種子島のとある場所、宇宙センターからそれほど離れて無い山間。
小さな森と、窪地の様な平原に隠されたサーバントが居る。
そこへ数班の撃退士たちが、訪れていた…。
●甲冑たちを呼び寄せろ!
「お馬鹿、こっちだ」
ガンガンガンガン!!
森と平原の境界線で、土煙が上がり弾痕が大地を削って行く。
走り去る影を追って、数体の甲冑たちよりばら撒かれた弾は、木々をへし折りながら登り切った。
やがて紅香 忍(
jb7811)へ直撃し…。
弾丸を受けて、少女…いや少年の体はバラバラになるどころか、その場からかき消えた。
「大丈夫?そろそろ引っ張り役は危なくない?」
「問題無い。あれは偽物…」
それは影の法。分身による偽物である!
だけれども危険で有る事には関わり無く、アネット・クリスティア(
jb8387)は樹の裏にまで退避した忍へ、心配する声を投げた。
忍は首を振って森から顔だけ出すと、もう一体の大型サーバントとの中間に位置する別班との距離を測る。
「敵を意の儘に操ることこそ忍の本分…。という事ですわよね」
「…ん。報酬分は働く」
少し変わりましょう。と別の影が飛び出して甲冑たちの前に立つ。
同じ様に分身を繰り出した指宿 瑠璃(
jb5401)は、忍と交替して前に出る。
当然ながら忍の方も、彼女の分身が消えた時の為に、何時でも交替できるように身構えておく。
もう少しだけ、あちらに引き寄せる必要があるのだ…。
目指すは炎獄、熱波の領域である。
●分断作戦!
今から駆けこむ平原は、中心点が丸焼けになっている。
その様子を見て、思う事は人それぞれだが…。
「おーこわ、あんなもん作るたあえげつねえこと考えるねえ、天使様も」
少年は一瞬だけ苦笑を浮かべる。
火中に飛び込む事へ、崋山轟(
jb7635)は身震いでは無く豪快な笑いで応えた。。
常時発動型の炎熱結界だなんて、性悪としか言いようが無いが、それで恐れる撃退士は居ない。
「…にしても、こいつはきな臭えぜ。火の無い所に煙は立たねえ、ってな!」
「もう直ぐ攻める時期だってのに、ワザワザ離してるのは連携とか考慮して無いんだろうね。そんじゃっ、足止めに行こっか」
森から駆け出した轟は、最後尾をノッソリノッソリ進む大型甲冑を攻撃する。
アネットは少年の鋼線がザックリ切り込んだ物の、動きを止めずに腕を回し始めたのを見て、躊躇せずに飛び込んだ。
ショットガンの銃身握ってフルスイング!ガシャッコーン!!
「あっ。あぶねーだろうが!…こっこの木偶の坊が!そのまま大人しくしてやがれ!」
「ごめんごめーん。ちゃんと安全装置は働いてるよ?」
なんで銃でブン殴るんだよ!?
暴発するかと思った轟が思わず飛びのいた時、てへへっと天然自然のドジっこアネットは、頭をかいて誤魔化した。
最後尾の大型が足を止めると、それを見て森から一斉に人が飛び出した。
数人ずつまとまって、別々の個体へ殺到する。
「おっ停止した?なら出番なんだよ。…にしても硬そうな奴やな」
「うんー。がんばるー標的維持しないとねー。今風に言うとヘイト維持?」
大型甲冑が、けたたましい射撃を停止させた。
一撃目が殆ど効いて居なかったのを見たアドラ・ベルリオス(
ja7898)は、ケイン・ヴィルフレート(
jb3055)に声をかけつつ…。
目の上をマッサージしてもう一度確認する。
「うん、あんまし効いてないね。アウルで殴ろっか」
「さっきのはー命中重視の物理殴りだからねー。魔法に弱いって言う話だし、ここからが本番でしょー」
「そう言う事です。一体ずつ引き離して、少しずつ向こうに寄せて行きますよ」
それもそうやなとケインに返事を返し、アドラは駆け出してネイ・イスファル(
jb6321)と共に一番前側の小型に切りかかる。
物理が効きにくいならアウルで、アウルで殴るなら物理的な強さは不要…。と黄金の柄から先を分散させ、刃を無数の蝶へ!
