●マシンを狩るモノ達
高知に向かう転移前、既に襲われた場所の情報を確認する。
早めに抗戦を諦めたのだろうが、動画を送ってよこしたツワモノが居たようだ。
「何度か見たが、ここまでゴツくなるとロボットだな」
戦闘経験のあるロベル・ラシュルー(
ja4646)は、以前までの形状と見比べて僅かに笑みを浮かべた。
侍のような大鎧をまとい、背中には八枚の翼が仏像の光背や千手の様に並んでいる。
「趣味の悪い造形だね。製作者のセンスが知れるよ」
「クールジャパンなんて天使は知らないんだろうさ」
ヴァルヌス・ノーチェ(
jc0590)の漏らした言葉にロベルはお茶を濁した。
どうせあれは……。
「形状が悪かろうが見目優れていようと、倒すことに変わりはありませんがね。試運転の間に潰してしまいましょう」
「同感だ。適当にお相手するとするさ」
紫煙の残り香と共に吐き出すリアン(
jb8788)の言葉に頷き、ロベルは動画を最後まで眺める。
可能な情報は少しでも集めておくべきだ。
そうする内に、前回までは見受けられなかった、アクティブさが散見された。
「…これ、厄介な能力だな」
「回避先に置いておく…。ううん、タイミングをずらして後撃ちした事も考慮すれば高度な予測演算かな…」
城里 千里(
jb6410)がピックアップした光景に、Rehni Nam(
ja5283)は簡単に考察を付けた。
ゴレムが装備した指輪の魔光は、撃退士が緊急展開した障壁を…無力化していたのだ。
どんなに強力な防壁であろうと、名高い宝物の盾であろうとも、護っていない時を狙われてはたまらない。
おそらく最初の防衛班が抗戦を諦めたのも、この攻撃が原因の一つだろう。
「防御法術を迂回する演算戦法だとう?冗談じゃない、並の後衛やサポートじゃ即戦闘不能に追い込まれるぞ?」
「最初から盾を用意する手もありますが…、普通は攻撃力が下がっちゃうので、万人向きじゃないけど」
自分だったら…とい仮定を踏まえて、千里とレフニーは話を続けた。
このタイミングでは念の為の提案…くらいだ。
●将を狙わんとすれば…
転移までのカウントダウンに移り、相談は手順の段階へ。
「それもあるが空中に居ず張りだと面倒だな。こっちの全力が振るえねえ」
「今度は輸送型サーバント付、ですか……それも強化魔法アリで。敵も色々と手を変えてきますね」
ロベルとリアンは名残惜しそうに煙草を消して、ポケット灰皿に放り込むと最終確認。
「では優先して落すとしたらこの翼ですね」
「そうだね。倒すとして将を射るならまず馬から…。それなら答えはシンプルだ」
何時でも飛び出せるようにリアンが翼を展開すると、ヴァルヌスも相乗りして本性を現し始める。
意識はそのまま足元へ、転移し次第足元に術式を掛ける予定だった。
予定された守備隊から急を告げる確認のメールが入ると、一同は身構える。
「確認しました、いつでも飛ばしてください。この位置は…やはり狙いは高知ですか?どこ…」
レフニーが位置確認したと同時に、一同は予定地点に転送された。
言葉の半ばで一瞬意識が混濁し、気が付けば教えられた通りの光景が広がっている。
ここは戦闘が始まっても問題ない場所だろう…、ゆえに戦場は直ぐ先のはずだ。
「問題なし…。どこにしろ、やらせはしないのです」
「その意気です。ひとまず防御を固めて狭い場所に誘導しましょう。その上で翼を優先すれば、そうそう後衛潰しなんてさせませんよ」
走り出したレフニーを追い越して、鈴代 征治(
ja1305)が前に出る。
坂道だと言うのに慣れているのか、相当なペースでも言葉が乱れない。
「…あの、ちょっと、提案があるんですけど、いいスか?」
「…?いいけど出来るだけ手短に頼む。できれば防衛班が無事な内に駆けつけたい」
少しでも早く現場に!という皆へ、千里は頑張って出来るだけ下手に出てみた。
日下部 司(
jb5638)の気持ちも判る、さっさと提案だけ済ませて、戦うとしよう。
「どうせ様子見しても防御は無効化されるんっスよね?なら俺、積極的に援護するっスよ」
狙われたら困ると言ったその口で、千里は積極策を提案した。
その真意とは一体…。
そして狙われるであろう、彼の運命やいかに?
