●魔剣を知るモノ達よ来たれ!
(前略)
ある時は正統派、時には奇妙な魔剣を選び、たった一つの巨大パフェを巡って戦いが始まる。
「魔剣か…興味深いな。 試しに使わせて貰おう」
「みんな普通のにするの?」
キョロキョロと周囲を警戒?して、次なる参加者が現れる。
例の物はまだかなー?と、残念そうに酒井・瑞樹(
ja0375)は手慣れた刀を選んだ。
軽く振って重心移動を確かめてると、桐原 雅(
ja1822)が声をかけてきた。
「どうせパフェには正直興味ないんだろうし、たまには面白そうなの使えばいいのに…」
「その通りだ!け、決してぱふぇが欲しい訳ではないのだ…。しっ、しかしだな。奇をてらわず、定番が良いだろう。これなんかどうだ?ウン、そうしよう」
カチーン。
これは怒りではない、凍りついた音だ。日本語って難しい…。
分かり易い彼女を見ながら、雅はしれっと自分で選ぶ事にした。
瑞樹が思わず指さした日本刀の内、特殊性メインの物から。
普段はこの手の武器を使わないので形状の推薦は聞いておくが…。
せっかくだから、普段は使わないようなものをあえて使ってみよう。と説明書きを手に取った時である。
キン!と不意に門の方から、金属音が聞こえ始めた!
「ボクはこれにしようかな。っこの音!もう始まってる?」
「むむっ、せっかくの漢見物。遅れてはなるまい!」
連続する金属音は、剣と剣を打ち鳴らす武芸帳。
猫のように顔をあげた雅は小走りに駆け、瑞樹も追随する。
気がつけば戦いが始まっていた。
●ソードダンサー
廃坑の校門を挟んでの鍔競り合う!
「鋸状の刃と滴る滴…。ヴェノムブレイドかな?私の『征装霊服』には相性が悪いみたいだけど、諦めたりしないよね?」
『当然ですぞ、お嬢様に限って臆したりししませぬ』
「バトル・ドレスが相手といえど一かすりでもすれば、まどろみに堕としてみせますわ」
ソードダンスの踊り手、一人目は戦闘用重甲冑の進化系。
恵夢・S・インファネス(
ja8446)が斬る刃でできたドレスの閃き自体が、意思を持って攻撃と同時に防御を行っている。
対してルナリア・モントリヒト(
jb9394)が持つのは、鋸刃の喋るカットラス。
鮫を思わせる刃には全て眠り薬が滲み出る素敵仕様だが、少々分が悪いか?
だが、ルナリアの目には諦めは無い。
刃の腹を撫で上げるような仕草をした時…。
「これは海賊の必殺武器に違いありませんわ!一かすりで良いと言うことは、独特の与傷技があるということ!」
『別に海賊では…。いえ、お嬢様に異論なぞありませぬ』
「…刀身が折れ…蛇腹なのかっ。いいね、来なよ。絶対に素肌には当てさせないから」
パタパタと折れ曲がり、地面までまっしぐら!
そう思った瞬間に、ルナリアの手首がしなった。
ビュンっ!と音を立てて何かが眼前に迫るが、恵夢は避けるのでは無くスカーフで受け止める。
避けても良いが、手の内を晒す正直者が相手なら…正面からぶつかるのみ!
かかった…。
ニヤリと少女が笑ったのはその時だ。
『チャンスですぞ!』
「見切りを誤った己を喰いなさい、海賊流の武器だと教えたハズですわよ!」
「鞭部分でロープワーク!?高機動を上乗せるする気だね。それでも私には…、あ。アレ?」
この時、ルナリアが持つ魔剣の真価が完全に発揮された。
校門に引掛っけて、鞭を手繰り寄せるように体を宙に舞わせる。
恵夢が受け止めた所を追撃、体当たりで刃と眠り薬を押し込む荒業を見せる…つもりだった。
だが、突如不運が訪れる。
「危ない!廃校で工事する為の…」
『お待ちください、お嬢様!ロードローラーですぞ!』
「その手にはひっかかりません事よ!もらいま…。なんでここに工事車両が?」
ドン!
