●転針?
システムWTD起動!
現時点でのDは、ドラグーンという意味である。
戦場の一角に変化が訪れた。
けたたましい吠え声をあげて、彼方で冥竜が転進。冥魔本軍との合流を優先する。
「あいつ逃げやがった!」
「能力を考えれば、時間は向こうに味方しますからね…」
テト・シュタイナー(
ja9202)の苛立ちに、他人事のような冷静さでRehni Nam(
ja5283)が注釈を入れる。
冥竜は大悪魔に匹敵する力を持ちながらも、狡猾さゆえ戦いを避けたのだ。
「仕方ねえ、俺様のデイ・クレインで頭を押さえる。付いてこれる奴だけが付いてきな!」
フィーンと音を立てて、テトの機体が翼型ブースターを展開。
強大な推進力で彼方までカッ飛ぶ。
「テトさん、独断行動は危険ですよ……ってもういっちゃった」
「仕方ないですね。追いかけながら道々戦闘中のお仲間を拾って行きましょう」
レフニーの制止は当然間に合わず、陽波 透次(
ja0280)は苦笑しながら道中のMAPを表示させた。
町中には遠すぎてアイコンが表示されないが、味方機の反応だけが表示される。
「冥竜の進行方向にも何機か居るし、今からなら案外、悪くないタイミングかもしれないよ。急ごう」
「仕方ありませんね。白陽炎、推して参ります……」
透次の話ももっともなので、レフニーは己の機体を沈ませた。
滑る様な体重移動の後、白銀の髪…バランサーを引いて白装束の機体が駆け始める。
「はぁ…この機体。元は陰陽道の増幅器だったはずなのに、どうして忍者ロボになったのやら…」
「忍者の原型である修験道の行者は、更に遡ると陰陽道の元である神仙道・符蟲道と素を同じくするからじゃない?」
それって仙人の頃の話じゃないですか。とレフニーは透次の飛行機に追随した。
戦闘機をベースにゴーレム化して作った旧式機で、格闘は変形して戦うのだったろうか?
●町にて
避難誘導中の撃退士が、声を張り上げて人々に注意を促す。
正面に展開する浮遊盾がガレキから人々を守っていた。
「落ち着いて避難して!担当の地上班は子供やお年寄りに注意してあげてね」
礼野 真夢紀(
jb1438)はエネルギーの残量から浮遊盾の継続を諦めると、大型コンテナから新しい武装殻を取り出した。
それは鉄塊というべき厚みを持った大盾で、随所に身を守る退去呪文が彫り込んである。
「それでも…どこまで保つかな。ううん、こんな事で弱気になっちゃ駄目だ」
甘えは捨てようと真夢紀は心に不退転の三文字を刻む。
彼女の覚悟を受け取ったのか、姉が貸してくれた浮遊盾が次々に落下。
姉の操る最後のペインブラッドが術増幅型とは知りつつも、これほど遠くまで見守ってくれた事に感謝と…対抗心が浮かんだ。
「あの位楽勝で倒せるぐらいにならないと…お姉ちゃん達エース級と肩並べて戦うなんて出来ないもんっ!そうだよねっ私のアクスディィィア!」
ブン!
