●廃校跡地の青少年!
「ドラマや小説で出て来そうですよね」
「逆じゃないかしら?地方に行けばありがちだから、小説にし易いのよ」
廃校に辿り着いた時、柚祈 姫架(
ja9399) は何処かで見たような印象を感じる。
何の題材であったか忘れたが悪くない気分だ。
そこへ符の具合を確かめながら高虎 寧(
ja0416)が声を掛けて来る。
「手早く終わらせましょうか。でないと始めれないものね」
「だなー。何つーか一見楽そうだけど、手を抜くと何があるか判らねぇ怖さがあるな」
「…?掃除はしてあるよう…、ですけど?」
片手にブルーシート、もう片方の手に箒を持ちながら寧が音頭を取って振り向くと、千葉 真一(
ja0070)はおいっちにーさんし、と体を解し、体育館の床に這いつくばって何かを探し始めた。
キョトンとした顔の久遠寺 渚(
jb0685)が尋ねると、ニカっと笑って…。
「ここに何か仕掛けてあったら困るだろ?無くても水漏れ心配だからな先に調べて置くのさ」
「なるほど…。あ、罠ってどうやって見破ればいいか、分かりますか?えと、その、私の担当の…」
「大丈夫ですよ、罠があっても大丈夫なようにしますから」
ゆっくりと真一の言葉を咀嚼していた渚は、ふと気が付いて驚愕した。
そう言えば自分も調べる必要があったよね?と近くに居た水屋 優多(
ja7279)を見る。
「分かるなら、教えてもらえないでしょうか……。その、私、こう言う事は判らなくて…」
「もちろん!一緒に作業する仲間ですしね」
彼女のお願いに優多は快く頷いて、作業場所を探し始めた。
場所の検査が終わった一角を選び、雑巾を借りて綺麗にしようかな。
「話はつきましたか?できるだけスペースを広く取りたいので、私も参加しますね。入り口に近い場所が妥当でしょうか」
「あ…、私も手伝いますよ雫さん検品作業。一緒に頑張りましょうね!」
「その意気その意気、しっかりやれよ?俺だって黒一点だ、荷運び役をやらせてもらうぜ!」
「…あ、あの。黒一点って、私も男なんですけど…」
箒を受け取って作業に参加し始めた雫(
ja1894)を渚は慌てて追い駆け、真一はガッツポーズで見守る。
そんな二人を見ながら、勘違いされている事を優多はようやく悟る。
恥じらうような表情も愛らしく、戸惑う彼に、一同の顔に満面の笑顔が返された
●さんぷる検査と補充作戦
「第一段階終了ってな。とりあえず用途別、品目別に、搬入する時点で分けていくか?」
「必要性と利用のし易さに応じてですね。端っこと手前が終わってるから、リストチェック完了した物から置いてください。利用頻度の低い物が奥だから」
「「はーい」」
体育館というには小さな場所に、何枚かのブルーシート。
真一と寧が丹念に調べた場所へ、保全とカラクリ避けに張った物だ。
開かれたワゴン車には、ぎっしり詰まった補給物資が眠っている。
「こういう物資は倉庫で惰眠を貪っている間が一番平和ですね…」
「リストは……どんな風に分類分けされてるのでしょうか?食料品、とか、嗜好品、みたいになってるとやり易いですけど…」
ぎっしり詰まった物資を眺め、ため息をつく雫に渚が首を傾げた。
可愛らしい仕草に帰って来たのは、雫の無表情と…差し出された四枚のリスト。
「あれ、これ同じ物が二枚ありますよ?あ、片方は雫さんので…、あれ残り二枚は個別の?」
「あははっ。傑作でさ〜。積み込む方は別口らしいよ?おかげで全部チャックできなかったんだって」
「出掛けまでに可能だったのは、かろうじて全量が揃っている事と…。メーカー直輸送品だけは完品というだけでした」
渚の疑問へ、早速荷物を取りだした高峰 彩香(
ja5000)が教えてくれる。
学園の作業はだいたい学生のバイトだ。なので全部ありますという総合表が雫の物を含めて二枚。それとは別にメーカーからの納品書、最後の一枚は学生が買い漁った買いつけチェック表だろうか?