●開戦
割りと距離はあったが、撃退士の体力なら直ぐそこだ。
1分もしないうちに見える位置まで辿りつき、何人かはそのまま滑り込む。
「三位一体か…連携が鋭いと厄介だが、さて」
一同の先頭を掛けて、鳳 静矢(
ja3856)が先行する。
少し後ろにもう一人…。
「一当てしてから態勢を立て直しますよ。万が一の時は退くべき事を間違えず」
「それは言わずもがな、だ。さぁ、行くぞ…!」
征治が十字架を掴むのと同時に、静矢は剣を振り降ろした。
白光をまとう美しい刃先から、紫光のアウルが鳥の形を作る。
鳥が空を駆け抜けるその後ろを、征治が放った光の爪が追い掛けて行く…。
それはまるで、明日へ向かって飛ぶ大鳳の様であった。
だがゴレムは強力な攻撃を受けて、平然と立ち上がる。
鎧や翼には大きな傷が残ったが、中身は大かたを再生してしまった。
「やれやれ、話には聞いたが面倒だな、手間を掛けるとしようか」
「今の内に声を掛けておきますっ……。相手は再生型、散漫な攻撃では意味がありません。皆さん狭い場所に移動しながら…、協力を…!」
静矢がヴァルヌスに向かって苦笑すると、彼は守備していた班に声を掛けた。
強襲される時には援軍が来ると知っていたようで、彼らも防御態勢を取っていた模様だ。
『すまないな。何人かやられてるが治療できる範囲だ、回復したら援護に回らせてもらう』
「余裕があればで構わないです。…今の内に脱出を!」
守備班かららしい通信にそう答え、レフニーは盾の魔力を結集させた。
それは地上に降り立つ天の川。
燦然と煌めいて、ゴレムの巨体で弾けて行く。大柄な敵の注意は確実に、こちらに向かったようだ。
両拳を打ち合わせ、指輪が輝き始めた時…。
数発の銃弾が、肘から手首に掛けて直撃する。
「結局、実行する事にしたんだな」
「…へへ。厄介な能力なら、先に使わせてしまえばいいって思ったんですよ」
赤い大剣を大上段に構えるロベルは、隣の男に声を掛けた。
彼…千里は無効化されるのを承知で援護を行ったのだ。
ゴレムの腕に負荷が掛るのと同時に、身にまとった大鎧の目が鈍く輝き始める。
おそらくは話に聞いた戦法を使うだろう。誰を狙うのか判らないが…。
全ての要素を計算し、邪魔など無かったように目的に向かって本体の攻撃を直撃させる術理。
それが、”クロノスリマスター”だ。
指輪で起動した光輪が、敵対者を八つ裂きにする!
