●その役割はロクンロール
『カウントダウン省略、六十秒後に総転移開始!』
「鬼姫たちにお任せください、これより急行いたしますの」
『その意気だ!迎えの船に治療士を数名同行させてる、好きなだけ暴れ回ってこい!』
目指すは種子島北部沿岸の離島。
発覚した冥魔の計画に、撃退士たちがスクランブルを掛けていく。
ふぁさりと紅 鬼姫(
ja0444)たち何名かは転移開始の合図に合わせ、アウルの翼を広げ始める。
光の翼と闇の翼が、陰陽八卦のスタートダッシュを彩り始めていた。
『…種子島の状況をひっくり返せ!それだけだ』
ここには心情で動く者、金で動く者、戦う為に来た者それぞれに理由は違う。
だから出がけに余計な事をいうつもりはない。
ゆえに九重・誉が口にしたのは、ただシンプルな激励であった。
「行ってきます!」
居残る者たちから怒号、そして踏みしめる足音による激励が次々と飛んでくる。
昭和時代の生き残りである大人たちが、アウル溢れる若者たちに種子島の明日を託した瞬間だった。
キイ・ローランド(
jb5908)が返礼した瞬間、世界は明滅と共に急変する。
「…転移誤差きわめて少なし。これより状況を開始します。最初に目指す集会所はあっちだよ、ついてきて」
「了解。…ディアボロ化から助けられそうな人が見つかるのは珍しいわね。せっかく助けられそうだし、やれるだけやってみましょう」
「変異中……(ああ、是非に中身を拝見したいのDEATH……!)」
冷静に周囲を眺めて仲間達の配置を確認した後、耳元のインカムで呟き、キイは駆けだした。
次々と飛び去る仲間達をしり目に、手を取るようにして歩行組が後に続く。
急行する飛行組とは別に、彼らが担当するのは実行ルートの確保だ。
後に続く氷雨 玲亜(
ja7293)の言葉を聞いて、ブラウト(
jb6022)はどこかウットリとした表情を打ち消した。
「思うのは自由だけど、口に出したらメーなのよ?」
「流石に判っているのです。まぁ当然無理ですよねー♪」
「二人とも、何をくっちゃべってるのですか?ゆっくり急いで確実に突っ走りますよ〜」
ぶっそうな事を考えてるんだろうなー。とErie Schwagerin(
ja9642)が微笑みながら友人たちの脇を固める。
ブラウトがお手てをグッパしながら笑い返すのを見て、マイペースだなあとハートファシア(
ja7617)は逆サイドを固める。
どっちがマイペースなのよと言われながら、邪魔する敵だけ蹴散らして集会所に突き進み始めた。
●髑髏の構図を分断せよ!
この離島において、敵の配置は髑髏の構図をしている。
一同がひと塊りになって島中央、髑髏の目部分までに差し掛かった時。
数チームに分かれて、ある者はそのまま、あるものは左右にと突撃し始めた。
「此処は任せてなのよ!ドックの人たちと、幽霊船をお願いするのねっ」
「お願いするね!みんなで島の人達を救出しよう…」
周囲から群がり始める魚人型のディアボロたち。
一体一体は雑魚と言えど、いちいち相手にすると人々を守れない…。
そんな中で、ニャンコ型のアウルが炸裂して消えた。
白野 小梅(
jb4012)は屋根の上にピョコっと翼で飛び乗りながら、お友達である川澄文歌(
jb7507)を見つけて移動の支援を開始。
彼女達、髑髏の歯を目指して行く者たちを援護射撃だ!
「にゃは、ココはぁ学園が占拠したのぉ! ディアボロはぁ寄るべからずぅ!」
「積極的な戦闘は集会所より少しだけ距離を開けてください! 狙撃手は内側、白兵班は外延です(水城要、参ります…)」
小梅が箒を振り回して屋根から砲撃!
