●脅威の復元力!
予定する渡河地点より遥か向こう、迫り来るゴーレムを阻むように甲冑戦士が剣閃を放つ。
音すら存在しない強烈な斬撃の後、フィルムを巻き戻すようにゴーレムは再生した。
踵を返して撤収する甲冑戦士を支援しようと、矢弾が風切り銃弾が炸裂する。
「いやーまいったですね。まさかあんな風に再生するとは思わなかったよ」
「お疲れ様です。…お預かりしますね」
威力偵察に行った天羽 伊都(
jb2199)は笑って、澄野・絣(
ja1044)の出迎えに答えた。
至近で記録した携帯を渡しつつ、手応えはあったんだけどねーと微笑む。
とはいえ敵の進軍は阻めなかったが、迎撃地点に辿り着くまでに画像の考察くらいはできそうだ。
「効いていない訳はありませんが…。攻撃する方もされた方も、どちらも少し破格ですねー」
「天使…いや、大天使クラスの敵を足止めする用途と判断すべきだな」
絣は受け取った携帯を捜査して、画像を転送しつつ、遠目に写した物と合わせて全員に配布した。
その光景を眺めた牙撃鉄鳴(
jb5667)は、先ほどの伊都の一撃は大天使に匹敵すると判断する。
このクラスの攻撃を大幅に回復するが、普通の攻撃を回復しないと言う事は、相手を絞ることで術の強度を上げているのだろう。
「威力が強ければ強いほど、回復する割合が強いと思った方がいいだろう」
「どの辺りの幅が通じるのかは、これから測っていくしかないね。削り落とすしかないか。これは…持久戦になるな」
鉄鳴の推測に頷いて、キイ・ローランド(
jb5908)は苦笑した。
文字通り、自分の体で相手の能力を測る訳だ。
それを恐れるキイではないが、面倒な事になったと思う。
「めんどくさいですねえ、無視して叩き続けるか、護符に切り替えるかな」
「万が一、再生時に状態変化を無効化されたら困るんで、護符の方が安全かな? あるいは、術を無効化できれば別だけど」
伊都が大剣と護符を眺めて悩んでいると、キイはとりあえず現状の方針で提案した。
全てを把握できている保証がない以上は、危険度を最大限に見積もるしかないだろう。
そして、術の無力化という言葉が出た段階で、何人かが首を傾げる。
「伝承通りなら、額のemethから一字削るだけで土に還るんだけど、そんなあからさまな弱点は付与しないわよね」
「でも、あれだけ破格の回復力なら、神秘文字は確かに復元のキーになっていそうです」
佐藤 七佳(
ja0030)は青鹿 うみ(
ja1298)と議論しながら、指をトントンと動かして考えを整理する。
解除すれば一撃で倒せるとは思わないが、復元魔法をなんとかできそうだ。
問題は、その方式が現状では不明ということである。
「明らかに目立つ部分はソレよね……明確な弱点を晒してるってのもおかしいけど、地道に泥を削るのは手間が掛かる…」
画像を精いっぱい拡大し、七佳が挿した場所には銅製の額飾りがある。
うみが言うように回復呪文の前提条件だとしても、あからさま過ぎるのが怪しすぎた。
「あーもう。どうにかしないといけないけど、もう時間も無い。今は留意しておくだけにしときましょ」
「ならっ、調査は任せてください!あたしが可能な範囲で調べておきますね♪」
渡河点に近づいた敵を見つけ、七佳たちは迎撃を再会する。
うみは可愛らし胸を叩いて、先行する事にした。
●神秘の探究
忍者とは元来、影を忍び歩く探索者の事である。
時に世の影に潜み、時に戦場に潜んでナニカを暴きだすのが仕事だ。
「(ふふ、ひっさしぶりの調査調査〜♪)」
うみは鼻歌を唄いながら匍匐前進で、土手から草むらへと忍びこんだ。
視線は川を挟んで激闘を繰り広げる、撃退士仲間とゴーレムの姿である。
「(さーて、今回の相手はどんな子たちかな?天使の科学者?技術者?どっちかは知らないけど、作った人との勝負勝負ー!)」
何度か絶好の攻撃のチャンスがあるが、うみはスルーして様子を確認し続けた。
