●ゲーム大会に行こう!
「その町の近くで、俺が造ってたゲームが完成したんだけど、一緒に行く人居ないかな?」
四国の各地で募集する、巡回や警備バイトの張り紙。
その中に紛れて、ゲーム大会の告知が張られていた。
ゲームのテストプレイや町興しを兼ね、バイト先からなら運賃も出るので遊びに行ってみるのも良いかもしれない。
部の先輩である礼野 智美(
ja3600)の言葉に、何人かが興味を示した。
「ゲームですか、はい、やってみます」
真っ先に頷いたのは義弟の礼野 明日夢(
jb5590)。
せっかく義姉が勧めてくれたのだ、まずはやって見ねば始まるまい。
「なになに?ゲームのイベント?行く行く!!」
「アスも千速も参加してくれるんだな。ありがとう…ただ難しくて鬼畜な所もあるから、最初は自分と同じスキル選ぶとやり易いぞ」
「確か姉さんもお姉ちゃんもこのゲーム作るのに協力したんですね。…同じタイプ…今は思いつかないけど、何か考えてみますね」
続いて参加を表明した後輩の音羽 千速(
ja9066)へ、智美は硬いながらも笑顔で微笑んだ。
制作にかかわった者として、イベント成功させたいしすっごく嬉しいよ。…とか言いつつ、仲間が無茶ブリで作り上げた悲惨な所業を思い出す。
何しろ最高難易度で、その町に居たサバゲーマニア達が阿鼻叫喚で壊滅したのである。
明日夢はその言葉と硬い笑顔の裏に何が隠されているとも知らず、今は微笑んでおくことにした。
「自分に近いのがやり易いと言われても…スタイル固まってないのは俺も明日夢と同じようなもんだけど」
「せっかくだし、これを機にしっくりするのを確かめてます?」
簡単には思いつかねーよな〜。
そう言って首を傾げる黒崎 啓音(
jb5974)に、明日夢は思いつく限りの言葉を並べた。
本当に鬼畜だったら、評判の為に何かするべきだろうか?とか考える。
「…新作のゲームかあ。難しいと言っても、ゲームのプロであるボクに不可能等ないのですよ」
「ふーん。あっち方面に行く事があったら、寄って見ても良いかな?」
「でもニッポンのゲームって良いよね。最近は小ざっぱりした物が多いけど、難しいならやりがいがあるよ」
ワイワイ言ってる剣術部の後ろで、天羽 伊都(
jb2199)は自信満々でカルイですね!とか余裕の表情。
なんでかと言うと、可愛い少女達に囲まれていたから…ではなく。
…嘘です。
そこに居る人達はみんな男の子(男の娘ではない…はず)、ゲーム好きでこういう時には偶に顔を合わせるメンバーである。
とはいえみんな対応が違っていて面白い。
コピーされたマニュアルを拾って来た鴉乃宮 歌音(
ja0427)は読み漁っているし、なんとかなるよね?なんて犬乃 さんぽ(
ja1272)は早速キャラを考え始めた。
「…割と評判みたいですね。直に行きますか?」
「うーん。それも良いけど、喫茶店の準備してからかな?」
遅れて駆け付けた剣術部の天川 月華(
jb5134)は、先輩達に合流する前に、ゲーム好き達の評判を小耳に挟んだ。
このまま彼らがお話してくれていれば、話題に成るに違いない。
そう思い礼野 真夢紀(
jb1438)は自分で遊ぶのも良いけど、祭り騒ぎには付き物の、美味しい物を用意する事にした。
「じゃあお手伝いしますね。メニューも考えないと…」
「片手で食べれる方が良いからホットドックやサンドイッチ…?安っぽいのじゃなくて…」
そんな感じで提案する先輩に、月華は頷いた。
スキルやアイテムはカードで判り易くするらしいし、確かに喫茶店でパンを齧りながらトレードというのも良いかも。
ゲームは得意ではないし、こっちで協力するのも良いだろう。
●撃退士のゲーム
「郷田さんも来たんですか?」
「愛須誘ってデートに…ゲームなんて久しぶりだな。…あ、おい、通報するな!」
「誘われて…来たけど…どう遊ぶんだろう…?」
その男は、巨乳の小学生を連れた立派な大学生だった。
