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マスター:追掛二兎
シナリオ形態:イベント
難易度:易しい
参加人数:25人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2013/02/15


みんなの思い出



オープニング

 バレンタイン!
 恋する乙女が、あるいは既に愛し合う相手のいるリア――もとい女性が、意中の男性へチョコレートをプレゼントするイベント。
 女の子より受け取った甘い甘いチョコレートにノックアウトされる男性も少なくないという。
 気になる男をゲットしてやろうといった意気込みの女性にとって、まさに悲願達成の機会である。

 節分!
 季節の変わり目。古くからこの時期には邪気が生じると言われ、魔滅――つまり豆を邪気の象徴である鬼へぶつけ、一年の息災を願う豆まきなるイベントが執り行われる。
 また、福をもたらす方角、恵方を向いて、太巻きを無言で丸かぶりすると願いが叶うといわれる恵方巻きなる行事もある。
 魔を払うは撃退士の役目。そして願いが叶うのならば、やはり気になる男をゲットしてやろうという女性にとって打ってつけな願掛けである。

 バレンタイン、そして節分。
 この二つを組み合わせてみた集団がいた――!

「き、きたぁ!」
「たたた、助けてくれぇ!」
 久遠ヶ原学園に響き渡る叫び声。逃げまどう男子生徒たち。その目に涙を溜めながら。
 校内からプールまで――。
 至るところで男子生徒は逃げていた。
 それを追う、女子生徒たち。その手に銃器を持ちながら。
「喰らえェ! アタシの、マックスラヴハートォッ!」
 ブンと振りまわすように銃器を構えた女子生徒が、トリガーを引く。
 銃口から無数に飛び出すのは、豆。しかもチョコレートコーティングされたピーナッツだ。
 はいそこ、「え、炒り豆じゃないの?」とか言わない。久遠ヶ原学園は自由を愛する学園なのです。
「ギャァァッ!」
 背中に豆を受けた男子生徒が、悲鳴を上げてすっ転ぶ。
 これに飛びかかった女子生徒が、男子生徒の首を抱え、ぐいと引っ張った。
 首がグキリと鳴ったが、気にしてはいけない。顔を向けられた先は南南東である。
 ここで女子生徒が取り出したものが、太巻き。ナマモノをどこにどうやって所持していたかなどと問うことなかれ、乙女には秘密がいっぱいなのです。
 こじ開けられた男子生徒の口。突っ込まれる太巻き。苦しさに喘ぐことも出来ず、消沈。男子生徒は目を回して失神した。
 これを肩に担いだ女子生徒。拳を高々と突き上げ、咆哮を上げる。
「男子生徒持ち帰ったりィ! 武装漢女一番槍はもらったァ!!」
 合わせ、周囲の女子生徒がウォォと鬨を上げる。
 とっても異様な雰囲気を肌で感じ取った女子生徒、奥山 文美は教室からその様子を見ていた。
(うわ、なにあれ。面白そう)
 それは熱き視線。仲間に入りたいという憧れ。
 同志の気配を感じ取った武装漢女なる女子生徒が、文美へと一際大きな銃器を投げてよこした。ガトリングである。
「そこにもいたか、同志! 来たれ、未来の武装漢女! 我々は諸君を歓迎する!」
「お、おぉ……? えーっと、こう構えて、これを、こう!」
 廊下へのこのこ踏み出した文美がガトリングを構え、放つ。
 吐き出されるチョコピー(チョコレートピーナッツ)。
 倒れる男子生徒。群がる武装漢女。
 なんだか大変なことになってきた。いや、そもそも学校でこんなことをやっていいのか? いや、いいのだ。何故なら、久遠ヶ原学園は自由を以下略。
 さて、ガトリングを撃ってしまった文美。この状況に罪悪感を覚えているかといえば、
「カ、イ、カ、ン……!」
 否だった。