ニャンコ型のアウルが炸裂する中、直撃を受けた魚人は傷つき倒れ、あるいは引きずり降ろそうと右往左往する。
中には一団を率いて登ろうとする集団も居るが、小梅と同じように集会上を守ろうとする水城 要(
ja0355)たちが取りつき始めた。
高台の砲台役を守るのは勝利の鉄則だが、集会所の中には守るべき民間人が居るからである。
「…集会所自体に何か在ってからでは遅いですし。阻霊符も途切れないように誰かが使用しておきましょうか。もしもの時、の為ですね」
「はいはいさー。露姫様! いくっすよー!」
「モネ、サポートは任せたぜ!俺は全力で火力勝負だ!」
要の気配りによって、仲間たちも位置を積極的に調整し始めた。
大地より無数の手を生み出した強欲 萌音(
jb3493)は次々に魚人達を絡めとり、宗方 露姫(
jb3641)が天を彩る花火を作り出してなぎ払っていく。
数だけは居る魚人たちを、絨毯爆撃で削り取っていくのだ。
魔法による雷光、火炎、魔力を込めた銃の雨あられ。剣電弾雨とはまさにこの光景だろう。
その間を白兵組が駆け抜けて、ある者は髑髏の歯に当たる部分へ走り去り…。
別のある者は敵兵全てを討ち倒すべく、縦横無人に暴力の嵐と化した。
「大丈夫だ。一体も残さんから、後ろは気にせず行くがいい。我が前に立つ者は見敵必殺…そう心得よ」
「そうそう。手当たり次第に倒して行きましょ。名乗りを上げて真っ向勝負、なんて魚男相手に騎士道貫く義理も無いしね」
一口に敵を倒すと言っても、人それぞれにペースは違う。
不知火 蒼一(
jb8544)は剣の炎を、稲妻と呼べるまでに収斂して叩きつけた。
敵が寄れば斬る、見当たれば斬る…。と仲間と連携しながら一体も逃がすまいと、暴れ狂う。
その一方で、集会所の周囲で戦う彼らの影から、赤星鯉(
jb5338)のように裏側から回り込むものも居た。
周囲にある民家の裏手に回って、倒せるものから倒して行くのである。
●髑髏の構図は、髭海賊へと
戦闘によって騒がしくなる事で、集会所とドックの周りには増え、逆に道筋は相対的に敵が減っていく。
意図してそうした訳でもないが、単純な頭脳ともあり判り易い行動にでるのだろう。
いつしか敵は、髑髏の構図で言えば目と歯に群がるように、上下の輪と化していたのだ。まるで絵に描かれた海賊の濃い眉ヒゲのように…。
「…道が開けたな」
「やっと移動してもらえるね。さってとー…いい加減俺もさ、我慢の限界だよね。ぶちのめしながら突き進んでいこう」
髑髏の歯へ向かった面々の内、幾重もの壁が破れ始めた。
空を飛んで先行した牙撃鉄鳴(
jb5667)は、一枚目の壁を打ち破り徒歩組が合流して来たのを確認した。
彼の奏でる砲火の旋律の下で、霧谷 温(
jb9158)はようやく行動を開始出来る。
これまでは自分たちはともかく、捕まった人たちを保護して行くには少々厳しかったからである。
護衛の人数が揃い、変異している人を誘導しても、説明役が先行できるのは大きいだろう。
「先行します。…ロベルさんたちに話の通じそうな人の特徴を聞いてきました」
「なら安心だね。それじゃ移動するよ!動ける人は動けない人に手を貸して!!折り返しでゴメンけど、同行してくれる人は護衛をお願いね!」
重要なのは熱意と、話を聞いてもらえるタイミングだろう。