真夢紀の力強い思念を受けて、魔凱殲姫…アクス・ディアと呼ばれた機体が動く。
自分に貴重なパーツをくれた仲間達、使いこまれた殻を貸してくれた家族の思いが一つになる。
「山根さんは最終防衛ラインをお願いできますか?私はアレを止めに行きますので」
「確かに民間人もまだ残ってるんだよね…了解」
真夢紀が町のはずれに移動するのを受けて、山根 清(
jb8610)は機体を守り易い位置まで後退させた。
覚悟を決めて、何時まで守ればいいのか援軍が来るのか判らない戦いに、清は身を投じる。
だが数が足りない。
援軍に駆けつける者たちを含めてまだ足りない。
「せめて後数人居れば…。必ず見つけ出すんだ。そして封印を解く」
清純 ひかる(
jb8844)は彼方から来る巨大な冥竜を視て、敗北を悟った。
だが戦力次第で逆転できる。
そう判断して、最後の扉を開くことにした。
「あまりにも危険で封印された、あるいは研究中の機体。これを見つけ出せれば…」
ひかるが赴いたのは研究室だ。
それも最前線に近い町でしか研究できないような…いわゆるマッドなやつである。
プラチナの機体には生贄が必要と書かれており、真っ先に選択を放棄。
次に見つけた大型のドラグーンには、ジーンと刻まれており暗号かもしれないと考えて止めておくことにした。
そして厳重に封印された粗末な木製の機体に辿りつく…それは運命だったのだろう。
「何故だろう、僕はこの機体を…コスモノガタリを知っている様な気がする…」
ひかるの指先が脈打つ樹に触れた時、彼から棘で血を奪う。
痛っと顔をしかめた瞬間に、色々な思いで、過去、未来が飛び込んで来た。
聖剣の戦士、飛行船の船長、そして戦う彼自身の姿である。
「魂がこの場所でこの機体を駆って戦えと…、そう言っている気がする!」
ひかるが封印を引きはがすと、食肉植物が活性化する!
だが輝くアウルに包まれた彼の身を侵す事は出来ず、からみついた人食い蔦は、彼自身を守る制御胞へと変化。
最初は赤く、次に血の様に赤黒く、最後には漆黒に染まって行った。
●敵軍を叩き潰せ!
居るだけで魂を取り込み、居るだけで死者を呼び起こす。
冥竜は空母であり工作艦であり…、たった一体で艦隊でもあった。
「だけど人は負けたりしない、まして絶望なんて、ありえない」
傾いたビルの壁を滑り降り、ツルリと方向転換を掛ける。
だが雪之丞(
jb9178)になんら反動もなく、まるで氷を坂道で滑らせたかのようだ。
通りかかるアンデッドを端から切り捨てる。
「特化すれば旧式でもこの通り…。これさえあれば敵なしってところか」
雪之丞は近寄る敵を、順番に始末して行った。
剣の動きはまるで蝶が舞うようであり、剣戟戦闘に特化している長所が窺われた。
一騎当千という言葉は、まさにこの為にあるのだろう。
「とはいえ数が多すぎるな。…標的にはまだ遠いし、知能を利用して少し引きまわすか」
雪之丞は苦笑して、機体を少しずつ窪地に移動させた。
冷静に見て一体一ではほぼ無敵、数体一でも負けることは無い。
だが敵は無限とも思える数を繰り出してきた。
…否、標的…冥竜が生きている限りまさしく無限なのである。
「着いて来い。鬼さんこちら…だ」
窪地に侵入させた雪之丞は、一気に逆落としを掛ける。
もしアンデッドに知性があれば気が付いただろう。
彼女を追ってきた連中をこの窪地に置き去りにする為であり…、氷で出来たこの機体ならば、大地を滑るのは容易なことなのだと。
町中を一周しながら、雪之丞は始点を目指す。
「見えた…行くぞ!!我がゴーレム雪月花!!」
雪之丞が目指すのは、当然あの冥竜だ。
無限にアンデッドを生産する、冥龍タンタロス。
黒いヒュドラに翼を生やしたような奇怪な姿で、それぞれの首で魂を食らい、死人を動かす何かを吐きだしていた。
その時。
眼前で荒れ狂う、獣の形をした嵐を視た。
「旧型でもワンオフ機だからね…、舐めてたら痛い目にあうよ…!」
双城 燈真(
ja3216)が操る四足歩行のゴーレムは、当たるを幸いに全てを切り割いた。
背中から伸びる超振動のブレードは、まるで翼の様だ。