知り合いらしき仲間に声を掛けられた郷田 英雄(
ja0378)は、御約束のネタに即座のツッコミが掛けられた。
可愛い子を引き連れて居れば、何時だってデートだと豪語する(例え戦場であとうろも)彼であるが、それだけに友人達も容赦ない。
お回りさーん、こいつです!というツッコミと、違うから通報を止める所までが御約束だ。
そんな事を知らない愛須・ヴィルヘルミーナ(
ja0506)は、昔懐かしい手袋型パッドを手に取ると首を傾げた。
「これ…どう遊ぶの…?」
「とりあえずはオーソドックスなヤツにしとけ。自分が扱い易いパッドを選んで、あとはやりたいようにで良い」
ゲームだからな、楽しめればそれでいいさ。
そんな風に言いながら、普通のコントローラ型パッドを渡す近所の兄さんにお礼を言って、愛須は設定をチョイスし始める。
英雄の方は剣型パッドをコンフィグで弄りつつ、手取り足取り仕様とした所で、もう一度ツッコミが入った。
オマワリサーン!!
…まあ、愛須の方が淡々としているのでセーフである。
「私は…こんな感じの子してみた…」
「おっ、シスターか。俺は俺だが……お、俺を攻撃するなって!」
銃なんて持たずに突撃する兄さんに引きずられ、愛須は攻撃ボタンをクリッククリック。
ゲーム自体に慣れない為、鉄槌で間違えて英雄のキャラを撲殺しようとする。
この大人の余裕を見よ…。
見よ…。
修道服を着たアスヴァンかと思って援護を任せて居た重戦士の英雄は、顔をひきつらせて前へ前へ出ることで撲殺から逃れ始めた。
まずは初級で良かったね♪とか周囲は生温かい笑顔。
次までに、マニュアルを読み込ませよう…。
「えーっとキャラはお任せで良いんですか?あとはアバターっぽいのとか色々入力できますけど」
「慣れて無いし、その辺はお任せします。あと…銘をつけれるなら愚者でお願いします」
どんなのが良いかなーとか言いつつ、紫園路 一輝(
ja3602)は結局受付の少女に任せる事にした。
多彩な武器で戦う阿修羅で、スキルは武器依存の汎用性が強い物を選び…。
早い話が彼自身に近い、扱い易い形にしてもらったようだ。
その上でキャラネームのハンドルに愚者と付けて貰い、早速ゲームのチュートリアルに入る。
「折角で御座るから自分はこの上級:【天魔】を選ぶで御座るよ!心折設計とか言ってるで御座るけど誇張表現というやつで御座ろう!」
「…♪そうですか、自分に扱い易いキャラが良いですもんね。御検討をお祈りします」
回避キャラでござるゆえ、少々くらいは大丈夫!
子犬の様な笑顔で上級モードに突入する静馬 源一(
jb2368)を、ソリテア(
ja4139)は止める気など一切無かった。
説明書きも信じずに挑む者は勇者とは言えない。
さて、最後は楽しくやりましょう!…そういって机の下で拳を握りしめる彼女の思惑とは…。
「あ…伏、アーッ!とらりた、拙者が頑張って出したレア・アイテム。英雄殺しのケモピーからドロップした御褒美なのに…」
「いやー。スカベンジャーに盗られるのはある意味レアですよ。普通はボスより先に倒しますから」
えぐっ…えぐっ…ドンだけ…ドンだけ初見殺しでおにちく(鬼畜)仕様なので御座るか……。
所詮は獣かと油断した古代の英雄の如く、一面のボスである大型獣相手に死にまくった源一が泣きそうになる。
なんでこんなに強いの!と言いながらめげずに避けて倒したのだが、学校に帰還する途中でドロップ・アイテムを奪われた。
雑魚なんて無視無視なんて言っていた彼は、ソリテアの思った通りに調度良いアピールに成ったと言えよう。
「自分の15分が何もかも台無しに…。もうやってやらないで御座るよ…」
「金魚すくいと同じで残念賞を引けますから、あとで喫茶店でカードを貰ってくださいね」
…ずずずっっと鼻水垂らしながら立ち去る源一に、用意していた言葉を掛けつつ微笑むソリテアさんであったとさ。
子犬の様な源一が復活するまで、…あとどのくらい掛かるでござろうか?