実際の話、攻撃が何割か回復されたりする事を考えれば、無理して攻撃する事もないのは確かだ。
仲間たちとゴーレムの動きを一つも逃すまいと、目を皿のようにして眺める。
「通さない。君はここで通行止めだ」
「おらおらぁ、おめさんのあいではおらだぎゃあて」
赤銅のゴーレムに対するキイと、青銅を止める御供 瞳(
jb6018)は、じゃばじゃばと川辺に飛び込んで、深みを越えようとするのを抑えた。
刻む為の踏み込みと言うよりは、攻撃を受け流す為の浅い踏み込み。
身を沈め、攻撃を流すように、あるいは相手の体当たりを受けて後方へ下がる。
なぜか?それは簡単だ。
二人は壁役であり、アタッカーではないのだ。
「彼が言ったでしょ?ここは通行止め絶対に行かせないわ!」
「動きに関しては十分に予測が可能よ!人型は関節の可動方向も人間に準じてる場合が多いのよね。(まぁ、中にはそうじゃないのも居るから油断はできないんだけど)」
前衛二人が攻撃を受け止めている間に、石の上を燕の如く陽波 飛鳥(
ja3599)が渡り、後ろから赤銅に迫る!
同様に七佳が青銅へ天空から太刀を振り降ろした。十文字の剣閃がゴーレムたちに刻み込まれた!!
横薙ぎの一閃を受けて赤銅の足を裂き、打ち降ろす刃で青銅の額飾りの下にある文字らしきものが刻み取る。
だが、腹は修復され、額も飾りはともかく、文字自体は修復されてしまう!
「駄目か…。面倒くさいけど。どんな相手でも斬れば死ぬわ。再生するならそれ以上にダメージを与えればいい、簡単な答えよ」
七佳が指摘したのは、単純な理屈だ。
消費するパワーが少ないものの、完全回復出ない以上はいつか必ず削り倒せる。
「そうね。私の方も、天羽さんほど修復されて無いし、このままでも行けそう。…ただ、状態変化は効き難いんじゃないかな」
一方で、飛鳥が懸念するのは、先ほどの手応えを感じ取っていた。
斬りつけた時に回復された総量は、精々半分と言う所で回数を倍にすれば良い程度だ。
問題なのは…、周囲の泥ごと足を削ってしまった事にある。
あれでは衝撃を内面に伝えて、昏倒させたり跳ね飛ばす事が出来ないのだ。
「多分、適当に威力を抑えて壊さないように打たないと駄目ね」
『…なら、その見極めはこちらでやろう。ほどほどのランクから、適宜に上下させて測るとするさ』
飛鳥はがじれったそうにしている声を聞いて、狙撃中の鉄鳴は通信を入れた。
持ちこんだ装備と弾頭を脳裏に描くと、手持ちに威力の強い組み合わせを現出させ、次弾として念頭にやや威力の低い物をマウントする。
一射目で足を砕いて後方組の一撃離脱を援護しつつ、二撃目以降は効果的なダメージ帯を測るつもりだ。
●赤銅と青銅の正体
こうして万全の体制が形造られた。
抜けられたは困る位置に伊都が立って防衛ライン、前衛に二人、後方に二人の挟み撃ち。
そして後衛が、前面に立って戦う者を援護する包囲網である。
『こちらで前衛の攻撃も測っておく。援護はするから、遠慮なく殴り倒してくれ』
「援護はこちらからもさせていただきますね。様々な角度から、情報を収集しましょう」
鉄鳴は続けざまに弾丸を放った。普通に一発、仲間を殴りつけようとする腕へと一発。
彼の援護射撃に続いて、絣はゴーレムの移動先へ矢を放ち続けた。
防御支援と攻撃阻害、合わせて仲間の行動をサポート。
どうやらこのまま戦い続けられそうだと言う段階で、絣は監視を続ける仲間に連絡を入れた。
「(うみさん、何か判りましたか?)」
「(えっとー。基本的にはどっちも同じゴーレムみたいなんですよっ。…赤銅の方は攻撃とか能動的な部分を、青銅の方は逆に防御みたいに受動的な部分を強化してあるみたいですね)」
絣からの通信に、うみは簡単に撮影した二つの動画を送り返す。
その画像は、ほぼ同じ軌道で放たれる赤銅と青銅のパンチで、タイミングが少し違うだけだ。
『いち、に』。…と、『いち、に、さん』。の差くらい?