この為、右から左に流れ作業でチェック出来るのはメーカー品のみであるという有様であった。
「ど、どうしよう。どうしよう雫さーん」
「私達が前線で戦っている裏で、今回の様な苦労があるんですね。無理だったものは悩んでも仕方ありません、メーカー品を先にして、残りを後回しにしましょう」
「やることパパッと済ませて、残った時間を楽しもうかっ。じゃ、悪いけどこれさっそくお願い〜」
うろたえる渚を制止し、雫は可能な限り落ちつくと彩香が持ちこんだ段ボールを確認する。
そこには雫が張って置いた食料品を示すシールがあり、別口のシートを指差し…。
「その色は食糧品類なので水屋さんにお願いします」
「食料品はサンプル検査をしますね。開封した段ボールから取りだして1つずつ確認し、破れていないなら戻し、ランダムで1つ別分けします」
「さんぷる検査?ランダムってのも、なんで決めておかないんでしょうか?」
入り口のシートでチェックされた段ボールは、さっそく別口のシートへ運ばれる。
そこで優多が食料品の抜き出し始めた。
慣れない単語に首を傾げたアステリア・ヴェルトール(
jb3216)の質問に応える為、彼はタッパを取り出して言った。
「全部を検査するのは現実的ではありません。そこで一部を開封して検査しますが、決め打ちすると対策されますから。あ、そうだ高峰さんちょっとお願いできますか?」
「なに?あたしに出来る範囲なら協力するけど?」
一カートンの段ボールから小箱を一つ取りだし、彩香が見る前で開封して行く。
メーカーのロゴが打たれた包装紙をビビっと破って、中に詰められた砂糖を一袋ほどタッパに移した。
「こんな風に全体の中から、1つだけ徹底的に検査します。ですけど、これを入れ直す訳には行きませんよね?後で買い出しをお願いします」
「現地調達して来いって?別にいーよ、せっかく自転車も持ちこんだからね。あったしにお任せっ」
「なるほど。こうやってチェックするんですね。確かにこれなら何処かで見つかっちゃう可能性がありますね。仕掛ける事は可能でも、リスクに合わなそうです」
優多はメーカーのロゴと段ボールを見せることで、買い出し役の彩香に判り易く説明する。
その脇でアステリアは感心しながら未開封の袋を持ち、その辺りに落ちていた石をつまむ。
小石ごとつんつん突いて透過にチャレンジしたが、当然ながら符によって阻害され指が滑り込む事はなかった。
「でも補充の事まで良く頭が回ったねぇ。あたしなんて今そんな方法知ったのにさ」
「実はですね…。笑い話がありまして、旧日本軍などでは検査で減るのは通じず、補給要員の失態として殴られる事が多かったそうです」
「軍人の大多数は補給の重要性も判らない人が多いですからね。かく言う私も、補充までは気が回りませんでした。どうやら私は剣を振るっている方が性に合うようです」
彩香の言葉に優多は苦笑しながら答える。
逸話だけに全体からしてそうとは限らないが、それだけに印象深かったのだろう。
そんな様子に雫は再びため息ついて、小麦と塩の箱を持ち込んで来た。
「だいたい判りました。トラップに関しては仕掛ける側に立って考え、補給の管理に関しては出来るだけ手間が少なく利便性を考えると…」
「あとは回を重ねてコツを覚えれば良いって感じだね。んじゃ当面の分だけ手伝ったら行って来るよ」
「なら私達はそれに合わせて一回目の休憩を取りますね」
ウンウンと頷いて、やり方を学ぶアステリアと彩香。
二人とも知らなかっただけで、この手の作業が不得手という訳でも無いのだろう。
姫架たち他のメンバーと手分けして、一段落するまで作業を進めて行った。
●波間の散策行
「(鬼咲、ファイトだよー)」
「(…うっせ!うっせ!!)」
「何か言った?」
最初の休憩時間になり、作業を継続する者、買い出しに赴く者と、数班に分かれてローテーション。
姫架の手助けに訪れた紀浦 梓遠(
ja8860)の時間は、当然の如く彼女と一緒。
すまし顔の裏こっそり百面相中の恋人の隣で、姫架は小首を傾げまだ肌寒いはずの海岸線を歩く。
冷たい新春の風が気にならない。
潮の香りと桟橋に横たわる猫を満喫しながら、日差しよりも温かな頬の温もりを感じた。
「お前、顔が赤くないか?風邪引いているんだったら、無理せず帰らせてもらっ……」
「違いますっ!違う、違う違う。そうじゃなくて、もーそんなんじゃないって、判ってるよね?顔が赤いのは…」
顔が近い。
彼の掌が自分の頬に当てられ、今は人肌で検温中。
手当は手当て、人の手を介して治療する古代から伝わる民間治療法…じゃなくて!
「うー、からかってるよね?よね?」
「人に風邪を移す前にボクに移したら?別にあんたの為に言ってるんじゃなくて…、残念。積極的なのはここまでかな、時間切れだ」
子供っぽい反応の姫架を楽しませながら、彼なりにリードしていたのだろうが、いかんせんツンデレ気味では時間が足りない。
唐突に歩くのを止めた向こう側、耳を像さんのようにしている人達がおりましたとさ…。
「し、四国での活動も、補給がないと倒れてしまいますからね…私達は天魔の人でも食事取らないとエネルギー取れませんし、大事な作業です!」
「いやー、一軒目が思いのほか近くってさ。嵩張る物だけ人数連れて済ませて来たんだよ」
ごめんね〜。
そこには優多や彩香達が声を潜めて潜伏中。
顔を赤くしてうろたえる優多と、あっけらかんと謝って見せる彩香が対照的だ。
ああ、なんと短い二人っきりの時間…。
「後でまた時間を割けるようにしとくから。あたしも釣りしたいから、気にしないでね」
「そこまで信用できません…、というか見られてると思っちゃうから。緊張します!持ちますから運んでしまいましょう」
「あ、これとこれ預かればいいのかな?」
ちゃめっけたっぷりに頭を下げる彩香に、姫架はぷんすかやって見せながら、荷物に紛れ小さな包みを手渡した。
少しだけ顔を近づけて、耳元に一事。
「…それは依頼に付き合ってくれたお礼だよ。私だってそういうの得意なんだから」
旅の雰囲気にも慣れ始めた、と言った風情で姫架お手製のクッキーの出番。
春色の香りが耳元に漂うのを少年は感じていた。
「おっ、御帰りなさい!準備バッチリですよっ。美味しい浜鍋を作ります!……あ、その、検査も、忘れてはいないですよ?」
あうあう。
検品作業で取りだした品を仕舞いつつ、サンプル検査で開封した品は仕舞えない。
これで何が出来るかなー、なんて考えてた渚は、悪戯が見つかった子供の様にうろたえた。
いや、もともとテンパリ易い性格なのかも?