リプレイ本文

●Target:何でもいいからとにかく男
「ン? ……何やら騒がしいのデス。どしたんデショ」
 教室でのんびりしていた男、鵜之真似 コルボー(jb3743)。彼は外が急に騒がしくなったのを気にかけ、様子を伺おうと席を立った。
 それが間違いであるとも知らずに。
 ドアを開けた先に見たもの。そこには元気に走り回る男子生徒と女子生徒の姿が!
「コレコレ、廊下を走るものデハないデスヨ」
 彼の注意に男子生徒はどこ吹く風。気に留める様子もなく疾風のように逃げ去っていく。
 対する女子生徒はというと。
「男だ!」
「男、男だ!」
 新しく現れた獲物に狂喜乱舞。チョコピー銃器を手に、狙いを変えた。
「ヒィィ!? 何!?何事デスかー!? コワイ!!」
 教室を飛び出したコルボーの逃走劇が始まった。
 それと入れ替わるようにして教室へ逃げ込んだ二つの影がある。
「一体何が起こってるんだ……」
「あれは狩人の目だ。相当飢えてるらしい」
 肩で息をしながら桝本 侑吾(ja8758)がぼやくと、久瀬 悠人(jb0684)が外の様子を伺いながら呼吸を整える。
 チョコピー銃器で武装した集団から逃げるうち、ようやく一息つけるところを見つけた二人。
 武装漢女集団が他の獲物を追うため走り去ったこの教室ならば、しばらく身を休めることができそうだ。
 と、思った矢先。ドアの外から足跡が聞こえた。
 ハッとして身構える。姿勢を低くしたまま身を起こし、いつでも駆け出せるよう態勢を整える。
 果たして教室に現れたのは……幸運なことに、男だった。
「良かった、味方でしたか」
「味方も何も、同じ境遇ってとこだな」
 入ってきた楯清十郎(ja2990)は荒い息のまま机と机の間に身を沈めた。
 安堵した侑吾。相手は結託しているのに対し、男子生徒は追われるばかりで結託もなにもないことに思い至り、状況がいかに不利であるかを再確認する。
「ここも長くはもたないな。何とか逃げ出さないと」
 悠人が呟く。
 少々の安全は望めても、いずれはここも見つかってしまうだろう。武装漢女の暴走が鎮静化するまで、いかに逃げ切るかを考えねばなるまい。
 今のように、時折適当な部屋に身を隠すのも手段の一つではあるのだが、いざ見つかった時のことを考える必要があった。
 そんな相談が展開するすぐ外では、また熱き戦いが繰り広げられようとしていた。

「ねぇ奥山ちゃん、日本のバレンタインって、凄く面白いね」
「そうだねー。都会だとこんなに凄いと思わなかったよ」
 アサルトライフル型のチョコピー銃器を手に駆ける犬乃 さんぽ(ja1272)。
 その隣を走る奥山 文美。
 方や近年まで海外暮らし、方や田舎から出たばかり。互いに、バレンタインを勘違いしていた。
 日本(都会)のバレンタインとは、男にチョコレートピーナッツを発射する行事である、と。
「せっかくだから楽しんで……あっ!」
 そんな二人が廊下を曲がると、目の前には一人の男子生徒の姿。
 ターゲット捕捉と同時に銃を構えるさんぽ。
 見つかった男子生徒――紺屋 雪花(ja9315)は、一瞬目を見開き、すぐに冷静な面持ちに戻った。急に人と出会ったことに驚いたのだろう。
 不敵に笑みを漏らす雪花。すっと片手で前髪を掻き上げれば、何故だか彼の周りがキラキラと光った……ような気がした。
「また武装漢女か。ふっ、モテる男は辛いな……」
「うわぁ」
「わぁ……」
 雪花くんは、とってもナルシーでした。
 どうしよう、撃つべきか、スルーすべきか。
 悩む間もなく、状況は変わった。
「男子発見!」
「サーチ、デストロイ!」
 数人の武装漢女が合流。雪花への銃撃を開始した。
「くっ、こんな事しなくてもお誘いがあれば喜んでお付き合いするのにっ! けど怪我は勘弁。またね!」
 チョコピーを盾で防ぎつつ逃走を開始する雪花。
 余裕たっぷりに見えたが、その額に冷や汗が浮かんでいたのをさんぽと文美は見逃さなかった。なんだかんだ武装漢女を恐れているのは疑うまでもあるまい。
 一気に静かになる廊下。嵐のような出来事に言葉もない二人。
 そこへ漏れてくる、物音。すぐ近くの教室で、ガタリと何かが動いたような。
「なんだろう、今の音」
「ふふーん」
 さんぽが頭に疑問符を浮かべれば、文美が鼻歌混じりに遠慮なくドアを開けた。
 教室の中には、机の陰に隠れる男子生徒があった。侑吾、悠人、そして清十郎の三人だ。
「見つかった!」
「おいチビ、お前がドジ踏んだからだ!」
 机を蹴飛ばす勢いで清十郎が立ち上がり、悠人が胸に抱えたチビ(ヒリュウ)を叱責する。
 大方、外の騒ぎが聞こえて慌てて身を隠したはいいが、チビが机か椅子にでもぶつかってしまったのだろう。
「とにかく逃げるぞ!」
「チビ、お前は責任とって囮やれ。いいな!」
 侑吾が急かし、三人は逃走を開始。
 同時に、悠人はチビを投げた。
 放物線を描いたチビは文美の胸に収まる。囮というより、注意を逸らすための餌として使われた感じだ。
 一瞬でも隙ができればそれでいい。今のうちに逃げようとした三人だが――呼び止められた。
「待った! この子がどうなってもいいのかな?」
 文美はこれを、人質として利用した。
 首根っこを掴まれたチビがぷらりと揺れる。
 瞳には涙が浮かび、明らかに助けを求めている。それはそうだろう、隣にはアサルトライフルを持つさんぽ、そして文美の手には大きなガトリング。……恐怖だ。
 しかし、飼い主は非情だった!
「そうか、『ぼくのことはいいからはやくにげて』か。チビ、お前の好意は無駄にしないからな!」
 チビが大いにショックを受けたのは言うまでもあるまい。
 人質が使えないとなると、文美はあっさりチビを放棄。逃げる三人の背へガトリングを構えた。
 これを感知した清十郎が振り返る。そして足を止め、両手を広げた。
「ここは僕が! 二人は先に行ってください!」
「くっ、すまない!」
 清十郎が壁役を買って出る。
 この隙に悠人がランバード(スレイプニル)を召喚。侑吾を脇に抱えて騎乗し、走り去った。
「そんな危ないものを振りまわす人を、この先へ行かせるわけにはンギャッ」
 言い終わるのを待たず、文美とさんぽはチョコピーを発射。
 いくらかをその身に受けつつも、急いでシールドを構えて防御の態勢へ移る清十郎。
 しかし、その背後に忍び寄る影があった。
「……ん」
 ガスッ!
 清十郎の背中に走る衝撃。鈍痛。声なき悲鳴。崩れ落ちる体。
 不意打ちに倒れた清十郎の後ろに立っていたのは、最上 憐(jb1522)だった。
 気絶した清十郎の襟を掴み、憐はズルズルと引きずっていく。
 憐の仕留め手段は、チョコピーではない。それを発射するために貸与された銃器の、銃底であった。
 何故か。
「……ん。これ。結構。美味しい」
 発砲するより、食べてみたかったからである。
 しかし支給されたチョコピーも、恵方巻きも、今口に放り込んだ分で食べ尽くしてしまった。
 補充しなくてはなるまい。食糧を。
「……ん。無くなったので。補充して。恵方巻も」
 向かった先は、校舎の方隅にある武装漢女の仮設本部。
 常に見張りがおり、男子生徒では一切近づけない(近づく=捕獲される)この場では、銃器の貸出や弾丸の補充が行われていた。
 憐は戦利品(清十郎)と引き換えに食りょ――弾丸を補充しようというのだ。
 当然のように本部は快諾。
 新たなおやつを手に入れた憐は、恵方巻きを咥えながら次なる交換材料を探しに歩き出すのであった。