●基本は大事だよ♪
「おっと、流石熟練撃退士!素晴らしい反応だね☆なんと〜コンテニューの果てとはいえ、初めて上級がクリアされました!」
大画面のスクリーンに向かって解説していたジェラルド&ブラックパレード(
ja9284)が、会場内放送に切り替えて勝者を称える。
ちなみに並び直した場合は無料、コンテニューをする場合は1回ごとに寄付金100円と書かれた状態で…。
挑戦者は恐ろしい勢いで小遣い銭を消費したと言う。
「毎度あり〜♪せっかく寄付金を積んでくれたんだ、うちの食事券を進呈するね。ゲームも設置するんで良かったらおいでよ」
「…ふっふふ(脂汗)。この僕にかかれば、ざっとこんなもんだよ」
ジェラルドは積み上がったコンテニュー資金を写した後で、勝者のバストアップに切り替えた。
先ほどの醜態を見てなお、あんなのは普通の人ならさ…。
なんて格好の良い事を言っていた伊都は…、ようやく四面までの通常クリアを果たしたのだ。
クリアできると判った瞬間に、行列の長さが増えたのは現金なものである。いずれにせよ、開発したゲームをみんなが楽しんでくれるって、いいねぇ♪
「…判っていればどうということ無い状況で、つい無理をするからああなるんだよねっと」
「アレ?トラップで追い込まれない…。あっそっか、人間の危機回避系スキルと回復アイテムを併用したのか」
ムキになって見栄を張った誰かさんと違い、歌音は至極冷静だった。
先ほど見た感じでは、難関だと知っていれば問題無く抜けれた場所は多い。
歌音は慣れたインフィルを選び、使うボタンを絞ることで残りを薬など便利アイテムをショートカットで登録した。
距離に気をつけ一歩の見切りを重視する事でサクサク一面・二面をクリアして、先ほど伊都が苦労したはずのトラップ・ステージを上手く攻略する。
「まっまあ、中級だからね。即死しないからさ…」
「そうですね…っと。ラストバタリオンの出現条件をクリアしましたよ…っと。やっぱりこの数は面倒だなぁ」
あくまで強がりを口にする伊都に対して、歌音はマイペースでエクストラ・ステージに突入する。
弾をばら撒き、距離に合わせて強烈なショット!
既に見て居た事もあり自動小銃や拳銃を使い分け、逃げ回りながら移動攻撃を繰り返すのだが…。
流石に強さはMAX設定な上に敵が多いので、あえなく撃破されてしまった。
「…ふんふん。やっぱり堅実な方がいいみたいね。アイデアは色々もーらい」
喫茶店に腰掛けてカプチーノを愉しみながら、動き回る自衛隊服を眺める。
ソフィア・ヴァレッティ(
ja1133)は堅実な動きを参考にしつつ、自分だったらどうしようかと指先だけを動かして確認。
あとは実地で試すとして、練習用にダウンロード版があるのを目ざとく見つけて居た。
「似たようなスタイル考えてたから参考になるわよね。登録終わったから、御先に」
「はいはい。じゃあ服をチョイスして選ぶとしましょっかね」
一足先に登録を終えた田村 ケイ(
ja0582)を送り出し、ソフィアは交代で喫茶店に設置されたダウンロード版を操作する。
アバターを自分に近い形で愛着を増しつつ、同じくインフィルで武装カードだけを入れ変えて行く。
次が交代したばかりだし、まずはちょっと練習したいかな…。
●ようやく順調な滑り出し?