恵夢の前に、工事車両が入ってきた。
魔剣が忠告も既に間に合わない!
ルナリアは工事車両に跳ねられて、どこかへすっ飛んでいった。
勝負アリ?
「え…?もしかして、今ので決着がついた…の?」
『カーカカっ!一撃で眠らせる強大な力と引き換えに、運が悪くなる作用かねえ?自業自得だぜ』
なん…なの?お目めをパチクリ。
クールと思われがちだが、別段、冷めている訳でもない雅は思わず茫然とした。
自分から工事車両にターザンゴッゴ、自滅どころか出オチも良いところである。
彼方にふっとんだ子を探していると、…不意に手にした刀が笑い始めた。
●正統派同士の戦い?
いざ尋常に勝負!
「その刀も、いんてりじぇんす・そーど、という奴か。面白い、依存なければ私が君の相手になろう!」
『おうおう、侍娘が相手とは気が利いてるじゃねえか。こういう奴はコロリと騙せ…』
「…主人はボクだよ勝手に決めないで。……じゃあ、やろう」
正眼に構えた瑞樹は、内臓を引き裂くなんて刀の挑発には乗らない。
操る雅が、冷静に軸足を躍らせ始めたからだ。
ややあって、右に掲げ直した雅の手が…。
途中で左手にジャグリングしながら突撃!
「飛猿…、いや飛び燕か!だが見切った!」
『勝てば官軍、名前なんてねーよ、バーロ!』
「きみ、少し煩い。お喋りなのは嫌い……」
開始は右手で柄元、次いで柄尻を左指で持ち変える、流星のような手捌き。
だが瑞樹は真っ直ぐ軌道上に打ち込み、猛烈な斬撃で迎え撃つ!
雅は受け止められるのは前提と、右手を空中に添え直して重い物を持つ態勢へ。
すると日本刀は斬馬刀並みの長さに!
「物干し竿!?くっ、間合いが…」
『あ痛てて。重い…体重何キロあるんだお前!』
「……(重量変化?威力重視か…。サドンデスは不利かも)」
更に伸びた間合いの分だけ、瑞樹の頬がザックリ。
そのまま受けたハズなのに重い衝撃…、雅は刀の戯言を無視して、きっく!
蹴りを膝で止められた隙に、斬馬刀を二刀に分離させ脇腹から突き刺しに入った。
だが、あえて食らい…というか、防御無視の強烈な攻撃が迫る!
「ボクの負け……だね」
「うむ…。しかし、私の体重ではないと理解するまで、こやつを殴るのを止めぬ!」
『クレイジーだ。お嬢、戦うのやめようぜー。あんたはスリムだよかったね〜』
倒しきる前に直撃したら倒される。
リスクを避けて降参する雅に、瑞樹は頷きつつも…。
許せない事が一つだけあった。乙女の体重を誤解した馬鹿者を粛清せねば。
私の体重が重いとぬかすか!
●世にも奇妙な…
その様子を校舎の上で眺めている者たちがいた。
決着ついたので見物終了。戦いを始めよう。
「さすがに悪魔が考えたモノだ。できりゃあ 敵にしたくないものだな。んだが、面白い得物を与えられたんだ…」
せっかくだ。思う存分に楽しませて貰おう。
榊 十朗太(
ja0984)は十文字槍を構えると、穂先を右に左に…。
鎌口をもたげる蛇の様に、油断なく腰を落とした。
そう、敵は二人居るのだ。
「(・∀・)ふっふっふ…悪い悪魔も、たまにはおもしろいものをつくるんだねぇ…」
「そういうこった、どっちから来る?俺はどっちからでもいいぜ」
「うーん。自分ダアトなので、消耗するまで待ちたいのでござるが…。本当なら」
不敵な笑いに、エルレーン・バルハザード(
ja0889)は不敵な笑顔で返した。
ホモォォ…。
二対一でも構わないぜ?なんて言っていた十朗太は、彼女の武器を見た時、背筋が凍りつくのを感じた。
なんだろう、ただの直刀にしか見えないのに、怖気を呼ぶ雰囲気を身にまとっている。
世の中に出すべきでは無い、瘴気以下のナニカが溢れていた。
しかし、源平四郎藤橘(
jb5241)はそれに気がつかないのか…。
それとも気がついた上で対処する気なのか、扇で口元を隠し密やかに笑った。
「ほうっ、メイジの癖に前衛とガチでやろうってのか?面白れえ!その命、今貰い受ける!」
「有象無象、男女の区別なくコンプリートを目指すでござる。次にそちらの女性、最後はあのバトル・ドレスが相応しいかろう」
あいつは後にしよう…。
おぞましさを感じた相手から目を反らせ、十郎太は四郎藤橘を先に倒す事にした。
彼は下で戦っていた少女たちを既に消化試合と見なす位、かなりの強気なのだ。
先に倒しておくのも悪くないと踏んだのだが…。
四郎藤橘が持つ紅い大鋏はかなり厄介。
いや、凄まじく奇天烈であった。
「…撃退士の半分は女性、そして男だって『そういう事態』になると困るよね戦闘中に。それを前提に作られた道具でござるよ」
「っ紐が!お前、まじめに戦いやがれ!」
四郎藤橘が大鋏を分解すると、片刃を薙刀の様に振るう!