赤銅の方がスイングスピードと、追尾性能が若干向上しており、青銅は逆に防御面で優れていると言う訳である。
「(大体わかったので、いまから実験してみますね。)まずは青銅、次に赤銅にいきますよっ!」
「いきなり飛び出たら、危ないですよー!」
うみが元気よく飛び出すと、絣は思わず慌てた。
いわゆる、追いついてごらんなさーい♪の状態で川辺を走るのだが、敵相手に上手くいくはずがない。
青銅が接敵できない位置を通り抜けることに成功するが、赤銅には追いつかれ可愛いらしい頭を……。
ゴッ!!
巨大な鉄拳が少女の頭を粉砕!?
そう思った時、そこあったのはビショ濡れになった制服のみである。
「心配させないで下さいー。判りましたから、次はこんな危ない事はしないでくださいね」
「ごめんなさいです……ええと、あの。今の、ちゃんと見えました?」
あなりの無茶に、絣はめーっ。
お姉さんポイ怒られ方だったので、うみはてへへと笑って照れた。
反省しますと合掌すると、ようやく許してくれたのか、『続き』を相談し始めた。
「…回復の方も、なんとかできれば早いのですけど」
「額にある神秘文字がキーなのは確かだと思うんですけどね。削れても砕けても駄目って…。やっぱり同時に撃破とか条件があるのかなー」
絣とうみは、少しだけ首を傾げた。
正直な話、いかに魔法とはいえ、同時に撃破されるまで回復し続けるなんか設定出来ないはずだ。
となれば何かシンプルなミスリードがあって、勘違いしてしまている気がしないでもない。
だが、その偽装を暴きだせないでいるのだ。
彼女たちがそんな風に考えていた時…。
「ねえ。…もしかして、あの文字は隣のゴーレムの用の呪文なんじゃない?私が赤銅を後ろから倒した時、青銅の額が光った気がするんだけど」
「言われてみれば…青銅をブン殴った時ぃ、別に輝いてねえけんど、時々光るべな」
コア部位を探しながら赤銅の背中に斬りつけていた飛鳥が、そんな風に青銅の様子を指摘する。
青銅に対する瞳も、言われてみて目端に映った光景を思い出していた…。
●総反撃だ!