「これ以上は無理かな…。次に並んだ時の楽しみにしましょう。御健闘を」
「じゃあ仇を取ってあげるわ…。初めてだから初級でだけど」
「初めてですか?ならこの記録みたいにとりあえず避けて、余裕がある時に撃つと良いですよ」
無理は禁物と残り回数をパターンを覚えるのに費やし、歌音は次回こそはと手際よく終了。
キャラを登録し終わったケイとバトンタッチして、喫茶店にランダムカードを受け取りに向かった。
本格的なシューティングゲームは初めてだと言う彼女に、受付のソリテアは助言を付けた。
えぇ、ですからそこは避けに徹してください。と歌音の記録プレビューで説明し、ギリギリで避けるとかは慣れてからで十分と補足する。
「思ってるのとやって見るのとでは全然違う…。初級じゃなければ危なかったかな。残り回数でなんとかクリアまでは…」
初心者ゆえの動きを、うまくカバーしつつケイはゲームを進め始めた。
まずは逃げ回りながら移動を覚え、ゴッツンゴッツン思わぬ処でダメージを受けてしまうのを、繰り返す度に学習して行く。
難しい事が前提のゲームでは、腕前よりも謙虚さが求められる事が多い。
当たらない位置に居れば腕前がなくても攻撃を受けないし、トラップゾーンを通らなければ罠に掛からないからだ。
逃げ回って敵がまとまった所を、範囲攻撃で仕留めて行く…。
「ふ〜。クリアできなかったけど、次なら突破できるはず…でも早く終わったし、行けなかった面は隠しステージだったのかな?」
「えへへ。だったらボクが条件見つけちゃうから、参考にすると良いよ。上級クリアもだけど、隠しキャラや裏技発見を目指しちゃうつもり」
「(…マズイ。上級では無いとはいえ…。ボクの威厳がどこか遠い所に行ってしまう…)」
初級と言う事もあり、ケイが選んだショットガンは中々の威力を見せた。
まとめて薙ぎ払えたMAPも存在したくらいだ。
今回はクリアできなかったが、並び直して他の人の動きを参考にすれば次回はきっとクリアできるだろう。
さんぽが隠しステージの話しに相乗りしてキャッキャウフフし始めるが…。
そんな様子をギリギリと爪を噛みながら、伊都は悔しそうに眺めて居た。スムーズに攻略されたのでは、何百円もコンテニューした自分の立場と言う物が……。
「さあ、見てて。ニンジャでヨーヨーチャンピオンのボクにかかれば…はわわわ、敵だけ弾撃ってきてずるいっっ」
「あはは。せっかく練習できるのにしないから〜」
チュートリアルでの戦闘練習をすっとばして、さんぽは颯爽と出撃。
開始数十秒で袋叩きに合う女子高生キャラが、苦労して木刀で魔法を叩き落とすのだが…。格好良いより苦労の方が大きい。
ソフィアは苦笑しながらそんな光景を眺めて、自分はやっぱり初級からスタートする事に決めた。
「でもっ、慣れて来たよ。それそれそれ!」
「おおっ、キャラを回転させて木刀でバリアー作ってる! …でも目まわんないのかなぁ」
魔法防御つきの木刀でパリィパリィ!
さんぽのキャラは移動固定したまま、方向を変えるボタンを使って周囲からの攻撃を薙ぎ払い始める。
阿修羅なんだからダッシュで抜ければ良いのになんて言ってはいけない、こういう自分だけの技を見つける事も楽しみの一つなのだ。
ただ敵を倒すだけなら誰でもできる!