交差させたはずの十郎太の穂先は通り抜け、互いに直撃する。
槍の分だけ威力でこちらの勝利と思われたが、奇妙な変化が見られた。赤い紐が飛んだかと思うと…。
褌の紐が!
咄嗟に膝を曲げて、褌がずれ落ちるの防ぐ十郎太。
…だが。
「キュピーん!私も…まーぜてー。かくごおっ└(^o^└ )┘」
「ちぃ。確かに戦い難いぜ。しかし、食らったのは不正解だ。その傷は…。いかん、割ってくるぞ。かわせ!」
「いやいや。自分、一度見たネタは通じぬでござる。その程度では困らぬ!」
彼らの攻防に、受け攻めを感じた誰かさんがやってきた。
更なる脅威(エルレーンと読む)が彼らに襲いかかる!
キチクウケェ!シンシゼメェ!!男と男に対する触手攻撃!あれを食らえば、お婿に行けなくなってしまう!
しかし重度のオタクである四郎藤橘にとって、触手など見慣れたモノ。
ァアー!する前に、大本を叩けば良い。
そう、信じていた。
「彼女も次なる餌食(CGと読む)に…。え?なんだか様子が…姿が…」
「ちぇーんじ。┌(┌ ^o^)┐もーど」
「うそ…だろ。Gに…なりやがった」
四郎藤橘の鋏は、見事にエルレーンさんの衣服を裁断!
すっぽんぽんになると思われたその瞬間!
彼女は一匹のゴキになってしまったのです。
うわっ、きしょ。気丈な十郎太ですら逃げるように…。カサカサと校舎の脇を滑る何かから脱出を始めました。
阿鼻叫喚の果てに、薄い本が屋上を埋め尽くしたそうな。
●解説王出陣!
「事態A…。回復を妨げるサバイバル向きの能力。衣服を引っぺがす、戦闘自体をさせない能力」
そもそも何故。
先ほどの3人は屋上に向かっていたのだろうか?
「Aに対する考証…。組み合わせ次第で強力な能力ですが…。誰も回復を試る気がなく、服が重要なんて思いこみは捨ててる人が数人いますので…」
「結論。相性って重要だよねっていう感じで、脱落する事になりました」
それは誰かが屋上に隠れようとしたからであり…。
追っ手同士が相討ちになるのを、待っていた4人目がいたからである。
パタンとメモ帳を閉じ、一人の男が屋上の影で立ち上がった。
「魔剣ねぇ。将来的にどっかでお目にかかるかもしれません…まあ、練習がてらに頑張って行きましょう」
試合はまだ半分ながらも…隠れていた仁良井 叶伊(
ja0618)は行動を開始する。
なぜならば…。
「あーヤッパリ居たね。あなたも一緒に、うぇるかむ とぅー でぃす くれーじー わーるど┌(┌ ^o^)┐」
「それは勘弁願います」
カサカサカサ…。
巨大なG…いやエルレーンは人には入れない場所に移動できる。
常人では移動できない位置に移動し、うまく隠れていたはずの叶伊を見つけ出した!
