●南国の楽園!
雲一つない空が皆を出迎える。
うぅーみぃーっ!と誰かが海に向かって吠えた。
「ひゃっはー、海にござるよー!」
海でござる!冬でござるがなあ!
エイネ アクライア (
jb6014)の魂は燃えていた。
寒風にもめげず浜辺に立つ!
「泳げぬ者は何人でござる?拙者たちの訓練を受ければ泳げるようなるゆえ安心するのでござる!」
じゃきーん!
その時一同は、そそり立つ尻尾を幻視する。
散歩に向かうワンコのように、エイネのテンションは最初っからマックス!
「泳ぎなど興味はありません。ですが、修練は正義です、見守りましょう!」
その隣にドロシー・ブルー・ジャスティス(
jb7892)が、フル装備で腕を組んで仁王立つ。
気分はプールの監視員か、小さなライフセイバー!
「…ですがドロシーも鬼ではありません、たっぷりと御褒美を用意しているのです」
「ごっ、御褒美と言うと、そのプニっとした御美足で……」
「おおっと!確かに泳げないと水場での戦闘は危険があぶないよね!ふふん、この天才パーフェクト秘書であるマリスちゃんがかんぺきなスイマーに仕立ててみせるッ」
ドロシーの気迫に影響されたのか、一部の男性陣が声を漏らす。
その中でも上級者が本音を漏らしてした時、サポーターが飛んできた。
しょうがくせい独特のプニプニ足を眺める男に、マリス・レイ(
jb8465)がエルボー!
うずくまる男は、ある種の笑顔を浮かべてこう述べたと言う。
「ありがとうございましたっ」
ょぅじょの一撃は、ごく狭い業界に置いて御褒美である。
●大後悔時代と、青春時代
「野郎ども揃ったか!海なら俺に任せな、いい年こいて泳げねぇなんざ女にモテねぇぞ」
「そんな!教官を選ぶ権利が俺たちにもあるはずだ!」
「話しかけられた時以外は口を開くなでござる!口で(ピー)たれる前と後に“まむ”と言うのでござる。分かったか、ウジ虫ども!でござる」
「いえす、まむ!」
ジェイド・ベルデマール(
ja7488)が数人の男達を連れ出し、船へと追い込んだ。
もちろん男の水着に喜ぶ趣味は無い。
だが文句を言う間もなく、竹刀でゴツンと床を叩くエイネに吊られてしまった。
「不満か野郎共?…うまく泳げるようになった奴から順に、綺麗処の居る酒場でも連れて行ってやろうじゃねえか」
「これで勝つる!ちちしりふともも、お願いします!」
指で杯をつまんでクイっと動かす仕草。男達はその気になった。
飲む、打つ、買うが男の(欲望)基本形。ジェイドは海賊流で人を動かしたが…。
地獄と知らずにホイホイ船へと乗り込む連中に、やがて大後悔時代が訪れる。
一方、静かな浅瀬で楽しむ者も居る。
「寒中水泳…心身を鍛えるには良いですね。…水辺での戦闘に仕様が無い程度にはしたいものです」
「まずは馴れて、ゆっくり距離を延ばして行こう」
最初は準備運動。
樒 和紗(
jb6970)は屈伸やら背伸びを繰り返す。
その姿は決してボインでも、きょぬーでも無いが…。
健康的だからこそ判る恐ろしさに、米田 一機(
jb7387)は目線を反らせた。
若鮎のように白く引きしまった肢体、小鹿のような張り…。
つーかスタイルとは、トップとアンダーの差! 健全な青少年にとり、これほど目の毒は存在しない!
「どうしました?せっかく米田が指導してくれるというので、頑張ろうと思うのですが…」
「なっ、なんでもないよ!まずは水遊びで足場を自覚。足がつく場所で体を曲げ、浮かぶ学習から始めようか」
突如押し黙った少年に、きょとんとした顔で和紗は尋ねた。
天然気味である彼女にとって、一機の抱える悩みは判らない。
いや、友人であるからこそ、水泳を指導してくれるお返しに…悩みがあるなら解決してあげたいと思うのだが…。
悩みっていうのは、その危険なボディだけどね!
