●サイバイバル!
バスを降り撃退士たちが、軽トラから荷物を受け取る。
「どうしたんですか?」
「自然の中にいるのは久しぶりかもってね」
呼吸するだけで、強烈な山の匂いが飛び込んでくる。
隣で深呼吸する少年に、或瀬院 由真(
ja1687)はカーショップに行った時を思い出した。
彼…。橘 優希(
jb0497)にくっついて行った時、似たような感じでオイルの香りを満喫していたからだ。
「自然はあっても中々ここまで入り込むことはないからさ」
「確かにそうですけど…。初めてなので。なんかドキドキしちゃいます」
麗らかな木漏れ日を浴びる二人を見ていると思わず忘れてしまいそうだが…。
一同が訪れたのは訓練だ。
サバイバルかぁ……。なんて楽しそうにしている優希と違い由真は心配だ。
何しろ全員の荷物を合わせてさえ物が足りない。
「お二人さん。末永く爆発してもらうのは今度として、用具点検しますよ」
「「はーい」」
僕も爆発しろと言われたいな〜。とか佐藤 としお(
ja2489)が話しかけると、優希と由真は笑って荷物を取り出す。
ナイフと磁石を、彼が用意したバケツの隣に置く。
「そちらは火と鍋でしたよね?…なら、これで最低限の用具は揃いましたね」
「マッチで良ければ…。足手まといにならないように注意させてもらいます(サバイバルの経験はないけれど色々注意しながら、精進するとしよう)」
「火は一度熾せば残せるし十分だ。(さて、人に教えれるほど上手く出来るか?)」
としおは軽く眺めた後。全員に、衣食住、最低限の心配がなくなったと説明した。
これで『作戦』に移れる…と。
そう、作戦だ。
霧島零時(
jb9234)と有田 アリストテレス(
ja0647)達は、確認作業中に見える。
だが実際は、油断なく教導役の先輩を観察していた。
「鍋とバケツがありゃあ、煮沸して飲み食いが出来る。…腹を下してリタイアなんざ、最悪の理由だからな。(早過ぎない程度に追跡するぞ)」
「なるほど。衣食住は基本ですからね。…女の子たちも居ますし、判ります(例の場所で合流ですね)」
アリストテレスは、サバイバルに不慣れなメンバーへ簡単なレクチャーしつつ。
いつでも出発できるように促した。
零時は話を合わせて、戦利品である小道具の山を動かすグループを、さりげなく視界に収める。
…もっとも、生水に関する配慮など、本気で感心したけれど。
「じゃあ、良いですか?」
「ん…。欲しい物は奪いに来い…。わかった。れっつら、ごー」
「「れっつら、ごー!」」
零時の声にヒビキ・ユーヤ(
jb9420)はコクリと頷く。
どんよりとした雲に目を這わせた後、気の抜けるような声で、音頭を取った。
出足だけは、四方八方へ…。
●奇襲
「キャンプ〜♪サバイバルでも楽しければなんでもオッケー♪ヒビキちゃんもごきげんだねー。そろそろ時間だし行くよー」
「…楽しい、よね?…そろそろ、集合。だね」
グラサージュ・ブリゼ(
jb9587)は歌いながら、予定時間の訪れを告げた。
無表情で判り難いが、ヒビキはサバイバルと戦闘へ期待を馳せ、心の中でルンタッタ♪
ふらふら〜っと歩く彼女を呼び止め目的地へ。
到着後間もないこの時を狙い、一同は速攻を仕掛ける。
「まだ荷物を置き始めたって頃…かな?流石に早過ぎた?でもこんなのもアリだよね♪」
「うん…。疲れも無く、人数もいる、すぐ行くが、最上」
グラサージュが遠目に見た感じ、廃屋に荷物を置いた先輩達は、ようやく解散した処だ。
現時点で、双方の体力集中力は万全。
一見、防御地形を守る教導側が有利なように見えるが、体力消耗は初心者であるこちらが早い。
加えて罠を考えれば、現時点が一番有利だとヒビキは指摘する。