 舞台となる校舎には、保健室があった。
 怪我人病人が手当てを受けるこの場だが、今この場にそのような生徒はいない。
 いるのはただ一人。霧隠 孤影(jb1491)のみである。
「平日の昼間からーごろごろーごろごろーですー。あーあー、10久遠で何でも買えないかなーです」
 どこかのお笑い芸人が言っていそうなことを口にしながら、ベッドでゴロゴロ。
 外は駆け回る男子生徒に漢女たち。
 喧騒の中、一人平和を謳歌する。実に優越。
 皆が必死になっている状況で、一人のんびり構える快感。何も縛るものはない、そう、自分だけが次元を超越した存在なのだ。
 と、そんな気分にさえなってくる。
「ふぅ、ここなら一息……」
 そこへ現れた雪花。漢女たちの猛攻を潜り抜け、ようやく辿りついた保健室。しばらくここへ身を潜めようと考えた彼だが、ドアを開いて硬直した。
 少女が一人、ベッドに寝そべっている。
 この子も武装漢女だろうか。そんな考えが脳裏によぎる。
「お疲れ様ですー。ボクは武装漢女とやらではないので安心してくださいですー」
 それを感じ取ったらしい孤影が手をひらひらと振る。
 ならば安心と踏み込もうとした、その時。
 雪花の肩に、大きな手が乗せられた。
「ベッドは空いているかしらん?」
「はいー、空いてるですよー」
 野太い声に雪花が振り向けば、そこにはボディービルダー並に筋肉質な女子生徒の姿。
 悪寒に、背筋を汗が滑る。
 雪花を軽々と抱えた女子生徒は保健室へ入り込むと、脇の男をベッドへ降ろした。
「ウホッ、つ・か・ま・え・た。さぁ、アタシとベッドレスリングしましょ。だいじょーぶ、ヒワイなことはしないから♪」
 ウィンクするゴリマッチョ女子生徒。
 冗談ではない。逃げようとする雪花だが、圧倒的に相手の力が強かった。
「たたた、助け、たす、誰か、た、アッー!」

 Round 1 Fight!