「ふっ、浮力といって、人体は必ず浮かぶんだ。一番マズイのは、パニックになって自分から沈む事だよ!」
「そこまで水が苦手な訳ではないですが…(きっと米田なりの考えがあるのでしょうね)」
かろうじて一機は正論を口にする。
彼が必死で口にした言葉とも知らず、和紗は水遊びであろうと真剣にこなす事を決めた。
●見守る者たち
浜辺で遊ぶ少年と少女。
彼らの姿は非常に微笑ましく、絵になる光景だった。
「なんだか、ういういしいねえ」
「そういえば、母がこんな事を行っていました。『海での水着姿は人を狂わせるわ…私も彼女の水着姿を、うっかりわざと写真に収めたものよ』っと」
くすくすと笑顔を浮かべながら、清純 ひかる(
jb8844)はホワイトボードを用意した。
援護射撃という訳でもないが…他のメンツを引き受けるつもりだった。
ををっと感心しながら眺めるゲルダ グリューニング(
jb7318)は、密かにデジカメでパシャリ。
写真は後でプレゼント。…ついでに仲を取り持ったりするのも良いかと思い始めた。
「一人ずつ苦手な事を教えて欲しいな。理由によって対処法も違ってくるからね。1つずつ克服すれば、泳げるようになるよ」
「そうですね、私はどうも泳いでも泳がなくても下へ行く癖があるので、直したいんです」
「んー。あたいは目を閉じちゃうんだよねー。泳げない訳じゃないんだけど…」
何を言ったら良いのか判らぬ初心者たちに率先し、泳げるけど苦手という子たちが口を開く。
ひかるは真面目な顔に切り替えて、ゲルダ達を1人ずつ聞き取り調査。
メモで分類しつつ、案件を1つずつ整理する。
「泳げない理由が判んない子は、初心者の子と一緒に1からやって見よう。まずは僕がやって見せるから真似してね」
「不格好とか気にしなくて良いのよ?まずは浮かべれば十分だし、最終的に泳げるようになればそれでいいの!」
ひかるとマリスは、皆の前で率先して手本を見せながら、最初のコツを判り易く説いた。
実際に理論通りに行くかは別として、こういう時に必要なのは説得力だ。
ハッキリいって、子供達はまるで話を聞かない!
やれば出来るという事を、目の前で示すことでおチビさんたちを黙らせる。
「せおよぎだー。はなから水入らないのかなー」
「もうっ茶化さないの。止まって…浮いて見せるわね。今どき泳げない人は顔を水に付けるトコから練習なんてナンセンスだわ!」
「ぷかー、ぷかーだよっ」
「キャンキャン!」
まとわりついて邪魔する子らへ。マリスはデコピンで制止。ワンコにはボールを投げて取って来い!
その間に背泳ぎ開始。暫く動いて感心を集めた後で、手足を止め、ぷかーと漂っていた。
人体は浮くと言う事を、端的に示して恐怖心を取り除く為だ。
「まずは浮く所から。一人だと無理なので、二人一組で支え合ってやろうね。っ……えーと、ちょっとちょっと!」
「ちょっっ、ドロシーには見守る作業が待っているのですわ。…ひゃうっ、冷たっ」
マリスに強引に連れて来られ、二人一組の見本にされたドロシーにはたまらない。
彼女は寒いの嫌だし、こういっては何だがカナヅチさんであった。
だが、しかし…。
「ねーた、お水こあいの?おなじだね、お水きらい〜」
「っ!そんな事はありませんわ。さぁ、貴女もドロシーに続くのですわ!!」
水が嫌いだと言うおチビさんが、ドロシーを言い訳にした瞬間。
彼女の心に火がついた。おチビさんに向かって見ていなさいと豪語し、海へと向かい…。
当然の様に沈んだ。
「だいじぶ?ねーた」
「ごほっごほっ!コツを教えてくださいまし。ドロシーならば開始三秒で泳げるようになってさしあげます」
「だーかーらー!まずは浮かぶトコから!受けるようになっても足から動かすと、腰が曲がって沈んじゃう。手からだよ」
「足からは駄目だったのですね。そういえば、足の力の方が強いですものね、手で向きを…決めてからなのかな」
ドロシーの自尊心は強いが、他人の話はちゃんと聞く。
マリスにお願いし、泳げるコツを教えて貰う事にした。
聞くは一時の恥、聞かずに諦める方が彼女の正義(ノリ)に反するのかもしれない。
ゲルダはその話しを聞きながら、寒いので出来る限り水に入らないようにするのでした。
●欲望の果てに
「アップあっぷ、足つりました、へーるぷ!」
「むっ、大丈夫でござ…」
「今どきそんな溺れ方をする奴が居るか!最初っから泳げるなんて考えんじゃねぇ、まずは浮けるようになってから口ききやがれ」
スパルタでもいい、そこに女体の神秘があるならば!
