●走れ、力の限り!
「…この空気、1年振りぐらいの依頼だろうか」
通報を受けて、可能な限りに調整された転移装置が、フル稼働で動き始めた。
急遽あつめられた撃退士達が、所定の位置に着く。
藤沢 龍(
ja5185)もその一人で、張りつめた周囲の呼吸で、緊張感が蘇る。
「揃ったな!?早速転移するぞ!」
「何時でもやってくれ。時間が惜しい」
「きっちり救助して、きっちり勝たしてもらう。到着次第に走るぞ!」
カウントダウンすら惜しいとばかりに、担当教官は最低限の確認を行った。
その間にも転移スタッフは、微妙な差をつめて送り出す用意に入る。
ミハイル・エッカート(
jb0544)が親指上げて揃ったと告げると、ゴーサインが出される。
龍も即座に身構えて、右往左往しないように備えた。
転移による軽い目眩と、誤差修正を飲み込んで地形を把握。
腰を落とした態勢だったので、全員が走りだした。
「こっちが公園だな。行くぜ!」
「急ごう。食い止めてくれたんだ、死なせるわけにはいかない」
指定されたランドマークを見つけた瞬間に、心のエンジンはフルドライブ!
千葉 真一(
ja0070)は高鳴る心臓の鼓動を感じながら、肺いっぱいに吸い込んだ空気を吐きだした。
必ず助けるよと呟きながら、宇高 大智(
ja4262)は祈りを現実に変える為にひた走る!
そして、公園の入り口と物音が聞こえた時!
「見えた…!この手に届く人だけは、守ってみせる…!介入します!」
「だっ駄目だ。はやく回復を…ギャッ」
「変身っ!天・拳・絶・闘、ゴウライガぁっ!」」
夏野 雪(
ja6883)たち滑り込むようにして、一同は態勢を整え直…。
否、そんな事などしない。
例えそれで態勢を崩そうとも、真一は止まらずにオーラドレスト!
●刹那
自分が切りつけられる危険を顧みず、たちは手を延ばす!
倒れる企業撃退士たちに目をやりながら、一人だけでも無事なままで…と必死で走り込む。
あと三歩、あと二歩…。
届かないのか!?届かないのなら…。
「効いてくれよ、頼むぜ、相棒!!」
「学園の撃退士かい!?ぼっぼくらはもう保たない!」
ドウドウと、銃口が火を噴いた。
一見、外れた様に見えるが、ミハイルの射線は計算された物だ。
ワンテンポほど、遅れたことで企業撃退士はかろうじて避け切った!
その間にも、仲間たちは次々に駆け付ける。
「それ以上は、めーっ!なのー」
「支援を頼む」
「おうよ、ゴ・ウ・ラ・イ〜」
若菜 白兎(
ja2109)は小さな身をいっぱいに投げ出し、倒れた撃退士に覆いかぶさり…。
逆に凪澤 小紅(
ja0266)は体を目一杯に縮めて、無事な一人とサーバントとの間に入り込む。
身を切る様な殺意は恐ろしいが、それで誰かを守れないと言う方が…。
自分を許せない気がしたのだ。
そして…。
「ブラスト!!」
真一、いや、ゴウライガが吠える。
格闘術では間に合わないと判断して、咄嗟の判断で射撃に変更!
熱きゴウライブラストの一撃を、果敢に撃ち放つ!!
「な、なんで、天魔って骸骨とかゾンビとか見た目が怖いのばっかりなんですかぁ?」
「確か…サーバントは脅かす為。ディアボロは慣れの果てじゃなかったかな?授業で習ったような習わなかった様な…」
ひぃ!
どうやら、アンデッドナイトと目があったらしい。
緋桜 咲希(
jb8685)は可愛く悲鳴をあげながら、トリガーを絞ろうとした。
…弾こうと思うのに、恐怖で…というか嫌悪感で指先が鈍る。
なんとか発射したものの、大智の言葉が右から左に抜けた程だ。
結果として。
仲間達が身を呈して倒れた者を救い、彼ら遠距離攻撃に切り替えた者たちの攻撃が…。
敵の注意を惹く事になった。
「いやあああっ!? なんでこっちに!?こっち来ないで、こっち来ないでーっ!!」
「…騒いでるから。というか、射撃攻撃を潰す方が優先と判断したんだろうな。頭は回るみたいだ」
迫る骸骨に、思わず武器を持ち替えてブンブン!
