●再来
四国のとある川辺、再び出現した敵サーバント。
それが本質的に同じ物なら、似たような脅威だろう。
「あのゴーレム、何かギミックが仕込まれてるらしいですねえ。どんなタネが仕込まれているのか、マジシャンでなくとも暴いてみたくなるものです」
「方向性としては、堅牢なゴーレム、ですか」
エイルズレトラ マステリオ(
ja2224)の楽しそうな声を聞きながら、マキナ・ベルヴェルク(
ja0067)は逆に眉を潜めた。
一撃で形状を変えるような大きなダメージだと、再生してしまうらしい。
高い攻撃力を持つ彼女としては、手札の切り方を考えねばならぬのが厄介だ。
「一応、神秘文字の同時破壊って対策はあるけどね。…前回と同じ可能性は低いけど、回復能力を封じれるなら有効よ」
「単純に隠しておくより楽だっちゃ。足手まといにならねえ内は、変わらねえと思うだよ」
前回、同じ敵と戦ったという佐藤 七佳(
ja0030)が経験から来る案を提示。
同様に戦闘に参加した御供 瞳(
jb6018)が、その案の有効性を保証した。
マキナのような大天使級の攻撃力を持つ撃退士数人が、必要かどうかを別にして命掛けの奥義・秘儀を連発すれば、強化サーバントなぞ1分で十分だ。
それを5分以上足止め出来るのだから、やらない手は無いだろう。
「確かにそうね。効果が無いなら、斬り刻めばいいだけ……ちょっと手間がかかるけどね」
「今回は装甲重視とあって、流石に通常攻撃で反応しないと思いますが、最悪の場合は使い潰させるとしましょう」
七佳とマキナは顔を見合って、苦笑とも笑顔ともつかぬ顔で頷く。
悩んで手を休めるよりは、思いきって粉砕する方が早いだろう。
逆説的に言うなら、5分の時間をかければ倒せるのだ。
●二体の個性、試験騎
問題なのは、二体居て個性が微妙に違う事。
単に種類が違うだけならまだしも、罠とかひかっけがあれば面倒なことに成るだろう。
「……うーん、何て言うのかこの個体、二体で比較してるとか、何かの試作機みたいですねえ。ということは、近くで誰か見てるんじゃないですかねえ?」
「そっだなあっ前回に気配あったって話だし、此処は四国だべ」
エイルズは画面に映し出された黒鉄と玉鋼、そして前回の青銅と赤銅を比べてその差異から試験用である事を看破。
彼の見立てに瞳は物憂げに頷いた。
四国出身の彼女にとって、真っ先に考え付くのは天使だ。
「近くに天使さ住処あるべ…あり得る話だっちゃ(…できれば天使で無く、旦那さまぁ、夏くらいオラァに会いに来てほしいっちゃ)」
本拠地の近くである分、勢力を伸ばすついでに実戦試験はあり得る話だ。
とはいえ敵が増えて嬉しいと言う事は無い。無理を承知で天国(?)の旦那さまにすがる瞳なのであった。
方針が固まれば、後は倒す段取りだけ…。
その倒すだけというのが面倒ではあるが、やり遂げねばなるまい。
「相当固そうだし、今回ばっかりはちょっと剣を取らないとかな」
「別の能力も付随しているのか、兎に角注意は怠らないようにしないとね」
キイ・ローランド(
jb5908)は前回戦った時の倒し難さを思い出して苦笑するが、日下部 司(
jb5638)はそれ以外にも注意を向けた。
試験機だとしても、そこまでの能力は前回までで判明。他に隠された機能があっても、不思議ではあるまい。
「他ねえ…。額の玉鋼って日本刀の素材よね……居合みたいな高速攻撃でもしてくるのかしら?」
「もしくは単に足が速ぐで、同時撃破しずれーやつだべな。連携も分断でぎるだ」
なるほどね、と七佳は瞳に返した。
高い防御がメイン。攻撃に関するアプローチの差だろうか?
