●初陣の少女達、そして…
種子島の暑さの下、撃退士たちは到着した。
町を背にし、万が一を避けつつ、悪を遮る壁となる!
「うちら初めての依頼やから、なんかドキドキするなぁ」
「左様ですわね。このような形で宜しいでしょうか……」
何事にも最初というものはある。
戦闘訓練は受けていても戦い……、特に初陣というのは緊張の連続だ。
依頼初心者である黒神 未来(
jb9907)と鏡月 紫苑(
jb5558)は連れだって、頼もしい仲間の方を振り向く。
そこには不慣れな二人に色々(たぶん桃色)教えてくれる優しい先輩が居た。
「大丈夫。みんなで一緒に戦うし、前に戦った子たちも居るんだって♪」
「それは心強いですね。よろしくご指導お願いしますね」
「なら後は戦うだけやね。せやっ。うちと、どちらが早くサーバントを倒せるか、勝負しません?」
夏の息吹は美しく、懸命に頑張る後輩は初々しくて可愛いものだ。
そう思うと卯左見 栢(
jb2408)には、この季節独特の汗の香りすら芳しく思えてくる。
紫苑が隠れた場所の確認を頼むと、もう少しどうのこうのと経験から教えつつ手取り足とり〜。
ちょっとした勝負で初心者の緊張がほぐれるならば、おねーさんとして乗ってあげるのが経験者の務めだろう…と。
そんな未来たちを、ドキドキしながら後方で見つめる姿がある。
森影に隠れたうえで、顔を手で覆って視線を隠し…。指の間から仲良い3人組を見守っていた。
「(大丈夫かなあ。うまく隠れているかなあ。あたしも確認してもらった方がいいかな…。そういえば、卯左見さんってなんだかスキンシップ過剰な気がするなあ。…そういう趣味の人だったらどうしよう)」
どうしよう、どうしよう…。
3人を見つめる小動物、緋桜 咲希(
jb8685)は震えていた。
戦う前からこの有様である……。熟練者だからと言って、落ち着きはらっている訳でもない。
肩を抱いて百合セクハラつきの指導したり、鴨葱しょった勝負の話になって更に…咲希はコンランした!
「(どうしよう…注意した方がいいのかなあ。でもただの指導かもしれないし…。わーん早く戦闘始まらないかなあ。…でもそうなったら怖いしなあ。どうしよう)」
にゅー。
もし、本当にソノ毛のある人だったら、自分もピンチだ。性的な意味で食べられてしまう。
赤くなったり青くなったりしながら、咲希の百面相は続くのであった。
●包囲網
一方その頃。
少女たちが青春を謳歌(?)しているさなか、森側の班は程よい緊張に包まれていた。
軽口叩いて命を弾丸に、危険など承知で矢面に立つ。
「あのまま共倒れしてくれたら話も簡単だったのだけどね…」
「嵐のようにとぶ弾丸とか・・勘弁しろよって感じだよな」
木漏れ日の中を歩きながら、肩をすくめての苦笑いが交差する。
走れば攻撃範囲に入れる段階で、シュティーア・ランドグリーズ(
jb8435)は阻霊符使用を起動。
嶺 光太郎(
jb8405)はその僅か間に、先ほど双眼鏡で確認した姿と、端末にダウンロードしてもらった画像を見比べる。
そのままタッチパネルで画像を変えて貰うと、仲間たちが居るはずの場所に光点が点滅していた。
町への出口側に本隊のマーク、そして自分たち4人のマークを見つけ射線を簡単に計算する。
「更新状況からいって、本隊も到着してんな。なら出番かねえ」
「そうだね。……私たちの方はいつでも行けるから」
『…了解。こちらも、手はず通りに…行く』
光太郎は胸ポケットに端末を押し込んで、音声が耳元に届くかを確認。
彼の準備が整った辺りで、一足先に同様の処理を終えたシュティーアは、先行している紅香 忍(
