
そしてジャイアントホモォは人々の目の前から消えた。
だがしかし、再びこの地球に危機が訪れる時、ジャイアントホモォはどこからともなく飛んできてくれるかもしれない。
さよならジャイアントホモォ。さようなら!
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「諸君、よくぞやってくれた。やってくれたが……」
エルレーンを覗いて帰還した隊員たちを、WAD隊長は歯切れ悪く労った。
それもそのはず、文美とケイを除いた隊員たちがこぞって巨大化して戦ったのだから。
なんとコメントすればいいのか、悩むところだろう。
「ええ、ヤってやったわ」
「ヤるからには徹底的にヤらないと」
何故かヤを強調して口にする霧依とゲルダだが、そういう問題ではない。
結局、ニットンを倒したというよりは、負いだしたといった方が正確である。
それよりも、だ。
「キミたち、何故そんなにジャンジャカ巨大化できたんだ」
嘆息する隊長。
同じようにケイも溜め息。文美は何食わぬ顔で余ったクッキーを頬張っている。
これに答えたのは焔だった。
「簡単なことですよ〜」
それは、たった一つのシンプルな答えだ。
にこりと笑んで口にした言葉に対し、隊長は返す言葉もなくなったのである。
どんな言葉だったかというと。
「だってこれは、夢だから〜」