二人が少しずつ声のトーンとペースを落としながら近寄ると。
向こう側から、ブンブンと手を振る元気な姿が見えた。
「(やっほー。こっちなら見つかり難いから、集まってー)」
「(あはは。キャンプしながら友達作れて強くもなれる戦闘訓練って、なんてお得なんだだろうねー)」
ブンブン返し〜♪
木の上から挨拶するエマ・シェフィールド(
jb6754)に手を振り返し、グラサージュは状況を確認。
彼女は高い位置に座って双眼鏡で見張っており、自分たちよりもずっと情報を得ているからだ。
エマはブランコのように木から降りると。
弾けるような笑顔で、先輩たちの様子を地面に描いて行く。
「んとねー。他の班は4・5人ずつに分かれて山へ芝刈り?に移動中。あそこに残ってるのは8人くらいで、何人かは川の方へ行ったよ」
「…先輩たちも水を沸かす気ですかね?天候が微妙なので、早めに火を点ける気なのかも」
「そんな処だろう。…ただまあ断言はできねえな。罠の準備かもしれねえしよ」
ガリガリと木の枝で絵を描くエマの話を聞いて、零時は鈍よりした空を指差した。
アリストテレス達は暫し思案した後、幾つかの可能性を考慮する。
相手はこちらよりもズット、手際が良いに違いない。考えられる事は全てやってると思えば良い。
「この際ですから、こちらの野営位置確認など込みで、色々やってると想定しましょう。…時間を掛けると戻ってきそうですし、今が仕掛け時ですね」
「正面だけで行くと、こっちが回り込まれそうだしね。先手を打つとしようか」
「なら私たちで囮になりますので、その間に回り込んでください」
話し合っていると、先行して調べていたメンバーが戻ってくる。
としおは小石を拾って先輩たちの待機位置を簡単に示し、優希と由真は正面口に自分たちを示す大きめの石を置いた。
奇襲を察知される事を前提に、上回れば良い。
●どっちが一枚上手?
「さぁ、いきますよ!ここが天王山ですっ」
ここが最初にして、最大の山場!
としお達は先輩たちに躍りかかった。
情け無用!先行する囮の周囲にド派手な砲火を上げ弾幕を撃ち続ける。
相手の方が経験豊富な難敵だが、別途作業中…。今こそが最大の好機だ。
「…折角ですからね。胸を借りるつもりで、挑ませて頂きます!」
「もう来たのかよ!てめえら楽しみ過ぎ!」
砲火の中を、ジグザグにダッシュを掛けて由真が一気に飛び出した!
だが、敵もさる者。
迎撃は間に合わない。そう悟った先輩たちは一人が扉を確保。もう一人が中へ警告!
出入り口を封鎖という自体は食い止める。
「(…気づかれてる、可能性は高いけど。そろそろ、ね?風除け・日除け、しなくて楽。欲しい)」
「そうだね…。できれば屋内で休みたいので……ごめんなさい」
囮が組み合った時点で、ヒビキは迂回班に出動を促す。
合図で優希は双剣を翼のように構えて飛び出し、由真の近くに陣取った。
狙うは挟み討ち、駄目でも一対一で戦えるように
そして…。
「ここは確実に数を減らそう」
「はい!」
「おーらい!ぶちかますぜ」
優希の指示に由真と、正面後続のアリストテレスは頷く代わりにナイフを同じ相手に繰り出した。
ナイフを受けられた瞬間に、身構えたもう一人に小さな何かを翻す!
「洒落た小手打ちだろう?こいつはなかなかの優れものなのさ。このペンは高くてな……まあ心配すんな、想像以上に丈夫だぜ!」
「ペン?ははっ、じゃあこんなのはどうだ!今必殺の…」
「おバカ。何つきあってんのよっ、さっさとスペース明けてよ!」
アリストテレスが取り出したのは頑丈が取り柄の、筆記用具にしては重たいペンだ。
意表をつかれ手の皮を抉られた先輩は、ニヤっとスコップ構え二刀流返し!