格上を確実に消耗させる為の拳速か、こちらを分断する為の移動力。
前者であれば交代で消耗を分担し、後者であれば目の前に広がる川を挟んでの戦闘が出来ない可能性もある。
「どっちでもいいさ。逃がして民家に行かせる訳にもいかねーし、囲んでボコるだけだ」
「ここに至っては倒すだけとして、詰め方を誤らない限り、民間人だけは大丈夫なようにすればいい」
さっさと行こうぜと声を掛ける向坂 玲治(
ja6214)に、キイは頷いて表情を消した。
するべき事が1つなら躊躇は無用、こちらの被害はともかく、敵を阻む事は確定事項なのだから。
「そんじゃま、とりあえず小手調べだ。行くとすっか。負傷したらちゃんと交代しろよ」
「了解。油断しない様に、そして、できるならみんなで無事に帰ろう。俺たちなら出来るよ」
「「おー!」」
玲治が音頭を取ると、司たちは動き始める。
目標のゴーレムが訪れるのは、それから間もなくのことである。
「ゴーレムさんは良いゴーレムさんかな?それとも悪いゴーレムさんかな?」
「良かろうと悪かろうと、ゴーレムの末路は土くれって相場は決まってんだ。あんまり変わらないと思うがね」
今にも橋げたから飛び立とうとするエマ・シェフィールド(
jb6754)の影に、玲治はひっそりと隠れた。
もちろん翻るスカートの中を見ようとしたのではなく、目立つ彼女の気配に紛れる為だ。
陰陽の利用と言う訳でもないが、包囲の為に動くなら、二人は川を挟むのではなく橋から緊急出撃した方が速い。
前衛として動くマキナやキイの動きに合わせて、後方遮断に動く予定である。
「ボクらは玉鋼撃破にまわる〜。終ったら黒鉄へ〜援護いくからねー」
「了解です。厄介そうな特殊タイプとは言え五人も居れば十分でしょう。私たちで黒鉄を足止めしておきます」
来た来たーと嬉しそうに浮かび上がるエマを尻目に、マキナは浅瀬を飛びぬけた。
相手の不利な足場を確保。自分は黒き翼を煌めかせて浮かんでおく。
その間に玉鋼が逆走しているが…、別の仲間が止めたので安心して叩く事が出来るだろう。
●戦いの始まり
双方の動きは人智を超え、恐ろしい速度で姿を変える。
迫りくる巨体の片方を止めたかと思うと、もう片方が凄まじい移動力で突進を掛けて来たのだ。
とはいえ、推測していた以上は警戒せぬはずはない。
「移動力強化からのチャージか。…でも、その程度の速度ならあたしには充分に追随可能よ。簡単に言うと、遅いのよ」
すれ違いそうになったはずの七佳はバク転にも似た勢いで、宙返りを決めた。
より正しく言えば、飛び抜けようとした先を、後方に戻しただけだ。
背の輝きを翼に換えて天頂より、足元のゴーレムを見下ろした。
暫くの戦いの後に、巴状に構成された戦場で、黒鉄担当の三人は冷静に眺める。
戦い始めてもう二巡目か三巡目に移行し、平静に観察する事が出来た。
「タックルしないと使えない技みたいだから、移動力封じは有効だね。こっちも足止めを重視しないと」
「確かに。相手の技だけを使わせる事はありません」
玉鋼に吹き飛ばされた仲間を見ながら、司とマキナは黒鉄の正面とハス向かいを締めた。
相手は巨体を活かしたパワフルな攻撃で、まだ技を残している。
反面こちらは捕縛したと思った瞬間に粉砕してしまい、再生されてしまった。
威力その物は上手く調整しているので技を使わねば良いのだが…。
「うーん。形状壊れるほどじゃないと効かないとか、制して行く光景からすると治療と言うより、ゴーレム魔法の掛け直しみたいですねえ」
「ということは再生前と再生後で別物なのですか。となれば、やはり無限ではないようですね。いっそのこと…」
黒鉄の後方を、召喚獣ともども抑えたエイルズは他人事のように分析した。