その一撃は確かにザックリと切り裂き、何時でもガード出来るように構えるケインを安心させた。
「敵の攻撃もですが、味方の誤射にも気を付けてください。陣形が入り乱れてますので、ご注意を」
「うんー。君も気をつけてね、援護が必要な時は何時でもするから」
ネイはそれだけ注意すると、自身は周囲を見回してから、改めて稲妻を降臨させる。
剣に雷をまとわせ雷光の刃を造ると、回避も許さぬ速度で突進。
ケインの放つ雷鳴の魔光と共に、甲冑の放つ銃弾を掻い潜っても猛威を振い始めた。
此処に来て、撃退士達は誘因と分断に成功する。
だが、その姿は長蛇の列だ。
いずれが合流を果たし、あるいは逆包囲に成功するかは…いまだ運命は決まっていない。
●火の車を止めろ!
その頃…。
もう一体の大型を足止める班も、既に行動を開始していた。
「地獄へ連れ去る火の車、かねェ」
この平原はまるでサウナのようだ。と入り口に佇む鷹群六路(
jb5391)は笑った。
南国とは言え日本は冬なのに、一定距離寄るだけで、暑さを知覚する事が出来る。
異常としか言いようが無い事態に、近寄りつつある火の球を見つめた。
ここからでは判らないが、やがて人型に見えるだろう。
そう思っていると、ザパっと音がした。
「遠い今は暖房がそこにあるみたいな感じだけど……邪魔だわ。寒すぎるのも熱すぎるのも御免なのよ」
「だからと言ってソレかよ?なんて気風の良い…種子島一の佳い女って、きみの事だぜきっと」
そう?ありがと。
男の前で気前よくコートを脱いだ少女は、水垢離修行でもするかのように、頭から水を被った。
見てる方が『寒っ!』と絶叫しそうな光景だが、寒いとだけ呟いて、内着が透けて無いか確かめる。
そんな彼女に六路は茶化すでも口説くでもなく、その徹底ぶりを讃えた。
「そろそろ……、時間」
「おっけーです。皆…絶対生きて帰ろうね!」
言葉少なに時間を告げる声。
カイン・フェルトリート(
jb3990)の視線を窺うと、森の木々がへし折れ無くなり、土煙が段々と近づいてくる。
きっと甲冑型を連れてきている仲間が森から出たのだろう。…と彼の言いたい事を察しリーゼロッテ 御剣(
jb6732)は我知らず拳を力いっぱい握り締めた。
大型の敵はどちらも使徒クラスの強敵だ、間違って挟まれたら死ぬしかない。
そうはならないと判っては居ても、言葉よりも先に身体が脅威に反応しているのだろう。
「タイミングを測って仕掛けましょう。少なくとも、合流を封じるのは大切だけど、誤射には気を付けないと」
「判ってますって。…万が一があったとしても、あたし達でカバーしちゃいますけどね」
「……。……」
歩きながら呟くリーリアの声に、フェリス・マイヤー(
ja7872)が頷いた。
続いてコクリ。
カインも了承した事を確認すると、うんうんと何度も頷き直し、苦難関難バッチコーイです。とフェリスは可愛く笑う。
…本当は良く知らない人達の前で、範囲魔法バンバンとかとっても怖いよね。
だけれどそれは顔には出さない。一生懸命ガンバルんだよ。
「では参りましょう」
「はいー。前衛とか偵察とかお任せしちゃっていいですか?突撃前には援護しますけど…」
「もちろんですっ。潜伏中は大丈夫だと思うんで、突撃前で十分ですよ」
リーゼロッテが率先して進む中、フェリスは迂回するように進み始めた少女に声を掛ける。
膝から下だけを動かして、少しずつペースをあげながら青鹿 うみ(
ja1298)は小さな岩を目指す。
一同を囮に姿を隠しつつも、その実は少しずつ先に進む、パーティの『目』であった。
「…前の作動状況からみて、潜伏中は大丈夫。あっちの戦闘に感応しないかのほうが危ない、かな?」
「空間に満たすタイプじゃなくて、熱風が出てる感じなんだろうな。…広範囲を巻き込むから動くなって厳命があるんだろうさ。何にしても、あれだけ派手なら十分おもしれェや」
うみの目に映るのは、割りと近くまで寄っている偵察型の死体?だ。
突進型らしき大型は早い段階で落ちているが、少し遠すぎるので直接戦闘だけで倒した訳ではないだろう。
となれば六路が言う様に、熱波の範囲だけでも広範囲で危険と思うべきだ。
はっきり言って、この人数では勝てないか、大怪我覚悟の危険な相手。
だが…彼女たちが目指すのは、勝利などでは無い。ゆえに焦りも恐怖もありはしなかった…。
●乱打戦。蛇の腹を喰い千切れ!