旧式でも獣型はパワーとアジリティに特化しており、その動きはまさに猛威。
『どうしたどうした!旧型にも追いつけねぇのかこの生贄龍モドキが!』
半身を蒼、もう半身を紅に染めた獅子から歪な音声が漏れる。
冷静に構えて場を俯瞰して居たかと思うと、矢のように突き進んで死人達の陣型を翻弄。
口にアウルを溜めると対空砲代りに、冥竜に向けて撃ち放ち続けた。
「君も奴を倒しに来たんだろう?共に戦っては駄目か?」
『ハン?邪魔だけはすんじゃ…』
「…ああ、歓迎だよ。間もなく援軍も到着するはずだし、少し保てば楽になる」
雪之丞の申し出に、歪な音声がぶっきらぼうな返答を返し、それを遮るようにおどおどした声が割って入った。
どうやら正副の複数操縦らしい。
「そうか、それまでは二人…いや三人で対処しよう。自分達一人では届かずとも、全員の力を合わせれば、必ず成し遂げられる」
『二人であってるんだがな…まあ面倒だし良いか』
雪之丞の言う事を、『翔也』…もう一人の燈真は直感で理解した。
個人の強さがいかにあろうとも、集団戦に特化した冥竜には届かない。
一騎当千でも万夫不当でも、無限には届かないのだ。
仲間たちで連携し…いずれは無限に届かせる必要がある。
「(俺にだって判ってるよ。だって…)」
『(その為のフージュンシステムだからな)』
燈真の秘めた内心の呟きに、翔也は平然と応えた。
それもそのはずだ、翔也は燈真に足りない部分を埋めるために作られた人格。
いわゆる守護者や両面様と呼ばれる意図的な多重人格であり、フュージョンシステムはその人格を統合する操縦装置である。
●合流
共闘する二機の戦果は凄まじい。
だが上下に両断すれば、上半身と下半身が別のアンデッドになる。殲滅速度が追いつくはずもない。
『やべ、囲まれた。こいつ探知系弱いからなあ。をい、そっちはなんとかできるか?』
「確か直線状を薙ぎ払う技アシストが…。あれ?これはどうすれば良いんでしたっけ…」
翔也(燈真)が直感的に悟った危機に、雪之丞は対処しようとした。
だが咄嗟の事で、技の切り替えが遅れてしまう。
その間にも、十六分割したはずの吸血鬼が、十六の方向から襲ってくる!
これまでかと思った時、空から騎兵隊が到着した!
「どけどけどけ!!知らねえのか、雑魚ってのは、纏めてぶった斬るもんだってな!」
戦場に巨大な刃が出現。
加速を緩めぬままに抜剣突入したテトの機体は、超巨大なソニックブレードを後方に発生させる!
そのまま旋回しつつ、圧倒的なまでのGを受け流す為に、大きな弧を描いて半周してきた。
「デイ・クレイン!テト、きみが追いついてくれたのか」
「おうっ、よーやっと飛行型を潰してきたぜ。それと今のは貸しな。後でカレーパンでも奢れよ」
燈真がテトの操る白い機体を出迎える。
アームブレイドで冥竜に取りつきブレーキ代りにすると、射出してその場を急速に離れた。
「おっつけ全員合流するぜ。みんなで竜殺しってのも悪くねーな。その首、真っ向勝負でブン捕ってやるから覚悟しやがれ!」
「…ならフォーメーションを組みましょう。敵は多数、協力し合わないと届きませんよ」
テトが改めて大剣を構えると、周囲に浮遊爆雷が流れてくる。
彼女の後方に回ったアンデッドを掃討したのは、町から徒歩でやってきた真夢紀の機体だ。
爆雷を使い切ったので再びコンテナを近くまで飛行させ、今度は長砲身の銃を取り出して狙撃態勢に入った。
「協力っていったい何人来るんだよ?あんまり遠いと間に合わないかも…」
「5〜10人だけど、遠すぎる人を除いたら8人がせいぜいかな?なんとか冥竜本体に届かせないと」
燈真の質問に真夢紀は魔力拡大のオーブを探知機代りに捜査させた。
「なんとかなるだろう。時間を掛けて良いなら…ふ、ゴーレムなど使わなくとも勝てるな」
雪之丞は冷静に戦力比を計算した。
アンデッドは所詮雑魚、囮で護衛を引っ張って減らせば、ゴーレムに乗らぬ素の撃退士のままでも行ける。
そう口にした時、彼方から声が投影された。
「それじゃだめだ。あれはカオス…なんだ」
町の地下で起動する、ナニカからの声である。
●世界の痛みを止めるんだ!