恐怖でお互いの頭が混乱していては意味がない。御祓 壬澄(
jb9105)はドックに集められた変異した人々と、集会所に居るまだ無事な人々を思い描いた。
温が人々の周囲に護衛となる撃退士を迎え入れたのを確認して、先んじて移動し始める。
後は…集会所で守っているチームと合流しつつ、その案内で施設内に庇うだけだ。双方が落ち着いた今ならば話も聞いてもらえるだろう。
ややあって、携帯越しに集会所側からの返事が返って来た。
『もうひと踏ん張りだよ!いまからドックから来る人たちに、一歩も近づけんじゃないよ!!』
『…聞いての通り、こちらも随分綺麗になりました。ルート固定に何名かが動いています。辿り着くまでにはなんとか』
『お願いします。近くまで行けたら、片手をあげて合図しますので、迎え入れてください。…それと、場合にもよりますけどスピーカーの準備を」
アイリ・エルヴァスティ(
ja8206)の張り上げる声が、治療よりも確かに、周囲の撃退士を激励していく。
やる気を振るい起こしたメンバーが再び立ち上がる様子を叶 結城(
jb3115)は伝えつつ、電話で状況を伝えあった。
壬澄は早足で駆けながら、万が一にも混乱しないように。沈静させる為の手はずを伝えあう。
アイリと結城は冷静さを呼び起こす法術を、壬澄たちは優しさを思いだせるように、懐かしい歌を唄うとしよう。
こうして髑髏の歯にあたる部分の内、上あごに当たる簡易ドックを守る必要はなくなった。
護衛たちは目の部分へ逆戻りを始め、残る者は一足先に下顎部分…。
幽霊船討伐に向かった者たちに、合流する為に移動を開始した。
「健闘を祈る。…さて。ここが種子島の分水嶺か…。責任は重大だが、やり遂げることにしよう」
鉄鳴は集会所に向けて走り去る仲間へ振り向きもせずに言葉だけを送ると、冷徹にトリガーを引いた。
手近な…ではなく、自分を置くべきスペースを狙える魚人を吹き飛ばし、占有地を確保する。
手早く移動して岩陰に伏して射撃体勢を作り上げると、構えなおした銃眼に…幽霊船の撃沈される未来と、種子島の未来を夢見始めた。
これより放つ一撃ごとが、天魔の居ない明日へと登る一歩であった。
●ボーディング(接舷攻撃)
櫛削る。
ザンバラな髪を櫛で丁寧に梳かすように、状況は均らされていった。
髑髏の歯に屯する幾多の魚人達をなぎ払い、陣容を整え始めたディアボロたちを踏み砕いて行く。
「あと少しだ…。集中しろ…今俺に出来る事を確実にこなしていけばいいんだ……」
「あんま気にすんな。ここまで来て、とり逃がしゃしねーよ。だろ?」
「そういう事だ。俺たちも一度は追い払われたが、ここまで戻って来たんだからな」
水辺の優位を生かし、撃退士の割って入れない海側から魚人は集う。
かっ飛んで駆け付けた戒 龍雲(
jb6175)たち飛行組も、分厚い人壁にはウンザリ。そんな中、先遣班のロベル・ラシュルー(
ja4646)は笑って担いだ銃をスライドさせる。
シャコンとポンプアクションの音がした後、ショットガンは無数の弾をばら撒いた。
炸裂して当たるを幸いに陣列へ穴をあけ、そこへリアン(
jb8788)は光の輪を撃ち降ろす。
狙うは最も傷ついたギルマンではなく、上から見て仲間の移動を妨げる個体である。