jb7811)に連絡した。
囮班の中でも、甲冑型との戦闘経験がある彼がトップバッターだ。
一同の前に小さな影。…それが滲むように姿がずれ始める。
華奢なその身が二つ、三つと増えた時が最後の準備を終えた証だ。
「…また、馬鹿?…馬鹿…何匹いても…ゴミ…殲滅…」
忍はチロリと赤い舌で、乾いた唇を舐める。
ランクに比して強力な個体ではあり、侮る気はないが、忍者の彼にとっては好相性。
それゆえに少年は、真剣に一手目……自分自身の配置に万全を重ねる事にした。
うまく考慮し、攻撃の当たる位置に居なければ、後は積み将棋でしかない。歩が成金に化けた所で、桂馬に当たる忍へ迫れるはずもあるまい。
「本隊も動き始めたそうです。時期に合図が来ます。行動を開始しましょう」
『おーらいっ。ほんじゃあこっちも、おっぱじるとしますかね。…って?どうしたよ』
最後まで位置情報とタイミングを測っていた山科 珠洲(
jb6166)が、翼を広げ飛び去った。
それに合わせたのか、光太郎が少年同様に分身を引き連れて散開したのを確認。
分身は直撃すると消えてしあう為、忍と距離・時間差をつけて半包囲に展開する為だろう。
そんな彼が、少し遅れて続くはずの少女が追随してない事に気がついた。
「(ズーン、小学生と身長がかわらないって)……い、っいや。なんでもない行こっか。雑魚だと思って直撃食らわないようにね」
「変な奴だなあ。……まあいっか、いっくぜ」
「…GO」
ショックで返事の遅れたシュティーアは、苦虫を噛み潰して木陰に潜む。
射撃体勢を確保して、援護射撃の構えだ。
よくわっかんねーと呟いた光太郎だが、ポツリと忍が指示を出したことで面倒くさそうに走り始めた。
目的は正面から半包囲で距離を詰め、町側から迫っているはずの本隊から目をそらせる事。
『両隊総員、予定位置から行動中。これより初動攻撃を仕掛けます、撃ち方始め!』
「いっくよー、そーれ!」
天空を舞う珠洲から、端末越しに通信。
上からの監視により、状況が予定通りに推移していると報告が入った。
雷帝の鉄槌が落ち、アウルの刃が羽と化して戦場を駆ける。
●戦闘開始!
森側より魔法、甲冑から嵐のような弾が交錯!
町側に隠れた本隊は、囮班がガッチリ食い込むまで、少しの時間だけ歩みを止めた。
「きゃー珠洲ちゃんの空中管制カッコイイー!シュティーアちゃんの狙撃もさっすがー!(忍ちゃんはなんで女の子じゃないんだろう…残念/・ω)」
「情報の援護や、敵の攻撃が当たらない位置を心がける…。そんな戦いがあるんですね…」
今飛び出しても相手に全周対応させるだけなので、今はジっと我慢の子。
一刻も早く戦いたい気持ちをおさえて歓声をあげる栢の手を取って、紫苑はしきりと感心していた。
乾いた砂が水を吸うように、貪欲に知識を求め、それを経験に変えようと先輩格である彼女に尋ねる。
「うっうん(照)。迂闊に飛び出たら駄目だよ、連携重視して…」
「弁えておりますわ。貧弱な身にございますから、援護に徹しさせていただきます」
攻め受けの問題があり、栢はスキンシップ返しに弱かった。
紫苑に手を握り返されて照れ照れ…。
うむ。良い感じのヘタレ具合なので、十八禁的な展開はあるまい。
後ろから案じる誰かさんが安心してると、かねてよりの事案が迫る。
いよいよ突撃の時がやって来たのだ!
『…いま』
「行かなくちゃ。ううぅ……近い程安全な筈だけど、敵の中に飛び込むの怖いよぅ……」
ガンガンという銃弾の音を伴い、囮班である忍からの指示が告げられる。
もう駄目だー!?