…もしかしたら思わぬところで役に立つ事もある…かも?
●アバター遊び
「あー、あのゲームだ!完成したんですね、よかった!(*´Д`)」
「レグルスさんも着てたんですか?…途中まで制作を手伝ったゲームが無事に完成したみたいですね。背景もキャラもちゃんと動いてますね」
感無量といった風情で、途中まで開発に携わっているメンバーが駆け付け始める。
途中から開発に参加できなくなっちゃったんだよなあ…。
とか言いつつレグルス・グラウシード(
ja8064)は、懐かしいワンシーンや一緒だった仲間たちをチラホラと見つけ始める。
彼と同様に途中まで開発に協力していた楊 礼信(
jb3855)は、自分が撮って来た光景が綺麗に映るのを見て微笑んだ。
「出来上がりがどんなになったのか、ちょっと楽しみです。僕は中級にしますけど、御一緒しますか?」
「あ、いや。やっぱり最初は初級で試してみましょう。…僕もあんな風に追いまわされたなあ。でも、ちゃんと人が遊べるレベルに収まってます」
参加した時期もあり、二人の中で思い出の中の完成度が違っていた。
礼信は殆ど遊べる状態で細部調整くらいだったし、最初の頃のレグルスが見たのは成分未調整の無理ゲーだった。
このくらいならやれるなと言う礼信と、開始数秒で撃破される日々を思い出し苦笑いするレグルスに差があるのは仕方あるまい。
いやまあ、レグルスは殆ど初心者というのもあるけどね?
「やーらーれーた〜。もう一回、もう一回!」
「駄目だって。あたしやこっちの子たちも待ってるんだもん。だよね〜?」
「いま登録中なので、その範囲でなら。…テンプレに近い形かな、最初から余り尖ったキャラだとゲームの面白さが分かりませんからね」
「僕は、兄さんと同じディバインナイトにします(`・ω・)!アバター造れるようになってたんですね…これは悩みますよ〜」
さんぽからパッドを取り上げたソフィアが、自分に似せたキャラで早速開始した。
喫茶店におかれたダウンロード版で練習ステージを終えて居たせいか、初めてという割には中々だ。
一番簡単な初級で始めた事もあり、慣れて行けばギリギリで基本まではクリアできるかもしれない…。
その様子は待ちかねて居た事もあり実に楽しそうで、礼信とレグルスは苦笑しながらキャラ作成に凝る事にした。
礼信はルインズでオーソドックスな剣士でバランス良く、レグルスは大剣に白銀の甲冑とまるで騎士物語の主人公のようであった。
「ちょっと兄さんっぽいです(´∀`*)ウフフ!」
「…服装も凝る事ができるんですね。僕達は御揃いにしてみますか?」
「そうですね。ゴシックも悪く無いですけど、大正浪漫風にしてみません?ペアって感じが他より…」
アバターに凝ってるレグルスがプレビューに一瞬映し出された…。
スタッフの誰かが気を聞かせてやったのであろうが、そのプレビューを見て撃退士のカップルが目を止める。
楯清十郎(
ja2990)が説明書を開く手を止めて指差すと、紅葉 公(
ja2931)は頷いて…登録用のPC画面から絵姿を呼び出した。
いかにも吸血鬼や御嬢様なゴシック調や、武士に巫女さんなど和風もあるのだが…。
付き合い始めで初々しい二人は、その中で御揃いと言うに相応しい一組を見つけた。
●カップル達の猛攻(萌攻)
「え〜と、これはどうすればよいのでしょう…。動くのと攻撃は判るとして、他のは?」
「ほら、アレを見てください。あんな風にやりたい事を特別に登録しておくんですよ。ここはスキルを使って一気に倒す設定にしてみましょうか」