こうして戦闘は本格的な巴戦となった。
あちこちで敵味方が位置を入れ替え、そちらの方が安全だと思えば、走って担当する敵を入れ変え合う…。
「どっちもまだ落ちない?」
「敵、味方?」
敵の小型に決まってるでしょ。
大和 陽子(
ja7903)は狭間 雪平(
ja7906)の冷静な確認に少しだけ腹を立てながらも、御蔭で落ち着く事が出来た。
クロスラインで入れ替わる様に翻弄していた忍軍の二人は、再び後方に下がって状況を確認する。
「中間の個体がやや傷ついて居ますね。周囲の仲間の援護も期待できます、あれから潰しましょう」
「らじゃー。あたしらで背中を交互に背中をド突くよ?啄木鳥みたいな感じで判る?」
了解です。
風の様に駆け出した雪平と背中合わせに、陽子は反対側に走り出す。
やがて二人は正反対の方向でターンを切って、向かい合う様に小型の甲冑に飛翔した。
まずは雪平が甲冑の背中に鉄槌を振り下ろし、振り向いた処を様子が同じ場所へチェーンを撒いて引き倒す。
その姿はまるで二つの風が入り混じり、旋風を起こしたようであった。
「私達も行きますか?(あれは後少しという所ですしね)」
「(そうしましょう)」
戦場を駆け抜けた烈風を追うと、真ん中に居る小型甲冑が大きく軋む。
続いて他の仲間達が連続攻撃を叩き込む。
エルミナ・ヴィオーネ(
jb6174)とエミリオ・ヴィオーネ(
jb6195)は目線で合図を送り合うと、少しだけ前後を開けて突進を掛ける。
まずはエルミナが稲妻を招請し、大斧を持って横っ腹に亀裂を入れた。
「さて、戦うなら…一体ずつ確実に、だ」
「同感です。…立ち塞がる者は、此処で沈め」
バチっと静電気の数倍近い衝撃が走り抜け、動きが鈍くなった所でエミリオが双剣を振り下ろした。
雷電が効いて居るなら上乗せは不要。冷静に…それで居て効率的に仕留める。
…ソレが動か無くなった事を確認すると、エルミナたち双子は別の個体を求めて行動を開始した。
「一体目が終了…。どっちに行きます?」
「倒すのが早そうな方ですけれど…。差し当たっては動きが健在な方になりそうですわね」
小型の甲冑は、残り二体とも同じ程度の損傷具合だ。
エミリオが少しだけ逡巡した時、熟考する彼にエルミナが付け足した。
双子の振う雷鳴の剣は、二人で交互に補うからこそ確実で絶大だ。
「どっちも同じくらいですが…」
「じゃあ、あっちをお願い出来る?ちょっと苦戦しているみたいだからね」
「…そう思うなら、あなたが行けば…。ってもう居ない…。仕方無い、僕らで止めて来るか」
エルミナの近くに居た陽子は話を聞きつけ、「なら困っている方を助けてね」と大型の近くで動く小型を指差し、援護を要請する。
割って入った声へ、ぶっきらぼうにエミリオが答えた時…、既に陽子は走りだしていた。
一度バックステップ掛けて全員の視界から外れると、急加速を掛けて先頭方向へ急行。
双子は肩を竦めつつ、確かに面倒な相手なら自分たち姉弟の力は振うに相応しいと、後方へ向かった。
「苦戦しているようですわね」
「ああ、よかった。連射を受けて、何人かがダメージコントロールに下がって居まして。範囲攻撃は避けるようにしているんですけど、毎回うまくは行きませんで」
エルミナが後方に下がった時、小型と大型が四方八方に銃弾の雨を降らせている処であった。
御蔭で治療役の叶 結城(
jb3115)ですら、前面に出て防御に回る必要があるほど。
一か所に過密射撃する知能が無いので助かっているが、それはそれで面倒な相手だ。