圧倒的な戦力に一度は下がった先遣の撃退士たちは、諦める事無く、飛行して駆け付けた龍雲たちと共ににじり寄っていく。
一歩、また一歩と幽霊船の撃沈…。いや、勝利へと突き進む為だ。
「シマイとやらが担う冥魔のビジネス。ここで潰えさせてもらう。…取りつきさえすれば、コアに誘導できる」
『ならばその手助けでもさせてもらおうか。援護する…行け』
リアンの放つ光輪から生き延びた敵を狙って、携帯より鉄鳴の声、そして強烈な銃弾が援護を開始した。
簡易ドックの人員収容が終わったのか…。そう理解すると、荒い息も少し落ち着いた気がした。
額の汗を拭うのも惜しく、この気に先遣班も飛行班も転機を悟った。
「隙が見えた…。ならばこれを助長します…。こっちです!」
「敵の一部が挑発に乗って…人垣が割れていきます。これならっ行けそうですね」
「間に割って入るでござるよ、続け〜でござる!」
場が混乱したことで、魚人達の統率が乱れた。
この隙を逃すまいと、戦部小次郎(
ja0860)は再び敵の目を惹きつけて、魚人の一隊を誘導し始める。指揮下になければ、簡単に戻る事もあるまい。
最初はほんの少しだった隙間が、海を割るように開けていく瞬間だ。
水葉さくら(
ja9860)とエイネ アクライア (
jb6014)は連れだって…、というわけでもないが、この機を幸いに前進を再開した。
さくらは援護に雷鳴を呼び込んで乗船しようとする魚人を撃ち落とし、エイネは倒れたそいつの隣に降り立ってトドメ。
魔書や剣を振りまわして仲間たちを鼓舞する。
「海はお主らの物等ではござらん!拙者の物でござる!! まずはそこの大型リング!」
『話に聞いた魔道投石器か。あれを潰せ、敵の横入りは気にしなくていい」
「周りにいる弾丸用のギルマンごと叩きつぶせば良いよね…。迎撃が来ないなら…」
剣先でエイネが示したのは、救助用の浮輪に偽装した魔道のリング。
良く見れば煌めく円輪が連動し、周囲の魚人を放り投げ、穴のあいた人壁に増援を送り込んでいた。
辿りつくのを邪魔しようと飛んでくるカットラスを、鉄鳴が次々と撃墜!
龍雲たちがその輪の一つひとつに取りついて破壊し始め、まずは出力をダウン。いずれ破壊しつくすと群がり始めたのである。
「取りつきました。みんなで倒しましょう…っあーもう。次々…」
「よし!有象無象の雑魚共が必死なのも落されたら後がないからだ。コアを中心に内部から破壊するぞ!」
「(……好機)。死ね…」
さくら達が乗り込み始め、仲間に当たらないようにだけ気をつけて攻撃を再開する。
上空に居たリアンたちも次々と降り立って、爆撃から精密攻撃へと切り替えていく…。
甲板が激戦区になった時、岩陰から様子を見ていた影が水面上を滑るように…。否、本当に走り込んだ。
紅香 忍(
jb7811)が目指すのは、ガッチリと固められていたはずの船体側面から後部である。
彼は上空からの爆撃や、陸上からの接舷攻撃によって、魚人達の動向がそれるのをジっと待っていたのだ。
仲間への援護や、互いのフォロー位置を無視して、ただ効率的な一点を目指す。
「…手応え。アリ…」
ゴン!
と鈍い衝撃が走った後、突き刺してからは機械と言うよりは、生物じみた感触に切り替わる。
ズブリと内部を直接引っかき回す手応えに満足しながら、忍はゆっくりと腕をスライドさせていった…。
●突入!