狙われたのは…。
「ガード、間に合わなかったみたいだけど、大丈夫ですか?」
「…存外堅いのが取り柄でな。それに、なんだ、あのレベルなら三回…いや二回に一回は受け止めて見せる」
司の確認に静矢は腹をさすって応える。
身をもって体験したゴレムの能力は、魔攻の命中・威力ともに素の防御を上回るレベルに過ぎない。
後衛が食らえば危険ではすまないが、前衛の彼ならば数発は耐えられるし…。
「全てに直撃を許すわけでもないですしね。最初から盾なり防御手段を展開しておけば済む話です」
「それにさっきの『重そう』だし、無限に使える訳でもない…ですよね」
これがレフニーや千里の用意した策だ。
予め、素の防御を重視し、更に切り札を早々に使い切らせれば良い。
●どうせ食らうのならば
明確な対抗策を編み出し、実現したことで心理的に余裕が出来る。
それが油断にならぬように注意しながら、撃退士は態勢を立て直し始めた。
「このまま押し切ってくれよう。まずはそちらからだ!」
リアンは空を制したままアウルの力で鞭を作る。
周囲の植物が絡み合い、鎧の周囲にすがりつき始める。
「そらっ、今度は貴様だ…」
「(景気よさそうだなー。しっかし、俺が同じ立場で何時までも同じ事するかな?間違いなく頑丈な奴は狙わねえ)」
リアンの鞭をゴレムが抵抗したが、もう一度行けるか?と再び伸びる。
その様子を眺めていた千里は、冷静に仲間達を観察し始めた。
「(向こうが状況を判断したら、狙うのは後衛…は最大レンジで固めてるか。となると防御の薄い中衛…つまり並の俺ら、戦闘不能。‥うわぁ、見たくない未来だなー)」
千里は思わず苦笑した。
演算などせずとも、狙うべき相手は決まっている。
だが、助けたばかりの撃退士に向かわせる訳にはいかないし、自己回復できないメンツでは荷が重い。
ならば、攻撃を受けるべき相手は決まっている!
「戦いは勢いがある方が勝つ!もうひと押しだ!ここを抜かせるな!」
「そうそう。確実に防いで適度に回復しつつ、間違いなくここを護り抜く。ですよね」
腰から鋼鉄の鋏を飛ばしたヴァルヌスに掛け寄って、千里は後方から治療を開始した。
予想通り反撃に転じ相手を変え始めたゴレムの攻撃で傷ついており、応急手当で軽く塞いで置く。
もちろんそんなことをすれば…。
「ぐあっ!!(…そら、やっぱりきた)」
「無茶をするから!せめてあの技を使い切ってからすればよかったのに…」
援護兼回復役と見なされたのか、迫る光輪は防御すら許さずに千里を切り割いた。
たまらずヴァルヌスは彼の肩を抱いて、指輪の魔力が届かぬ圏外まで飛びずさろうとした…。
だが、彼の抜けた穴から敵が侵入するかもしれない…。
「その穴、直ぐに塞がせてもらいましょう!いきますよっ」
「おうさ。一体一体、一気に攻めて片付けよう」
征治は目だけで静矢に合図をすると彼は銃を構えた。
十字架の光と共に弾丸が突き刺さり、直撃したと理解するや、共に飛び出していく。
既に交戦から数分を経過しており、十分なダメージが累積していたのだろう……。
「爆散!!倒したならば目標を切り換える…厄介な右目…貰うぞ」
「今ならっ…盾や鎧など関係ない。受けろ!!」
静矢と征治の二人は脳裏に描いた刃に武器を切り替え、更に加速して進路を交差すると巨体や鎧の残骸を足場に飛び上がる。
ゲームで見るようなアクロバットなど必要ない。
此処にあるのは、ただ目標だけだ!!
●その『目』を穿て
並みのサーバントならば、いや強化した個体でも撃破して不思議のない連撃だというのに…。
ゴレムに通じたのは半分以下、だがしかし、半分は確実に効いている。
「腕が邪魔で目が…。その素っ首落ちても再生できるか!? 」
征治は太い腕を迂回するのではなく、首から上そのものを狙った。
流石に意図的なガードをされては狙った部位を潰し難い、今後も踏まえて頭をもいだ場合の状況を睨む!