涙目になって鉈を振りまわし始める咲希のカバーに回りつつ、大智は間合いを再計算した。
躊躇して足止めを受けてくれれば、範囲の調整も楽なのだと。
「その頭脳は厄介…。だが、好都合」
そんな中で、小紅たち数人は頭の中で冷静に数字を作った。あと数歩、だ…。
●綱渡りを越え、血戦へ
ジリジリと時が過ぎる中、タイトロープを渡る作業…。
「(…いい子だ、もう少しこっちに来い…。あと少し来いよ)」
「(今は動かないで……。いったら、向こう側に抜けてね…」
額の汗を感じながら、ミハイルは残り数歩をカウントダウン。
その間に動きを変えれば即座にカットイン、そうでなければ…。
トリガーに指を掛け、念頭には何種類かの術式を描く。
ほぼ同じ状況で、白兎は伏せたまま倒れた男達に小声でささやく。
これは危険であると同時に、チャンスでもある。
敵の知能は高く、足元の企業撃退士を人質に取る事もありえたろう。
それに比べれば、敵が強いくらいの苦労なぞ、無いも同然!
「既に憂いは無し。勝つぞ」
「ああ。久々の依頼、勝たせてもらう!」
言葉少なく振り返えって身構える小紅は、片足を落として飛びあがる態勢。
そして、最後に駆け付けて来た龍は、片手をあげて振り下ろす姿だ。
二人の間を仲間達が埋めて、偶然にも包囲網を作り上げる。
「行け!あとは血戦を挑むだけだ。駆け抜けろ」
「ここはラッシュだ!ゴウライ、反転キィィック!」
「承知…。少し空ける、先手は任せた」
ミハイルの言葉で、前衛達が一斉に動き始める。
それは…まるで渦巻の様な大回転だ。
支援攻撃を潜り抜け、ゴウライガの雷打蹴!!
同時攻撃を仕掛けようとした小紅は、サイドステップでタイミングをずらして確実に蹴り込もうとする。
その間にも、他の仲間達が周囲を取り囲み…。
倒れた企業撃退士に、近寄れない位置を作り始めた。
「…動けない人を担いで向こうへ!あとは私達がっ。声が枯れるまで…決して神の元になんか行かせません」
「そう。私は盾、私達ならば城壁。すべてを征し、すべてを守る。よろずの人々と、秩序を護る。戦場の調停者。…聞きなさい、この足音は戦い無い勝利を呼び込む、万雷の拍手!」
白兎は中腰まで立ち上がりながら、回復法術の機動を掛ける。
ほぼ同時に詠唱を開始した雪は、解かれた緊張感を、肺の中に取り込まれる酸素の様に感じた。
唄え唄え唄え、唱える言葉は全て祝い歌。
目に入る誰も彼もを救い、立ち上がり守る為の言葉に力を注ぎ始める。
「「全ての人々に、癒しの歌を!!」」
自分を盾に少しでも距離を稼ぎ、倒れた撃退士達を癒す為の治療が開始された!
それはあくまで戦いの序曲、だが刹那の緊張という綱を渡り切った彼らには、何倍もの追い風に感じられた。
「駄目押し、いくぞ」
「いつでもどうぞ」
仲間の蹴りで後退した骸骨に、小紅は追い討ちで同じ技を仕掛けた。
軽い浮遊感の後にスカートが翻り、次の瞬間には鋭い蹴りで骸骨目がけて飛び込む。
その動きに遅れることなく、龍は即座に反応して大剣を降り被った。
追撃を掛けるのは彼ではなく、振り下ろされた刃から来る剣圧攻撃!