実際に戦って、泥の体に拳をめり込ませているマキナからみると不明だが、離れて見るとそう見えるのかもしれない。
魔法の掛け直しの場合、シューティングゲームで残機が蘇る様なものだ。
例えアヴェンティで瞬殺しても塩ゴーレムが生まれるだけだが、逆にいえば、残機の数(魔力分)だけしか蘇生しない。
加えて魔力の総量が減れば弱くなるので、粉砕し続けるのはアリだろう。
「それは最終手段とか、担当の交代時にしようよ。このレベルならまだ耐えられる。爆砕するのはその後でもいいかな」
「まあこっちは足止めですしねえ。無理をしてまで木っ端みじんにする必要は無いでしょう」
顔をしかめながら巨大な拳を司は跳ねのける。
ダメージ累積したので治療をする間、エイルズは軽口をたたきながら分身を割って入らせた。
ゴーレムは強大ではあるが、対処しきれない意外性は無いので、無理をする必要はないだろう。
「…了解しました。(別にそこまでバラバラにする気は無かったのですが)」
マキナは二人の会話に苦笑しつつ、再びアウルの鎖を伸ばして今度は拘束する事に成功した。
どうやら彼女の技は威力の境目にあるようで、当たり方次第で通じるらしい。
●終局
…その頃。
玉鋼のゴーレムが順調だった様に、黒鉄の方もどうやら順調であるようだ。
こちらも何度か再生されてしまったが、それを除けば消耗戦になっている。
「キイさー大丈夫だっぺ?玉鋼の方さ順調だす。無理は禁物だあよ」
「このくらいなら問題ないかな。攻撃面なら前回の方が強かったし、タックルさせなければどうという事は無いよ」
何度目かの攻防で再び直撃を受けた仲間を心配し、瞳は声をかけた。
彼女からの忠告を聞いたうえで、キイは冷静に自分の体力を分析する。
防御の上から地味に削られ続けているが、直撃させなければ大したことは無い。ダッシュに注意して後退させなければ、どうとでもなる。
「さて、我慢比べと行こうか。もちろん君に行動の自由はあげないよ(生憎と使わせはしない)」
切り結んでいたキイは、黒鉄の足が余裕を持った段階でアウルを放った。
助走する前に魔力弾で態勢を崩し、進行方向を遮って移動中止させる。
その隙へ脇から無数の刃が襲いかかり…。
「けっ。またかよ。…回復量を考えると、もうちょい調整が必要か」
玲治の振るった鉤爪より、無数の刃が空に舞う。
冥魔よりに踏み込んだ彼のアウルに後押しされて、切り刻んだ後に何もなかったように造り直されてしまった。
とはいえ先ほど放った時よりは再生量が少ないので、カオスレートか威力を調整すれば問題ない。
「(確かにまたこれか…だね)。…芸が無いな。判っていればどうと言う事は無い、威力調整しながら神秘文字を狙い続けよう」
「だなー。離された分、判がり難いげど、携帯使えば問題ないっちゃ。声合わせて仕留めるべー」
キイは自分の攻撃が存分に通じると知って、仲間たちと共に神秘文字のある額を狙う。
それに合わせて瞳が連絡を取り、可能な範囲でタイミングを合わせて行く。
そんな時だ、玉鋼側で大きな動きが見られたのは。
「おおっ〜。凄いねー。あのおっきなゴーレムが止まったよー」
「上手くいけばチャンスだな。タイミングを合わせてくれって向こうに連絡いれてくれ」
空中からポイポイとルーンを投下していたエマは、玉鋼の飾りをつけたゴーレムの停止に気が付いた。
言われて玲治も巨体に絡みつくアウルの鎖に気付き、一度後方に下がると、同時攻撃してくれるように要請。
この機に飽和攻撃を仕掛ければ、誰かが成功するだろう。
「あいあいさーだべ。ちっと待っててけれ」
瞳は玲治の要請に、武器を止めると、逆手で風を呼び込んだ。
烈風で吹き飛ばすと川の深みに嵌めて、頭を少しでも低い位置に落して場所調整を行う。
さあ、終わりの時がやって来た!