「随分と硬いですね…、一気にいきますか(…そういえば、ここで防御力や速度が変動する演出を組み込むとか言ってましたっけ。初心者だと、ここはクロウするのかな?)」
ぺこぺことボタンを押しながら動きを確認する公に、清十郎は一々説明しながら教えてあげる。
礼信のルインズが闇属性強化で一気にサーバントを倒すのを見ながら、公が弄っている画面を指差し範囲魔法を指摘。
実際に入れ変えてチュートリアルで動かすと、海老茶式部でハイカラな御嬢さんキャラがド派手な魔法を打つのが見えた。
その様子を横目で見ながら、礼信は難易度が急変更される鬼畜な敵を切り刻んで行く…。
「まあ、遣り甲斐はありますけどね。もうちょっとなんとかできた方がとっつき易かったかも」
「カードを揃えて装備やスキルを優良な状態に保つか、特化すれば楽にできますけどね。…お疲れ様です」
「…あっ、終わったみたいですよ。並びましょうか」
「そうですね…。慣れなので足を引っ張るかもしれませんが、よろしくお願いします」
礼信が終わるころには、人が増えて来た事もありマシンが増設されていた。
接続が終わった事もあり、スタッフの一人である水野 昂輝(
jb7035)は見知った顔に声を掛ける。
彼は様々な装備状態でデバックやら通しプレイを何度もやっており、やり方次第で難易度が変わる場所があると告げた。
二人の会話を聞きながら、カップルはパッドを受け取ると新しく接続された方へと通されていく…。
「おおっ、若い二人の共同作業ですね。ぜひ頑張ってください〜」
「あ、はい。ありがとうございます」
「…共同作業(照)」
交代でレグルスの騎士が出撃して行くのと、大正カップル登録がマイクパフォーマンスで紹介されるのは殆ど同時であった。
実況担当の誰かさんリアルカップルだとアピールした瞬間に、周囲から「リア充爆発しろ!」と連呼される。
中には心の底から寝たんだ奴もいるかもしれないが、殆どは学園生徒にありがちな祝福の声であろう。
公と清十郎は周囲からの声にはにかみながら、女学生と書生風の剣士となって飛び込んで言った。
「では僕が前衛で引きつけますから、援護をお願いしますね」
「判りました。誤爆しないスキルが無くなったら、早め早めに言いますね」
清十郎の操る書生風ディバインナイトは、その防御力を活かして引きつけながら戦い続ける。
後方で待機する公は、誘導型なら慣れない物の動かずに狙えると有って息の合った連携で進み始めた。
二人分の回復薬ダメージを受け続ける清十郎が独占できるので、役割分担がハッキリしているのも良い。
待機中に他の人の動きを見る機会はあったし、この調子なら初級クリア…例え無理でも次で可能になるだろう。
「うーん、僕も大剣で戦えるよう、がんばってみちゃおうかなあ?(………僕は帰ってから誘うからいいんです)」
レグルスは一人寂しく、カップルの猛攻(萌攻?)を見つめて居た。
清十郎と同じディバインナイトで援護が無い。と言うのが寂しさをそそってしまう…。
彼女を誘えば良かったかなぁ、とか思いつつ後で御友達と一緒にやるのも良いかと思うレグルスなのでした。
「そろそろ予約のあったセットをお願いできますか?」
「あっ、はーい。(ノーダメージ狙いなら、回避阿修羅で射撃か鋼糸を入れるべきかな)」
コーヒーとパンの耳セットを用意した月華は、喫茶店のカウンターに並べ始めた。
他にもサンドイッチやホットドックも同じ価格で、喫茶店のヘルプに入ったばかりの木嶋香里(
jb7748)にとっても、判り易い値段付けであった。
良く観察できる此処で見た感じ、移動を駆使して当たらない位置から攻撃する方がいいかな?