「足止めを担当できるなら願ったりですが、無理な場合は剥き出しの弾を狙っていただけますか?」
「問題無い。僕ら二人なら、両方同時に出来る。…だよね?」
「勿論ですわ」
結城が指したのは、ガトリングに伸びる帯状の弾だ。
あれを少しでも千切れば、武器がジャムって壊れる…というのは無理にしろ、連射性能に著しい支障をきたすだろう。
エミリオとエルミナは、他愛ない事だと言って同時に雷鳴を呼んで好機を待った。
「…では、私が気を引きましょう」
「お願いします。援護を優先しますが、上手く行くなら俺も参加しますので。お二人もよろしいですか?」
「「問題は、ない」」
その時、不意に声が投げられる。
振り向けば、いつの間にか駆け付けていた雪平が、結城と同じ鉄槌構えて突撃態勢を取っている。
彼の機動力で後ろに回り、その隙に銃を目がけて全員で踊り掛かろうと言うのだ。
ならばここでの作業は終わりだと、エルミナとエミリオは声を合わせて走り出す。
四人は即席ながらもタイミングを合わせ、風車の様に踊りかかっていった。
●多腕巨人、墜つ
「大型戦車と考えればそろそろ…かな。次の弾薬交換に合わせて、一気に仕留めようか」
「そうですね。普通の使徒ならまだしも、魔法に弱いこの個体なら行けると思います」
「了解した。援護騎を向こうを止めてくれている今の間が、最大のチャンスだな」
ヘカトンケイルと呼ばれた個体が猛然と射撃を行っているが、ルティス・バルト(
jb7567)が数えた処、そろそろ弾切れのサイクルだ。
水屋 優多(
ja7279)が調査した所でも、甲冑型は全体的に魔法に弱いとの事で、狙うなら今だろう。
ならば行くかと、海本 衣馬(
ja0433)は近くに居た小型の甲冑が、割り込めない事を確認する。
カタカタカカカ…。
軽い音を立てて弾が尽き、ややあって甲冑型の腕が動き出す。
だが、撃退士達が、その隙を見逃すはずは無い!!
「今です。全員で魔法を!」
「念の為に正面は俺が引き受ける。多腕の巨人よ…。この島から出て行け。ここはお前等がいて良い場所ではない」
「お言葉には甘えるね、一緒にやっつけちゃおう。…後は、敵いれば、闘い倒すのみ」
優多は号令を掛けると、指先に炎のイメージを灯す。
彼の肘から手の先にアウルが火炎の弾丸を造り上げる頃、衣馬は正面に飛び出して剛腕を振う!
これで態勢は万全と、クオン・アリセイ(
ja6398)達も一斉に魔法の詠唱に入った。
「さあて、このままありったけの魔法のカクテルするよ。こいつはプレゼントだから、出し惜しみなんて無し無し。要さんとアキラさんも異存はありませんね?」
「うちらに異存が有るわけ無いやんか。なあ?」
「そう言う事です。遠慮するよりは、全力でお相手する方が好みですね」
ルティスが手にする妖精の書が拓き、道を形造る。
それに合わせて葛葉アキラ(
jb7705)と水城 要(
ja0355)は、共に舞い踊った。
アキラは扇を扇いで風を真空の刃に変え、要は剣舞から光の柱を放つ。
「苦痛も感じず、仲間と協力もしない。まるで半機械にも見えますね…。面白そうな相手です…!」
支倉 英蓮(
jb7524)の前で、眩い輝きが大きな甲冑に吸い込まれては消えて行く。
…言葉は特に必要では無い、だが、心を合わせ詠唱を重ねることで…みんなの力を束ねられるような気がした。
だから撃退士達は、声と心を合わせて、巨大な敵を討ち砕くのだ!!
「沈みなさい」
英蓮は一言呟くと、怪我をして下がっていた彼女自身も遠距離攻撃を再開する。
感じる痛みを乗り越え、それ以上の歓喜と共に叩き込んで行く!