「…この間合いならっ。指示は聞いたな?こっちに構わずに駆け抜けてくれ」
「あ、ああ。判った!後は任せたよ。ほら、たって!」
「っ痛。でも痛いと言えるだけマシだよな。すまん」
仲間達の様子を見守ってから、大智は回復の範囲を調整する。
反撃で傷ついた小紅たちを中心に、向こう側を一息に癒す。
既に他の仲間の治療を受けていた彼らは、走れるだけの体力を回復して行動を開始した。
これでもはや、恐れることなど無い!
…とはいえ歴戦の猛者たちが状況を優位に感じる中で、そうで無い者も居た。
少女もその一人だ、先ほどまで倒れていた企業撃退士の方が蛮勇には勝るくらい…。
学園撃退士とはいえ、誰もが勇気凛凛と言う訳では無いのだ。
では、ここまで戦い抜くのに、少女が選んだ選択肢とは?
「こっちに来る!?クル?来るなら…。あハははハ、そっチがソの気なら容赦すル必要なイよねぇッ!?」
敵ならば……、倒さねばなァァははァ!
咲希は思いっきり現実を否定する事で、怯える自分も、敵の存在意義も否定した。
●ハイバランス
戦え、叩け、互いに倒れるまで戦い抜いて…。生きている方が真実だ。
攻撃が止められて効かない?ナラ!
「骨に死ネっていウノも変かナぁ、ネぇ貴方はドう思うゥ!?…止めらレルだなンて、判ってるサー」
パッパリリ!
雷電を身にまとい、武器を通して骸骨に浴びせる。
躊躇を捨てた咲希は、いつもの自分よりも冷徹に行動していた。
防ぐ物無い方向へ、それでも駄目なら受け止められる事を前提に…ブン殴ればいい!
鉈を止めたとしても、まとった雷までは止められはしない!
そして、彼女をフォローするか迷っていた男は…。
ある真実に気がついた。
「…なるほど。存在感に比して、腕前はエラク強いが…。無理して必要な部分だけを上積みした感じだな。ならば…」
カキョン。
ミハイルは弾倉をくるりと周し、その過程でイメージしたアウルを込める。
一巡りの間にアウルは浸透し…。
撃鉄が落ちると共に、撃ちだされる弾丸は炸裂して消えた。
それは…。
「胡蝶か!効けよ…」
「効かなきゃ何度でも撃ち込むさ。それに同じ事を考えるのは、俺だけじゃないだろう?」
脇で確認し、状況に合わせて術を切り替えていた大智が気がついた。
炸裂した弾頭は、アウルの導くままに変化する。
そして蝶に変化すると、骸骨の顔面へとまとわりつく。
目に見えて動きが鈍くなれば、他の者にも意図は伝わったろう。
「ハイバランスなタイプの欠点ですのね。…サーバント相手の正面は私が勤めますの。先輩たちはその間に…」
「みなまで言うな。…押し付ける気は無いが、暫く頼むぜ」
盾を構えて、光のアウルを燦然と煌めかせる。
カオスレートが高く、防御の高い白兎なら正面攻勢はお手の物だ。
少女に前衛を任せるのは心苦しいが、ゴウライガとしても役割分担は心得ている。
自分達が少し離れた位置から、攻撃専念する方が…回復役でもある白兎には二重の意味で都合がいい。
意地は引っ込めて、下がりながら技を入れ変えることにした。
だが鈍ったとはいえ、その剣先は鋭く強力だ。
まして、受け止めるのが小さな少女とあれば尚更。
「くっ…。引き受けてるうちに思いっきり攻撃……をお願いなの」
「しかし…。この剣撃は…いや、俺が言いだした事か」
「そこは私達で様子を見ますので」
受け切っても、衝撃ばかりは相殺できない。
歯を食いしばって耐える白兎の健気な姿に、ミハエイルは一瞬だけ流されそうになる。
クールを装っていても、根底に流れるナニカは消し去れない。
仕方あるまいと、頭の中身を入れ変えようとする彼を、雪は後押しする事にした。
…シュンと、盾を取り出して、同じ様に構えて前へ!