 一方で、この状況を喜んだ男子生徒もいた。
(くそっチョコをばら撒いてるって聞いてたのに! 騙された! 禿げろ禿げろ!!)
 久我 常久(ja7273)である。
 尤も、喜んだのは最初だけ。実態は男子を狩る狂乱漢女たちの宴であることを知ると、悔しさに涙すら出てきてしまう。
 しかしこれはまずい。このままでは、高等部や大学部の女子生徒に持ち帰られてしまう可能性すらある。それは困る、非常に困る。
 どうせなら、小等部の女の子がいい! 低学年がいい! 上の下着も着用しないくらいの子がいい!
 よく考えろ。そんな年齢の少女が、おじさんとすら呼ばれてもおかしくない男をお持ち帰りなんてするだろうかいやしない(反語)。
 ならば、さっさと逃げ出してしまうに限る。
 だがどう逃げようか。普通に出口へ向かえば武装漢女が待ちうけている。
 どうする、どうする……!
「さ、さあ、野郎達をぶっとばしましょう!」
 その時聞こえた声があった。
 見れば廊下の奥に森田良助(ja9460)の姿が見える。
 言葉の内容で、常久はひらめいた。そうだ、変化の術だ。これで女に化ければ、武装漢女の目をごまかすことができる。
 こんなことに思い至ったのも、良助の言葉にどこか男性らしさを感じたからだ。そして直感した。あれは、変化の術で女に化けた男子生徒だと。
 良助がどのような狙いで変化したのかは知らない。だが、この手は使える。その証拠に良助は武器も貸与され、武装漢女に混じっているではないか。
 ――実は、これは正確ではない。良助の場合、ある罰ゲームで女装していたところを見つかってしまい、運悪く(幸いにも?)武装漢女に引き込まれたのが真相だ。が、常久にヒントを与えたことには変わりない。
 そうと決まれば話は早い。常久は急いで女性へと変化した。
「あら、あなた、何をしているの、さぁこれ持って、私たちの仲間になりなさい、武装漢女の一員に!」
 すぐに見つかった。が、変化は上手くいったらしい。常久を女性だと思い込んだ武装漢女が武器をよこしてくる。
 常久の返事は、頷くだけであった。いかに変化の術といえど、声までは変えることができない。喋れば一発でバレてしまう。
「さぁ、新入りは三人で一つのチームよ。頑張ってね」
「はい、がんばりますっ!」
 新入りとは、常久、良助、そしてユリア・スズノミヤ(ja9826)である。
 ユリアの場合は常久や良助と違い、このお祭り騒ぎに参加したくて飛び込んだ口だ。
 この状況。常久や良助にとっては最悪と言えた。隙を見て逃げ出す算段が、本物の女子とチームを組まされたことによって潰えてしまったからだ。
「それにしても、恵方巻きもチョコピーも美味しそうだよね。ちょっとだけ食べちゃおうかな。ね、ちょっとだけならいいよね?」
「は、はひっ、いいと思い、ます」
 まさか一緒にいる二人が男だとは思わないユリア。それはもう遠慮なく話しかけるものである。
 しかし常久と良助はハラハラドキドキ。常久に至っては喋れない。良助も必死の裏声で返事をするので精いっぱいだ。
 そんな様子にも気付かず、ユリアは恵方巻きを頬張る。
 恵方巻きの起源には、代官など身分ある者が、女性が太くて長いものを頬張る姿を見るために作られた遊びからきている、との説がある。案外間違いとも思えず、ユリアの恵方巻きを咥える姿には、抱いてはいけないような感情を掻き立てる何かがあった。
 見てはいけない、見たら危ない。常久と良助は努めて目を逸らした。
 と、そこへ。
「ヌ、見つかってしまいまシタ!」
 怪人コンドルマント現る! ――もとい、コルボーとばったり。
 マスクで顔は見えずとも、声で分かる。男だ。
「みふへた、ほろひーはいらっ!」(訳:見つけた、チョコピーファイアッ!)
 恵方巻きを咥えたまま、ユリアが銃を構える。