「あれは冥・魔に続く第三の悪。世界を汚染する存在がコアになってる」
ひかるは地下基地からの扉を抜けると、下半身だけの動きで戦場に向かってきた。
漆黒の忍者は腕を組んだまま通信管の力を使い、みんなに窮地を伝える。
「触れる物を全て邪悪な思考に汚染する、それがカオス、この場で倒さないと」
「精神汚染ですか?それは確かに厄介です」
ひかるの黒い機体に並走して、レフニーの白い機体が接近する。
白と黒の忍者機が並走する姿は、まるで忍者映画の様であった。
「では雑魚は私たちが引き受けましょう。幻影舞陣からの…えーっとえーっと。と、とりあえず、コメットー!」
レフニーは忍者型に相応しい分身芸を機体にやらせた後、とりあえず何の術を増幅させるか使うか悩んだ。
悩んだ末に選んだのは、アイデンティティであり最も得意とする流星群の魔法である。
「これ以上お前が溢れさせる死で、この街を汚させはしない…くらえ、ほのおぉのやぁあ!!」
ひかるの放つ巨大な炎の矢は、レフニーが放った流星群と並んだ。
戦場広く着弾する流星とは違い、敵中央に猛火で道を拓く。
「なら囮は僕の役目かな。本命は残しておいてくれよ」
透次は機体を変形させると、軽機関銃とレーザーガンを構えた。
二丁拳銃ぎみに撃ちまくり、敵の放ったセブンウェイショットの間を歩いて抜ける変態機動を見せつつ、巨人の拳に飛び乗って、巧みに雑魚をおびき寄せて行く。
「…相手の回復力が強過ぎる」
「…俺がなんとかする、俺がなんとかしてやる!…さぁ!翔也と一緒になった俺に勝てるかな!」
真夢紀の放ったビームランチャーが首を一つ焼くが、あろうことか、別の首が焼けた首を根元から喰って再生を促した!
まさしくカオスな思考・再生力にヘキヘキする仲間達の中で、燈真は最後のリミッターをカット。
再生力を前提にして、冥竜の首が幾つか特攻を掛けて来たからだ。
「ちょっ特攻する気?」
「死ぬ気はないさ…、少し休むだけ。必ずいつか会えるさ…!」
止める暇も有らばこそ、燈真はブースターを破裂寸前までUP。
最大級のソニックフュージョンアタックを掛ける。
余りの出力に機体が耐えきれず、既に炉心は爆走を始めていた。
「無茶、しやがって。だが奥の手、使うなら今か。行くぜ…!」
「そうだね。想う心が力になる…だから僕達は負けない!」
テトは特攻返しを仕掛ける仲間の気持ちを悟り、ここはカードの切り時だと背の砲門を解き放つと上空に移動。
同様にひかるは炎のアウルを身にまとい、鳳凰の形に変形した。
「ターゲット、ダブルロック。セーフティ解除――ブチ抜けぇッ!!」
「ファイヤーバードチェーンジ……その死の影と共に、全て燃え尽きろ冥竜っ!」
釣瓶落しにチャージした砲門を放つ白鶴と、火炎をまとって飛ぶ鳳凰が冥竜に迫る!
「天魔よ、人の力を見るが良いのです。私達は、負けない、絶対に!」
「んもう、みんな無茶して〜全殻解放!」
白い忍者が印を組むと、青い薔薇が空に咲き誇る。
そして魔皇のコンテナは解放され、全ての武装が展開された!
「終わりだ、冥竜」
「凍れ!真っ白に!」
最後には騎士が二人で突入。
全ての首を両手の光剣で切り割き、復活しようとする端から氷剣が封印した。
全員の力で、冥竜にトドメをさしていく。
それはまるで古代の英雄たちが、伝説級のモンスターに挑むかのようだ。
いや…、ゴーレムを操った彼らもまた、伝説に成るのだろう。
システムWTD、Dの意味は…きっと…。