一人より二人、そして共に癒しの法術を唱える頼もしき仲間だ。
「そうだな。任せて足止めと威力を適度に入れるぜ。…俺たちは百戦錬磨、義理と人情背負って天魔の始末する牙。いや掃除人ってな」
「ええ…。…残念だったな!お前の刃は、もうどこにも届かない。ここで、終わる!」
男は、女に立ち場を立てられた様な気がした。
ならば、それにすがって前だけを向くのが、正しいあり方なのだろう。
淡々と話す言葉の連なりが、ミハイルには不思議と熱いモノに感じた。
きっと雪は、表現が苦手なだけで熱き魂の持主なのかもしれない。
だがソレを口にするのも野暮なので、男は黙って腐敗のアウルを弾丸に宿し…。
決め手を用意し始めた彼に代わって、雪は白兎のカバーに入る。
「活目して私を見よ。私の盾砕けぬ限り、貴様の刃が自由に及ぶと思うな!」
敵は確かに強い。
だが癒し手が守り合い、その脇から攻め手が攻撃に専念するのだ。
強いからと言って、負ける気など…さらさらなかった。
●終局
「このまま押し切れるかな?」
「多分、人的被害だけならな。(…問題は、この後どうするかだ。半端に倒したら…)」
久々の実戦に、龍もようやく感触がつかめて来た。
回り込んで高い位置を抑えて一方的に攻撃し始める。
そんな姿を見ながら、大智は勝ち方を考えざるを得ない。
油断して誰かが怪我をすれば、自分達が危ないだけでは済まない。
危険な公園として、誰もが楽しめるはずの、公園が消えてしまう可能性だってあるだろう。
「(そんな事は、させられないな…。全員を守り切る…)」
そう決意して、大智は援護射撃を飛ばす。
…いつでも回復の手を、飛ばせるようにしながら。
「終わらせるぞ。下がった企業撃退士が心配だ」
「ソウダネ。戦いは嫌ダカラ、早く終わらせないと。速ク速ク、モットモット!!」
小紅は闘気を解放すると、一気に距離を詰めた。
先ほどまで、ガード役に前衛を頼んで、稼いだ時間。
無駄にはしないし、する気も無いと大剣を振り回し、ブレーキ代わりに鞭を巻いた拳で殴打する。
咲希もその勢いに乗って、狂乱したかのように鉈を振りまわし始めた。
「アハッ。あはは、あれ?あたし、なんで…。アア、壊さなキャ、壊さなきヤ。全部ゼンブ〜!!」
ガッシャンガッシャン。
地煙りあげて、咲希は少しずつ追い詰めて行く。
勿論、それは一人の力でも無いし、たまに正気に戻りそうになる度に、沸点を越えたハートがトドメを訴えかける。
そこへ飛び込んで来る一撃が、花の様に咲き誇るまで、彼女は止まらない。
「沈め。ゴウライ、流星閃光パァァァンチ!」
「良いですよ。合わせます」
「援護するぜ、心おき無く行きな!」
最後に飛び込んで来たのはゴウライガだ。
トドメは彼に任せて、雪たちは防御と治療に、ミハイルは援護射撃の態勢に入った。
油断なく、全員無事で帰還する為に、心を合わせて力を合わせる。
矢表に立つのではなく、先に進む者達を助ける事も、また戦いであろう。
「成敗!」
『BLAZING!』
炎の魂が骸骨を圧倒!
機械音が鳴り響くと、サーバントは砕けて散ったのである。
「お疲れ様。…全員の傷を確認しながら、企業撃退士をみに行こうか?」
「そうですね思わぬ傷が後を引く物ですの。まずはお味方の傷なのですけど…」
「了解。こっちは大丈夫だよ。疲れたが、いい経験になりそうだ」
大智と白兎は見回りに入った。
今回は3人も治療師が居るとは言え、傷の感覚など人それぞれだ。
龍は肩を竦めて、一応は無事だと仄めかす。
「こちらも大丈夫だな。…疲れきっただけのようだ。心配するほどの事は無い」
「ふみー。てっ、敵は倒しました!?」
小紅は足元にしゃがみこんだ咲希の面倒を見ながら大丈夫だと報告する。
これで全員の無事を確認し終わり企業撃退士の確認に…。
そして、綱渡りの勝利を、不動の物としたのである。