「やった!?…あ。バズーカの装填が…」
「…問題ない。これが最後の一回!持って行け」
ボロボロになった大型甲冑が崩れ落ち、一体目の強化型を落としたかと思った時。
がこん…、と何かがはめ込まれる鈍い音がした。
間に合わないこの位置では…。誰もがそう思うだが、衣馬は悠然とバズーカの筒先を抱え込むように防ぐと、今持てる最強の技を顔面に叩き込んだ。
ドウ!!と鈍い衝撃波が同時に交錯、甲冑と男がそのまま崩れ落ちそうになり…。
「…っ、誰か治療を!」
「今行きます!確実に治療しないと…」
「大丈夫だ。それほどヤワじゃないし、きみの腕は確かだ」
甲冑の兜は粉砕され、衣馬は仲間の誰かに抱きとめられて事なきを得た。
彼が無事と知って、即座に結城が治療を開始。
傷ついて居るのは見た目だけだと、衣馬はそこまで必死にやらなくて良いと自らのアウルを活性化させる。
●甲冑部隊の最後
「一つ目終了。次よ次〜あんたら、ちゃんとついて来なさいっ!」
「了解…。と行きたい所ですけど、道々合流しながらですかねえ。ほら、そこに小さいのが…」
「そんだけ俺らがデカブツ倒すのが早かったってことよ。このまま小型を潰しながら火の玉に駆け込むぞ!」
あうあうあう…。格好良く決めたつもりのアネットが、自分のドジさ加減に気がついて真っ赤になった。
思ったよりもヘカトンケイルに戦力が集まった事もあり、小形のパレードよりも早く倒せたのだ。
英蓮が忘れている事を指摘すると、穴があったら入りたいよーと逃げ出す様に走り出す
そんな姿に轟はニカっと笑って、こんなのが青春って言うのかねーと、豪快に笑って彼も駆け出す事にした。
「…このまま行けると思う?」
「行けなかったらなんとかする!へっ、あちらさんの思惑通りにゃいかせねえよ!」
走りながら徐々に冷静さを取り戻したアネットが、現状を確認しながらショットガンを構え直す。
今度は使い方を間違えない様に、射程に入り次第に味方と呼吸を合わせて包囲射撃。
轟は依頼自体は解決に向かったと告げながら、彼女に合わせて、殴りかかった。
既に辛勝だけなら奪い取った、あとは怪我人を減らして圧倒的勝利へ変更するだけである!
「大型が片付つきましたね。このまま引かずに押し切りましょう」
「そうだな。…怪我の方は?」
「なんの問題も無いですわ。(ここで色々使い切っても…)」
小形の肩口に立ったまま、雪平は兜へ鉄槌を振り下ろした。
運悪く銃弾を受けているが、銃が呼称でもしたのか威力が軽い。この程度なら下がるより全員で倒す方が早だろう。
彼の言葉を理解して、エミリオとエルミナは同時に頷いた。
「容赦は不要」
「手抜きも不要」
ここで蓄えた力は果てるとしても、他のメンバーがやるだろう。
双子は小型甲冑にトドメを刺すと、同時に武器を切り替え至近攻撃仕様にチェンジする。
後は最後の二体へ走り寄って、共に挑むだけだ。
「あとはこいつで小型も終わりだね。ほんっと連携出来なくて助かったわ」
「そこまで強いなら本格的に量産しそうなものですけどね。欠点も多いのでしょう」
ズルズルと甲冑たちを引き連れながら移動していた先頭集団…。
そこで陽子は魔力の鎖を引っ張りながら、むせ返る熱気に汗を拭きとった。
軽く引いただけで甲冑が軋むほど魔力に弱いが、時々飛んで来る連射弾は怖い。
優多は彼女に相槌を打ちながら、指に絡ませた雷電を放ち抵抗されたものの貫通する。このアンバランスさは魔力以外にも欠点は多そうだと睨む。
「そこ危険地帯。注意」
「問題は向こうが聞いてくれますかね?足を止めて圧迫されたら、逆にこちらが不利な気も…」
「大丈夫。あそこまで頭悪いと、無理…」
火の玉巨人を相手どっていた班の、カインが制止の声をあげる。
少し危険かな?と言う優多の懸念を、忍が首を振って否定した。
彼の視線の先では、こちらを追って来ているはずの甲冑は、別の囮役が進む方向に銃口を向けて追い掛けている。
「大丈夫だった?怖く無い?」
「はい…大丈夫です。私も、あ、足を引っ張らないように頑張ります…」
「ちゃんと頑張ってますよ。一緒に倒そうね」
思わず防御法術を掛けようとしたフェリスも、よく見れば瑠璃が分身である事に気がついた。
心配してもらった事が恥ずかしいのか、彼女はちょこんと縮まって上目遣いで見上げて来る。
その様子にリーゼロッテは微笑んで、みんなでやり抜きましょうね。と声を掛けた。
…ちなみにその時の瑠璃は、仲間達の援護を受けて、心の中で拳を握りしめていたと言う。
「来る。広すぎて避けれない……から、魔術防御が必要」
「みんな、危ないですよぉ。固まってくれたら結界いきますね〜」
「そうなんだー。じゃあ残りの人はこっちだね〜」
オオオオ!!!