別に捕まった男たちの貞操がピンチだからとか、倫理的な都合ではない!
「ていやー!」
「さすがにアレとやり合うのは骨ですね。いや、触手に骨はないけど」
なんというか、ゴキから伸びる触手に捕まりたくはない。
ましてやピアッーシングされるのは勘弁だ。
拳の力を拡大する銀の腕輪を回し、煌めくアウルを最大限に燃焼させ。
放つ衝撃波すべてを輝かせた!
「うあっまぶしーっ!?まさか空蝉?もー。逃がさないよ〜」
「まだ来る?仕方ない、残りの参加者に対処してもらいましょう」
だがエルレーンからは逃げられない!
ふだんはボンヤリしている彼女は、戦い(薄い本のネタ)に覚醒していた。
目晦しを掛け、瞬間移動した叶伊を探し始める。
受けと攻めの為ならば、彼女は普段の三倍機敏だ!
さて、先ほど叶伊が述べていたのだが…。
服を着るモノだと思っていない人が他にもいる、ゆえに四郎藤橘はどこかで負けただろう。
それは…。
「お姉ちゃんが言っていた。服に着られる女になるな、剣に振られる戦士になるな、って。その答えがこれだよ!」
「あえて絶対防御を捨て去るとは……魅事なり!」
恵夢の装備がみるみる変化し、バトルドレスと短剣の組み合わせから、紐レオタードと大剣へ。
刃の面積を防御と攻撃力としてどちらかに振り分ける能力であり、全て攻撃力に振り分けたのだ。
銘付けて、魔剣技『刃昂一完』(はだかいっかん)!
いかなる防御力であろうとも、我が剣に斬れぬ物無し!と押し切る自身はあった。ゆえに。
その覚悟にこそ賞賛を贈った。
後先しらぬ攻撃は、瑞樹とて望むところ!
●そして台無しになった…
「全衣抜刀!勝負を決めるよ!」
「受けて立とう!」
恵夢と瑞樹は刃を掲げて睨みあう。
双方の威力は凄まじく、先に食らった方が負けだ。
「(動くに動けない…のか)」
「(なんと羨ましい光景)」
屋上で酷い目にあった十郎太と四郎藤橘 から見れば、いろんな意味で羨ましい展開だ。
二人がすれ違った後…。
同時に倒れそのまま動かなくなった。
「相討ち…?違う、これは睡眠薬だよね?いったい誰が…」
「それはこの、わたくしですわ!」
『今年のビックリドッキリ、サプライズでございます』
倒れ伏した二人を雅が確認すると、明らかに異様な呼吸音。
なんということだろう!
密かに影から忍び寄っていたのは、序盤に負けたはずのルナリア達!
実は倒されたフリをして、隙を窺っていたのだ!
「そうか、その魔剣の真の能力は…」
『左様!』
「悪党力の増強ですわ!イカサマに気がつかなければ反則では……あら、何の羽音かしら?」
雅はその時、ルナリアが選んだ能力に気がついた。
隠しギミック、打たれ強さ、そして…ギャグ補正を強化する危険な武器だ。
ゆえに次の展開も、悪党ゆえの自業自得なのかもしれない。
彼方から迫る影が、ルナリアの後頭部に…迫る。
「┌(┌ ^o^)┐<センノウ」
「ごっ…!いや…いやーあれ〜。…時代はワイルド総受けですわ!」
「すいませんが、一緒に死んでください」
巨大なゴキが、おしおき、を開始した。
ベタリと脂っこい触手が…。
いや、書いてて気色悪いので、これ以上はあえて言うまい。
エルレーンを引きつけてルナリアの前で転移した叶伊は、決死の思いで魔法攻撃を浴びせ続けた。
駄目だ。早くなんとかしないと。腐女子の世界になってしまう。
「まあ…不本意ながらも勝ちは勝ちですよね」
彼は漁夫の利を得たが、失ったものも少なくない。
なにしろ、巨大なゴキを見た後で…。
不本意ながら、巨大パフェを食べる気など、もはや無かった。