 残る二人も慌てて照準を合わせ、一斉にチョコピーを発射。
 逃げるコルボー。
 鬼ごっこの最中、ユリアは恵方巻きを飲み下し、常久と良助はどさくさに紛れて逃げれないかと画策。
 しかし運の悪いことに、さらなる女子生徒に出会ってしまった。いや、正確には少し違う。女装した男子生徒、橘 樹(jb3833)だ。
「おお、やっておるの」
 余裕を見せる樹。だがその服装は制服でもジャージでもなく、何故か巫女服。武装漢女の目を盗むため、演劇部から失敬してきた衣装であった。
 これだけで怪しむ人がいそうなものだが、しかし、それは関係のないことだった。
「待ちなさいぃっ!」
 猛烈な勢いで迫るユリアチーム。
 それを正面から見てしまったものだから、樹は勘違いした。
(ま、まさか、この完璧な変装が見破られてしまったとでもいうのかの!?)
 逃走開始。
「ヤァ、キミもですかナ?」
「おぬしもかの」
「なんとなく、そんナ気はしていまシタ」
「汗を垂れ流す」
「悪魔タチの」
「「悲劇」」
 運命を共にする二人。肩を並べて走るコルボーと樹の間に、奇妙な友情が芽生えた!
 だが、逃げ道は塞がれてしまう。
 正面からも武装漢女――文美とさんぽが現れたのだ。
「あ、標的発見だよ!」
 さんぽが銃を構える。
 万事休す。やむなくコルボーと樹の足が止まる。
 そこへ常久と良助が発砲。撃たれた二人は悲鳴を上げた。
「よっしゃ、討ち取ったりー! ……あ」
「勝ったぞぉ! ……あ」
 しかし、撃った本人は墓穴を掘った。ついつい常久と良助が勝利の雄たけびを上げてしまったのだ。地声で。
 ユリアの視線が突き刺さる。
 この二人、女ではない、と。
「あなたたち、男だったんだね。裏切りは許さないから!」
 銃を向けられ、常久、良助が後ずさる。その背はコルボー、樹とぶつかり、最早逃げ場はない。
「じゃあ、このまま仕留め――」
「ていっ」
 チョコピーを装填しようとしたさんぽの背中を、文美が押した。
 コルボーの前に倒れるさんぽ。そこへ向けられる、ガトリング。
「はわわ、いったいどうして!?」
「だって、さんぽくん、男の子だし、そっちにも女装した人いるし、もうまとめちゃってもいいよね?」
「そんな……っ」
 文美の気まぐれな裏切りにより、一気に狩人から獲物となったさんぽ。彼の場合、普段から女子生徒と間違われるような格好をしていたこともあり、武装漢女に混じった上で文美に匿ってもらうことで難を逃れていたのだ。
 前後から狙われ、男子生徒たちは最早絶体絶命。
「こうなったら、アレをやるしかねぇな」
「あ、アレというのは、ソレのことかの?」
「ナルホド、ソレしかないデス」
 常久の提案に樹が確認すれば、コルボーが頷く。
 もう時間がない。迷っている暇などなかった。
 以下は良助、樹、コルボー、さんぽ、常久の順に並ぶ台詞である。
「必殺!」
「硝子から」
「飛び出しテ」
「逃げる!」
「あばよ嬢っつぁ〜ん!」
 ここは廊下。並ぶ窓に向かって飛んだ五人の男子が、硝子を割って外へ逃げた。
 まさに最終手段である。
 獲物に逃げられたとしょげるユリア。だが、その表情にはすぐ笑顔が咲いた。
「あ、蓮!」
「参加してたのか。サバイバルというか、ホラーなこのゲームに」
 飛鷹 蓮(jb3429)がやってきたのである。
 ここまでいくつもの修羅場を潜ってきたのだろう。額には汗が浮かび、髪も乱れていた。
 これをささっと直してやるユリア。二人は恋人同士である。
 だがそんなことは文美には関係ない。男を狙うというのがこのゲームのルール。蓮もまた標的である。
「邪魔してゴメンねー。でも、今ゲームの最中だから」
 ガトリングが空転を始める。
 蓮はとっさにユリアを抱えた。
「まずい、逃げるぞ!」
「うん、蓮とならどこまでも!」