火の玉巨人が、目も眩むような輝きを身にまとった。
それが体内に飲みまれ、少しだけ暗くなった時、カインは周囲に警告と防御法術を展開するように求める。
フェリスも彼に習ってはアウルの幕を周囲に展開し、その指示を聞いたケインもまた、アウルの幕を広げようとし…。
そして一同の元へ巨大な火球が飛来する。
●撃滅、火の玉巨人
ゴウ!
と、すざまじい音と、強烈な火炎が吹き荒れた。
「うわん、なんかちょっといい匂いー?(涙」
「味方まで巻き込むなんてねえ。小型は始末しておきますか」
炎熱の中…、うみ達は焼き肉になる運命を乗り越える。
だが甲冑の方はそうもいかない、生きているのが不思議なくらいの有様…。傷ついた自分でもあのくらいならと英蓮がトドメに向かった。
がたっと音を立てて、最後の小型甲冑が沈む音がする。
「甲冑は終わったみたいだが…。ちくしょう、厄介なヤツだよなァ」
「…本来は、たった独りで飛び込むタイプなのかしらね?…こういう敵を壁がわりに、一定範囲で並べて使われても困るわね」
「でも、兆候があるのと、範囲攻撃は自分も危ないんだよね?ならここは…賭けに出て見ないかい?」
だが、あまりの炎熱に、六路やリーリアはちっとも気が晴れた気がしなかった。
目眩がするほどの熱気で、さっきから手先が鈍って皆が皆、本来の力を出し切れてないのだ。
その気持ちは判るけど…と、ルティスは先ほどの光景を見ながら1つ提案してみた。
一か所に留まれば防御も回復もし易いが、喰らう時に全員が喰らう。
ならば博打に出ようじゃないか…。
「確かに四方を囲んだら、喰らうメンツは1か所だけですむな。その勝負、乗った」
「無駄に喰らう必要もありませんしね。術のクールタイムを考えれば悪くないかもですっ」
「煙幕で目晦ましを掛ける。その後に展開しよう」
その提案に、衣馬は頷いて勝負に出る事にした。これ以上は長引く方が危険なのだから…。
うみとクオンもそれに続き、氷や魔弾の掛け巡る戦場に飛び込んで、煙霧の術と洒落込んで行く。
忍の技と科学の技、共に沢山の煙霧を巻き起こし、火の玉巨人を覆い始める。
「今は冬…。秋の木が眠りにつくように、真夏の夢は夢のまま取って置きなさい。春まで眠るがいい…」
煙で視界を閉ざせば、次は音で意識を奪うのだ。
季節を逆行させるように、リーリアは唄う。眠れ眠れ…、二度と覚めぬ夢を見るが良い。
撃退士が全てを終える、その時まで。
「そう言う訳なんで、もう少しお付き合い願えるかな?」
「問題ありません」
「同感やで。水臭い事いうもんやな」
ルティスは改めて防御の術を唱え始める。
要とアキラはその援護を受けて、包囲網の一角を受け持った。
同様に数人ずつのグループが、右に左に展開して行く。
闘いはこうして混戦から掃討戦に移り、四方に包囲したメンバーが感覚を調整し始める。
「お互いの範囲魔法に気を付けてください。先ほども言いましたが、誤射の方が危険です」
「そのへんは、うちら次第じゃないのかい?注意を引く役以外はあんまり近付かないで、白兵役は少なめで行けばいい」
「防御の術にも時間があるしねー。白兵役を交替ですれば、巻き込まれないで行けると思うよー」
ネイの懸念に頷いて、仲間達は間合いを取る。
やろうと思えばグルリと二十重の包囲が出来るが、それでは無駄が出る上に味方を巻き込んでしまう。
アドラはすっ跳んで挑みかかりたい自分を抑えて呪符を取り出し、ケインは援護の法術を準備して、遠近どちらでも良いように武器を選んだ。
「そろそろ忍軍たちが離れるよ。うちらが突貫して、適度に交替ってとこじゃないかな?」
「異論はありません。まずは白兵戦ですね。潮時は忘れない様に」
「じゃあ私も付き合うけど、いざとなれば即座に回復するからねー」
既に火の玉巨人の視界で、撹乱の為に動いて居た忍者たちは、一人ずつ交替を始めている。
三人は何時でも突入できるように、防御を掛けて走り出した。
アドラが真っ先に飛び込んで、こちらに注意が向いた場合に備えて盾を用意。
その後ろからネイが氷の鞭を生成し、クオンはひと手間ほど置いたうえで斬り掛かっていくのだ。
グルグルと動く忍者は影よっつ。
「そろそろ限界だ。先に下がれ、俺はタイミングをずらしてからいく」
「んっ、了解です。援護しながら下がりますね。…氷も、炎もあるんだよっ!」
「こちらも呼吸を会わせましょう。既に次の手が到着します」
「はーい。あたしらの本領は、撹乱と追撃戦だもんね」
全てが分身なのか?いいや、全てが本人、そして時に心を1つに動く撃退士である。
六路が号令を掛けると、うみたちは四方から、今度は一か所に向けて後退を始めた。
それはまるで分身が戻るかのようで、雪平や陽子は、次に正面を担当する班とは逆方向に下がって行く。
忍者たちは交替し、次のアドラたちが白兵戦闘を挑み始めた。
汗だくになり、集中力が途切れて中々当たらなくなるのは、流石に使徒クラスだろう。
だが…。忍者たちは、本当に全員が下がったのだろうか?