とか横目でディバインナイト達の活躍を見つつ、自分ならノーダメージで何処まで行けるか試したいなんて思ってしまう。
防御力を活かして誰かを守るのが彼らの楽しみ方なら、踊る様に戦場で動くのが彼女の楽しみ方なのかもしれない。
「喫茶店で検証しながら、他の人の活躍を見ましょうか?そしたら次はエクストラも大丈夫かも」
「そうですね。あ、パンの耳揚げがありますよ〜。私、これ好きなんですよね」
うん、なんだか懐かしい味ですね。帰ったら一緒に造りますか…。
なんて言葉を飲み込みつつ、清十郎は配布カードを喫茶店へと向かった。
パンの耳揚げセットを二つ分頼んで、公はトッピングに生クリームや黄な粉を注文しておく。
そして戦利品のレアカードと一緒に、普通のランダムカードも引くのだが…。
「…お、御揃いの一枚絵ですね」
「後で使ってみましょうか?でも、今日はとても楽しかったです」
ランダムカードの中から、騎士と魔法使いの御嬢さんらしき組み絵が出て来た。
町の絵師さんに頼んだ時に、モチーフの一つに良くあるカップルとして描かれたのだろう。
よくよく見れば剣士とエルフの弓師など他にも何組かあるが、自分達のような気がして印象が深い気がした。
「こんな機会があったら、また二人で遊びに行きましょうね〜」
「はい、良い機会があったら、また二人で一緒に行きましょう」
公と清十郎はゲームの話題の中で、そんな風に笑い合った。
次第に盛りあがる周囲の中で、こんな時間をもう少しだけ…。
●パーティ戦闘の本格化
「見てる方が恥ずかしかったですね。…そろそろ落ち着いて来ましたし、一戦遊びに行ってもOKですよ?」
「お手伝いしながら見てるだけでも楽しいので…。でも夕方になったらまた忙しくなりますし、行って来ますね」
ああ言うの良いなーとか言いつつ、真夢紀は時間帯を確認し香里へ声を掛けた。
流石に昼を過ぎれば食事客は減って来て、クッキーと紅茶などの組み合わせ主体に成った来たからだ。
「やるからにはいい結果を出したいわね…。戦闘用チャイナにレンジの違う武器を用意して…」
休んで良いよと言われた香里は、攻略に集めたメモ帳へ向かう事にした。
少しずつ付け加えられたメモに目を通し、特にいまだに突破されていないラストバタリオンへ注目する。
色々見て来て上手くやれる自信はある。…あとは本当に無傷で行けるかであった。
「ホットドックをお願いするでござるよ…」
「またホットドックですか?少々お時間がかかりますので番号札を持ってお待下さい、プレイしてても出来ますけど」
「あっ、ごめんなさいね。今良い所だから…」
休憩中なんだから、いいんですよ。
月華は香里に断ってこの日、何度目かの注文に苦笑しながらオーブントースターを動かした。
さっきから練習を兼ねて置かれたダウンロード版に齧りついて居るメンツが、また注文をくれたからだ。
香里の方はチャイナドレスが右に左に舞い始め、剣での斬撃と鋼線での中距離を使い分けている。
しかも一面二面と無傷記録を更新中で、手放すのも勿体無い。
「クリアは出来たけど…ボーナスステージ酷いっ! 敵強すぎ!…なあ啓音、あれ…デミウルゴスじゃ?」
「次はラストバタリオン攻略目指してみるか…え『デミウルゴース』出た!?」
一方で、クリアまではこぎつけたものの、またラストバタリオンで倒されてしまった啓音は信じられない物を見る。
千速と共に喫茶店まで駆け戻り、そのメンツが出した奇怪な鳥に目が奪われてしまった。
…話は数分前に遡る。
『この閉ざされた運命に抗いますか?』
「当然っ、こんな所で負われる訳がないじゃないですか!」
「ボクはこの前見た『キャッチザスカイ』みたいにカッコヨク戦えれば、それでいいんだけどネ!」