●土くれが土に還る時
「って言う訳で、息を合わせて欲しいだよー」
『構いませんよ。特徴的な攻撃を教えてくれたら、こっちで合わせます』
瞳が連絡を入れた事で、司は動きを止め、カードを投げようとしたエイルズを止める。
このままでもあと数分あれば倒せるが、タイミングを合わせるだけで済む。
「佐藤さー号令、お願いできるだべか?」
「問題無いわよ。そうね、合図は…上空からの斬撃は雷の如く、雷霆一閃ってトコかしらね?」
『…こちらもそれに合わせます。終末をもたらすとしましょう』
瞳が植物の鞭を造りながら頼むと、七佳は天高く登り始める。
彼女が飛行ギリギリの位置まで上がったのを見て、マキナは逆に低く低く、地を這うように体を沈めた。
狙うは威力よりも精度……神秘文字を削る事を重視した攻撃!
天地に舞う乙女たちが、戦いを終わらせる口火を切った!
彼女たちのダイナミックな動きに合わせ、総員がゴーレムの体に照準を合わせて行く。
タイミングとしては、動きが健在で、囲んでいる人数の多い黒鉄側が早めになるだろうか?
「削って削って削るよ〜。ビリビリ来たら、勘弁してねー」
「ワザとじゃなきゃ問題無いよ。さっさと倒して、おふろでも入りに行こう」
初足の遅めなエマとキイが最初に走り出し、ピッチャーとバッターは同時に振りかぶる!
二人の動きを追い越すように、より速いスイングの仲間が攻勢をかけ始めた。
「真理は削り取られ、死へと転ずるってな。沈んじまえ」
『ここで阻止する!俺たちより後ろへは、進ませはしないよ」
玲治と司は違うタイミングで刃を振り降ろしたが、意外な事に同時に着弾した。
ほぼ見切りを避ける為、ランダムなはずのタイミング調整をしているのに、今日はたまたま同じように行動していたのだ。
それとも同時攻撃の為に仕切り直したのが功を奏したのか?ともあれ同時に神秘文字を抉りとったのは間違いないだろう。
「せいっ!」
『はああ!』
七佳とマキナの一撃が直撃したのは、僅か後の事。
刃と拳が同時に頭を粉砕し、戦いの趨勢を決めた。
黒鉄は足を付いて倒れかけ、玉鋼に至っては完全に泥に戻っていたという。
「おやおや…。僕の出番が無かったですねぇ。…中々面白い作品でしたが、どうせなら彼らのきちんとした名前が知りたいものです。ねえ、そこの方?」
『……ぬぬ。気が付いて居たかニャ』
仲間たちがトドメを刺すのを見ながら、エイルズは後方へと言葉を投げた。
そこには暗闇に姿を隠して天使が控える。
「おや、ひょっとしてあれは、賢い獅子にまたがってたニャンコでしょうか?……お久しぶりですねえ。せっかくなので作った人に言っておいてください、次からは作品に名札をつけてよこしてください、と」
『やかましいニャ!でも伝言はつたえとくミャ。おっぼえてろニャ〜』
エイルズの皮肉に捨て台詞を残し、天使は立ち去って行った。
その姿はなんとなく、天使と言うよりは、コミカルな悪役の様であったと言う。
その後、仲間たちは交代で残りの回復法術を掛けて町へと帰還して行った。
敵はまた訪れるかもしれないが、撃退士が居る限り、人々の笑顔は守られるだろう…。