「心強いねー。今から残りの時間で釣れるかは判らないけど、次の時間では絶対に釣って来るからさ」
「行くのはちょっと待ってくださいね。買って来た品は…こうやって終了っと」
「はい、これが検査済みの封換です。以降ですが、これが剥がれて居たら要注意ですよ」
早速、釣りに行こうとダッシュを掛けそうになった彩香を捕まえて、優多が再密閉作業に入る。
同じメーカーの品を段ボールに封入し、それを雫からもらった綺麗なシールで縦横にペタリと封印。
更にそれを一カートン箱に入れて、まるで時間を巻き戻したようだ…。
違うのはただ一つ、シールの種類とマークが撃退士たちが良く使う物であるという事。
「それが食品関連の1サイクルですか…。判りました、次回から参考にさせて貰いますね」
「バーッチリ、全部覚えたよ。後は実地で覚えるから。んじゃ!」
「あ、あの…。頑張ってくださいね、お料理は得意です!えと、その、和食しかつくれませんけど……」
「大丈夫ですよ。私が造りますし、きっと他にも造れる人が居ますって」
ロープなどの消耗品に、様々なツールを確認していたアステリアが頷きながら一部始終を確認。
ばびゅんと飛び出した彩香を見送って、渚が手を振りながら口ごもる。
その脇で姫架が、何気ない会話中でフォローを入れてくれた。
「お疲れ。俺らは交替で休憩だけど、何かあれば手伝うぜ!」
「担当分けはしましたけど、穴があれば補い合うのが仲間です。遠慮なく声を掛けてくださいね」
「くっまだ一時的に持ち込んだだけです。運んでも、運んでも数が減った様には見えませんね。魚…釣りに行けるかな?」
黙々と作業を続ける真一と寧が、入り口に積み上げられた物資の向こうで手を振る。
荷降ろしは終了し、これから残りの検品と、動かし易くするのだと雫は今日何度目かのため息をついた。
無表情の影で、年頃らしい言葉が僅かに漏れ落ちて消えた。
●はまーなべー♪
「ふー。とりあえず怪しいものはもう無さそうだな。細かい作業は明日にして、飯にしようぜ」
「む。(ぬ、ぬおお…)」
作業を終えた真一が食堂兼職員室に行くと、一足早く作業を終えたはずの雫が悶えていた。
無表情な彼女の、初めて見る苦境。
一体そこに何が?
「猫か…、苦手なのか?」
「逆です。猫が、私を苦手なのです…」
「もっと楽にすればいいのに。スイッチの入れ替えできると、気分が楽ですよ?」
なぁー。
にらめっこする雫の向こうで、眠ったふりというか、眠りの浅い状態で仮眠をし始める寧が誘った。
近くにあった止め紐で、ふーりふーり。
魚の臭いで警戒心の薄まった猫を、タヌキ寝入りから捕獲に成功する。
「つか、苦手ならあんまし無茶するなよ。明日も作業になるからな…。おっ、こいつが浜鍋か。旨そうだから猫が寄るのも判るな」
「ご飯ももう直ですよ。飯盒炊飯なんて、久しぶりです……!」
「へー、上手いもんだね。造り方も豪快で…ある意味、こっちがメインだもんね。楽しみだよ」
真一が部屋に入ると、渚がコトコト煮込まれた土鍋で沢山の魚介類が野菜と一緒に煮込んでいた。
それでは浜鍋分が足りないと、海から持って来た石を彩香が外に造った石鍋でジュージュー焼いている。
「本当はただの取れたて鍋みたいな物だけど、石を入れてジューってやるのがお客さん用の演出なんですって」
「せっかくだから漁師のとこへ聞き込みにね」
「準備終わりましたよ〜。そろそろ食事にしましょうか」
姫架たちがそう答えながら、人数分より多い皿を用意。
うちの数皿とって優多は猫にカレイの刺身を載せて、外へ置きながら屋根の上へ声を掛けた。
「ん…。もうちょっと見たかったですけど、食べてからでも良いかな?」
星に近い屋根の上、アステリアがのんびりくつろいでいた。
だが、彼女は知らない。
みなと一緒に食事した後では、ほんのちょっと感想が変わると言う事を。
それが旅する友人たちと味わった、思い出と言う味だと知ったのはもう少し後の事…。
だけど今は、楽しい食事を愉しもう!