「今度こそケリを付けさせて貰うとするよ。…構わねえから、ドンドンぶっ放せ!回復する手間なんてやりゃあしねえぜ!」
「コアはこの奥だ!俺たちの手で種子島の動乱に決着をつけるとしようかっ…」
ロベルとリアンは飛び込むと、背中合わせに連れだって、四方八方の魚人を蹴散らし始めた。
ここまで入り込めば、狙いをつける必要もない。
何しろ冥魔に船の詳しい知識などないのだ。構造は人体に近く…船体中枢すべてが内臓と言って差し支えないだろう。
あとは移動系・魂吸収機能に重要な場所だけは確実に…。
回復される前に、全員で撃沈するほど追い込めば終わりだ。見るまでもなく勝利が舞い込んで来るだろう。
ここに居ない仲間たちが助けているはずの人々を全て救いだせば、シマイ・マナフの考えたプラン1つを完全に叩き潰す事が出来る。
「という訳で、脇から見た光景はどうだ?」
『…問題ない。外から攻撃している者も居るし…。ああ、助け出した人々なら…。今しがた最後のスパートに入ったぞ』
リアンが携帯越しに何人かに確認をとると、外からスナイプしていた鉄鳴から弾倉を交換ついでに報告が入る。
彼の視線の先では、忍たち外から攻撃する組が戦闘を続行しているのが見えるし…。
後方に走り去った仲間たちが、時折、バックアップの必要性や…それが不要になったと連絡をくれていたのだ。
こんな感じで断固とした態度で全てのプランを叩き潰せば、良くに長けた冥魔ゆえに、手を控える可能性は高いだろう。
『…こちらも、同じ。任務は…確実に果たす。(…馬鹿め。しょせん…はディアボロ)』
『横腹に開けた穴から水もザプザプ入っておりますの。急速発進は無理…だと思いますのよ』
『引きよせた敵を倒し次第、僕もそちらに向かいますね。総員で撃沈しましょう!』
携帯ラインに乗って、船の周囲へ展開していた仲間からも報告が入った。
忍は邪魔しに来た魚人から一度遠ざかりながら、手裏剣を投げつけて傷口を穿つ。
そうするとこちらを追撃するのではなく、傷口を守ろうと場所を固め始めるので、鬼姫たちと一緒に水の上を走り、防備が薄くなった所を忍は目指し始めた。
陣形を組む程度の知能はあるようだが、とっさの判断が効かず、指揮官が倒されたグループは扱い易い。
小次郎は白刃を煌めかせて周囲の仲間たちと共同で殲滅しつつ、再び幽霊船へ突撃する構えを見せていた。
敵は本隊の回復に専念し始めたのか、破壊速度は落ちたものの、目に見えて反撃が減って行く。
果敢なヴァニタスが居れば、侵入者を皆殺しにしてから、再建造すれば良いくらい言いそうだが…。さすがにディアボロにはそこまでの判断はできないのだろう。
『大砲も…もうちょっと!流石に硬いけど、こっちの修復は後回しみたいだから行けそうだよ。それに『弾』がなくちゃね!』
『後方グループは殲滅。護送班へのルートを完全にシャットアウト成功しました。あちらへ向かう者はいませんっ』
大砲(というかリング)に取りついた龍雲は、群がる魚人も巻き込みそうな勢いで大剣を振りまわす。
時折、電話越しに意気付く声が聞こえるが、彼自身の声なのか、組みついたギルマンの物か判らないほどに肉薄している。
さくらの報告も合わせると、もはや激戦も潮時に入ったと思うべきだろう。
水辺で、かつ守る側であり、敵の方が集結し易いが…時間の問題だろう。
『っ。面倒、な。…でも、薄い…』
『と言う訳で易々とは無理ですが、このままなら…行けそうですの』
「重畳!勝鬨を上げるまで気を抜くな?俺たちは我が身を犠牲に阻止しに来たのではなかろう、…勝つ為に来たのだからな」
流石に二回目の迂回は予測されていた。だが、忍や鬼姫の前に立ちふさがった魚人は僅かだ。
リアンはいっそ傲慢と言えるほどの激励を掛けて、最後の締めに移ることにした。
●再会、そして…
一方、髑髏の目にあたる集会所と役場周りでも変化が訪れていた。
「晴れ時々ぃネコぉ!みんなこっちこっち!」
「一般人に被害出るくらいなら…あたしに来な!両生類共!」
上から横から支援砲撃開始!