 校舎の鬼ごっこは続いてゆく……。

●Mission:プールを爆破せよ
 久遠ヶ原学園の室内プールは、冬場であろうとばっちり稼働中。
 生徒数も非常に多いため、広く設計されたそこ。
 武装漢女集団から逃亡していた男子生徒の一部は、こんなところに追い詰められていた。
 プールサイドには武装漢女。男子生徒は槽の中。
 男に退路なし。
 追いかけることに夢中で制服のままの武装漢女も多い中、せっかくのプールだからとしっかり水着に着替える者もいた。
 六道 鈴音(ja4192)である。高等部でありながらも、スレンダーな体型がスクール水着によく似合っている。
 ペタ、と足音を立ててプールサイドへ立つ鈴音。
 敵が増えた、と慄いた数人の男子生徒が鈴音へ視線を投げる。
 そう、恐れたのだ。他意はない。ただ恐れた、それだけなのだ。
 だが。
「いま……」
 鈴音はそう受け取ってはいなかった!
「私の胸が小さい、と思ったお前は蜂の巣だっ!」
 それは被害妄想だよ、鈴音さん。
 誰が自分を見たかなど関係ない。
 憎しみ。コンプレックス。全てを発散するかのように、鈴音が銃を乱射してゆく。
 チョコピーに撃たれて悲鳴を上げる男子生徒。
 プールは阿鼻叫喚の地獄と化した。
 その、一角で。
「はい、あ〜ん♪」
「あ〜ん……」
 レイラ(ja0365)は飽く迄平和的に取り組んでいた。
 支給された銃からチョコピーを取り出し、プールに逃げた男子生徒をちょいちょいと手招きしては口を開かせ、その中へ一粒ずつ心を込めて放りこんでいく。
 何故かメイド服姿の彼女。この一帯だけ、まるで別世界のように平和であった。
 メイドのお姉さんがチョコピーを食べさせてくれるのなら、悪い気はしない。
 銃器で狙い撃ちされるよりは何千倍もマシ――天国のようであった。
 故に、彼女の周りに男子が集まり出す。まるで鯉の泳ぐ池にパンくずを撒いたかのようだった。
「レイラちゃん、俺にも、俺にも」
「ぼ、僕にも」
「お前さっきもらっただろ!」
「皆さん順番に、ね♪」
 これを何らかの巧妙な作戦に違いないと感じた武装漢女たちは、並ぶ男子生徒は狙わず、そこへ近づこうとする他の男子へと銃撃を繰り出していた。
 しかし、これを快く思わなかった者がいる。
「別れたばかりでブロークンハートなのに、目の前でバレンタイン騒動は耳障りですねー。こっちに飛び火しなければいいですけど」
 黒のマイクロビキニでバカンス気分のアーレイ・バーグ(ja0276)は、チェアに身を預けて炭酸飲料を啜る。
 何があったかなど問うことなかれ。色々あるんです。
 その目の前で騒がれてはフラストレーションになるのも当然だが、自分に被害がなければそれで良い、と考えていた。
 ……自分に被害がなければ。
「これでも喰らえ!」
 水中を泳ぐことで銃撃を回避せんとした男子生徒めがけ、鈴音がチョコピー魚雷を発射。
 自らの推進力で進む魚雷は見事男子生徒に命中し、多量のチョコが炸裂した。
 と同時に、大きな波が立つ。
 飲料へ手を伸ばしたアーレイだったが、その指が届く前に、押し寄せた波がペットボトルを倒してしまった。
 泡と共に吹き出る飲料。べたつく肌。濡れる髪。
 流石にアーレイも限界を迎えた。
 チェアの隣に置いてあった巨大な砲身を弄り、射角を調整。
 こいつをぶっ放す時が来たのだ。
 イライラはあるが、これを思うと快感であった。
「チョコ榴爆弾でプールごと吹き飛ばすなんて絶頂すら覚えちゃいます♪」
 キラリと瞳を光らせ、いざ発射。
 吐き出された弾頭がプール中心に落ち、炸裂。
 先ほどの魚雷とは比にならぬ量のチョコが飛び散り、プールにいた男子生徒がプールサイドへと弾き出される。
 プールは干上がり、チョコだらけ。
 武装漢女にとって、最高の状況だ。
「今よ、確保ォ!」
 体を撃ちつけて動けない男子生徒たちに、次々と女子生徒が群がってゆく。
 武装漢女による乱獲が開始された。
 一方で、全身チョコまみれになったレイラの方はというと……。
「あぁ、レイラさんのお身体が!」
「お助けしろ、我らの天使を!」
「更衣室までお連れするぞ。もたもたするな、急げ!」
「あ、あの、皆、さん……?」
 餌付けした男子生徒たちによって抱え上げられ、更衣室まで強制避難させられたのであった。