お互いにジリジリと構えて、レンガだろうがハンカチだろうが使える物はなんでも使うぜと、笑い合った処で、ド付き漫才で中断する。
「せっかくだ、そっちの先輩も熱くなろうぜ。さあ見せてくれ、そちら流の戦い方ってやつをな!」
「そうさせてもらうわ。一対一の必要もないものね?まずはそこっ!」
「お見通しって事か…。さすがだな。今のは当てる為じゃなくて、仲間への警告か」
全力で戦おうぜ!なんてアリストテレスには付き合わず…。
その先輩はハンドガンで横撃ち!回り込み始めた班に射撃を掛ける。
零時は軽々と弾き返しながらも、自分たちの行動がそれほど意外と思われていない事に気がついた。
●互いに読み合うならば…
やはりこちらが考える事は、相手も同じ事を考えていた。
その上で有利に立てているのは、実力もあるが、読まれる事を前提に先々動いた事だ。
「奇襲効果は望めないが、それでも包囲する効果はあるはずだ。押し切るぞ」
「そうだね。ボクらの一進一退ならボクらの方が有利だもん。芝刈りに行った人たちが戻るまでに、おわらせよー」
そしたら一杯あそぶんだー♪
零時の言葉にエマは即座にそう答えた。
躊躇ない回答に、零時は呆れるよりも感心を覚える。
今の状態を把握した上で、訓練は訓練、遊びは遊びと『今』を噛み締めている。
「いっくよー!」
「両側から叩きこむぞっ」
「来いよ、若い子は大歓迎だ」
エマの描く魔法の言葉と零時の放った剣圧が同時に炸裂!
魔書のアウルと衝撃波が迫る中、先輩たちは不敵に…ではなく、嬉しそうに笑った。
能力で押し切るのではなく、自分たちの頃から連綿と続く、戦術をソコに見たのかもしれない。
「隠れても…駄目、だよ。壁越しに、バコーんと」
「廃屋壊れちゃうって!出る出る…なーんてな。最初からそのつもりだよ!」
ヒビキの構えるハリセンを受け止めつつ、後続の先輩は彼女をプッシュプッシュ。
もちろんセクハラではなく、囲まれつつある中で、陣形を邪魔する為だ。
逆襲の足払いをかけながら、ヒビキは少しだけ首を傾げた。
「おかしい…、よね?もう勝負決まってるのに、何狙ってるのかな」
「良く判んないけど…。依頼だったらどうかな?考える事自体は一緒じゃない?」
「あーそういう意味なら、こちらの情報収集かもしれませんね。何が得意で、とか」
ヒビキの疑問に、グラサージュはシンプルに案を整えながら…。
考える事自体は他に任せて、白銀の槍に雷鳴を呼び込んだ。
そして、としおが回答を思いついた段階で、ならバレ無いうちに倒しちゃおうと稲妻の槍として投げ放った。
「コリャ駄目だな。降伏降伏」
「あーもう。マヒなんか食らっちゃって。女の子だからって、鼻伸ばしてない?」
…その一撃は、威力はともかく先輩を麻痺させるのに十分であった。
準備中に奇襲をかけた状態でコレだ、人数差が圧倒的になる。
先輩たちが降伏するのに、そうは時間が掛らなかった。
こうして廃屋の戦いを終えたが…。
人数・防御地形共に、最も有力な班を攻略した一同が、敗北するとは思えない。
事実、悩まされることはあったが、危なげなく勝利を収めた。
という訳で、残りの戦闘は割愛〜♪
●アフターフェスティバル
「ん、戦い。面白かった。よ。…またやろうね」
「せっかくです、キャンプとかも色々と教えていただけませんか?」
潜伏する巡回班に対し、ヒビキは普段とは裏腹に、楽しいね、楽しいよ、楽しいの!…と笑って突進。
影から様子を窺っていた零時は、不利になっても突き進む仲間や、一度追いつかれても冷静に下がった先輩の姿に、越えるべき壁を見つけていた。