周囲が落ち着いた事もあり、狙いは集会ととドックをつなぐ道へと変更。
猫や火花の形をしたアウルを弾けさせ、小梅やアイリは道筋のギルマンを蹴散らし始めた。
敵戦力は本陣である役場に集中している事もあり、人々が押し込められた集会所は安全が確保できたのだ。
髑髏の片目は眼帯の様に敵陣容が分厚いため攻める事が難しく、反対に安全になった集会所の後方を、護送された人々が民家の裏手より迂回する。
「御祓君!一気に駆けこむから、道開けさせて。タイミングを合わせるよっ」
『はい。こちらも準備が出来ました。変異中を見た方もおられましたし、納得していただけました。恐慌対策に叶さんやアイリさんたちが、沈静系の呪文も用意しています』
『既に叶さんが参られましたので、ご心配なく。双方のグループ、同時に沈静可能です』
集会所が見えた時、温は先行した仲間に連絡を取った。
壬澄から即座の返事があり、ガヤガヤと周囲は煩いものの、強行したような悲鳴は聞こえない。
おそらくはアイリたちが既に説得し、宥め始めているのだろう。
熱意の籠った言葉をかけつつ、イザとなれば呪文で落ち着かせるという、二枚看板の構えである。
それを迎える側、移動する側の同時に展開可能としているのだ。
「後もうちょっとです。そうしたら…大丈夫ですから」
「…出迎え?パニックとかは大丈夫なの?先遣隊の人が説明してたはずだけど」
「いま歌を唄ってますよ。ほんの少しでも…とか言ってましたけど。絶対に元に戻れるから…。心配しないで」
変異しかけた人々を護送して、まずは撃退士たちが御挨拶。
キイが先導して一同を引き連れ、玲亜はまず混乱状況を確認した。
捕まっていた人たちの変異は様々だが、ディアボロじみた姿を見て、変異前の一般人が正気を保てるかは微妙だ。
どちらも戦いの恐怖に怯えており、救出隊が来たと言う事で、半端に希望が見えているのも問題だった。
玲亜の懸念も当然であるし、結城の方も頷いてスピーカーを一つアクティブにする。
『…take、me…home♪』
「…っ。これはカントリーロードかな?大丈夫そうね。私はもう一度船の方に戻るけど、エリーさんたち大丈夫?」
「問題ないわよ?途中でこけた子供が居るけど、そこのアンデ…ロボ子が回収してるから」
「ブラウト・キャノンであります。あはは。問題などありませんですねーぶ〜ん♪到着ー」
スピーカーから漏れ出る旋律は、壬澄の声だ。
感情の揺れ幅が低いので抑揚に苦労してるが、玲亜にはなんとか、故郷を思い浮かばせる歌を選んだのだと理解できた。
その様子にここはもう良いかな?と玲亜は判断して、逆サイドを固めた友人に全体の様子を尋ねる。
エリーは笑って頷きながら、顎で楽しそうな最後尾をしゃくった。
そこではブラウトが転んだ子供を背負って、キャッキャと走って追いついたのだ。
この際、変異したトゲで背中がギザギザで痛いのはジっと我慢の子!
ブラウトは子供をあやす…というよりは自分が楽しみながらホップステップジャンプ!
「ふうぅ(つかりた)。この子のおかーさんとか、居ますか〜?」
『…あんなに怯えてる子が、周りで暴れてるディアボロと同じに見えますか?同じ捕まった種子島の人たちです、どうか…落ち着いてください』
「(え…。まあいいか、だまっておこ)」
急いで追いついてきたブラウトが、ぜーぜー言いながら(自業自得だけど)、息をついてオンブ状態で辿り着いた時…。
先行していた文歌は、用意していた言葉をスラスラと口から流れ出る瞬間を感じた。
ブラウトがハイ気味にはしゃいでいるのも、子供がしがみついているのも、怯えから来る空元気だろう。
彼女の天然ぶりを知るハートファシアたち友人たちは、なんとなく違和感があったが、ここは気にせず説得する者たちに任せておいた。
っていうかハートファシアとしても、和やかに済むのであれば言う事はないからだ。
「見た目が怖くても、ほら仲良くなれまうー。ひたた(痛た)。ばへもの(化物)を定義するのは、外見ではなくココロですよ?」
「ほんと?にーちゃ、元に戻るの?また遊べるの?」
「本当の事ですよ。悪い奴にはなってませんし、元に戻せます」
「ほんとほんと。また遊べるよね。文歌ちゃんたちもお帰りなの」
そんなうちに、チビ助たちがハートファシアに群がって、膝や頬をつねって確認し始めた。
夢なら自分の頬をつねれば良いのにとか思いつつ、文歌や小梅たちも混ざって良かったねと笑い合う。
子供たちに国境はないし、遠慮は不要である。
●笑顔を取り戻せ!