●Lovery Chocolate Operation
「こちらLC1。淑女諸君、配置についたか?」
 グランド東側で身を隠したアリシア・タガート(jb1027)が携帯端末に向かって小さく声を発していた。
 西側には男子の群。迫りくる武装漢女に対抗せんと決起した集団が集まっていた。
 これを迎え撃つ女子生徒。そのうち何人かは徒党を組み、統率された行動で戦闘に当たろうという者もあった。臨時で結成された小隊LCがそれ。アリシアはその代表である。
「作戦内容を確認する。LC2は側面より迂回し遊撃。敵の注意を引け」
「LC2了解」
 返事をしたのはエルザ・キルステン(jb3790)。コードネームLC2である。
「LC3は正面より突撃。なんとしても侵攻を食い止めろ」
「LC3了解っすよ」
 LC3こと強欲 萌音(jb3493)。お祭り騒ぎに呼応して戦闘に参加し、背負った武器に目をつけられアリシアに小隊員として組み込まれた者である。
「LC4は背後より狙撃。突破してくる敵を確実に仕留めろ」
「LC4了解しました……」
 コードネームLC4は雫(ja1894)。元はこの騒動を鎮圧せんと動くはずだったのだが、異様な熱気に飲まれてすっかりその気に。支給された狙撃銃をすっかり気に入り、今では立派な戦力である。
「私LC1は正面より敵を切り崩す。各員把握したか?」
「イエス、マム!」
 アリシアの問いかけに、一斉に返事が返ってきたことを確認したアリシアは、一つ呼吸して続けた。
「以後本作戦をLovery Chocolate Operation――LCOと呼称する。各員奮闘せよ。状況開始!」
 合図と共に小隊LCが一斉に飛び出す。
 最初に行動へ移ったのは萌音だ。彼女の武器、それは、火炎放射器を改造したジャム放射器。背負ったタンクにたんまり詰まった苺ジャムが火を吹いた。
「ほぉらそぉら! あんまり動いちゃイヤーっすよ?」
 吐き出されたジャムが男子生徒に、地面に撒き散らされる。
 面食らった男子は足を止め、それでも突撃せんとした男子は滑って転ぶ。
 先手が取れた。
「ちょ、ちょっと待ってください、皆さん!」
 なるべくならば戦いたくない。レグルス・グラウシード(ja8064)が説得のため声を上げるが、相手は聞いてもくれない。そして、男子の方も聞いてはくれなかった。
「迂回だ!」
 戦意の強い者はジャム地帯を避け、侵攻を試みる。
 が、その眼前にエルザが立ちはだかった。
「ハッピー、バレンタイン♪」
 戦闘の男子に銃口を突きつけ、清々しい笑顔で発砲。
 彼女の武器はショットガン。いっぺんに多方向へ飛び散るはずのチョコピーが、全弾男子の額にヒットする。
「グァァッ!?」
 悲鳴と共に吹き飛ぶ男子。
 その声に、エルザは愉悦に浸っていた。
「そうだ、その声だ! 歌い踊れよ男子諸君。豚のような悲鳴を上げろ……!」
 トリガーが引かれる度、男子生徒たちの悲鳴が木霊する。
 側面にはショットガン。正面はジャム地獄。
 ならばと男子生徒たちがとった行動は、ジャムで転んだ戦友の背を踏み越えていくことだった。
「そうだ、かかってこい。根性見せてみろ、野郎ども!」
 その前に立ち、機関銃で押し返さんとするアリシア。
 それでも相手は多勢。アリシアの脇を抜ける者もあった。
 が、男子生徒の額で何かが弾けた。……恵方巻きだ。
「ジャックポット……」
 雫の狙撃銃は、チョコピーを発射するものではない。恵方巻きを発射するのだ。
「そ、狙撃――ぶぐぅっ」
 たじろいだ男子の口に、恵方巻きが飛来。
 しかも、ただの恵方巻きではない。極限まで甘みを追求した、臭いを嗅ぐだけでダウンする者が現れるほどに甘ったるいチョコレートを具材としたもの。
 これには一撃でノックアウトだ。
 小隊LCが活躍する中、ついに、レグルスがキレた。
「もう、お仕置きですッ! ……僕の力よ、悪い女の子たちに痛い目見せる流星群になれッ!」
 食べ物を粗末にするなんて、許せない。レグルスはコメットを発動した。
 先陣を切る武装漢女たちが超重力により身動きが取れなくなる。
「くっ、不覚……。骨のある者がいるようだな」
 地に伏しながらアリシアが呟く。何故か嬉しそうである。
 勢いづいた男子生徒が侵攻する。猛威を振るった武装漢女が、ここにきて押され出した。
「わ、わわっ、う、撃たないと、でも、丸腰の人を撃つわけには〜っ」
 リゼット・エトワール(ja6638)はオロオロ。戦いに参加するつもりはなかったが、無理矢理銃器を渡され、止むなく参戦した彼女は、正直戦いたくない。
 それでも、戦場に立つ以上は戦士。
 逆襲に燃える男子生徒の手が伸びる。
「ひぁぁ〜っ!」
「よせ、リゼットに手を出すな!」
 そこに現れた救いの手、遊佐 篤(ja0628)。リゼットが参戦したくなかった理由でもある彼は、リゼットの恋人である。
 混戦になり人が入り乱れる中、篤はリゼットを抱いて戦線離脱を開始。
「逃がさない……」
 その背を狙い、雫が狙撃。恵方巻きがべちゃりと音を立てて、篤の背に米粒を撒き散らす。
 衝撃に押され、倒れる。投げ出されたリゼットは急いで立ち上がり、篤の下へ駆け寄った。
「だっ、大丈夫ですか?」
「俺のことはいい。早く逃げろ」
「でもっ!」
 いつ流れ弾が飛んできてもおかしくない状況。危険といえば危険である。
 嗚呼愛し合う二人に、救いはないのか。
「もうよせ、もう充分だ!」
「そうだよ、こんなこと、意味なんてないよ!」
 その時、矢野 古代(jb1679)と一 晴(jb3195)の声が響き渡った。
 それはグランドにいた者全ての耳に響き、全員の行動が一瞬止まる。
「逆襲して何になる、その先に、未来があるというのか? 既に一矢報いたはずだ、これ以上やる必要はない!」
「そうだよ。武装漢女の人たちも、こんなやり方で恋人を手に入れて、それで本当の愛って言えるの?」
 古代と晴の説得に、グランドが静まり返った。
 誰もが、我に返ったのだ。
 武装漢女の目的はただ一つ。男を狩り、恋人がいるというステータスを得る。
 それにしても、やり方があまりにも過激だったのだ。
 反発した男子が、反撃に出たに過ぎない。
 晴が言ったように、奪い取るようにして得た恋人に、愛を見いだすことは難しい。だというのに、こんなにも無茶苦茶なやり方で恋人を得る必要があるのだろうか。
 この言葉は、効いた。
 己の過ちに気付いた武装漢女が、次々と武器を放棄していく。
 戦いは終わったのだ。間違いを認めることで、全て……。
 そう、次の言葉さえなければ。
「とはいえ、俺には娘や息子もいるんだがな」
「私も、いわゆるリア充なんだけどね」