つまりはこういう事だ。
青銅に描かれた神秘文字は、青銅の装備であるが、赤銅を復元する文字。
頭を斬りつけて、赤銅を直す為の文字が破壊されても、青銅自身の文字は赤銅の額で無事なのだから、復元されると言うだけ。
「なるほど、ね。…判ってみれば、この程度の土塊、手間が掛かるだけで大した脅威じゃないわ。数が揃ったり火力特化の長距離支援型でもいれば話は別だけど」
七佳は苦笑しながら脳裏に待機させている対戦車ライフルに持ち変えた。
これまでの戦いで傷つきはしたが、援護に徹すれば問題ないレベル。仲間たちも同様だ。
回復ごと押し切れるからこそ、気が付くのが遅れたとも言えるが、しょせんはその程度の脅威でしかない。
「そろそろ追い込む事にしましょうか。牙撃さん、青鹿さん、次のプランの準備はいい?」
『こちら牙撃、問題無い。通用するダメージ所源は先ほど送った通りだ。…新型弾頭、試させてもらおう」
七佳が戦いの最終章を宣言すると、鉄鳴は酸弾を呼び出した。
相手の防御を調整する事で、負担を彼一人が引き受ける事とが出来る。
「こちら青鹿。じゅっ、十秒ください。必ず文字を削って見せます」
「仕方ないわね。ローランドさんと御供さん、その間、止めておけますか?」
うみは急いで武器を変更しつつ、移動ルートを確認した。
彼女の返事を聞いて、七佳は前衛達に足止めを依頼する。
これで大怪我でも負っているなら、プランを変更する必要があるからである。
とはいえ前衛たちも、傷付く役目と知っているからこそ準備に怠りは無かった。
「問題無いよ。騎士は最後まで倒れちゃいけないんでね」
運動性の高い赤銅を担当しているキイは、血を吐き出しながら回復呪文を唱えた。
一番危険な彼は攻撃よりも入念な防御を張り巡らせ、使い切った呪文はダウンさせて、即座に入れ替えている。
「御供君の方は大丈夫?同時攻撃に参加できるかな?」
「おらもなんとか!こういうときの為に、用意しているだよ(…旦那さまぁ、今日もオラァは頑張っているっちゃ。上手くいってけれ…)」
キイは隣だって戦えないため、守りきれない青銅担当の瞳を見た。
彼女は回復こそできないものの、受動型の青銅相手であり、もあらかじめ防御重視のスタイルで戦っているので余裕はあった。
そして切り札を一枚、用意していたのである。
「Ohっ!冷やっこーい、だよー!!」
「っ。水を散らすなら言ってくれればいいのに…」
瞳が川に手を付くと、水面が揺らいでザパーン!
お陰でキイはずぶ濡れになったが、青銅がふっ飛ばされて川の深みにはまった。
彼女はこういうときの為、あらかじめ深い部分との距離を測っていたのである。
なにも一撃で倒すだけが策ではない、必要な時間を必要なだけ稼ぐのもまた、重要な策である。
●激闘の果てに!
そして、後方から援護射撃が始まった。
『酸を撃ち込む。これでペースが早まるはずだ』
鉄鳴は橋の上に伏せたまま、弾丸を廃莢して次弾を装填。抵抗された時に備える。
だが、予定通りに効果を表したようで、仲間たちの猛攻が始まるキッカケとなった。
四方八方から攻め立てる撃退士に、ゴーレムたちは、前衛や後方目指して襲いかかろうとする。
「後方を襲う気かな?でも、行かせないと言っただろう?」
キイの剣閃が赤銅のゴーレムと打ち合いつつ、一進一退の攻防で封じ込める。
いかに剛力であろうと、僅かなこの一瞬を封じ込めるには十分!
「お待たせしましたー。糸を併せて絣、絆の糸を併せた私たちの一撃、受けて見てください……っ」
「糸の半分で絆。ひとりでは紡げぬ糸。――宵闇羽箭。推して参ります」
そして絣とうみによる、連続攻撃が訪れる。
絣の放つ光の意図。うみが束ねる闇の意図。
二つの意図が一つになって、糸として寄り合わされ赤銅と青銅に降り注いでいく!
インパクトの瞬間を合わせるのは、タイミングを合わせても難しいが…。二段連続攻撃を放つ事でタイムラグ乗り越えたのだ。
「神秘文字が…。今です、全力開放!!遠慮は不要ね」
「私は最初っから遠慮してないけどね。でもいいわ、苦労した分、サックリいきましょ」
七佳と飛鳥はアタッカーの名目を存分に果たした。
これまでの、粉砕した次の瞬間から、再び術が掛け直されるフラストレーションを存分に晴らす時が来たのだ!
銃から太刀に戻し、縦横無尽に振るわれる斬撃…いや、斬劇の幕が上がった。
「おらたちの勝利だっぺや。旦那さまも、何処かで見てくださっだがな…」
瞳もその乱舞に加わって、思いっきり戦うことにした。
振るうは真っ向唐竹割り…、明日を切り開く一撃!
やがて敵後方にあった気配も消え去り、撃退士たちの勝利が確定したという…。