パニックの極致に陥った咲希の頭脳は、たった一つだけを追求するしか余裕がない。
敵を倒すか、さっさと殲滅するかの不毛な二者択一だ。
「攻撃されない内に倒さないと…。できるかなあ」
「おっ。景気良いやないですか。いかに先輩ゆうても、チビっこには負けんで」
咲希の機嫌は二重底だ。
計画段階でドン底に落ちて、準備前に上げ底から落下し、また落ちる。
弾雨に対する恐怖はもうやった、なんどもシミュレートして、流れ弾を見るたびに逃げ出しそうになった。
今はダウナー街道の最下層だから、後は…、テンションが煮詰まるだけだ。
だから、一刻も早く消し去る為に…ハンマー片手に猛攻を掛けよう。
未来は見た目には果敢に見える、実は悲壮な突撃を見て、彼女なりの応援歌を唄う事にする。
「ナイスビートな、とっつげき〜!挟み討ちの開始やで。仰山乗るけ、狙い付けんでもええのは助かるわ♪」
「あは、そうだね♪甲冑ちゃんの背ぇとーったっ!!」
ここに来て、知識はやっと生々しい現実へと変わる。
これを幾重にも積み上げて、終わった後で、ようやく経験になるのだ。
未来は明日へ続く歌を唄い、歌声をアウルの塊に変えてギター越しに解き放つ!
ドヤ!♪
そして栢も一緒になって、アウルの波状攻撃。
風をまとって距離を詰め、近距離から対面に向けて拳をかざし…。
「情報通り、当初の相手に専念してるみたいだねっ。囮班の分身さんも消えちゃったし、油断しないでイコっ!」
「了解や。このまま押し込むで!半端無しや!」
栢の手から放たれる、凝縮された夜の力が、傷ついた敵を数体ほど残骸へと変えた。
彼女の放った闇色の拳に刺激されたのか、未来も駆け付けて拳を握り締める…。
このまま一気に数を減らさねば、仲間たちに危害が及んでしまうだろう。
●鉄甲陣を切り裂く、炎の十字架
前後から挟み、そして白兵距離へ。
肉薄した事もあるだろう。囮班のみならず本隊側にも怪我人も出始めるが、優位には変わらない。
「右にかわして!弾来るで!」
「ヒィ!痛い、痛い。先遣隊が治してくれるはずだけど…。ヤダやだ痛いのヤだ。…早くコロさないと」
ドドド…っ!カンっ、トストス…。
未来の声を聞いて半歩反らせ武器を構えたものの、咲希は何発かくらってしまう。
彼女が攻撃を弾き、直撃し、当たらないまでも至近弾が出るたびに、彼女の目的はシンプル化。
殺せコロセころせ。ああそうだ、綺麗サーッパリ消し去れば良いよね。
「アハはハ!キ・エ・ロ!えッとぉ、ドウいウ殺し方ガイイのかナぁ。斬殺、そレトも刺殺ぅ?」
「うちの事なら堪忍な!っと今度こそ避けてや!!」
狂乱したかのように、咲希は言葉と暴力を振りかざす。
半壊した個体を見つけ、脇腹?の亀裂から腹に掛けてメッキョメッキョと、その隙間を埋めるように鉄槌を振りおろした。
離れた後には平たく延ばされた鉄板が残り…、その上に砲弾が飛来して真新しい弾痕を作り上げる。
新手の甲冑が射撃したのを感知して、咲希の予測と未来の眼力が一致したのだ。
二人掛りの予知が、数秒先の運命を回避させる!!
未来は自分の力がまだ未熟であることを理解すると同時に、決して辿りつけない境地ではない事を悟った。
「…今のは一人だと、ちぃ〜と足らんかったなあ。せやかて、届かん距離やない」
「これからゆっくり登りつめれば良いんじゃない?焦らずにイけばいいよ。未来ちゃんも紫苑ちゃんもね」
「そうさせていただきますわ。(私の力ではまだまだ。どう戦えば、もっと有効に…)」
少しだけ残念そうな未来の肩を叩いて、栢はリラックスを呼び掛ける。
彼女はまだまだ撃退士という坂を登り始めたばかりだ。
やっほう甲冑ちゃん、ご機嫌いかが?なんつって!!