「ほへ…。また何か見た事ないのが出たでござるよ?」
コンテニューを繰り返す伊都につきあって、リシオ・J・イヴォール(
jb7327)たちゲーム好きがタムロしていた。
最初こそ、トイヤー!なんて感じで賑やかに始め、それでもまだ明るいのは彼女一人。
コノヤロー!!チョコマカトー!!と一人だけ元気なままだ。
激昂して唸る伊都や、めげずに攻略を挑む源一たちのトーンが下がり続ける時に出会ったと言う。
…それは極色彩のアホウドリ。
完全無色の上に、攻撃発光だけが色を付ける奇妙な奇妙な鳥だ。
「いきなり弾幕ゲーになった!?」
「あははスゴーイスゴーイ!フェザーブレッドのファランクスだヨ。防御魔法がガラスみたいだネ」
「そんな…最硬度防御力とのコンボなのに雪みたいに融けた…?というかラゲが酷い…これは動けませんよっ」
あまりの攻撃に、源一は逃げた先でチュドーン。
リシオに防御魔法を張り続けている伊都が、愕然としている間に、登録用を兼ねた為か、PCスペックの問題もあってゲームの速度が目に見えて落ちる。
周囲の人だかりに気がついた時には、まとめてなぎ倒されて、パソコンは再起動していた。
「やっぱ基盤の方でやらないと無理みたいだね。朝からの累積コンテニュー回数?無茶すれば一人でも行けるけど…」
「……多分な。見ろよパーティの募集が始まってるぜ。俺達で先に出しちまおう」
「次は僕がアストラルヴァンガードやりますから、姉さんは阿修羅しませんか?その方が絶対クリア楽だと思います」
「アス…ありがとう。ラストバタリオン、そしてデミウルゴスを倒すんだ」
更なる超難関が示されたことで、今までの難関は通貨点に過ぎなくなった。
千速と啓音は相談しながら、いかにエクストラ・ステージまで無事に辿り着くかを考え始める。
明日夢は遠慮している義姉に、担当を変わりますよと声を掛けた。
確かに智美は4人の中でもこのゲームに慣れており、動体視力から言えば最も高いからだ。
「パーティを募集します!」
「あたしも入れて貰えるかしら?」
メンバーを募集するスタッフに御堂 龍太(
jb0849)は御一緒お願いねと声を掛ける。
なんとも賑やかになって来たじゃないか、こういう御祭騒ぎは嫌いじゃないのよね。
●祭りは終わりぬ
「いいんですか?もっと大きなパーティなら楽になると思いますが」
「良いッテことヨ〜ってネ。ボクはただルインズのスピンなんとかっテ技カッコイイから、大画面でチョットやってみたくテ」
「じゃあ始めますね。買って帰る前に…せめてエクストラに…」
「…私たちは構いません。何時でもどうぞ」
ソロで前面クリアを果たした昂輝は、集ったパーティに忠告を兼ねて声を掛けると、リシオ達から元気な返事が返ってくる。
ケイはひとまずメンバーと相談のバランスが取れた数人を集めた模様だ。
貴重なアスヴァンである愛須を加え、総勢5名ほどで出発した。
「えーと…何か技、何か技を当てないと…。カイテン斬リー!」
「…うん。間に合った…?倒しましたね、おめでとう…ございます」
「こういうのは変に肩がこる。…アレは出なかったが。完全クリアはしたし、楽しかったな」
「そうだね。アレを見た御蔭もあって超キャラに驚かなかったというのもあるけどさ」
やがてリシオ達はコンテニューの末に、使用キャラを超特化した自分達である『世界の裁定者』を攻略。
ドキドキして座り込む彼女の隣で、淡々と愛須は終了を告げる。
最初にエクストラ・ステージを攻略した英雄や歌音たちは、一息ついてあとは他のパーティに任せる事にした。
無理だと思っていた敵が倒されたのだ、隠しボスが攻略されるのも時間の問題だろう…。
お昼の阿鼻叫喚が、今では良い記憶だ。
こうして、お祭り騒ぎもまた…思い出になる。