どうせ壁があるならば、身近で、そして鉄は熱い内に叩けば良い。
「まだまだ、僕は精進しなければいけない。自身の壁にぶつかり、そして、それを諦めることなく壊していけるように。そうしたいんです」
「知識と、実地の経験はまるで違うからな。色々教えてくれるとありがたい」
「…俺らは田舎に帰るが、それまでで良かったら問題ないぜ。ところで…色々って色々だよな?」
「若い子たちに何を教えるつもりよ、何を!黙ってれば感動的だったのに…」
まあまあと、ド付き漫才を始めた先輩たちを宥めて、零時とアリストテレスも笑いの列に加わった。
そうして山組が合流した後で、本格的なサイバイバルキャンプの始まりだ。
「おっ、手作りの箸か?」
「ん、竹が良いって教えて貰った。野趣溢れる、良い出来…」
「こっちも、なんかそれっぽくなってきたよー!」
昼間とは別に、余分に水を汲んで来たアリストテレスが戻ると、ヒビキが何やらシュッシュしていた。
借りたナイフをバイオリンのように構えて、竹を櫛削って形を整える。
その間にもグラサージュはビニールシートを天井にした食堂で、即席の竈と食事の下拵えをしていた。
上には魚や筍が載っており、炙ればちょっとした山賊料理である。
「おやっ?ナイフに魚は橘さんの担当でしょう?彼の姿が見えませんけど…」
「だめだめ〜。二人っきりにさせてあげようよ。せっかく戦闘も作業も終わったんだしさ。あと薪にはナイスな使い道がね♪」
で、その双眼鏡は?
えへへ…。
としおの疑問に答えたエマは、覗き込んでいた双眼鏡をしまうと、お料理手伝うよ〜。と逃げ出した。
良い雰囲気になったところで邪魔をするわけにもいかないし、キャンプの準備も大変だもんね!
と、言い訳しながら、エマもクルクルとはしゃぎ回る列に加わった。
そして話題の二人は、少し離れた所でいろいろと採集活動。
「なんだか嬉しそうというか…。こういう時の優希さんって、生き生きとしてますよね」
「塩と交換できたので…。こういう機会に採る天然物は美味しいんだけど……、毎回こう思うんだ。あぁ、せめて塩か醤油があればなぁ…って」
手で軽く周りを掘った後、筍やら山芋を二人で引っ張る。
由真の表情が少しだけ膨らんだので、優希は微笑んで、判ってるってと目線で合図した。
周囲の目線がある内は、イチャイチャしたくても乱入を警戒すべし…。
「みんなーキャンプファイアー開始するよ〜」
「もーえろよ、ボーボー。もえろーよー」
「早過ぎ!つーか、残り火を竈に移して料理作るから、炭火が残るくらいでな」
「炭火なら湿気た枝も関係ないですしね」
ホラ来た!
と。狙った訳でもないが、グラサージュが皆を呼び集めてキャンプファイアー。
主に薪量と濡れた枝の問題で…、アリストテレスが薪を増やそうとした零時に食事前なら丁度良いと申し出たのだ。
いずれにせよグラサージュやヒビキ達は、凄いね!凄いね!キャンプって感じだよね!と笑いあった。
二人が真の意味で二人っきりになれたのは、火が消え、食事が終わり…。
夜も涼しくなって来た頃だ。
「風が気持ちいい……ここに来て良かったね」
「ええ、本当に。こうした時間を貴方と共に過ごせるのは、凄く嬉しいです」
誰も居ない星空の下、優希は由真を連れだってお散歩。
目指す場所は無いが、それでけで幸せな気分になれる。
誰も見ていないのを確認して、そっと…口づけを交わした。
キャンプの帰り道。
「あ〜やっぱ美味しいなぁ〜…替え玉下さい!」
としおは帰る途中の店で無茶むちゃラーメンを食べた。
単に禁欲生活の反動だが…。
まるでカップル羨ましいネタを全身で主張している様だったという。