「(…熱い。私達もシートを用意してくれば良かったですね)」
「(関係ない。忍務だから果たす)」
近くの小さな岩に、身体を横倒しにして瑠璃と忍は隠れていた。
隙あらば敵の後方を突く為、分身使いたちは、仲間の影を分身として、隠れ潜んで居たのだ…。
熱波は放射状で岩陰ならば疲労度はそうでも無い。その時を、じっと待ち構え引き金を絞り始める。
そして、その時はついにやってきた。
「…くっ。当たらない。この暑さ中々厄介だな…いいだろう…正面は引き受ける来い…!」
「左右から押さえますわよ」
「問題無いよ。どっちかといえばトドメ役が逃がさない方が心配かな?」
リーゼロッテの攻撃が、音を立てて外れた。
足止めを行っていた事もあり、治療は受けて居ても集中力に限界は近い。
ならば回避方向を減らそうと、その場に留まって巨人を睨みつける。
そこへエルミナとエミリオが左右から挑みかかり、二人合わせて一太刀。確実に致命傷を与える事に成功した。
「よーし。ここが私の晴れ舞台ね。きっちりトドメを刺して…」
「…お前も死ね」
バーン!
……誰かの。というか忍が放った弾丸が、次の班が飛び込む前に、火の玉巨人の頭を撃ち抜く。
「敵、もう倒れた。必要無い」
「え、ええー!?」
「いいじゃないですか。わたくしなんて、走りだそうとした所したよ?」
カインが教えてあげると、アネットは大口を開けたまま暫く固まっていたそうです。
倒した人は、忍務完了と下がっていったので、文句を言う間もありません。
そんな彼女を置いて、英蓮さんたちはアルミシートを拾い直して、撤収の準備に移行しました。
●撃退完了!
ぶすぶすと燃え盛る炎が、次第に消え失せて行く。
「終わったー。みんな大丈夫〜?」
「無事な様に見えたら、色んな意味で注意が必要ね。…こういうのは苦手だし、さっさと離れましょう」
「流石に満身創痍ですねぇ。治療の術はまだ残ってる人がいたら、ナースさんの出番ですよぉ」
あー暑かったーとケインが延びをしながら、死屍累々の仲間達を眺める。
暑いのが苦手なリーリアのみならず、物凄い熱の中で、命がけの我慢大会をしていたのだ。
もうコリゴリだと、三々五々に解散する中、フェリスが思い出したように治療へと走り始めた。
「ナースさーん、こっちこっちー。いやーもう、熱いし痛いしたまんなくってさー」
「あ、ちょっとまってくださいー」
「なら代わりに俺がやって置きますよ。ナースさんではないので、申し訳ありませんけどね」
戦闘中のクールさは何処へやら、クオンが手をひらひらさせて、回復チームへと歩いて来た。
ちょうどその時、フェリスは手が一杯だったので、結城たち手の空いた者が交替で治療する。
決戦ならぬ熱戦は終わりを告げる。
かなりの数のアスヴァンが居たおかげで怪我人は多いが、重傷者も無く…。
任務は無事に成功を収めて帰還を果たした。