残念ながら薙いだのが首の半分より少し向こう、気味の悪い持ち方でゴキゴキと元の位置に戻されてしまう。
「惜しい…ですね。しかし、本当に『後ろ』ほっといていいんですか?」
「…良いんですよ。本人がそう言ってるんですから。自分で出来るそうですっ」
レフニーが流し目で後方を見ると、戻ってきたヴァルヌスが若干怒ったような苦笑いを浮かべている。
無理もあるまい、あんな無茶をやった上に、攻撃を誘導したのは半ばワザとだ。
自己回復を積んだ『彼』が受けて厄介な技の残り回数を使い切らせるのは、確かに念頭に置いてない人が受けるより効率良い。
しかし命を無駄にしたくないヴァルヌスが怒るのは仕方あるまい。
「まあ良くもアリ悪くもアリです。あのゴーレムは相手を見定める知能があるようですしね…。前回は倒し難かっただけなんですけど…」
「問題を直して始めて改良したって言うらしいしな。そこは仕方ねえだろ。ヤマは越えたんだ、このまま仕切り直すとしようぜ」
レフニーは仲間が白兵レンジに飛び込んだ事を踏まえて、暫く単火力に切り替えることにした。
範囲攻撃はその後で…とか思いつつ、高知で共に戦ったロベルと顔を見合わせる。
あの時までは面倒だとは思いつつも、脅威としては認識していなかった。
脅威は去ったが、まだ仕切り直したばかり。
苦笑と共に攻撃を再開しようとした、その時…。
「右目が!?……大丈夫だったのですか?」
「‥いや、もうちょっと寝てたかったんですけどね」
ゴレムの右目が砕けたのと同時に、リアンの足元から号砲が上がる。
目を向ければ千里が壁に寄り掛って銃を放っていた。
射程ギリギリから、やられたフリをしていたらしい。
「ほら、まあ。弱点あればガードするのは当然だし、そこまで判ってるなら…連撃に合わせて、やられて対象外になった俺がやればいいかなーなんて」
「それで脂汗かいてれば世話はありませんけどね。……まあいい、削り倒すのが早くなっただけだ」
「言いたい事はいっぱいあるけど、後でね。巨大化はやられフラグだって、昔から決まってるッ!」
ため息ついて、リアンとヴァルヌスは突撃を敢行した。
もはや余力を控える必要は無いし、右目側はもはや不要なので、味方の射線に開けておけばいい。
「これで気兼ねなく範囲攻撃をばら撒けるというものです。退治とオシオキが終わったら、銀側を見に行ってみましょう」
「オシオキか…おっかねえ。俺は遠慮しとくよ、煙草でも吸いたい所だ」
レフニーが再び流星群を召喚し始めると、ロベルは剣を担ぐと笑って左側に移る。
クワバラクワバラと聞きかじった退避呪言を口にして、トドメを刺しに向かった。
そして次なるロボの見学会。
「しかし…このゴレムを作成した者は…一体何を考えているのでしょうか…」
リアン達は冥魔を駆逐するシルバーゴレムを遠目に確認し始めた。
あらゆる呪詛を無効化し、飛行可能な物の次は地上班と、次々に倒して行く。
「昔のアニメでも見たか、現代日本出身の使徒でも採用したんじゃないですか?」
「あとは…単火力型だからいいですけど、範囲もあったら殲滅しそうですねえ」
レフニーと征治は借りて来た双眼鏡で眺めながら、その雄姿に苦笑する。
自称正義のロボが敵なのだ、笑うしかないではないか。
「このパターンだと、更に改良した敵が出てくるかもしれん。強度はあるから消耗品の尖兵として量産される可能性も…な」
「古いバージョンなら数を見たが、…改良版だと少しマズイいな」
静矢の言葉をロベルは理解した。
勝てるが、そこで全てのリソースを使い果たせば、天使の前で詰む。
「もし大規模作戦でゴレムが敵陣営の中心戦力になった場合、スレイヤーは温存しておいた方が大きく敵の出鼻を挫ける秘策にもなるかと思う。その『目』を潰す為にこそ…」
「スレイヤー弾頭はそれまで使わず、存在を隠していた方がいいということですね?」
静矢はヴァルヌスの返事に頷いて、依頼の報告に向かう事にした。
まだ見ぬロボット軍団を叩き潰す為に…。