 何 故 口 に し た の か 。

 鎮静化しかけた争いに、今度は別の形で火がついた。
 最早無理に恋人を得ようとはすまい。
 その代わり、新たな戦火が広がらんとしていた。

 リア充を殲滅せよ!


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:10人

己が魂を貫く者・
アーレイ・バーグ(ja0276)

大学部4年168組 女 ダアト
202号室のお嬢様・
レイラ(ja0365)

大学部5年135組 女 阿修羅
恋する二人の冬物語・
遊佐 篤(ja0628)

大学部4年295組 男 鬼道忍軍
ヨーヨー美少女(♂)・
犬乃 さんぽ(ja1272)

大学部4年5組 男 鬼道忍軍
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
道を切り開く者・
楯清十郎(ja2990)

大学部4年231組 男 ディバインナイト
闇の戦慄(自称)・
六道 鈴音(ja4192)

大学部5年7組 女 ダアト
恋する二人の冬物語・
リゼット・エトワール(ja6638)

大学部3年3組 女 インフィルトレイター
撃退士・
久我 常久(ja7273)

大学部7年232組 男 鬼道忍軍
『山』守りに徹せし・
レグルス・グラウシード(ja8064)

大学部2年131組 男 アストラルヴァンガード
我が身不退転・
桝本 侑吾(ja8758)

卒業 男 ルインズブレイド
美貌の奇術師・
紺屋 雪花(ja9315)

卒業 男 鬼道忍軍
セーレの王子様・
森田良助(ja9460)

大学部4年2組 男 インフィルトレイター
楽しんだもん勝ち☆・
ユリア・スズノミヤ(ja9826)

卒業 女 ダアト
絆紡ぐ召喚騎士・
久瀬 悠人(jb0684)

卒業 男 バハムートテイマー
大虎撃破・
アリシア・タガート(jb1027)

大学部6年37組 女 インフィルトレイター
開拓者・
霧隠 孤影(jb1491)

大学部1年46組 女 ナイトウォーカー
カレーは飲み物・
最上 憐(jb1522)

中等部3年6組 女 ナイトウォーカー
撃退士・
矢野 古代(jb1679)

卒業 男 インフィルトレイター
仲良し撃退士・
一 晴(jb3195)

大学部4年286組 女 阿修羅
繋ぎ留める者・
飛鷹 蓮(jb3429)

卒業 男 ナイトウォーカー
流行の最先端を行く・
強欲 萌音(jb3493)

大学部5年162組 女 ダアト
異界のエンターテイナー・
鵜之真似 コルボー(jb3743)

高等部3年11組 男 ナイトウォーカー
UndeadKiliier・
エルザ・キルステン(jb3790)

大学部1年70組 女 鬼道忍軍
きのこ憑き・
橘 樹(jb3833)

卒業 男 陰陽師