敵はまだ残っているが…、ここでの勝利は間違いないだろう。
集会所を背にして、遠距離攻撃を得意とする者に任せて役場へ進撃を開始する。
「よーしっ。ここから総反撃!いろいろと取り返しに行こうか!」
『…無事に合流できたみたいですね。こちらも合流して、殲滅するとしましょう。屋根の上でも開けてください』
温は辿りついたこの集会所で、反撃の狼煙を上げる事にした。
もはや取り返すのは命だけではない。みんなの笑顔と、種子島の明日である…。
それに合わせて、要は集会所方面の敵を引き連れていた作業を終了。
足を止めて追いつかれる前に、飛翔したかと思えるほどの跳躍を見せて、屋根の上に飛び乗った。
「せっかくだ、ドーン!と派手なので景気つけてよ。笑顔のハッピーエンドなんて無理かもしれないけど…。だからどうした!そんな不幸だけの運命、みんなでブン殴ってぶち壊す!」
「心得ました。では、祝砲と言うにはささやかですが…。よければ皆さんもご一緒に」
「そうっすね〜。どうしますか?」
「当たり前じゃないか。こういう時は、せいぜい華やかにぶっ放すもんだ」
温が笑って要に頼むと、彼も笑い返して手の中を煌めかせた。
屋根の上から光の柱による号砲が鳴ると、萌音と露姫も参加する。
使い切った魔法を入れ替えて、雷電や重力波を次々放って役場周りにをなぎ払った。
「明日へ進撃を開始しましょうか。…不安に思う方もおられると思いますので、我々は残留しますけどね」
「それでも思いは一つってやつさね。まっ、ここは任せてドーンっと行ってこい!」
「そうさせてもらいますね。(…胸糞悪い相手だな、シマイという悪魔は)」
集会所正面から反対側にある役場までの道を、様々な攻撃魔法がなぎ払う。
最初は付き合って出ようかと思った壬澄だが、ひしっと腰のあたりに抱きついてくる子供たちを見て、不器用に頭を撫でながら思い留まった。
アイリは子供達には攻撃魔法はまだ早かったよね。と宥めながら、仲間たちが進撃して行くのを見送る。
治療役として同行する結城は、轟音に怯える子供たち、そして変異した姿を隠そうと毛布を被る者たちを見て…シマイへの怒りを新たにするのであった。
「私たちはどうしましょうか?船の方が苦戦してるなら、駆け付けるのも良いかと思いますけど」
「んとー。さっき来てた子たちが、急いで帰ってったから、大丈夫だと思うのね。ボクたちは此処で悪いディアボロをやっつけちゃうの!」
「ならば構わんか。…確かにそうだな、目の前に敵が居るなら…。無理に移動する事もあるまい」
文歌が小首を傾げながら確認すると、小梅は首を振ってドーンと叫ぶ。
その声が終わると同時にアウルが弾け、また一匹魔法のニャンコがお出かけして行った。
治療を受けながら二人の会話を聞いていた蒼一は、仲間の治療魔法の残りを計算して血染めの刀から、弓へと持ち変える。
ギリリと援護射撃を開始して、魚人達をまた一体ずつ仕留めていくのである。
「…を。そろそろ潮時ね。私も突撃するとしますか。隠れて行動するのも、店じまいっと」
鯉は近くから魚人が減っていくのを感じた。
陸という事もあって、敵は役場を守るので精いっぱい。
そこへ後方の安全を確保した仲間が前進し始めたのだ。
ならばゲリラ戦もこれまで!彼女もまた、仲間たちの戦列に加わることとなった。
これで役場方面の総員は集結。
後は掃討の確認を待つばかりである…。
そして…。
●勝利の鐘の音
「出遅れたかな?ボクらは壁になるから、二人に近づかせないようにするよ」