溺れそうなフリでエイネに救助を乞い、さらしの危険なロー↓アングル↑から水着を眺めようとする猛者たち。
悪魔だけど人の良い彼女がアッサリと騙されそうになった所を、ジェイドの蹴りが横からカットイン!
ょぅじょの蹴りだったならなあ…。なんて残念がる辺りが猛者である。
だが何と言うことだろう!!
「バチャバチャ暴れんじゃねぇ!んなことだから浮かねぇんだ!…おおっ!そこ!」
「うまいのでござる!そうやってぐわーっとやれば、ずっと顔を出していられるでござろう?」
男達は、ジックリ女体の神秘を拝みたいが為に、必死で犬かきを覚えていた!
もっと先に覚える物があるだろう。とジェイドは苦笑しながらも、まあいっか。
エイネの御手本ポーズに夢中な馬鹿どもにヤキを入れ、本気で覚えた連中は褒めて延ばすことにした。
「犬かきが出来れば平泳ぎは簡単だ。手足をこうして回してみな…。なんだ、やりゃあ出来るじゃねぇか。筋がいいぜ、お前さん。最初に出来た御褒美に、ナイスバディの姐さんでも紹介してやろう」
「「一生付いて行きます兄貴!!」」
「これが人間の強さでござるか!ようし、覚えた者から魚獲りについてくるでござるよ、バーベキューに向かって続けえい〜」
「「くんずほぐれつ、お願いシマース!」」
と、言う訳で…。
スパルタンなジェイドとエイネの指導にも、男達は溢れる熱意(欲望)で乗り越える。
仲間が問題点をピックアプして解決した事もあり、泳げない者は徐々に数を減らして行った。
いや。
撃退士の体力を考えれば、むしろ精神面の方が問題。
それだけに苦手意識と言うのは厄介だろう…。
「手を離すね」
「っん!(今手を離したら…)」
ゆっくりと一機に手を引いてもらっていた和紗が、ビクリと背を振わせた。
苦手意識が体の自由を奪い、抜群の運動神経が逆転する!
事態は誠にカオスであった。
ただでさえ苦手な所へ、邪魔者がやって来て、大変な事に!
「(存分にいちゃいちゃして下さい…私達はその姿を心から応援する者です。隊員二号・三号、連続突撃ですよっ)」
「おおっと、さむさでつまづいたー!」
「ワンコが逃げたのを、捕まえに来たんだよ。仕方ないよね!」
「え、ええっ!?(あっ、どっちが地上!?)」
ゲルダにそそのかされた小学生たちが、自分達では祝福してるつもりで二人の両サイドから体当たりを掛けたのだ!
泳ぐのが苦手な和紗はパニックを起こして右往左往してしまう!