とか言いながら栢がニコニコ攻撃してる中、紫苑は別の視点で戦いを見る。
自分が及ばないのは確実なのだ。ならばここで見るべきは…。
『確実に数を減らしていくよ、合わせて攻撃して!トドメはこっちでやるからドーンとお願いっ」
「承知しました。一網打尽、にございます…」
「ほいよ。とりあえず、協力して数減らそうぜ。んっとに嵐みたいに降らせやがって…あーうざかった」
反対側に居るシュティーアからの通信。
それに合わせて紫苑は無数の火の粉を束ね火の道を作り上げた。
直線的に何体か巻き込み…、そこへ別口の火線が横入りする。
火元では、いつの間にか近くにいた光太郎が佇んでいる。
彼は分身を使い切ったのを皮切りに、隙を見て近寄り肉薄していたのだ。
光太郎と紫苑の作り上げた炎の十字架を上から眺め、状況を更新、新しい指示が下る。
『上出来です。生き残った個体は私とシュティーアさんで仕留めます。二人は注目されましたので、位置を変えてください』
「了解だぜ。つーか面倒だから全部任せたいね」
「はい。『たいみんぐ』を合わせて、退かせていただきます」
上から管制していた珠洲は、範囲攻撃を受けて生き残った個体を狙い討つ。
稲妻の剣を眼下に落し、仲間を傷つける敵を処断!
アタッカーが敵を粉砕する中で、紫苑はスコアよりも戦況コントロールを理解しつつあった…。
●終焉
戦いは終盤へ。
ここからは無事に帰還し、取り逃がさない事が重要だ。
「中途半端な集団だったね。将棋の駒みたいな感じ?」
「ロボットのような印象と聞いた事が…。ここまでコスト重視だと、いっそ清々しい物がありますけど」
光の羽がまた一体の甲冑を葬った。
羽状の刃が面白いように装甲を切断するが、シュティーアが放ったのは技ではなく、ただのアウルだ。
珠洲は稲妻の剣を落して次の甲冑を削りつつも、構造から来る耐久性と、まとめて投入される数に苦笑していた。
鎧を動かしているだけではないか、と思えるほど魔法に脆弱。加えて思考能力が殆どなく最初の命令に固執する…。
良くも悪くもロボット、あるいは将棋の駒のようではないか。
「なら状況判断ができ、指示を下す現場指揮官みたいなサーバントつければ…もっと上手く動かせると思うけどね。東北の奴みたいな、そういうの居なかったの?」
「私の時には見ませんでしたが、そういう事例もあったとか…。そちらはどうですか?」
…私が知らないだけでいるのだろうか…?そう尋ねるシュティーアに、珠洲は半分肯定し半分ほど否定した。
居るらしいし、そうである前提の様だが…生憎と自分は見ていないのだと告げる。
そのまま目を滑らせて、戦った事のある別の仲間に確認してみた。
「(今なら確実に倒せる)。……これの大型、くらい…?」
岩陰に隠れた位置から、スルリと抜け出して小さな影と刃が甲冑の懐に潜り込む。
仲間の攻撃したその個体はあっけなく動かなくなり、忍は残骸を蹴って離なす。
これであと1…、いや終わった所で尋ねられた答えを口にする。
これで戦いは終了だろう。仲間たちが一人また一人と集合し始めた。
「痛かった…うぅ」
「うちより倒しとったじゃないですか。泣きたいのはこっちですわ」
「今日もええサーバントと戦いましたなー…おつかれっ!何奢ってもらおうかな〜」
咲希がグッスンとリアルに、未来が嘘泣きで戻ってくる。
そんな両手に花の状態に、栢はルンルンで汗を拭ってあげた。
「あぢぃ〜。奢りはともかく、冷たいモンでも飲んで帰るか」
「先遣隊も合流するそうです。無事の終了、お疲れ様です」
光太郎がダルそうに戻って来ると、紫苑は依頼が終了したと告げる。
戦いを終えた一同が、自販機に向かったかは定かではない。
だが、町の平和が守られた事は確かだろう…。