「引き返したし、しょうがないわね。とりあえず、竜骨を中心に砲撃といきましょ」
「私たちが残り物の掃除とはねえ…。まあ仕方ないか」
キイたちが再び取って返した時。
幽霊船に突撃した仲間たちは、ひと塊りになって距離を取り直した所である。
必死に突撃した状態だったのに、ワザワザ下がる必要があるとは思えない。
おそらくは玲亜が言うように、中から焼き払って、幽霊船の命も風前の灯なのだ。
ようはエリーたちほど攻撃魔法を残していないので、ワザとトドメを刺さずにギルマンを集めて…、残った範囲魔法でなぎ払うつもりなのだろう。
「とはいえ、油断しないようにしましょう。前衛はお任せしますね」
「ヤー。合点承知なのDEATH。お任せあれ〜」
また調子の良い事を…。
ハートファシアは苦笑しながら、ブラウトの隣にストレイシオンを召喚した。
召喚獣の防御結界を張り直しながら、油断なく最後の詰め作業に入る。
「…増援の到着ですの。集会所に送って行った方々ですね」
「良かった、という事はみんな無事に合流できたんですね」
「しかし…これでは良い処を取られてしまうでござる。せっかくなので、拙者がトドメを…」
「…別に構わんと思うがね。既に掃討戦だ、誰がやっても同じだよ」
鬼姫は引き返してきた面子に気が付き、状況は最終局面なのだと理解した。
小次郎ともども喜びながら、フルボッコと行きましょうと笑い合う。
エイネのようにまだまだ元気な子は少数で、むしろ鉄鳴のように事態を冷静に見据えている者が大多数だろう。
「このまま押し切ろうか。戦い慣れてない人もいるし、怪我しないように行こう」
「そうですね。此処まで来て怪我して迎えの船に転がり込むのもなんですから」
龍雲は久々の依頼の手応えに、連携の重要性を感じ取っていた。
入念な役割分担に、計画がうまくいかなかった時の保険。
それらが全ての要因が、今回の成功につながったのだろう。
さくらは彼の言葉に頷きつつ、魔力の刃で丁寧に攻撃を受け流しつつ、攻勢には別の魔力を放つ。
こうして幽霊船ともども魚人たちも薙ぎ払われ、最後はあっけなく幕を閉じたのである。
「一応はケリが付いた、か。一本如何だね?」
「逃げた奴もいるだろうがね…。まあ時間の問題さ。いただこう」
ロベルは術具に封入して隠しておいた、取って置きの煙草を取り出す。
こんな時まで喫煙を忘れない彼に、リアンは笑って火をつけた。勝利の鐘ならぬ、勝利の後の一服である。
「ここに居たんですか?みんな待ってますよ」
「未成年の前で煙草を吹かす訳にも行かねえしな。ちっと待ってろよ」
「久々の一服ですしねえ」
甘露甘露と一服し、迎えに来た小次郎に連れられてロベルとリアンも戻って行った。
なんとか全員が重傷は免れ、迎えの船に同乗した治療師に傷も治してもらえるだろう。
こんな風に、同じような計画はあるかもしれないが…。皆で、全て潰しに行けばいい。
何度だってやり遂げて見せるし、徹底して対抗する姿勢こそがシマイに手を引かせる要因になるだろう。
「…これで、終わり。他にあれば…、また撃ち砕く、だけ」
『そうか。手を引かせるか、あるいはおびき寄せて罠に掛けるか。どうするかは改めての会議になるだろう。…ひとまずお疲れ様だと伝えておいてくれ』
どこまでも冷徹な忍の報告に、この場に居ない九重司令官は労いの言葉を掛けた。
それは作戦に参加した全員へ向けた物であり…。
明日を勝ち取った、種子島の全員に向けた言葉であったのかもしれない。