「落ちついて捉まって!陸地は向こう、僕は此処に居るよ。足がつくから、ゆっくり足を付けて、深呼吸!OK?」
「ごほっ、ごほっ(口や耳に水が…)」
一機は咄嗟の判断で抱きとめ安心感を与える。
足を付けてる彼が固定し、スキンシップも合わせ、和紗心体のバランスを整え直した。
苦しそうな背をさすりながら、思わず掴んでしまった胸に関してはギリギリ我慢が出来た。
はずであった…。
「…まだ力み過ぎているのでしょうか?咄嗟に何も…」
「今のは仕方ないよ。こらっ、遊ぶ場所を選ばないと危ないだろう、いい加減に…」
「お兄さん達は恋人同士?もうチューはしたのー?」
その時、限界が訪れた。
和紗をなんとか陸に上げ、子供達を一機が叱りつけようとした時。
子供っぽい表情でゲルダが直球を投げ…。
更に!追い打ちを掛けるように、和紗が耳に入った水を出そうと…ジャンプし始めた!
チューという言葉、そして揺れる谷間↑↓は少年の言葉を粉砕するに十分だ!
友人の信頼に応える為、一機の精神は限界を迎えるほどの苦行を必要としていた。
「(清く正しくKENZENに!エロイム退散!)」
謎の呪文で妄想とリビドーを追い払う!
素朴というか、淡白な彼女が誘っている訳は無い。そういう気持ちを抱く己の煩悩と必死で戦わねば!
●BBQ
ラッキースケベ♪な出来事に遭遇してから、一機の記憶は曖昧だった。
「…陸とは違った世界が綺麗ですね。もうちょっとだけ見たいと思うと、頑張りたくなります」
「うっ、うん…」
時々正気に戻って、力みを抜く為に和紗の手を引き、綺麗な光景を見せるため水中に潜る。
邪念を抜く為に一機は必死であった。
だが無情にも世界は動いて行く。
「いただきます。さて…肉、正義、炭酸、正義」
「おい挨拶早々、それか!こっち肉足りねぇぞ!野郎共、がきんちょにまけんじゃねえぞ!」
「「おう!」」
待ちに待ったバーベキュー。
ドロシーが挨拶を終えた瞬間に、謎の奇声を発して食事を開始した。
大火力で一気に焼きあげ、そのまま口の中へ。噛み切った端からソーダで胃に流し込み始めた!
その光景に呆れながらも、ジェイドは対抗意識を燃やす。
ヒョロヒョロな連中に気合いを入れて、肉奉行を買って次々と焼き始めたのである。
「コラ、待って待って皆のあるからっ。お疲れ様…運動の後のバーベキューは、やっぱり格別だよね」
「野菜美味しいよね!ワンコたちも、れつらごー!」
「貴女は野菜、ドロシーはお肉。それが正義ですわ」
ひかるが取り皿に分け、動物たちにもおすそ分け。
マリスはワンコの取り巻き連れて、野菜にかぶりついた。
とうもろこしやアスパラが見る見る消えるのを、ドロシーは満足そうに眺める。
そんな中…。
「指導のお礼です。いっぱい食べてくださいね」
「熱っ!…せっかく泳げたんだ、体力回復に…自分もちゃんと食べな」
和紗が大量のBBQを寄越した時、一機は蘇生した。
パラダイスから帰還を果たし、彼女の口に多すぎる肉を放り込む。
色気には遠いが微笑ましい光景で、これこそが二人のスタンスなのかもしれない。
でも、ひろいれすっ(もごもご)。
「人は見られていると意識してしまう物…。母も…あれ?」
「獲ったでござるぞー。おお、写真を用意するとはカタジケナイ。この魚を中心に、皆で記念撮影にござるな!」
ゲルダが次なる写真を撮ろうとした時、二人は既にお友達に戻っていた。
実際にどうなるかは知らないが、さっきはともかく、この場で撮ってドキドキする内容にはなりそうにない(さっきのラッキースケベの写真あるなら、筆者も欲しいが…)。
そんなこんなで迷っていると、エイネが大きな魚を担いで帰還。
仲間達に声を掛け、みんなで記念撮影をする事になりましたとさ。
スパルタに付き従った男達は…滴る水着に、満足そうな死に顔を浮かべていたけれど…。
この日の記念写真は、微笑ましい一日であったようである。